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千葉大学教育学部附属中学校 選択教科の授業実践における 
教材のリアリティとファンタジー 
小池翔太太田貴之荻無里広造 
千葉大学大学院教育学研究科修士課程 
授業実践開発研究室(藤川大祐教授) 
千葉大学教育学部附属中学校選択教科の授業実践における 
教材のリアリティとファンタジー
1.附属中選択授業の概要 
2.リアリティファンタジーに関する3つの観点 
3.生徒の反応 
4.考察と今後の課題
1.附属中選択授業の概要 
•2011年度〜千葉大学教育学部附属中学校3年の選択教科(数学)を 授業実践開発研究室(藤川大祐教授)が担当。 
•完全数,複素数,最適化問題,サイクロイド曲線…選択教科として 相応しい,教育課程を越えた難解な題材を扱う。 
•「社会とつながる」がテーマのように,数学が実用的であることを 実感してもらえるように工夫している。 
•ただしリアリティの追求だけでは動機づけとしては不十分。選択教 科なので希望者がいないと非開講になってしまう(2013年度前期, 非開講)。 
•2013年度後期から,「”ゲーム”というテーマにして,恋愛か探偵 テイストの物語にしてみては?」と藤川教授から提案。試行錯誤で 「物語プリント」を開発。
2.リアリティファンタジーに 関する3つの観点 
①なぜ“数学×探偵”か? 
②授業づくりで辛かったことは? 
③時間と能力があったらどうする?
①なぜ“数学×探偵”か? 
•数学離れ 
•数学のファンタジーではなく数学にあるリアルを求める 
•子どものファンタジーに寄り添う 
⇒中学生になじむ 
•教育内容にもマッチ 
⇒「感染症シミュレーション」「ルート計画シミュレーション」 「サイクロイドの実験」 
リアル 
ファンタジー
「江戸時代における五街道の ルート計画シミュレーション」(選択数学) 
•2013年12月4日,附属中後期選択教科 「ゲームで学ぶ数学〜時空少年探偵ワタル〜」にて実践 
•授業者:太田貴之 
•対象:中学3年生16名 
•9時間扱いの4時間目 
•2014年度は,選択社会「データで読み解く社会」にて 同題材を再構成して実践 (※3日目午前ポスター発表P3a-1C-02にて発表予定)
②授業づくりで辛かったことは? 
•ストーリーの描写・つくりこみをどうするか? 
⇒ストーリに矛盾点が出てきてしまう 
•飽きさせない演出 
⇒謎の人物からの手紙⇒生徒は期待 
•授業以上ドラマ未満 
•イラストの準備
③時間と能力があったらどうする? 
•ファンタジーはこんなもの? 
⇒本当は作りこみをしたい、教育内容の方が重要 
•ファンタジーに迎合したくない 
⇒探偵を楽しむ授業になってしまう 
•ストーリーの制作過程を勉強 
•子どもの関心をひくメディアの活用 
⇒ドラマ 
⇒アニメ 
⇒PPT
3.生徒の反応 ※2013年度後期 「ゲームで学ぶ数学〜時空少年ワタル〜」全体を通して 
•今回の授業は物語に沿って進められました。物語がある数学の授業は楽しかったですか? 
(1)楽しかった9票/(2)どちらともいえない3票/(3)つまらなかった0票 
•どんなところが楽しかったですか?また,どんなところがつまらなかったですか? 
「1.楽しかった」の意見:「謎を一つ一つ解き明かしていくところ。」(女子),「鮎川さん のミステリアスなところがステキでした。ワタルの頭の良さに感動しました。」(女子),「 ワタルの率直さとストーリーの意外さがマッチしていて,話の展開もよかったです。」(女子 ),「ストーリーがちょっと現実味がない…。そんなに推理してない。」(男子),「次回予告 がほしかった。先生たちが演じてほしかった。」(男子), 
「2.どちらともいえない」の意見:「ストーリーがあまり面白くなかった。」(男子),「友 達とストーリーについて語り合うところが楽しかった。」(男子),「伏線を回収しないとこ ろがつまらなかった。」(男子) 
n=12
3.生徒の反応 ※2013年度後期 「ゲームで学ぶ数学〜時空少年ワタル〜」全体を通して 
•物語があることで,前と比べて数学の授業に親しみが持てましたか? 
(1)非常に持てた4票/(2)やや持てた7票/(3)変わらない2票/(4)あまり持てな い0票(5)まったく持てない0票 
•物語がある事で以前より親しみが持てたのはなぜですか?また持てなかったの はなぜですか? 
「1.非常に持てた」の意見:「ストーリー性があると楽しみながら学べました」( 女子),「楽しみながら学習できた!」(女子),なじみやすいから」(男子) 
「2.やや持てた」の意見:「なにもないよりはおもしろいから」(男子),「次が 楽しみになったから」(男子),「おもしろさがプラスされてた」(男子) 
「3.変わらない」の意見:(いずれも無回答) 
n=12
4.考察と今後の課題 
•「物語プリント」のリアリティ−ファンタジー構造について詳細には 検討できておらず,試行錯誤の段階。扱う題材に関する授業・教材づ くりに精一杯。 
•物語の作り方・プリントをベースに授業を進める知見は多々ある。 「リアリティとファンタジー」と関連させ,より有効な教材を 探る必要がある。現在はパロディに頼っている。 cf).谷川彰英『教育科学社会科教育』,仮説実験授業 
•女の子には物語の内容が馴染む印象。 
•物語が響かない生徒(=リアリティ追求型)でも,シミュレーション 教材(ある種のファンタジー)には取り組んでくれた印象。 数学で社会における実用性を扱っても,ファンタジーは意識して作り 込む必要があると感じる。

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