純正律
- 3. 音の成り立ち
• 管や弦から作り出される空気の振動には、管や弦の長さに一致する波長の波の他に、その2分の1の波
(周波数は2倍)、3分の1の波(同3倍)・・・が含まれています。これを自然倍音といいます。
どの波(=倍音)がどれだけ含まれるかで音色が変
わります。
例えば打楽器はこのような倍音になりません。(楽音
とそうでない音の違い!)
分解
基本波
2倍波 オクターブ上
3倍波 オクターブ(2倍)×「3/2」
4倍波 2オクターブ上
5倍波 2オクターブ上(4倍)×「5/4」
3
続く
- 5. 純正律の音階(長調)
• 長調の和音(1、5/4、3/2)を3つ組み合わせることで、音階を得ることができます。
• これが純正律音階です。この音階で演奏すると3つの和音を美しく響かせることができるわけです。
• 隣接する2音の周波数の比をみると、9:8と10:9の2種類の全音があることがわかります。
⇒値の大きい9/8が大全音、10/9が小全音
① ② ③ ← 基準の和音
1 5/4 3/2
サブドミナント ドミナント
基準の和音の③を根音として和音をつみあげます。
<1> <2> <3> [1] [2] [3] ← もう一つ、今度は基準の和音の下(サブ)に和音を
1 5/4 3/2 1 5/4 3/2 置きます。
2/3 5/6 1 3/2 15/8 9/4 ← <3>と①、[1]と③が同じ値になるように掛算します。
4/3 5/3 1 3/2 15/8 ← 1~2に収まるように、<1>は2倍、[3]は1/2倍します。
9/8
(オクターブあげる) (下げる)
並べ替え ①から小さい順に並べ替え
① [3] ② <1> ③ <2> [2] ①’
1 9/8 5/4 4/3 3/2 5/3 15/8 2
ド レ ミ ファ ソ ラ シ ド
9/8 10/9 16/15 9/8 10/9 9/8 16/15 ← 隣接する音の比をとる
5
- 6. 純正律の音階(短調)
• こんどは短調の和音(1、6/5、3/2)を3つ組み合わせてみます。長調とは1音(レ)だけ異なる音階を得
ることができます。純正律では、長調と短調で音階がことなるわけです。
• 隣接する2音の比をみると、長調と同じく、9:8と10:9の2種類の全音があります。
① ② ③
1 6/5 3/2
<1> <2> <3> [1] [2] [3]
1 6/5 3/2 1 6/5 3/2 ← 基準の和音の下と上に和音を置きます
2/3 4/5 1 3/2 9/5 9/4
4/3 8/5 1 3/2 9/5 9/8 ← 1~2に収まるように、<1><2>は2倍、[3]は1/2倍
(オクターブあげる) (下げる)
並べ替え
① [3] ② <1> ③ <2> [2] ①’
1 9/8 6/5 4/3 3/2 8/5 9/5 2
ラ シ ド レ ミ ファ ソ ラ ①をラとすると、隣接する音の関係が長調の音階
と同じになります。
9/8 16/15 10/9 9/8 16/15 9/8 10/9 但し、ド-レが小全音、レ-ミが大全音となり、長調
と入れ替わります。
6
- 7. セント
• 純正律では周波数の比が音の関係の基本となりますが、比では、足算、引算できず、音程をイメージし
やすいとは言えません。
• 比の対数をとることで、加減算できるようにおきかえたものがセントという単位です。
• 平均律は、音階は12音あるものとしてオクターブ(1:2)を12等比分し、それを半音としました。
• セントではオクターブを1200等比分します。つまり、平均律の半音を100分割した値が1セントとなります。
比 2
平均律の半音 =100セント
平均律の全音 =200セント
X=1200logy/log2 短3度 =300セント
1/2 長3度 =400セント
(x/1200) 4度 =500セント
Y=2
5度 =700セント
1 オクターブ =1200セント
0 1200
セント
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- 8. セントで表した純正律音階
• 純正律の音階を先の計算式を使ってセントに置き換えると左下の表が得られます(小数点以下四捨五入)。
• そこから、主な2音の関係を取り出すと、右下の表になります。平均律と比べるとかなり大きな差があること
がわかります。
長調 セント 平均律
ド レ ミ ファ ソ ラ シ ド との差
0 204 386 498 702 884 1088 1200 半音 112 +12
204 182 112 204 182 204 112
小全音 182 ▲18
大全音 204 +4
短調
短3度 316 +16
ド レ ミ ファ ソ ラ シ ド
0 182 386 498 702 884 1088 1200 長3度 386 ▲14
182 204 112 204 182 204 112 4度 498 ▲2
5度 702 +2
音階の勘所 ※大全音-小全音=22セント
ソ-ラは小全音 これをシントニック・コンマと呼ぶ
長調では、レ-ミが小全音、短調では、ド-レが小全音
長三度は、小全音+大全音
短三度は、半音+大全音
8
- 9. 小全音か大全音か
• 小全音と大全音の2種の全音が存在することが、純正律での演奏を難しくしています。
• ある調の主要3和音が純正に響くように決めたのが純正律ですので、調が変わらない限り、長調、短調そ
れぞれの音階に従うことで、純正の和音を得ることができます。調が変わる場合、考慮が必要になります。
•
長調の和音と短調の和音が混在する場合の例
基本は、短調の和音(Ⅱ)のとき、レをドに対し
て小全音でとります。
)半+大
)小+大
小全音分あがる レを動かせない場合は、ラをソに対して大全
音でとります。
)小大半大 )半小大
短3度が半音+大全音、長3度が小全音+大全音
大全音分あがる になるように音程をとります。
転調する場合
属調に転調する場合は、ラをソに対して大全音でとる。
下属調に転調する場合は、レをドに対して小全音でとる。ことが基本的な対応になります。
※これで対応できないような転調を行う曲は、様式的・響き的に純正律で演奏することが相応しくない曲
といえるでしょう。(例えば、バロック時代は、通奏低音楽器をつけることが通例になります)
※セブンスや減7和音については別途考慮が必要となります。
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- 10. 歌唱と純正律
• 声の場合、楽器と異なり、特定の音程をセント単位で保つことは極めて難しいことです。
• しかし、複数の声が、純正に響く音を出すことができると、それぞれの声が、お互い助け合って、適切な
音程をより楽に出せるように感じます。
• 人間の耳は、美しい響きを聞き分けることができます。美しい響きになったとき、その音程は、純正律の
音程にそった音程になっているといえるでしょう。
• 次の音を18セント低く出そうと思って、発声することは極めて困難なことです。しかし、出すべき音が小全
音か大全音か知っていれば、それを意識せずに響きを探すより、容易に美しい響きに到達できるはずで
す。
平均律が唯一の音律でないのと同様、純正律も唯一の音律ではありません。
時代や様式とともに、良いと感じる響きは変わり、音律も変化してきました。
20世紀後半の古楽復興は、古典調律の復興でもありました。
また、バッハは、「にごり」も響きの要素として曲に生かしていたといいます。
私たちも、良い耳をもって、良い響きの演奏を目指そうではありませんか。
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