ADHDの感覚の紹介と僕の半生を少し話します。

1. 僕と透明
ー僕と見えない猫の話ー

2. 透明
大抵、僕の周りには見えない猫がいる。
子供のころからの話、僕はその猫とどうに
かこうにか暮らしてきてる。
そんな透明猫と僕との暮らしの話。

3. 子供の頃からどこからともなく現れては、
透明猫は僕に好き好んでついてきた。
懐いているのか、はたまた困らせに来て
いるのか、
壁や何から全て通り抜けて、こいつは会
いに来た。

4. 幼稚園の頃なんかは一緒に遊べてた。でもだんだ
ん僕らは席に座って話を聞かなきゃならなくなっ
たり、決まりを守らなきゃいけなくなった。
そんな時猫はかまってくれとでもいいたげに、椅
子を引っ搔いたり、女の子のスカートの裾を引っ
張った。
その頃の写真の僕がほっぺが赤いのと一人なのは
そんなわけもあった。

5. 周りは猫のやった事は、僕が
やったように見えるらしかった。
先生は、ちゃんとしなさい。
怒ったが、正直この透明な癖に
ちょっかいだけはしっかり出す
猫をどうすればいいか毛頭見当
がつかなかった。
ちなみにこのころ給食の残りに
毛玉を吐く癖のせいで、僕はめ
でたくひどいあだ名をおおせつ
かった。

6. 猫にしつけなんてどうつければ？
すごく難しかった。留守番させて家を出
ても、猫は校門で待っていたし、ついて
きたが最後、何か問題を起こした。
プリントをクシャクシャにしたり、よだ
れで借りてきた本をべとべとにしたり。
ノートや授業の邪魔などは日常茶飯事
だった。

7. ただ僕と猫は好きなものは
同じだった。
本を読んだり、物語を書い
たり。お互いの好きなこと
をしている時は邪魔もせず、
二人(一人と一匹)だけの時間
を過ごした。
そんな時間は僕も、
そして猫も幸せに感じてい
たようだった。

8. 13歳の頃、ついに学校に行くこ
とができなくなった。
僕は周りの人たちが本当にわか
らなかったし、そういうやつに
猫が片っ端から噛みついていっ
た。
結果僕はぼこぼこにされて、
あーこのままだと僕は死ぬな。
なんとなくそんなことを感じた。

9. それから四年、いや１０年
か。僕は猫を殺すことにし
た。
しかし何度やっても駄目
だったし、結果として僕も、
猫も、家族もボロボロだっ
た。
お願いだから連れて行って
くれと頼んだ頭の医者曰く
「そういう性格なんだ」と
言われた。
なんだかさっぱりだ。

10. 何かをしようとして、猫が邪魔し
て、失敗して、邪魔して、失敗し
て。殺そうとして。失敗して。
それでも熱中すべき時は二人で何
も言わず延々と過ごして。
そして誰かに迷惑をかけて傷つけ
た。
もう俺たち死ぬしかないな。なん
て笑っていた。

11. 友達がひととおりいなくなっ
て、恋人が大学を中退してし
まった。
家庭教師のバイトを信用でき
ないと打ち切られて、いよい
よ人並みの生活も諦めたころ。
猫の正体がやっとわかった。
ADHDという病気だった。

12. そう聞かされて、本当に気が楽
でしょうがなかったし、誰かに
この猫の存在をわかってほし
かった。
でも、誰も認めてくれなかった。
あなたの問題でしょう？
あなたがただ甘えてるだけで
しょう？

13. でもすこしづつ、分かってくれ
る人もいた。
苦労したよね。思ってもない言
葉が、握ってたこぶしの力を
ふっとほどいてくれた。
お前頑張ってたのか？と小首を
かしげる目線がなんとも間抜け
で面白かった。
とりあえず、猫と僕は生きてて
いてもいいと思えるようになっ
た。

14. 僕ら一人と一匹は、みんながたった一
人で生きてる世界で生きるのは、すご
く難しかった。
それでも、僕はこのはた迷惑な猫のお
かげでいろんなものを得た。何に使う
のかわからない知識とか、世界にはい
ろんな人がいるとか。
この厄介なパートナーとうまくやって
いく方法も案外あるもんだった。
僕らは生きてていいんだ。そんなこと
を二人でにっこりと笑いあった。

15. 私はたとえどんなだめでも、
そこそこ生きています。