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国際カルテル事件
~日米競争法の概要、執行状況~
弁護士・ニューヨーク州弁護士 中村 優紀
2016年7月1日
本内容は、当職の個人的見解を述べるものであり、所属する法律事務所その
他の団体の見解を示すものではありません。
自己紹介
弁護士・ニューヨーク州弁護士
2000年3月 宮城県立仙台第二高校卒業
2005年3月 一橋大学法学部卒業
2007年3月 一橋大学法科大学院卒業
2009年12月 最高裁判所司法研修所修了(新62期)
弁護士登録(東京弁護士会)
2010年1月 矢吹法律事務所入所
2014年5月 米国Northwestern University School of Law卒業(LL.M.)
2014年9月〜2015年6月 米国Gibson, Dunn & Crutcher LLP (San
Francisco)
2015年4月 ニューヨーク州弁護士登録
2015年7月 矢吹法律事務所復帰~現在に至る 7/1/2016
2
アウトライン
1. カルテル事件とは?
2. 日本の独占禁止法
3. アメリカの反トラスト法
7/1/2016
3
アウトライン
1. カルテル事件とは?
2. 日本の独占禁止法
3. アメリカの反トラスト法
7/1/2016
4
カルテル事件とは?
 カルテルの類型
 ①入札談合: 落札予定者や入札価格を調整
 ②価格カルテル: 販売価格を調整、共同して値上げ
 ③市場分割カルテル: 販売地域、顧客を分け合う
 ③ハブアンドスポーク型カルテル
 競争者同士は直接コンタクトを取らず、競争者とはいえない第三者を情報交
換の媒体とすることで、互いの行動を調整しあう
 Hasbro/Argos/Littewoods事件
 玩具メーカーのHasbroが小売業者ArgosとLittlewoodsにそれぞれ同じ推奨価格を
示し、小売業者側もHasbroを解した価格指示が小売価格の下落を防ぐため、互い
の小売業者もこれに従うと承知していた
 ④シグナリング型カルテル
 自社製品の価格引き上げの意図を、前もって競合他社も分かるような公の
発表の形で開示する行為
 米国のレンタルトラック事業者が、投資家向けの収支報告において、他のレ
ンタルトラック事業者に対し、価格の引き上げを呼びかけた行為が、米国の
反トラスト法に違反すると認定された
 ⑤ベンチマークカルテル(LIBOR事件)
7/1/2016
5
カルテル事件とは?(続き)
 自動車部品カルテル(2014年11月1日 日本経済新聞)
 機械部品メーカーの日立金属が自動車部品の価格カルテルに関与
したことを認め、125万ドル(約1億4千万円)の罰金を支払う司法取
引に同意
 日立金属は2005年から09年にかけて、米国で自動車のブレーキ関
連部品をトヨタ自動車に販売する際、価格操作や不正入札を繰り返
した
 司法省が取り締まりを進める一連の自動車部品の価格カルテル事
件では、今回を含め日本企業を中心に30社が摘発
 米国司法省「歴史上もっとも大規模なカルテル」
 日本企業を中心とする35社、役職員55名を訴追(2015年5月現在)
 最高4.7億ドルの罰金、20社以上が1000万ドル以上の罰金
 30名(日本人29名)について約1年~2年の禁固刑及び罰金
7/1/2016
6
Defendant Year County Fine Product
1 AU Optronics Corporation of
Taiwan
2012
Taiwan $500M
Liquid Crystal Display
(LCD) Panels
2 F. Hoffmann-La Roche, Ltd. 1999 Switzerland $500M Vitamins
3 Yazaki Corporation 2012 Japan $470M Automobile Parts
4 Bridgestone Corporation 2014 Japan $425M Anti-vibration Rubber
5 LG Display Co., Ltd &
LG Display America
2009
Korea $400M
Liquid Crystal Display
(LCD) Panels
…
12 Furukawa Electric Co. Ltd. 2012 Japan $200M Automotive Wire
Harnesses, etc.
13 Hitachi Automotive Systems,
Ltd
2014 Japan $195M Same above
14 Mitsubishi Electric
Corporation
2014 Japan $190M Automotive Wire
Harnesses, etc.
 カルテルの罰金額~$10M Club (トップ20社のうち日系企業が8
社を占める)
Gibson Dunn & Crutcher LLP “2015 Year-End Criminal Antitrust and Competition Law Update”を加工7
カルテル事件とは?(続き)
Defendant Fine Product
1 Citicorp $925M Foreign Exchange
2 Deutsche Bank & DB Group Services
(UK) Limited
$775M LIBOR
7 NGK Insulators Ltd. $65.3M Auto Parts (ceramic substrates)
8 Kayaba Industry Co. Ltd., dba KYB
Corporation
$62M Auto Parts (shock absorbers)
9 Nippon Yusen Kabushiki Kaisha $59.4M Ocean Cargo Services
11 Aisin Seiki Co. Ltd. $35.8M Auto Parts (variable valve timing
devices)
13 NEC Tokin Corp. $13.8M Electrolytic Capacitors
14 Minebea Co. Ltd. $13.5M Ball Bearings
16 Sanden Corp. $3.2M Auto Parts (air conditioning
compressors)
17 Yamada Manufacturing Co. $2.5M Auto Parts (manual steering columns)
18 Hitachi Metals Ltd. $1.2M Auto Parts (brake hoses)
…
 2014年10月~2015年9月の高額罰金事例
Gibson Dunn & Crutcher LLP “2015 Year-End Criminal Antitrust and Competition Law Update”を加工8
カルテル事件とは?(続き)
カルテル事件とは?(続き)
 リニエンシー制度(制裁金減免制度)による違反申告によって連
鎖的にカルテルが摘発され、自動車部品カルテルにつながった
 欧州充電メーカーABB社が世界的リニエンシー申請(可能性が高
い)
 2009年1月 高圧電線に関するカルテルで、日系高圧電線メーカー
3社を摘発
 摘発されたうちの1社(日立電線の出資するアドバンスト・ケーブル・
システムズ)がリニエンシー申請
 2009年6月 NTT向け光ファイバーのカルテル摘発
 摘発された2社に出資していた昭和電線がリニエンシー申請
 2009年12月 屋内配線カルテル、VVFケーブルカルテルの摘発
 摘発された古河電工がリニエンシー申請
 2010年2月 ワイヤーハーネスカルテルの摘発
 2011年7月~ 大規模な自動車部品カルテルの摘発
7/1/2016
9
アウトライン
1. カルテル事件とは?
2. 日本の独占禁止法
3. アメリカの反トラスト法
7/1/2016
10
日本の独占禁止法~違反類型
 独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)
 「公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動
を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の
利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する
ことを目的」(第1条)
 1)不当な取引制限の禁止(価格カルテル、市場分割カルテル等)
 2) 私的独占の禁止
 3) 企業結合規制
 4) 不公正な取引方法の禁止
 景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)
 不当な表示や過大な景品類を規制し、消費者が適正に商品・サービス
を選択できる環境を確保
 下請代金支払遅延等防止法
 親事業者の下請事業者に対する取引を公正にして、下請事業者の利
益を保護
7/1/2016
11
日本の独占禁止法~違反類型(続き)
 独占禁止法
 1) 不当な取引制限(独占禁止法2条6項)
 「事業者が、、、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しく
は引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を
制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、
公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制
限すること」
 同業者や業界団体で、価格や生産数量などを取り決め、お互いに
市場で競争を行わないようにすること(価格カルテル、入札談合)
 カルテルを規制する趣旨
 自由競争市場の確保、消費者利益の確保
 新規参入の促進、市場主義経済の発達
 カルテル規制がない世界?
7/1/2016
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日本の独占禁止法~違反類型(続き)
 「相互にその事業活動を拘束し、又は遂行すること」
 東芝ケミカル事件(東京高判平成7年9月25日)
 事業者相互で拘束し合うことを明示して合意する必要はなく、相
互に他の事業者の行為を認識して、暗黙のうちに認容することで
足りる
 暗黙の意思の連絡があれば足りる
 「競争を実質的に制限」
 東宝・スバル事件(東京高判昭和26年9月19日)
 競争の実質的制限とは、競争自体が減少して、特定の事業者ま
たは事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、
数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配す
ることができる形態が現れているか、または少なくとも現れようと
する程度に至っている状態
 市場支配力の形成・維持・強化
7/1/2016
13
日本の独占禁止法~違反類型(続き)
 2) 私的独占 (独占禁止法2条5項)
 「事業者が、、、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配すること
により、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質
的に制限すること」
 有力な企業が、株式の所有や役員の派遣などによって競争事業者
を統制下に置いたり(支配)、取引先への圧力などにより競争事業
者を市場から追い出し又は新規参入を妨害すること(排除)
 3)企業結合規制
 一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合
等における株式保有・役員兼任・合併・分割・共同株式移転・事業譲
受け等の禁止
 有力な2社が合併して市場の販売価格をコントロールできるようにな
ると、ユーザーにとって購入先の選択肢が狭まり、値上げに対抗で
きなくなる
7/1/2016
14
日本の独占禁止法~違反類型(続き)
 企業結合規制: 王子ホールディングス㈱による中越パルプ工業㈱の株式
取得(平成27年5月)
 事案
 王子グループは、中越パルプ工業の議決権10%弱を保有
 本件株式取得の結果,同議決権の20%超を保有、議決権保有比率の順位は単
独で第1位
 王子グループと中越パルプ工業の間に結合関係が形成
 公取委の判断
 6品種の製造販売市場における競争を実質的に制限することとなる
 本件株式取得後、6品種の紙の製造販売シェアは45%~75%と増大
 当該市場では輸入圧力や参入圧力が認められない
 需要者からの競争圧力は限定的
 製紙業者による一斉値上げの状況が認められる
 問題解消措置によるクリアランス
 本件株式取得により競争が実質的に制限されることとならない
 本件株式取得後、当事会社は6品種の製造・販売に関しそれぞれ独立して事業活動を行
い、同製造・販売に関する秘密情報を共有しないこと等を公取委に約束
 王子グループが保有することとなる議決権は20%をわずかに超える程度
 兼任役員数は1名であること等
7/1/2016
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日本の独占禁止法~違反類型(続き)
 4) 不公正な取引方法(独占禁止法19条、一般指定) ※以下は
違反類型の一部
 不当廉売
 正当な理由がないのに,供給に必要な経費を大幅に下回る価格で
継続して販売するなどして,競争事業者の事業活動を困難にさせる
おそれがあること
 抱き合わせ販売
 相手方に対し,不当に,商品の供給に併せて他の商品を自己又は
自己の指定する事業者から購入させること
 再販売価格の拘束
 正当な理由がないのに,取引先事業者に対して,転売する価格を指
示し,遵守させること
 優越的地位の濫用
 取引上の地位を利用して,取引の相手方に対し,不当に,不利益を
与えること
7/1/2016
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日本の独占禁止法~違反類型(続き)
 再販売価格の拘束: コールマンジャパン株式会社に対する排
除措置命令(平成28年6月15日)
 コールマンのキャンプ用品について,遅くとも平成22年以降,
毎年8月頃に,翌シーズンに小売業者が販売を行うに当たっ
ての販売ルールを次のとおり定めていた。
 販売価格は,コールマンのキャンプ用品ごとにコールマンジャパ
ンが定める下限の価格以上の価格とする
 割引販売は,他社の商品を含めた全ての商品を対象として実施
する場合又は実店舗における在庫処分を目的として,コールマン
ジャパンが指定する日以降,チラシ広告を行わずに実施する場
合に限り認める
7/1/2016
17
日本の独占禁止法~違反類型(続き)
 下請代金支払遅延等防止法: ゼビオ株式会社に対する
勧告(平成27年7月31日)
 自社の店舗で販売するスポーツ用品等の製造を委託
 店頭販売価格の引下げを行うに当たって、当該引下げ額を「値
引」として差し引くなどにより、下請代金の額を減じていた(下請
事業者9名に対し,総額約1320万円を減額)
 販売期間終了を理由に、自社の商品を引き取らせるなどしてい
た(下請事業者4名に対し、約3828万円相当の商品を返品)
 公取委の勧告
 今後減額・返品を行わないことの取締役会決議
 下請法の遵守体制を整備すること
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日本の独占禁止法~違反への制裁
 カルテル事件における制裁
 ①排除措置命令及び課徴金納付命令
 公正取引委員会は,違反行為をした者に対し,意見陳述・証拠提出の機会を与えるなどの
意見聴取手続を経て命令を行う
 法人に対する課徴金(行政罰)
 課徴金=(カルテルの実行期間中の売上額)×10%(製造業の場合)
 売上額=カルテルの対象となった商品又は役務の売上が対象
 実行期間は最長3年間
 繰り返し又は主導的立場の場合は50%増
 平成27年度
 排除措置命令 9件(入札談合・受注調整:5件,価格カルテル:2件,事業者団体による構成
事業者の不当な制限:2件)
 課徴金納付命令 7件
 ②刑事罰
 法人: 5億円以下の罰金
 個人: 5年以下の懲役又は500万円以下の罰金
 日本で実際に懲役刑の実刑判決が出た事例はない
 公取委の刑事告発が必要(平成2年以降、合計16件の刑事告発)
7/1/2016
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日本の独占禁止法~違反への制裁(続き)
 課徴金納付命令: アルミ電解コンデンサ事件(平成28年3
月29日)
 違反事業者4社は、「マーケット研究会」などと称する会合を
毎月開催するなどして、アルミ電解コンデンサの販売価格を
引き上げる旨を伝え合うなどにより、その販売価格を共同して
引き上げることを合意(1社は、会合以外の場所で他の違反
事業者と販売価格の引き上げについて伝えあった)
 違反事業者3社に対して各々、33億6223万円、14億3524万
円、10億6774万円の課徴金納付命令(1社は課徴金減免申
請をしていたので全額免除)
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日本の独占禁止法~違反への制裁(続き)
 刑事罰: 北陸新幹線融雪・消雪基地機械設備工事に係る
入札談合事件(東京地判平成26年11月14日)
 事案
 独立行政法人鉄道・運輸機構が、条件付一般競争入札の方法で
北陸新幹線融雪・消雪基地機械設備工事を順次発注
 冷暖房設備工事の請負等の事業者8社が、東京都内の飲食店
等で、受注予定事業者を決定するとともに、当該受注予定事業
者が受注できるような価格で入札を行うことなどを合意
 公取委が検事総長に告発、東京地検が起訴
 東京地方裁判所は、以下の判決を言渡した
 被告会社に1億2000万円から1億6000万円の罰金
 被告会社社員に懲役1年2月から1年6月(執行猶予3年)
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日本の独占禁止法~リニエンシー
 競争当局がカルテルの証拠を得る前にその証拠を提出し、
調査手続きに協力することで、刑罰の減免を受ける制度
 調査開始日前の1番目の申請者 ⇒ 課徴金を免除
 調査開始日前の2番目の申請者 ⇒ 課徴金を50%減額
 調査開始日前の3~5番目の申請者 ⇒ 課徴金を30%減額
 調査開始日以後の申請者 ⇒ 課徴金を30%減額(3社まで)
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日本の独占禁止法~公取委の調査
 公取委の調査の端緒
 リニエンシー、通報
 証拠収集、海外当局との調査協力
 立入調査(Dawn raid)への対応
 依頼者弁護士間秘匿特権(attorney-client privilege)がないので、弁護士とのコミュニケー
ションを秘匿できない
 公取委による長時間の事情聴取、自白に重きを置く調査手法、弁護士同席できない
 証拠の破棄による制裁のリスク
 営業部署は手帳等全て留置されるので、業務に支障がでないようコピーをする
 法務部はLitigation holdの通知、役員会を開催して方針決定、外部弁護士の起用
 外部弁護士はリニエンシー申請の検討、社内調査を進める、公取委との折衝
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アウトライン
1. カルテル事件とは?
2. 日本の独占禁止法
3. アメリカの反トラスト法
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アメリカ反トラスト法~規制当局
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 米国司法省
 DOJ(Department of
Justice)
 主に、 The Sherman Actの
執行を担当
 連邦取引委員会
 FTC(Federal Trade
Commission)
 主に、 The Clayton Actの執行を
担当
アメリカ反トラスト法~違反類型
 シャーマン法(The Sherman Act)
 独占禁止、カルテル禁止、企業結合規制
 Section 1 "Every contract, combination in the form of trust or
otherwise, or conspiracy, in restraint of trade or commerce
among the several States, or with foreign nations, is declared to
be illegal.“
 「各州間もしくは外国との取引または通商を制限する全ての契約、ト
ラストその他の形態による結合または共謀を違法とする」
 クレイトン法(The Clayton Act)
 排他的取引の禁止、抱き合わせ販売の禁止
 差別的価格設定の禁止(The Robinson - Patman Act, 1936)
 寡占的企業合併の禁止(The Hart-Scott-Rodino Act, 1976)
 連邦取引委員会法(The Federal Trade Commission Act,
1914)
 その他、各州法が反競争的行為を規制
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アメリカ反トラスト法~違反への制裁
 シャーマン法1条違反(カルテル行為)への制裁
 法人
 1億ドル以下の罰金(刑事罰)
 ただし、違法行為で得た利益の2倍まで引き上げられる
 量刑ガイドライン(Federal Sentencing Guideline)による罰金の算
定
 ①基礎罰金額(Base fine)
 違反行為により生じた損害(カルテルの場合取引額の20%)
 米国内のCommerceに生じた影響を考慮
 ②責任スコア(Culpability score)に基づく罰金額のレンジ算定
 0.75倍~4倍。会社規模、調査への協力、違反歴、遵法体制等を考
慮
 ③裁判所による罰金額の決定
 調査への協力、違反行為の影響、カルテルでの役割、違反前歴等を
考慮
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アメリカ反トラスト法~違反への制裁(続き)
 個人
 100万ドル以下の罰金、10 年以下の禁固刑(併科もあり)
 違反会社は、DOJと司法取引を行う(Plea agreementの締結)
 Plea agreementで除外される(起訴される)被疑者が特定される
(carve out)
 "except that the protections granted in this paragraph do not apply
to [insert names of all carve outs who have been publicly charged]"
 外国人の禁固刑の平均期間は15ヶ月(2013年)
 1997年~2014年 合計88人の外国人が禁固刑
 禁固刑の期間は、取引の規模や、当該個人の役割等を考慮
 営業幹部が会社を抜けることのダメージ、家族を離れる不安
 "会社のため"にしたカルテルによって、個人が禁固刑を科される
 刑務所の待遇は意外にいい
 メールや電話が使える、囚人服は着ない、英語ができなければ部屋割り配
慮
 入所する刑務所を予め見学できる
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アメリカ反トラスト法~違反への制裁(続き)
 個人に対する禁固刑についての疑問
 米国外に所在している限り、禁固刑を科されないのか?
 日本企業の役職員の相当数は、自主的に米国に渡航して有
罪答弁を行い、米国で服役する
 一方、DOJとの交渉に応じないで、日本から出国しないことと
する者もいる
 原則、米国の司法権は日本に及ばないが、英米系の国の入
国時に入管で逮捕され米国に移送されるリスク
 逮捕をおそれて渡航制限をすると業務の支障が致命的な場
合、むしろ収監され服役を終えた方が良いという考え方もある
 DOJは服役終了後は入管に再入国を認めるよう通知している
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アメリカ反トラスト法~違反への制裁(続き)
 犯罪人引渡条約による米国外からの被疑者引渡し事例
 2010年8月 マリンホース事件で摘発されたイタリアの会社の元幹部(イタリア人)が、フロ
リダ州連邦地裁大陪審で起訴される
 2013年 6 月 当該被疑者が、出張先のナイジェリアからイタリアに帰国中、経由地である
ドイツ・ フランクフルト空港で、ドイツ当局に逮捕される
 2014年4月 当該被疑者は米国当局に引渡され、フロリダ州に移された。禁固 2 年(ドイツ
で拘束されていた 9 か月間を刑期算入)と 5 万米ドルの罰金刑
 独米犯罪人引渡条約の存在。かつ、ドイツでは談合は刑事罰の対象(双罰性あり)
 日本人は、米国外(日本含む)にいても、同様に米国に引き渡される可能性がある
 ①日米犯罪人引渡条約がある
 日本は米国及び韓国と犯罪人引渡条約を締結。日本は裁量で自国民を引き渡せる(条約5
条)
 一方、逃亡犯罪人引渡法 2 条 9号は逃亡犯罪人が日本国民のときは引き渡してはならない
と規定
 日米犯罪人引渡条約が優先適用
 ②双罰性の要件(double criminality)を満たす
 被請求国でも嫌疑がかけられている行為が犯罪とされていること
 日本の逃亡犯罪人引渡法は、請求対象行為が日本で懲 役・禁固 3 年以上の罪になることを
要求
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アメリカ反トラスト法~違反への制裁(続き)
 Red notice list掲載
 DOJが、出頭しない外国人をInternational Criminal Police
Organization (ICPO、国際刑事警察機構)に通知すると、当
該外国人はred noticeに掲載される。この事実を加盟国が認
識すると、犯罪人引渡条約等に基づき米国へ引渡しが行わ
れる可能性がある。
 一方、犯罪人引渡条約によらない限り身柄を外国政府に引き
渡すことはないので、Red noticeが出されても引き渡されない
という見解もある
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アメリカ反トラスト法~違反への制裁(続き)
 クラスアクション-民事訴訟における損害賠償債務
 米国では司法省の調査手続と並行してクラスアクションが提起される
 原告は、直接購入者(自動車部品カルテルであれば自動車メーカー)、間接購入者(エンドユーザー)
 オプトアウト方式(明示的に参加しない旨を表明しない限り原告となる)
 参加の意思表明を行わなくとも、訴訟から離脱(オプトアウト)する意思を表明しない限り、自動的にクラス構成員に取り
込まれ、原告の数が膨大になる。請求金額も大きくできる
 クラスアクションをビジネスとする専門ローファームの存在(Plaintiff lawyer)
 カルテルより最終製品に転嫁された価格(Overcharge)が損害
 証拠開示手続(ディスカバリー)の負担、弁護士費用
 紙の文書と電子情報の双方を含む
 電子メール、手帳、領収書、当局の捜査で使われた文書が開示命令対象
 →口頭でのリニエンシー申請、Profferにより開示対象にならないようにする
 →ディスカバリーがあるからこそ原告は証拠にアクセスできる ⇔日本
 懲罰的賠償(実損害額の3倍の金銭賠償)←クレイトン法4条、違反抑止
 敗訴した場合、原告の訴訟費用(合理的な弁護士報酬含む)を支払う義務
 ディスカバリー手続による莫大な負担、敗訴による高額の賠償リスクを避けるため、真に違反があったかわか
らなくとも和解金を支払うこともある
 1つのカルテルが会社を10年苦しめる
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アメリカ反トラスト法~違反への制裁(続き)
 ディスカバリー手続の多大な労力と費用から逃れる法的手段
 ①ディスカバリー手続前の、訴え却下の申し立て(Motion to dismiss)
 2007年Twombly事件最高裁判決
 訴え却下の申し立てを斥け、ディスカバリー手続に進むには、原告の訴状に被告
らの違法な合意を推測させるもっともらしい(plausible)根拠が記載されている必
要
 被告らが並行的に行動しているとの客観的事情の記載、単に共謀したとの結論
だけでは不十分
 2009年 Iqbal事件最高裁判決
 「もっともらしい」というためには、被告が不法行為を追うことを合理的に推測でき
る事実関係の記載(共謀したことを基礎付ける事実の具体的な記載)が必要
 正当なビジネスをする上で必要のない同業他社との接触を示す事実や、不自然
な並行的行為の事実があると問題とされやすい
 ②トライアル前の、サマリージャッジメントの申し立て(Motion for summary
judgment)
 1986年 Matsushita事件最高裁判決
 被告らが独立した行動をしている可能性を排除する証拠を提出する必要
7/1/2016
33
アメリカ反トラスト法~DOJの調査
 DOJによる抜き打ちの立入調査(dawn raid)、裁判所の令状に基づきFBIが同行
 連邦大陪審による文書提出命令 (subpoenas、サピーナ)の送達で始まることもある
 弁護士の立ち会いなくして質問に答える義務はない
 証拠の隠滅・破棄は、調査への不協力と見なされて最終的な罰金額・禁固刑に影
響
 虚偽の発言をしたり、真実を話さない場合、偽証罪あるいは司法妨害の罪(最高20
年の懲役)で起訴されうる
 各国競争当局による同タイミングでの立入調査
 DOJは、盗聴やおとり捜査等を行うことができる
 リジンカルテル事件:飼料添加物の国際カルテルに関わっていた米穀物メジャーADM社の
元幹部が、FBIにカルテルの存在を内部告発
 同幹部は告発後3年間、カルテルの他のメンバーに捜査協力していることを隠して関与を
続け、その過程で作成した隠し撮りビデオが証拠となった
7/1/2016
34
アメリカ反トラスト法~DOJの調査(続き)
35
アメリカ反トラスト法~DOJの調査(続き)
 司法取引(Plea bargaining)
 DOJとPlea agreementを締結する
 被疑者がDOJに対し違反を認め、捜査に協力し、連邦大陪審で
違法行為を認めることを約束する代わりに、DOJが求刑を軽減す
る旨合意
 この合意で救済されない(起訴される可能性がある)従業員
が特定される=カーブアウト(carve out)→ビジネス上のキー
マンである場合の会社の対応
 DOJにとって立証の負担が軽減できるメリット
 本来は、合理的な疑いを超える程度の証明が必要
 Ability to payの交渉
7/1/2016
36
アメリカ反トラスト法~DOJの執行状況
Gibson Dunn & Crutcher LLP “2015 Year-End Criminal Antitrust and Competition Law Update”より抜粋
 罰金額の増大
37
アメリカ反トラスト法~DOJの執行状況(続き)
Gibson Dunn & Crutcher LLP “2015 Year-End Criminal Antitrust and Competition Law Update”より抜粋
 個人の禁固刑の平均期間
38
アメリカ反トラスト法~リニエンシー
 カルテルに参加した者が、カルテルの証拠を提出し、調査手続きに協力す
ることにより、罰金の減免や個人の刑事罰の縮小のメリットを受けられる制
度。
 TypeA(必要的免責) DOJがカルテルに関する情報を入手する前の申告
 TypeB(裁量的免責) DOJがカルテルに関する情報を入手した後の申告
 米国では、刑罰の100%免除を受けられるのは最初の1社のみ
 2番目でも調査協力等により罰金減額、起訴人数や服役期間の減免があ
りうる
 アムネスティプラス(Amnesty Plus)
 あるカルテル事件に関してリニエンシー申請による免責が認められなかったが、
「別の関連市場」のカルテルにつき順位1番でリニエンシーを行った場合、当該
「別の関連市場」での協力が考慮され、最初のカルテル事件に関しても量刑の
軽減を受けられる制度
 アメリカ特有の制度で、日本にはない
 捜査対象外のリニエンシー申請の連鎖、それによる捜査が拡大
 アムネスティプラスを利用できるのにしなかった場合、後に罰金が増額され
る要因になりうる(ペナルティプラス)。
7/1/2016
39
アメリカ反トラスト法~域外適用
 1982年 Foreign Trade Antitrust Improvements Act(FTAIA、
外国通商反トラスト改善法)が成立
 原則、米国競争法は、外国に関連する取引には適用されない
 例外として、米国内の取引及び米国への輸入取引に対して、「直接
的、実質的かつ合理的に予見可能な弊害」(a direct, substantial,
and reasonably foreseeable effect)をもたらす行為には適用され
る(米国弊害例外)
 LCDパネルの国際カルテル事件
 「直接的」の文言は、米国市場に直接輸出された場合のみならず、
間接的輸入された場合も含む
 LCDパネルは米国外企業によってテレビやノートパソコンといった
完成品に搭載された後に米国に輸出されたが、LCDパネルのカル
テルによってそれらの完成品の価格に影響下事を理由に、米国に
「直接的な」効果が生じたと判断
7/1/2016
40
最後に~カルテルを防ぐために
 競合他社との接触の機会を洗い出し
 業界団体、新製品展覧会、個別の会議
 接触する必要があるのか、営業上必要か、利益とリスクの見極め
 接触した際の報告書の作成
 価格、市場シェアに関する情報交換をしたか、合意をしたか
 カルテルと疑われない言葉を選ぶべき
 競合他社の情報についてはその情報源を明確にすること(公開情報から情報を入手)
 競合他社から価格引き上げ提案や見積額の開示をしてきた場合
 価格、市場シェアに関する会話から退出し、その理由も明確に示すべき
 カルテル行為を発見した時の社内対応
 社員へのインタビュー
 社内メールやサーバ上のデータの確認 →ITベンダーの活用
 証拠破棄による制裁のリスク
 Eメールは相手方に残る、自分のドライブから削除しても事後的に復活される(フォレン
ジッック技術)
 データの削除が後に判明すると、司法妨害(contempt of court)として厳罰のリスク
7/1/2016
41
ご清聴ありがとうございました。
弁護士 中村 優紀
矢吹法律事務所
〒105-0002 東京都港区愛宕1-3-4 愛宕東洋ビル3階
TEL:03-5425-6761(代表)03-5425-6825(直通)
FAX:03-3437-3680
E-mail:y.nakamura@yabukilaw.jp
http://www.yabukilaw.jp/
7/1/2016
42

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International cartel cases 国際カルテル事件

  • 2. 自己紹介 弁護士・ニューヨーク州弁護士 2000年3月 宮城県立仙台第二高校卒業 2005年3月 一橋大学法学部卒業 2007年3月 一橋大学法科大学院卒業 2009年12月 最高裁判所司法研修所修了(新62期) 弁護士登録(東京弁護士会) 2010年1月 矢吹法律事務所入所 2014年5月 米国Northwestern University School of Law卒業(LL.M.) 2014年9月〜2015年6月 米国Gibson, Dunn & Crutcher LLP (San Francisco) 2015年4月 ニューヨーク州弁護士登録 2015年7月 矢吹法律事務所復帰~現在に至る 7/1/2016 2
  • 5. カルテル事件とは?  カルテルの類型  ①入札談合: 落札予定者や入札価格を調整  ②価格カルテル: 販売価格を調整、共同して値上げ  ③市場分割カルテル: 販売地域、顧客を分け合う  ③ハブアンドスポーク型カルテル  競争者同士は直接コンタクトを取らず、競争者とはいえない第三者を情報交 換の媒体とすることで、互いの行動を調整しあう  Hasbro/Argos/Littewoods事件  玩具メーカーのHasbroが小売業者ArgosとLittlewoodsにそれぞれ同じ推奨価格を 示し、小売業者側もHasbroを解した価格指示が小売価格の下落を防ぐため、互い の小売業者もこれに従うと承知していた  ④シグナリング型カルテル  自社製品の価格引き上げの意図を、前もって競合他社も分かるような公の 発表の形で開示する行為  米国のレンタルトラック事業者が、投資家向けの収支報告において、他のレ ンタルトラック事業者に対し、価格の引き上げを呼びかけた行為が、米国の 反トラスト法に違反すると認定された  ⑤ベンチマークカルテル(LIBOR事件) 7/1/2016 5
  • 6. カルテル事件とは?(続き)  自動車部品カルテル(2014年11月1日 日本経済新聞)  機械部品メーカーの日立金属が自動車部品の価格カルテルに関与 したことを認め、125万ドル(約1億4千万円)の罰金を支払う司法取 引に同意  日立金属は2005年から09年にかけて、米国で自動車のブレーキ関 連部品をトヨタ自動車に販売する際、価格操作や不正入札を繰り返 した  司法省が取り締まりを進める一連の自動車部品の価格カルテル事 件では、今回を含め日本企業を中心に30社が摘発  米国司法省「歴史上もっとも大規模なカルテル」  日本企業を中心とする35社、役職員55名を訴追(2015年5月現在)  最高4.7億ドルの罰金、20社以上が1000万ドル以上の罰金  30名(日本人29名)について約1年~2年の禁固刑及び罰金 7/1/2016 6
  • 7. Defendant Year County Fine Product 1 AU Optronics Corporation of Taiwan 2012 Taiwan $500M Liquid Crystal Display (LCD) Panels 2 F. Hoffmann-La Roche, Ltd. 1999 Switzerland $500M Vitamins 3 Yazaki Corporation 2012 Japan $470M Automobile Parts 4 Bridgestone Corporation 2014 Japan $425M Anti-vibration Rubber 5 LG Display Co., Ltd & LG Display America 2009 Korea $400M Liquid Crystal Display (LCD) Panels … 12 Furukawa Electric Co. Ltd. 2012 Japan $200M Automotive Wire Harnesses, etc. 13 Hitachi Automotive Systems, Ltd 2014 Japan $195M Same above 14 Mitsubishi Electric Corporation 2014 Japan $190M Automotive Wire Harnesses, etc.  カルテルの罰金額~$10M Club (トップ20社のうち日系企業が8 社を占める) Gibson Dunn & Crutcher LLP “2015 Year-End Criminal Antitrust and Competition Law Update”を加工7 カルテル事件とは?(続き)
  • 8. Defendant Fine Product 1 Citicorp $925M Foreign Exchange 2 Deutsche Bank & DB Group Services (UK) Limited $775M LIBOR 7 NGK Insulators Ltd. $65.3M Auto Parts (ceramic substrates) 8 Kayaba Industry Co. Ltd., dba KYB Corporation $62M Auto Parts (shock absorbers) 9 Nippon Yusen Kabushiki Kaisha $59.4M Ocean Cargo Services 11 Aisin Seiki Co. Ltd. $35.8M Auto Parts (variable valve timing devices) 13 NEC Tokin Corp. $13.8M Electrolytic Capacitors 14 Minebea Co. Ltd. $13.5M Ball Bearings 16 Sanden Corp. $3.2M Auto Parts (air conditioning compressors) 17 Yamada Manufacturing Co. $2.5M Auto Parts (manual steering columns) 18 Hitachi Metals Ltd. $1.2M Auto Parts (brake hoses) …  2014年10月~2015年9月の高額罰金事例 Gibson Dunn & Crutcher LLP “2015 Year-End Criminal Antitrust and Competition Law Update”を加工8 カルテル事件とは?(続き)
  • 9. カルテル事件とは?(続き)  リニエンシー制度(制裁金減免制度)による違反申告によって連 鎖的にカルテルが摘発され、自動車部品カルテルにつながった  欧州充電メーカーABB社が世界的リニエンシー申請(可能性が高 い)  2009年1月 高圧電線に関するカルテルで、日系高圧電線メーカー 3社を摘発  摘発されたうちの1社(日立電線の出資するアドバンスト・ケーブル・ システムズ)がリニエンシー申請  2009年6月 NTT向け光ファイバーのカルテル摘発  摘発された2社に出資していた昭和電線がリニエンシー申請  2009年12月 屋内配線カルテル、VVFケーブルカルテルの摘発  摘発された古河電工がリニエンシー申請  2010年2月 ワイヤーハーネスカルテルの摘発  2011年7月~ 大規模な自動車部品カルテルの摘発 7/1/2016 9
  • 11. 日本の独占禁止法~違反類型  独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)  「公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動 を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の 利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する ことを目的」(第1条)  1)不当な取引制限の禁止(価格カルテル、市場分割カルテル等)  2) 私的独占の禁止  3) 企業結合規制  4) 不公正な取引方法の禁止  景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)  不当な表示や過大な景品類を規制し、消費者が適正に商品・サービス を選択できる環境を確保  下請代金支払遅延等防止法  親事業者の下請事業者に対する取引を公正にして、下請事業者の利 益を保護 7/1/2016 11
  • 12. 日本の独占禁止法~違反類型(続き)  独占禁止法  1) 不当な取引制限(独占禁止法2条6項)  「事業者が、、、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しく は引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を 制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、 公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制 限すること」  同業者や業界団体で、価格や生産数量などを取り決め、お互いに 市場で競争を行わないようにすること(価格カルテル、入札談合)  カルテルを規制する趣旨  自由競争市場の確保、消費者利益の確保  新規参入の促進、市場主義経済の発達  カルテル規制がない世界? 7/1/2016 12
  • 13. 日本の独占禁止法~違反類型(続き)  「相互にその事業活動を拘束し、又は遂行すること」  東芝ケミカル事件(東京高判平成7年9月25日)  事業者相互で拘束し合うことを明示して合意する必要はなく、相 互に他の事業者の行為を認識して、暗黙のうちに認容することで 足りる  暗黙の意思の連絡があれば足りる  「競争を実質的に制限」  東宝・スバル事件(東京高判昭和26年9月19日)  競争の実質的制限とは、競争自体が減少して、特定の事業者ま たは事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、 数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配す ることができる形態が現れているか、または少なくとも現れようと する程度に至っている状態  市場支配力の形成・維持・強化 7/1/2016 13
  • 14. 日本の独占禁止法~違反類型(続き)  2) 私的独占 (独占禁止法2条5項)  「事業者が、、、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配すること により、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質 的に制限すること」  有力な企業が、株式の所有や役員の派遣などによって競争事業者 を統制下に置いたり(支配)、取引先への圧力などにより競争事業 者を市場から追い出し又は新規参入を妨害すること(排除)  3)企業結合規制  一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合 等における株式保有・役員兼任・合併・分割・共同株式移転・事業譲 受け等の禁止  有力な2社が合併して市場の販売価格をコントロールできるようにな ると、ユーザーにとって購入先の選択肢が狭まり、値上げに対抗で きなくなる 7/1/2016 14
  • 15. 日本の独占禁止法~違反類型(続き)  企業結合規制: 王子ホールディングス㈱による中越パルプ工業㈱の株式 取得(平成27年5月)  事案  王子グループは、中越パルプ工業の議決権10%弱を保有  本件株式取得の結果,同議決権の20%超を保有、議決権保有比率の順位は単 独で第1位  王子グループと中越パルプ工業の間に結合関係が形成  公取委の判断  6品種の製造販売市場における競争を実質的に制限することとなる  本件株式取得後、6品種の紙の製造販売シェアは45%~75%と増大  当該市場では輸入圧力や参入圧力が認められない  需要者からの競争圧力は限定的  製紙業者による一斉値上げの状況が認められる  問題解消措置によるクリアランス  本件株式取得により競争が実質的に制限されることとならない  本件株式取得後、当事会社は6品種の製造・販売に関しそれぞれ独立して事業活動を行 い、同製造・販売に関する秘密情報を共有しないこと等を公取委に約束  王子グループが保有することとなる議決権は20%をわずかに超える程度  兼任役員数は1名であること等 7/1/2016 15
  • 16. 日本の独占禁止法~違反類型(続き)  4) 不公正な取引方法(独占禁止法19条、一般指定) ※以下は 違反類型の一部  不当廉売  正当な理由がないのに,供給に必要な経費を大幅に下回る価格で 継続して販売するなどして,競争事業者の事業活動を困難にさせる おそれがあること  抱き合わせ販売  相手方に対し,不当に,商品の供給に併せて他の商品を自己又は 自己の指定する事業者から購入させること  再販売価格の拘束  正当な理由がないのに,取引先事業者に対して,転売する価格を指 示し,遵守させること  優越的地位の濫用  取引上の地位を利用して,取引の相手方に対し,不当に,不利益を 与えること 7/1/2016 16
  • 17. 日本の独占禁止法~違反類型(続き)  再販売価格の拘束: コールマンジャパン株式会社に対する排 除措置命令(平成28年6月15日)  コールマンのキャンプ用品について,遅くとも平成22年以降, 毎年8月頃に,翌シーズンに小売業者が販売を行うに当たっ ての販売ルールを次のとおり定めていた。  販売価格は,コールマンのキャンプ用品ごとにコールマンジャパ ンが定める下限の価格以上の価格とする  割引販売は,他社の商品を含めた全ての商品を対象として実施 する場合又は実店舗における在庫処分を目的として,コールマン ジャパンが指定する日以降,チラシ広告を行わずに実施する場 合に限り認める 7/1/2016 17
  • 18. 日本の独占禁止法~違反類型(続き)  下請代金支払遅延等防止法: ゼビオ株式会社に対する 勧告(平成27年7月31日)  自社の店舗で販売するスポーツ用品等の製造を委託  店頭販売価格の引下げを行うに当たって、当該引下げ額を「値 引」として差し引くなどにより、下請代金の額を減じていた(下請 事業者9名に対し,総額約1320万円を減額)  販売期間終了を理由に、自社の商品を引き取らせるなどしてい た(下請事業者4名に対し、約3828万円相当の商品を返品)  公取委の勧告  今後減額・返品を行わないことの取締役会決議  下請法の遵守体制を整備すること 7/1/2016 18
  • 19. 日本の独占禁止法~違反への制裁  カルテル事件における制裁  ①排除措置命令及び課徴金納付命令  公正取引委員会は,違反行為をした者に対し,意見陳述・証拠提出の機会を与えるなどの 意見聴取手続を経て命令を行う  法人に対する課徴金(行政罰)  課徴金=(カルテルの実行期間中の売上額)×10%(製造業の場合)  売上額=カルテルの対象となった商品又は役務の売上が対象  実行期間は最長3年間  繰り返し又は主導的立場の場合は50%増  平成27年度  排除措置命令 9件(入札談合・受注調整:5件,価格カルテル:2件,事業者団体による構成 事業者の不当な制限:2件)  課徴金納付命令 7件  ②刑事罰  法人: 5億円以下の罰金  個人: 5年以下の懲役又は500万円以下の罰金  日本で実際に懲役刑の実刑判決が出た事例はない  公取委の刑事告発が必要(平成2年以降、合計16件の刑事告発) 7/1/2016 19
  • 20. 日本の独占禁止法~違反への制裁(続き)  課徴金納付命令: アルミ電解コンデンサ事件(平成28年3 月29日)  違反事業者4社は、「マーケット研究会」などと称する会合を 毎月開催するなどして、アルミ電解コンデンサの販売価格を 引き上げる旨を伝え合うなどにより、その販売価格を共同して 引き上げることを合意(1社は、会合以外の場所で他の違反 事業者と販売価格の引き上げについて伝えあった)  違反事業者3社に対して各々、33億6223万円、14億3524万 円、10億6774万円の課徴金納付命令(1社は課徴金減免申 請をしていたので全額免除) 7/1/2016 20
  • 21. 日本の独占禁止法~違反への制裁(続き)  刑事罰: 北陸新幹線融雪・消雪基地機械設備工事に係る 入札談合事件(東京地判平成26年11月14日)  事案  独立行政法人鉄道・運輸機構が、条件付一般競争入札の方法で 北陸新幹線融雪・消雪基地機械設備工事を順次発注  冷暖房設備工事の請負等の事業者8社が、東京都内の飲食店 等で、受注予定事業者を決定するとともに、当該受注予定事業 者が受注できるような価格で入札を行うことなどを合意  公取委が検事総長に告発、東京地検が起訴  東京地方裁判所は、以下の判決を言渡した  被告会社に1億2000万円から1億6000万円の罰金  被告会社社員に懲役1年2月から1年6月(執行猶予3年) 7/1/2016 21
  • 22. 日本の独占禁止法~リニエンシー  競争当局がカルテルの証拠を得る前にその証拠を提出し、 調査手続きに協力することで、刑罰の減免を受ける制度  調査開始日前の1番目の申請者 ⇒ 課徴金を免除  調査開始日前の2番目の申請者 ⇒ 課徴金を50%減額  調査開始日前の3~5番目の申請者 ⇒ 課徴金を30%減額  調査開始日以後の申請者 ⇒ 課徴金を30%減額(3社まで) 7/1/2016 22
  • 23. 日本の独占禁止法~公取委の調査  公取委の調査の端緒  リニエンシー、通報  証拠収集、海外当局との調査協力  立入調査(Dawn raid)への対応  依頼者弁護士間秘匿特権(attorney-client privilege)がないので、弁護士とのコミュニケー ションを秘匿できない  公取委による長時間の事情聴取、自白に重きを置く調査手法、弁護士同席できない  証拠の破棄による制裁のリスク  営業部署は手帳等全て留置されるので、業務に支障がでないようコピーをする  法務部はLitigation holdの通知、役員会を開催して方針決定、外部弁護士の起用  外部弁護士はリニエンシー申請の検討、社内調査を進める、公取委との折衝 7/1/2016 23
  • 25. アメリカ反トラスト法~規制当局 7/1/2016 25  米国司法省  DOJ(Department of Justice)  主に、 The Sherman Actの 執行を担当  連邦取引委員会  FTC(Federal Trade Commission)  主に、 The Clayton Actの執行を 担当
  • 26. アメリカ反トラスト法~違反類型  シャーマン法(The Sherman Act)  独占禁止、カルテル禁止、企業結合規制  Section 1 "Every contract, combination in the form of trust or otherwise, or conspiracy, in restraint of trade or commerce among the several States, or with foreign nations, is declared to be illegal.“  「各州間もしくは外国との取引または通商を制限する全ての契約、ト ラストその他の形態による結合または共謀を違法とする」  クレイトン法(The Clayton Act)  排他的取引の禁止、抱き合わせ販売の禁止  差別的価格設定の禁止(The Robinson - Patman Act, 1936)  寡占的企業合併の禁止(The Hart-Scott-Rodino Act, 1976)  連邦取引委員会法(The Federal Trade Commission Act, 1914)  その他、各州法が反競争的行為を規制 7/1/2016 26
  • 27. アメリカ反トラスト法~違反への制裁  シャーマン法1条違反(カルテル行為)への制裁  法人  1億ドル以下の罰金(刑事罰)  ただし、違法行為で得た利益の2倍まで引き上げられる  量刑ガイドライン(Federal Sentencing Guideline)による罰金の算 定  ①基礎罰金額(Base fine)  違反行為により生じた損害(カルテルの場合取引額の20%)  米国内のCommerceに生じた影響を考慮  ②責任スコア(Culpability score)に基づく罰金額のレンジ算定  0.75倍~4倍。会社規模、調査への協力、違反歴、遵法体制等を考 慮  ③裁判所による罰金額の決定  調査への協力、違反行為の影響、カルテルでの役割、違反前歴等を 考慮 7/1/2016 27
  • 28. アメリカ反トラスト法~違反への制裁(続き)  個人  100万ドル以下の罰金、10 年以下の禁固刑(併科もあり)  違反会社は、DOJと司法取引を行う(Plea agreementの締結)  Plea agreementで除外される(起訴される)被疑者が特定される (carve out)  "except that the protections granted in this paragraph do not apply to [insert names of all carve outs who have been publicly charged]"  外国人の禁固刑の平均期間は15ヶ月(2013年)  1997年~2014年 合計88人の外国人が禁固刑  禁固刑の期間は、取引の規模や、当該個人の役割等を考慮  営業幹部が会社を抜けることのダメージ、家族を離れる不安  "会社のため"にしたカルテルによって、個人が禁固刑を科される  刑務所の待遇は意外にいい  メールや電話が使える、囚人服は着ない、英語ができなければ部屋割り配 慮  入所する刑務所を予め見学できる 7/1/2016 28
  • 29. アメリカ反トラスト法~違反への制裁(続き)  個人に対する禁固刑についての疑問  米国外に所在している限り、禁固刑を科されないのか?  日本企業の役職員の相当数は、自主的に米国に渡航して有 罪答弁を行い、米国で服役する  一方、DOJとの交渉に応じないで、日本から出国しないことと する者もいる  原則、米国の司法権は日本に及ばないが、英米系の国の入 国時に入管で逮捕され米国に移送されるリスク  逮捕をおそれて渡航制限をすると業務の支障が致命的な場 合、むしろ収監され服役を終えた方が良いという考え方もある  DOJは服役終了後は入管に再入国を認めるよう通知している 7/1/2016 29
  • 30. アメリカ反トラスト法~違反への制裁(続き)  犯罪人引渡条約による米国外からの被疑者引渡し事例  2010年8月 マリンホース事件で摘発されたイタリアの会社の元幹部(イタリア人)が、フロ リダ州連邦地裁大陪審で起訴される  2013年 6 月 当該被疑者が、出張先のナイジェリアからイタリアに帰国中、経由地である ドイツ・ フランクフルト空港で、ドイツ当局に逮捕される  2014年4月 当該被疑者は米国当局に引渡され、フロリダ州に移された。禁固 2 年(ドイツ で拘束されていた 9 か月間を刑期算入)と 5 万米ドルの罰金刑  独米犯罪人引渡条約の存在。かつ、ドイツでは談合は刑事罰の対象(双罰性あり)  日本人は、米国外(日本含む)にいても、同様に米国に引き渡される可能性がある  ①日米犯罪人引渡条約がある  日本は米国及び韓国と犯罪人引渡条約を締結。日本は裁量で自国民を引き渡せる(条約5 条)  一方、逃亡犯罪人引渡法 2 条 9号は逃亡犯罪人が日本国民のときは引き渡してはならない と規定  日米犯罪人引渡条約が優先適用  ②双罰性の要件(double criminality)を満たす  被請求国でも嫌疑がかけられている行為が犯罪とされていること  日本の逃亡犯罪人引渡法は、請求対象行為が日本で懲 役・禁固 3 年以上の罪になることを 要求 7/1/2016 30
  • 31. アメリカ反トラスト法~違反への制裁(続き)  Red notice list掲載  DOJが、出頭しない外国人をInternational Criminal Police Organization (ICPO、国際刑事警察機構)に通知すると、当 該外国人はred noticeに掲載される。この事実を加盟国が認 識すると、犯罪人引渡条約等に基づき米国へ引渡しが行わ れる可能性がある。  一方、犯罪人引渡条約によらない限り身柄を外国政府に引き 渡すことはないので、Red noticeが出されても引き渡されない という見解もある 7/1/2016 31
  • 32. アメリカ反トラスト法~違反への制裁(続き)  クラスアクション-民事訴訟における損害賠償債務  米国では司法省の調査手続と並行してクラスアクションが提起される  原告は、直接購入者(自動車部品カルテルであれば自動車メーカー)、間接購入者(エンドユーザー)  オプトアウト方式(明示的に参加しない旨を表明しない限り原告となる)  参加の意思表明を行わなくとも、訴訟から離脱(オプトアウト)する意思を表明しない限り、自動的にクラス構成員に取り 込まれ、原告の数が膨大になる。請求金額も大きくできる  クラスアクションをビジネスとする専門ローファームの存在(Plaintiff lawyer)  カルテルより最終製品に転嫁された価格(Overcharge)が損害  証拠開示手続(ディスカバリー)の負担、弁護士費用  紙の文書と電子情報の双方を含む  電子メール、手帳、領収書、当局の捜査で使われた文書が開示命令対象  →口頭でのリニエンシー申請、Profferにより開示対象にならないようにする  →ディスカバリーがあるからこそ原告は証拠にアクセスできる ⇔日本  懲罰的賠償(実損害額の3倍の金銭賠償)←クレイトン法4条、違反抑止  敗訴した場合、原告の訴訟費用(合理的な弁護士報酬含む)を支払う義務  ディスカバリー手続による莫大な負担、敗訴による高額の賠償リスクを避けるため、真に違反があったかわか らなくとも和解金を支払うこともある  1つのカルテルが会社を10年苦しめる 7/1/2016 32
  • 33. アメリカ反トラスト法~違反への制裁(続き)  ディスカバリー手続の多大な労力と費用から逃れる法的手段  ①ディスカバリー手続前の、訴え却下の申し立て(Motion to dismiss)  2007年Twombly事件最高裁判決  訴え却下の申し立てを斥け、ディスカバリー手続に進むには、原告の訴状に被告 らの違法な合意を推測させるもっともらしい(plausible)根拠が記載されている必 要  被告らが並行的に行動しているとの客観的事情の記載、単に共謀したとの結論 だけでは不十分  2009年 Iqbal事件最高裁判決  「もっともらしい」というためには、被告が不法行為を追うことを合理的に推測でき る事実関係の記載(共謀したことを基礎付ける事実の具体的な記載)が必要  正当なビジネスをする上で必要のない同業他社との接触を示す事実や、不自然 な並行的行為の事実があると問題とされやすい  ②トライアル前の、サマリージャッジメントの申し立て(Motion for summary judgment)  1986年 Matsushita事件最高裁判決  被告らが独立した行動をしている可能性を排除する証拠を提出する必要 7/1/2016 33
  • 34. アメリカ反トラスト法~DOJの調査  DOJによる抜き打ちの立入調査(dawn raid)、裁判所の令状に基づきFBIが同行  連邦大陪審による文書提出命令 (subpoenas、サピーナ)の送達で始まることもある  弁護士の立ち会いなくして質問に答える義務はない  証拠の隠滅・破棄は、調査への不協力と見なされて最終的な罰金額・禁固刑に影 響  虚偽の発言をしたり、真実を話さない場合、偽証罪あるいは司法妨害の罪(最高20 年の懲役)で起訴されうる  各国競争当局による同タイミングでの立入調査  DOJは、盗聴やおとり捜査等を行うことができる  リジンカルテル事件:飼料添加物の国際カルテルに関わっていた米穀物メジャーADM社の 元幹部が、FBIにカルテルの存在を内部告発  同幹部は告発後3年間、カルテルの他のメンバーに捜査協力していることを隠して関与を 続け、その過程で作成した隠し撮りビデオが証拠となった 7/1/2016 34
  • 36. アメリカ反トラスト法~DOJの調査(続き)  司法取引(Plea bargaining)  DOJとPlea agreementを締結する  被疑者がDOJに対し違反を認め、捜査に協力し、連邦大陪審で 違法行為を認めることを約束する代わりに、DOJが求刑を軽減す る旨合意  この合意で救済されない(起訴される可能性がある)従業員 が特定される=カーブアウト(carve out)→ビジネス上のキー マンである場合の会社の対応  DOJにとって立証の負担が軽減できるメリット  本来は、合理的な疑いを超える程度の証明が必要  Ability to payの交渉 7/1/2016 36
  • 37. アメリカ反トラスト法~DOJの執行状況 Gibson Dunn & Crutcher LLP “2015 Year-End Criminal Antitrust and Competition Law Update”より抜粋  罰金額の増大 37
  • 38. アメリカ反トラスト法~DOJの執行状況(続き) Gibson Dunn & Crutcher LLP “2015 Year-End Criminal Antitrust and Competition Law Update”より抜粋  個人の禁固刑の平均期間 38
  • 39. アメリカ反トラスト法~リニエンシー  カルテルに参加した者が、カルテルの証拠を提出し、調査手続きに協力す ることにより、罰金の減免や個人の刑事罰の縮小のメリットを受けられる制 度。  TypeA(必要的免責) DOJがカルテルに関する情報を入手する前の申告  TypeB(裁量的免責) DOJがカルテルに関する情報を入手した後の申告  米国では、刑罰の100%免除を受けられるのは最初の1社のみ  2番目でも調査協力等により罰金減額、起訴人数や服役期間の減免があ りうる  アムネスティプラス(Amnesty Plus)  あるカルテル事件に関してリニエンシー申請による免責が認められなかったが、 「別の関連市場」のカルテルにつき順位1番でリニエンシーを行った場合、当該 「別の関連市場」での協力が考慮され、最初のカルテル事件に関しても量刑の 軽減を受けられる制度  アメリカ特有の制度で、日本にはない  捜査対象外のリニエンシー申請の連鎖、それによる捜査が拡大  アムネスティプラスを利用できるのにしなかった場合、後に罰金が増額され る要因になりうる(ペナルティプラス)。 7/1/2016 39
  • 40. アメリカ反トラスト法~域外適用  1982年 Foreign Trade Antitrust Improvements Act(FTAIA、 外国通商反トラスト改善法)が成立  原則、米国競争法は、外国に関連する取引には適用されない  例外として、米国内の取引及び米国への輸入取引に対して、「直接 的、実質的かつ合理的に予見可能な弊害」(a direct, substantial, and reasonably foreseeable effect)をもたらす行為には適用され る(米国弊害例外)  LCDパネルの国際カルテル事件  「直接的」の文言は、米国市場に直接輸出された場合のみならず、 間接的輸入された場合も含む  LCDパネルは米国外企業によってテレビやノートパソコンといった 完成品に搭載された後に米国に輸出されたが、LCDパネルのカル テルによってそれらの完成品の価格に影響下事を理由に、米国に 「直接的な」効果が生じたと判断 7/1/2016 40
  • 41. 最後に~カルテルを防ぐために  競合他社との接触の機会を洗い出し  業界団体、新製品展覧会、個別の会議  接触する必要があるのか、営業上必要か、利益とリスクの見極め  接触した際の報告書の作成  価格、市場シェアに関する情報交換をしたか、合意をしたか  カルテルと疑われない言葉を選ぶべき  競合他社の情報についてはその情報源を明確にすること(公開情報から情報を入手)  競合他社から価格引き上げ提案や見積額の開示をしてきた場合  価格、市場シェアに関する会話から退出し、その理由も明確に示すべき  カルテル行為を発見した時の社内対応  社員へのインタビュー  社内メールやサーバ上のデータの確認 →ITベンダーの活用  証拠破棄による制裁のリスク  Eメールは相手方に残る、自分のドライブから削除しても事後的に復活される(フォレン ジッック技術)  データの削除が後に判明すると、司法妨害(contempt of court)として厳罰のリスク 7/1/2016 41
  • 42. ご清聴ありがとうございました。 弁護士 中村 優紀 矢吹法律事務所 〒105-0002 東京都港区愛宕1-3-4 愛宕東洋ビル3階 TEL:03-5425-6761(代表)03-5425-6825(直通) FAX:03-3437-3680 E-mail:y.nakamura@yabukilaw.jp http://www.yabukilaw.jp/ 7/1/2016 42