政経たん｜宗教と近代科学の関係およびその現代的意味～近代科学と宗教は本当に対立していたのか？～
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2016/1/16に開催された「第二回学術たん勉強会」にて、政経たんが発表された内容です。「科学」というものが「宗教」主にキリスト教とどのような関係にあったのかを、科学がこれまでたどってきた歴史を振り返りながら紐解いていきます。
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政経たん｜宗教と近代科学の関係およびその現代的意味～近代科学と宗教は本当に対立していたのか？～
- 5. 過去の学者はどのような認識で あったか？① • 「それら（イドラ）はすべて、 堅くかつ厳しい決意を以て、 拒まれ退けられねばならず、 知性はそれらから完全に解 放され浄められねばならな い。従って諸学に基礎をお く人間の王国への道は、他 でもない「幼児のごとくなら ずはこれに入ること能わず」 の、天国への道なのであ る。」 ノヴム・オルガヌム より • フランシス・ベーコン （イギリス1561~1626）
- 6. 過去の学者はどのような認識で あったか？② 「～そしてブルジョワジーは、そ の工業生産の発展のために、自 然物の物理的性質と自然力の 活動様式を突き止める科学を必 要とした。しかるに、科学は、教 会の賤しい侍女であって、信仰 によって定められた限界を超え ることは許されなかった。従って、 それは科学といえるものではな かった。いまや科学は教会に反 旗を翻し、ブルジョワジーは科学 を必要としてこの反逆に加担し た。」 空想から科学へ より • フリードリヒ・エンゲル ス（1820~1895）
- 10. ヘレニズムの知の巨人たち • ソクラテス（BC469?~BC399） • 「無知の知」で有名である。 • 彼自身は著作を遺さなかった。今ある「弁 明」「クリトーン」などは、弟子とされる人た ちが書き記したものである。彼自身も、特に弟子を 取らず、誰とでも会話を試みたとされる。 • 彼は「アレテー」という、「良い物」「善」を対話に よって洗い出すことに血道を上げ、それこそが人 生の目的であると説いた。
- 11. ヘレニズムの知の巨人たち • アリストテレス （B.C.384~322） 師匠プラトン（左）とともに 著作は多岐にわたる • 政治学（法学・政治学） • ニコマコス倫理学（経済学⊂ 倫理学） • 動物誌（生物学） • 自然学（物理学・天文学） • 霊魂論（認識論） • 形而上学 • ほか多数 アレクサンドロス３世（アレクサ ンダー大王）B.C.356~B.C.323 の家庭教師としても有名
- 13. 古代ギリシアの叡智の系譜 • 今のトルコから東はアフガン、西はエジプトまで統治し ていたアケメネス朝を倒したアレクサンドロス３世は、 B.C.３２３に急死した。それによりアレクサンドロス帝国 は３分割。今のイランをセレウコス朝が支配。 • のちにアルサケス朝パルティア、ササン朝と王朝が変 わるが、ヘレニズム（古代ギリシアの叡智）は受け継が れてゆく。（ササン朝のシャープール１世がシャープー ル学院を建設） • 欧州にもヘレニズムの影響は残るが（アウグスティヌ ス、ボエティウスらはプラトンの影響を受けたとされる）、 比較的中東地域で積極的に学ばれる。
- 14. 補説：アレキサンドリア図書館 • （補説とするには大きすぎるが）アレクサンドロス3 世の死後、三分割されたプトレマイオス朝エジプト のプトレマイオス1世によって建設された。 • プトレマイオス朝が滅んだ後も、ローマ帝国の庇 護の下に置かれた。ヘレニズムの叡智の発展に 大きく寄与した。 • のちにキリスト教徒によって破壊された。 • これは決して「宗教による科学に対する破壊そのもの ではないか？」と思われるかもしれないが、当時の彼ら は極めて未開かつ蒙昧であり、「科学だから」というより 「異教徒のものであるから」という側面が大きいと思わ れる。
- 15. イスラム圏でのヘレニズム • 知恵の館（バイト・アル＝ヒクマ الحكمة )بيت • アッバース朝の７代 目カリフ：マアムーン がシャープール学院を 模して８３０年にバグ ダッドに建設。 ・民族や宗教に関係なく、多様な人々が行き交 う知の拠点として、隆盛。古代ギリシアの学術 書をギリシア語、シリア語からアラビア語に翻 訳。
- 18. ここまででいえること • 近代科学を遡って行くと、古代ギリシアまで遡るこ とが出来る。 • それがアレクサンドロス３世の東征で、ペルシア地 域に波及した。 • その後その地域の王朝の庇護のもと、イスラーム 化した後も古代ギリシア哲学に由来する科学を、 積極的に研究・発展させていた。 • 欧州でのルネサンスの基層をなした→今後説明し てゆく。
- 19. ルネサンスと云っても・・・？ • いわゆる「ガリレオ・ガリレイ」らに代表されるような、 １５世紀ごろのルネサンスより前になされた「１２世 紀ルネサンス」に焦点を当てる。 • 地中海貿易の興隆により、東方の進んだ文化・学 問が流入。当時のイタリアはさまざまな宗教・民族 が入り混じった、商業都市が多数作られた。 • 一部は中東を経ずに流入した古代ギリシアの文献 あったが、多くはアラビア語やシリア語の文献がラ テン語に多く翻訳され、１２世紀頃にすでに盛んに 読まれていた。
- 25. テーマ２：現代社会で宗教は不 要である • （今までの話はよくわかったが）それでも宗教は現 代でも必要なのか？（意識しない）むしろ害悪であ るとすら思える。 • 科学があるから、啓蒙・伝道することが目的の宗 教は不要ではないか？ • 単純に関心がない、興味が無い。 • 道徳を説いてきてうざい。 →ひとつひとつ検証を行う
- 29. 宗教の現代的必要性① • 神や宗教なしで道徳や倫理を説くことは、可能で はある。しかしそれを説くための「権威（後ろ盾）が ない」ので、了解してもらうのが極めて困難になっ てくる。 • 「権威に訴える論証、すなわち詭弁ではないか」と 云うかもしれないが、モーセの十戒をはじめとする 戒律を否定できるほど、我々は道徳的存在として 足りえているのか？とよく自問していただきたい。 • それでもいやなら、いろいろな戒律を公権力によ る”実力装置”を伴って実行するほかないが、窮屈 な世を招くことにならないだろうか（敷衍すれば一 種の「衆愚政治」を招く）。
- 33. 補説：ISILについて • 彼らも「イスラム法の完全な実施」を掲げているが、か なり都合よく解釈されている筋が多い。 • 例）イスラーム法で禁じられている火葬を（しかも火刑） を強引に決行（彼らなりに火刑の対象は救われないと 思い込んでいるから問題ないともしている）。 • 例）クルアーンにも「同害復讐法」を示唆する項目はあ り、彼らの行動はそれを典拠にしているとする解釈が ある。しかし該当の項目の後、「命には命を，目には目 を，鼻には鼻を，耳には耳を，歯には歯を，全ての傷 害に同じ報復を。しかし報復せず許すならば，それは 自分の罪の償いとなる。（クルアーン第５章第45節）」と あり、「復讐はもちろんしないほうが良い」という、復讐 より慈悲を推奨する項目がある。
- 34. ここまでで云えること • 現代社会の良い点は、あらゆる学問・科学・哲学 が神や宗教を捨象して語れるようになった点であ る、ということである。しかし、それは極めて困難で ある。 • 日々の生活レベルにおいては、まだ宗教というも のが深く根付いている。ゆえに、その功罪はまだ あるといえる。 • 悪用する人間はいるので、まだ宗教に関する知識 や理解を深める必要は、すくなからずある。
- 35. おわりに • この一連の講義は、「宗教と科学の立ち位置」を洗 い出し、かつ整理する点に主眼をおいた。 • 後半に行くに従って、個人的な意見を少なからず 含む点があったことを、ここに言明しておく。典拠 や引用にウソはないので、それだけはご承知願い たい。 • しかし誤解がある可能性はあるので、意見や質問 などを賜れば、存外の喜びである。
- 36. 参考文献 • 西アジアとインドの文明 岩村忍 講談社学術文庫 1991年 • 医学の歴史 梶田昭 講談社学術文庫 2003年 • 魔術から数学へ 森毅 講談社学術文庫 1991年 • 物理学とはなんだろうか 朝永振一郎 岩波新書 1979年 • 西アジアの歴史 児玉新二郎 講談社現代新書 1978年 • 中世シチリア王国 高山博 講談社現代新書 1999年 • 哲学大図鑑 ウィル・バッキンガム 三省堂 2012年