取材・文:吉田健城

                                                                                                                    撮影:向井 渉

                                                                                                           (2012 年 06 月号)




                     なかはら ひとみ

                     1936 年、東京・上野に生まれる。1953 年、東映ニューフェイス第 1 期生として女優の道へ。1960 年、映画で共演した俳優の江原

                     真二郎氏と結婚。映画「米」「純愛物語」や、テレビ「女と刀」「ただいま 11 人」など、女優として幅広い場で活躍している




                     15 年前、がんはまだ死病というイメージだった。しかし、女優の中原ひとみさんは大腸に開腹手術が必要な

                     がんがあることを知らされても、冷静に受け止めることができた。がんにならなくても、遅かれ早かれ人は死

                     ぬのだから──。小さな体からはうかがいしれない、中原さんの芯の強さに迫った。




大腸がんは血便、下血、下痢、腹痛、腹部膨満感などの症状を伴うこと

が多い。中原ひとみさんの場合は下痢だった。


しかし、それですぐに大腸がんを疑ったわけではなかった。


「その年(1997 年)は年初から 3 カ月も続く長丁場の舞台に出ていたん

ですが、そのストレスのせいで下痢が続いているのだろうと思っていた

んです」


舞台の仕事によるストレスならば、舞台が終われば治る。しかし、そうは

ならなかった。


一緒に舞台に出演していた友人にそのことを話すと、医師に相談するよ

う勧められた。




           株式会社エビデンス社 〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町 1-11-8 淡路町 UK ビル3F TEL   03-3524-5022   Fax 03-3526-6303   Email   info@evidence-inc.jp
「漢方の先生を紹介していただいたんです。気功の先生のところにも行きました。漢方の先生からはお薬も出していただいたんですが、下痢は、

治ったような治らないようなグジュグジュした状態が続きました。5 月に通い始めたんですが、そんな状態が 2~3 カ月続きました。お腹に何かあ

るような感じもあったので、秋になって、やっぱりこれはちゃんと調べてもらったほうがいいと思うようになったんです」




それまで中原さんは、体の調子がよくないときはお産でお世

話になった知り合いの産婦人科医を頼っていた。その医師が

転勤で神戸に移ってからも、向こうで仕事があるときに立ち

寄って診てもらっていたので、このときも広島での仕事が終

わったあと、神戸に立ち寄って検査を受けた。


がんが見つかるきっかけになったのは、その際に受けた便潜

血検査だった。


陽性という結果が出たため、中原さんは帰京後、医師から紹

介された都内の大学病院を訪ね、大腸内視鏡検査を受けた。

その結果、横行結腸にがんがあることがわかったのだ。


「内視鏡検査の写真を見せられたんですが、卵くらいの大きさのがんが写っていました。着色した写真であることを知らなかったので『わー、ば

らの花のようですね』と言った記憶があります。そのくらいの大きさになると内視鏡手術では対応できないので、開腹手術になるということでし

た」


がんだと知ったときの心境は、どうだったのだろう?


「ショックはなかったです。以前、関西テレビの『成人病 110 番』という番組で司会をしていたので、がんは死病ではないという認識がありました

から」


ご主人の江原真二郎さんや、娘の土家里織さんにも、がんが見つかったことを慌てて伝えるようなことはせず、タイミングを見計らって知らせて

いる。


「主人は舞台の真っ最中でしたので、もし話すとショックを受けて舞台の仕事に集中できなくなると思ったんです。ですから、ほかのことは話して

も、がんのことは黙っていて、舞台の公演が終わりに近づいてから話しました。娘には、もう少し早く伝えましたが、がん=死病と思い込んでい

るので、おろおろして泣いていました。『大丈夫よ、大丈夫よ』って私のほうが慰めていました」




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医師からなるべく早く手術を受けるよう勧められた中原さんは、

その年の 12 月 15 日に手術を受けることになった。


手術の前日になると、主治医から詳しい説明があるが、この

ときになって初めて中原さんは大きなショックを受けた。がん

の病巣は横行結腸の右側にあったが、がんの位置や状態に

よっては上行結腸から横行結腸にかけて腸管を 40 ㎝ほど切

除することになるかもしれないと言われたからである。


「手術時間も 5~6 時間かかると言われたので、『ワー、すごい

ことになった』と思いました。私自身の中では、がんは内視鏡

で切除できる範囲は超えているけど、比較的早期だという思

いがあったので、そんな大がかりな手術ではないと思ってい

たんです。私は腸が弱くて、ショックなことがあるとすぐにトイレにいきたくなるんですが、そのときも急にお腹が痛くなって中座してしまいました」


しかし翌日行われた手術は、2 時間ほどで終了した。開腹後、がんの位置や状態、浸潤の度合いなどを検討した結果、横行結腸を 20 ㎝ほど、

所属リンパ節も含めて切除すればよいという判断がなされたのである。


通常がんの開腹手術では、皮膚の切開を電気メスで行い、縫合には医療用ホチキスが使われる。しかし中原さんの手術では、一昔前のように

金属製のメスが使用された。


「女優さんだから変な傷はつけられないということで、昔式のメスでやってくださったんです。もう年なので、お腹を見せる仕事もないんですけど

ね(笑)。お陰さまで今では、切開部の傷がほとんどわからないくらいになっています」


術後の経過は順調で、痛みに苦しむようなことはなかった。4 日目におもゆを食べ始めたとき下腹部が痛んだが、つらかったのはそのときだけ

で、6 日目には 3 分粥の摂取が可能になり、予定通り、術後 12 日目の 12 月 27 日に退院の運びとなった。




退院の前日、中原さんは主治医から病理検査の結果、リンパ節転移が見つかったことを知らされた。


「手術の際に採取された 27 個のリンパ節の 1 つから転移が見つかりました。でも、それにショックを受けるようなことはありませんでした。それが

どんな意味を持つのかよくわかっていませんでしたし、抗がん剤をやるという話も出ませんでしたから。私のがんがステージ 3 だと知ったのも、

ずっと後のことでした」




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術後は、とくに追加で治療を受けることなく、しばらくは自宅で安静に過ごしていた。




退院後 18 日間自宅で過ごした中原さんは、1 月 15 日の「おもいッきりテレビ」から仕

事に復帰。しばらくして、大腸がんの手術を受けたことが知られるようになった。


「別に隠すつもりはなかったので、何人かでレストランに行ったとき手術を受けたことを

話したんです。そしたら、その場にいた方から、すぐにテレビ局に伝わり自宅にインタ

ビューに来たので、ワーッと広まっちゃいました。自分から言うも言わないもないという

感じでしたね(笑)」


大腸がんの開腹手術を受けたあとは腸閉塞が生じやすくなるが、中原さんも手術から

10 カ月が経過したころ、それが起きてつらい経験をしている。


「家にいるときにお腹が痛くなったんです。最初は温まると治るかなと思ってお風呂に

入ったんですが、痛みが増すばかりで、夜中に救急車で手術を受けた大学病院に担

ぎ込まれました。即、入院です。すぐに管を通して処置を受けたんですが、それもつら

かったし、痛みも激しかったので、結構大変でした」


しかもこのときは 2 日後に山形で講演の仕事が入っていた。芸能界は親の死に目に
あえなくても仕事に穴をあけないのが常識である。中原さんも自分の都合でキャンセ

ルはできないという気持ちが強く、気力を振り絞って、入院中の病院から山形に向か

った。



頼りは出発前に打ってもらった痛み止めだった。



「強い痛み止めを打つと意識がもうろうとして話せなくなるので、

軽い痛み止めを打ってもらって出かけたんです。途中で切れる

のではないかと気が気ではなかったんですが、そのようなことは

なく、山形では 1 時間半ちゃんと話せました。終わったあとで、実

はこうなんですと話したら、みんな驚いていました。このときはつ

くづく精神力というのはすごいものだと思いました」


山形から帰京すると中原さんは病院に戻って入院生活を続けた

が、数日で落ち着いたため、退院することができた。




             株式会社エビデンス社 〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町 1-11-8 淡路町 UK ビル3F TEL   03-3524-5022   Fax 03-3526-6303   Email   info@evidence-inc.jp
その後、腸閉塞に悩まされることはなかったが、1 度、内視鏡検査の際に大量に下血して、入院したことがあった。


「術後は年に 1 度くらいのペースで内視鏡検査を受け、ポリープがあったらその場で取ってもらっていたんですが、そのときにバーッと出血した

んです。このときもすぐに適切な処置を受けたので大事には至りませんでした」




5 年生存率──がん患者なら誰もが耳にする言葉だが、中原さんの場合、その言葉の意味をどのようにとらえたのだろう。


「『5 年生存率』という言葉を聞いたとき、最初は 5 年しかもう生きられないのだと思いました。ただ、先生に聞いたら、治療して 5 年間何にもなか

ったら、病気が治ったという 1 つの目安になるものだとお聞きしました。再発や転移への不安? もちろん多少はありました。先生に、『もし転移

したらどこの臓器ですか?』ってお聞きしたら、『大腸がんの場合、肝臓に転移することが多い』と言われたんです。ただ、今から肝臓に転移す

るといっても何年もかかるのだし、もう年もとっているから大丈夫だわっと言って、先生に話したのを覚えています」


がんになったからといって、落ち込んだり、悩んだりしてもしょうがない。暗くなったって、病気自体はよくはならないのだから──そんな中原さ

んの前向きな姿勢がよかったのだろう。再発・転移は起きないまま 5 年が経過し、15 年が過ぎた今もその兆候は見られない。




大腸がんを経験後、体の状態としてはむしろ太ったという中原さん。現在はなるべく動くように気をつけているという。


「とくに、ジムに行って運動するわけではないのですが、散歩や腹式呼吸、家でできる自転車こぎなどを使って、なるべく体を動かすようにして

います」


そして、ご自身はもちろん、旦那さんである江原さんの健康管理にも気を付けたいところだが……。


「がんになってからは、安心のために 2~3 年に 1 度でもいいから夫婦で検診に行くべきだと思うようなったので、主人を何度も誘ったんですが、

全然その気になってくれないんです。私がケロッとしているから、自分に置きかえないのかもしれません……。主人は、病気らしい病気をしたこ

とがない人で、生活も規則正しいし、散歩も運動もよくして、今のところは大丈夫ですが……、やはり検査は受けてほしいですね」


とくに大腸がんの場合、症状に気がつきにくく、見つかったときにはすでにがんが進行していたというケースも多い。だからこそ、「お誕生日とか

結婚記念日など日にちを決めて、定期的に検査を受けたほうがいいのでは」と中原さんは話している。




最後に、がんになって思ったことは何かと尋ねると、女優である前に 1 人の母親であることを感じさせる答えが返ってきた。




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「がんになる原因はいろいろあるようですが、ストレスや心の傷も大きな原因になると

いわれています。私の場合、がんになる 9 年前に息子(俳優の土家歩さん)を交通事

故で亡くしているんですが、そのころは本当につらくて、精神的に落ち込んだ状態が

続きました。それが、がんができる原因になり、年を経るごとに少しずつ大きくなった

のではないかと自分では思っています」


その一方で、リンパ節転移が見つかりながら大腸がんを克服できたのは、がんを苦

にせず、ポジティブな精神状態を保ったことが良かったという思いもある。


「『がんにならなくても、遅かれ早かれ人は死ぬんだ』『再発は、したらしたらで、その

ときに考えよう』と割り切って、落ち込んだり、心配したりしなかったことがいい結果に

つながったように思います。今思えば、がんは、死に対する度胸をつけてくれました。

いくら心配しても、人は 2 度死ぬわけではないんですから」


そう言って中原さんは締めくくった。


その衰えを知らない張りのある声には、内に秘めた芯の強さがうかがえる。病気が

わかっても、それを受け入れ、動じない──中原さんの病気に向き合う姿がそこにあった。




           株式会社エビデンス社 〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町 1-11-8 淡路町 UK ビル3F TEL   03-3524-5022   Fax 03-3526-6303   Email   info@evidence-inc.jp

闘病記中原ひとみさん

  • 1.
    取材・文:吉田健城 撮影:向井 渉 (2012 年 06 月号) なかはら ひとみ 1936 年、東京・上野に生まれる。1953 年、東映ニューフェイス第 1 期生として女優の道へ。1960 年、映画で共演した俳優の江原 真二郎氏と結婚。映画「米」「純愛物語」や、テレビ「女と刀」「ただいま 11 人」など、女優として幅広い場で活躍している 15 年前、がんはまだ死病というイメージだった。しかし、女優の中原ひとみさんは大腸に開腹手術が必要な がんがあることを知らされても、冷静に受け止めることができた。がんにならなくても、遅かれ早かれ人は死 ぬのだから──。小さな体からはうかがいしれない、中原さんの芯の強さに迫った。 大腸がんは血便、下血、下痢、腹痛、腹部膨満感などの症状を伴うこと が多い。中原ひとみさんの場合は下痢だった。 しかし、それですぐに大腸がんを疑ったわけではなかった。 「その年(1997 年)は年初から 3 カ月も続く長丁場の舞台に出ていたん ですが、そのストレスのせいで下痢が続いているのだろうと思っていた んです」 舞台の仕事によるストレスならば、舞台が終われば治る。しかし、そうは ならなかった。 一緒に舞台に出演していた友人にそのことを話すと、医師に相談するよ う勧められた。 株式会社エビデンス社 〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町 1-11-8 淡路町 UK ビル3F TEL 03-3524-5022 Fax 03-3526-6303 Email info@evidence-inc.jp
  • 2.
    「漢方の先生を紹介していただいたんです。気功の先生のところにも行きました。漢方の先生からはお薬も出していただいたんですが、下痢は、 治ったような治らないようなグジュグジュした状態が続きました。5 月に通い始めたんですが、そんな状態が 2~3カ月続きました。お腹に何かあ るような感じもあったので、秋になって、やっぱりこれはちゃんと調べてもらったほうがいいと思うようになったんです」 それまで中原さんは、体の調子がよくないときはお産でお世 話になった知り合いの産婦人科医を頼っていた。その医師が 転勤で神戸に移ってからも、向こうで仕事があるときに立ち 寄って診てもらっていたので、このときも広島での仕事が終 わったあと、神戸に立ち寄って検査を受けた。 がんが見つかるきっかけになったのは、その際に受けた便潜 血検査だった。 陽性という結果が出たため、中原さんは帰京後、医師から紹 介された都内の大学病院を訪ね、大腸内視鏡検査を受けた。 その結果、横行結腸にがんがあることがわかったのだ。 「内視鏡検査の写真を見せられたんですが、卵くらいの大きさのがんが写っていました。着色した写真であることを知らなかったので『わー、ば らの花のようですね』と言った記憶があります。そのくらいの大きさになると内視鏡手術では対応できないので、開腹手術になるということでし た」 がんだと知ったときの心境は、どうだったのだろう? 「ショックはなかったです。以前、関西テレビの『成人病 110 番』という番組で司会をしていたので、がんは死病ではないという認識がありました から」 ご主人の江原真二郎さんや、娘の土家里織さんにも、がんが見つかったことを慌てて伝えるようなことはせず、タイミングを見計らって知らせて いる。 「主人は舞台の真っ最中でしたので、もし話すとショックを受けて舞台の仕事に集中できなくなると思ったんです。ですから、ほかのことは話して も、がんのことは黙っていて、舞台の公演が終わりに近づいてから話しました。娘には、もう少し早く伝えましたが、がん=死病と思い込んでい るので、おろおろして泣いていました。『大丈夫よ、大丈夫よ』って私のほうが慰めていました」 株式会社エビデンス社 〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町 1-11-8 淡路町 UK ビル3F TEL 03-3524-5022 Fax 03-3526-6303 Email info@evidence-inc.jp
  • 3.
    医師からなるべく早く手術を受けるよう勧められた中原さんは、 その年の 12 月15 日に手術を受けることになった。 手術の前日になると、主治医から詳しい説明があるが、この ときになって初めて中原さんは大きなショックを受けた。がん の病巣は横行結腸の右側にあったが、がんの位置や状態に よっては上行結腸から横行結腸にかけて腸管を 40 ㎝ほど切 除することになるかもしれないと言われたからである。 「手術時間も 5~6 時間かかると言われたので、『ワー、すごい ことになった』と思いました。私自身の中では、がんは内視鏡 で切除できる範囲は超えているけど、比較的早期だという思 いがあったので、そんな大がかりな手術ではないと思ってい たんです。私は腸が弱くて、ショックなことがあるとすぐにトイレにいきたくなるんですが、そのときも急にお腹が痛くなって中座してしまいました」 しかし翌日行われた手術は、2 時間ほどで終了した。開腹後、がんの位置や状態、浸潤の度合いなどを検討した結果、横行結腸を 20 ㎝ほど、 所属リンパ節も含めて切除すればよいという判断がなされたのである。 通常がんの開腹手術では、皮膚の切開を電気メスで行い、縫合には医療用ホチキスが使われる。しかし中原さんの手術では、一昔前のように 金属製のメスが使用された。 「女優さんだから変な傷はつけられないということで、昔式のメスでやってくださったんです。もう年なので、お腹を見せる仕事もないんですけど ね(笑)。お陰さまで今では、切開部の傷がほとんどわからないくらいになっています」 術後の経過は順調で、痛みに苦しむようなことはなかった。4 日目におもゆを食べ始めたとき下腹部が痛んだが、つらかったのはそのときだけ で、6 日目には 3 分粥の摂取が可能になり、予定通り、術後 12 日目の 12 月 27 日に退院の運びとなった。 退院の前日、中原さんは主治医から病理検査の結果、リンパ節転移が見つかったことを知らされた。 「手術の際に採取された 27 個のリンパ節の 1 つから転移が見つかりました。でも、それにショックを受けるようなことはありませんでした。それが どんな意味を持つのかよくわかっていませんでしたし、抗がん剤をやるという話も出ませんでしたから。私のがんがステージ 3 だと知ったのも、 ずっと後のことでした」 株式会社エビデンス社 〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町 1-11-8 淡路町 UK ビル3F TEL 03-3524-5022 Fax 03-3526-6303 Email info@evidence-inc.jp
  • 4.
    術後は、とくに追加で治療を受けることなく、しばらくは自宅で安静に過ごしていた。 退院後 18 日間自宅で過ごした中原さんは、1月 15 日の「おもいッきりテレビ」から仕 事に復帰。しばらくして、大腸がんの手術を受けたことが知られるようになった。 「別に隠すつもりはなかったので、何人かでレストランに行ったとき手術を受けたことを 話したんです。そしたら、その場にいた方から、すぐにテレビ局に伝わり自宅にインタ ビューに来たので、ワーッと広まっちゃいました。自分から言うも言わないもないという 感じでしたね(笑)」 大腸がんの開腹手術を受けたあとは腸閉塞が生じやすくなるが、中原さんも手術から 10 カ月が経過したころ、それが起きてつらい経験をしている。 「家にいるときにお腹が痛くなったんです。最初は温まると治るかなと思ってお風呂に 入ったんですが、痛みが増すばかりで、夜中に救急車で手術を受けた大学病院に担 ぎ込まれました。即、入院です。すぐに管を通して処置を受けたんですが、それもつら かったし、痛みも激しかったので、結構大変でした」 しかもこのときは 2 日後に山形で講演の仕事が入っていた。芸能界は親の死に目に あえなくても仕事に穴をあけないのが常識である。中原さんも自分の都合でキャンセ ルはできないという気持ちが強く、気力を振り絞って、入院中の病院から山形に向か った。 頼りは出発前に打ってもらった痛み止めだった。 「強い痛み止めを打つと意識がもうろうとして話せなくなるので、 軽い痛み止めを打ってもらって出かけたんです。途中で切れる のではないかと気が気ではなかったんですが、そのようなことは なく、山形では 1 時間半ちゃんと話せました。終わったあとで、実 はこうなんですと話したら、みんな驚いていました。このときはつ くづく精神力というのはすごいものだと思いました」 山形から帰京すると中原さんは病院に戻って入院生活を続けた が、数日で落ち着いたため、退院することができた。 株式会社エビデンス社 〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町 1-11-8 淡路町 UK ビル3F TEL 03-3524-5022 Fax 03-3526-6303 Email info@evidence-inc.jp
  • 5.
    その後、腸閉塞に悩まされることはなかったが、1 度、内視鏡検査の際に大量に下血して、入院したことがあった。 「術後は年に 1度くらいのペースで内視鏡検査を受け、ポリープがあったらその場で取ってもらっていたんですが、そのときにバーッと出血した んです。このときもすぐに適切な処置を受けたので大事には至りませんでした」 5 年生存率──がん患者なら誰もが耳にする言葉だが、中原さんの場合、その言葉の意味をどのようにとらえたのだろう。 「『5 年生存率』という言葉を聞いたとき、最初は 5 年しかもう生きられないのだと思いました。ただ、先生に聞いたら、治療して 5 年間何にもなか ったら、病気が治ったという 1 つの目安になるものだとお聞きしました。再発や転移への不安? もちろん多少はありました。先生に、『もし転移 したらどこの臓器ですか?』ってお聞きしたら、『大腸がんの場合、肝臓に転移することが多い』と言われたんです。ただ、今から肝臓に転移す るといっても何年もかかるのだし、もう年もとっているから大丈夫だわっと言って、先生に話したのを覚えています」 がんになったからといって、落ち込んだり、悩んだりしてもしょうがない。暗くなったって、病気自体はよくはならないのだから──そんな中原さ んの前向きな姿勢がよかったのだろう。再発・転移は起きないまま 5 年が経過し、15 年が過ぎた今もその兆候は見られない。 大腸がんを経験後、体の状態としてはむしろ太ったという中原さん。現在はなるべく動くように気をつけているという。 「とくに、ジムに行って運動するわけではないのですが、散歩や腹式呼吸、家でできる自転車こぎなどを使って、なるべく体を動かすようにして います」 そして、ご自身はもちろん、旦那さんである江原さんの健康管理にも気を付けたいところだが……。 「がんになってからは、安心のために 2~3 年に 1 度でもいいから夫婦で検診に行くべきだと思うようなったので、主人を何度も誘ったんですが、 全然その気になってくれないんです。私がケロッとしているから、自分に置きかえないのかもしれません……。主人は、病気らしい病気をしたこ とがない人で、生活も規則正しいし、散歩も運動もよくして、今のところは大丈夫ですが……、やはり検査は受けてほしいですね」 とくに大腸がんの場合、症状に気がつきにくく、見つかったときにはすでにがんが進行していたというケースも多い。だからこそ、「お誕生日とか 結婚記念日など日にちを決めて、定期的に検査を受けたほうがいいのでは」と中原さんは話している。 最後に、がんになって思ったことは何かと尋ねると、女優である前に 1 人の母親であることを感じさせる答えが返ってきた。 株式会社エビデンス社 〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町 1-11-8 淡路町 UK ビル3F TEL 03-3524-5022 Fax 03-3526-6303 Email info@evidence-inc.jp
  • 6.
    「がんになる原因はいろいろあるようですが、ストレスや心の傷も大きな原因になると いわれています。私の場合、がんになる 9 年前に息子(俳優の土家歩さん)を交通事 故で亡くしているんですが、そのころは本当につらくて、精神的に落ち込んだ状態が 続きました。それが、がんができる原因になり、年を経るごとに少しずつ大きくなった のではないかと自分では思っています」 その一方で、リンパ節転移が見つかりながら大腸がんを克服できたのは、がんを苦 にせず、ポジティブな精神状態を保ったことが良かったという思いもある。 「『がんにならなくても、遅かれ早かれ人は死ぬんだ』『再発は、したらしたらで、その ときに考えよう』と割り切って、落ち込んだり、心配したりしなかったことがいい結果に つながったように思います。今思えば、がんは、死に対する度胸をつけてくれました。 いくら心配しても、人は2 度死ぬわけではないんですから」 そう言って中原さんは締めくくった。 その衰えを知らない張りのある声には、内に秘めた芯の強さがうかがえる。病気が わかっても、それを受け入れ、動じない──中原さんの病気に向き合う姿がそこにあった。 株式会社エビデンス社 〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町 1-11-8 淡路町 UK ビル3F TEL 03-3524-5022 Fax 03-3526-6303 Email info@evidence-inc.jp