個人研究の発表です。

1. 統一法と国際私法
東京地裁平成１１年１０月１３日判決
（平成９年（ワ）第１１６２９号：損害賠償請求事件）
（判時１７１９号９４頁、金判１０９３号４５頁）
発表者 加澤 尚樹

2. １事実の概要
２判旨
３解説
４私見
５参考文献
今日の発表の流れ
ー1ー

3. 1、事実の概要
２

4. A（買主）日本
（シネックス・ジャ
パン・コーポレー
ション）
B（売主）米国
（シネックス・インフォ
メーション・テクノロ
ジーズ・インコーポレイ
テッド）
売買契約
（コンピューター及び
備品５カートン）
X(原告)
保険会社
（住友海上保険会
社）
Y(被告)米国
航空会社
（ノース・ウエス
ト・エアラインズ・
インコーポレイテッ
ド））
貨物海上保険契約
C（契約運送
人）
米国
（ユニスター・
エアカーゴ）
D（Cの代理人）米国
（ユーピーエス・ヤマ
ト・パートナーシッ
プ・ユーエスエー）
利用運送条約 航空運送状
実行運送契約
保険金全額及び利息の
支払い請求
訴えを提起！！
３

5. A（買主）日本
（シネックス・ジャパン・コーポレーション）
B（売主）米国
（シネックス・インフォメーション・テ
クノロジーズ・インコーポレイテッド）
平成８年２月ごろ、A(買主)はB（売主）から、
コンピューター及びその備品５カートン分を購入し、代金を支払った。
売買契約の締結
売買契約
A社 B社
４

6. 利用運送契約の締結
B(米国)
（シネックス・インフォメーション・テクノロジーズ
・インコーポレイテッド）
D（Cの代理人）米国
（ユーピーエス・ヤマト・
パートナーシップ・ユーエス
エー）
同月13日BはCの代理人であるDと、本件製品につき、荷送人をB荷受人をAとして
米国のサンフランシスコから日本の成田空港まで運送する旨の運送契約を締結。
(本件第一運送契約)
同日Dに対し、本件製品を引き渡すとともに、B社よりC社を代理して発行した航空運送状
を交付した。
(本件第一運送契約)
荷送人B
荷受人A
B社 D社
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7. 実行運送契約の締結
D（Cの代理人）米国
（ユーピーエス・ヤマト・パートナー
シップ・ユーエスエー）
Y(被告)米国
航空会社
（ノース・ウエスト・エア
ラインズ・インコーポレイ
テッド）
(本件第二運送契約)
荷送人C
荷受人D
Y社
D社
同日、D社はC社を代理して、Y社(被告)と、本件製品につき、荷送人をC社、
荷受人をD社として、米国のサンフランシスコから日本の成田空港まで運送する
旨の運送契約（本件第二運送契約）を締結し、Y社に本件製品を引き渡し、
Yより航空運送状の交付を受けた。
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8. 本件製品の紛失
Y(被告)米国
航空会社
（ノース・ウエスト・エア
ラインズ・インコーポレイ
テッド）
Y社(被告)は、本件製品受領後の保管、飛行機
への搬入作業又は輸送の際、本件製品５カートンの
うち、１カートン(中身はコンピューター等で、数量合計
４９１個、重量合計１３８kg、価格合計９万１８０１・
１３米国ドル)を紛失した。
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9. 保険契約の締結等
A社X社
貨物海上保険契約
X社(原告)は、本件製品の運送に先立ち、A社との間で、
本件製品を目的とし、保険額を３５９３万7千円とする
貨物海上保険契約を締結した。
X(原告)
保険会社
（住友海上保険会社）
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10. X社(原告)は、平成８年４月２日、本件保険契約に基づき、
A社に対し、１０９９万５６０６円を支払い、Ｙ社に対して
有していた不法行為に基づく損害賠償請求権を代位取得した。
そしてXはYに対して不法行為に基づく損害賠償として
保険金全額及び利息の支払いを求めた。
事件当時日米両国間では「国際航空運送についてのある規則の
統一に関する条約」（１９２９年締結旧ワルソー条約）
が適応されており、条約２２条２項に基づく運送人の責任権限が
本件に適用されるか否かが問題となった。
実質法上の論点は日米両国が批准する(２０００年締結
モントリオール条約)で立法的に解決された。
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11. 今回のポイント！！
・ポイント①
本件において統一法(旧ワルソー条約)が、
直接適用されるか
間接適用されるか
・ポイント②
その結果によって解釈に法廷地法か準
拠法どちらを適用するのか
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12. ２、判旨
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13. 一部認容、一部棄却
 XはYに対して『被告は、原告に対し、１０９９万５６０６円及びこ
れに対する平成８年４月３日から支払済みまで年５分の割合による
金員を支払え。』と請求。
 この請求に対して判決は、
[主文]
一
被告は、原告に対し、３２万１７３３円及びこれに対する平成8
年４月３日から支払済みまで年５分の割合による金員を支払え。
二
原告のその余の請求を棄却する。
三
訴訟費用はこれを１０分し、その１を被告の負担とし、その余を原告
の負担とする。
四
この判決は、仮に執行することが出来る。
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14. 旧ワルソー条約の適用について
①本件第一運送契約、本件第二運送契
約各契約の法律関係は、
それぞれ出発地を米国内、到着地を日
本国内とする航空機の貨物運送契約で
あり、両国は旧ワルソー条約の締結国
であるから旧ワルソー条約が適用され
る。
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15. ②そして２１条
『被害者の過失が損害の原因となった
こと又は原因の一部となったことを運
送人が証明したときは、裁判所は、自
国の法律の規定に従い、運送人の責任
を免除し、又は軽減することができ
る。』と規定
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16. ・また、２５条１項において、
『運送人は、損害が、運送人の故意に
より生じたとき、又は訴えが係属する
裁判所の属する国の法律によれば故意
に相当すると認められる過失により生
じたときは、運送人の責任を排除し、
又は制限するこの条約の規定を援用す
る権利を有しない。』と規定している。
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17.  ２１、２５条一項を見ると、同条約は、
法廷地の法律に従って判断すべき場合
があることを当然に予定しているもの
といえる。
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18. ③
また、旧ワルソー条約３２条本文は、
『運送契約の約款及び損害の発生前の特
約で適用すべき法律を決定し、又は裁判
管轄に関する規則を変更することによっ
てこの条約の規定に違反するときは、無
効とする。』と規定しており、
仮に当事者が準拠法について合意しても、
同条約の規定に違反する限り無効とする
こととしている。
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19.  旧ワルソー条約の趣旨、全体的な規定内
容等に照らせば、同条約は同条約１条及
び２条に該当する国際航空運送について
直接適用されるものと解される。
（直接適用）
 本件について旧ワルソー条約を適用する
に際しては準拠法である米国における解
釈に従うべきである旨のYの主張は採用
できない。(法廷地法適用)
 よって本件は法廷地国際私法を介さずに
統一法を直接適用とする。
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20. ３、解説
 統一法と国際私法
統一法は、主に万民法型統一法と世界
私法型統一法がある
万民法型統一法 世界私法型統一法
自国法を温存しながら渉外的生活関係
についてだけ統一法を作るという考え方
（メリット）諸国の利害対立を抑える。
(デメリット)各国の法の違いから生じる
問題発生を取り除くまでには至ってない。
各国の国内法をも含めて全面的に法を
統一するという考え方
（メリット）適用される法規範性が明確
（デメリット）各国の経済的利益や法制
の違いから条約加盟国が限定されてし
まう。
本件旧ワルソー条約は万民法型統一法に該当
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21. 「統一法と国際私法」の問題
①法廷地国際私法を介さずに統一法を直接適用
②法廷地国際私法による準拠法選択を介して統一法を間接適用
重要論点
（課題と現状）
直接適用
渉外取引規律するため国際取引を念頭に世界共通の統一法を多くの分野で
作成して直接適用を拡大し、国内取引を念頭に作成した国内法の介入を
減じることが望ましい。将来的には国際私法が消滅し統一法のみ存在する
世界も考えられるが、現状はこれに程遠い。
間接適用
統一法の適用範囲以外の事項は従来どおり間接適用されており、その領域の
方が大きい。国際私法も国内法なので統一法の進展を阻害する介入は控える
べきだが、間接適用が妥当な局面もある。
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22. 問題例
①航空運送：直接適用で異論な
し
②海上運送：国際海上物品運送
法で学説対立
③1980年ウィーン売買条約：１
条（１）（b）で学説対立
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23. 本件責任権限と責任限度額
まず本件航空運送契約は利用運送契約と実行運送契約の２つの契約関係に
基づくものである。
旧ワルソー条約では18条１項で「運送人は、託送手荷物又は貨物の破壊、
減失又はき損の場合における損害については、その損害の原因となった
事故が航空運送中に生じたものであるときは、責任を負う。」と規定。
運送人の責任を広く認める一方、、、、、
同条約22条2項本文で、その場合の「運行人の責任は、1キログラムについて
250フランの額を限度とする。」と運送人の責任限度額を制限する旨を規定。
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24. 上記の規定の「運送人」がC(契約運送
人)のみを指すのか、Y（実行運送人）
のみを指すのか？
同条約には明確に定められていない。
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25.  ワルソー条約には、、、
・同条約１条２項
当事者の約定を基準として、出発地及び到達地がそ
れぞれ別の締約国の領域にある運送などに適用され
る
・同条約３条１項・４条１項ないし３項・５条１
項・６条ないし８条
運送人または荷送人は、運送証券を作成、交付しな
ければならない
・同条約３条２項ただし書・４条４項にただし書・
９条
運送証券の交付がない場合などには、運送人はその
責任を排除または制限する同条約の規定を援用する
権利を有しない旨を定めているところ、
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26. ・これらの規定は、同条約が定める「運送人」を、原則
として、荷送人と直接運送契約を締結した本件C契約運送
人を指すとしたうえで、
本件において考えると、、、、
①利用運送契約と実行運送契約が、いずれも同一の出発
地から同一の到達地まで運送する旨の契約であって、
同一の日付で締結されていること、
②利用運送契約に基づく航空運送状には、
最初の運送人がYであること、Yの航空便で運送されるこ
とに加え、実行運送契約に基づく航空運送状の番号が記
載されていること、さらに、実行運送契約に基づく航空
運送状に添付されていることなどを認定し
このような事情が認められる場合には、
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27.  旧ワルソー条約が、
③二人以上の運送人が相次いで行う航
空運送の場合において、当事者が単一
の取り扱いとしたときは、単一の契約
の形式によると一連の契約の形式によ
るとを問わず、同条約の適用上不可分
の運送を構成するものとみなされる。
（同条約１条３項前段）
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28.  ④当事者間において、利用運送契約と
実行運送契約とを単一のものとして取
り扱う意思があったものといえる。
 よって、実行運送人であるYも、旧ワ
ルソー条約所定の運送人の責任制限を
受けるものと解するのが相当である。
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29. ・本件ではさらに、責任限度額の金の
換算方法として、最終公定価格による
べきか、自由市場価格によるべきかが
争われている。
・責任限度額の換算基準として旧ワル
ソー条約がポアンカレ・フランを採用
・旧ワルソー条約成立当時の国際通貨
制度、その変遷経緯を認定したうえで
金の最終公定価格を責任制限額の換算
基準とすべきであるとした。
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30. ４、私見
 本判決は、統一法と国際私法の問題で
ある利用運送契約のほかに実行運送契
約が締結されることが多い航空運送に
おいて、具体的事情によっては旧ワル
ソー条約上の運送人の責任制限に関す
る規定が実行運送人にも適用されるこ
とを認めるとともに、責任制限額の換
算基準やワルソー条約の直接適用の可
否について判断した少ない裁判例とし
て先例的価値を有するものと思われる。
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31. ５、参考文献
 石黒一憲『国際私法（第２版）』（新世社）（２
００７）
 曽野裕夫「CISGの締結手続と国内的実施」『国際
私法年報』（信山社）１２号２ー２７頁
 小塚荘一郎『ジュリスト』１１８９号１０７ー１
１１頁
 高桑昭『国際商取引法（第３版）』(有斐閣２０１
１）
 『判例時報』１７１９号９４頁
 『金融・商事判例』１０９３号４５頁
 久保田隆「(18)統一法と国際私法」桜田嘉章・道垣
内正人編『国際私法判例百選（第二版）』（有斐
閣、2012）３８−３９頁 30