●法律⾏為

1 意義

 ⼀定の法律効果の発⽣を欲する者に対してその欲するとおりの法律効果を⽣じさせるための仕組みないし法
制度。

⼤陸法特にドイツ法において発展してきた考え⽅で,私的⾃治の原則が技術的な形をとったものである。

私的⾃治の原則が⽀配する私法の領域では,権利義務関係の設定・変動は究極的には,それを欲した当
事者の意思に求められる。

契約が,その内容どおりの法律効果が認められ,契約当事者を拘束するのは,これらの者がそれを欲したから
である。

このように意思表⽰を出発点に権利義務関係を説明する考え⽅は,契約についてはよくあてはまるが,単独
⾏為(詐害⾏為取消権の⾏使など)については,それが取消権の⾏使という意思の表明を契機に効果が
発⽣することは確かであるが,それによって影響を受ける者がなぜそれを受け⼊れなければならないのかを⼗分
に説明できない。

しかし,法律⾏為という概念は,単に契約だけでなく,1つ⼜は複数の意思表⽰を要素とする単独⾏為や合
同⾏為の上位概念として,すなわち権利義務の設定・変動の根拠を統⼀的に説明しようとする概念としてド
イツ法学で確⽴し,わが国の⺠法にもとり⼊れられた。

2 法律⾏為の種類
 法律⾏為は,意思表⽰を基本的な要素とするが,その意思表⽰の結合の態様に応じて,単独⾏為・契
約・合同⾏為の3種に分類される。

しかし,詐害⾏為取消権など単独⾏為による権利変動の根拠は,当事者の意思というよりも法律がそれを
認めている点にあり,契約と単独⾏為を同じ法律⾏為で説明することには問題がないではない。

3 効⼒要件
 法律⾏為が有効であるためには,内容が確定できるものであること,内容が実現することができるものである
こと(⇒原始的不能・後発的不能),強⾏法規⼜は公序良俗に反しないこと,意思の不存在⼜は瑕疵
(かし)がないことなどが必要である。

⇒準法律⾏為
⇒物権⾏為・債権⾏為
⇒有因⾏為・無因⾏為
⇒法律⾏為の解釈

●準法律⾏為
Ⅰ 私法 
1 意義 法律効果を発⽣させる⾏為のうちで何らかの意思的要素を伴うが,法律⾏為とは異なって効果意
思は伴わない各種の⾏為をいう。

例えば,弁済の催告は,弁済せよという意思を通知するものであるが,催告をする債権者がいくら弁済を欲し
ていても催告だけで弁済という効果が認められるわけではなく,催告による法律効果は時効の中断〔⺠147〔1
〕・153〕・履⾏遅滞〔⺠412<3>〕・解除権発⽣〔⺠541〕にとどまり,しかも,これらの効果は催告者が欲し
たかどうかにかかわりなく,催告をしたという事実に対して直接に法律の規定に基づいて与えられる。

そこで,催告は準法律⾏為であると説かれる。
準法律⾏為の概念は,⺠法の意思表⽰に関する通則(⾏為能⼒・錯誤・代理等に関する規定)が適⽤さ
れないと考えられる各種の⾏為(下記 2 参照)を集めて,法律⾏為に対する意味で与えられた名称であ
り,意思表⽰の規定の適⽤範囲を明らかにする点に実益がある。

しかし,準法律⾏為のうちでも意思表⽰の規定を類推適⽤されるのが妥当であると思われるものも少なくなく
,結局,適⽤されるかどうかは個々の準法律⾏為ごとに判断しなければならないと考えられており,その限りで
準法律⾏為という概念を⽴てることの意味はそれほど⼤きなものではない。

2 種類 準法律⾏為は,普通,⼀定の意識内容を表現するもの(表現⾏為)とそうでないもの(⾮表現
⾏為)とに分類される。

前者には意思の通知〔例:⺠20・153等〕・観念の通知〔例:⺠109・467・522等〕・感情の表⽰〔例:⺠
旧(昭和22法222改正前の)814(姦通(かんつう)の宥恕(ゆうじょ))〕があり,後者には,先占〔
⺠239<1>〕・遺失物拾得〔⺠240〕・事務管理〔⺠697〜702〕などがある。

Ⅱ ⾏政⾏為について,法律⾏為の分類に倣い,法律⾏為的⾏政⾏為と準法律⾏為的⾏政⾏為の区別
が学問上⽴てられることがある。

●物権⾏為・債権⾏為
1 意義
 物権変動そのものを⽣ずることを⽬的とする法律⾏為を物権⾏為あるいは物権契約という。

例えば,所有権移転⾏為,地上権設定⾏為。

これに対し当事者間に債権債務の関係を⽣じさせる法律⾏為を債権⾏為という。

売買で所有権が移転されるときも,所有権の移転は債務の内容なので〔⺠555参照〕,売買は債権⾏為で
ある。

それでは,所有権の移転には売買契約と別にさらに物権⾏為が必要か,それとも売買契約だけで所有権は
移転するか。

⽴法に2つの⽴場がある。

2 意思主義と形式主義
イ フランス⺠法のとる意思主義は,物権変動の意思表⽰には何らの形式を必要としない。

地上権設定契約のように直接に物権の変動を⽬的とする契約だけでなく,売買のように物権変動の債務だけ
を⽣ずる契約の場合も,意思表⽰だけで物権変動を⽣ずる。

ロ ドイツ⺠法のとる形式主義は,物権変動を⽣ずるには債権⾏為と別に,物権変動の意思表⽰(合意)
と登記・引渡しのような形式を必要とする。

3 物権⾏為の独⾃性・無因性
 形式主義の下では,物権変動を⽣ずるためには,債権⾏為と別に物権⾏為を必要とし(物権⾏為の独
⾃性),さらに売買など物権⾏為の原因となる債権⾏為が無効・取消しになっても,物権⾏為は無効になら
ない(物権⾏為の無因性)。

わが⺠法176条は意思主義の⽴場をとり,ドイツ法の影響からかつては議論があったが,今⽇では⼀般に,
当事者間で特別の取決めをした場合は別として,売買契約の意思表⽰は⺠法176条にいう意思表⽰にあ
たり,売買契約だけで所有権は移転し,物権⾏為の独⾃性・無因性はとらないと解されている。
●有因⾏為・無因⾏為
 例えば,売買代⾦⽀払のために⼿形を交付したが,⼿形交付の原因である売買契約が何かの理由で無
効であったとき,⼿形も無効にすると,⼿形の転得者が⼿形上の権利を失い,⼿形取引の安全が害される
。

そこで,⼿形のように転々流通するものについては,取引安全の保護のために,たとえ原因が無効であっても
⼿形⾏為⾃体は有効として扱うことが必要になる。

この場合に⼿形の交付者は,原因⾏為の相⼿⽅に対して,不当利得による返還(⼿形が相⼿⽅にあれば
,⼿形の返還を,また第三者に移転している場合には,利得の返還)を請求できるだけである。

このように,財産上の出捐(しゅつえん)をする原因(上例では売買契約)が無効であっても,出捐⾏為
(⼿形⾏為)の効⼒には影響を及ぼさないとされる場合に,その出捐⾏為を無因⾏為という。

これに対して,原因が無効であれば,それに伴って無効となるような出捐⾏為を有因⾏為という。

⼿形⾏為の場合には,当事者の特約によっても有因とすることはできない〔⼿1〔2〕・12<1>・75〔2〕〕。

なお,物権⾏為が無因⾏為であるかどうかが議論されている。

⇒無因債権・無因債務

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●法律⾏為の解釈
1 意義
 法律⾏為の効⼒(有効か無効か,取り消すことができるか)を裁判上判断する前提として,法律⾏為の
内容を明確にする作業。

法律⾏為は当事者にとって規範としての意味をもつが,私的⾃治の原則の下では,当事者は法律⾏為をす
るに際して明確な⽤語や論理的に整理された表現を⽤いるとは限らないから,この種の作業が必要となってく
る。

私的⾃治の原則からいえば法律⾏為の解釈は,当事者の内⼼の意思を探究して⾏われるものであるが,法
律⾏為が⼈間の社会的⾏動を統制するための法技術の1つである以上,原則として当該法律⾏為がされた
社会的状況において表⽰⾏為のもつ社会的意味を探究するのが法律⾏為解釈の⽬的であると説かれている
(⇒意思主義・表⽰主義)。

表⽰⾏為のもつ社会的意味の探究が法律⾏為解釈であるとすると,それは事実を認識する⾏為ということに
なるが,実際の裁判にあたっては,法律⾏為の解釈という名の下に,事実認識ではなくて,⼀定の規範を定
⽴するという価値判断が含まれていることもあり,法律⾏為の解釈といっても,この2つを区別する必要があると
指摘されている。

2 性質・基準
 法律⾏為の解釈は事実問題であるか,法律問題であるかについて論議されている。

前者ならば上告審で争えず,後者ならば争うことができることになる点に区別の意味があるが,判例は原則と
して事実問題であると解し(⼤判⼤正10・5・18⺠録27・939等),学説は法律問題であると解している。


このほかに,事実認識的な作業の意味での法律⾏為の解釈は事実問題であるが,価値判断的作業の意
味での法律⾏為解釈は法律問題であるとする説も有⼒である。
解釈の基準としては,解釈規定〔例:⺠136<1>・420<3>〕,信義誠実の原則などが挙げられている。

⇒事実問題・法律問題
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・(意思)に基づく⾏為である。

・特定の法律効果を発⽣させる(要件事実)の1つ。

・(意思表⽰)によって構成される。

・意思表⽰は,(意思)と対応する(表⽰)によって構成される。

・法律効果は(意思内容)の実現である。

・意思の(実現)に法が助⼒し,(私的⾃治)を擁護する制度。
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・特定の法律効果が発⽣するが,それが(意思)に基づく効果ではないもの。

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民法における法律行為とは