派遣労働
- 1. 専門演習Ⅰ(中国地域研究)
2014 年 7 月 2 日㈬
【レジュメ】
山下昇「第 5 章 中国における労働者派遣とその法規制」(67-85 頁)
山下昇・龔 敏『変容する中国の労働法―「世界の工場」のワークルール』
(九州大学出版会、2010 年)
学籍番号:13212155
外国語学部 東アジア学科 藤川佳織
Ⅰ はじめに
――――中国の労働者派遣の背景とその仕組みを概観。
Ⅱ 内容の紹介
①中国においても労働者派遣が登場
まず派遣者派遣とは・・・正規雇用と対比される非正規雇用の1つで世界各国に広がっ
てきている!!
「労働者派遣事業をどう位置づけ、派遣労働者の利益をどのように保護できるか」は常
に社会の課題。
――――中国でも・・・「社会主義市場経済」において新しい就業形態として浸透!国
家機関・国有企業・企業など広範に利用される。一時「濫用」が話題になる。2008 年
1月「労働契約法」施行。
②中国における労働者派遣の発展
●定義――「労務派遣」
中国では労働者派遣の定義がまだ統一されていない!→→実務者・法学者間で「労務派
遣」、「労務賃借」、「人材派遣」、「人力派遣」、「労働派遣」、「労働力派遣」などさまざま
な呼び方で呼ばれてきた。ただ・・国務院の 2002 年公布の「通知」
各地方政府や関係部門に対して、就職や再就職のための多様なルートの1つとして、労
務派遣等を発展させることによって労働者の多様な就業をサポートすることを要求
この後の公式的な文書は一般的に「労務派遣」を使っている。
法的定義はないが、「派遣元企業(労務派遣単位)が自分の雇用する労働者を派遣先企
業(用工単位)に派遣し、労働者が派遣先企業の指揮下で労務提供」という共通認識が
ある。
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2014 年 7 月 2 日㈬
●中国の労働者派遣発展の歴史・背景
⑴ 外国企業中国駐在代表機構への労働者派遣
中国の労働者派遣・・1980 年代頃から。外国企業の北京の駐在機構に中国人派遣等を
目的で設立された「北京外企人力資源服務公司(FESCO)」が 1979 年ある日本企業の
中国駐在機構に中国人を派遣したのがはじまり。 法律の権利・義務がもてない
改革開放後、一部外国企業は中国に投資を開始。駐在代表機構を設立したが、中国に
おける法人資格がなく、中国人を雇用できなかった。そこで中国政府は、外国企業の駐
在代表機関は、政府関係部門が指定 OR 批准した特定の企業(外事服務単位)を通じて
のみ中国人を雇えると規定。この場合、外事服務単位が労働者と雇用契約を締結し、労
働者を外国企業の駐在機構に派遣。
⑵ 何が労働者派遣を促進してきたのか?
他の先進国同様、経済のグローバル化・労働市場や就業構造の変化等…
特に、中国の雇用政策の転換や農村労働力の都市への流動
政府が業促就進策として積極的に推進してきた
⑶ 国有企業改革
改革開放政策による市場経済化の進展、労働契約制度の拡大の中・・・国有企業の雇用
管理でとられていた、
「固定工制度」・・・中央集権的な計画経済体制の下で、基本的に労働者は中央政府・
地方政府の計画によって企業に振り分けられ、そのかわりよっぽど
のことがないと解雇されることはない。(終身雇用!)
⇓
の根本的改革が要請されるようになる。(能力主義が一般化されるようになるから)
⇓
そこで出現したのが・・・国有企業の雇用調整措置として、
「下岗制度」・・・不況による操業短縮などの時、余った従業員を景気回復後に再雇用する
条件で一時解雇する制度。(※雇用関係は維持されているが、実際にはポ
ストから外されており復職できるのはまれ。)
が導入される。
⇓
下岗人員は実際「失業者」。大量の再就職が求められる。
⇓
企業は「再就職センター」(国有企業の改革過程において設立が義務の組織)との間に委託
管理契約を締結。この「再就職センター」が企業に代わり、生活手当・医療費の支給を行
い、就職先斡旋や職業訓練を実施… という仕組みがとられた。
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⇓
一部の企業は「再就職センター」を基礎に、就職先確保の目的で労働者派遣機関を組織す
るようになる(ハケンが再就職の重要ルートとして機能…)
さらに実務において「下岗人員」の労働関係自体、派遣元企業に移転の場合もある。
↪ 地方では財政補助などの優遇政策によって積極的に奨励するものもある。
⑷ 農村労働力の都市への流動 ☚重要な背景!
以前は農村労働力の都市への流動が政府によって制限されたが、1980 年代から緩和され
2000 年以降ほぼなくなった。これに伴い、各地方政府は経済発展や農村労働者の就職状況
改善のため、労働者派遣を通じ組織的に促進してきた。
具体的形式…・農村労働者の所在地区で派遣元企業を設立する場合
・農村労働者を受け入れその労働力を利用する地区に派遣元企業を設立する場合
これらの組織の存在は農村労働力の合理的な流動に一定の役割があるとみられる。
Flexible:曲げやすい、柔軟な、融通のきく
⑸ 中央政府の促進 ☚重要!
上記のような厳しい就職状況のなかで、中国政府は「フレキシブルな就職」(灵话就业)を
高評価し、促進。労働者派遣もその1つ。各地方政府も積極的に提唱し、自ら派遣元企業
を設立したり、優遇政策を打ち出したりして労働者派遣をサポートしてきた。
③ 中国の労働者派遣の現状とその特徴
●中国の労働者派遣の現状
はじめは沿海地域を中心に展開したが次第に内陸地域まで広がり今は全国の大部分でみら
れる。公式」な統計数値はないが、外資系企業、民間企業、国有企業、国家機関、または
「事業単位」等多様なところで労働者派遣が利用される。
社会的公共利益のため、国家が組織し、国の財産で教育・科学技術・文化・衛生等の活動
を営む社会サービス的な組織。Ex.中国中央テレビは国内で最も多くの派遣労働者を利用
する「事業単位」であるといわれる
⑴ 派遣元企業
派遣元企業は上記のほかに各地方政府の労働部門や人事部門が設立したもの(多数をし
める)・民間が設立したもの・規模の大きい専門的な大手派遣企業もある。ただしほと
んど職業紹介や人事代理サービス等多様な業務と並行して労働者派遣の業務を行う。
(一部は条件化)
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労働者派遣の業界活動を規範化し競争力を高めるため一部では派遣元企業の協会が設
立され業界規約が制定されはじめている。Ex.2002 年上海市人材仲介業界協会 成立
2005 年「上海市人材派遣服務行約行規試行弁法」制定
また、全国の優秀派遣元企業の選抜等の業界活動が行なわれているように、派遣元企業
の業界活動が頻繁で、規模の大きいものへと発展してきている。
⑵ 労働者派遣の利用業種と派遣労働者
労働派遣の利用範囲はサービス業、製造業、建設業に集中しているものの次第に領域は
広がっている。主な派遣労働者は、農村からの出稼ぎ労働者、国有企業のリストラで生
じた「下岗人員」と専門的な人材に分けられる。
⑶ 労働者派遣の類型
・「回転型」派遣・・・特に国有企業や「事業単位」でよく利用される。雇用の際に定員制
をとるため、実際の求人需要に応じて定員枠以外に雇用する必要が
生じた時、統一的な雇用管理に大きな非効率と困難が伴う。
① A 社が雇用した労働者を解雇→➁B 社が派遣元企業として雇用→③A 社が B 社に派遣してもらう
解雇
(・ o・) ←派遣するだけ!
効率良し。
派遣
・「招 聘
しょうへい
型」派遣・・・派遣元企業が派遣先企業の要望に応じて募集広告を出し、単独また
は派遣先企業とともに面接したうえで雇用した労働者を派遣先に
派遣するもの。中国で最も多くみられる。
・・・日本と比べると…
人材派遣会社とは雇用関係にある。主に常用型と登録型の2つのタイプがある。
常用型は、派遣会社と常に雇用関係が成立している形態。つまり派遣会社の正社員という
こと。雇用主は派遣会社になり、勤務先は派遣先となる。
登録型は、派遣会社に登録して派遣先が決まって業務に入った時から雇用関係がスタート
する形態。契約が満了すれば派遣会社との雇用関係は終了する。
つまり、日本と比べると、中国の労働者派遣は、多くの場合
人事代理や職業紹介に近い!!!
A 社 B 社(派遣元企業)(・o・)
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(図‐1)
●中国における労働者派遣にはどんな特徴があるのか?
【先進国の場合】…労働者派遣が取り入れられた理由の1つとして、専門的または臨時的
な労働力の需要が挙げられる。
【中国の場合】…派遣労働者の多くは「下岗人員」などの弱者で、正規雇用が難しい
ため派遣労働に従事していることが多く、高学歴・スキルをもつ労働
者の派遣は少ない。
一般的には中国の労働者派遣は就職状況をある程度改善できたと評価されている。確かに
労働者派遣業が労働者に就職や再就職の機会を提供していることは否定できないが、様々
な問題が指摘されるようになり法規制の機運も一段と高まった。
Ⅲまとめ
いままで日本の人材派遣についてもよく知らなかったのだと実感した。中国の労働者派遣
について調べていても、自国の法律に知識がないといまいち理解できないことも多く、労
働法の深さを実感した。中国の労働者派遣法はやはり派遣労働者がすべて低スキルの弱者
にかたよっていること、派遣元企業との雇用関係がなくなってしまうのが問題点となると
考える。派遣元企業との繋がりがなくなってしまえば、派遣先での低スキルの派遣労働者
たちはなにか問題があっても声をあげられないだろう。日本もまだまだ人材派遣には問題
は多いが、日本の人材派遣法のように、派遣労働者の権利のためにも派遣元会社と労働者
の間は雇用形態で結ばれておくべきだと思った。
【参考文献】
http://m.searchina.ne.jp
http://work-as1.com/special/?p=795
(図1) http://workin.jp/static/haken/haken_sys.html より引用