夏合宿5. hFANCD2とhFANCI
• hFANCD2は分岐型DNA に高い親和性を有する Park et al., 2005
• C末端にヒストン結合部位とヒストンシャペロン活性を有する Sato, Ishiai et al., 2012
[本研究の目的]
ヒトFANCD2及びヒトFANCIの新規精製系を確立し、それぞれの
生化学的機能解析を行う
hFANCD2
S1 HD1 S2 HD2 S3 S4
1 1328
S1 HD1 S2 HD2 S3 S4
1 1451
hFANCI
• hFANCIは分岐型DNA に高い親和性を有する Longerich et al., 2009; Yuan et al, 2009
8. 大腸菌発現系を用いたhFANCD2 の精製
BL21(DE3) Codon Plus RIL
(pET15b-human FANCD2)
OD600 = 0.6で発現誘導
(IPTG)
Ni-NTA agarose
His6-tag removal
Q Sepharose Fast Flow
HiLoad Superdex200 16/60
培養 30℃
培養 18℃
12% SDS-PAGE
9. BL21(DE3) Codon Plus RIL
(pET15b-human FANCD2 WT)
OD600 = 0.6で発現誘導
(IPTG)
Ni-NTA agarose
His6 -tag removal
Q Sepharose Fast Flow
HiLoad Superdex200 16/60
培養 30℃
培養 18℃
5% SDS-PAGE
大腸菌発現系を用いたhFANCD2 の精製
250
150
10. BL21(DE3) Codon Plus RIL
(pET15b-human FANCD2 WT)
OD600 = 0.6で発現誘導
(IPTG)
Ni-NTA agarose
His6-tag removal
Q Sepharose Fast Flow
HiLoad Superdex200 16/60
培養 30℃
培養 18℃
12% SDS-PAGE
[陰イオン交換カラムクロマトグラフィー]
電荷の違いを利用して生体分子を分離する手法
大腸菌発現系を用いたhFANCD2 の精製
11. BL21(DE3) Codon Plus RIL
(pET15b-human FANCD2 WT)
OD600 = 0.6で発現誘導
(IPTG)
Ni-NTA agarose
His6-tag removal
Q Sepharose Fast Flow
HiLoad Superdex200 16/60
培養 30℃
培養 18℃
[ゲル濾過]
分子量の違いを利用して生体分子を分離する手法
大腸菌発現系を用いたhFANCD2 の精製
250
12% SDS-PAGE
12. 培養 30℃
培養 18℃
BL21(DE3) Codon Plus RIL
(pET15b-human FANCD2 )
OD600 = 0.6で発現誘導
(IPTG)
Ni-NTA agarose
His6-tag removal
Q Sepharose Fast Flow
HiLoad Superdex200 16/60
12% SDS-PAGE
大腸菌発現系を用いたhFANCD2 の精製
250
13. BL21(DE3) Codon Plus RIL
(His-SUMO hFANCI )
OD600 = 0.6で発現誘導
(IPTG)
Ni-NTA agarose
His6-SUMO tag removal
Heparin Sepharose
CL-6B
培養 30℃
培養 18℃
12% SDS-PAGE
大腸菌発現系を用いたhFANCI の精製
250
14. BL21(DE3) Codon Plus RIL
(His-SUMO hFANCI )
OD600 = 0.6で発現誘導
(IPTG)
Ni-NTA agarose
His6-SUMO tag removal
Heparin Sepharose
CL-6B
培養 30℃
培養 18℃
5% SDS-PAGE
大腸菌発現系を用いたhFANCI の精製
250250
15. BL21(DE3) Codon Plus RIL
(His-SUMO hFANCI )
OD600 = 0.6で発現誘導
(IPTG)
Ni-NTA agarose
His6-SUMO tag removal
Heparin Sepharose
CL-6B
培養 30℃
培養 18℃
12% SDS-PAGE
[Heparin Sepharose]
DNA、RNAに結合する生体分子を分離できる
大腸菌発現系を用いたhFANCI の精製
250
16. BL21(DE3) Codon Plus RIL
(His-SUMO hFANCI )
OD600 = 0.6で発現誘導
(IPTG)
Ni-NTA agarose
His6-SUMO tag removal
Heparin Sepharose
CL-6B
培養 30℃
培養 18℃
12% SDS-PAGE
大腸菌発現系を用いたhFANCI の精製
250
Editor's Notes 生物の遺伝情報を担うDNAは,日々紫外線や放射線などにより損傷を受けています。我々はその損傷を修復する機構を持っていますが,修復されずに蓄積すると細胞死や癌、さらには遺伝病につながることが知られています。中でもDNA二重鎖切断損傷は、遺伝情報を失う可能性のある重篤な損傷であることが知られています。この二重鎖切断損傷は、電離放射線や、複製ストレスによって生じることがわかっています。この複製ストレスの中でも特に重篤なものに、DNA鎖間架橋、ICLがあります。ICLは二重鎖DNAの相補鎖同士を架橋するDNA損傷で、DNAの開裂を著しく妨げます。したがって、このようにDNA複製が著しく阻害されることになります。 ほとんどの真核生物ではこのICLを修復する機能が備わっていますが、この修復に関わるのがFancini貧血原因遺伝子産物です。ファンコニ貧血とは、ICL修復機構が欠損しているために引き起こされる重篤な遺伝病です。主な表現型は発達障害、高発ガン、骨髄不全が挙げられます。DNA架橋剤でファンコニ貧血患者の細胞を処理しますと戦い感受性を示すことも特徴で、このように染色体の断裂や連結といった表現型が見られます。 S期においてレプリソームがICLに衝突すると、ICLを認識し8種のFA原因遺伝子産物からなるFAコア複合体が損傷部位に集積します。さらにFANCI、FANCD2が複合体を形成し、損傷部位近傍のDNAに結合します。するとFAコア複合体によりID複合体の両サブユニットがモノユビキチン化されID複合体が強く集積します。モノユビキチン化されたID複合体はFAN1やSLX4複合体といったヌクレアーゼをリクルートすることで、IClの切り出しに関与すると考えられています。このICLが切り出されるとすぐにREVⅠにより損傷を乗り越えて新しいリーディング鎖が合成され、ポリメラーゼによりDNA合成が続けられます。さらにRAD51を中心とした相同組換えを経て修復が完了します。ID複合体は、この相同組換えにも重要であることがわかっています。このように、ID複合体はこのICL修復において中心的な役割を果たしているものの、ID複合体によるICL修復機構の詳細はあまり明らかになっていません。そこで、本研究ではこのヒトのFANCD2、FANCIに着目しました。 ヒトのFANCD2は全長1451アミノ酸からなる164kDaのたんぱく質で、構造的に7つのサブドメインに分かれています。先行研究からHolliday junction構造を持つような分岐型DNAに強く結合すること、さらにC末端にヒストン結合部位とヒストンシャペロン活性を持つことが明らかにされております。また、ヒトのFANCIはFANCD2のパラログでして、同様に1328アミノ酸からなる分子量150 kDaのたんぱく質です。FANCIに関する先行研究では、ヒトFANCIも分岐型DNAに高い親和性を持つことがわかっております。この両者は冒頭に述べました通り、細胞内では複合体を形成して機能しています。しかしながらヒトのFANCI、FANCD2についてはこれらの機能しか解明されておらず解析はあまり行われておりません。これはFANCD2、FANCIが共に分子量150kDaを超える巨大なタンパク質であり、精製が困難であるという理由が考えられます。そこで本研究では、まずヒトFANCD2とヒトFANCIの新規精製系の確立をめざし、その後それぞれの生化学的解析を行うこととしました。 当研究室を含め、先行研究では、昆虫細胞を用いてヒトFANCD2が精製されております。ですが、精製に長い時間を要すること、純度があまり高くできないこと、さらに収量が悪いという問題点がありました。 そこで私はまずヒトのFANCD2を短時間且つ多量に精製するために大腸菌発現系を用いた精製系を確立いたしました。FANCD2をpET-15bベクターにサブクローニングし、N末端にヒスタグを融合しています。一方ヒトFANCIはN末端にHis SUMOタグを融合し精製を試みました。His SUMOタグを付加することにより、目的のたんぱく質の可溶化効率を上げることができます。His tagを融合させたタンパク質は、こちらのNi NTAアガロースカラムクロマトグラフィーを用いて精製することが出来ます。His タグを付加したタンパク質はNi NTAに結合することから、洗浄、溶出したあと、このようなスロンビンsiteあるいはPreScissionサイトでタグを切除することにより、目的のタンパク質が得られます。 ヒトFANCD2をこちらの大腸菌株に導入し、LB培地で培養を行います。OD600が0.6になるところまで大腸菌を培養し、発現誘導をかけさらに培養します。大腸菌を破砕後、Ni-NTA agaroseカラムクロマトグラフィーにおける溶出の様子をこちらに示しますが、こちらに、FANCD2と思われるバンドが見られます。 このバンドがFANCD2であることを確認するために、次のステップでヒスタグを切除し、電気泳動を行いました。するとわずかながらバンドシフトが確認されているため、確かにFANCD2が得られていることがわかります。 純度を挙げるために続いてQ Sepharose、ゲル濾過カラムにより精製を行いました。Q Sepharoseはイオン交換カラムクロマトグラフィーです。たんぱく質ごとの電荷の違いを利用して、生体分子を分離することが出来ます。こちらにFANCD2と思われるバンドが見られます。 さらにゲル濾過カラムにかけました。ゲル濾過は分子量ごとにタンパク質を分離できる方法です。溶出の様子をこちらに示しておりますが、こちらのFANCD2を濃縮し、最終生成物としました。 最終生成物をこちらに示しておりますが、昆虫細胞を用いて精製したヒトFANCD2と比べて純度が高いことがわかります。 続いてヒトFANCIの精製系の確立を試みました。このたんぱく質は当研究室では今まで精製されていませんが、先行研究ではすべて昆虫細胞を用いて精製されています。そこで、より容易な精製系を確立するために、ヒトFANCD2同様大腸菌を用いてヒトFANCIを精製することを試みました。His-SUMOベクターにサブクローニングしたFANCIを、こちらのベクターを用いて形質転換を行い、LB培地で培養しました。その後、このようなステップで精製を行いました。このバンドがヒトFANCIであることを確認するために、 次にPreScissionを加え、His-SUMOタグを切除したところ、電気泳動でこのようにバンドシフトが確認されたため、この一番上のバンドが確かにFANCIであることが明らかになりました。 その後ヘパリンせふぁロースカラムを通しました。Heparin SepharoseカラムはヘパリンやDNA、RNAに結合するたんぱく質を精製することが可能なカラムです。このように高純度に精製できましたので、こちらを濃縮し、最終精製物としました。 濃縮後の最終生成物がこちらになります。
先行論文から、マウスのFANCI、FANCD2が二量体の構造を形成していることが明らかにされています。そこで今回精製したヒトFANCIとヒトFANCD2が複合体を形成するのかゲル濾過解析によって解析しました。
ゲル濾過とはサンプルを分子量ごとに分離できる手法です。ここに模式図を示しておりますが、多孔性のビーズの入ったカラムにサンプルを入れると、分子量の小さいサンプルはビーズの中を通ってくることから見かけ上の流路が長くなり遅く溶出されます。一方分子量の大きいサンプルはビーズの隙間に入れないので見かけ上の流路が短くなるので、早く溶出されます。 吸光度を測定しますと、このような波形が得られ溶出位置から分子量が推測できます。 実際に測定結果を示します。FANCIやFANCD2をそれぞれゲル濾過にかけますとこのようにピークが得られます。それぞれ279.1 kDa、208,9 kDaと単量体―2量体の間のサイズに溶出されていることがわかります。続いてヒトFANCIとFANCD2を同じモル比で混合してゲル濾過解析を行った結果がこちらです。このようにより早い位置に両者がコエリューションされていることがわかります。これは約370キロダルトンの位置でおよそIDヘテロ二量体の位置と考えられます。これより本研究で精製したFANCD2とFANCIは互いにID複合体を形成することが明らかになりました。 続いてFANCD2とFANCIのDNA結合活性をゲルシフト法により解析しました。ゲルシフト法とは、たんぱく質とDNAとの結合を定量的に解析できる手法です。たんぱく質とDNAが結合しますと、見かけ上の分子量が大きくなることから、電気泳動で分離しますとこのように泳動度が異なって見えます。今回は、このようなDNA基質3種類を用い、どのDNAにFANCD2とFANCIが優先的に結合するのか解析しました。DNA修復時に見られる分岐型構造を有するホリデイジャンクション様DNA、Y-shaped DNA及び分岐構造のないdsDNAを用いました。たとえば、たんぱく質がHolliday junction DNAに結合した場合はこのようにバンドがシフトします。 ヒトFANCD2と3つの基質を混合し、反応後、Natine PAGEにより分離した結果をこちらに示しますが、先行研究と同様に分岐型DNAに優先的に結合していることがわかります。同様の方法で、ヒトFANCIについてもDNA結合活性を確認しました。先行研究では分岐型構造を持つDNAに高い親和性を持つことが報告されていますが、今回精製したヒトFANCIも同様に分岐型DNAに優先的に結合することがわかりました。 またFANCD2は先行研究でこのようにヒストンシャペロン活性を有することが明らかにされております。真核生物のDNA修復やDNA複製はこのようなクロマチン構造上で行われます。クロマチンの基本構成単位はヌクレオソームであり、ヒストンH2A、H2B二量体H3、H4四量体がそれぞれに二分子ずつついた8量体にDNAが1.65回転左巻きに巻き付いています。先行研究からFANCD2はヒストンH3/H4に作用し、このような交換反応を触媒しクロマチンの構造を変換することで、ICL修復に関わっていることがわかっています。 このFANCD2のヒストンシャペロン活性をスーパーコイリングアッセイという手法により解析しました。このアッセイは, 最初にプラスミドDNAをtopoisomeraseⅠにより弛緩させ、その後コアヒストンとヒストンシャペロンとを混合することでヌクレオソームの形成を解析するアッセイです 。この際トポI存在下でヌクレオソームが導入されると、ヌクレオソームが形成された量に応じてDNAが負にコイルします。除タンパクした後に電気泳動で分離すると、超螺旋を有しているDNAほど泳動度が大きくなるため、ヌクレオソームの形成量に応じて、泳動度の異なるバンドが出現することになります。結果がこちらになりますが、ポジティブコントロールのニワトリのFANCD2では、このようにその濃度に応じて泳動度の早いDNAが出現しますが、ヒトFANCD2においても同様の結果がみられ、精製したヒトFANCD2もヒストンシャペロン活性を有することが確認できました。このように、本研究で確立した系を用いて精製したヒトFANCD2は既報の活性を有することが明らかになり、有用であることがわかりました。 このように、以上の生化学的解析で、既報の活性と矛盾しないヒトFANCD2及びヒトFANCIを大腸菌リコンビナントタンパク質として精製することに成功し、生化学的解析を行うことができました。現在こちらの結果をまとめリバイスを投稿しています。また、FANCD2は冒頭に述べた通りICL修復下流の相同組換えにも関与することが示唆されています。この点に着目し、詳細な機構を明らかにするために解析を行っていこうと考えています。