確率過程の可解性と代数構造
数理助教の会
2014年1月27日(月) 17:00-19:00
数理4研 松井 千尋
イントロダクション
• 統計力学:原子や分子レベルの運動規則から
例:電池,超流動
統計的手法を用いてマクロな性質を導き出す.
• 数理物理:モデルの数理的構造を使って 例:イジングモデル,
物理現象を解析的に説明する. 高温領域・低温領域のduality

• 物理現象はミクロな相互作用と多体効果によって引き起こされる.
• 相関長は無限に長くなることがある. 例:熱揺らぎと秩序化しようとする力
が釣り合う@低温

イジングモデル(T=2.1K)
イントロダクション
• 統計力学:原子や分子レベルの運動規則から
例:電池,超流動
統計的手法を用いてマクロな性質を導き出す.
• 数理物理:モデルの数理的構造を使って 例:イジングモデル,
物理現象を解析的に説明する. 高温領域・低温領域のduality

• 物理現象はミクロな相互作用と多体効果によって引き起こされる.
• 相関長は無限に長くなることがある. 例:熱揺らぎと秩序化しようとする力
が釣り合う@低温

イジングモデル(T=2.26K)
イントロダクション
• 統計力学:原子や分子レベルの運動規則から
例:電池,超流動
統計的手法を用いてマクロな性質を導き出す.
• 数理物理:モデルの数理的構造を使って 例:イジングモデル,
物理現象を解析的に説明する. 高温領域・低温領域のduality

• 物理現象はミクロな相互作用と多体効果によって引き起こされる.
• 相関長は無限に長くなることがある. 例:熱揺らぎと秩序化しようとする力
が釣り合う@低温

イジングモデル(T=2.7K)
イントロダクション
• 物理現象をなんとか分類したい!
• 臨界現象には系の詳細によらない特徴量が出現.
▫ 相関長のシステム・サイズ依存性
▫ スケーリング則(物理量の振る舞いに現れる冪の関係)
▫ 共形不変性(等角写像変換の下で不変)
• しかし,実際にこういった量を求めるのは困難.
▫ 多くは漸近解析や近似で導出.
▫ 可積分系と呼ばれる一部のモデルのみ,よい代数構造をもち,厳
密に解くことができる.
▫ ここではUq(sl2)代数の場合を取り扱う.
非対称単純排他過程 (ASEP)
• 体積排他相互作用をもつマルコフ過程.

rate p1で右へホッピング.
rate p2で左へホッピング.
隣に粒子がいる場合,移動不可.

• 交通流やmRNAの転写モデルとしてよく知られる.
• 密度プロファイルに相転移がある.

(左から)
低密度相,カレント最大相,
共存相,高密度相
[Sasamoto 03]

• Uq(sl2)不変(閉じた境界条件の場合).一般の境界条件下では
Askey-Wilson代数が現れる.
非対称単純排他過程 (ASEP)
• ASEPの状態空間は一次元に配列された {0,1} で与えられる.
粒子あり:
粒子なし:

• 隣り合った2サイト間での遷移に注目.
遷移の種類

遷移レート

(10) → (01)

p1

(01) → (10)

p2

• ベクトル表示

このベクトル空間で考えると
上の遷移則は 4×4 の行列で
書ける.

遷移行列
非対称単純排他過程 (ASEP)
• 一次元系全体に対する遷移行列は局所遷移行列の和で与えられる.

隣の状態のみによる.
• 境界条件を課して有限系で定義することも可能. マルコフ的(直前の状態
のみによる.)
周期境界条件
粒子の出入りなし
閉じた境界条件

incoming rate

一般の境界条件
outgoing rate

• ASEPの時間発展はマスター方程式により記述される.
代数表現と確率モデルの関係
• 遷移行列の代数的性質

Temperley-Lieb代数生成子

• 遷移行列はTL代数の2次元表現で書ける.
:2状態ASEP

:(ℓ+1)状態ASEP
代数表現と確率モデルの関係
• 元々のTL生成子に対してはgraphicalな表現が与えられている.
i

i

i

i+1

i+1

i

i+1

i+1

• テンソル積から空間の入れ替えに関して対称な部分空間を取り出し
て高次元表現を構成.
例:3状態の場合

1/2

1/2

1

0

射影演算子Yで
消える部分空間

i
Y

i+1
Y

i
Y

i+1
Y

Y
i

Y
i+1

Y
i

Y
i+1

[Zinn-Justin 07]
代数表現と確率モデルの関係
• 確率モデルであるためには以下の条件が成り立っている必要があ
る.
適切な相似変換
適切な生成子の組み合わ
▫ 確率保存則
せ
▫ 確率の正値性

確率保存則は成り立っているか?⇒ No.
代数表現と確率モデルの関係
• 確率モデルであるためには以下の条件が成り立っている必要があ
る.
適切な相似変換
適切な生成子の組み合わ
▫ 確率保存則
せ
▫ 確率の正値性

次の相似変換を考える.
代数表現と確率モデルの関係
• 確率モデルであるためには以下の条件が成り立っている必要があ
る.
適切な相似変換
適切な生成子の組み合わ
▫ 確率保存則
せ
▫ 確率の正値性

次の相似変換を考える.
代数表現と確率モデルの関係
• 確率モデルであるためには以下の条件が成り立っている必要があ
る.
適切な相似変換
適切な生成子の組み合わ
▫ 確率保存則
せ
▫ 確率の正値性

次の相似変換を考える.

同じ次元に属する全てのTL生成子が
確率保存則を満たすように同時に変換する.
代数表現と確率モデルの関係
• 確率モデルであるためには以下の条件が成り立っている必要があ
る.
適切な相似変換
適切な生成子の組み合わ
▫ 確率保存則
せ
▫ 確率の正値性

確率の正値性は満たされているか?⇒ No.
代数表現と確率モデルの関係
• 確率モデルであるためには以下の条件が成り立っている必要があ
る.
適切な相似変換
適切な生成子の組み合わ
▫ 確率保存則
せ
▫ 確率の正値性

同じ次元の異なるTL生成子を組み合わせてみる.
代数表現と確率モデルの関係
モデルの設定よりq > 0.

3
5

①
②
③
④

6
1
4

⑤

⑥

βに関する条件:

βが条件式を満たすとき,
相似変換されたTL生成子の
組み合わせは確率過程を
与える.
可解性とは
• ここで “確率過程が可解である” とは定常状態が厳密に求まるモデ
ルのことを指すことにする.

• 定常状態は時間発展に関して不変:
▫ もしマルコフ行列Mと交換する演算子を見つけられれば,定常状
態にその演算子を作用させて得られる状態も定常状態.
新しい定常状態

▫ TL代数生成子はUq(sl2)代数生成子と可換.
TL代数
生成子

dual
commute

Uq(sl2)代数
可解性とは
• Uq(sl2)代数生成子

• SU(2)代数生成子

• 2次元表現

• 2次元表現

q変形
可解性とは
• Uq(sl2)代数の生成子は局所空間に作用する.
• coproductを導入することにより,空間を拡げることが可能.

• coproductにより拡張された生成子は元の代数関係式を満たす.
可解性とは—定常状態—
• 0粒子状態(系に粒子がいない状態)は時間発展不変なので定常状
態.

サイト数Nの(ℓ+1)状態ASEPの定常状態は
サイト数ℓNの2状態ASEPの定常状態で書け
る.

• n粒子状態は,TL生成子との可換性を利用して,Uq(sl2)生成子を0粒
子状態に作用させることで構成できる.

サイト数ℓNの2状態ASEP
の
n粒子定常状態で書け
る.
可解性とは—ノルム—
• 定常状態のノルム

交換関係
S+の作用

• 状態ベクトルの規格化を以下のように定める.
可解性とは—粒子密度—
• 定常状態中のxthサイトでも粒子密度は以下で定義できる.

例:3状態の場合

行列部分も2状態ASEP 定常状態は2状態ASEP
で表せる.
で表せるか?
⇒ Yes.

• counting operatorを導入.

2状態での計算に置き換わった.
可解性とは—粒子密度—
• 導かれた公式:(ℓ+1)状態の粒子密度の計算は2状態の密度計算に分
解される.

• 2状態の場合の表式 [Sandow-Schutz 94]

large Nでの漸近形

高密度相から0密度相への減衰速度は
系の状態数に依存する.
可解性とは—粒子カレント—
• Particle-counting operatorを使って粒子の流れを表す.
▫ 2状態の場合

▫ 3状態の場合

??
可解性とは—粒子カレント—
可解性とは—粒子カレント—
• Particle-counting operatorを使って粒子の流れを表す.
▫ 2状態の場合

▫ 3状態の場合

=0

閉じた境界条件では
定常状態中のカレントが
消えてしまう.

Multi-state extension of asymmetric simple exclusion process