8. すべての作業が、債務不履行の要件充足に関する判断である。
(個々具体的な行為義務の違反が債務不履行の評価そのもの)
2-4 履行補助者ほか第三者の行為と債務者の損害賠償責任
(1)履行補助者の意義
履行補助者(=債務者が債務の履行のために使用する者)として認められるには、
① 債務者がその意思により債務を履行するために配置された者でなければならず、
② その際、補助者と債務者の間の支配・従属関係は問題とならず、
(最判昭和 35 年 6 月 21 日民集 14 巻 8 号 1487 頁)
③ 履行補助者が二者間で契約を締結した事業者かどうかも問題とならない。
(2)「履行補助者の故意・過失」の帰責を正当化する原理
・債務者は自ら債務を履行しなければならない。
・そのうえで、自ら行為をした結果として損害賠償責任を追及されるのは、債務者が故
意または過失により行使した場合である。(従来の支配的学説)
→債務者が自らの債務を履行するために使用した補助者の故意・過失行為についても、
自身の故意・過失と同視すべき事由として、債権者に対する損害賠償責任を負担する
べきである。
Case6:
G は公認会計士・税理士の資格をもち独立して開業している S に外部委託し、会計事
務・税務処理をさせていた。S の仕事がずさんであったために、G は所得税 1200 万円を
国から追徴された。G は、S に対し、委任契約の不完全履行を理由として、1200 万円の
損害賠償を請求している。
Case7:
S は G にガラスの置物(甲)を売却し、代金支払ののちに 3 日後に G 宅に持参する
ことになった。S は運送業者 H に甲の配送を依頼し甲を引き渡したが、H は運転操作
ミスで甲を破損した。G は S に対し甲の引渡義務の履行不能を理由として、甲の転売
利益相当額の賠償を求めている。
9. しかし、債務者自身の故意・過失によらない事態について、債務者が責任を負う説
明をどうするか。
報償責任の原理・・・債務者は、補助者を利用して自らの活動を拡げ利益を上げている
といえるので、補助者の行為から生じた損害についても責任を負担
すべきである。
(3)履行補助者の問題を考えるポイント
① 当該契約において第三者の使用がそもそも禁止されていないか否か。
② 結果債務か、手段債務か。
③ 手段債務であった場合、債務者が債務不履行責任を負う根拠が
a. 当該第三者の行為を根拠としているか。
b. 第三者を債務者が選任・指揮・監督するにあたって、必要とされる合理的な注意
を尽くさなかった点であるか。
① 禁止→第三者使用そのものが既に債務不履行なので、補助者使用禁止違反
を理由とする損害賠償責任が発生。
② 結果債務→第三者の行為が免責事由として認められるかで判断
③ a→(1)契約上、債務者が引き受けた行為義務の確認
(2)義務実行のために債務者が補助者に割り当てた任務内容の確認
(3)当該補助者の行為と任務遂行との関連性の評価
(4)実際に当該補助者が具体的な義務付けを遵守して行動したかの評価
Case10:
S 会社が運行する路線バスを S 社の従業員 H が運転した。G は乗客である。片側 2 車
線の道路を運行中に、バスの進路前方で、D の運転する乗用車が突然車両変更してきた。
そのため、H が急ブレーキをかけたところ、G が転倒し、重傷を負った。
Case9:
G は S から血統書つきのブルドッグ(甲)を繁殖用に 40 万円で購入し。代金を先に
支払った。甲は G 宅で受け渡すこととなった。S は高級ペットの運送部門を有している
大手運送会社 H に、甲の運送を依頼した。直後に、H の労働者も加入する運送関係労働
組合が 3 日間の大規模ストライキをおこなった。これにより、甲の配送が 3 日間遅れた
上に、輸送疲れの出た甲の入院加療が必要となり、G は多額の出費を要した。
Case8:
歴史学者 G は、歴史専門資料の修復・製本を業とする S 製本会社に、自分の収集した
資料の修復・製本を依頼した。S は仕事の立て込みを理由に、一般製本業者 H に、G に
無断で仕事の一部を依頼。H がずさんな修正・製本をした結果、資料が傷んだので、G
は作業をやり直すこととなった。G は S に、これに要した費用相当額および資料に生じ
た損害の賠償を求めた。