Editor's Notes
- 17 世紀後半のスコットランドは、長期的経済不振の時代であり、イングランドに大きく遅れた一辺境国であった。合邦は、このようなスコットランドに、イングランド領の南・北アメリカとの自由な植民地貿易の機会を与える。それは主に、グラスゴウその他の、スコットランド西部の商人、製造業者層に利益を与えるものであった。
当時のイギリスは,名誉革命(1688年)後の「固有の重商主義」の時代である。「固有の重商主義」の政策は,①製造業と共に農業も保護された連帯保護制度,②アメリカ植民地に代表される旧植民地制度,③近代的租税・国債制度,という3つであった。
政治体制は絶対主義体制から,市民的・民主主義的政治体制へと新しい段階に入っており,それとともに,経済体制においてみれば,生産者のための保護主義(Protectionism)が商人の自由貿易(Free trade)の主張を圧倒するようになった。貨幣あるいは金銀,財宝の国外への流出防止という消極的政策,さらに積極的には,それらの蓄積のための諸方策をとった。
スミスは、ニュートン(Isaac Newton, 1642-1727)が引力(重力)によって宇宙の秩序を説明したことからヒントを得、道徳的な判断能力である同感(sympathy)により、社会の秩序を説明しようとした。
デイヴィッド・ヒューム『人間本性論』 実験的論究方法を精神的上の主題に導入する一つの企て
『道徳感情論』初版(1759)~『道徳感情論』第二版(1761)~『国富論』初版(1776)~『国富論』第三版(1784)4) ~『道徳感情論』第六版(1790)という流れである
- ・諸事実と諸理論だけでは政策目標は設定できない
→政策当局が採用する善悪の判断基準(立法の規範原理)が必要
・立法者が構成員の意向を考慮するのであれば,個人の規範原理に依存する
・個人が自分や他人の行動と正確の善悪を判断する基準(個人の規範原理)は,経済的な諸事実だけでなく,日常生活において心の中で「べき」「べきでない」と考える道徳的諸事実(道徳的言明)も含まれる。
・個人の規範原理:道徳感情主義,利己主義,功利主義(社会全体の幸福を最大化),権利主義(基本的諸権利を守る)などがある。
→二十世紀の主流派経済学は,個人の規範原理を利己主義と想定した諸理論。
スミスは,『道徳感情論』において,「個人の規範原理」と「立法者の規範原理」を考察した上で,『国富論』において市場経済に関する「諸理論」を打ち立て,さらに「諸事実」の中の重要な問題に対して具体的な「政策」を提示したのであった。
法学の体系的確立
「法及び統治の一般原理」歴史的変遷
正義,行政,国家,収入,軍備
「国富論」
行政,国家収入,軍備について触れた。
重商主義批判
社会契約論を批判
「講義」でのスミスは法を経済との関係において基礎づけようと試みている。つまり経済が進歩するにつれて人々の正義感もそれにともなって進歩するというのである。このように経済が法の基礎だと考えるならば、スミスが「法」だって経済学研究に専念したこともうなづけるのである。
道徳感情論
人間の社会生活において普遍的に妥当する実践的諸価値を行為の動機分析を軸にして原理的かつ体系的に把握する試み
価値の妥当性
価値判断の成立過程を,状況(特定の事態)→動機(感情)→行為及びその結果
価値判断の構造:行為者ー観察者関係
諸価値に関する歴史的考察がない
- 「共感は情念を見ることからよりもむしろ、情念を引き起こした状況を見ることから生じる」
第1編:人間の行為に対する道徳的判断は,共感を中心とする感情を通して行われ,適宜性があるかどうかが判断される。
第2編:「報償と刑罰」の対象となる行為に対する判断に係わる感情。
第3編:他人の行動のみならず,自分自身の行動に対する判断の構造。
第4編:逆に,感情に影響を与えるのはどのような要因か。効用と美
第5編:「習慣」と「流行」が感情にいかなる影響を与えるか。
→ここまでの5編を統括
第7編:18世紀までの道徳哲学の学説史的整理
ストア学派とマンデヴィルとの中庸
適宜性に掛る情念
(1)非社会的情念(2)社会的情念(3)利己的情念
【国富論】
・「賢人の原理」によって不正のない交換が成立する
→利己心+同感によって見知らぬ者同士の交換が可能となる
・特権商人や大製造業者などの市場参加者,それに癒着した政治家や官僚によって腐敗。
・私的な利益,他国へ経済的・軍事的利益を確立する政治的野心によって,規制を設けられた。
→市場は歪められ,経済成長は妨げられ,貿易は国際紛争の原因となった
・「賢人の原理」に立って,自由で公正な市場を構築すべき
(重商主義的な諸規制を緩和する政策を進める)
・諸規制の急激な廃止は,規制に守られる人々の生活を脅かし,損害を与えるため,社会秩序の混乱を行いように,徐々に行うべき。
・だから,アメリカ植民地は,自発的に分離する政策をとるべき。
- 「共感は情念を見ることからよりもむしろ、情念を引き起こした状況を見ることから生じる」
第1編:人間の行為に対する道徳的判断は,共感を中心とする感情を通して行われ,適宜性があるかどうかが判断される。
第2編:「報償と刑罰」の対象となる行為に対する判断に係わる感情。
第3編:他人の行動のみならず,自分自身の行動に対する判断の構造。
第4編:逆に,感情に影響を与えるのはどのような要因か。効用と美
第5編:「習慣」と「流行」が感情にいかなる影響を与えるか。
→ここまでの5編を統括
第7編:18世紀までの道徳哲学の学説史的整理
ストア学派とマンデヴィルとの中庸
適宜性に掛る情念
(1)非社会的情念(2)社会的情念(3)利己的情念
【国富論】
・「賢人の原理」によって不正のない交換が成立する
→利己心+同感によって見知らぬ者同士の交換が可能となる
・特権商人や大製造業者などの市場参加者,それに癒着した政治家や官僚によって腐敗。
・私的な利益,他国へ経済的・軍事的利益を確立する政治的野心によって,規制を設けられた。
→市場は歪められ,経済成長は妨げられ,貿易は国際紛争の原因となった
・「賢人の原理」に立って,自由で公正な市場を構築すべき
(重商主義的な諸規制を緩和する政策を進める)
・諸規制の急激な廃止は,規制に守られる人々の生活を脅かし,損害を与えるため,社会秩序の混乱を行いように,徐々に行うべき。
・だから,アメリカ植民地は,自発的に分離する政策をとるべき。
- 共感:他人の感情を自分の心の中に写し取り,それと同じ感情を引き起こそうとする人間の情動的な能力
・自分の利害に関係無くても,他人の感情や行為に関心をもつ
・自分が他人と同じ境遇にあったなら,どのような感情を持つか想像する
・想像される自分の感情や行為と,実際に観察される他人の感情や行為を比較する
→それが一致する場合は適切だと是認,著しく異なる場合には不適切だと否認
・是認が当事者に伝われば快いし,是認できた自分も満足する
否認であれば当事者は不愉快で,是認できなかった自分も不快感を得る
- ・他人もまた同様な目で是認や否認をしている。
- ・胸中の「公平な観察者」が自分の感情や行動を是認/否認するかで適切性を判断する
- ・他人もまた同様な目で是認や否認をしている。
・多くの人から是認を得るために,自分の中に観察者を軽視する
・胸中の「公平な観察者」が自分の感情や行動を是認/否認するかで適切性を判断する
→実在の観察者(世間)との交際を通じて,経験的に形成される
・「公平な観察者」は,世間の動機を正確にすることが出来ないが,自分自身(内面)について完全な情報を持つ
- ・胸中の「公平な観察者」が自分の感情や行動を是認/否認するかで適切性を判断する
- 幸福は,心の平穏と楽しみの中にある(P.334)。
虚栄心や優越感を満足させるような快楽は,まずもって心の平穏と共存できない(P.336)
健康で借金がなく,心にやましいこともない人の幸福には,それ以上何を付け加えられるだろうか(P.138)
この状態と最高に幸福な状態との差はごくわずかなのに対し,悲惨のどん底との差は限りなく大きい(P.139)
人は貧しい人を軽蔑し,無視する
世間の是認/否認⇔公平な観察者の是認/否認
「賢人」:公平な観察者の評価を重視,正義・慈恵・慎慮+自己規制
→社会秩序をもたらす
「弱い人」:世間の評価を気にする,野心・虚栄心・狭義の利己心
→社会の繁栄をもたらす
「自己欺瞞」
スミスによると、「文明社会」では、「多くの異なった階層と団体に分割される」ようになるため、「国家の繁栄と保護から、その特定の階層や団体の様々な権力や特権、免除を減じる必要があるということを、彼らに納得させることは困難となる」。党派的な偏見こそが、人々の「公共精神」(public spirit)を損なってしまうのである。人々がこのような偏見から免れるためには、それぞれが「公平な観察者」になることが必要とされた
スミスの理論の特徴は、為政者の独善ではなく、政治的な「対話」を通じて公共的な判断を形成していくところにあった。そのためには、個々人が、「富裕」による「腐敗」を免れなければならない。スミスは、「政治の主体」により高い道徳の要件が課したのである。スミスにとって、この道徳性は、人々を政治の領域から排除するためのものではない。むしろ、当時の貴族的な体制において政治から排除されていた人々を、政治の領域へと取り込むためのものであった
中流・下流の人々は,社会の中で勤勉に努力しなければ,他者の是認を得ることができない。中流・下流の人々は,他者から称賛されるために,勤勉に労働して,正直に交換せざるをえない。中流・下流の人々の場合,富を獲得するという経済行為は,幸いにも,正直・勤勉・節約という徳の形成と一致する。
- 論理的思考によってこれを統合し,徳と称賛に値することとのバランスを実現する
「したがって,正邪に関する最も確実な判断が原則や観念に縛られ,その原則や観念は理性が帰納によって導き出したのとすれば,徳が理性に従うことにあるとかんがえるのは,まことに適切と言えよう。この限りにおいて,理性は是認の可否の判断の源泉であり原動力であるとみなすことができる」0.
『道徳感情論』における3つの基本的な徳
正義(justice),慈恵(beneficence),慎慮(prudence)
「正義」は、社会秩序を支える重要な要素
スミスの「正義」は、「積極的な価値の分配に関わるよりも、他人の財産や幸福への侵害を阻止すること」に限られた。
スミスは、市場の機能において、「分配」の主要な役割を見い出していた。そのため、「国家」が、あえて「分配の正義」(distribution justice)を担う必要はなくなった
「慈恵」の徳性は、「正義」と対照的に、「建物を美しくみせる装飾」
スミスによれば、「慈恵」を持たない「正義」だけからなる社会は、決して「満足な状態」とは言えないものなのである。「慈恵」とは、強制力と伴う「正義」と異なり、自由の領域における積極的な価値を規定する役割を担う
「慎慮」の徳性は、「個人の健康、富、階層や評判への配慮、つまり生活におけるかれの安楽と幸福が主に頼るとみなされた対象」
「慎慮」の徳性とは、人々を「公平な観察者」とすることにおいて、大きな役割を果たすものである。「公平な観察者」には、社会の多様な価値の混交に惑わされず、自らの視点を確保するだけの「慎慮」が求められることになる。
慎慮は人間の利己的な性向によるものであり、逆に正義、慈恵は人間の利他的な性向によるもの
当時の社会発展の基礎を担うべき中・下層階級である一般の人々の、道徳的腐敗・堕落に直面して、これら三つの徳性を支える自己規制を強調する必要があった
「自己規制の、その徳性および他のすべての徳性において、すばらしくかがやかしい資質は、つねに、その行使における偉大さと着実さであり、その行使と持続のために必要な、強い適宜性感覚である。」
スミスは、「慈愛」や「慈恵」よりも、「正義」の徳性を強調した。スミスにとって「普遍的な慈愛」(Universal Benevolence)というのは、神に相応しいものであり、およそ人間には不可能な事柄であった。スミスの道徳論は、神の普遍性よりも、社会における交換関係を支えることを目的とした
あらゆる感情や行為は、社会的に是認可能な対象となるので、利己心による行為も認められる場合がある。したがって、世間一般の経済的な利益追求行為も、適宜性さえあれば認められる
第6版において、「自己統御」(self-command)の徳性を付け加えている
「自己統御」からもたらされる抑制がないのなら、人々の「全ての情念は、大抵の場合、その充足のために極端に高められる」ことになってしまう。スミスは、こうした行き過ぎを抑えるために、諸情念の「適宜性」を求めたのである。
第6版 スミスは、称賛への愛好と、「称賛にあたいすること」への愛好は区別されるべきことを、明確に述べる必要があった
第六版におけるスミスは、祖国愛や党派性の危険な面をも示すようになっていた。それは、初版の理論とは逆のものであり、初版においては、体系の精神は公共精神を促進するとして、評価されていたのである。
マンデヴィル:「私悪は公益 Private Vices Publik Benefits」
1714年「蜂の寓話」
・利己心の開放が社会形成・社会的善に対して不可欠である
・利己心を悪徳と見なすキリスト教会に対する自由信仰の主張
ハチスンの道徳論の特徴は、「理性」(reason)ではなく、「情念」(passion)を基礎とするところにある。ハチスンは、「快と苦」(Pleasure and Pain)の感覚が「理性」に依らず、直感的に存在する
ハチスンは道徳感覚が人間本性に元々備わっていると主張
→ジョン・ロックの観念連合論・人間本性論を継承
ハチスンの道徳感覚理論には、(1)利己心の否定的な扱い、(2)経験論と神学との併存、(3)道徳感情の動機づけの力に関する不十分な説明、以上の三つの問題点がある。「処世の思慮(prudence)」に代表される「下級の徳」をハチスンは説明しえない(TMS,Ⅶ.ⅱ.3.15 p.304)。しかし、これらの徳は市場経済を中心とする近代社会の原動力とも見なされうるから、是認されてしかるべきである。
ハチスンは、利他主義の道徳として「慈愛」の徳性を提起した。「慈愛」の徳性は、「体系としての人類」という普遍性を表すものであった。ハチスンは、この普遍性を表す道徳の論理と国家の法的な構成を区別した。個々人は、この普遍性の立場において、「国家」の法的な制度を道徳的に是認できるとみなされた。ハチスンにおいて、道徳的普遍性は、「制度としての国家」と異なる、「非形式的な公」を構成した。個々人には、この「非形式的な公」から、政治参加が開かれることになる。ハチスンは、道徳的普遍性の観点から、平等な個人を規定したのである。
ハチスンは、「自然状態」において平和的な生活が営めるものの、人間の不完全性から「市民政府」が作られることになると論じた。ハチスンにとって人間というのは、「堕落」や「悪徳」からどうしても免れられず、そのままでは社会の安全を保ち続けることができない存在である。そのため、人々は、「政治権力」を構成することになる。その場合も「国家」は、普遍性を体言するものではなく、法的な制度とみなされた
スミスにおいては、道徳的な主体による政治的な対話によってこそ、「公共的な判断」を形成することができるとみなされた
ヒュームとスミスは共感論に基づいて、利己心を道徳的に中立のものとし、一定の条件を満たしていれば利己心が徳になりうる
- ・諸事実と諸理論だけでは政策目標は設定できない
→政策当局が採用する善悪の判断基準(立法の規範原理)が必要
・立法者が構成員の意向を考慮するのであれば,個人の規範原理に依存する
・個人が自分や他人の行動と正確の善悪を判断する基準(個人の規範原理)は,経済的な諸事実だけでなく,日常生活において心の中で「べき」「べきでない」と考える道徳的諸事実(道徳的言明)も含まれる。
・個人の規範原理:道徳感情主義,利己主義,功利主義(社会全体の幸福を最大化),権利主義(基本的諸権利を守る)などがある。
→二十世紀の主流派経済学は,個人の規範原理を利己主義と想定した諸理論。
スミスは,『道徳感情論』において,「個人の規範原理」と「立法者の規範原理」を考察した上で,『国富論』において市場経済に関する「諸理論」を打ち立て,さらに「諸事実」の中の重要な問題に対して具体的な「政策」を提示したのであった。
法学の体系的確立
「法及び統治の一般原理」歴史的変遷
正義,行政,国家,収入,軍備
「国富論」
行政,国家収入,軍備について触れた。
重商主義批判
社会契約論を批判
「講義」でのスミスは法を経済との関係において基礎づけようと試みている。つまり経済が進歩するにつれて人々の正義感もそれにともなって進歩するというのである。このように経済が法の基礎だと考えるならば、スミスが「法」だって経済学研究に専念したこともうなづけるのである。
道徳感情論
人間の社会生活において普遍的に妥当する実践的諸価値を行為の動機分析を軸にして原理的かつ体系的に把握する試み
価値の妥当性
価値判断の成立過程を,状況(特定の事態)→動機(感情)→行為及びその結果
価値判断の構造:行為者ー観察者関係
諸価値に関する歴史的考察がない