SlideShare a Scribd company logo
1 of 35
Download to read offline
京都大学総合人間学部
奥村政哉
 奈良県橿原市における観光政策のありかたを考える
 新しい観光政策のありかたとして、定住促進型観光
政策を提案
 千葉県流山市を参考に具体案を提示
 近年、東京・大阪への人口集中の流れの中で、地方の生
き残りのために観光政策が重要視
 しかし、橿原市では、所得創出効果や雇用創出効果を生
むことを目的とした従来型の観光政策を行うのが難しい
橿原市における観光政策の新たなありかたを考える
 有名な観光地をめぐるといった狭義の観光だけでなく、
グリーン・ツーリズムなどの体験型観光、イベント参加
なども含み、仕事以外の目的でその地を訪れるもの
を広く捉える
 「余暇時間の中で、日常生活圏を離れて行う様々な
活動であって、触れ合い、学び、遊ぶということを目的
とするもの」とする
※観光政策審議会1995年の答申より
 観光の意義についての研究は、経済的な側面を取り
上げているものが中心。
 それ以外の意義に焦点を当てた研究は、個別の特徴
的な地域に焦点を当てたもの。
 橿原市の観光に関しては、今井町に関するものしか
見られなかった。
 橿原市というごく一般的な自治体において、新しい観
光政策のありかたを提案することに意味がある。
 人口は約12.5万人で、ここ15年ほどほとんど変わっ
ていない。
 奈良県第2位の都市。面積は39.52km2。
 高齢化率は全国平均や奈良平均と比べると低いが、
今後増加が予想される。生産年齢人口は減少傾向。
 近鉄の結節駅の存在や道路網の充実などの点から、
県内では交通利便性の高い地域。
 通勤・通学は大阪方面や奈良市との結びつきが強い。
 観光地:橿原神宮・大和三山・久米寺・おふさ観音・藤
原宮跡・県立橿原考古学研究所付属博物館(・今井
町)。
 観光入込客数は400万人前後/年で、近年大きく変
わっていない。奈良市の1300万人と比較すると、遅
れをとっている。
 周遊観光者は少ない。
 歴史関連が中心。また、PR政策が中心。
 周遊強化の取り組み。
 「かしはらナビプラザ」
 観光費は増加傾向。今後、観光政策を重要視する流
れ
 所得創出効果や雇用創出効果を生むことを目的とす
る観光政策。現在の橿原市の観光政策もこの考え方
のもとで行われている。
 しかし、橿原市では現在うまくいっていない。
 大阪・京都との物理的・時間的距離が要因。
 根本的な解決は難しい。
 観光政策に使っていたお金を他の政策に回すことが
できる。
 しかし、交流人口の減少によるデメリット(相互理解の
促進の機会の喪失やにぎわいの減少)を生じる恐れ。
交流人口を維持増加させつつ、
観光政策に新たな目的を見出したい。
 市への定住希望者を増やすことを目的とする
 橿原市の人口流動を見ると、他の都道府県への転出
を県内の他の市町村からの転入で補っている。
→市の人口が減少することが予想される。
定住促進策の一手段として、観光政策を活用する
 今井町
◦ イベント型観光によって、定住希望者を増やすことができる
可能性を示唆。
 沖縄県
◦ ライフスタイルとの関連による移住の存在と、そのきっかけと
して観光の意義を示唆。
観光資源において特徴的な事例であり、
橿原市にそのまま当てはめることは困難
 不動産会社へのインタビュー
1. 交通が便利
2. 大きなショッピングモール
3. 近隣市町村と比較して、市の財政に余裕
 市役所へのインタビュー
1. ブランド力
2. 病院の多さ
これらの魅力だけでは、近隣市町村からしか
人を呼び込めていない
 橿原市にどのようなイメージを持っているか
 市内在住者
◦ 住環境に対して好意的な印象。
 市外在住者
◦ 良好な住環境に関するイメージは少ない。
 県外在住者
◦ そもそも橿原市を知らない。
このイメージのギャップを埋める
 千葉県北西部にあり、人口約16.9万人。
 東京・大阪といった大都市へ通勤圏内であり、住宅都
市であるという点において、橿原市との共通点がある。
 住民誘致を目的としたマーケティング戦略を行ってい
る。
 共働き子育て夫婦「DEWKS」に住みよい街というイ
メージを作り上げることによって、定住促進に成功。
 流山市は、少子・高齢化の問題に頭を悩ませていた。
 そのため、世代循環を可能とする住民誘致を必要とし
ていた。
 流山市の考えたことは、「まず一度市に来てもらい、
市の魅力を知ってもらうこと」である。
 この実現にマーケティングの手法を取り入れた。
 「都心から一番近い森のまち」をコンセプトに掲げ、共
働き子育て夫婦「DEWKS」にターゲットを絞ったマー
ケティング戦略を行う。
 首都圏主要鉄道駅へのPR広告掲出、イベント開催、
テレビ・雑誌等への情報発信・フィルムコミッション運
営など。
 特に、 PR広告掲出とイベント開催に着目。PR広告に
よって、市に足を運ぶきっかけを作り、イベントによっ
て、実際に市に足を運んでもらい、市の魅力を知って
もらうことで、「DEWKSにとって住みよい街」というイ
メージを固める。
観光政策の流れとの類似点あり
 人口増加率が県内第3位に。前回の調査と比較して
も、大きく上がっている。
 特に、「0~4歳」と「35~39歳」の人口増加が突出。
 最大のボリュームゾーンも「60~64歳」から「35~39
歳」にシフト。
 子どものいるファミリー層が市外から流入し、定着。
 流山市が月1回程度の頻度で行っている森のマル
シェというイベントを調査。
 多くの子ども連れ家族が参加し、また、市外からの参
加者も45%ほど。
 流山市への移住者へのアンケートからも、イベント開
催による定住促進の可能性が見出せる。
 橿原市の良好な住環境に関するイメージを広めていく。
 そのために、「まず一度市に来てもらい、市の魅力を
知ってもらうこと」を目指す。
 その手段として、PR活動とイベント開催を行う。
 共働き子育て夫婦「DEWKS」
 市の生産年齢人口減少で、担税力の高いこの世代の
住民誘致必要。
 子に継続的に市に住み続けてもらうことで、世代循環
を確保し、持続可能な市の発展を目指す。
 特に、あべの・天王寺エリアで働く夫婦。このエリアは
橿原市からのアクセスも良く、近鉄が進めている開発
が市にとっては追い風に。
橿原市
あべの・天王寺エリア
 現在、「歴史と出会う街」や「歴史ロマンのあふれる
街」。定住促進にはつながりにくい。
 「住みよい街」というイメージに関連したコンセプトに。
 住環境・自然・交通・歴史といった橿原市の特徴を「住
みよい街」というイメージでつなぐ。
住みよい街
歴
史
交
通
自
然
住
環
境
 DEWKSにとって「住みよい街」というコンセプトにかな
う資源も実際に存在。
 「子育てしやすい街ランキング」、関西第5位。
 子ども向け施設
◦ 橿原市総合プール・橿原市立子ども科学館・橿原市昆虫館・
橿原市立図書館など
 医療環境
◦ 奈良県立医科大学付属病院・橿原市休日夜間応急診療所と
いった医療施設
◦ 医者数も多い
 文化施設・スポーツ施設
◦ 橿原市立かしはら万葉ホール・橿原文化会館・橿原運動公
園・橿原公苑
 自然に触れる場所が身近に
◦ 四季折々の花
◦ 緑被率50%(大阪府市街地17%)
「緑と便利さのバランスの良さ」
※流山市との共通点でもある
 橿原市に足を運ぶきっかけを作る。
 阿倍野橋駅・大阪難波駅周辺におけるPR活動を強化。
 「住みよい街」のコンセプトに合うイベントにスポットラ
イトをあてる。
 実際に市に足を運んでもらい、「住みよい街」としての
橿原市の魅力を知ってもらい、「住みよい街」というイ
メージを定着させる。
 DEWKSを呼び込めるイベントを開催。
 子ども向け施設を活用したイベント。
 「緑と便利さのバランスの良さ」が伝わるようなイベン
ト。
DEWKS
PR活動
一度行ってみよう!!
イベント開催
住みよい街だなー!
橿原市における定住促進型観光政策
 PR活動によって、橿原市の知名度をあげ、市に足を
運んでもらうきっかけを作り、次に、イベント開催に
よって、実際に橿原市に足を運んでもらい、市の「住
みよい街」としての魅力を知ってもらうことで、DEWKS
にとって「住みよい街」というイメージを定着させる。
 それによって、従来は市内在住者のみが持っていた
「住みよい街」というイメージが、市外在住者にも共有
され、定住希望者の増加が見込まれる。
橿原市における定住促進型観光政策
 今回提案した定住促進型観光政策が現在の橿原市
の観光政策の枠組みの中でできるのか。
 具体的なキャッチコピーやイベント内容。
 他の定住促進政策との相乗効果。
 「歴史」資源の活用

More Related Content

Similar to 【卒論発表】奈良県橿原市における定住促進型観光政策の実現に向けて

活動紹介2014ホームページ用
活動紹介2014ホームページ用活動紹介2014ホームページ用
活動紹介2014ホームページ用kiyokiyotaka
 
Pre20180409 hotelmontre
Pre20180409 hotelmontrePre20180409 hotelmontre
Pre20180409 hotelmontre進介 塚本
 
第3期わが街のプラチナ構想 葛飾区
第3期わが街のプラチナ構想 葛飾区第3期わが街のプラチナ構想 葛飾区
第3期わが街のプラチナ構想 葛飾区platinumhandbook
 
【完成版】「未来仙台市」発表用Ppt@team nautilus改
【完成版】「未来仙台市」発表用Ppt@team nautilus改【完成版】「未来仙台市」発表用Ppt@team nautilus改
【完成版】「未来仙台市」発表用Ppt@team nautilus改Syuko Inaizumi
 
地方自治体におけるEBPMの普及に向けて
地方自治体におけるEBPMの普及に向けて地方自治体におけるEBPMの普及に向けて
地方自治体におけるEBPMの普及に向けてssuser6ead9e
 
浜松市インバウンド協議会主催 「インバウンドセミナー」
浜松市インバウンド協議会主催 「インバウンドセミナー」浜松市インバウンド協議会主催 「インバウンドセミナー」
浜松市インバウンド協議会主催 「インバウンドセミナー」株式会社はまぞう
 

Similar to 【卒論発表】奈良県橿原市における定住促進型観光政策の実現に向けて (7)

活動紹介2014ホームページ用
活動紹介2014ホームページ用活動紹介2014ホームページ用
活動紹介2014ホームページ用
 
Pre20180409 hotelmontre
Pre20180409 hotelmontrePre20180409 hotelmontre
Pre20180409 hotelmontre
 
第3期わが街のプラチナ構想 葛飾区
第3期わが街のプラチナ構想 葛飾区第3期わが街のプラチナ構想 葛飾区
第3期わが街のプラチナ構想 葛飾区
 
【完成版】「未来仙台市」発表用Ppt@team nautilus改
【完成版】「未来仙台市」発表用Ppt@team nautilus改【完成版】「未来仙台市」発表用Ppt@team nautilus改
【完成版】「未来仙台市」発表用Ppt@team nautilus改
 
縄文式アート思考
縄文式アート思考縄文式アート思考
縄文式アート思考
 
地方自治体におけるEBPMの普及に向けて
地方自治体におけるEBPMの普及に向けて地方自治体におけるEBPMの普及に向けて
地方自治体におけるEBPMの普及に向けて
 
浜松市インバウンド協議会主催 「インバウンドセミナー」
浜松市インバウンド協議会主催 「インバウンドセミナー」浜松市インバウンド協議会主催 「インバウンドセミナー」
浜松市インバウンド協議会主催 「インバウンドセミナー」
 

【卒論発表】奈良県橿原市における定住促進型観光政策の実現に向けて