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博物館その他の公共的空間の情報デザイン
(C.G.スクリビン)
「情報デザイン原論―「ものごと」を形にするテンプレート」
 第7章より要約
※書籍で取り扱われている一部は省略されています
※スライドに記載されている事例は書籍と異なる場合があります
16/06/05 Nanae Shirozu / Kansai University 1
公共的空間における標示のデザイン
•  公共的空間
•  博物館・動物園・科学センター・ショッピングモール
•  標示・テーマ展示など「知識の伝達」のためのデザインが行われる
•  そのヒントは人間の学習・注意・行動の心理学から得られる
•  メッセージを伝達するためのポイント
•  受け手となるべき人々(観覧者・顧客)の主体的な協力が必要となる
•  しかし,周りには注意をそらすものや他の選択肢がたくさんある
•  受け手のニーズや性格に応えるだけでなく,無誘導な状態にある大衆
の注意を引き,引き止めておける情報デザインが必要
•  認知プロセスのみならずマイナス要因にも対応しなければならない
16/06/05 Nanae Shirozu / Kansai University 2
展示資料のプランニング
•  公共的施設の利用者の特性
•  レジャー志向,自由に動ける自由意思の人々
•  利用者が展示物を見る時間
•  1箇所が平均で10∼25秒にすぎない
•  展示が知識や理解を伝えられるかどうかは利用者の素質や先入観と,
展示の内容・メディアとの出会いによって決まる
•  利用者中心のボトムアップ式アプローチのプランニング
•  行動・動機づけ・学習面の変動的要素に注目する
•  展示に対するユーザの反応がどう変わるかに着目する
16/06/05 Nanae Shirozu / Kansai University 3
事前準備
•  公共空間における展示デザインの準備
•  早い段階で本物の人々を対象に現実の環境でテストをする必要がある
•  初期調査
•  ビジターの注意・行動・コミュニケーションの妨げを見つけるテスト
•  具体的な写真や絵,説明文の体裁,要素の配置を取り上げ,受けてに
どのような効果があるかを観察する
•  疲労・注意散漫・先入観・動機づけの影響についてわかると早い段階
で展示の要素や体裁を決めるのに役立つ
16/06/05 Nanae Shirozu / Kansai University 4
解説的展示におけるコミュニケーションの要素
16/06/05 Nanae Shirozu / Kansai University 5
展示媒体
情報野
目的
メッセージ
優先順序
展示物
説明文・図版
体裁
フィードバック
ビジター 知覚された
メッセージ
行動
その他の
行動
注意と努力
の動機づけ
成果
目先の環境内の全情報
利用者に受け取って欲しい
知識・概念・行動
利用者が受け取る
メッセージ
展示現場での
利用者の行動
(時間・関与・遊び)
利用者が受け取るメッセージ
•  利用者が受け取るメッセージ
•  利用者(の注意)や観察と,展示(の内容)の交流から最終的に
受け取るメッセージが決まる
•  利用者が構成要素や関係を処理し,メッセージを理解できるように
するのが「プランニング・構成・評価」である
•  受け取られたメッセージ ≠ 意図したメッセージ
•  展示の場には膨大な情報が含まれている
•  見やすさ,視覚の角度etc は利用者の情報処理に影響を及ぼす
•  展示の構成,楽しさを利用者がどう知覚するかも学習に影響を及ぼす
16/06/05 Nanae Shirozu / Kansai University 6
学習環境としての博物館的施設
•  利用者が展示物を解釈するかどうかを左右する要素
•  展示の内容や,説明ラベル・図版・インタラクションの有効性
•  利用者の知識・態度・先入観
•  動機づけの要素
•  利用者の注意は個人的・社会的予定事項と展示の相関関係で決まる
•  展示内容と自分に馴染みのある日常的世界を速く関連づけられるか?
•  展示内容から生じる疑問に答えられるか?
•  展示物の情報は自分にとって価値があるか?
•  その場で取る行動が自分が持っている知識やスキルにマッチするか?
•  メッセージが自分の目前の予定事項に結びつくかどうか?
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利用者の特性
•  利用者の大半は自分勝手に歩きまわり,注意も自発的である
•  利用者と個人的つながりを作り共有できる情報を提供する必要がある
•  機械的な調子,受動的な体裁,なじみのない用語はマイナス要因
•  利用者の注意は受動的なものから積極的関心まで幅がある
•  積極的関心を持つことで比較・質問・繋がりを探すなどの行動に出る
•  一方で,時間がかかると思わせるほど,注意を向けにくい
•  初学者の利用者に対する説明は他の人に話せる情報を含める
•  展示の理解に文字が必要な場合は,役立つ情報だけでなく,
わかりやすさ,楽しさ,シンプルさが必要
16/06/05 Nanae Shirozu / Kansai University 8
利用者の注意
•  注意とは「観察行動」
•  展示におけるコミュニケーションの成立は,利用者が自分にとって
意味があると思う何らかの関係性に気づくことである
•  観察行動の質(積極的か消極的か,集中してるかしてないか)が重要
•  学習のプロセス
1.  新しく入ってくる情報の流れからパタンを探知し,
2.  そのパタンを解釈(分類・構成・統合)し,
3.  その解釈に則って行動する
•  概念的メッセージを理解するためには
•  情報や関係性をキャッチできるまで注意が「持続」し,主要な情報に
ほど「選択的」で,適応力を動かす「積極性」が必要となる
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情報野と知覚フィルター
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知覚フィルター
情報野
伝えたい
メッセージの
要素
その他の
メッセージ
知覚されたメッセージ
態度,行動,観念
知覚フィルター
説明文,横断幕
展示物
コンピュータ
同伴者
出口
人混み
モデル・実演
ジオラマ
好ましい影響
(行動,態度,知識,理解)
ビジターの変動要素の影響
(先入観,態度,思考様式)
視聴覚資料
利用者に共通する特性
経路的特性
利用者は設定された経路に従いにくいので,
流れを導く働きかけが必要
探検的特性
オープンな場所であれば,食べる場所,気まぐれな遊びなど教育的
目標と無関係な事柄に利用者は注意を向けてしまう
視覚的特性
視覚媒体(展示物,動くもの,図版,映像,色など)は
注意をひきやすい
行動的特性
展示物を操作する,コントロールする,競走する,などの
要素が含まれている活動に参加したがる
社会的特性
グループでくる利用者は社交的状況を楽しみたがるので
それが展示と直接・間接的に競合する可能性がある
時間的特性
博物館の平均見学時間は1∼2時間
展示を見る努力は疲労や時間との兼ね合いによって決まる
16/06/05 Nanae Shirozu / Kansai University 11
意識的注意
•  展示には様々な情報的要素が含まれている
•  利用者は,ある情報には注意を向け,他の情報には注意を向けない
•  意識的注意を高めることができれば観察行動の質も高まる
•  情報野を精査する利用者の行動
•  相互依存関係を探す
•  知識や経験に結びつける
•  矛盾に気づく
•  説明文を読んでは展示を見る,を繰り返す
•  同伴者に指し示す
•  近づこうとする
16/06/05 Nanae Shirozu / Kansai University 12
意識的注意が
高まっている結果
教育にエンタテインメントの要素を混ぜる
•  北米,欧州の博物館がエンタテインメント要素を取り入れる流れ
•  教育的メッセージを損なうことなく,楽しみを伴わせる
•  参加型展示が人気を集めている
•  例:ボタン,フリップ,コントロール盤,ハンドル
•  「選択」の有無による参加型展示の2分類
16/06/05 Nanae Shirozu / Kansai University 13
相互作用的注意受動的注意
選択の余地がない 選択によってフィードバックが異なる
学習はほとんど or 全くされない
メッセージに
注意してる
メッセージに
注意していない
注意・学習が
予測できる
注意・学習が
予測できない
目標を与えるデザイン
•  利用者に具体的で達成可能な目標を与えるデザイン
•  利用者がメッセージの情報にもとづいて行動できるかどうか
•  情報を応用して目標を達成できるかどうか
•  メリット
1.  展示が面白く無いと思ってしまっても,注意を向けることができる
2.  新しい情報を知識・態度・考え方に結び付けられる
3.  情報探索,組織立て,選択的注意の行動連鎖を促す
•  博物館などで利用者・展示状況に応用できる目標
•  達成のシンボル(賞状,バッジ,舞台裏見学への招待)の獲得
•  モデルに触れたり作動したりできる
•  謎がとける
•  次の作業・ゲーム・目標に参加するチャンスが与えられる
16/06/05 Nanae Shirozu / Kansai University 14
目標中心の戦略
•  目標に向かっての進歩は,集中した注意の随伴事象である
•  目標中心の戦略は「利用者に展示に含まれる情報の理解と活用を必要とす
る明確な目標を選択させるもの」として言い表せる
•  目標達成に役立ちそうな情報を探し,応用するプロセスを持続させる
•  目標中心のために予め考慮すべき事項
•  作業やメッセージが明確で,予見可能であるかを確認する
•  中間作業として数種類の目標を設定し,最適なものを選択する
•  目標の価値が高ければ利用者は有用性を認める
1.  社会的重要性(共有できる)
2.  個人的重要性(実用性がある,認知に役立つ)
3.  自分の態度,心情,価値観を支持する
4.  金銭的利益(無料入場券,割引券)
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目標中心の行動連鎖
1.  利用者が目標を選ぶ(A)
2.  中間作業(X,Y,Z)のために情報野から必要な内容に注意を向ける(B)
3.  目標(C)に到達する
4.  目標に到達した後は,同じ展示であっても違うトピック,違うレベルで
違う結果をもたらす違う目標を繰り返し追求することができる(D)
16/06/05 Nanae Shirozu / Kansai University 16
スタート
目標選択A 目標C
ゴール
展示の情報野
D
B
作業X 作業Y 作業Z
クイズを解く,データを解釈する,情報を精査する
実験,ガイド,コンピュータ
テキスト,説明ラベル,図版
外的報酬
内的報酬
展示効率を上げる工夫
•  問題にする
•  展示で伝えたいメッセージの要素に注意を向ける質問をする
•  映像化する
•  複雑なプロセスをアニメやシミュレーションにする
•  指示や図版
•  主要な情報要素を指摘したり,探索方法を示唆する,グループでの協力を
促すなど,鍵となる文,図版を提供する
•  組み合わせ作業
•  新しい概念と利用者が持つ知識を結びつける
•  情報地図
•  情報,機能,相関関係をカテゴリーに分類して図示し,それぞれの概念が
視覚的に把握できるようにする
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失敗をどうするか
•  目的指向の活動に伴うリスクは失敗
•  フィードバックによって誤解を克服し,注意を促す
•  時々失敗もあるが,成功の方が多いシステムが良い
•  利用者の成功を増やす手段
1.  利用者が間違いやすいところに警告ラベルをつけて注意喚起する
2.  作業に応用した情報が役に立たなかった時に,利用者が自分の解釈を
調べ直し,新しいアプローチや情報を探すように促す
3.  2人以上で来た利用者に互いの情報や考えを交換し合い,一緒に答え
を出すよう考えさせる
4.  失敗したときに元気づける言葉をかける
16/06/05 Nanae Shirozu / Kansai University 18
問い合わせ先
16/06/05 Nanae Shirozu / Kansai University 19

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