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砺砺壺畳両面言燕
世界の食品・原材料・添加物トピックス⑭
サステナビリティ製品開発原材料としての
マカダミアナッツ
久保村喜代子
KiyokoKubomura
久保村食文化研究所
CommonnamesincludeMacadamia,Mac-
adamianut,Queenslandnut,Bushnut,
Maroochinut,QueenofNutsandbauple
nut, IndigenousAustraliannamesin-
cludegyndl,jindilli,andboombera.
も味,栄養価において優れたマカダミアナッ
ツは今後も大幅な需要増が予想される。中
国ではマカダミアナッツの栽培面積拡大計画
を進めており,近い将来には, 中国が世界の
収穫量の半分を占めるまでに成長するといわ
れている。
世界の木の実消費量は過去10年間で60%
増加し,市場価値は72%上昇している。マカ
ダミアナッツを原材料とした製品群のなかで
も特に, シリアルやエナジーバーの市場が最
も伸長しており,新商品の発売も増えている。
マカダミアナッツは年平均成長率7.5%(2018
∼2028年)と,投資効率の高い品目の代表格
となっている。
マカダミアナッツはもともと「ナッツ&ペ
リー界の金」とよばれるほど,価値の高い作
物である。豊かな風味と脂質によるエキゾ
チックな味わいを呈し,珍味としても,デ
ザートナッツとしても評価が高い。一粒を
丸々チョコレートでコーティングした製菓は
ハワイからの代表的なお土産品として人気
を博してきた。特にハワイの地元モールで
は,Mrs.フィールズ社のマカダミアとチョ
コレートチップのクッキーが名産であり, ア
メリカや日本でもよく知られている。
一般消費者にとっては, マカダミアはハ
ワイの商業用作物としてその名が知られて
Thesmoothandbutterytextureofmaca-
damiaisentirelyuniquemacadamiadon't
haveagrittymouthfeellikeothernuts.
1.マカダミアナッツとは?
1)背景
昨今の食生活や消費者嗜好は, これまで当
然のことと考えられていた認識や思想,社会
全体の価値観などを革命的に覆し変化してき
ている。多くの消費者が,市場で販売され
る一般的な食品に対して健康上の利益を享受
することを求めるようになった。特に植物
由来製品の需要は, ビーガン製品への切り替
えなどにより,北米およびアジア地域で,増
加傾向が続いている。特に中国では政府が
食肉消費を減少するよう奨励し始めたため,
ビーガン市場の成長を加速させている。また
魅力的なダイエット法として近年,注目され
てきたパレオダイエット(狩猟採集社会食事
法)においても, ドライフルーツやナッツ類
が重要な食材と位置付けられている。なかで
80 月刊フードケミカル2019-6
ウイ,南アフリカ,ケニア, イスラエル,グ
アテマラ,ブラジル, メキシコ, コスタリカ
など多くの国々において,マカデミアナッツ
が植栽され,大規模果樹園ができつつある。
米国においても,ハワイのみならず,カリフォ
ルニアとフロリダでもマカダミア栽培が多く
なされている。
2)歴史
マカダミアの起源は, オーストラリア北東
海岸の熱帯雨林にある。先住民族のアボリ
ジニは, 2種類ある常緑樹の木の実(現在の
マカダミア)を食するために, グレートデイ
ヴァイデイング山脈の東丘陵に集落を作り,
住み着いていた。アポリジニはこの2種類の
木の実を@6Kindal ・Kindal"と名付けた。
オーストラリアの古い写真を見ると,アボ
リジニの女性がマカダミアを手さげ袋に集め,
加工場に運び,独特な刻み目を施した石の
上から大きな石で均等な力を加え,実につく
傷を最小限に抑えるような工夫して,食用部
を取り出している。この2種のナッツはその
後各々食用として発展し,滑らかな殻を持つ
「MacadamiaintegrefOlia」と粗い殻を持ち
ロースト加工なしで使う「Macadamiatetra-
phylla」となった。両品とも現在のオーストラ
リア産業に大きく貢献する商業作物である。
マカダミアナッツはその後, 1857年に英国
から入植した植民地開拓者により,オースト
ラリアのクイーンズランド州で見いだされる
こととなる。商業生産に着手したのは, イギ
いる。しかし,マカダミアが最初に発見され
たのは,オーストラリア北東部の海岸沿いの
熱帯雨林である。常緑樹で木の高さは12
15mまで生育する。なかでも食用として栽培
されてきたのは, Protaceae科(ヤマモガシ
科)の, Protea,Banksia,Macadamiaなど
の属である。ヤマモガシ科は,南米,南アフ
リカ, インド,オーストラリア,ニューカレ
ドニア,ニュージーランドに分布するが, こ
れらの国々はかつてゴンドワナ大陸の一部で
あった地域である。ニュージーランド南島の
白亜紀の石炭中から多くのヤマモガシ科の花
粉が発見されている。これらは双子葉植物科
であり,ゴンドワナ大陸の植物と考えられて
いる。
*ゴンドワナ大陸:Gondwanaland
約3億年前の古生代後期から約1億年前の中生代半ば頃
まで,南半球を中心に存在したと推定される大陸である。
その後分離移動して現在のアフリカ,南アメリカ,オース
トラリア,南極大陸,マダガスカル, インドなどを形成し
たものと考えられている。ゴンドワナ大陸の北側には.テ
チス海(古地中海)を隔ててローラシア大陸(Laurasia)
があった。古生代前半や先カンブリア時代にゴンドワナ大
陸とローラシア大陸とは一連の陸地を形成していたと推定
されており,この超大陸をパンゲアとよんでいる。
マカダミアの木は,実をつけてしまえば平
均70年の寿命いつぱいまで実をつけ続ける
が成長が遅い。苗木から作付け開始まで平
均4∼5年,商業生産が可能な収量が得られ
るまで7年,損益分岐点に達するまでに12年
を要する。果樹園を維持していくには,接
ぎ木や植栽の費用,機械類の購入やメンテナ
ンス費用,維持管理費など, 1ヘクタールあ
たり数千ドルの経費がかかる。また,土壌や
葉の成分の高精度分析,品種の記録管理をは
じめとする農場全般の監視,最終製品の品質
検査まで,高度な品質管理を必要とする。
世界中で愛されるようになったマカダミア
ナツツの市場の成長は,すでにオーストラリ
アの生産能力を超えている。この大市場に着
目し,ニュージーランド,ジンバブエ、マラ
Aboriginalwoman
crackingMacadamianuts
月刊フードケミカル2019-6 81
リス人植物学者のフェルデイナンド・フォン.
ミューラー氏とオーストラリアの植物学の父
といわれるウォルターヒル所長(ブリスベン
植物園)である。彼らが一粒の硬いナッツを,
万力を利用して殻を開け,取り出した種を植
栽した。この記念すべき「最初の」マカダミア
ナッツの木は現在も残っており,少ない数で
はあるが毎年実をつけ生産に貢献している。
万力の利用はアボリジニの殻割りの道具と原
理はほぼ同じである。こうしたアイデアこそ
がフードエンジニアリングの正式な道筋とい
えるであろう。なお, ヒル氏とともにマカダ
ミアを探検したジョン・マカダム卿が,マカ
ダミアナッツの名前の由来となった。
cm)のヒイラギ
に似た葉を持つ。
高さは60フィート
(18.3m)にもな
り,白またはピン
クで香りのよい花
を塊(スプレー)
状に咲かす。 lフ
ラワースプレー
(300∼600個の花
がついている)ご
とに最大20個の
ナッツを生産して
いる。収稚時の
マカダミアナッツ
は緑色で繊維状
の殻と果皮とよば
れる,硬い外殻を
有しており,木の
実が熟すにつれ
て果皮が裂ける。
各ナッツ(殻に核
を含む)の直径は《昌一凹一ノッンL皇.IユニV一
乃
畷
園
懸
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尋 竜
ブリスベン植物園
ウォルターヒル所長
別“&ぬmJj『e…杏 舩壁9画ゆめ必何”2J
約1インチ(2.5cm)ほどとなる。
マカダミアナッツの開花サイクルは4∼6
カ月であるため, 1年を通して複数の成熟期
を迎える。越年性ではあるが,木ごとに交
互に多収稚,少収穫を繰り返す。開花ごと
に受粉が必要なため,果樹園内に蜂の巣を投
入している。マカダミアの成長に適した熱帯
気候の地域では,木々の間で雑草は大きく成
長し,昆虫が繁殖する。雑草の刈り取りと
さまざまな害虫管理はマカダミアナッツの生
産管理の必須事項である。肥料には主に木
の実殻,鶏の屑などの慎重に選択管理された
オーガニックケミカルが使われ,徹底した栽
培管理のもとで受精を行う。木の実を摘み
取る時期が来たら,木の実の塊が届きやすく
なるように,木の剪定を行う。
マカダミアナッツの枝葉は,ほかのナッツ
フェルディナンド・フォン・
ミューラ一博ナ
万力
3)栽培
マカダミアの栽培には,豊穣な土地,年
間約50インチ(130cm)の降水量霜が降ら
ない,限られた範囲内で変化する気温などの
土地と気候の条件が満たされなければなら
ない。土壌は水はけが良くなければならず,
熱帯地域が必ずしもマカダミア栽培に適して
いるわけではない。
マカダミアは常緑樹で,光沢があり,革の
ような材質で,長さが7∼12インチ(20∼30
月刊フードケミカル2019-682
い。しかも決まった季節の収穫サイクルでは
なく,殻割り加工ひとつとっても,工場管理
は非常に難しい。
5)マカダミアの加工機械の発展
類よりも大きく広がり,太陽を遮光する特性
がある。そのため果樹園ではサイドを伐採し,
地面には南アフリカから輸入した日陰でも容
易に生育する下草を巧みに植栽しているo
熟したナッツと熱していないナッツは下か
ら見ればまったく同じように見え,区別がつ
きにくい。生産者はナッツが地面に落ちるま
で待って拾い集めることが基本で, まとまっ
て収穫することは習慣的ではなかった。しか
し年に5, 6回ほど収稚可能な時期がある。
この時期には,手で集める,木を振って落下
したナッツを摘み取る,大型のピッカー装置
で摘むなどの複雑なプロセスで収穫が行われ
る。また送風機を使って,ナッツと落葉を風
下に集めるといった手法も使われている。
4)工場にて
マカダミアナッツはナッツのなかでも最も
割れにくい殻を有しているが,水分が少ない
と,殻から核を分離することが容易となる。
収稚されたナッツは大型のホッパーに集めら
れ,二重ローラーで作られた脱殻機により
外側の殻を剥ぎ取る。この段階の殻付きナッ
ツの含水量は約25%であるが,後の工程へ
進むためには含水量約1.5%まで乾燥・硬化
させる必要がある。乾燥は温室内で行われ,
硬化はナッツを104∼122。F(40∼50℃)で
加熱することによって実施する。乾燥して
いる間,一部の加工業者はナッツを網状の
湿った, またはタマネギのような湿った状態
で保管しているので,加熱された空気がナッ
ツの間を自由に通過することができる。
マカダミアナッツは,硬くて表面が滑らか
なため, 〈るみ割り人形的な方法や,岩また
はハンマーで割るという標準的な木の実の割
り方では容易に中を取り出すことができな
、熱
〆An9u毎口。d《C「罰。
SごEen5印amtO応
画ymqinr筆$ 詞
鐸
量
鎖HnunaL四面a改宙
加工機械の発展
農産物を加工食品の原材料とする中間加工
素材へのプロセス開発には,加工機械の発展
が大きく貢献する。マカダミアナッツの自動
加工装置では,逆方向に回転するスチール製
のローラーに収種したナッツを通し, これ
らのローラーがシェルに300ポンド/平方イ
ンチ(21kg/c㎡)の圧力をかけ,内部の核に
損傷を与えずにクラックを発生させる。ロー
ラーの間隔はマカダミアのサイズに合わせて
慎重に設計されている。別の装置では,ナッ
トをくさび形にピン止めし,亀裂させる回
転ナイフを備えたクラッキングを使用する。
殻割りされた粒は,ほこり,汚れ,殻の残り
部分,規格外のナッツを除去するためのサイ
ズの穴のあいた節を原理とするトロンメル回
転式選別機に送られるか, または重力分離
機を通過させる。クラッキングされていない
卜→備魎副識−−弾堂一夕 …9 住γ麺
収穫から乾燥の様子
月刊フードケミカル2019-6
マカダミアナッツ割り機と振動選別装置
83
ツは,製造業者によって製造現場で処理され
るか, または受託加工業者によって一次加工
された後,製造現場に持ち込まれる。ミルク
またはダークチョコレートによるチョコレー
トコーティングが一般的であるが,その他さ
まざまな素材を用い,多様な形態に加工され
る。そして,最も人気があるのは蜂蜜ゴマコー
ティングの製品である。
6)品質管理
食
光学機器
ナッツは,同ラインを通過した後に回収され,
再度クラッカーを通す。その後送風機により
殻の断片から核を分離する。
核となったナッツは光学機器でチェック
し,色によるグレード分けがなされる。あわ
せて品質管理検査官が目視で通過フローを観
察し,手作業での選別を行う。明るい色の
ナッツはグレードIに分類され,暗い色また
は標準サイズの範囲内にないナッツはグレー
ドⅡとして分類される。グレードIナッツは
小売販売に使用されるが,グレードⅡナッツ
はサイズや色が重要視されない加工用途で使
用される。分割,精製,選別装置は,作業
終了時に毎日清掃および消毒を行う。
ナッツ加工品は,ホールナッツ,チップ,
クラッシュなどがあり,それぞれのグレード
に選別されている。ホールとチップは生で流
通し, ローストや塩漬け,あるいはさまざま
な素材でコーティングして販売される。コン
ベアによって各々の工程に運ばれたナッツは,
あるものは直接缶や箱に詰め込まれる。ま
たある製品は,ナッツを焙煎し,約1ポンド
(2kg)の小さなバッチに分けられ,ココナッ
ツオイルでコーティングし約3分間加熱調理
後,塩がナッツの上に機械的に振りかけられ,
余分な塩と油は拭き取られる。同品は消費
者に好まれるナッツのカリカリとしたテクス
チャーがパッケージの中でキープされている
る。また一部の加工業者では,追加の油を導
入せず乾式焙煎プロセスを使用している。
製菓原料として使用されるマカダミアナツ
!ー』 』I
…
品質管理
マカダミアナッツ
の需要大により,加
工業者が異常に増加
しているが,その栽
培と加工には,特性
上,細心の注意が必
要である。ナッツの安であゐ。プーツツの殻を分離するタンブラー
悪魔のようにいわれる硬い殻は慎重に割らな
ければならない。果樹園では,マカデミア
ナッツを適時に(そして可能な限り費用対効
果の高い方法で)収集するために,ナッツク
ラスターの設置が不可欠である。加工中は,
殻と硬い殻の両方を除去するための装置を導
入しなければならず,品質管理上, さまざま
なコントロールが必須となっている。
7)マカダミア農園における病害虫対策
オーストラリアのマカダミア植林地は,戦
略的な統合病害虫管理(IntegratedPest
Management ; IPM)を採用している。IPM
は生物学的,化学的,物理的および文化的な
害虫駆除方法を効果的に組み合わせたもので
あり,採用することにより,化学肥料の散布
量を半減し,散布手法もより効果的なものに
改善された。例えば, コナガの卵寄生蜂(卜
月刊フードケミカル2019-684
は, この粘土団子方
式で荒野がバナナ畑
や森として甦ったと
もいわれている。
マカダミアピカデ
リー農園では,農薬
や化学肥料を減らす
努力とともに,肥料
に工夫を凝らして生
産力の向_上と品質向
上を目指す。農園
近くで飼育されている畜産農家から乳清タン
パク(バイプロダクト)や牛の排泄物の一部
を入手し, これらとマカデミアの殻などの副
生産物をあわせて発酵させた肥料を考案し,
使用している。土壌の健康に特に焦点を当
てて開発を進めており,一方で最新テクノロ
ジーを駆使したバイエル社の枯草菌由来生物
製剤などの利用も試みている。
また福岡氏の粘土団子を同農園では粘土と
水になるべく多くの種類の種を混ぜて練り,
空気を抜いて小さくまるめて3∼4日乾燥さ
せて造っている。種子を粘土で覆うことに
より鳥や虫の餌になることを防ぎ,種子自身
を乾燥から守る。また,球形にすることで割
れにくく,地面と接した一点に日中と夜との
気温差で生じた結露による水分が集まり,発
根させるという仕組みである。この原理によ
り,マカダミアの木々の間に農園主により考
案された粘土団子による作物(マメ科の植物
や穀物など10数種類)が植栽されている。
マカダミア農家は,収穫期の最後に木の剪
定を実施し, 日光が林の間を通過し,果樹園
の床に届くようにする。この剪定戦略がマカ
ダミア農匝lの生産量に大きく影響する。木
の間の狭い列の間隔をうまく調整することに
より,果樹園の床に草が効果的に生えること
が証明されている。この手法は,いわゆる生
産の長期的なサステナビリテイを保証するた
めの挑戦ともなっている。
リコグラマ)の卵をマカダミアに産み付け,
有害な毛虫の形成を阻止している。こうした
挑戦は,熱帯雨林地域における環境管理とと
もに,需要が高揚するオーガニック栽培向け
に,バイオダイナミック手法としてグローバ
ルに実行されるようになってきた。
さらに腱園は,昆虫や毛虫などの害虫だけ
でなく, ネズミ,野生の豚, ワラビー, ウサ
ギなどからも被害を受ける。特に黒ネズミ
は,数秒でマカダミアの硬い殻をII歯むことが
でき, このネズミの接触を避け,生息地およ
びネステイング(巣作り)を排除することがマ
カダミア農園の主な管理戦略となっている。
一方,著者が訪問したマカダミアピカデ
リー農園(園主レックス・ハリス氏)では,
日本の自然農法家である福岡正信が提唱した
不耕起(耕さない),無肥料,無農薬,無除
草を特徴とする自然農法をマカダミア植栽
に取り入れ実行していた。福岡氏の著作に,
肥料と農薬(除草剤,除虫剤)への使用につ
いて次のような記述がある。「米麦連続不耕
起直播は,稲を刈る前にクローバーの種を蒔
き,裸麦の種の粘土団子を蒔き,稲を刈った
ら稲わらを振りまく。麦を刈る前に稲籾の
粘土団子をまき,麦を刈ったら麦わらを振り
まくという栽培技術である」。自然農法は海
外他国でも実践されている例があり, イタリ
アのトスカーナ地方で育てられる幻の豚・チ
ンタセネーゼ育成者も同法を実践している。
「粘土団子」とよばれるさまざまな種を100種
類以上混ぜた団子によって砂漠緑化を行お
【 “回予めしくみ 】
うとしたのであ
露侭.懸嘉創蜜&■aW嘩色容琶 曲■l上魯…里 ●唾再、。L
琴丘ぐ …−竺型己 窮錘昭函句寸
スペイン・タイ。
い‘詞 ”…−〃ニアインド。
愚蝋
窪倉軍昂・屋唱『おf奉貯
「I蚕榊色g=亀⑱ 丑
粘土団子のしくみ 南アジア諸国で
1,
月刊フードケミカル2019-6 85
8)収穫後の取り扱い
湿ったナッツは加熱により損傷するため
に,収穫から24時間以内に殻を取り去る。
殻を除去する工程で,異物や規格外のナッツ
も取り分けられる。廃棄された殻は副産物
として後述の肥料などにリサイクルされる。
大きな施設工場を有する農家では,未成熟,
または,劣化したナッツを浮遊させることで
選別する浮遊選鉱タンクを使用しており,悪
臭を防ぐために,加工場に委託する前に,強
制空気を供給したサイロの中で殻付きナッツ
をおよそ10%の水分含量になるまで乾燥さ
せている◎
9)バイプロダクトと廃棄物
副産物である殻およびほかの廃棄物は,マ
カダミアナッツの約70重量%を占める。そ
れらはほかの用途のために回収される。殻
などはマカダミアナッツオイルの製造原料と
するために粉砕処理される。未熟な穀粒や
形状の悪い殼粒も無駄にせず,主に動物飼料
として使われる。マカダミアを生産する国や
地域では通常, コーヒーも栽培されており,
コーヒーの焙煎用に殻を燃やすこともでき
る。さらに園芸用,ナッツ果樹園の腐葉土用,
また鶏ゴミ由来の有機肥料生産のための補助
資材として,粉砕された殻が使用できる。
2.マカダミアを利用した製品開発の展望
まれる脂質は, コレステロールをまったく含
まず,新陳代謝を向上させ, インスリンの健
康レベルを維持するのに良いパルミトレイン
酸を含んでいる。ナッツは80%の脂質と4%
の糖質で織成され,昨今流行のケトダイエッ
トに有効な食材としても注目されている。ほ
かにも血液中のコレステロール改善,心臓病
リスク軽減,酸化ストレス軽減,豊富なミネ
ラルマンガン,ナチュラルプラントステロー
ル,低ナトリウム,オメガ3, ビタミンBl,
鉄分など優れた栄養特性を有する。
3.マカダミアナッツは,なぜ加工食品のレシ
ピ開発の原材料として適しているのか?
長い食文化の歴史のなかで,製品開発ビジ
ネスのチャンスが到来した。
オーストラリア先住民アポリジニは,肌の
若返りや病気治療などを目的として,マカダ
ミアナッツ由来の油分を顔や体に塗布してい
た。バインダーとしてほかの植物抽出物と混
合したり, また場合によっては単体でも使用
したとされている。また,ナッツには母乳の出
を促進する作用がある成分が含まれているこ
とが知られていたので若い妊婦がナッツを食
べていたとも伝えられている。いずれにして
も根幹には医食同源がある。典型的なSavory
Flavourとして製品のコンセプトメイキング
が容易であり使いやすい。先般,マカダミア
ナッツミルクを試飲したところ,淡白であり
ながら, フレーバーリッチで美味であった。
先立って,欧州の疫学ジャーナルで「妊娠
マカダミアナッツは,鉄, カルシウム, ビ
タミンB群,およびリンの優れた供給源であ
る。 73∼80%の脂肪を含んでいるが, これ
らの脂肪は単飽和脂肪酸または飽和脂肪酸で
あり,食事における摂取許容量はオリーブオ
イルと同程度である。マカダミアは多くの健
康的な特性を有しているとともに,豊かな風
味,好ましいクランチな食感,そしてチョコ
レートなどさまざまな処方開発との相性が良
く,人々に愛される製品開発のために重宝さ
れているナッツ原材料である。
マカダミアナッツ1ポンド当たり20.99含 マカダミアナッツのクリーム
月刊フードケミカル2019−686
てサバイバル食品,ニュートリショナルクッ
キーバーに利用して好評を得た。
*製品開発への応用などオーストラリアマカダミア協会へ
コンタクト:http://australian-macadamiasjp/society
初期における母親のナッツ摂取が,子供の神
経発達を改善することを示唆する」という研
究結果が発表された。
世界中の食糧問題,特にタンパク質摂取の
必需性から, さまざまな食材の学術研究や疫
学調査が実施されている。食品メーカーが
マカダミアの栄養学特性と風味増強特性を利
用して"美と健康へ"向けた製品開発を行う
ことの優位性が際立ってきている。
=-====−−−−==一一一缶 心
−−−一一一一一一=一一一一一一一 一一q■■■ーーーーーー=ー一一一一一一■■
くぼむら・きよこ
青山学院短期大学から,実践女子大学
編入学卒業。専業主婦から食品業界,
そして国際社会へ。東京調理師専li'l
学校, カルピスR&Dセンターキッチ
海外香料会社などで務め,現事務所を
4.おわりに
昨年より,某大学でマカダミアを利用し
た製品開発をサポートしている。その縁もあ
り,マカダミア産地へ渡豪し,農園を訪問し
た。世界の食品産業期待のタンパク質源と
して, より生産向上へ向けた取り組みとと
もにフードサイエンス最新動向を学んだ。そ
してオーストラリアマカダミア協会主催の
InnovativeChallengeにおいて,先住民ア
ボリジニの食していたナッツをRationとし
ン,小川香料,海外香料会社などで務め,現事務所を
オープンし25年。専門は,セイポリーフレーバー。食
品メーカーの商品開発などを主な業務とし,手がけた製
品は1000を越える。ワールドフードサイエンス編集委
員, IFT本部評議委員,同国際評議員,同教育プログラ
ム識師,大学非常勤講師。全日本司厨協会ブロンズ賞,
2008年IFTフエロー賞受賞。学術博士。
●久保村食文化研究所 http://www・kubomuranet
オーストラリア・マカダミア協会主催のInnovativeChallengeにて
月刊フードケミカル2019-6 87

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サステナビリティ製品開発原材料としての マカダミアナッツ