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脈状の種類と意義
第55回経絡治療夏期大学研究科
大上勝行
夏期大と脈診
脈診 診察 治療
普通科 六部定位脈診 経絡・虚実 六十九難
高等科 祖脈診
陰陽・表裏
・寒熱
手技・選穴
研究科 脈状診 病理 五味論・手技
↓ 脈位脈状診 各部位の病理 五味論・手技
脈状とは?
• 祖脈の組み合わせである
• 陰陽・虚実・表裏・寒熱に置換して考える
脈状とは?
• 「これを集めれば、則ち浮沈・遅数の四つの
他なし」
• 「病、表裏・陰陽を心にかけて、虚実寒熱を分
明にせば、治療の誤りあるべからず。
その虚実・寒熱・表裏・陰陽をば浮沈遅数の
四を分別するなり」
『増補脈論口訣』
1,浮沈
1,浮沈
①浮
浮
「これを挙げて有余、これを按じて不足」
• 病理病証
– 陽(表・浮)の部位での熱の停滞
• 頭痛・発熱・関節痛・腰痛・悪寒
– 実 陽実(洪)
• 外感(陽実)
– 肺虚陽経実熱証・脾虚陽明経実熱証
– 虚 陰虚(芤・濡・散)
• 無力而浮是血虚(陰虚)
– 肝虚熱証・腎虚熱証
浮実の刺鍼
実
速刺速抜
熱をぬく
浮虚の刺鍼
虚
徐刺速抜
虚 留めて陰を
補う
残った熱は
浅い瀉法
洪
「極めて太く指下にあり」
• 病理病証
– 陽経に熱が多くなったとき
• 刺法
– 熱のある部位を瀉す。時に瀉血する。
芤
「浮大にして軟。これを按じて中央空しく、両辺
は実す」
• 病理病証
– 急性期の血虚。血便・血尿などの出血。
• 刺法
– 陰をしっかり補う。
– 肝虚寒証(土)
濡
「極めて軟にして浮細」
• 病理病証
– 下焦の陽気が虚して、陰陽ともに虚したときに現
れる。腎虚寒証。
• 刺法
– 腎陽を補う(土)。関元の補。
散
「大にして散。散は気実血虚し、表に有りて裏に
なし」
• 病理病証
– 陽虚
• 血が虚したために期が表に集まってきているがそれも
なくなろうとしている
• 腎虚で三焦の元気も虚
• 刺法
• 陰陽ともに補う(土・原・絡)。
1,浮沈
②沈
沈
「これを挙げて不足、これを按じて有余」
• 病理病証
– 陰(内・裏・臓)の部での病変
– 有力 陰実
• 気鬱・瘀血・水滞
– 無力 陽虚
• 寒症状・下痢
沈実の刺鍼
実
速刺徐抜
熱を拡散
沈虚の刺鍼
虚
徐刺速抜
沈に属する脈
• 伏
• 牢
伏
「極めて指を重くしてこれを按じ、骨に着きてす
なわちえん」
• 病理病証
– 陽虚 思慮過度、慢性的な寒証
– 陰実 陰経や臓の部に瘀血や積聚
• 刺法
– 陽虚 深く刺して留め補う。置鍼。または接触鍼
– 陰実 深く刺して寫す。
牢
「堅牢なり。沈にして力あり、動じて移らず」
• 病理病証
– 陰実
• 癥瘕・瘀血
– 陰虚
• 腎虚熱証
– 陽虚
• 肝虚寒証・腎虚寒証
– 陽気が少なく、胃の気が少ないため柔らかみがない。
• 刺法
– 陰陽とも補う
2,遅数
遅
「呼吸に三至、去来、極めて遅し」
• 病理病証
– 寒症状
• 有力は停滞(痰・癥瘕・積聚)
• 無力は虚寒(陽虚)
• 刺法
– 長く留める
– 有力な部位は寫
数
「去来、促にして急」
• 数は熱
– 有力は実火(陽実・陰実)
– 無力は虚火(陰虚)
• 刺法
– 有力なら瀉
– 無力は補
寒熱と選穴
木 火 土 金 水
酸 苦 甘 辛 鹹
収 堅 緩 散 軟
「辛甘は発散し陽となす。酸苦は涌泄し陰となす。鹹味は涌泄し陰
となす」 『素問』至真要大論(74)
3,虚実
脈の虚実のみかた
• 脈の力(強弱)に主眼を置く
– 大小
– 強弱
– 脈幅
• 気血の状態をみる
3,虚実
①虚
虚実
実 = 陽気が詰まっている
虚 = 陽気が空ろ
大 = 陽気が多い、広範囲
小 = 陽気が少ない、狭い
緩
「去来また遅。少しく遅よりはやし」
• 病理病証
– 本来はゆったりとした健康な脈
– 気血とも虚して、循環が悪くなっている
• 刺法
– 気を補う(金)
濇
「細にして遅、往来難、短かつ散、あるいは一
止してまた来る」
• 病理
– 血虚
• 血は陰液となし、多ければ滑利し、少なければ枯渇す
– 気滞
• 結果として瘀血もある
細
「少しく微より大。常に有りてただ細きのみ」
• 病理病証
– 気血ともに虚。胃の気も少。
– 各寒証
• 刺法
– 陰陽ともに軽くゆっくりと補う。
弱
「極めて軟にして沈、細。これを按ずれば指下
にて絶せんと欲す」
• 病理病証
– 肝虚寒証
• 気血ともに虚。
• 刺法
– 陰陽とも補う(土・絡)
微
「極めて細くして軟、あるいは絶せんと欲し、有
るがごとく無きがごとし」
• 病理
– 気血ともに虚 陽虚
• 刺法
– 細い鍼で、使用穴も少なくし、陰陽ともに補う
革
「沈と伏に似ることあり。実大にして長、微に弦」
「弦にして芤。按ずれば鼓の皮のごとし」
• 病理病証
– 肝虚寒証 陽気と精の虚
– 流産・遺精
• 刺法
– 陰を補う(金・土・絡)
病理と選穴
木 火 土 金 水
味 酸 苦 甘 辛 鹹
補 収 堅 緩 散 軟
瀉 緩土 散金 軟水 収木 堅火
3,虚実
②実
滑
「往来すすみしりぞきて流利展転とし、替替然と
して珠の指に応ずるがごとし」.
• 病理
– 陽気(熱)が多い 内熱
– 陰(水・津液・血・痰)が多い 停滞
• 刺法
– 陰を補い、陽のある部位、停滞のある部位を瀉
す。
弦
「これを按げて有ることなく、これを按ずれば弦
の状のごとし」
• 病理病証
– 陽気の発散がうまくいかない
• 実(停滞) 脾虚肝実熱証
• 虚 陰虚
• 刺法
– 虚実に応じた手技
緊
「しばしば縄を切するが状のごとし」
• 病理病証
– 陽虚 寒冷・痛み
• 刺法
– 陽気を補う(金・土)
– 脾胃を補う
相生・相剋
火
土金
水
木
火
土金
水
木
火
病理と選穴
木 火 土 金 水
味 酸 苦 甘 辛 鹹
補 収 堅 緩 散 軟
瀉 緩土 散金 軟水 収木 堅火
咳がして右寸口が有力
浮 実 外感 火 魚際 瀉
沈 滑実 内熱 水 尺沢 瀉
濇実 肺燥 木 少商 瀉
4,上下の幅
長
「指下に余り有りて、本位に過ぐ」
• 病理
– 本来は健康人の脈である
– 胃の気のない堅い脈は病脈
– 気逆・火盛有余
• 刺法
– 内熱の瀉法
– 陽明経の熱を瀉す
短
「長ならざるなり.両頭になく,中間にありて,本
位に及ばず」
• 病理
– 短 + 熱
• 気の巡りが悪くて、熱が停滞
• 湿熱(飲酒)・血滞(瘀血)・痞
– 短 + 寒
• 気虚、寸(頭痛)・尺(腹痛)
• 刺法
– 気を巡らせるように補う(金・土)
動
「関上にあらわれ、頭尾なく、豆大のごとく、厥
厥然と動揺す」
• 病理病証
– 陰陽のバランスが極端に崩れたとき
– 痛と驚を主る
• 刺法
– 陰をしっかり補う
• 陽盛の場合はその裏側、陰盛の場合は元気を
5,不整
促
「去来が数。時に一止し、また来る」
• 病理病証
– 血(モノ)の不足 腎虚熱証・肝虚熱証で心熱・肺
熱
• 刺法
– 腎・肝の補(火・金)
– 心・肺の瀉(火の補・水)
結
「往来が緩、時に一止し、また来る」
• 病理病証
– 陰実 積・鬱
– 脾虚肝実瘀血証・肺虚肝実証
• 刺法
– 陰実の寫
代
「来ることしばしば中止し、自ら還る能わず。
よってまた動ず。脈結の者は生き、脈代の者
は死す」
• 病理病証
– 臓の気血津液が虚し、同時に三焦の元気もなく
なろうとしている
• 刺法
– 陽虚
6,まとめ
脈のみどころ
1. 浮沈
– 表裏
2. 遅数
– 寒熱
3. 虚実
– 気血の状態
イメージ
穀
道
内
外
1.望聞問で身体の状態をイメージ
2.脈診で身体の状態をイメージ
3.陰陽虚実のゆがみを是正する
脈状の分類
浮 浮・芤・大・軟
沈 沈・伏・細
遅 遅・緩・濇・結
数 数・動・促
虚 虚・芤・微・細・軟・弱・革
実 実・洪・滑・弦・緊

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