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小惑星資源探査を取り巻く状況
~海外の宇宙資源プロジェクト
~
寺薗 淳也 (会津大学)
大貫 美鈴 (スペースフロンティアファウンデー
ション)
中村 良介 (産業総合技術研究所)
齋藤 潤 (M.S.K.(株)/東海大工学部)
http://moonstation.jp
@terakinizers terazono@u-aizu.ac.jp Photo by NASA
今日の内容
• 本発表の背景
– 小惑星イニシアチブについて
• 小惑星資源探査を巡る最新動向
– 小惑星イニシアチブ
– 民間小惑星資源採掘
– アメリカ政府としての支援策
• アメリカの小惑星資源採掘計画に関する懸念・問題点
• まとめ
本発表の背景
近年、小惑星探査、とりわけアメリカが計画する小惑星
探査は驚くべき進展を見せている。
とりわけ、2013年に発表されたNASAの計画「小惑星イニ
シアチブ」は、小惑星を捕獲・移動し探査するという大
胆な計画も相まって一躍世界の注目を集めた。
また、それと連動する形で、アメリカの民間企業による
小惑星資源採掘計画も着実に進んでいる。
筆者は、2013年以来このような(主に)アメリカの小惑星探
査・小惑星資源採掘計画の動向を調査し、本学会にて報
告している。3回目の今回は、前回の発表より大きく進展
があった箇所を重点的に報告し、合わせてこれらの計画
の問題点などについて述べる。
小惑星資源探査を巡る最新動向
小惑星イニシアチブ
• 基本的には、小惑星を移動・探査するミッション(ARMま
たはARRM)と、地球に危険を及ぼす小惑星(潜在危険小惑
星=PHA)を監視する小惑星グランドチャレンジからなる。
• ARMは、地球近傍小惑星のうち、大きさ数m~数十mの
ものを地球・月遷移軌道に移動させ、有人探査を実施す
るという計画。
– 有人探査は、現在開発中のOrion宇宙船で実施
– 無人探査機を先に打ち上げ、後からOrionが追いかける形
• 小惑星グランドチャレンジは、PHAの監視を、NASAだけ
ではなく、大学、民間企業、アマチュア天文家などの幅
広い枠組みで行う計画。
– 監視だけではなく、小惑星発見などのための技術開発も含まれ
る。
ARMの大きな変更点
従来のARMでは、小惑星そのものを捕獲することにしてい
たが、2014年度の検討でこの案は破棄され、現在では小惑
星表面の大きさ数mの岩をロボットアームで捕獲するとい
う案に移っている。
Photo by NASA
ARMの候補天体
• 2008 EV5
• 1999 RQ36 (Bennu)
– OSIRIS-RExミッションのターゲット
• 1999 JU3
– はやぶさ2ミッションのターゲット
• 1998 SF36 (Itokawa)
– はやぶさミッションのターゲット
現在の検討は2008 EV5を軸に進められている模様。候補天体の
理由としては、遠地点が比較的近い(1.04AU)こと、C型小惑星で
あること、V∞が4.41km/sで探査機としてアプローチしやすいことな
どがある。
打ち上げ時期など
• 打ち上げ時期は2020年12月。
– 2023年にOrionによる有人探査を実施する。
– これは、本来であればOrionが実施する3回目の有人探査となるは
ずであった。しかし、この9月にOrionの計画が変更され、有人
初飛行が2020年となるため、本格的な有人ミッションはもしこ
のままなら「ぶっつけ本番」となる。
• コストは最大125億ドル
– 日本円では1兆5000億円
• ミッションとしては、まず現地に行き、小惑星の観測(72
日)、サンプル取得(69日)、そして将来の軌道変換技術を
テストする試験(150日)が行われる予定。その後、無人探
査機は小惑星の軌道を離れ、地球・月遷移軌道へと向か
う。
小惑星グランドチャレンジ
• 教育系のプロジェクトが先行している。
• SpaceGAMBITという団体と組み、教育ツールとして
Asteroid Response Centerというウェブを立ち上げている。
– 現在のところは、教育などに使える(もしくは自習ツールとして
も利用できる)小惑星についての動画が数本掲載されている。
– 小惑星のことを子供たちに知ってもらうことが目的であり、さ
らには将来的には小惑星の観測・データ解析なども(オンライン
で?)実施する可能性がある。
• Open Space Agency及び南アフリカの高校生と共同で、3D
プリンタで製作できる300ドルほどの望遠鏡を開発。
現時点では学生や一般市民の普及啓発という側面が大きい。
ただ、これらのプロジェクトのシステム開発の委託先は、後
述するPlanetary Resourcesなど、小惑星資源採掘会社という
ケースが多い。
Asteroid Resource Center
民間の小惑星資源採掘
~Planetary Resources社~
• 以前から計画を進めていた、小惑星観測用の民間宇宙望
遠鏡、Arkydのパイロット望遠鏡の打ち上げに成功。
– 2014年10月28日に打ち上げられたが、このときは補給船Cygnus
がロケット爆発事故で失われ、打ち上げられなかった。
– そのため、代替品となるArkyd (A3R)が開発され、こちらは2015年
4月14日に無事打ち上げ成功。
– 7月16日には、ISSの日本の「きぼう」実験棟の暴露部より放出さ
れ、90日間のミッションを実施している。
Arkyd 3
Planetary Resources社の
候補天体
• 2014 EK14
• 2014 SC324
• 1999 JU3
• 2002 TC70
• 2001 CG2
• 2001 QC34
• 2013 PA7
• 2008 HU4
Planetary Resources社は、すでに小惑星資源採掘の候補とし
ていくつかの小惑星を検討しており、今後の探査などの結
果を踏まえ、この中からの絞り込みを行う予定である。
これらの選定については、以下の点
が考慮されている。
• 大きさ
• 打ち上げタイミング(2016~2020年
を想定)を踏まえた上での地球から
の到達可能性
• 小惑星のタイプ
• 他のミッションによる観測
• 到達にかかる時間
今後、Arkyd望遠鏡での観測結果や他
のミッションの成果などを踏まえ、
ターゲットを絞り込む予定。
Asterank
• Planetary Resources社が立ち上げた、小惑星のデータ
ベース。
– なお、小惑星のデータ自体はJPLのものを使っているようだ。
• 資源という観点からみた小惑星のランク付けを行ってい
る。
– コストパフォーマンス(cost effective)
– 価値がある (valuable)
– 行きやすい (accessible)
– 近いうちに地球近傍を通過する (upcoming passes)
– 大きさ (largest, smallest)
• 例えば、cost effectiveで1位になっているのは1999 JU3で、
その価値は950.2億ドルとのこと(11.7兆円)。
Asterankのページ
民間の小惑星資源採掘
~Deep Space Industries社~
• Mothershipという宇宙船の構想を打ち出している。
– 小惑星資源探査を行う探査機(おそらく超小型衛星)の通信中継用
の宇宙船。
• Mothership自体も大きさは36kgと小型。
• 2018年第1四半期打ち上げ予定。
Mothershipの構想図 (© Deep Space Industries)
アメリカ政府としての支援
策
• 小惑星資源探査を後押しする意味も含め、ASTEORID法
(ASTEROID act)が提出された。
• 2015年になり新たにSPACE actが上程された。
– このSPACE actはASTEOID actを吸収した形になっている。
• SPACE actの中には宇宙資源探査・利用の章が設けられて
いる。
– 国家の必要性に見合う商業宇宙資源探査・利用を促進すること
– 上記の目的を達成するため、既存の法律において不利になる部
分がある場合には修正・削除すること
– アメリカの民間企業が宇宙探査及び宇宙資源利用を実施するこ
とを促進し、またそれらの資源の譲渡・売却を可能とする
アメリカの小惑星資源採掘計
画に関する問題点・懸念
• ミッションスケジュールがタイトすぎないか?
– 2017年にARRMの実機打ち上げ、2023年には有人小惑星探査を実
施するというのは、現行の各種計画との整合性を考えてもかな
り無理がある。
– もっとも、つい最近になってOrion宇宙船の有人初飛行計画が延
期になったため、その意味ではスケジュールに余裕が出てきて
いる。
• 民間企業の計画はこのままいくだろうか?
– NASAや政府の動きとも絡むだけに、特に政権交代が起こる来年
以降の動きを注視する必要がある。
• アメリカ政府の動き
– ASTEROID法は現行の各種国際条約(宇宙条約など)と整合性が
ないようにみえる。
– アメリカ政府の動きが他国へ(日本も含め)どう波及するか見
守る(場合よっては先手を打つ)必要がある。
今後に向けて、
考えておくべきこと
• 今後のアメリカの政局などによって、状況が大きく変化
する可能性も考慮する必要がある。
– 特に来年は大統領選挙の年であることを考える必要がある。
– また、経済状況によっては、ベンチャー企業に大量の資金が流
れるという構造が変化する可能性もある。
• 日本としての対応をしっかりと考えておくことが必要。
– 日本は小惑星への複数のサンプルリターンを実施し、その目標
天体はARMや資源探査の候補天体の上位になっている。
– 「日本は成果だけ持っていかれる」ということになってはなら
ない。科学的成果を出した国として、相応の権利を主張すべき。
– 現行の日本の宇宙開発計画の中に、こういった資源探査やさら
なる小惑星探査についての言及がないのは心配。
• そのためにも海外の状況は見続けていくことが必要。

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