リリムジカは埼玉県内の特別養護老人ホームと協力して、2013年から利用者参加型の音楽プログラムを行っています。プログラム出席者と非出席者の要介護度をさかのぼって調べたところ、出席者の方が要介護度の改善率が高かったという結果が出ました。その内容について、第18回日本認知症ケア学会大会（2017年）で口頭発表を行いました。

1. 参加型音楽プログラム出席者の
要介護度に関するコホート研究
～3年8か月のプログラム実施を通じて～
○管偉辰1), 柴田萌1), 青山菜月1), 安東美代子2),
田村孝司3), 伊東美緒4), 菅亜希子4)
1）株式会社リリムジカ 2）社会福祉法人遍照会
3）千葉・柏リハビリテーション学院 4）東京都健康長寿医療センター

2. はじめに
・多くの介護施設で音楽的な活動が行われている.
・アルツハイマー型認知症の人に音楽療法を行った
結果, 大脳機能の賦活効果があった (岡部ら2006年).
・音楽療法を行った人はMCIからアルツハイマー型
認知症になりにくかった（奥村ら2010年）.
・しかし音楽の効果を長期間検証した研究は少ない.

3. リリムジカについて
音楽療法士や音楽の専門家ら22名（ミュージック
ファシリテーター）が所属. 119か所の介護事業所と
協力して音楽プログラムを実施.

4. 目的
参加型の音楽プログラムに
出席することが要介護高齢者に
どのような影響を
およぼしているかを検討する.

5. 研究方法
・1事業所におけるコホート研究
・プログラム実施期間：平成25年1月9日～現在
・実施頻度：月2回
・実施場所：特別養護老人ホームA 2階食堂
・対象者：Aの利用者で、平成25年12月31日に要介
護度が3から5だった方69名
・プログラム参加群18名と対照群51名について、平
成25年12月31日（開始時）と平成28年8月8日（終了
時）の要介護度を比較.（期間は2年8か月）

6. なぜ要介護度を比較するのか
１．要介護度の維持改善率が特別養護老人
ホームのケアの質の指標として活用できる可
能性がある（伊藤ら2013年）.
２．要介護度の維持改善は本人や家族の金銭
負担軽減につながる.
３．要介護度は確実に記録されていて, 今後の
研究において症例数を増やしやすい.

7. 介入方法
特別養護
老人ホームA
リリムジカ
利用者
情報共有
参加の提案
実施
家族
希望
参加
参加の確認
了承
費用負担
実施報告

8. プログラムの実施手順
プログラム案の
作成
Aの職員への共有
プログラムの実施
（1回45分）
施設職員との
振り返り

9. プログラムの構造
参加利用者
●
◎
◎
◎
◎
◎
◎◎
◎
◎
ミュージックファシリテーター
A職員

10. プログラム実施時の介入方針
・歌いたい曲を用意する
・聞いているだけでも参加とみなす
・話したいときには随時話していただく
・プログラム中の出入りは自由

11. ファシリテーターが心がけたこと
・利用者のペースを感じた進行
・写真や小物を使ってお話を聴くこと
・プログラム前後の時間にも参加者の話
を聴く

12. 倫理的配慮
特別養護老人ホームAの施設長および運営法人
理事長の承認を得た. データは匿名化されたも
のを使用し個人情報に連結できるものは見当
たらなかった.

13. 対象者の属性
参加群 対照群
人数（人） 18 51
年齢（最小-最大） 66～97 63～103
平均年齢 80.7 84.4
平均介護度 3.67 3.86
※年齢と要介護度はデータ開始時（平成25年12月31日）

14. データ終了時の要介護度
33.3%
5.9%
11.1%
29.4%
55.6%
64.7%
0%
20%
40%
60%
80%
100%
参加群 対照群
改善 維持 低下

15. 参加者の言動
・着替えてプログラムに参加.
・ファシリテーターのレパートリーにはなかった
「東京のどこかで」をリクエスト.「千昌夫の曲でい
い歌なのよ」とおっしゃる.
・円背だがプログラムのときには歌詞を見ようと顔
をあげる.
・どの歌を出しても「いいわねぇ」とおっしゃる.感
想をジェスチャーで表現.

16. 考察
・プログラムに参加したことが, 参加群の維持・改善
率の高さにつながったと考えられる.
・対象者の言動の背景には, 自分が楽しみたいことを
自分のペースで楽しめる充実感があった.
・プログラムが継続的に存在することが生活全般の
意欲につながり, 要介護度の維持改善率を高めたので
はないか.

17. 研究の限界
１．症例数が少ない.
２．参加群の平均年齢が低い. 平均介護度も軽い.
３．参加群の方々が元々意欲的だった可能性.

18. 結論
・参加型の音楽プログラムは要介護度の維持改善に
効果があることが示唆された.
・しかし, ベースラインに偏りがあるため, 結果の違
いが参加したかどうかにあるとは言い切れない.
・今後, 症例数を増やして研究したい.