二つ目。PCPだからか比較的読みやすかった。しかし内容はなかなか不完全燃焼…。

1. Abscisic Acid Acts as a Regulator
of Molecular Trafficking through
Plasmodesmata in the Moss
Physcomiterella patens
発表：藤井 友樹
植物育種学ラボ 論文紹介 その②
論文タイトル

2. Introduction(背景)-植物細胞間は原形質連絡を介した物質輸送を
行う
動物では多様な細胞間接着を介した細胞間
コミュニケーションを行う
植物では細胞壁の存在のため原形質連絡を
介した細胞間コミュニケーションを行う
多細胞生物の成長及び発生において細胞間
コミュニケーションは必須である

3. Introduction(背景)-原形質連絡を介した物質輸送は動的に制御さ
れる
カロース(β-1,3-glucan)は原形質連絡
を介した物質輸送の主要な制御因子で
あり 開口部に蓄積することでサイズ
排除限界(SEL)を低下させる
合成酵素と分解酵素の活性調節のバランスに
よりSELが制御される
また カロースを用いない制御経路も存在する

4. Introduction(背景)-いくつかの植物ホルモンはカロースの代謝調
節により植物細胞間の物質輸送を制御する
植物ホルモンがSELを制御する具体例
がいくつか報告されている
Ex)光屈性に関わるオーキシンはカロース
合成酵素(GSL8)の発現を正に制御し 局所
的なオーキシン濃度の上昇をもたらす(偏
差成長の促進)

5. Introduction(目的)-コケ植物を用いたアブシジン酸(ABA)による
原形質連絡を介した物質輸送制御の解析
植物ホルモンの一種であるアブシジン酸による
SELの制御はまだあまり報告されていない
また コケ植物やシダ植物などを用いた解析報告
も少ない
モデル生物であるヒメツリガネゴケを
用いた解析により 原形質連絡の機能を
より深く理解したい! ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)の茎葉体

6. Introduction(手法)-ヒメツリガネゴケ原糸体における蛍光タンパ
ク質を用いた物質輸送定量解析
原糸体はコケ植物が形成する繊維状組織であり
単層であるため細胞間輸送が容易に観察可能
Dendra2はUV照射により緑から赤に光変換可能
な蛍光タンパク質である
ヒメツリガネゴケの原糸体
Dendra2を常時発現する変異体を用い
原糸体における原形質連絡を介した
Dendra2の輸送を定量的に解析する

7. Results-外因性ABAはDendra2の細胞間輸送を抑制する
蛍光強度変化
処理系統 Cell0における蛍光強度
(0h)
Cell0における蛍光強度
(14h)
DMSO(mock) 1 0.33±0.13
1μM ABA 1 0.35±0.05
5μM ABA 1 0.48±0.07
10μM ABA 1 0.58±0.07
50μM ABA 1 0.81±0.09

8. Results-ABAによるDendra2輸送抑制は処理後一時間以内に生じ
る
Mockでは時間経過とともに傾き
が変化しないのに対して
ABA処理軍群(50μM)では60分
経過以降傾きが大きく変化する

9. Results-ABAによるDendra2輸送抑制は可逆的な反応である
処理系統 0h 6h 30h
mock 1 0.45±0.08
50μM
ABA→DMSO
1 1 0.26±0.08
50μM
ABA→50μM
ABA
1 1 0.72±0.19
DMSO処理によりABAによる
Dendra2輸送抑制は打ち消された
ABA→ABA処理群ではわずかに蛍
光強度が減少した
ABA→ABAでの蛍光強度減少は洗
浄後ABA効果が打ち消されたこと
により生じた?
→ABAの効果が打ち消されるのに
要する時間は一時間以内である?

10. Results-内因性ABAもまたDendra2輸送を抑制する
ABA合成能を欠いた変異体
(ppaba1)を用いた解析を行うこと
により内因性ABAの機能を評価
ppaba1においてcell0における蛍光
強度減少速度及び隣接細胞における
蛍光強度増加速度は有意に増加した

11. Results-ABA処理により原形質連絡開口部幅が減少する
ABA機能の詳細を調べるため 透過型
電子顕微鏡(TEM)により原形質連絡の
開口部幅・直径・単位線分辺りの密度
を測定
野生型ABA処理群ではmock処理及
びppaba1と比べ開口部幅が有意に
減少した
直径及び密度において有意差は見ら
れなかった
開口部幅の減少はカロースによ
る制御機構において見られる!

12. Results-カロースはABA依存的に蓄積する
カロースを特異的に検出するアニリンブルー染色
によりABA投与によるカロース蓄積量を評価
投与後24時間以内ではmock処理群と比較して有意差
は見られなかったが 72時間以降ではカロース蓄積量
が有意に増加した
→ABA依存的にカロースが蓄積した

13. Discussion-ABAはヒメツリガネゴケにおいて原形質連絡SELを
可逆的に制御する
• 干ばつ・冷気・機械的傷害などの非生物学的ストレスが原形質連絡SELを低下させる
(Cui and Lee 2016)
• ABAはこれらのストレス応答の際に重要な役割を果たす
(Julkowska and Testerink 2015)
これまでの知見
• ヒメツリガネゴケにおいてABAは原形質連絡SELを動的かつ可逆的に低下させる
• SELの低下は開口部幅減少に起因すると考えられる
今回得られた知見
ABAによる原形質連絡SELを低下はストレス応答機能で
あり この機能は陸上植物に普遍的に見られる進化的に
保存された機能である可能性が示唆される

14. Discussion-ABAはどのようにしてSELを低下させるのか
• カロースの蓄積により原形質連絡開口部幅が減少する
(De Storme and Geelen 2014)
• 病原菌感染応答としてABAによりカロース合成酵素(PR2)の転写阻害が
引き起こされSELが低下する
(Oide et al. 2013)
これまでの知見
• ABA処理後72時間後以降カロースが蓄積する
• ABA処理によるSEL低下は処理後一時間以内に生じる
今回得られた知見
少なくともヒメツリガネゴケにおいてABAによる
カロース非依存的なSEL低下経路が存在すること
が示唆される

15. 疑問点と解決案
• ヒメツリガネゴケにおいてABAによるSEL低下は生理学的にどのような機能を
持つか(どのようなストレスと対応しているか)
→ストレス処理による応答を解析する
• カロース非依存的なSEL低下はどのようにして起こるのか
→その他のSEL低下要因として発見されている経路について解析する
• ヒメツリガネゴケにおいてABA依存的カロース蓄積はどのような意義を持つか
→ABA処理後にカロースをキレートし生理機能を解析する