出版差止めにおける憲法第 13 条と 21 条の問題
~北方ジャーナル事件と石に泳ぐ魚事件から読み解く~
14A3144010B 佐藤 檀子
目次
p1~2:序論
⒈要旨
⒉問題意識の表明とその背景説明
⒊順序の序列とその理由
p2~9:本論
❶憲法 13 条及び 21 条の関係性における裁判「北方ジャーナル事件」
❷憲法 13 条及び 21 条の関係性における裁判「石に泳ぐ魚事件」
p10:結論
p11:引用文献・参考文献
〇序論
⒈要旨
出版物が世に出される過程において、どういった問題が発生するのだろうか。出版社が意
図する物が作り出せても、契約の不成立や他者に対する侵害など、様々な問題が発生すれば
それは誰にも読まれることはない。ここで表現の自由とプライバシーの関係性が曖昧にな
り、どちらを優先させるべきか衝突が起こってしまう。1
今回は、憲法第 13 条ならび 21 条どちらか、もしくは両方が争点となった場合、どうすれ
ば双方条文の均衡が保たれるのかを、北方ジャーナル事件と石を泳ぐ魚事件を用い、考察し
ていきたい。
⒉問題意識の表明とその背景説明
ここでは、「出版における憲法第 13 条と 21 条の問題~北方ジャーナル事件と石に泳ぐ魚
事件から読み解く~」をテーマとする。何故なら、もし、出版記者が個人を記事にし、世に
送り出した場合、第 13 条である個人の尊重を無視した形になる一方、出版の自由を掲示す
る 21 条に適しているという、曖昧な点が浮上するからである。実際、個人の尊重を重視す
る場合、メディア媒体は存在価値がなくなる。しかし、憲法 13 条を見る限り、個人の表現
の自由のみ言及されているのであって、他者を示す文言は述べられていない。
⒊叙述の順序とその理由
まず、憲法 21 条および 13 条に関係する過去の判例を二つ提示し、その訴訟における争
1長谷部恭男・石川健治・宍戸常寿編 別冊ジュリスト 217 憲法判例百選Ⅰ〔第 6 版〕(2013)152 頁
点をならべ、条文の意味を述べる。学説も用いその訴訟がどういった経緯でその判決に至っ
たかを文献を用い引用などして論じていき、その中で自分の見解も随所で述べていく。結論
は⒈で述べた通り憲法 21 条および 13 条の均衡を図るためにはどうすればよいかを自論す
る形式をとる。
〇本論
❶憲法 13 条及び 21 条の関係性における裁判
1-1 判例「北方ジャーナル事件」(最高裁昭和 61 年 6 月 11 日大法廷判決)
【事件の概要】
Y₁(被告・被控訴人・被上告人)は、約 11 年間旭川市長を務めたのちに、1979 年 4 月
施行予定の北海道知事選挙への出馬を予定していた。X(原告・控訴人・上告人)を発行人
とする『北方ジャーナル』は同年 2 月 23 日頃発売予定の 4 月号に、「ある権力主義の誘惑」
と題する記事を掲載しようとしていた。記事は、Y₁を「嘘とハッタリと,カンニングの巧み
な」少年であり、「言葉の魔術者であり、インチキ製品を叩き売っている(政治的な)大道
ヤシ」(省略)などとし、知事選への立候補も「知事になり権勢をほしいままにするのが目
的である」等とするものであった。これを知った Y₁は、同年 2 月 16 日、4 月号の印刷、頒
布等の禁止を命じる仮処分を札幌地裁に申請したところ、同日、無審尋でこれを担当する仮
処分決定がなされた。X は、仮処分およびその申請が違法であると主張して、Y₁その他お
よび Y₂(国―被告・被控訴人・被上告人)に対して損害賠償を請求した。2
【判決】
1 審,2 審ともに棄却。X は、仮処分が第 21 条に反するとして上告。のち棄却。
【判旨】
〇発生する争点〇(争点 Q₁~Q₃の回答を、A₁~A₃とする。)
Q₁:憲法違反の主張(憲法第 21 条に違反するか否か)
Q₂:事前差し止めは適法か否か(仮処分決定)
Q₃:憲法第 13 条との関係性について
A₁:憲法 21 条に違反しない
憲法第 21 条
一項:集会、結社及び言論、出版その他一切の自由は、これを保障する。
二項:検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。3
2 同掲注(1)
3 Bureikou.com Smart 六法 Basic(2015 年 7 月 31 日更新)
⑴表現の自由という権利
「内心における思想や信仰は、外部に表明され、他者に伝達されてはじめて社会的効用を
発揮する。(中略)これはすべての表現媒体による表現に及び、演説、新聞・雑誌その他の
印刷物、ラジオ、テレビはもちろん、絵画、映画、芝居などの表現も保障される。集会・結
社も、通常、集団ないし団体としての思想・意見の表明をともなうので、伝統的な言論・出
版の自由(狭義の表現の自由)と密接に関連し、それと同じ性質の、ほぼ同じ機能を果たす
権利である。」(引用・一部抜粋)4
また、表現の自由は「知る自由」との関係性が強い。私人の活動に対する政府の介入・妨
害を排除する権利を「自由権」とすると、情報を受領する自由権は、情報の受け手の「知る
権利」と呼ぶことができる。この自由に関係する明文の規定として、21 条 2 項前段の検閲
の禁止規定をあげることができる。この規定は情報の送り手の自由権ともいえるが、受け手
がいてはじめて情報の発信に社会的意味が生まれるから、この規定を「知る権利」を直接保
障する根拠としてとらえることが重要。(一部抜粋)5
☆①の判断基準αを、「憲法第 21 条に違反しているとき→仮処分決定は違法である」とす
る。
※ここにおける争点は、2 項に提示される「検閲」が、表現行為の事前差し止めに該当する
か否かを意味している。6
⑵2 項における「検閲」について
「表現活動を事前に抑制されることは許されない。憲法 21 条 2 項の「閲覧の禁止」の原
則は、明治憲法時代の経験を踏まえて、それを確認したものである。7なお、「検閲」とは、
「公権力が外に発表されるべき思想の内容をあらかじめ審査し、不適当と認めるときは、そ
の発表を禁止する行為」と解されてきた。8憲法 21 条 2 項前段にいう検閲とは,行政権が主
体となって,思想内容等の表現物を対象とし,その全部又は一部の発表の禁止を目的として,
対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に,発表前にその内容を審査したうえ,不適
当と認めるものも発表を禁止することを,その特異として備えるものを指す」。「仮処分によ
る事前差し止めは,表現物の内容の網羅的一般的な審査に基づく事前規制が行政機関によ
りそれ自体を目的として行われる場合とは異なり,個別的な私人間の紛争について,司法裁
判所の私法上の日保全権利の存否,保全の必要性の有無を審理判断して発せられるもので
あって」検閲には当たらない。(引用)」
→よって、憲法 21 条 2 項に定める「検閲」には当たらないため、仮処分決定は合憲である。
4芦部信喜 高橋和之不補訂〔憲法第 3 版〕(20)162~165 頁
5渋谷秀樹・赤坂正浩[著]〔憲法 1 人権第 6 版〕(2016)154 頁
6 同掲注(1)
7 同掲注(3)179 頁
8 同掲注(3)179 頁
9
✻「検閲」の定義は税関検査事件の理解によると、次のような定義と定められる。
①「行為主体」→「行政権主体」
②「目的・効果」→「全部又は一部の発表の禁止」
③「対象」→「思想内容等の表現物」
④「時期」→「発表前」
⑤「方法」→「網羅的一般的」
この定義にあてはまる規制は絶対的に禁止される10とある。
A₂:適法である。
事前抑制について
⑴の①において、「裁判所の場合は、その手続が公正な法の手続によるものであるから、
行政権による検閲とは異なり、例外的な場合(たとえば、公表されると人の名誉・プライバ
シーに取返しがつかないような重大な損害が生ずる場合)には、※厳格かつ明確な要件の下
で許されることもある。11裁判所による事前抑制(差止)は、憲法 21 条 1 項の表現の自由
の保障によって原則として禁止される。」12
加えて、「表現行為に対する事前抑制は、新聞、雑誌その他の出版物や放送等の表現物がそ
の自由市場に出る前に抑制してその内容を読者ないし聴視者の側に到達させる途を閉ざし
又はその到達を遅らせてその意義を失わせ、公の批判の機会を減少させるものであり、また、
事前抑制たることの性質上、予測に基づくものとならざるをえないこと等から事後制裁の
場合よりも広汎にわたり易く、濫用の虞があるうえ、実際上の抑制的効果が事後の場合より
大きいと考えられるのであって、表現の自由を保障し検閲を禁止する憲法 21 条の趣旨に照
らし、厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されうる」。13と明記。
※厳格かつ明確な要件
「出版物の頒布等の事前差止めは、このような事前抑制に該当するものであって、とりわけ、
その対象が公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等の表現行為に関するもので
ある場合には、そのこと自体から、一般に公共の利害に関する事項であることができ、……
その表現が私人の名誉権に優先される社会的価値を含み憲法上特に保護されるべきである
ことにかんがみると、当該表現行為に対する事前差止めは、原則として許されない。14
①「その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白で
9 同掲注(1)
10 同掲注(4)155 頁
11 同掲注(3)179 頁
12 同掲注(3)179 頁
13 同掲注(1)
14 同掲注(1)
あって、」かつ②「被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるとき」は、「当
該表現行為はその価値が被害者の名誉に劣後することが明らかであるうえ、有効適切な救
済方法としての差止めの必要性も肯定される」
よって、「例外的差止めが許される」。15 とある。→裁判所の仮処分による差止めは、司法
権が主体になるため「検閲」の定義から外れるが、事前抑制であるから厳格な要件を設定し
た上で、例外的に認められているにすぎない、という見解もある。16(一部抜粋)
⑶学説による解釈
学説によると、「検閲」の範囲において、二つの説に分かれている。
なお、どちらの立場にしても、名誉毀損、プライバシー侵害が問題になる場合、一定の厳
格な要件の下で、裁判所による表現行為の事前差止めが認められるとする。17
広義説(解釈が広い場合)
裁判所による差し止めの場合も含めて公権力による表現行為の事前規制はすべて「検閲」に該当
するとしたうえで,検閲の禁止は原則的な禁止にすぎず,名誉毀損やプライバシー侵害などの場
合には例外的に厳格かつ明確な要件の下で検閲も許されるとする18
→判例はこの立場をとっていない。
狭義説(解釈が狭い場合)
「検閲」を狭く行政権によって行われる事前規制のみを意味と解釈する一方で、これを絶対的な
禁止として例外を認めず,裁判所による事前差止めは 21 条 2 項の「検閲」との関係ではなく、同
条 1 項に含まれる表現の自由の事前抑制の原則的禁止との関係で問題になるとする19
→判例はこの立場をとっている。20
A₃: 「名誉権は、憲法第 13 条によって保護される権利21」と結論付けている。
憲法 13 条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利につ
いては、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
22
⑴表現行為について
表現の自由の中に、表現内容規制と表現内容中立規制がある。今回は表現内容規制に焦点
を当て、論じていく。「表現内容規制とは、大勢の人々の前でした演説や本に書いた内容が
15 同掲注(1)
16 同掲注(4)156 頁
17 同掲注(1)153 頁
18 芦部信喜 高橋和之補訂〔憲法第 5 版〕(2011)190~191 頁
19 佐藤幸治『日本国憲法論』(2011)256~259 頁
20 同掲注(1)153 頁
21 同掲注(4)193~194 頁
22 同掲注(2)
政府にとって都合が悪かったり、社会に影響を及ぼすというような理由による取り締まり、
つまり表現行為をそれが伝えようとしているメッセージの内容や効果に着目して行われる
規制のことを指す。表現内容規制の代表は名誉毀損的表現行為と性表現行為の規制である。」
23
⑵名誉権とプライバシー権の違い
名誉
ある人に他の人から与えられるプラスの社会的評価のこと。(省略)ここでは「人の品性、
徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価」。24なお、名誉権と
は、「人格権の一。人がみだりにその名誉を害されない権利25」のことを指す。
プライバシー権
①自分の私生活を他人から覗き見られず第 3 者に対して暴露されないことを保護内容と
し、②加害者の不法行為責任を追及する根拠となる民事法(民法 709 条)上の権利。この権
利の保護内容に対し、学説はプライバシーとは「個人が自分についての情報を誰にどう提供
するかを自分でコントロールできる状態」指すと考えるようになり、①私生活を覗き見られ
ないことを含めて、自分についての個人情報を自分でコントロールできる状態の確保を保
護内容とし、②そのために政府や企業に対して、場合によっては介入・削除を要求する民法・
憲法上の権利をプライバシー権=自己情報コントロール権(芦部・憲法、佐藤幸・憲法、戸
波・憲法)とした。(訂正における文面は戸波憲法。及び一部抜粋・要約)26
⑶名誉毀損とプライバシー侵害
「表現行為による名誉毀損やプライバシー侵害については、民法 709 条・710 条の不法行
為として著者や出版に対して損害賠償請求を求めることができる。(中略)ここにおける争
点として、「表現行為によるプライバシー侵害や名誉毀損に対する事前の救済手段として仮
処分による出版物の差止めを請求することができるかどうか」である。」と坂口氏は解説し
ている。
→「一定な厳格の要件下で肯定27」
〇二者の特徴〇
名誉毀損の場合:「事後的な損害賠償や名誉回復処分(民 723 条)によってある程度までは
23 同掲注(4)192~193 頁
24 同掲注(4)279 頁
25 松村明編 三省堂〔大辞林第 3 版〕
https://kotobank.jp/word/%E5%90%8D%E8%AA%89%E6%A8%A9-395597(平成 29 年 1 月 10 日閲
覧)
26 同掲注(4)269~271 頁
27 同掲注(1)153 頁
名誉の回復が可能28」
プライバシー侵害の場合:「いったんプライバシーが侵害されるとおよそ事後的な回復は困
難29」
Fc: 『週刊文春』差止仮処分事件(東京地決平成 16 年 3 月 19 日判時 1865 号 18 頁)
異議審決定における基準
「プライバシー侵害を理由とする出版物の印刷、製本、販売、頒布等の事前差止めは、当
該出版物が公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批評等に関するものでないことが
明らかで、ただ、当該出版物が『公共の利害に関する事項』に係るものであると主張されて
いるにとどまる場合には、当該出版物が公共の利害に関する事項に係るものといえるかど
うかどうか、『専ら公益を図る目的のものでないこと』が明白であって、かつ、『被害者が重
大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがある』といえるかどうかを検討し、当該表現
行為の価値が被害者のプライバシーに劣後することが明らかであるかを判断して、差止め
の可否を決すべきである」30
❷憲法第 13 条と 21 条の関係性における裁判
1-2 判例「石に泳ぐ魚事件」(最高裁平成 14 年 9 月 24 日第 3 小法廷判決)
【事件の概要】
「石に泳ぐ魚」(本件小説)は、後の芥川賞作家 Y₁(被告・控訴人)の小説デビュー作と
して文芸雑誌に掲載された。本件小説は、生まれつき顔面に大きな腫瘍を持った若い女性と
「私」との関係を一つの軸として構成されているものであるが、この女性の腫瘍について詳
細かつ苛烈に描写する場面を含むほか、この女性の父親には逮捕歴があることとされてお
り、また、この女性が新興宗教に入信し、連れ戻しに来た「私」に金員を無心する場面など
が含まれている。Y₁の友人であり、本件小説に登場する女性と同様の身体的特徴・経歴等
を有する X(原告・非控訴人・被上告人)は、本件小説は X をモデルにしたものであるとこ
ろ、本件小説中の女性と X との同一性は容易に識別できるため、本件小説中の上記描写等
によって Xのプライバシー権、名誉権および名誉感情を侵害する不当行為があったとして、
Y₁および本件小説の掲載誌を発行する出版社 Y₂ら(被告・控訴人・上告人)に対し、慰謝
料の支払、謝罪広告の掲載、および本件小説の単行本の出版等による公表の差止め等を求め
て訴えを提訴した。
【判決】
1 審、控訴審ともに原告側が勝訴。Y らが上告し、棄却された。31
28 同掲注(1)154 頁
29 同掲注(1)154 頁
30 同掲注(1)154 頁
31 高橋和之・長谷部恭男・石川健治編 別冊ジュリスト(No.186)憲法判例百選Ⅰ〔第 5 版〕(2007)
140 頁
【判旨】
〇発生する争点〇(争点 Q₄、Q₅の回答を、A₄、A₅とする。)
Q₄:モデル小説がプライバシー権を侵害することを理由とした出版差止めの認否
Q₅:プライバシー権と表現の自由はどちらが優先されるのか
A₄:認められる。
控訴審判決において、人格権としての名誉権に基づく Xの各請求を容認した判断をした。
なお、ここに憲法上の違法性はない。32
最高裁の判決
「どのような場合に侵害行為の差止めが認められるかは、侵害行為の対象となった人物の
社会的地位や侵害行為の性質に留意しつつ、予想される侵害行為によって受ける被害者側
の不利益と侵害行為を差し止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較衡量して
決すべきである。そして、侵害行為が明らかに予想され、その侵害行為によって被害者が重
大な損失を受けるおそれがあり、かつ、その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難
になると認められるときは侵害行為の差止めを是認するべきである。」33
⑴二つの見解
ここでは、二つの見解に分かれる。
小説論:実在の人物の権利を侵害するとはありえないという考え
なお、下記における考え方は、小説論とは断定できない。
➡「名もなき道を」事件における東京地裁判決(東京地判平成 7 年 5 月 19 日判時 1550 号
49 頁)は、モデルが同定できる場合であっても芸術的な昇華の度合いによっては権利侵害の
問題は生じないとしている。35
32 同掲注(31)
33 同掲注(1)154 頁
34 同掲注(31)
35 同掲注(31)141 頁
一般的な読み方によれば、作中人物の特徴・言動が虚構であることが理解でき、モデルの特
徴・言動と結び付くことがなければ、権利侵害問題は生じない杉浦正典 ひろば 52 巻 12 号 56
頁以下)34
法律論:法律に基づく考え
名誉やプライバシー等の権利侵害事件は、ある表現が読者にそのように認識された結果として発
生する結果を問題にするとし、上記のような小説論とはまったく別次元に、読者の認識において
モデルの人物像やその言動が特定の人物やその言動と結び付く場合には、権利侵害の問題は生じ
る。36
➡「本件小説を読んで X を特定でき、さらに作中人物の言動等と X のそれを結び付けるこ
とができるものがいれば、権利侵害の問題になりうる(最判平成 15 年 3 月 14 日民集 57 巻
3 号 229 頁―本書Ⅰ-73 事件。(省略)紙谷雅子・法教 230 号 48 頁)37」とする。
A₅:名誉毀損及び名誉感情侵害と表現の自由における論点は、本判決において解決してい
ない38→今回は「公共の利益に係わらない X のプライバシーにわたる事項を表現内容に含
む本件小説の公表により公的立場にない X の名誉、プライバシー、名誉感情が侵害された
ものであって、本件小説の出版等により X に重大で回復困難な損害を被らせるおそれがあ
るというべきである。」39とし、出版等差止めにおける基準を満たしているといえるだろう。
〇結論
日本のプロダクトが海外で人気であることにおいて、日本が海外に向けて発信する際、
諸外国の規制問題が関係していると考えていた。今回出版差止めまでに至る日本の二つの
事例を見、双方とも個人におけるプライバシーの問題に重きを置いているのだと考えた。何
故なら、双方の結論として、プライバシーや名誉を理由とした出版差止めを容認しているか
らである。今回憲法 21 条における検閲の意味から、よほどのことが無い限り違法性が阻却
されることはないのだと感じた。判決において表現の自由を提示しているものの、個人の侵
害に至る場合は例外としている面を見ると、人間の内面、権利を尊重している。しかし、個
人の尊重ばかりに重きをおけば、表現の自由で訴えても勝つことはできないだろう。出版差
止めの基準において、もし、作者に個人を侵害するつもりが無くても、侵害が認められる場
合があるかもしれない。もはや小説論を語ることはできない。解決策として、作者とその作
品や雑誌においてのモデルとされる人物が、共同で、すなわち同意の元で作成すれば良いの
ではないか。週刊誌などにおいてひとつひとつモデルの許可をとるのは現実味がないが、そ
うすれば問題はなくなる。また、表現の自由を守るべく、モデルがいるならば許可をとり、
作成する本や雑誌に許可の端書き等を付けることを徹底した上で、フィクションとノンフ
ィクションを明確に伝えることが可能であるならば、表現の自由と個人の尊重の衝突が起
こらないようになるはずだ。
36 同掲注(31)
37 同掲注(31)
38 同掲注(31)141 頁
39 同掲注(31)
引用文献・参考文献
長谷部恭男・石川健治・宍戸常寿編 「別冊ジュリスト 217 憲法判例百選Ⅰ」〔第 6 版〕
(2013 有斐閣)
高橋和之・長谷部恭男・石川健治編 「別冊ジュリスト(No.186)憲法判例百選Ⅰ」〔第 5
版〕(2007 有斐閣)
Bureikou.com Smart 六法 Basic(2015 年 7 月 31 日更新)(平成 29 年 1 月 9 日閲
覧)
芦部信喜 高橋和之不補訂「憲法」 〔第 3 版〕(2002 岩波書店)
渋谷秀樹・赤坂正浩[著]「憲法 1 人権」〔第 6 版〕(2016 有斐閣)
コトバンク 松村明編 「大辞林」〔第 3 版〕三省堂
https://kotobank.jp/word/%E5%90%8D%E8%AA%89%E6%A8%A9-395597(平成 29 年
1 月 10 日閲覧)
芦部信喜 高橋和之補訂「憲法」〔第 5 版〕(2011 岩波書店)
佐藤幸治「日本国憲法論」(2011 成文堂)
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