第４回詩歌トライアスロン一次選考通過作品。2017年。

1. 男性同盟
久真八志
大人の定義が同盟に入ることだとすればまだ僕は大人ではない。しかし上司に言わせれば僕
は明日大人になるらしい。同盟からの招待状によれば明日は式典だ。同盟に入れば収入が増
える、家も容易に借りられる、どんな場所にいても僕は当然という顔をして堂々としていて
よいなどの特典がある。同盟主催のボウリング大会にも出られる。賞品は妻の時間を止める
権利。ほどほどの頻度で使いないさい。そうすれば妻は若さを保てるし、僕より早く死ぬこ
とがないのです。
□空白□
と考える間
ま
に金魚鉢に金魚が詰められている。黒と金と赤と白がモザイク模様になるように、
でも、隣り合う色が同じにならないように。金魚たちはどれも身動きがとれないが、水はそ
の隙間を満たしています。更にはエラのそばをマイクロバブルが通るように仕掛けてあるの
で死にはしません。ただ口を開いたり閉じたりしているだけで。鑑賞品ですね。
金魚玉るす番ちゅうに火で遊ぶ
リーダーの定義が赤であるとすると僕はリーダーではない。赤いランドセルを買ってもらえ
なかった。いじめられるからだと母さんは言ったがリーダーである僕がいじめられるはずは
なかった。周りのやつらと同じ黒なんて
□春時雨流線型の犬もらう／耳炎の子が並んで見てる桜かな
いい人がかける青のり多過ぎる／ランドセル開けてのぞくと夏の水
わたし（略）わたしは北風を愛す／忘れたらそのままになる冬の月□
と考える間に、蛇口から手紙が届いている。僕が母さんの言いつけを破って蛇口を開きっ放
しにしていたから。でもいつまでも母さんの言いつけを守るわけにはいかねえから。だから
むしろ正しく開けてたわけ、蛇口に関しては。
□最後の泡見届けてから真っ青な海に飛び込むライフセーバー
手をつないであげると嫌な顔をする緑のおばさんの緑のこども
窓から入ったカナブン追い出せぬままに軽自動車のなかの朝焼け□
と、考える間に、水を溜めておいたことを忘れる。
□目覚めると妻は化粧を終えていて一番あかるい星の遠さよ□
と、考える、間に、はい手紙は招待状でしたので丁重にご出席のご返信をしなければ、ご芳
名を添えて。
台に立つ豪華な顔の王子さま
社会人の定義が殺すことだとすれば僕はもう社会人だ。泣くたびに母さんが僕を大声で叱る。
女の子は既に怯えていて、僕は一緒に怯えようとするが首根っこを掴まれてガラスの槽に入
れられる。出口は上しかない。僕はまだ泣いている僕を殺す。泣いていた僕の体を踏み台に
するためだ。ようやくへりに手をかけたとき、はじめて真っ青な空を見る。
妻は第二の母さんである。怯える僕を叱り、慰めてくれる。ありがとう、これでまた明日か
ら職場に行ける。僕の職場は明るいんだ。天井がなくていつも空が見える。バーベキューを
してもいい。雨が降ったら定時になるまで濡れちゃうけど。犬もいる。君、犬、好きでしょ
う？ 黒い犬ばかりでね、鼻を噛み合っている。でも妻はそんなこと知らないし教えても理
解できませんし教えたくないし知らないままの方がしあわせだし知りたくないみたいだし
僕はひとりで川に行く。
誰かのために僕が僕を殺すその誰かを選ぶ権利と尊厳が僕にはある
□でも□何回殺しても□また□泣いているんだよなあ□
妻が吐く金魚のひれが硬いのでそのうすい喉さすってやった