むかし学部生の指導に使った資料です。 主にデータをとってからこれからどうするか、という点に絞って流れを説明しています。学部1~2年生向けの内容。

1. 分析のガイドライン
2013/12/24 実習資料
@cos_135

2. 分析のこれまでとこれから
• これまで受けてきた授業（研究法）
– 分析の「型」を学ぶ：「わざ」（手法）とその実例
• 模範的な例を扱う：仮説・分析・結果まで一本道
• 綺麗なデータ
• これから行う分析
– 実際のデータを相手にする：実戦と実践
• 混沌としたデータに立ち向かう：迷路を行きつ戻りつ
• 一筋縄ではいかないデータ
– 厄介な回答
– 満たされない統計分析の前提
– まがいものの結果（アーティファクト）の問題
– 事前に検討していなかった要因の影響 …などなど

3. おおまかな道筋
• 分析の準備
– コード表の作成と、データの整形
• データのパターンの確認（データの確定）
• 合成変数の作成
• 仮説の検証・探索的な分析
• 結果のまとめ、記述

4. 分析をはじめる前に
• 原則：分析結果の再現性を担保する
– データの再現性：データ加工は統計ソフト上で
– 分析の再現性：ソースコードを残す
– 解釈の再現性：コード表を作る
• ここで再現性とは、他の人がロウデータから
すべての分析結果を再現できるかどうかのこと
• 再現性がないと
– 誤り・改善点があっても発見できない
– 結果の信頼性が損なわれる

5. もうちょっと詳しく：データの再現性
• 分析手続きが同じなら、同じデータを用いれば
同様の結果が得られる
– ロウデータ raw data
• 加工していない、「生」データ（のファイル）
– ロウデータを直接編集してはいけない
e.g. 外れ値だった実験参加者のデータを削除した
• そのデータを除外することは正当化できる？
→ロウデータを削除してしまうとその判定もできない
データの改竄を疑われないように元のデータを残す
• ロウデータを統計ソフトウェア上で加工し、「分析に使うデー
タセットからは除外」というのが妥当な手続き
→元のファイルを保持したまま、加工できる
– 少なくとも加工した「手順」はわかるようにする

6. もうちょっと詳しく：分析の再現性
• データが同じなら、同じ分析手続きを用いれば同
様の結果が得られる
– 分析に用いたソースコードを残す
→SASやRのプログラム、SPSSならばシンタクス
– ソースコードを読み解くための資料を残す
• e.g. ある結果「変数disgustの平均値は3.7でした」
– 何点尺度でどういう項目で尋ねたのか？ その変数の値が高いと
どういうことを意味するのか？ 何もわからない
– 分析結果を読み解くためには様々な情報が必要
– 「コード表」として、質問項目とその説明をまとめた表を作るとよい
– 重要なのは、研究について情報を持っていない
第三者が理解できるようにすること

7. パターンの確認①
• 得られたデータ全体のパターンを把握する
– 全体の傾向を把握する
• 仮説に関連する項目の挙動を確認する
• 「変なことが起こっていないか」を確認する
– 確認を済ませ、分析に使うデータを確定する
• 記述統計的手法を用いる：
– データのばらつき：度数分布表/ヒストグラム/箱ひげ図
– 基本をおさえる：基本統計量（平均・標準偏差）
– 相関関係の把握：相関係数/散布図
⇒全体・条件別の結果を各項目について確認

8. パターンの確認②
• 具体的に何を確認するのか、の例
– 条件差について（具体例を考えてみましょう）
• 条件による差があっては困る項目
• 条件間に差がないと困る項目
– 相関パターンについて
• 合成変数にする予定の項目同士に相関はあるか？
– 実験参加者について
• 実験データの前提：実験参加者はインストラクションを理解し、
まじめに実験に参加した
→前提を満たしていない参加者はデータに含めるべきでない
• 前提が満たされているかデータを見てチェックする
– 参加者が実験の内容を誤解していないか確認
→内容チェックの項目や自由記述
– 極端な回答：全部同じ値、ランダムのような回答、矛盾する回答etc.
→除外の決め手にはならないが、手掛かりにはなる
• 正当化できる合理的な理由がなければ（どんなに怪しくても）
除外してはいけない

9. 合成変数の作成①
• 合成変数：複数の項目を統合して（e.g.平均）を
とって、作成された変数
e.g. 「『彼の行為は受け入れられる』など5項目の平均を、
『道徳的判断の厳しさ』の尺度とした」
• 心理学では研究の主要な(心理)変数について、
単独の項目だけを用いて分析することは少ない
– 心理学で扱いたい変数は様々な側面を含むことが
多いため
– 少ない要素でデータ全体を表現できた方がより経済的
• 合成変数を作成する時に有用な手法：因子分析

10. 合成変数の作成②
• 因子分析とは
– 複数の項目群からそれらを説明する「因子」を抽出
e.g. 主要五教科の成績：「理系能力」「文系能力」
• 各項目について、抽出された因子それぞれに対する「因子負荷
量」が算出される
• 因子負荷量の絶対値が高いほど、その因子による影響を強く
受けていることを意味する
• 作った変数の信頼性の確認
– Cronbachのα（アルファ）係数を用いることが多い
• Cronbach’s α：合成変数を構成する項目がどれくらい同じものを
測っているかの指標
• 高いほど同じものを測っている＝信頼性がある
→「同じ概念を測定しているので合成しても問題ない」

11. 仮説の検証・探索的な分析
• 自分たちがたてた仮説を検証するためには、
どのような分析が必要だろうか？
– どのような統計的分析が可能か
– どのような結果が出れば自分たちの仮説が支持
されたといえるのか
• 自分たちが持っているデータから、他に
どんなことがいえるだろうか？
– 探索的に色々分析してみる

12. 仮説
アイディア
分析
データの加工
結果の報告
分析のプロセス

13. 結果のまとめ、記述①
• 分析したら、結果を報告する必要がある
– 内輪での発表、論文、プレゼンetc.
• 聴衆(audience)はあなたの研究に詳しくないし、
興味もあるとは限らない
⇒「わかりやすい」報告を心がける
– 事実を報告すれば伝わる、などと思ってはならない
– 「相手はどのような知識や情報を持っているのか」
を常に考えて報告する
– 受け手がわからない時は送り手の方に問題がある、
として最善を尽くす（自分が報告する立場の時）

14. 結果のまとめ、記述②
• 結果の報告の仕方の例
× 「Ａ群とＢ群の間に有意差があった」とだけいう
× 統計ソフトの出力をそのまま持ってくる
○ 図表で表現し、必要な統計値を載せる
⇒ただしこの辺はほとんど「作法」なので、経験が必要
（公刊されている論文を参考にするとよい）
• 図表の使い分け
– 表(table)：多くの情報を載せることができるが、一見してわ
かりづらい
– 図(figure)：視認性にすぐれるが、かさばる
⇒主要な結果には図を使い、それ以外には表を使う

15. 落ち穂拾い：効率性の問題
• 作業は効率的にやりましょう（特に単純作業）
– 同じ確実性で同じ結果が得られるなら楽に早くできる方を
• Windowsのショートカットを活用する
– マウスでポチポチ→遅いうえにミスが多い
• コードの再利用
• 理想：プログラミングでなるべく自動化
→手続きが残っていれば、検証・改善がしやすい
→どんどん楽になっていく
– 作業が大量になればなるほど、少しの改善が
大きく作業時間に影響する
– 例：図表1枚作るのに、手作業で1分かかるとして
• 100枚あるとすれば100分
• データに変更があったら1から作り直し→気が遠くなる
• 全部自動化しておけばプログラムを実行するだけで済む
– 楽をするためには努力を惜しまないこと