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本多 悟
一般企業による社会貢献・福祉活動について
1.はじめに
私は夏休みに新発田商工会議所でインターンシップに参加し、商工会議所について学ん
だ。そこでは、商工会議所は中小企業の支援を行うことで地域の福祉を向上させるのが目
的だとされていた。そのとき私は、「こんなところでも福祉が関係しているのか」と少し
驚いた。しかし少し考えると、一般企業でも昨今は福祉に関わる事業に力を入れていた
り、地域との関わりを大切にするといった傾向があると聞いたことがある。だから今回の
発表では、実際に企業がそれぞれ行っている福祉的な取り組みについて調べてみたい。
2.概要
①社会的責任について
企業の福祉的な活動について考えるうえで、大きく関わってくる概念がある。それは、
社会的責任と呼ばれるものだ。社会的責任とは、市民としての組織や個人は社会において
望ましい組織や個人として行動すべきであるという考え方による責任のことだ。日本では
昔からこの考え方が実践されており、江戸時代の商人の家訓や学者の記述から商工業に伝
わる社会的責任の考え方が既に見られる。
Ex)1:石田梅岩の記述「二重の利を取り、甘き毒を喰ひ、自死するやうなこと多かるべし」
Ex)2:近江商人の家訓「三方(売り手・買い手・世間)よし」
具体的にどのような行動を行えばよいのかといった目安は国際標準化機構(ISO)による国際
規格で示されており、
(1)組織統治
(2)人権
(3)労働慣行
(4)環境
(5)公正な事業慣行
(6)消費者課題
(7)コミュニティ参画及び開発
といった7つが課題として挙げられている。寄付やボランティア活動は含まれていない。
これは、あえていわゆる社会貢献活動を義務化せずに主体性を持って参加してもらいたい
という意図があるのではないかと考える。
実際に社会的責任の理念や行動を取り入れている企業は、花王、松下電器産業、
ソニー、日産自動車、リコー、キヤノン、イトーヨーカ堂、大和証券グループ本
社、損保ジャパン、住友信託銀行、東京電力、などと業種も多岐に渡り多くの企
業がある。また、中小企業でも社会的責任を取り入れている企業は現在増えてい
る。そんな中でも、福祉的な活動を行っている企業は 2 種類に分けられると考え
る。次の項ではその 2 種類の企業を詳しく見てみたい。
②事業の中で福祉に取り組む企業
最も分かりやすい取り組みを行っている企業で、そのまんま福祉にまつわる事業を行っ
ている企業のことである。主に介護サービスを行う事業や、福祉用具を扱う企業、給食サ
ービスの中で高齢者へのアプローチも行っている企業等が挙げられる。福祉との関連性が
目に見えて明らかな企業が多いが、その中でも印象的な取り組みを行っている企業がエフ
ピコだ。エフピコグループは、ポリスチレンペーパーおよびその他の合成樹脂製簡易食品
容器の製造・販売並びに関連包装資材等の販売を行っている。スーパーなどで用いられる
ことの多い食品トレーに関する事業を行う企業で、1962 年に設立し、拡大成長を続けて現
在エフピコグループ全体で約 4000 人の従業員数を誇る大企業である。
『もっとも高品質な製品をどこよりも競争力のある価格で必要なときに確実にお届けする』
という基本理念を持ち、エフピコはメーカーとして食品トレーの製造に重きを置くだけで
はなく、いち早く食品トレーのリサイクルを推進し、小売業・販売業界のお客様の売り場作
りや流通コストの削減にも取り組んできた。障害者雇用にもとても積極的で、様々な先進的
取り組みを行うことで成長を続けてきた企業であると言えるのではないだろうか。事業の
内容としては、
(1)食品トレーの製造
(2)食品トレーの輸送
(3)食品トレーの販売
(4)上記(1)を通した障害者雇用
の4つが挙げられる。注目するのは(4)の障害者雇用についてだ。ここでは、合成樹脂を食
品トレー等簡易食器に加工するといった技術的変換を行っている。また、食品トレーのリサ
イクルをするための仕分けといった作業も行う。先ほども事業に挙げた通り、エフピコは障
害者雇用が活発である。エフピコは東洋経済による 2013 年度は全企業内での障害者雇用率
がトップの 16%とされている。障害者雇用促進法によって民間企業に課せられる法定雇用
率 2%であることを考えると、約 8 倍と驚くほど高い。さらに障害者を強みとして雇用して
おり、他の一般社員より良い業績を出せる人材として捉えていることも特徴的だ。例えば、
トレーの製造工場において、社員が製造ラインに手を加える工程がある。そこでは耳栓をし
ても少々不快に感じる騒音が発生し、一般社員は集中力が続かないといったことがある。し
かし障害を持つ社員は、そのような中でも高い集中力を発揮して作業を行えるといった強
みを発揮するとエフピコは言う。給料も他の社員と全く変わらず、数字だけではなく障害者
が働きやすい環境作りも徹底している。弱みとして渋々障害者雇用を行うのではなく強み
として考えるこの視点は、より多くの企業で生かせるのではないか。また、「守られる」「保
護される」といったことでなく「活躍する」「強い」といった視点でもって障害者が働ける
ことは、真の意味で障害者の自立に近づくために必要なことだと私は思う。
③事業の外で福祉に取り組む企業
事業としては福祉に関わることをしていなくても、社員によるそのような活動を支援す
る企業も後を絶たない。内容を全て挙げるとキリがないが、主に地域の清掃、祭り等イベ
ントの支援、社員によるボランティア活動、防犯パトロールといったことなどが考えられ
る。特に一企業・事業所が地域を清掃している姿は多く見かけることがあるのではないだ
ろうか。このように活動は多様だが、今回は特徴的なシステムを持つフジゼロックスとい
う企業に注目してみたい。
富士ゼロックスはデジタル複合機をベースとした IT 技術とドキュメント技術を融合した
オフィスプロダクト事業やプリンター・シュレッダー・スキャナーなどのオフィス機械を
取り扱う企業で、先ほどのエフピコグループを上回る社員数の 45,397 名(2016 年 3 月期
連結) / 8,282 名(2016 年 3 月期 単独)を誇る大企業である。先ほどの通り、富士ゼロ
ックスには4つの特徴的なシステムがある。
(1)テーマを決めて最長 2 年休職できる「ソーシャルサービス制度」
富士ゼロックスは、ソーシャルサービス制度に日本で初めて取り組んだとされている。
社会福祉施設や青年海外協力隊などにおいて社会奉仕活動をする場合、3 ヵ月から 2 年の
範囲でボランティア休職を申請し取得することができるもので、休職期間中は、給料・賞
与相当額が援助金として支給される。
(2)短期の休みが取れる「ボランティア休暇」
富士ゼロックスでは、1993 年にボランティア休暇を導入。月間 5 日まで積立休暇(使
用期限が過ぎて失効した有給休暇最高 60 日分を積立てたもの)を使って短期のボランテ
ィア休暇を申請・取得することができる。
このボランティア休暇を使って平日開催されるボランティアイベントへ参加したり、一週
間単位でスペシャルオリンピックスや被災地におけるボランティアとして活動したり、海
外キャンプへ参加するなどその使用形態はさまざまだ。
(3)社会貢献活動の情報を全社で共有できる「Leafx(リーフエックス)」
Leafx とは、ボランティア活動や企業が行っている社会貢献活動などを紹介する情報共
有サイトのようなものだ。富士ゼロックスの社会貢献活動の重点テーマである「将来世代
の人材育成」と「希少な文化や情報の伝承」、および継続して取り組む「東日本大震災復
興への支援」を軸に構成され、全社の活動と、地域社会の課題に応じた各社の活動の情報
を掲載している。従業員の社会貢献活動に対する意識向上を図り、様々な活動への参画機
会を提供することが目的だ。
(4)社内で生まれた組織「端数倶楽部」
「端数倶楽部」とは、1992 年に設立された従業員による自主運営のボランティアの組織で
ある。 富士ゼロックスの従業員や退職者など、自分の意思で参加を表明した会員で構成
され、現在は社員の約 40%が会員になっている。会員が毎月の給与と賞与の 100 円未満
の金額(=端数)と、個人の自由な意思(一口 100 円×希望の口数)をプラスして、会費
を拠出。会員が必要と考える分野やテーマについての活動資金として活かしている。活動
内容としては、寄付やボランティアを行う。
3.まとめ・考察
このように多くの企業がなんらかの形で福祉的な活動を行っている理由として考えられ
るものとして、東日本大震災をきっかけに企業や従業員の社会参加への関心が高まってい
るということが一つあるのではないだろうか。企業側も、社会的責任の一環として、ま
た、地域社会の一員としての観点から、従業員を積極的に被災地ボランティアに派遣した
り、ボランティア休暇制度などを設けたり休暇日数を拡充する企業が増えた。企業として
も地域社会の発展や地域社会とかかわることを通じて従業員が成長することは利点と捉え
て、従業員のボランティア活動への参加を支援したい、という考えも広がってきているよ
うだ。もちろん従業員からも現地で何か役に立ちたい・ボランティアに参画したいので、
会社として活動を支援したり、参加をコーディネートしてほしいという声があがってきて
いる。私たちも同じだが、ボランティア活動を行うことは人間的成長に繋がることがあ
る。様々な価値観や世界に出会うことは、会社や学校といった限られた空間だけでは得る
ことが出来ない経験や人脈を与えてくれるからだ。その成長が企業や企業で働く 1 人 1 人
にとってプラスになることは間違いない。
もう一つの側面として、企業戦略として福祉的要素を用いるといったこともある。現
状、私は多くの商品が高性能・低価格化と技術の成熟化によりコモディティ化(汎用品化)
してきていると思う。この状況の中でより商品に付加価値を生むために、企業は性能や価
格といったことのみを重要とする考え方からそれ以外のことも考慮しなければならない考
え方へと変遷していったと考える。例えば、昨今のフェアトレード商品の広がりはまさに
このような動きが関係している。商品の質は同じでも値段が高いものを選ぶということ
は、商品に付加されている一種の福祉的な価値を消費者が優先しているとも考えられるだ
ろう。さらに、ネットの普及やグローバル化により企業活動は以前より衆人環視の目に晒
されるようになった。企業活動そのものが、「この企業はいい事をしているからこっちを
買おう」というようなブランドイメージに大きく影響するようになったのだ。経済成長が
天井を見せた現在、さらなる発展のためにより広い世界へと企業が変化してきているのか
もしれない。

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