1. 福島県における
牛肉の安全性確保と
出荷管理の取組について
福島県農林水産部畜産課
主任主査 森口克彦

2. はじめに
 震災・原発事故後、
福島の畜産業を取り巻く現状
 牛肉の放射性物質汚染事故
 牛肉の出荷制限を乗り越えて
 安全な牛肉を生産・出荷する仕組みづくり
 取り組みの成果
 これからの福島

3. 震災・原発事故後の主な出来事
（平成２３年３月１１日以降）
 放射性物質による環境汚染（３月１２日～）
 国（農水省）から発出された課長連名通知
「原子力発電所事故を踏まえた家畜の
飼養管理について」（３月１９日）
 生乳の出荷制限（３月２１日）
 生乳の出荷制限一部解除（４月８日）
 粗飼料中の放射性物質の
暫定許容値の設定（４月１４日）
 牛肉の出荷制限（７月１９日）
 牛肉の出荷制限一部解除（８月２５日）

4. 福島県の農業の現状
 事故前と事故後を比較して
農業産出額 平22（2,330） →平23（1,851） ▲４７９億円
うち 畜産 ㉒（541） → ㉓（417） ▲１２４億円
うち 肉用牛 ㉒（155） → ㉓（110） ▲ ４５億円
 失った肉用牛生産基盤（畜産統計より）
 避難に伴う家畜の売却処分
 放射性物質の影響による牧草等の利用制限
年次 飼養戸数 飼養頭数 繁殖雌牛頭数
平成２１年 4,480 83,700 20,800
平成２２年 4,300 78,200 21,000
平成２３年 4,020 74,200 21,300
平成２４年 3,080 58,100 15,100
約６，０００頭の
和牛の母牛を
失った

5. 原発事故後の対応
 平成２３年３月１９日付け「原子力発電所事故を踏まえた
家畜の飼養管理について」の骨子
 放射性物質に汚染された飼料、水、土等を家畜が口にし
ないように屋内で飼育するよう農家へ注意喚起
１．乾牧草を給与する場合は、事故発生前に刈取
り・保管されたもののみを使用すること。
２．家畜の飲料水については、降下する粉じん等
の混入防止措置を講ずること。
３．放牧を当面の間行わないこと。

6. 放射性物質による牛肉汚染事故は
なぜ起きたのか？
 平成２３年７月８日、東京で高濃度汚染牛肉の発見
 ７月９日、牛肉汚染原因となった「稲ワラ」の発見
７５，０００Bq/kgの放射性Csを含む「汚染稲ワラ」
 震災後に起きた飼料供給ラインの麻痺
 先の見えない飼料不足
 春ワラの収穫と給与
 放射性物質に関する
情報の不足
 全国広く流通していた
粗飼料としての「ワラ」

7. 全戸緊急立入調査の実施
 汚染原因の究明と再発防止のため
、 県内の牛飼育農家全戸に緊急
立入調査を実施
 平成２３年７月１１日～８月６日
 調査人員 延べ６９０人
 対象農家 ３，４３４戸
肉牛肥育農家 ３４１戸
繁殖和牛農家 ２，６４３戸
酪農家 ４７７戸
 対象頭数 ５９，３８５頭
肥育牛頭数 ３０，０５１頭
繁殖和牛頭数 １８，８１６頭
乳用牛頭数 １０，５１８頭
◆国からの通知「原子力発電所
事故を踏まえた家畜の飼養管理
について」に基づく適正管理がな
されているかを調査
・屋内で飼っているか？
・汚染物質（雑草・土等）を口にし
てないか？
・給与飼料は事故前に収穫した
ものか？
・飼料の保管は適正か？
・汚染された水を使っていない
か？
・出荷予定はあるか？

8. 肉牛の出荷制限指示を受けて
 平成２３年７月１９日
原子力災害対策本部長（内閣総理大臣）より指示
「貴県において飼養されている牛について、当分の間、
県外への移動（１２月齢未満の牛を除く。）及びと畜場へ
の出荷を差し控えるよう、関係自治体の長及び関係事
業者等に要請すること。」
 県内肉牛生産者の混乱
先が見えない待機状態への不安
 猛暑に耐える肥育牛
出荷適期を迎えた「満肉」の牛
→ 肥育牛飼養管理マニュアルを作成
 出荷再開へ向けた条件整備
えさを控えて体重の増加を抑制
畜舎を冷やし、体温上昇によるストレスを低減
病気対策（ビタミン不足、胃もたれ、水分不足、熱射病）
事故発生防止のための観察励行

9. 福島県における
肉牛の「出荷・検査方針」の策定
 出荷再開の実現に向けた条件整備と安全管理体制づくり
◎「出荷・検査方針」の策定
・全ての農家の飼養管理を確認（適か不適か）
・全頭検査対象農家と全戸検査対象農家の２区分
・全戸１頭の確認と畜（県内で実施）
・５０Bｑ/kg以下の農家のみ県外へ
・継続的な立ち入り調査（３カ月に一度の立入調査）
・３カ月に一度、全戸１頭確認と畜・検査
 出荷牛全頭の移動・管理履歴確認
 出荷牛全頭の放射性物質検査（県内外において）

10. 安全な出荷を管理するための
仕組み（平成23年8月25日出荷制限一部解除時）
県内の牛飼養農家
計画的
避難区域
緊急時避難
準備区域
飼養管理
不備農家
その他の
農家
全頭検査対象農家
（全頭検査）
全戸検査対象農家
（初回1頭以上検査）
適正飼養管理確認
→飼養状況検査確認書
出荷調整
→ 県内と畜
精密検査
500Bq/kg＜ ≦500Bq/kg
簡易検査
≦200Bq/kg
全戸検査済農家
（初回50Bq/kg以下）
全頭検査体制整備県外と畜場
200Bq/kg≦
全戸検査済確認書
50Bq/kg以下

11. 出荷制限一部解除の指示
 平成２３年８月２５日
原子力災害対策本部長（内閣総理大臣）より指示
 出荷制限は継続、あくまでも一部解除
 「・・・・・・・・・・・。ただし、貴県の定める出荷・検査方針に
基づき管理される牛については、この限りでない。」
 農家が自由に、どこへでも、出荷できるわけではない
 県の出荷管理体制の下、条件付きで出荷を再開
 ８月２９日、全頭検査を伴う県内と畜を再開
 ９月１７日、東京食肉市場を皮切りに県外出荷を再開

12. 全頭検査体制を構築するために
 「牛肉モニタリング体制構築推進
ワーキングチーム」による出荷先情報の
収集と出荷管理
◆広域的な出荷経路と実績
◆困難を極めた出荷再開時の調整
 県外と畜場、行政機関との協議
 外部検査機関の選定と委託
 広域的な流通をコントロール
 県外での全頭検査体制を構築

13. 県内における検査体制
（モニタリングによる全頭検査）
㈱福島県食肉流通センターにて検体採取 福島県農業総合センター
分析課へ検体搬入
搬入検体の検査 サンプル調製 Ｇｅ検出器での精密検査

14. 放射性物質検査結果の推移①
（県内出荷牛）
 出荷・検査方針に基づく出荷管理の成果
→牛肉中の放射性Cs検出率が徐々に低下
 出荷再開時には約２０％と高かった検出率を克服し、
H２５．２月には０．５％まで抑制

15. 放射性物質検査結果の推移②
（県外出荷牛）
 全戸１頭検査を終えた農家から「全戸検査済み確認書」を
持って県外へ出荷開始

16.  出荷再開以降、放射性物質の検出率は、ほぼ０
放射性物質検査結果の推移②-2
（県外出荷牛）
平成２３年８月２９日の出荷再開以降、
県内外において、
新旧両基準値を超過した事例はない。

17. 「出荷・検査方針」の見直しと
出荷管理体制（平成２４年１０月１日以降）
全戸検査対象農家
100ベクレル／ｋｇ
以下100ベクレル／ｋｇ
超過
福島県内の牛飼養農家を対象とした
出荷牛の放射性物質検査体制（平成24年10月1日以降）
全頭検査対象農家
（全頭検査）
全頭処分
（市場隔離）
市場流通
県内検査
県農業総合センター
その他の農家
全戸検査済農家
（県外と畜が可能な農家）
制限区域等で
飼養されていた牛
県外検査
と畜場所管自治体
食肉卸会社
外部委託検査機関
県内と畜
出荷調整
全頭検査
飼養管理確認
（立入調査）
全戸検査済確認書
県外と畜
放射性物質
検査確認書
初回1頭目 2頭目以降
適正な飼養管理が
確認できなかった農家
全戸検査済確認書
初回検査結果が50ベクレル/kg以下で発行

18. 安全な肉牛出荷を管理するために
 パンフレットの全戸配布
食品の基準値の引き下げ（平成
２４年４月１日）に合わせ、全ての
牛に給与できる飼料の暫定許容
値も大幅な見直し
 統一された新基準値１００Bq/kg
以下の飼料を給与
 ３，０００Bq/kgまで給与可能で
あった繁殖雌牛は清浄飼料に
よる 「飼い直し」を指導
 Csの移行係数と生物学的半減
期から「飼い直し」期間を算出

19. 「飼い直し」と生物学的半減期
◎生物学的半減期とは・・・
「体内の物質濃度が半分になるための日数」で、
放射性セシウム（Cｓ）は、牛の場合 「６０日」 として考える。
（例） ３，０００ Bq/kg含む飼料 × ５kg 給与 × ０．０３８（移行係数）
= 体内の放射性Cs濃度が ５７０Bq/kg の場合
放射性Csを含まない清浄飼料で飼い直しすると
６０日後で 半分の 約 ２８５Bq/kg
１２０日後で その半分の 約 １４２Bq/kg
１８０日後で その半分の 約 ７０Bq/kg
２４０日後で その半分の 約 ３５Bq/kg

20. 血液検査によるスクリーニング
 生きたまま筋肉中の放射性Csを推定し、出荷牛から
高濃度の放射性Csが検出されないよう事前に確認
◎検査精度を高めるため、700ccマリネリ容器を用いて分析
※農業総合センター畜産研究所に設置されたGe半導体検出器
マリネリ容器 U-8容器

21. 血液中と筋肉中の放射性Cs濃度
（福島県農業総合センター畜産研究所の研究成果から）
筋肉中の放射性Csは
血液中の３０～倍程度
個体差を考慮し
６カ月程度を目安に
血液検査を実施
血液中の放射性Csは
筋肉よりも早く減衰
血液検査結果を考慮して
牛肉中に放射性Csが
検出されないレベルまで
飼い直しを指導
【概念図】

22. 未だ回復しない市場評価
～厳しい風評～
 原発事故以降の牛肉価格の推移
和牛去勢平均 （２月）
円／kg(1頭あたり千円)
Ａ５○ 福島1,849円(832)
Ａ５● 市場2,040円(918)
差 ▲ 191円( 86)
Ａ３□ 福島1,459円(657)
Ａ３■ 市場1,637円(737)
差 ▲ 178円( 80)

23. 肉用牛生産の復興に向けて
 福島県産牛の信頼回復のため、
「検出せず」を積み重ねる努力
 消費者目線で
「安全・安心」を確保
 耕作地の除染
 放射性物質検査体制の維持
 迅速な情報発信

24. 福島県のホームページから
「ふくしま 新発売。」 情報発信中

25. 応援してください!!
福島ブランドの畜産物

26. おわりに
 今後も徹底した
出荷管理体制を維持
 生産環境の整備
 「安全・安心」に関する
情報発信
 消費者ニーズを捉えた
美味しく、ヘルシーな
農畜産物の生産と供給
ご清聴ありがとうございました。