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市町村合併後の広域化した
地方中枢都市の地方創生戦略
静岡県浜松市を事例に
駒澤大学 長山ゼミナール
目次
序章
第1章 浜松市の概要
第2章 日本的シリコンバレーモデルの形成条件
-浜松地域におけるライフフォトニクス・イノベーションの事例研究-
第3章 コネクターハブ企業の企業家に関する考察
第4章 地方中枢都市におけるコンパクトシティの研究
第5章 市町村合併後の「隠れた」中山間地域の再生
第6章 創造都市概念の整理
終章
序章
日本創成会議・人口減少問題検討分科会
「ストップ少子化・地方元気戦略」(増田レポート)
→東京一極集中問題と人口減少
「消滅可能性都市リスト」
→「896の市区町村」が消滅の恐れ
「まち・ひと・しごと創生本部」
「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」
①「東京一極集中」の是正
②若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現
③地域の特性に即した地域課題の解決
「まち・ひと・しごと創生総合戦略」
①地方地域産業の競争力強化による雇用の創出
②地方移住の推進・企業の地方拠点強化・地方大学の
活性化
「まち・ひと・しごと創生総合戦略」
まち
地方創生
ひと しごと
「まち・ひと・しごと創生総合戦略」
ひと
地方創生
まち しごと
<しごとの創生>
目標:地方のしごとをつくり、安心して働けるようにする
人の呼び込みによるしごとの創出
↓
地域産業の強化による地域イノベーション
Or
中核的企業の創出
<しごとの創出>の問題点
地域イノベーションの問題点
→産業クラスター政策
中核的企業の創出の問題点
→新規に生まれるメカニズムが未確立
<まちの創生>
目標:時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と
地域を連携する
コンパクトシティ+ネットワーク
↓
連携中枢都市圏
<まちの創出>の問題点
地方中枢都市圏の問題点
→平成の大合併により、広域となった地域
テーマ
「市町村合併後の広域化した地方中枢都市における
地方創生戦略」
浜松市へ
浜松市
<しごとの創生>
既存の主要産業のイノベーション
コネクターハブ企業の存在
→可能性の模索
<まちの創生>
連携中枢都市
→実態調査
問題意識の解決・提案
「市町村合併後の広域となった地方集中都市における地方創生戦略」
<ひとの創生>
<しごとの創生><まちの創生>
1章 浜松市の概要
合併後の浜松市
②
①
③
浜松市の区別地図浜松市の特性別ゾーンの位置
面積・人口
• 面積:155,806㎢
• 人口:808,959人(平成27年度 4/1現在 全国16位)
• 浜松市は静岡県に位置する全国市町村第2位の面積を誇る政令指定都
市である。平成17年7月1日、浜松市、浜北市、天竜市、舞阪町、雄踏町、
細江町、引佐町、三ヶ日町、春野町、佐久間町、水窪町及び龍山村の12
市町村が合併し、新しい浜松市となった。浜松市は合併により、JR浜松駅
を中心とした都市的機能が集積する都市部、農業が盛んな平野部、広大
な森林を擁する中山間地域、さらには漁業が営まれる沿岸部までと全国
に類を見ない多様性を有するようになり、JR浜松駅を中心とした都市機能
が集積する都市群、農業が盛んな平野部、広大な森林を擁する中山間
地域で構成されている(図1-1)。また、「やらまいか精神」に代表される企
業城下町としても知られ、工業都市としての一面を有するなど地域の多
様性を有している。このことから浜松市は「国土縮図型都市」とも言われ
ている。2005年に12市町村が合併し現在の浜松市となり、2007年4月に
政令指定都市となった。
• 浜松市の人口は808,952人と全国の市町村の中でも16位となってお
り、非常に多いことが分かる。しかし、1980年以降増加傾向にあった
人口推移も2005年にピークを迎え、それ以降減少傾向へと変化した。
社会動態の推移を見ると、直近5年は2011年を除き転出者数が転入
者数を上回る状況となっている。将来人口推計によると、浜松市の
人口は、2010年の調査まで増加し、2015年調査から減少すると推計
されていた。しかし、2008年を境に浜松市の雇用環境は急激に悪化
し、浜松市外への転出が増加したことにより、想定よりも早く人口減
少に転じたものと考えられる
中心市街地の現状(1)
浜松市の社会動態
経済研究所から引用
労働者流出の進行
リーマンショック後の為替レート
開廃業率
多くの企業が海外へ
雇用の場の海外移転は増加傾向
製造業事業所数全体と中小大企業の推移
0
100
200
300
400
500
600
700
800
900
1000
平成17年 平成18年 平成19年 平成20年 平成21年 平成22年 平成24年
中小企業 大企業
• 楽器・音楽関連産業、自動車関連産業など製造業が盛んな浜松
市は「ものづくり都市」としても知られている。産業別従業者構成比
は製造業が25%を占めていて次点に卸売業・小売業が19%と続い
ている。しかし、製造業事業所数は1990年以降減少傾向にあり、20
年間でおよそ1500か所の事業所が減った
• 減少の一因として静岡県西部地域の企業の多くが海外へと展開を
始めたことが考えられるだろう。1993年に比べおよそ3倍の企業が海
外への展開を始めた
全国市町村別農業産出額
浜松市は第4位
後継者不足
• 現在の担い手は60歳以上が大半を占めている。
• 中山間地域、平野部、三方原台地、沿岸部といった様々な地形を活
かして、浜松市の農業は形成されている。生産基盤の整備がされて
いるので、全国的にも特色ある農産物が生産され食料供給だけでな
く、農業・農村の持つ多面的機能にも効果を発揮している。全国市
町村別農業産出額からわかるように全国4位の農業産出額を誇って
おり、浜松市を代表する産業の一つである
• しかし、農業の担い手は60歳以上が大半を占めていて、全国同様、
後継者不足が課題となっている。
第2章
日本的シリコンバレーモデルの
形成条件
-浜松地域におけるライフフォトニクス・イノベーションの事例研究-
Formation condition of the Japanese
– style Silicon Valley model Case study of Life photonics Innovation by Hamamatsu area -
31
シリコンバレーとは
イノベーションが生まれる代表的な地
通称、IT(情報技術)産業のメッカ、ハイテク・ベンチャービジネスのメッカといわ
れる
スピンオフ起業や大学発ベンチャーから生まれたスタートアップスが多い
ベンチャーキャピタルの存在
学習コミュニティの形成
• 自己増殖的・持続的にスタートアップや新産業が生まれている
• ➡シリコンバレーモデルとして確立
32
シリコンバレーモデル
イノベーションを目指す人材の集積とその人々の主体的な交流による人的ネッ
トワーク(主体)
産学連携の熱心な研究型大学の存在とそこからのイノベーションと起業のため
の知識・人材の供給(研究・人材インフラ)
企業のアーリー段階から投資をおこなってくれるベンチャーキャピタルの集積
(金融インフラ)
多様な専門家によるビジネス支援サービスの集積(ビジネス支援インフラ)
起業家精神や失敗を受け入れる寛容な地域社会の用意(社会文化インフラ)
これらの相互作用によって新しい技術や数多くのアイデアが持続的に
生まれている
33
90年代以降、日本へシリコンバレーモデルが輸入される
→しかし、アメリカと日本の制度的と違いによって適応は困難
【3つの視点からみた日本とアメリカの制度的違い】
(労働面)日本的経営である年功序列制賃金・終身雇用・組合
(金融面)日本 :間接金融(リスクマネーの供給が困難)
アメリカ:直接金融(ベンチャーキャピタルからの投資)
(技術面)日本:日本型雇用慣行の下で働くナレッジワーカー(知識労働者)は企業内
での知識交流の留まり、他企業でも通用する本質的な知識の形成が弱
い
アメリカ:専門分野の一般的知識を重視。企業組織を超え知識の持ち運びができる
34
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55
第3章
「コネクターハブ企業の企業家に関する考察」
―静岡県浜松市を事例に―
A Study on the entrepreneurial connector hub companies
―A Case Study of Hamamatsu, Shizuoka―
56
論文の流れ①
「地域経済の活性化に向けたプロセス」
地域内に需要を
持ち込む企業
地域外から
資金の獲得
地域内消費向け
企業
【「地域型」
企業】
地域の資金の
好循環
地域経済の
活性化
コネクターハブ企業
57
論文の流れ②
「地域経済におけるコネクターハブ企業の新たな視点」
① 地域外から需要を“持ち込む”企業
(=従来のコネクターハブ企業)
一方、
• 地域内外の情報の核となる。
• 地域にイノベーションを生み出す。
② 地域に新たな需要を“創出”する企業
(=新たな視点のコネクターハブ企業)
表面上、
「企業間のネットワーク」だが、
その背景には、
地域に埋め込まれた“企業家”同
士の
「人的なネットワーク」が存在す
る。
58
論文の流れ③
「コネクターハブ企業の企業家像の解明」
地域経済の活性化
⇒コネクターハブ企業の出現
↓
背景⇒企業家同士の「人的なネットワーク」
◎「コネクターハブ企業の“企業家”にはどのような特徴があるの
か??」の解明を行う。
59
第1章
先行研究レビュー
60
1-1 需要を地域に持ち込む企業の存在
“コネクターハブ企業”とは、、、
• 地域の取引の中心になってい
る。
⇒ハブ機能
• 地域外との取引関係がある。
⇒コネクター機能
↓
ネットワーク形成の機会
図)中小企業庁(2014)より
61
1-2 地域に需要を持ち込む企業が事業活
動を行うために必要な条件(環境)
① クラスターの形成
クラスターの形成
地域の競争優位性
◎市場で優位な製品を供給できる
② 「柔軟な専門家」
62
常に変化する需要に
適切に対応する。
生産コストの削減
集積が経済的な存在
として継続する。
1-3 地域に需要を持ち込む企業が事業活
動を行うために必要な能力
63
【地域内
(集積内)】
供給サイド
【地域外】
需要サイド
地域外にどのような需要
があるのか??
情報の非
対称性
◎「生産情報」と「需要情報」を保有していること。
1-4 集積内における地域のイノベーション
従来のコネクターハブ企業の役割
※目的:地域経済の活性化
⇒仕事を地域に“持ち込み”、“割り振る”こと。「地域内分業」の中核と
なる。
↓
「地域経済」
⇒新たなイノベーションを生み出す場である。
↳注目!!
◎従来のコネクターハブ企業には“イノベーション”の視点が欠けてい
る。(⇒集積によるイノベーション)
64
1-5 集積内の企業家の存在
目に見える企業間のネットワークや、関係性
Ex…
• 企業同士の競争関係
• 受発注関係etc…
↓
◎背景には地域(集積)内における企業家同士のコミュニティー(情報
交換の場)が存在する。
65
1-6 リサーチクエスチョンの設定
◎企業間のネットワーク形成の背景には地域
(集積)内における企業家同士のコミュニティー
(情報交換の場)が存在する。(前スライド)
↓
「地域内の企業間のネットワークの背景にある企
業家同士のコミュニティーを形成する“企業家”
自身の特徴について考察する。」
66
第2章
事例研究
コネクターハブ企業ヒアリング調査
67
2-1 ヒアリング調査方法
地域の“中核企業”に注目。
① 取引の中心になっている企業
② 地域内連携(産学官等)による新製品の開発の中心的企業
〈調査対象地〉静岡県浜松市
↓
◎これら企業の事業活動や企業同士のネットワークを可能にした“企
業家”自身の背景や特徴を調査する。
68
2-2.1 地域に需要をもたらすコネクターハブ
企業に関するヒアリング調査
株式会社池戸熔接製作所 橋本エンジニアリング株式会社 原田精機工業株式会社
事業内容
機械設備製造
・搬送機器
・環境機器
・各種熔接
・各種板金
・試作部品製造
・DC金型製造
・プレス金型製造
・治工具製造
・非破壊検査事業
輸送用機器、宇宙航空機器
等の精密部品の設計・開発・
製造
取引関係
「地域内異業種ネットワーク」
⇒共同体として、域外からの
受注機会を確保し、地域内
の異業種間にわたるネット
ワーク内に仕事を外注してい
る。
「MC-X」(車椅子)開発プロジェクト
⇒橋本エンジニアリングをプロジェ
クトリーダーとして、浜松地域内
の中小企業が設計・デザイン・開
発・製造を一貫して行い、中小企
業の技術により最終製品の製造
を行う。
地域外の大企業(三菱重工
など)からの直接的な受注関
係にあり、地域内に仕事の
発注も行っている。
69
2-2.2 地域に需要をもたらすコネクターハブ
企業のヒアリング調査結果①
【株式会社池戸熔接製作所】
代表取締役社長 池戸孝治氏
◎「地域内異業種ネットワーク」の構築
↑
• 池戸氏自身と約800人の地域内外の企業家・技術者の人脈ネット
ワーク(浜松商工会議所青年部会への参加)
⇒多業種にわたる業界の知識の蓄積へ
70
【橋本エンジニアリング株式会社】
代表取締役社長 橋本裕司氏
◎地域内中小企業の技術の組み合わせにより、新たな製品の開発プ
ロジェクトを推進。
↑
• 経営者としての意識改革。
• 以前の下請け中心の事業活動に危機感を感じる。
• 同じ大企業の下請け同士の技術の把握。
71
2-2.2 地域に需要をもたらすコネクターハブ
企業のヒアリング調査結果②
【原田精機工業株式会社】
代表取締役社長 原田隆司氏
◎地域外の大企業との直接取引がある。
⇒地域外から大型ロットの仕事を受注する窓口となる。
↑
• 日本楽器製造株式会社(現ヤマハ株式会社)に勤務していた。
• 「同時5軸切削加工」技術の確立。
72
2-2.2 地域に需要をもたらすコネクターハブ
企業のヒアリング調査結果③
2-3.1 地域にイノベーションをもたらすコネク
ターハブ企業に関するヒアリング調査
株式会社アメリオ
事業内容
・技術コンサルティング
・新技術開発、教育
・技術系ソフトウエア開発
企業の注目点
株式会社アメリオは浜松地域における医工連携の
中核企業として、自社の3次元データ処理技術を生
かして浜松地域に新たなイノベーションを生み出し
ている。
73
2-3.2 地域にイノベーションをもたらすコネク
ターハブ企業に関するヒアリング調査結果
【株式会社アメリオ】
代表取締役社長 三浦曜氏
◎様々な立場の“企業”“個人”をまとめることにより、新たな製品の開
発に成功した。(⇒手術NAVIシステム開発)
↑
• ヤマハ発動機勤務時代のボート事業部での経験。
⇒技術面・ソフト面での総合的な知識集積。
74
第2章 まとめ
「企業間」のネットワーク
↑
「企業家」個人のネットワーク
↑
◎「企業家」個人の経歴・バックグ
ラウンドが影響している。
さらに、
地域のイノベーションに貢献
↑
複合的な技術の組み合わせ。
⇒中心的な企業家の役割
75
第3章
コネクターハブ企業の出現要因と
企業家の特徴
76
3-1 浜松地域におけるコネクターハブ企業
の企業家を生み出す外的要因
① 経済環境の変化
• 経済危機(⇒リーマンショック)
• 大企業が生産拠点を海外に移転
② 地域特性
• 産業構造(⇒企業城下町)
• 支援機関
• 教育,研究機関(※地域イノベーションに貢献)
77
3-2 コネクターハブ企業の企業家の内部環
境(特徴)
地域分析能力
柔軟な専門性
+α
アーキテクチャ能力
共通言語の理解
78
地域に需要を持ち込むコ
ネクターハブ企業(従来
のコネクターハブ企業)
の企業家の特徴
地域にイノベーションを
生み出すコネクターハブ
企業の企業家の特徴
おわりに
―結論の整理―
79
80
おわりに―結論の整理―
参考文献一覧
1. 伊丹敬之「産業集積の意義論理」伊丹敬之・松島武
郎・橘川茂『産業集積の本質』有斐閣,1998年
2. 一般社団法人日本立地センター『産業立地』Vol.54-
No.2、一般社団法人日本立地センター、2015年
3. 坂田一郎「ネットワークを通してみる地域の経済構造」
『一橋ビジネスレビュー』57巻2号、東洋経済新報社、
2009年
4. サクセニアン,A.(2009)山形浩生ほか訳『現代の二都
物語』日経BP社
5. 静岡県ホームページ「しずおかの元気な企業」
(URL: https://www.pref.shizuoka.jp/sangyou/sa-
510/genki/ )
6. 高岡美佳「産業集積とマーケット」伊丹敬之・松島武
郎・橘川茂『産業集積の本質』有斐閣,1998年
7. 中小企業庁『中小企業白書2014年版』日経印刷、2014
年
(URL:http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H26
/PDF/h26_pdf_mokuji.html)
8. 中小企業庁『中小企業白書2015年版』日経印刷、2015
年
(URL:http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H27
/PDF/h27_pdf_mokujityuu.html)
9. 中村剛治郎(2008)『基本ケースで学ぶ 地域経済学』
有斐閣
10. ピオリ,M.J.&セーブル,C.F.(1993)山之内靖ほか訳『第
2の産業分水嶺』筑摩書房
11. 藤本隆宏「アーキテクチャの産業論」藤本隆宏・武石
彰・青島矢一『ビジネス・アーキテクチャ』有斐閣,2001
年
12. ポーター,M.E.(1998)竹内弘高訳『競争戦略論Ⅱ』ダイ
ヤモンド社
81
ヒアリング先企業一覧
2015/09/10 株式会社 アメリオ 三浦曜氏
2015/09/07 株式会社 池戸熔接製作所 池戸孝治氏
2015/09/10 橋本エンジニアリング 株式会社 橋本裕司氏
2015/09/11 原田精機工業 株式会社 原田隆司氏
※社名50音順
82
第5章
市町村合併後の
「隠れた」中山間地域の再生
―浜松市を事例に―
はじめに
1995年の合併特例法に始まる「平成の大合併」で、広域な市町村が
数多く誕生した。現代の地方都市には、この市町村合併を経て消滅し
たかのように見えた「隠れた」中山間地域が存在する。
このような地域は、市町村合併による効果を十分に得られないまま、
しかし確実に衰退し続けている。
本論文では、先進事例として、中山間地域の自立発展モデルとされる
里山資本主義を例に挙げる。そして、静岡県浜松市でのヒアリング調
査に基づき、市町村合併後の「隠れた」中山間地域の自立的な再生
モデルを模索していく。
1章
中山間地域の変遷と平成の大合併
産業構造の転換
高度成長期
農業 工業
・労働市場を求め、都市部の工場への人口移動
転換の背景
「全国総合開発計画」
:国主導の政策
経済成長を目的にした政策が中心→公害問題が深刻化
バブル期においてもリゾート開発中心に進められた
生活空間 生産空間
農村 都市
資本主義経済により、都市と農村の役割が変化し、格差を生んだ。
中心市街地と中山間地域の関係性の崩壊と
市町村合併
さらなる農村の課題…
・農業従事者の減少
(平成22年 205万人→23年 186万人)
・高齢化率が約60パーセントに
・外部経済の影響
TPPなどによる外国産の安価な作物の増加
農業の衰退
平成の大合併
1999年以降、全国的に取り組まれていった。
行政基盤の効率化に伴う経済情勢の改善が期待。
↓しかし
財政面では、一時的な効果を示したものの都市部への
行政機関が集約されたため中山間住民の声が届きにくくなった。
合併によってもたらされた負の側面が大きいために、
農村の一層の疲弊をもたらすことになり、
「隠れた」中山間地域を生み出すことになった。
2章 先行研究レビュー
農村の現状
「農山村は消滅しない」(2013)
・リゾート開発により、多数の荒廃地を生み出した。
この経験から、
①内発性 ②総合性 ③革新性
のある開発が進められた。
・まちづくり
国主導→住民主導の取り組みに変化した。
・地域住民の諦めが本当の消滅の臨界点。
里山資本主義
里山資本主義とは
• 中山間地域や過疎地域の発展モデルとして、藻谷 (2013)が提唱。
• 背景:世界金融危機、エネルギー危機
• 中山間地域等の地域資源の活用による自給自足的な生活を再評
価。お金に依存しすぎず、わずかな支出でも生活が成り立つ仕組み
を構築することで、より安定した生活を営むことができるという主張。
• バイオマス発電、6次産業化など
→中山間地域の持続的な発展モデルとして注目
里山資本主義を実践する岡山県真庭市
岡山県真庭市
• 産業:酪農、農業、林業
• 市の約8割を森林地帯が占める
典型的な中山間地域
• 林業の衰退に対する危機感から、地元住民によるバイオマス事業の提案、製材
メーカーによる木質バイオマス発電事業の取り組みが起こる。
現在では市をあげてバイオマス事業を推進。
里山資本主義を実践する岡山県真庭市
<図1 真庭市の出生・死亡、転入・転出の推移>
出所:真庭市人口ビジョン【資料編】(真庭市HPより)
里山資本主義を実践する岡山県真庭市
図1から
• 転入数と転出数は1995年はほぼ同一だったが、その後転出超過が
続き、バイオマス事業を開始した90年代以降も転出者数の回復は
見られない。
• 2004年から2009年にかけて急速な社会減が進む。特に2005年以降
は転入数が大幅に減少、現在も低い水準のまま。
• 自然減も相まって、真庭市は人口減少の局面を迎えていることがう
かがえる。
• 今後更なる人口減少が進めば、将来的には自治体の存続危機が予
想される。
里山資本主義を実践する岡山県真庭市
里山資本主義の利点
• 地域内経済循環による自立性、生活の安定性の向上
• コミュニティの形成・強化
里山資本主義の欠点
• 成立条件
真庭市の例:①木くずが大量に発生する環境、②リーダーの存在
→一定の条件のもとに成り立つ
• 真庭市における人口の社会減少
真庭市の人口動態から、里山資本主義の実践地域においても人口の社会減が続い
ていることが明らかになった。
里山資本主義を実践する岡山県真庭市
真庭市
• 自治体として独立している。銘建工業、地元住民両者の取り組みが行政に働きか
け、バイオマスタウンへの転換に至った。
市町村合併後の地方都市
• 中山間地域は広域な1市町村に内包されている。
• 広域化した自治体に対し、行政は選択と集中を行い、人口の多い地域に投資を優
先。
→行政の意思決定、官民共同の行動が容易ではない
⇒里山資本主義は、「隠れた」中山間地域の衰退の抑止力には成り得ない
リサーチクエスチョン
• 中山間地域は市町村合併を経て地理的には消滅したが、「隠れた」
形で現在も存在し、衰退に歯止めがかかっていない。
• 先進事例から、里山資本主義は普遍性に欠け、地域の過疎化も抑
制できないことが明らかになった。
• 自治体として独立している真庭市とは異なり、市の一地域として存
在する合併後の中山間地域では、里山資本主義による再生は困難
であると予想する。
⇒市町村合併後の地方都市における 、「隠れた」中山間地域の自立
的発展モデルとは
3章 事例調査
事例調査
• 平成の大合併後の中山間地域の再生について考察
調査地域:静岡県浜松市
• 2005年に12市町村が合併し、全国2位の面積となった政令指定都市
• 浜松駅を中心に都市部、平野部、中山間地域、沿岸部を有するよう
になり、国土縮図型都市と呼ばれている
<図2 浜松市の財政力指数>
出所:浜松市HPより筆者作成
中山間地域は低水準 →地方交付税のみでは存続困難
浜松市の概要
2002年 2014年
新浜松市 0.88
浜松市 0.894
浜北市 0.735
天竜市 0.398
舞阪町 0.572
雄踏町 0.533
細江町 0.646
引佐町 0.424
三ケ日町 0.607
春野町 0.219
佐久間町 0.303
水窪町 0.176
龍山村 0.286
浜松市の概要
<図3 浜松市の人口推移>
出所:浜松市HPより筆者作成
合併した新浜松市→年々増加の傾向
中心部→増加しているが増加幅は小さくなる傾向
中間地域→増加している
中山間地域→年々減少している
浜松市の概要
• 郊外化が進行しているものの、居住は中間地域にとどまっている。
• 中山間地域の人口減少から、衰退の一途をたどっていると考察でき
る。
・・・合併によって中山間地域の消滅が免れると考えられ、浜松市に
おいても市町村合併が行われたにもかかわらず、人口は依然として
減少
里山資本主義の考察
• 広域合併した地域において里山資本主義は成り立つのか?
• 市町村合併を経て変化したこと
行政サービスの効率化
→住民の声が届きにくくなった(市職員削減のため)
→地域に即した行政サービスが受けられなくなった
⇒NPO法人が多数誕生
浜松市の現状
<図4 浜松市の財政力指数> <図5 浜松市の地域別人口推移>
出所:浜松市HPより筆者作成
市町村合併後も人口は減少しており、衰退の一途
→将来的に存続の危機が予想される
2002年 2014年
新浜松市 0.88
浜松市 0.894
浜北市 0.735
天竜市 0.398
舞阪町 0.572
雄踏町 0.533
細江町 0.646
引佐町 0.424
三ケ日町 0.607
春野町 0.219
佐久間町 0.303
水窪町 0.176
龍山村 0.286
1995年 2000年 2005年 2010年 2014年 2005年-1995年 2014年-2005年
新浜松市 751,509 786,306 804,032 800,866 810,642 52,523 6,610
中心部 624,790 639,713 679,674 694,157 683,665 54,884 3,991
中間地域 81,157 83,810 86,838 92,599 95,851 5,681 9,013
中山間地域 45,562 43,309 37,520 35,960 32,770 -8,042 -4,750
小括
浜松市
• 広域合併した地域は、隠れてしまっているため、大きな行動が難しい
• 行政サービスの低下
• NPO法人の活発化 →中心市街地との交流を望む
• 課題 →中心市街地側が交流のメリットを認識していない
・・・多面的機能の喪失=地域全体の損害
中心市街地との交流が活性化に有効なのではないか
4章 結論
結論
• 市町村合併は、財政面で困窮していた自治体の消滅危機を解消し
たが、結果として「隠れた」中山間地域を生み、衰退を助長した。
• 里山資本主義は限定的な発展モデルであり、また地域の人口流出
には成果をもたらしていない。
• 市町村合併による財政の効率化に伴い、財政面は浜松市全体で管
理するようになり、市職員の数が減少。「隠れた」中山間地域への行
政サービスが低下した。
→「隠れた」中山間地域において、里山資本主義による再生は困難
結論
• 浜松市の事例では、中心市街地と交流を求めるNPO法人の存在か
ら、中心市街地との交流が「隠れた」中山間地域の再生につながる
のではないかと考察した。
• 財政面上の支援ではなく、中山間地域と中心市街地の連携による
可能性。
⇒市町村合併後の「隠れた」中山間地域
中山間地域と中心市街地との交流により、活性化できるのではない
か
おわりに
おわりに
• 「隠れた」中山間地域は、里山資本主義の適用は難しく、中心市街
地との交流によって再生することができるのではないかと考察する。
• 国家戦略「地方創生」のビジョンでは、拠点の形成と公共交通ネット
ワークによる地域間連携が推進されているが、すべてに交通ネット
ワークを構築するのは不可能であると思われる。
→交通インフラに代わるネットワークの形として、インターネットによる
交流や、近年導入が見込まれているドローンなどの可能性を考察す
る。最新のIT技術を駆使した交流により、市町村合併した中山間地域
が持続的に存続しうることを筆者らは願う。
第5章
地方都市における中心市街地に
関する研究
~中心市街地の変遷~
112
キーワード
①地方都市における中心市街地と郊外化
②旧(2006)および新中心市街地活性化基本計画(2015)
③一極集中型・多極集中型コンパクトシティ
④平成の大合併
⑤地方中核都市と地方創生
113
リサーチクエスチョン
• 中心市街地の空洞化とそれに伴う郊外化を抑止するために
様々な政策が打ち出されてきた。
• これらの政策および、平成の大合併やコンパクトシティ、地
方創生などの政策を整理し、評価することで地方都市にお
ける中心市街地の役割の変化と、どういったことがこれから
求められているのかを明らかにしていく。
114
目次
1章 日本における都市政策の歴史
1-1 地方都市における中心市街地の歴史
1-2 中心市街地活性化に基づく都市政策
1-3 平成の大合併
1-4 地方創生に基づく都市政策
2章 コンパクトシティについて
2-1 コンパクトシティとは
2-2 一極集中型コンパクトシティ
2-3 拠点ネットワーク型コンパクトシティ
2-4 小括
115
目次
• 3章 事例研究
• 3-1 浜松市の都市政策
• 3-2 浜松市における中心市街地の変遷
• 3-3 アンケート調査の報告書
• 3-4 ヒアリング調査の報告書
• 4章 小括
116
はじめに
• コンパクトシティの多義性の検証
• 地方創生⇒人口のダム機能、コンパクト+ネットワーク
• まちづくり三法⇒中心市街地の空洞化の是正、商業機能の復活
117
1-1 地方都市における郊外化問題
1980年代
地方都市…中心市街地の空き地・空き家の発生、郊外開発によって中心市街地
の空洞化が一層進行
⇒空洞化に至った要因の一つとしてモータリゼーションが大きく影響している
1998年代
中心市街地活性化法の制定
⇒しかし、中心市街地に集まった人口は高齢社会を形成し、地方都市では郊外開
発・外延化が進み、中心部の空洞化が深刻な問題となる
1-2 中心市街地活性化に基づく都市政策
まちづくり三法(1998)
➀中心市街地活性化法
中心市街地のにぎわい回復
②大規模小売店舗立地法
大型店への周辺環境への適応
③都市計画法
都市計画による大型店等の適正配置
地方都市における
郊外開発による中
心部衰退に歯止
めをかけようとした。
しかし、郊外化は抑止することができずに中心市街地は通行人の減少・高齢化の
進行・商店の廃業などますますの衰退を遂げていった。
1-2 中心市街地活性化に基づく都市政策
まちづくり三法 改正(2006)
中心市街地活性化法・都市計画法の改正が主体
郊外化の抑制と中心部への都市機能の集約を理想とす
るコンパクトシティの実現を目指すことが表明された。
少子高齢化による既存
コミュニティの崩壊
インフラの意地が危惧
おわりに
• コンパクトシティの多義性+認識の齟齬
• 浜松市では商店主との間に齟齬
121
1-3 平成の大合併
平成の大合併(合併特例法)
人口の減少や少子高齢化などの社会情勢の変化への対応、そし
て地方分権の担い手である地方自治体の行財政基盤の確立を目的
として1999年から全国的に推進され、2006年ごろをピークとして行わ
れた。
1-3 平成の大合併
目的
・人口減少や少子高齢化などの情勢の変化への対応
・地方自治体行財政基盤の確立
合併の背景
・少子高齢化の進展
・広域的な財政需要が増大(←行政の改革が課題)
1-3 平成の大合併
合併の結果
合併から10年が経過し、様々な問題が浮上
人口と面積の加算のみでは効率的になったとは言い
切れない
1-4 地方創生に基づく都市政策
ストップ少子化・地方元気戦略(増田レポート)
東京一極集中問題と人口減少を関連付けており、全国平均と比べ出生率い東京
への人口流入が日本全体の人口減少に拍車をかけ、地方が消滅してしまう恐れ
を示唆した。人の流れを東京圏から地方へ変えることで、東京一極集中の改善と
人口減少に歯止めをかけるという提言
1-4 地方創生に基づく都市政策
まち・ひと・しごと創生長期ビジョン
①「東京一極集中」の是正
②若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現
③地域の特性に即した地域課題を解決
「しごと」が「ひと」を呼び、「ひと」が「しごと」を呼びこむ好循環を確立し、その好循
環を支える「まち」に活力を取り戻すことを目標
1-4 地方創生に基づく都市政策
コンパクト+ネットワーク
「国土のグランドデザイン2050」において「コンパクト+ネットワーク」の考え方が
国土交通省によって提示された。
各種機能を集約化することでインフラ環境を財政的、環境的に効率よく提供し、
より高次の都市機能によるサービスを成立
日本におけるコンパクトシティに関する政策の変遷
128
(備考)国土交通省(2014)などを参考に筆者らが作成
2章 コンパクトシティについて
• 2-1 コンパクトシティとは
未だに明確な定義を持たない概念
「専門分野や個人によっても、そのイメージは大きく異なって
いる。」
谷口(2013)
129
2章 コンパクトシティについて
日本におけるコンパクトシティ概念
130
2-2 一極集中型コンパクトシティについて
・まちづくり三法改正を受け、各市町は打ち出した中心市街地活性化
基本計画の中で、中心市街地に賑わいを回復させることを目的として
コンパクトシティの概念を多く採用した
・商業機能において中心市街地の商店街と郊外の大型ショッピングセ
ンターが対立関係にあり、中心市街地の空洞化に歯止めをかけるた
めの政策としてコンパクトシティが採用された。
131
2-3 拠点ネットワーク型コンパクトシティ
132
地方創生
連携中枢都市圏の形成を
目指す
多極ネットワーク型のコン
パクトシティの推進
東京一極集
中の是正
コンパクト+ネットワーク
・、合併後の中心市街地と旧市
町村を結ぶ公共交通ネットワーク
を確保し、雇用を創出するまちづ
くりが必要であるという考え方
・中山間地域や農村地域を含む
合併前の旧町村中心部を小さな
拠点とし、中心市街地とネット
ワークで結ぶまちづくりを目指し
た。
133
2-4 小括
134
地域性に合致しない郊外
との大型商業施設との差
別化が図れていない
現在行われている
政策
3章 事例研究 浜松市
• 浜松市を選定した理由
①地方創生において地方中枢都市に指定されていること
②合併したことによる広域化に対応した政策を行っていること
③コンパクトシティを積極的に推進してきたこと
事例研究 浜松市
• 平成の大合併後の浜松市
商業力の低下による中心市
街地からの賑わい喪失
中心市街地の衰退に対する
市民の危機意識の高まり
就業人口による中心市街地の活力の低下
事例研究 浜松市
• そこで…
中心市街地の役割と意義
技術と文化の世界都市・浜松
環境と共生するクラスター型都市・浜松
浜松型のコンパクトシティの提唱
事例研究 浜松市
• 中心市街地政策の変遷①
• 郊外化と平成の大合併によって浜松市としてのまちづくりを見直すこ
とに
中心市街地活性化計画(2007)が打ち出された。
事例研究 浜松市
• 中心市街地政策の変遷②
• 2014年に閣議決定された「地方創生」によって地方は再びまちづくり
の軌道修正をする
• 浜松市も地方版まち・ひと・しごと創生総合戦略を作成した。
中心市街地活性化計画(2015)が打ち出された
事例研究 浜松市
• アンケート調査
目的:浜松市の中心市街地活性化に関する 政策の変化に対
する意識調査
対象:JR浜松駅付近の商店街の商店主
事例研究 浜松市
• アンケート内容
①中心市街地活性化法(2007)
②平成の大合併
③地方創生(2014)
の3点について
事例研究 浜松市
• アンケート結果
• 合併前と合併後の浜松市ではまちづくり政策の軌道修正が行われ
ているにもかかわらず、そこで商売をしている商店主たちは政策が
変わったことに気づいていないという結果が得られた。
事例研究 浜松市
• ヒアリング調査
目的:浜松市においてコンパクトシティ政策はどのように展開されてき
たか調査するため
対象:浜松市役所やまちづくり事業を行う会社など
事例研究 浜松市
• ヒアリング結果
• 浜松市は財政危機に陥っていた市町村との合併をしたことで、浜松
市全体の財政は悪化した。
• 広域となった自治体で中心市街地と中山間地域や農村地域との連
携がとれていない結果となった。行政は地方創生により、中山間地
域との連携を目指しているが、現在のところ効果が見られない現状
が明らかとなった。
結論
• 浜松の場合
行政⇒多極ネットワーク型
商店主⇒一極集中型
• コンパクトシティの多義性
• 適切なまちづくりの推進困難
145
おわりに
• コンパクトシティの多義性+認識の齟齬
• 浜松市では商店主との間に齟齬
146
第6章
創造都市概念の整理
~静岡県浜松市を事例に~
Rearranging of the creative city concept
~A case of Hamamatsu , Shizuoka~
目次(1)
• はじめに
• 1章 創造都市論の先行研究レビュー
1節 創造都市登場の背景
1項 「創造性」への注目
2項 世界都市に対する創造都市-加茂利男の理論に基づく-
2節 ヨーロッパを典型地域とみた創造都市論
1項 ジェイコブズの創造都市論
2項 ランドリーの創造都市論
3節 アメリカを典型地域とみた創造都市論
1項 フロリダの創造都市に関する研究
2項 クリエイティブ・クラスとは
3項 アメリカにおける創造的な都市の持続的発展の要因
目次(2)
• 2章 日本における創造都市-佐々木雅幸の理論に基づく-
1節 日本の創造都市政策
1項 金沢市における創造都市政策
2項 横浜市における創造都市政策
2節 創造都市の定義と条件
3節 小括
• 3章 静岡県浜松市の創造都市政策
1節 浜松市の概要
2節 浜松市の創造都市推進体制
3節 実態調査
1項 アンケート調査
2項 ヒアリング調査
4節 小括
• 4章 結論
はじめに
• 金沢市、横浜市を初めとして様々な地域(都市、農村を含む)が創造都市
政策を推進している。
→世界都市の機能を持てない地域の「創造都市ブーム」
• 創造都市論は、比較的新しい理論であり曖昧な理論
ヨーロッパを典型地域と見たジェイコブズ、ランドリーの視点
アメリカを典型地域と見たフロリダの視点
→創造都市論は様々な議論がなされることに…
• 創造都市論で述べられる創造都市は多義的である。
1章1節創造都市登場の背景
1項 「創造性」への注目
創造的とは16世紀までは「創造主としての神の行為」として捉えられていた
レイモンド・ウィリアムズ
独創的・革新的、それに関連して生産的であることが創造的
ルネサンスのヒューマニズムを契機に「人間の作る能力」と意味するように
18世紀に入ると創造的という言葉は、科学技術や芸術思想と関連付けられ、
20世紀にようやく「創造性」と呼ばれる
現代における「創造性」という言葉は、経済や生産活動の他に芸術や思想に
多用される
ジョン・ラスキン
功利主義の経済学を批判、「芸術経済学」を提唱
功利主義の働かされる「労働(labor)」を否定し、自由な職人の生
命の発露に基づく「仕事(opera)」が人としてのあるべき経済の姿
とした。
―18世紀からの「創造的」、「創造性」に関心を払った―
ウィリアム・モリス
―ラスキンの後継者を自称―
美術工芸運動を実施
「労働(labor)」を「仕事(opera)」にするための課題とし
てマルクスの「資本論」が根本的な原因とした
ジョン・ラスキンとウィリアムモリス
理論の共通点
1. 職人の創造活動に基づくクラフト的生産の再生
2. 大量生産体制を否定する「文化経済学」
都市論に適用した ルイス・マンフォード
ルイス・マンフォード
―ラスキンとモリスの思想を都市論に適用―
主著『都市の文化』
都市を機能性と芸術性の充実した「文化的固体化の単位としての
地域」とした。
劇場内で行われる活動は「文化的貯蔵・伝搬と交流・創造的付加
価値機能」であり、機能性と芸術性という都市の容器の中で行わ
れると定義
また、ゲティスの「都市発展論」を批判 都市の姿は
メトロポリスとしての根本的段階まで戻し、消費と奉仕優先の生命経
済(生活の質的基準を重視した経済)が必要である生命経済学を打
ち出し、
「文化経済学」の人間の創造活動を充実させる都市の再建の課題を
「創造性」と「都市論」適用という理論で昇華させ、創造性のある都
市への注目をつくった
原ポリス→ポリス→メトロポリス→メガロポリス→ティラノポリス
→ネクロポリス→ポリスの巡りである輪廻説を提唱
2項 世界都市に対する創造都市
―加茂利男の理論に基づく―
世界都市と創造都市のコンセプト関係として加茂利男氏は
の表を用いて説明している
経済の核 都市の主役 都市間関係 都市規模 内部/体外循環
多国籍法人
金融系ジェントリー
文化・情報・技術産業
文化技術系創造階級
地域内循環→国際センター文化・芸術創造都市 ネットワーク 中・小
国際センター→地域内循環世界都市 ヒエラルヒー 大
共通要素 「ホリエモン」的企業家
金融・法人
サービス
企業本社
IT
―ーランキング・競争
世界都市 創造都市
知的創造活動が主として国際的
な金融や情報サービス(形のな
い知的活動)に向けられている
知的創造活動が主として商
品・文化・芸術や都市その
ものの価値(形のある知的
活動)に向けられている
国際性
・
世界の中心
2節 ヨーロッパを典型地域とみた創造都市論
1項 ジェイコブズの創造都市論
ジェイン・ジェイコブズ
経済学の父と称されるアダム・スミスの主著『国富論』を念頭におき、主
著『都市の経済学』において、
輸入代替の機能に富んだ、創造的な都市経済を実現することこそ、国民経
済の張って円の前提であると主張し、経済学における都市経済研究の重要
性を指摘した。
「第三のイタリア」と呼ばれる中小企業や伝統工芸が発達している
ボローニャやヴェネチアに注目!
これらの都市の主役である職人企業というマイクロ企業のネットワーク型
の集積が「柔軟性、効率の良さ、適応性」を備え、特徴を輸入代替に
よる自前の発展とイノベーションとインプロビーゼーションにもとづく
『経済的自己修正能力』あるいは『修正自在型経済』と把握している
要約すると、ジェイコブズの唱えた創造都市とは
人間の創造性を引き出すような多様性に富んだ「創造コミュニティ」とポスト大
量生産の時代のフレキシブルで革新的な「修正自在型」の都市経済システムを備
えた都市
2項 ランドリーの創造都市論
チャールズ・ランドリー
―ジェイコブズの影響を受け、世界中の都市政策研究者に大きな影響
を与えたことでも有名―
主著:creative city「創造都市」
注目した地域:ヘルシンキ、バルセロナ、バーミンガム
都市問題に対する創造的解決のための「創造的寛容=創造の場」をいかに
して作り上げ、運営し、そしてそのプロセスを持続的に行っていくのか
を、自らの実践から導きだした「創造都市をつくるための政策用具」を提
供する創造都市政策論を唱えた
ランドリーの創造都市論では
「創造性」を空想や想像よりも実践的で、知識(インテリジェンス)
や革新(イノベーション)の中間にあるものとして、「芸術文化と産
業経済を繋ぐ媒介項」と位置付けており、芸術文化の持つ創造性に着
目した理由を4つを挙げた
1. 脱工業化都市においてマルチメディアや映像・映画や音楽、劇場などの
創造産業が製造業に代わってダイナミックな成長性や雇用面での効果を
示す点
2. 芸術文化が都市住民に対して問題解決に向けた創造的アイデアを刺激す
るなど多面的にインパクトを与えることを挙げて「都市の創造性にとっ
て大切なのは、経済、文化、組織、金融のあらゆる分野における創造的
問題解決とその連鎖反応が次々と起きて既存のシステムを変化させる流
動性である点
3. 文化遺産と文化的伝統が人々に都市の歴史や記憶を呼び覚ましグローバ
リゼーションの中にあっても都市のアイデンティティをかっこたるもの
とし、未来への洞察力を高める素地を耕すと述べ、創造とは単に新しい
発明の連続であるのみならず、適切な「過去との対話」によって成し遂
げられるのであり「伝統と創造」は相互に影響しあうプロセスである点
4. 地球環境との調和をはかる「持続可能な都市」を創造するために文化が
果たす役割も期待される点
3節 アメリカを典型地域とみた創造都市論
1項 フロリダの創造都市に関する研究
• 「クリエイティブ・クラス論」を提唱。
• 創造性のある都市をクリエイティブ・クラスの集まる都市と主張。
• 創造性を文化と産業をつなぐ媒介項であることを踏まえ、従来まで
の都市経済基盤の再構築の際に創造的な都市文化がどのような役
割を演じているのか、また新しい産業としてIT産業やマルチメディア
産業などの創造産業が地域経済の活性化にいかに寄与するのかと
いう問題意識の中でアメリカの各地域を事例に展開している。
2項 クリエイティブ・クラスとは
• クリエイティブ・クラスとは・・・
「意義ある新しい形態を作り出す仕事に従事している」人のこと。
• 従事する職業で二種類に大別し、「スーパー・クリエイティブ・コア」 と
呼ばれる階層と、それを中心として取り巻く「クリエイティブ・プロ
フェッショナル」 と呼ばれる階層が存在する。
「スーパー・クリエイティブ・コア(創造階級の中心)」
• 最上位のクリエイティブな仕事であり、すぐに社会や実用が転換でき
るような幅広く役立つ新しい形式やデザインを生み出す。
• 具体的には、科学者・技術者・大学教授・詩人・小説家・芸術家・エン
ターテイナー・俳優・デザイナー・建築家や、現代社会の思想をリー
ドする人(ノンフィクション作家・編集者・文化人・シンクタンク研究員・
アナリスト・オピニオンリーダーなど)を例に挙げている。
「クリエイティブ・プロフェッショナル(創造的専門職)
• 知識集約型産業を指し、特定の分野の複雑な知識体系を武器に問
題解決に当たる仕事である。
• 具体的には、ハイテク・金融・法律・医療・企業経営などに従事して
いる人のことを例に挙げている。
• 転換可能で汎用性の高い新しい形式を生み出すことが「スーパー・
クリエイティブ・コア」の基本機能であるため、仕事をして計画・経営
方針の施行や改良に携わり、時には自分で開発することを続けてい
れば転職や昇進によって「クリエイティブ・プロフェッショナル」から
「スーパー・クリエイティブ・コア」へなり得る。
3項 アメリカにおける創造的な都市の
持続的発展の要因
• クリエイティブ・クラスによって持続的な経済成長のためには
3つのTが必要不可欠であると主張している。
• 「技術(Technology)」
• 「才能(Talent)」
• 「寛容性(Tolerance)」
経済成長の主要な原動力とされ、それら
を伝統的な生産要素、すなわち原材料と
同様に扱われてきた
経済成長の大切な要因
• 寛容性の分析方法として移民数・芸術家数・ゲイ指数・ボヘミアン的
要因・人種間融和の指数をアメリカ内他地域と比較することで、2010
年のアメリカの各地域の寛容性指数を明らかにしている。(図)
(出所)フロリダ(2014)より引用
(図)2010年におけるアメリカ大都市圏別寛容性指数
3章
静岡県浜松市の創造都市政策
1節 浜松市の概要
• 現在は都市部・平野部・中山間地域・沿岸部を有する広域化した地
方中枢都市となっている。
• 徳川家康やホンダ創業家の本田宗一郎が当時の浜松市外から浜
松市に訪れ、大成したことから、「やらまいか精神」にみられる寛容
的な都市風土を持っている。
• 地理的条件は、広大な森林・天竜川・浜名湖・遠州灘と自然に恵ま
れた地域であり、東京と京都・大阪間の「ゴールデンルート」と呼ば
れる道のりのほぼ中心に位置する。
浜松市の3大基幹産業
• 江戸時代から続く遠州織物を中心とした繊維産業。
• 山葉寅楠がオルガンの修理をきっかけとして創業した「山葉風琴製
造所(現在のヤマハ株式会社)」や、そこからスピンオフ創業された
「河合楽器研究所(現在の株式会社河合楽器製作所)」から始まっ
た楽器産業。
• 楽器メーカーのヤマハ株式会社がオートバイ製造に進出して設立さ
れた、ヤマハ発動機株式会社などによる輸送用機器(オートバイ)産
業。
創造都市政策を取り入れた背景
リーマンショック後の環境変化に伴い、浜松市では未だ依存している
輸送用機器産業が工場を海外移転するなど製造業は成熟期を迎え、
地域経済の停滞という課題が生まれる。
地方工業都市としての限界を背景として創造都市政策を取り入れた。
2節 浜松市の創造都市推進体制
地方工業都市の課題解決のため、地方創生戦略の一つとして
第一次浜松市総合計画(2007年)
第二次浜松市総合計画(2011年)
二つの総合計画の中で創造都市・浜松を掲げている。
浜松市の創造都市推進体制の流れ
1991年4月 第一回国際ピアノコンクールが開催
1994年5月 アクトシティ浜松が完成
1995年10月 浜松市楽器博物館が完成
1998年4月 アクトシティ音楽院が完成
2000年4月 静岡文化芸術大学が開学
2007年3月 第一次浜松市総合計画で都市の将来像に「市民協働で築く未来へかがやく創造都市・浜松」を位置づける
2010年8月 浜松創造都市推進会議及びユネスコ加盟申請検討委員会を設置
2011年3月 第二次浜松市総合計画で創造都市の具体的な視点を出す
ユネスコ事務局(パリ)に申請書を提出
2013年10月 ユネスコから新フォーマット及び新たな審査方法が公表される
2014年2月 新フォーマットによる正式な申請を行う
2014年12月 浜松市がユネスコ創造都市ネットワークに正式に加盟
第一次浜松市総合計画(2007年)
人々の価値観やライフスタイルが多様化する中で社会経済環境が変
化し、都市が抱える課題も一層多様化しているという課題に対して
アートや文化だけでなく料理や音楽、スポーツ、さらに浜松市の代表
産業である“ものづくり”などの“創造性”をもって対処していくために、
「市民協働で築く『未来へかがやく創造都市・浜松』」を掲げた。
第二次浜松市総合計画(2011年)
具体的に創造都市の実現に向け人材の創造(こころ豊かで創造性あ
ふれる市民が集い主体的に行動する都市)、産業の創造(イノベー
ションに果敢に挑戦し新たな技術、人材、産業が生まれる都市)、文
化の創造(市民が主体となって文化を創造し発展させていく都市)の
三つ視点を都市に必要なものとして示し、創造都市における市民の意
識として市民一人ひとりが創造性を意識し、創造的環境の整備→創
造性への気づき→活動の活性化の3段階のプロセスをもって行動する
ことが重要であると掲げている。
3節 実態調査
アンケート調査
市は「音楽の都・浜松」をPRし、創造都市政策を推進しているが実際
に浜松市民の創造都市に対する意識調査を行ったところ、19人中18
人が創造都市政策について知らないという結果が出た(図3)。知って
いると答えた市民は、創造都市という言葉は知っているが、創造都市
がどんな都市なのかは認識できてはいなかった。
ヒアリング調査
浜松市役所市民部文化政策課創造都市推進グループに「創造都市と
いう言葉・存在自体がまだ広く周知されていないのではないか」とヒア
リング調査を行った結果、市民の創造都市に対する認知度も圧倒的
に低く、同じユネスコの世界遺産運動 と違って、マスコミやメディアに
も取り上げにくいという理由で、市役所としても周知されづらいという
考えを持っているという回答が得られた。
国際性を持たせる音楽文化の発信として、音楽事業や浜名湖観光事
業により浜松市への来客者数を増やす試みは観光入込客数は増加
しているものの、宿泊客数は前年度より減少傾向にあり、要因として
東京から大阪・京都間への移動で、休憩するだけの場に留まったり、
交通インフラの充実により浜松市を寄らなかったりと地理的条件を活
かしきれておらず、浜松市に対外的な魅力が少ないことが挙げられ
る。
市が推進している音楽文化を醸成させた直接の担い手である楽器産
業に関わる株式会社ピアックスにヒアリング調査を行った。
ものづくりに対する「やらまいか精神」は見受けられるが企業の名前
が最終的に表れてこないことから、海外への文化や技術発信の障壁
があり創造都市政策のリターンが少なく、音楽文化を支えた楽器製造
業の中小企業に対して、市は創造都市として都市のポテンシャルを最
大限に引き出しているとは言い難いことがわかった。
浜松市で創造的活動を行っている場があるのかという問題意識に対
して繊維産業に注目し、大量生産体制下でも織物づくりの製法を変え
ず、伝統的なものづくりを行っている古橋織布有限会社にヒアリング
調査を行った。
海外のテキスタイル展へ参加したことによる利益は、売り上げの約3
分の1を占めており、「Furuhashi」ブランドを国内外で確立していて海
外からも興味を持った人々がジェトロを通して工場の見学にも訪れて
おり、遠州文化を発信していることがわかった。
4節 小括
地方工業都市としての限界を背景に創造都市政策を推進し、音楽の
都を掲げているがアンケート・ヒアリング調査によれば創造都市への
市民の認知度は低く、楽器産業では依然として文化的な新たな活動
は見受けられなかった。
これらの問題は浜松市が国際性や寛容性を包括した日本的創造都
市論を受け入れ、創造都市の意味合いを熟知していないことにより市
民と行政との間にギャップが生じたことが原因であると考える。
結論
• 世界都市⇔創造都市
• 佐々木雅之氏が提唱した創造都市論
ヨーロッパ型
創造都市
:「国際性」
アメリカ型
創造都市
:「寛容性」
金沢市
横浜市
浜松市の事例研究を通して、創造都市の定義や役割が多義的になっている。
文化的生産
(新しいクラフト体制)
縦割り行政の再編
「行政組織の文化」
おわりに
• 佐々木雅之氏の多義的な役割をもつ創造都市論を
都市や地域にとっての創造都市政策にすると都市政
策の成果は上げられにくい…
• 浜松市:寛容な都市風土「やらまいか精神」
⇓
「やらまいか的創造」の更なる醸成
• 創造都市がどのような役割を持つか把握してこそ、
創造性が発揮される。
終章
日本の地方創生戦略に対する批評
日本の地方創生戦略
【目的】
人口移動に関する諸課題(東京圏一極集中や人口流出)を是正
【テーマ】
• まちの創生
⇒潤いのある豊かな生活を安心して営める地域社会の形成。
• ひとの創生
⇒地域社会を担う個性豊かで多様な人材の確保。
• しごとの創生
⇒地域における魅力ある多様な就業の機会の創出。
(内閣官房HP参照
URL:http://www.cas.go.jp/jp/houan/140929_1/gaiyou.pdf )
報告書における地方創生の捉え方
しごとの創生まちの創生
ひとの創生
“ひと”が地方において働き(しごと)生活する場
(まち)の確立が重要であると捉えた。
つまり、地域に存在する一人一人の“ひと”の重
要性に注目した。
分析視点≪静岡県浜松市を事例に≫
≪しごとを創出する可能性と課題≫
• 地域イノベーション⇒第2章
• コネクターハブ企業(地域中核企業)⇒第3章
≪広域化した地方都市における空間的な地域構造に対する課題の提議≫
• 中心市街地⇒第4章
• 中山間地域⇒第5章
≪浜松市の戦略政策≫
・創造都市⇒第6章
静岡県浜松市の地方創成ビジョン①
現状の把握
1. 浜松市の政策
≪基本方針≫
①「若者がチャレンジできるまち」
②「子育て世代の徹底サポート」
③「創造産業があふれるまち」
≪実施政策≫
①地域住民生活等緊急支援のた
めの交付金
②事業に重要業績評価指数の設
定(事業の進捗状況の把握)
◎地域の課題解決のために“新たな”人や仕事の持ち込みが
重視されている。
静岡県浜松市の地方創成ビジョン②
浜松市の目指すべき方向性は
Point:浜松市の人口増減は5年間連続で社会減
↓
浜松離れを是正することが急務
◎地域の人々が住み続けたいと思える街にこそ人は集まってくるので
はないか。
地方創生の可能性①
地方創生の政策の可能性
問題点
⇒国が画一的に決めた政策の枠内で各自治体が政策を決めている。
さらに、国や都道府県からのチェック体制があるために、自治体の政
策が制限されてしまう。
地方創生の可能性②
地方の創生に国は何ができるのか
◎地方創生は日本の将来的ビジョンにおいて解決すべき課題である
のは事実
↓
方向性を示して、牽引するのではなく、地域それぞれの課題解決の
後押しができるような政策内容を見出すべきだと考えられる。

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浜松市報告書ー改訂版

Editor's Notes

  1. 本市の中心市街地における商業の現状としては、事業者数、従業者数及び年間商品 販売額を見ても明らかなように、総じて減少となっている。長引く景気の低迷や郊外 大型店の出店による影響に加え、前計画において平成13 年に破綻した松菱百貨店の跡 地について商業機能による再生を目指したが、リーマンショックの影響などにより計 画が頓挫し、現在も更地のままの状況にあることや前計画の計画期間中にその他の大 型商業施設が閉店し平面駐車場化するなど、中心市街地の商業全体に与える影響は少 なくない。また、大型商業施設だけでなく、共同ビルなどの空き室や建物撤去後のコ インパーキングが増加するなど、商店街の飲食街化も合わせて中心市街地の魅力喪失 につながっている。
  2. 過去の推移を見ると、直近5年は2011年を除き転出者数が転入者数を上回る状況となっている。減少に転じたのはリーマンショックが起きた年と重なる。 国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計によると、浜松市の人口は、2010年調査まで増加し、2015年調査から減少すると推計されていた。しかし、2008年のリーマンショックを境に浜松市の雇用環境は急激に悪化し、浜松市外への転出が増加したことにより、想定よりも早く人口減少に転じたものと考えられる。 また、浜松市を含めた20ある政令指定都市の中では、16都市が転入が転出を上回る転入超過となっており、転出超過となった政令指定都市は浜松市、静岡市、堺市、北九州市の4都市であった。 これら4都市はいずれもほかの都市と比べて製造業のウェイトが高い地域である。人口移動の増減の主な要因は企業の経済情勢の変化によるところが大きい。定住人口を増加させるためにも、若者の就職先の受け皿拡充や市内間での再就職先の斡旋、新たな産業集積が期待できる製造業に頼らない企業誘致や産業の育成などの産業施策や社会施策を実施していくことが求められる。
  3.  地域という枠組みの中における経済の活性化のために地域外から資金を獲得することが挙げられる。そのためには、地域の外に財・サービスを供給し、得られた資金を地域内に還元していく役割を担う経済主体の存在が必要不可欠である。坂田(2009)はこの役割を担う企業を“コネクターハブ企業”と呼び地域の経済発展の鍵となるとした。地域にコネクターハブ企業が存在することで、地域の外から資金の獲得が期待される。
  4.  筆者らは、地域の資金の好循環に向けて従来のコネクターハブ企業で議論されてきた需要を“持ち込む”ばかりでなく、地域にイノベーションを起こすことにより、需要を“創出”することに注目した。地域のイノベーションは、新たな価値を生み出し、需要を“呼び込む”ことにもつながると考えられる。この視点により、コネクターハブ企業を動態的な視点から考察することで将来に続く地域の経済の進展に貢献するインパクトはより大きいものであると考えられる。  地域の資金の好循環に向けて地域に需要を持ち込む企業にせよ、地域にイノベーションを生み出す企業にせよ、地域内における企業間のネットワークとして表面化することが多い。しかし、地域内に近接する企業同士のネットワークの構築の背景には、サクセニアン(2009)が指摘するように地域に埋め込まれた企業家同士の情報交換が大きく影響していると考えられる。企業家の“情報”のやり取りによるつながりに注目し、地域の内と外との情報を統合することで地域内の企業同士のネットワークを構築させる企業家に焦点を当てた。  本論文では、地域の資金の好循環に向けて、地域の内外の接点となり地域に需要を持ち込む企業(=従来のコネクターハブ企業)と、地域内外の情報の核となり地域にイノベーションを生み出すことで需要を創出する企業(=新たな視点のコネクターハブ企業)の企業家のそれぞれの特徴を解明することにより地域経済の発展に向けたコネクターハブ企業の企業家像を明らかにしようとするものである。
  5.  地域活性化に向けた、1つの要素として地域経済の成長があり、地域経済の成長のためには地域内に移出産業の存在が重要となる。さらに、移出産業が地域内に存在するためには地域外との接点となる役割を担う企業が地域内に必要となる。坂田(2009)はその役割を担う企業としてコネクターハブ企業を地域外から需要を持ち込む企業として地域経済の発展に貢献するとしている。  コネクターハブ企業とは、「地域の中で取引が集中しており(取引関係の中心となっているハブ機能)、地域外とも取引を行っている(他地域と取引をつなげているコネクター機能)企業」と定義された。コネクターハブ企業が、地域内の企業から多く仕入れ、域外へ販売活動を活性化させることで、資金は取引先である地域内の中小企業・小規模事業者に流れていくという仕組みである。さらには、域内で仕入れ、販売も域内で行う「地域型」の中小企業・小規模事業者の経済活動により、地域に資金が好循環し、地域経済の活性化へとつながるのである。域外のニーズを地域内に持ち込むことで新たなニーズの発掘につながるコネクター機能。さらに、域内のシーズや製品を理解し、地域内の企業と取引関係があり、地域産業の中核企業となるハブ機能をもつコネクターハブ企業が存在することで企業間の情報伝達や共同作業、企業同士の新たに出会う機会(ネットワークの形成機械)が生じやすくなるため、地域発展に向けて必要な存在だと言える。  上記にふれたように、地域に需要を持ち込む企業として注目されるコネクターハブ企業だが、コネクターハブ企業以外にも同じ機能を担う企業は存在していた。伊丹(1998)がいう需要搬入企業である。需要搬入企業も同様に地域内・外を結びつける役割を担っており、地域活性化に貢献している。両者の目的は、資金流入を招くことによる地域経済の活性化の契機とすることに他ならないという点からコネクターハブ企業と需要搬入企業は同じ企業概念であると言える。つまり、地域発展に向けて必要な企業は、地域外のニーズを把握し、同時に地域内のシーズを理解することで地域内にニーズを還元させる機能を持つ、需要を持ち込む企業である。 中村(2008)によると、移出産業とは地域内において地域外向けに生産活動を行う産業をいう。 中小企業白書(2014) 坂田(2009)によると、コネクターハブ企業とは、Z値(地域や業種の区分の中で取引が集中する度合い)とP値(地域や業種を超えた取引を行っている度合い)がともに高い企業と定義付けている。 伊丹(1998)では、需要搬入企業とは集積へ需要を搬入する企業を指す。
  6.  地域に需要を持ち込む企業が事業活動を行うために必要な条件(環境)と能力について考察していく。  需要を持ち込む機能を十分に発揮させるためには供給産業の集積(クラスター)が必要であると考えられる。ポーター(1999)はクラスター形成の重要性について、クラスターに参加する企業のつながりは、技術、情報、マーケティングなどにおいて相互に補完しあい、その効果として競争や生産性、特に新規事業やイノベーションのペースや方向性を左右するものであるとした。クラスターは競争を前提としながら、そのうえで関係する企業、政府、大学が相互に関連(影響)しあうことでその重要な役割を担うとした。つまり、クラスターの形成により他地域に負けない競争の優位性を見出すことができれば、市場で優位な製品を供給させることが可能となる。  ここで、地域においてクラスターを形成するだけでなく、地域内でニーズに対して正確に答えていくための生産体制が必要になる。その1つの方法として、ピオリ/セーブル(1993)は常に変化を伴う市場において、安定して製品を供給し続けていくためには、市場を制御しようとするのではなく、市場にうまく対応していく技術の柔軟性の必要性を説いた。彼らの説いた柔軟な生産体制への移行、「柔軟な専門化(Flexible Specialist)」とは、汎用性の高い設備を土台とし、それを使いこなす熟練工の存在を前提とするものであった。そして、それは地域内企業の競争と協力を調整する協力組織をすることで永続的な革新を目的とした。地域内で互いに技術を柔軟に組み合わせて分業により生産を行う「集積内分業」により生産コストを抑えることもできる。伊丹(1998)もまた産業集積を継続させていくための要件として分業集積群の柔軟性をあげている。外部から搬入されてくる需要は単一のものでもなく、類似の需要が長続きするわけではない。搬入される具体的な需要は変化していく。その変化に応えつづけられるだけの柔軟性を集積が群としてもっているからこそ集積が経済的な存在として継続していける。つまり、地域産業のクラスター形成により地域の競争優位が生まれ、また、クラスター内に柔軟な生産体制が存在することで市場原理においてに、コネクターハブ企業は地域外からのニーズに対して地域内の生産体制を生かして応えていくことが可能となる。 ポーター(1999)によると、クラスターとは、ある特定の分野に属し、相互に関連した、企業と機関からなる地理的に近接した集団である。
  7.  地域に需要を持ち込む企業の能力についてだが、単に需要を持ち込むだけではない。高岡(1998)は、「集積とマーケットとの連関」をあげており、その1つとして取引される財・サービスの属性に関する情報の保有を企業がもっていることを示している。集積の外部からは内部の生産にかかわる技術情報(生産情報)が把握できず、集積の内部からは外部の需要に関わる技術情報(需要情報)が把握できない。つまり、集積の外部と内部とでは技術情報に非対称性があり、それを解決しているのが両者の情報を保有している企業である。つまり、地域に需要を持ち込む企業に求められる能力として、生産情報と需要情報を保有し両者をつなげる能力が必要であり、その能力があるからこそ地域外から産業集積内に需要を持ち込むことが可能となり、地域経済の好循環に貢献しているとしている。
  8.  コネクターハブ企業をはじめとする地域に需要を持ち込む企業は地域外からの資金流入を招く契機となることで地域経済の活性化に貢献していると述べてきた。一方で、中村(2008)によると地域経済は地域で生活する各個人の生活の環境を、就業や消費活動を通じて経済的に豊かにする側面だけではないとし、教育や文化といった地域の持つ特異な固有価値と普遍性のある経済価値が出会い、新たなイノベーションを生み出す場であるといった点に注目すべきであるとした。  これまでに議論されてきた従来のコネクターハブ企業では、地域外から地域内に需要を持ち込み地域内の企業に仕事を割り振る点にのみ焦点が当てられている。これは地域内の集積を利用した「集積内分業」の一端に過ぎないと考えられる。集積内における分業体制は需要を地域に分散させ、地域に新たな価値を創造するイノベーションという視点が不足していると言える。  イノベーションという視点で言えば、相互に関連しあう企業や産業、教育機関等が集積し、クラスターを形成する重要性については、前述したようにポーター(1999)が述べている。ポーター(1999)のクラスター論では集積内の企業間競争を前提として、集積内の新たなイノベーションの方向性を示すものとしている。
  9.  クラスター内の企業同士の関係性に注目しているポーター(1999)に対して、サクセニアン(2009)は、1980年代におけるアメリカのシリコンバレーとルート128の対照的な地域産業の展開の比較から、空間的に近接しているだけでは、国際競争において急変する市場や技術に対応することが可能となる企業の出現は説明できない。さらに企業は社会の中に埋め込まれ、非公式の情報交換に強く依存し、協業によって技術力と組織の自立性を高める生産者は地域的に集積する傾向にあると指摘している。つまり、地域内に集積した企業家同士の情報交換によるつながりは地域の競争力の強化に寄与している。  サクセニアン(2009)の指摘から、地域のクラスター内での企業間競争しかり、これまでに議論されてきたコネクターハブ企業のような需要を地域にもたらす地域の中核企業を中心とする集積内分業にみられる地域内の企業間のネットワークもまた、企業同士の関係背の背景にある、地域の企業家の存在に注目する必要があると言いえよう。
  10.  地域経済の活性化には、地域外から需要を持ち込む企業の存在が必要であるという立場から、コネクターハブ企業の重要性について述べてきた。従来のコネクターハブ企業が地域の経済に与えている影響は地域内外との取引による資金循環だけに重点が置かれ、地域内における生産と販売に着目した静態的な分析であると考えられる。地域に需要を持ち込むことで地域の資金の好循環を生み出すだけでなく、むしろ地域に新たなイノベーションを生み出すことのできる企業が地域内に誕生するという新たな視点に重要性を見出した。  地域の分業の地域内に近接する企業同士のネットワーク構築の背景には企業家同士の「非公式」な情報交換による交流が存在していると考えられる。本論文では、地域の資金の好循環に向けて、地域内に需要を持ち込む従来のコネクターハブ企業、さらに地域にイノベーションを生み出す新たな視点のコネクターハブ企業の、地域内の企業間のネットワークの背景にある企業家同士のコミュニティーを形成する企業家の特徴について考察する。
  11.  本論文では、地域経済の活性化に貢献しうるコネクターハブ企業が地域において地域外から需要を持ち込む企業と、地域にイノベーションを生み出す企業が、その役割を担うことのできた背景として企業家個人に注目し、地域内においてそれぞれのコネクターハブ企業としての機能を発揮することを可能とした企業家自身の特徴について調査、解明していく。  そのための調査として、旧来スズキ株式会社やヤマハ発動機株式会社といった大企業の企業城下町として発展した静岡県浜松市を調査対象に取り上げた。浜松市は、大企業を頂点に下請けの中小企業が集積し、移出産業の成長が地域経済のけん引役となった背景がある。しかし、現在に至る経済環境の変化に伴い、大企業の地域経済の推進力は減退していった。こうした地域において、コネクターハブ企業となりうる企業の出現は一つの地域経済の推進力となり得る筆者らは考える。  各コネクターハブ企業に対してヒアリング調査を実施するにあたり、企業の地域内外の双方向の取引関係を完全に把握する必要があるが、各企業の取引関係をすべて把握することは困難だった。本調査を実施するにあたり、両タイプのコネクターハブ企業は地域の中核となる企業がその役割を担っているのではないかと考えた。
  12.  第1に地域に需要を持ち込む従来のコネクターハブ企業では①地域内に企業間ネットワークを形成している企業、②地域外との取引(販売)実績のある企業、の視点から以下の3社の企業を選定した。  これらの企業に対して行った調査内容は以下のとおりである。 地域内外との取引の実態について  調査先企業が実際に地域外からの受注を引き受け、地域内に仕事を発注しているということは、調査先企業がコネクターハブ企業であるということの根拠となる。 調査先企業と企業間ネットワークとの関係性  調査先企業の参画する企業間ネットワークの企業同士はどのような関係であり、ネットワーク内の企業同士の取引関係を解明することで、調査先企業が地域内の他社の技術(地域内シーズ)を理解すことができると考えられる。つまり、地域内企業の集合体としての受注機会の確保につながる。 調査先企業の受発注関係を通して、地域経済(社会)にどのような影響をもたらしているかと考えられるか  既述の通り、地域経済の発展のために注目されているコネクターハブ企業であるが、各企業は自社の事業活動(地域内外との取引)を通して、自社が存在する地域社会(経済)に対してどのような効果や影響をもたらすことができると考えているのか。この点について調査を行うことにより、地域に存在する企業として地域をどう捉えているのかを解明する。
  13. 【株式会社池戸熔接製作所 代表取締役社長 池戸孝治氏】  株式会社池戸熔接製作所(以下、池戸熔接)の特徴として「地域内異業種ネットワーク」を構築し、地域内に新たな事業を作り出した点があげられる。この地域内異業種ネットワークとは、ネットワークに属している異業種の企業が、ネットワーク内企業と新たな産業や事業を生み出すことを可能とする人脈ネットワークである。池戸氏は域外から受注し、外注を地域内異業種ネットワーク内で行っており、1つの製品に対して企画段階でよりマッチングする中小企業同士をつなぐ仲介役を行っている。池戸氏が地域内異業種ネットワークを設立し、多くの企業の仲介ができた背景を、池戸氏の経歴から探る。池戸溶接は昭和63年、初代池戸義雄氏が農業プラント製造を事業内容として創業。初代から引き継いだのが池戸孝治氏である。(株)ホンダ自動車の下請けとして溶接を行っていたが、リーマンショックを機に、下請けだけでは危機感を感じ、脱下請けを目指し次世代につながることを視野に新たな事業展開を模索するため、異業種交流による商工会議所の青年部会に参加した。約5年の間で800人との人脈を形成した。異業種とのここでの人脈の形成が異業種ネットワークの設立を可能とした。また人脈のつながりにより池戸氏自身に多種多様な知識が構築したことが、異業種同士の仲介を可能としたといえる。
  14.  橋本エンジニアリング株式会社(以下、橋本エンジニアリング)は、2次3次サプライヤーが、新たな事業として最終製品を作るまでのロールモデルを示し、地域内の中小企業のシーズを組み合わせることによって最終製品まで作りあげ新たな資金循環の貢献を行っている点が特徴としてあげられる。これらの事業を可能とした背景として代表取締役社長橋本氏の経営者としての意識改革がある。  1968年橋本部品製作所として浜松市浅田町にて初代橋本公一氏が開業。当初の事業内容は、プレス・組み立てを行っており、取引先は約9割がヤマハ発動機、その他アイシンの下請けとなっていた。リーマンショックを機に橋本氏は旧橋本部品製作所の社長に就任した。赤字になっている自社を立て直していくことを目標に「自分がやりたい、やっていかなきゃいけない」という精神で自社の売上げは伸びていった。しかし燃え尽き症候群によって当初掲げた目標がなくなる、一方自社の売上げは伸び続けているという両者のギャップが生まれた。そこで橋本氏は東京にある人材教育コンサルタント会社アチーブメントの講習に参加し、成功者になるためのノウハウを学んだ。そこで「自分に関わる人を幸せにすること」を目標に前向きに取組み続ける事ができるようになった。その結果、橋本氏は経営者としてのリーダーシップを発揮し、従業員の意識が向上した。結果、全社一丸となって2009年には介護福祉事業、その後医療機器事業へと展開し自社で最終製品をつくるまでに至った。特に新事業創出のため参加した浜松地域新素材研究会のチタン事業化研究会にて車いすの軽量化のニーズを知り、得意とするチタン・アルミニウムの加工技術を使って、軽量化車いすを開発したのである。  このように橋本氏の経営者としての意識改革が、下請け企業が最終製品をつくるまで成長していったのである。結果として新事業の創出、地域内企業にも新たな取引が生まれた。 個人や法人向けに人材教育コンサルティングや人材教育支援を行うコンサルティング会社。(アチーブメント公式HP) 次世代自動車の普及、人口減少、ピラミッド産業崩壊などの空洞化問題から今までの方針を変え、需要が期待される介護・医療産業に参入した。(ヒアリング調査より) 自社の得意とするチタン・アルミニウムの技術が介護福祉産業の中でも車いすの軽量化という部分に活かせるのではと、浜松地域新素材研究会に所属して技術・知識の習得を積極的に行った。(ヒアリング調査より) 若手有能社員6名で開発チームを発足。そこに知財の専門家に開発顧問を依頼し、浜松地域内異業種の技術を持ち合わせた車いす「もどらん」を開発した。(ヒアリング調査より)
  15.  原田精機工業株式会社(以下、原田精機工業)は、大企業との直接的な受注関係にあり、地域内に発注を行っている。一方で地域内の中小企業に対して企業に技術の伝授も行っている。これら2点の企業の特徴を可能とした背景を原田氏の経歴から探る。原田氏は原田精機工業起業以前、日本楽器製造に勤務し、製造から経理まで様々な部署を経験した。この経験から、多くの工務メーカーや商社との人脈ネットワークを形成と原田氏自身に技術の蓄積を可能とした。技術者気質を背景に社会に求められるものを作っていきたいという想いが芽生え、これまでに得た人脈を活用し援助を受けながら、1970年原田氏が原田精機工業を設立した。設立後、日本楽器製造で得た技術力を活かし「同時5軸切削加工」を確立した。同時5軸切削加工は地域内で利用するには技術的に余る機械であったが、地域外の大企業(三菱重工など)から技術力を認められるきっかけとなり、地域外からの受注を受けるきっかけの一つとなった。その結果、その外注を地域内中小企業・小規模事業者に振り分けることが可能となった。また原田精機工業が注目されたことで三菱電機鎌倉製作所により技術を学ばせてもらえる機会を得て、学んだ技術を地域内企業に対して技術伝授をした。このように原田氏の大企業で得た技術力や人脈があったからこそ「同時5軸切削加工」の確立を可能とし、結果として地域内に技術の伝授や新たな取引を生み出した。 輸送用機器製造業品質マネジメントシステム認証(ISO9001)の取得をするほど浜松地域産業においてオンリーワンの最先端技術を有する企業として地域内でも注目されている。(ヒアリング調査より) 四輪開発の為の機械である(ヒアリング調査より) 原田氏は、課題解決には国や自治体を動かさないといけないため、中小企業には経済的負担が大きいと述べていた。そのために大企業のような経済力があり且つ優秀な人物が必要であると述べた。(ヒアリング調査より)
  16.  一方、地域にイノベーションを生み出すコネクターハブ企業では、地域における新たな産業に携わる企業をピックアップした。本調査においては、浜松市の進める「医工連携」に注目し、その中核企業である株式会社アメリオを調査対象として取り上げた。    株式会社アメリオは、上記の3社とは異なり、モノではなく技術の受注を地域外から引き受け、地域内に発注を行っている。  株式会社アメリオに対して実施した調査内容は以下のとおりである。 浜松地域における医工連携について  浜松地域で注目される医工連携について、三浦氏の役割と、そしてその成果について解明する。実際に地域にどのようなプロセスを経てイノベーションにつながるのか。また、地域に存在する企業や、教育機関といった様々な要素との連携はどのように取れているのか。 地域内の中核となる三浦氏の経歴について  前述したように、地域の中心的人物となり得た三浦氏の特徴について、これまでに経験してきた三浦氏個人の経歴から明らかにする。
  17.  株式会社アメリオ(以下、アメリオ)は、三浦氏が企業同士や大学のコーディネーター役をした結果、多くの企業が新しい地域産業(医工連携)の創出に貢献したことや人材育成に貢献している点が特徴としてあげられる。可能とした背景を三浦氏の経歴からあきらかにする。  三浦氏は大学卒業後、ヤマハ発動機のボート事業部の設計者として約10年間(1973~84年)勤務し、技術・ソフト開発~企画提案(設計・情報)までボート事業を総合的に行った。その結果、技術面・ソフト面でトータル的な知識が集積し高度な技術者とのネットワーク(技術者to“個人としての”三浦氏)を形成したのである。その後、三浦氏はヤマハ発動機のボート事業部で勤務するなかで大企業のなかの孤独に努力している技術者の存在に気づき、IPOを目指した1984年株式会社アルモニコス(以下、アルモニコス)(以下アルモニコスとする)を創業、経営陣を退き技術者としての成長のために渡米(シリコンバレー)し、 1997年、人脈や経営ノウハウ技術を活かして、アメリオを創業した。事業連携の内情としては、アルモニコスを源流とする企業群(いずれも浜松地域内に存在)が数多く生まれた。三浦氏はこれまでに得た技術力で「3次元CAD/CAMフレームワーク」や3次元図形アプリケーションの開発を支援するためのソフトウエア開発キット「FullMoon SDK」など3次元データを用いた開発ツールを提供した。こうした三次元の技術力を、医療の分野で応用することができるとされ、2005年「医工連携研究会」の設立メンバーに選ばれ、同年に手術NAVIソフトウエア開発に参画したのである。この手術NAVIソフトウエア開発は光・電子技術を研究基盤とする浜松医科大学、工業用光学式計測器を開発するパルステック工業株式会社、医療機器としてまとめ上げ医療機器認可を取得するために、医療機器製造販売で実績のある永島医科器械株式会社、そして三浦氏の4者がチームとなって開発を行った。三浦氏は、この異なる専門分野同士をすり合わせ複合的な技術をひとつにまとめ上げた。その結果、手術NAVIソフトウエアが完成し、三浦氏の技術力が浜松地域の医工連携に大きく前進させた。その他にも、CAD・CG技術者のための「NARBS早わかり」「実践NARBS」著述出版や光産業創成大学院大学産業創生支援客員教授を務め、専門的な人材の育成も行っている。つまり三浦氏の技術面・ソフト面の知識集積が、各専門分野(異業種)の専門用語を理解することを可能にし、複合的な技術を組み合わせて最終的にモノを作り上げた。また専門的な人材の育成も行えたのである。 自動車の3次元デザインシステムの研究開発を皮切りに、技術系コンサルティング業務から受託システム開発まで幅広く業務を行う。そこに一貫してあるのは、「今まで誰もやらなかったことをやる」であり、革新的な製造業であるといえる。(アルモニコスHPより) 3次元データ図形データ管理や表示等、開発に多大な工数を要する図形処理システムの諸機能がクラスライブラリの形式で提供される。アプリケーションの開発者は、これらを利用してプログラムを作成・追加することで自社独自のシステムを短期間で構築することが可能となる。(ヒアリング、会社パンフレットより) 当初、125社(そのうちの6社が幹事)から設立となった(ヒアリングより) 手術NAVIソフトウエアとは、内視鏡手術用ナビゲーションシステムNH-100である。「安全で確実な内視鏡手術を実現したい」という医療現場のニーズから着想したものであり、2002年度開始の文部科学省知的クラスター創成事業の1つに浜松地域が指定され、光・電子技術を基盤とする浜松医科大学の研究の1つである。(ヒアリング、産学官連携ジャーナルより) 三浦氏はその後2011年「はままつ医工連携拠点」開設・後援、2012年光産業創成大事業化支援組織フォトリング会長を務めた。浜松地域では、既存産業の革新的高度化とともに4つの新産業「輸送機器用次世代技術産業」「健康・医療関連産業」「光エネルギー産業」「新農業」の創出を進め、10 年後の基幹産業化を目指すことが、地域の各機関・団体で合意されている。はままつ医工連携拠点では、この4分野のひとつ「健康・医療関連産業」を具体化する場として、産学官の総力をあげて創出・確立していく目的を持っている。(はままつ医工連携拠点公式HPより) 今世紀における光技術の重要性を認識し、光技術を使った日本発の新しい産業を創成するために、社会が求めるニーズをもって新産業創成を志す人材を養成する』という初代理事長晝馬輝夫の思いから、光技術のリーディングカンパニーである浜松ホトニクス株式会社とものづくり企業が集まって2004年に設立された。最終製品の生産に向けて多くの企業が参画する「ピラミッド型」の産業に対し、光産業は先端光技術の提供により、医療、農業、エネルギー、情報、加工などの広い産業領域に新たな展開を生み出す「逆ピラミッド」型であり、その応用領域は日々広がっている。(光産業創生大学院大学HPより)
  18.  本章のまとめを行うと、従来のコネクターハブ企業も地域に新たなイノベーションを生み出すコネクターハブ企業も企業家自身の経歴や企業に対しての想いから企業家同士のネットワークを構築している。さらに、新たなイノベーションを生み出すコネクターハブ企業の企業家は複合的な技術を組み合わせることで地域にイノベーションをもたらす企業家の存在が明らかになった。
  19.  本章では、企業の事業活動を通して社会価値の創造を図るコネクターハブ企業が地域内に誕生した背景となる企業、ないしその企業家を取り巻く外因を浜松市の事例から考察する。また、地域内の企業がコネクターハブ企業としての役割を担うことのできた企業家自身の特徴の分析を行う。
  20.  浜松地域において、ヒアリング先のような2つのタイプのコネクターハブ企業が出現し、そして事業活動を行っていくことを可能とした企業の外部に存在する要因を考察する。コネクターハブ企業の企業家が地域に生まれた背景として、①経済環境の変化と②地域特性の2つの側面があると考察される。  そもそも浜松地域の産業の特徴は、スズキ自動車株式会社やヤマハ株式会社のような大企業を頂点とする垂直型の産業構造による企業城下町であり、輸送用機械産業、楽器産業をはじめとする製造業が中心的な地域産業として地域経済を牽引してきた特徴がある。そして、浜松地域内には大企業の下請けとして創業した中小製造業者が多数存在し、大学や公的な産業支援機関があり、産業集積地域が形成されていた。  浜松地域において、コネクターハブ企業が出現した契機となったのは2008年の「リーマンショック」による円高が大きく影響した。旧来輸送用機械産業が地域経済を牽引していた浜松地域において、リーマンショックによる円高は地域の産業構造に暗い影を落とすこととなった。経済環境の変化は大企業の事業活動にも影響を与え、浜松地域の大企業はリスク分散や、コスト削減のために海外に生産拠点を移した。結果的に浜松地域から仕事が流出するという事態を招き、浜松地域の中小製造業に大打撃を与えたのである。  一方で、浜松地域には前述したように製造業を中心とする企業が多数存在し、またそれを支援する機関や、教育機関が地理的に存在する産業集積地域となっていることは、浜松地域内にコネクターハブ企業を出現させる積極的な要因となり、また産業集積内に教育機関が存在することで、企業と教育機関とで産学連携をも可能にし、企業同士だけでは創出できないような新たなイノベーションの創出につながる。つまり、中小企業が地域内において、コネクターハブ企業として存在するために、自社だけでなく地域内の他社の技術を理解し、そして地域外のニーズとの接点となる場が必要になる。  これら、経済環境の変化により危機感を持った中小企業が地域特性を生かして浜松地域内においてコネクターハブ企業としての役割を発揮するに至ったのである。機能を発揮するための重要な要素として、これら外的環境から、企業家同士の人的ネットワークの形成があげられる。従来のコネクターハブ企業では、企業間ネットワークの重要性をあげていたが、筆者らが考える新たな視点のコネクターハブ企業では、企業家同士または企業家と個人などの人的なネットワークこそが重要な要素だと考える。企業間ではなく企業家の個人同士のネットワークがあるからこそ様々な産業の情報を得ることができ、上記にあげたような産学連携を築きやすくなることで、新たなイノベーションの創出につながるからだ。これら企業家同士、個人同士の人的ネットワークの形成がコネクターハブ企業の企業家の特徴に大きな影響を与えた。
  21.  本節では外部環境によって形成された企業家同士の人的ネットワークが、企業家の内部環境(特徴)にどう還元されたのか従来のコネクターハブ企業の企業家とイノベーションを創出するコネクターハブ企業の企業家の両者を考察する。  両者のコネクターハブ企業で共通しているものとして企業家同士の人的ネットワークによって、企業家の内部環境に①地域分析能力②柔軟な専門性があるとした。そしてイノベーションを創出するコネクターハブ企業の企業家は③アーキテクチャー能力④共通言語の理解する能力が+αの能力として生まれるとした。  ①地域分析能力では、企業家同士の人的ネットワークにより生まれた。地域分析能力とは、地域内の産業や企業の特性(地域内シーズ)を把握する能力である。その結果、新たな産業や事業を形成しやすくなり発展へとつなげることができると言える。例えば原田氏は、多くの工務メーカーや商社との人脈ネットワークを形成によって、地域内の産業や企業の特性(地域内シーズ)の把握し、結果として地域内の中小企業・小規模事業者に外注を振り分け同時5軸切削加工の確立を可能となった。  ②柔軟な専門性では、企業家同士の人的ネットワークによって生まれた。柔軟な専門性とは、自社技術(自社技術シーズ)を客観視することで既存事業に依存することなく、新たな産業や事業を形成しやすくなり発展へとつなげることができると言える。そして試作開発し最終的に生産する際は地域内の中小企業・小規模事業者に外注を振り分けている。橋本氏は新事業創出のため浜松地域新素材研究会のチタン事業化研究会に参加し、車いすの軽量化のニーズを知った。そこで得意とするチタン・アルミニウムの加工技術を応用し、軽量化車いすを試作開発したのである。そして生産する際は地域内の地域内の中小企業・小規模事業者に外注を振り分けている。  さらに三浦氏のようなイノベーションを創出するコネクターハブ企業の企業家には③アーキテクチャー能力④共通言語の理解する能力が+αの能力として生まれるとした。  ③アーキテクチャー能力についてだが、そもそも“アーキテクチャー”とは、藤本(2001)によると、製品(全体)を各部品(部分)に分解し、各部品の設計・工程にいかに機能を配分し、またそれらをいかにつなぎ合わせるかに関する基本的な設計のことである。つまり、ここでのアーキテクチャー能力とは「それぞれ独立して存在する技術(部分)を組み合わせて最終的にモノ(全体)を作り上げる能力」である。企業家自身が幅広い業種、機関と交流を重ねることによって、企業家自身に広域な知識・能力が備わり、アーキテクチャー能力が形成されたのである。三浦氏は3次元データを用いた開発ツールを医療の分野で応用し、手術NAVIソフトウエア開発に参画した。三浦氏の事例では、広域な知識・能力によって、異なる専門分野の4者の複合的な技術をひとつにまとめ上げ最終的にモノを作り上げたのである。製品を作り上げる際に技術者同士(事業者)だけの連携ではなく、技術者と(事例では研究者兼)使用者、さらに流通のための販売者の3つの局面を統合して製品を作り上げていった点はまさに三浦氏のアーキテクチャー能力の成果と言えよう。  ④共通言語を理解する能力は、③アーキテクチャー能力を発揮するために、全体を構成する各要素同士のインターフェイス(結節点)となるために必要である。つまり、企業や大学など各専門分野(異業種)の専門用語を理解するということである。大学等の教育・研究機関や、企業などの事業体、また行政などの支援組織はそれぞれに活動目的が異なり、専門的な知識を要するために直接的な会話は不成立であった。そこで共通言語を理解できる企業家の存在によって新たな産業や事業を形成しやすくなり発展へとつなぐことができる。三浦氏が共通言語を理解する能力が可能となった背景として、企業家同士の人的ネットワークが自社を客観視させ、「できないこと」を補おうと能動的な学習意欲が生まれたことによって広域な異業種とのネットワークを構築するという「自社技術の客観視→能動的な学習意欲→広域なネットワークの構築」を繰り返したことにより、知識が集積し各分野の専門用語の理解が可能となったのであろう。そして三浦氏は手術NAVIソフトウエア開発に参画し、医療機関や光産業等の異業種の会話を成立させ、医工連携を進めたのである。  本章のまとめを行うと、コネクターハブ企業の企業家個人に着目すると企業ないし、企業家を取り巻く外部環境が企業家同士の人的ネットワークの形成の背景にあることが分かった。そしてその従来のコネクターハブ企業の企業家とイノベーションを創出するコネクターハブ企業家の企業家の両者には①地域分析能力②柔軟な専門性の二つの能力が構築することがわかった。さらに三浦氏のようなイノベーションを創出するコネクターハブ企業の企業家には、③アーキテクチャー能力④共通言語の理解する、という2つの+αの能力を構築させた。この2つないし4つの能力がコネクターハブ企業の企業家の要件であると考えた。
  22.  従来型コネクターハブ企業とイノベーション創出型コクターハブ企業の企業家が地域に出現した外的要因は≪地域特性≫と≪経済環境の変化≫の2つの側面があると考察される。さらにイノベーション創出型コネクターハブ企業には、≪地域特性≫の教育機関の存在が従来型とはことなる外的要因であるとした。それらを背景とし、企業家同士の人的ネットワークの形成を可能とした。そして企業家同士の人的ネットワークは①地域分析能力②柔軟な専門性、さらにイノベーションを創出するコネクターハブ企業の企業家には③アーキテクチャー能力④共通言語の理解という能力が企業家の特徴に大きく影響したと考えられる。
  23. ルネサンス期におけるヒューマニズム(人文主義)とは主として古典研究、フマニタス研究を指すが20世紀にはいるとこの古典研究の意味から離れて合理主義的解釈が施される。→善や真理の根拠を、神ではなく理性的な人間の中に見出そうとした、と。その延長上として「人間中心主義」と訳出する場合があるが、この「人間」とは西欧近代的価値観に基づく「理性的」な人間であり、理性中心主義・西欧中心主義に通じる概念であると。この解釈は啓蒙主義以後の観点であり、ルネサンス人文主義とは明確に区別されるべきであろう。
  24. メトロポリスとしての根本段階まで戻し、消費と奉仕優先の生命経済(生活の質的基準を重視した経済)が必要である生命経済学を打ち出し、文化経済学の人間の創造活動を充実させる都市の再建の課題を創造性と都市論適用という理論で昇華させ、創造性のある都市への注目をつくった
  25. メトロポリスとしての根本段階まで戻し、消費と奉仕優先の生命経済(生活の質的基準を重視した経済)が必要である生命経済学を打ち出し、文化経済学の人間の創造活動を充実させる都市の再建の課題を創造性と都市論適用という理論で昇華させ、創造性のある都市への注目をつくった
  26. ニューヨークやロンドンが金融や法人サービスの世界市場の中心都市であるととおもに、金沢は文化・芸術の世界的なネットワークの中に位置する都市となる