金融レジリエンス情報学
2013/12/12
スパークス・アセット・マネジメント
東京大学大学院工学系研究科
水田孝信
mizutata[at]gmail.com
@takanobu.mizuta
http://www.geocities.jp/mizuta_ta/jindex.htm
http://www.slideshare.net/mizutata/20131212
1
本講演の内容は講演者が所属する組織
を代表するものではなく、
すべては個人的な見解であります。

http://www.slideshare.net/mizutata/20131212
2
自己紹介
2000年 気象大学校卒業
2002年 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻修士課程修了
研究内容:宇宙空間プラズマのコンピュータシミュレーション
2004年 同専攻博士課程を中退
同年 スパークス・アセット・マネジメントに入社
バックオフィス業務
(ファンドの純資産の計算や取引決済の指図など)
2005年 ボトムアップ・リサーチ・アナリスト
(会社の社長に取材したりと足で稼ぐ企業調査)
2006年 クオンツ・アナリスト
(市場の定量分析を用いた投資)
2008年 学術界にも進出 (主に人工知能学会)
2010年 ファンドマネージャー(クオンツ・ほか)
2011年 東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻博士課程
社会人をしながら入学
研究内容:人工市場を用いた金融規制のシミュレーション
2007年 日本証券アナリスト協会検定会員
2009年 中小企業診断士

3
人工市場シミュレーション
(1)規制・制度研究に用いる
人工市場の考え方
(2)私の研究紹介

(3)このような人工市場は
どうモデル化されるべきか?
http://www.slideshare.net/mizutata/20131212
4
(3)このような人工市場は
どうモデル化されるべきか?
【Ⅰ】金融(ファイナンス)研究の状況
Ⅰ-a) ファイナンス研究の主流
Ⅰ-b) 金融工学
Ⅰ-c) 行動経済学・実験経済学
Ⅰ-d) 人工市場シミュレーション
【Ⅱ】人工市場の基本的な考え方
【Ⅲ】モデル化の選択軸
Ⅲ-a) エージェントのモデル化
1) 価格の予想方法(投資戦略)
2)学習
3)注文数量
4)homogeneousとheterogeneous
Ⅲ-b) 価格決定メカニズム
5
(1)規制・制度研究に用いる
人工市場の考え方

6
社会シミュレーションとは?

コンピュータの中に仮想の社会を構築する
ミクロなエージェント(人間)を多数投入。お互いに相互作用する。
それらが集積してマクロな挙動がみれる。
理論モデル
研究

第3の視点
実証
研究
シミュレー
ション

ミクロ的
現象

橋渡し

マクロ的
現象

・複雑系である社会において、制度・規制の変更が与える副作用や
想定外の効果をコロンブスのたまご的に発見
・理論や実証で調べるべきテーマの発見、メカニズムの知識発見
金融以外でも、自動車道の整備が交通渋滞へ与える影響分析、
テロや火災・伝染病が発生した場合の避難の方法や
7
あるべき対策の分析、など
人工市場モデルを用いたシミュレーションとは?
計算機上に人工的に作られた架空の市場
マルチエージェントシステム + 価格決定メカニズム
・ エージェント
計算機プログラムで表現された仮想的な取引参加者
各々の売買ルールに従い発注量と発注価格を決定

・ 価格決定メカニズム(架空取引市場)
各エージェントが出した発注量と発注価格を集めて取引を成立
発注量
発注価格

エージェント

架空
取引所
価格決定
メカニズム

取引価格の
決定

8
妥当性(1)
現実のマクロを
(必要な部分)再現
Stylized Factsを再現
Fat-Tail
Volatility-Clustering

その他目的に応じて
再現するもの
妥当性(2)
実証等で解明された
ミクロにあわせる

ファンダメンタル投資家
テクニカル(順張り)投資家

マクロ ← 前提を置かない
≠ 金融工学
株価変動
売買数量

積み上げ
ミクロ ← モデル化
エージェント(投資家)
価格決定メカニズム(取引所)
妥当性(3)
妥当性(1)・(2)を満たす限り
シンプルなモデル

パラメータが多すぎると評価不能
恣意的な結果へ誘導疑念を払拭
規制・制度研究に用いる人工市場:何を簡素に何を複雑に?

エージェント:簡素に
ごく一般的な投資家を再現
↑一般的にどういう制度・規制がよいかを議論
幅広い人たちにコンセンサスを取れる簡素なモデル
評価のしやすさ、思わぬ結論・恣意的な結論を導かない
とても慎重な議論
発注量
発注価格

エージェント

架空
取引所
価格決定
メカニズム

取引価格の
決定

価格決定メカニズム:現実と同じように複雑
正確なモデル化
調査対象の制度・規制が再現する必要がある
10
人工市場:できること(得意なこと)・できないこと(他手法がよいこと)
できること(得意なこと)

個人的意見

●特定のミクロ環境変化がどのような変化が起こりえるか?
★ミクロ環境変化の例
新しい種類の投資家が参加
* 他資産とのヘッジ取引、高頻度取引、心理バイアスのある人
取引所の制度・規制の変更
→ 歴史上ない変更も取り扱える
→ その変更の純粋な効果を取り出せる
★”起こりえる”
起きるとは限らないが、可能性のある変化、思わぬ副作用を
拾い出すのが得意
→ 変化の是非の議論の幅を広げる、視点を加える
確実にこう変化するとは、人工市場単独では言えない
複雑系内のミクロ・マクロ相互作用のメカニズムの分析ができる
→ 知識発見できる、マクロ現象を意味づけできる
11
できないこと(他手法がよいこと)

個人的意見

●特定事象に関して”こうなる”といった未来予測はできない
例)アベノミクスはうまくいくか?
過去の特定事象のメカニズム分析はできる
●株価予測みたいなことはできない
→ 起こりえる現象を拾い上げてもそれが具体的に
いつ起こるかなどはわからない
例)来月バブルがスタートするか?
⇔バブルはこんな感じで起きている、ということは扱える
●現実にはありえない設定であるかどうか
↑ 他の手法との比較でしか議論できない
●定量的に正確な議論
例)金融危機時はボラティリティは15%から25%へ上昇する
→ ボラティリティが上昇することは議論できる
12
人工市場の得意とする範囲

過去起きた現象

これから起きる現象

実証分析
金融工学

人工市場
13
人工市場の得意とすること
未知の環境を実験
可能世界ブラウジング

マクロ現象
(株価変動)

ミクロ・マクロ
相互作用の
メカニズム解明

ミクロ現象
(投資家行動)

人工市場
モデル化
道具作成

経済物理(一部)
モデルの
妥当性検証

金融工学
Stylized
経済物理(一部) Facts

エージェント
モデル

メカニズム
の解明
行動経済学
実験経済学
(2)私の研究紹介
【Ⅰ】呼び値の刻み(ティック・サイズ)研究
【Ⅱ】空売りの価格規制(アップティックルール)研究

15
【Ⅰ】呼び値の刻み研究
主要な業績と金融実務界の動き

AESCS(査読付国際学会、2013/9、東京)
2012/12 東京証券取引所と東京大学工学系研究科が
共同研究開始を発表
2013/1/30 JPX(日本取引所グループ)ワーキングペーパー
☆呼び値の刻みが大きいとPTSにシェアを奪われる
共同研究第一弾として社長記者会見でも触れられる
2013/3/19 人工知能学会ファイナンスにおける人工知能応用研究会
東京証券取引所で開催
招待講演にて上記研究を発表
2013/3/22 金融庁の勉強会(他省庁も参加可能)に
准教授とともに呼ばれ講演
2013/3/29 JPX社長記者会見:呼び値の刻みを細かくすることを発表
日経新聞朝刊の一面記事に
16
17
サンケイビズ 2013年3月30日

18
同じような事業を行っている2つの企業の株価の動き
株価の動き

株価の刻み大

15:00

14:00

13:00

11:00

10:00

09:00

株価の刻み小

東証には株価の刻み幅が大きすぎる会社がある
↑ 投資家が困る場合も ⇒ 他の取引所で取引されてしまう?!
人工市場シミュレーション

株価の刻み幅のみ異なる取引所A、Bで
どのように売買代金シェアが移り変わるかを分析
取引所A
刻み幅:大

取引所B
刻み幅:小

同じ株を取引できる

有利な株価で
取引できる取引所を選ぶ
投資家
コンピュータ内ですべて再現
⇒ シミュレーション
20
シミュレーション結果(1):今後、どうなってしまいそうか?

100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%

⊿PA=0.01%
⊿PA=0.05%
⊿PA=0.1%
⊿PA=0.2%

0
25
50
75
100
125
150
175
200
225
250
275
300
325
350
375
400
425
450
475
500

取引市場Aの出来高シェア

取引市場Aの出来高シェア推移
tAB=5日,⊿PB=0.01%の場合

経過営業日

株価の刻み幅の差が大きいほど売買代金シェアが早く奪われる
シェア逆転にかかる時間は、おおよそ2年間
21
シミュレーション結果(2):どうすれば良いか?様々なケースを検証
取引市場A
500営業日後シェア

取引市場B ティックサイズ ⊿PB
0.0002%

0.0005%

0.001%

0.002%

0.005%

0.01%

0.02%

0.05%

0.1%

0.2%

0.0001%

90%

90%

91%

91%

92%

94%

97%

99%

100%

100%

100%

0.0002%

90%

90%

90%

91%

91%

94%

97%

99%

100%

100%

100%

0.0005%

89%

90%

91%

91%

92%

94%

96%

99%

100%

100%

100%

0.001%

89%

89%

90%

90%

92%

94%

97%

99%

100%

100%

100%

0.002%

87%

88%

89%

89%

91%

93%

97%

99%

100%

100%

100%

0.005%

84%

85%

85%

84%

87%

92%

96%

99%

100%

100%

100%

0.01%

75%

76%

76%

77%

78%

83%

92%

98%

100%

100%

100%

0.02%

53%

52%

53%

54%

54%

59%

70%

93%

100%

100%

100%

0.05%

5%

5%

4%

5%

5%

5%

6%

23%

93%

100%

100%

0.1%

0%

0%

0%

0%

0%

0%

0%

0%

0%

94%

100%

0.2%

取引
市場A
ティック
サイズ
⊿PA

0.0001%

0%

0%

0%

0%

0%

0%

0%

0%

0%

0%

96%

シェアが
奪われない条件

⊿PB>⊿PA

急速にシェアが
奪われる

t

< ⊿PA

or

1/10

 t > ⊿PA

 t  0.05%
22

キーパラメーター(短期ボラティリティ)の発見
あるべきティック・サイズの発見
実際のデータ
⊿PA,σ t とPTSの出来高シェアの関係
2012年の実証データ

100.00%

0%

⊿P

PTS
出来高シェア

12%

10.00%

0.01%

1.00%

9%

0.10%

6%

0.05%

1.00%

0.01%

3%

0.10%

σt

10.00%

σ t (左軸)
σ t=0.05%
PTS出来高シェア (右軸)

ティック・サイズにより価格形成が阻害されている領域の発見
↑取引所制定の制度で価格形成を規定しているという問題発見
23
価格形成の阻害と出来高シェアの関係性を発見
 t < ⊿PA
取引市場A
で取引でき
ない領域

1/10

取引
価格

取引市場A
ティック
サイズ
時間
取引市場Aの出番がない
→ 取引市場Bの高い約定率
⇒ 素早く取引市場Bがシェアを奪う

 t > ⊿PA

取引市場B
の必要性
が薄い

取引
価格

取引市場A
ティック
サイズ

時間
⇒ シェアが動かない

24
【Ⅱ】 空売りの価格規制(アップティックルール)研究
主要な業績と金融実務界の動き
人工知能学会論文誌(査読):オーバーシュートとリバウンドについて
IEEE SSCI CIFEr(査読付国際学会、2013/4、シンガポール)
電気学会(査読):空売り規制と値幅制限の研究
Journal of Mathematical Finance (査読): 上記の発展版
2012/11/19 人工知能学会ファイナンスにおける人工知能応用研究会
上記研究を発表: 金融庁の方も参加
☆空売り規制は良くない、値幅制限が良い
2013/3/7 金融庁が空売り規制見直しを発表
価格規制(アップティックルール)を実質廃止に
2013/3/22 金融庁の勉強会(他省庁も参加可能)に
准教授とともに呼ばれ講演
2013/6/6 2012年度 人工知能学会研究会優秀賞 受賞
25
2013/6/6 授賞式の様子

26
2013/3/7 金融庁、空売り規制を緩和

27
【1】値幅制限・空売り規制・アップティックルール
●値幅制限
価格変動が一定以上を超えた取引を禁止
日本などアジアでは採用が多い ⇒ 特別気配、ストップ安
欧米では不採用が多い
⇒ 市場を効率化するかどうかは議論が分かれている.

●完全空売り規制
空売り(借りてきた株を売る)行為を一切禁じる
先進国で導入されることはまれ、時限的な導入はある
●アップティックルール
直近で約定した価格よりも低い価格で空売りすることを禁じる
日本で導入、米国では導入されたり廃止になったり
⇒ 市場を効率化するかどうかは議論が分かれている.
日本における実証研究: 大墳[2012](東証WP) ⇒ 反対
28
【2】シミュレーション結果
株価の推移
ファンダメンタル価格一定(=10000)
10500

規制なし
値幅制限

10300

価格

10400

完全空売り
アップティック

10200
10100
10000
9900

900

800

700

600

500

400

300

200

100

0

9800
ティック時刻 (×1000)

空売り規制は平常時に常に割高で取引され非効率
⇒ 実証研究(大墳[2012])と整合的
⇒ モデルが異なる八木ら[2011]とも整合的 ⇒ 頑健性高い
ファンダメンタルが暴落した場合
ファンダメンタル価格急落(=10000→7000)
10500
規制なし

10000
9500

値幅制限
完全空売り

8500
8000

アップティック
ファンダメンタル価格

7500
7000
6500

ティック時刻 (×1000)

規制が無いと過剰な暴落を引き起こす
⇒ 値幅制限のみ両方で効率

900

800

700

600

500

400

300

200

100

6000

0

価格

9000
ファンダメンタルが暴騰した場合 ⇒ バブル時
20000

18000

16000

14000
規制なし
値幅制限
アップティック
ファンダメンタル価格

12000

10000

8000
0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

完全空売り規制、アップティックルール
⇒ バブルを大きく助長する:八木ら[2011]のモデルでも確認
⇒ コロンブスのたまご的発見: 空売り規制は下落時ではなく
安定時・上昇時こそ検証されるべきという発見
最適な値幅制限

tpl前の価格Pt-tpl から±⊿Pplに制限
東証:日次値幅制限: tpl=1日、⊿Ppl=20%程度
東証:特別気配:tpl=3分、⊿Ppl=2%程度

Ppl
t pl

v

かつ

Ppl  Vtpl

V: 規制がないときの株価下落速度
Vtpl: tplで測定したボラティリティ

左の不等式は厳しすぎると
ファンダメンタルになかなか到達しない ⇒ ほどほどが良い

現在始めたばかりの誤発注研究
tplは誤発注の時間規模と同じくらいが良い
⇒ 何段階か備えるベキ
東証:世界的に見てもなかなか良い制度
高頻度取引向け値幅制限をもう一段あった方が良い?
制限値幅が異常に小さいとき

Ppl
t pl

が一定なら同じ性質の価格変動を示すか?
Price Variation Limits for same velocity
tpl=200, ⊿Ppl=5
tpl=2000, ⊿Ppl=50
tpl=20000 ⊿Ppl=500

11000

price

10000
9000
8000
7000

450

400

350

300

250

200

150

100

50

0

6000
time (x 1000)

余りにも⊿Pplが小さいと収束しない
中国人民元がファンダメンタルから乖離している可能性?
(3)このような人工市場は
どうモデル化されるべきか?
【Ⅰ】金融(ファイナンス)研究の状況
Ⅰ-a) ファイナンス研究の主流
Ⅰ-b) 金融工学
Ⅰ-c) 行動経済学・実験経済学
Ⅰ-d) 人工市場シミュレーション
【Ⅱ】人工市場の基本的な考え方
【Ⅲ】モデル化の選択軸
Ⅲ-a) エージェントのモデル化
1) 価格の予想方法(投資戦略)
2)学習
3)注文数量
4)homogeneousとheterogeneous
Ⅲ-b) 価格決定メカニズム
34
もくじ
【Ⅰ】金融(ファイナンス)研究の状況
Ⅰ-a) ファイナンス研究の主流
Ⅰ-b) 金融工学
Ⅰ-c) 行動経済学・実験経済学
Ⅰ-d) 人工市場シミュレーション

【Ⅱ】人工市場の基本的な考え方
【Ⅲ】モデル化の選択軸
Ⅲ-a) エージェントのモデル化
1) 価格の予想方法(投資戦略)
2)学習
3)注文数量
4)homogeneousとheterogeneous
Ⅲ-b) 価格決定メカニズム
35
人工市場の説明に入る前に
金融研究分野の全体イメージをお伝えします。
→ 人工市場の理解に少し必要だと考えました。
もくじ
【Ⅰ】金融(ファイナンス)研究の状況
Ⅰ-a) ファイナンス研究の主流
Ⅰ-b) 金融工学
Ⅰ-c) 行動経済学・実験経済学
Ⅰ-d) 人工市場シミュレーション

【Ⅱ】人工市場の基本的な考え方
【Ⅲ】モデル化の選択軸
Ⅲ-a) エージェントのモデル化
1) 価格の予想方法(投資戦略)
2)学習
3)注文数量
4)homogeneousとheterogeneous
Ⅲ-b) 価格決定メカニズム
37
ファイナンス研究の主流 (1/3)
「効率的市場仮説」にもとづく
企業には実態価値(本当の価格,ファンダメンタル価値)が存在する
株価×発行済株式数 = 時価総額
時価総額が実態価値に一致するように一瞬で株価が動く
↑合理的な投資家の間では実態価値が一致
弱い効率性:実態価値の測定以外の投資戦略は無効
強い効率性:株式投資で利益を上げることは絶対に不可能
短期的な株価変動はすべてノイズ

ノイズ

実態価値
ファンダメンタル価値
時価総額
(株価)
時間
ファイナンス研究の主流 (2/3)
株価(その変動)と企業の状態(特に財務情報)の回帰分析が中心

例)設備投資を多くしている企業は株価が高い傾向がある
(Lev & Sougiannis 1996, Chan et. al. 2001)
時価総額 / 資本金 = a 設備投資額 / 資本金 + b a が有意に正
例)時価総額が小さい企業のほうが株価リターンがプラスに大きい
(Fama & French 1992)
株価リターン = a 時価総額 + b

a が有意に正

→ 強い効率性は成立していない: アノマリー
時価総額が小さい方が倒産リスクが高いから
リターンは高くてもよい?といった議論
ファイナンス研究の主流 (3/3)
しかし、いろいろな方面(亜流)から多くの批判
例)”効率的”では”説明しづらい”現象が多すぎる
バブル、オーバーシュート

ノイズ

実証に耐えられているのか?(天動説と地動説のような争い)
実態価値から遠いところで何故こんなに取引を行う?という問題も
例)見つけた”傾向”とかは10年くらい経つと”逆傾向”になったりする
→ その時々の流行を見ているだけで普遍性は実はないのでは?
もくじ
【Ⅰ】金融(ファイナンス)研究の状況
Ⅰ-a) ファイナンス研究の主流
Ⅰ-b) 金融工学
Ⅰ-c) 行動経済学・実験経済学
Ⅰ-d) 人工市場シミュレーション

【Ⅱ】人工市場の基本的な考え方
【Ⅲ】モデル化の選択軸
Ⅲ-a) エージェントのモデル化
1) 価格の予想方法(投資戦略)
2)学習
3)注文数量
4)homogeneousとheterogeneous
Ⅲ-b) 価格決定メカニズム
41
金融工学 (1/2)

(少し亜流)(一部、経済物理を含む)

もっと株価リターンの特性を分析
実用性を重視、価格変動の理由は問わない
マクロ:株価 → 直接取り扱う
ミクロ:投資家行動 → とりあえず無視
例)GARCHモデル(Bollerselev 1986)
リターン

ut   t  t

係数(ボラティリティ)
正規分布乱数

αやβが有意に正
Stylized Facts(ファットテール、ボラティリティ・クラスタリング)
再現した株価変動モデルが作れた
→ ○ 実務家がリスク管理などに便利に使える
→ × Stylized Factsの発生理由は全く分からない
金融工学 (2/2)
例)モダンポートフォリオ理論
(Markowitz 1952, Sharpe 1964, Lintner 1965)
価格変動が少なくなる銘柄の組み合わせを探す
資産A・Bの2つのみがある場合のウエイトの組み合わせ

リスク最小、リスクのわりにリターンが高い、
などのウエイトを決められる、便利な道具
もくじ
【Ⅰ】金融(ファイナンス)研究の状況
Ⅰ-a) ファイナンス研究の主流
Ⅰ-b) 金融工学
Ⅰ-c) 行動経済学・実験経済学
Ⅰ-d) 人工市場シミュレーション

【Ⅱ】人工市場の基本的な考え方
【Ⅲ】モデル化の選択軸
Ⅲ-a) エージェントのモデル化
1) 価格の予想方法(投資戦略)
2)学習
3)注文数量
4)homogeneousとheterogeneous
Ⅲ-b) 価格決定メカニズム
44
行動経済学・実験経済学 (1/1)

(少数派)

ミクロに焦点をあて、ミクロメカニズムの解明に注力
投資家(ミクロ)への実験を重視
株価(マクロ)変動の説明まではたどりつけていない
→ 理由は分かっても実用的でない
→ ミクロとマクロの関係が分からない
例)投資家心理バイアス (Kahneman and Tversky 1979)
アンケート調査
・得をするときは安全策を、損をするときは勝負をしてしまう
・100%保障を不必要に高く評価してしまう
・最初の投資金額からの資金の増減を不必要に重要視してしまう
例) 実験市場を用いた市場の非効率性の検証(Hommes 2007)
実験室内で人間を用いた市場を作成
実態価値が分かっていてもそれとは異なる価格で儲けようとする
もくじ
【Ⅰ】金融(ファイナンス)研究の状況
Ⅰ-a) ファイナンス研究の主流
Ⅰ-b) 金融工学
Ⅰ-c) 行動経済学・実験経済学
Ⅰ-d) 人工市場シミュレーション

【Ⅱ】人工市場の基本的な考え方
【Ⅲ】モデル化の選択軸
Ⅲ-a) エージェントのモデル化
1) 価格の予想方法(投資戦略)
2)学習
3)注文数量
4)homogeneousとheterogeneous
Ⅲ-b) 価格決定メカニズム
46
人工市場シミュレーション (1/2)

(ごく少数)

ミクロの積み上げによるマクロを観測
エージェント・ベースド・モデル
・ 普遍的に起こるマクロ現象が起こる理由の解明
→ Stylized Facts の発生理由
⇒ 経済物理学の一部がここに参入
→ 投資家心理バイアスが株価形成に与える影響
・ 実務上問題となるミクロ・マクロ相互作用の分析
→ 行ったことが無い制度・規制の変更が与える影響
→ 実務上問題となる特殊な投資家の存在が与える影響
→ 最近登場した高頻度取引が与える影響
人工市場シミュレーション (2/2)
人工市場分野から見た周辺分野との関係
未知の環境を実験
可能世界ブラウジング
マクロ現象
(株価変動)

相互作用の解明

ミクロ現象
(投資家行動)

人工市場
モデル化
道具作成

経済物理(一部)
モデルの
妥当性検証

金融工学
Stylized
経済物理(一部) Facts

エージェント
モデル

メカニズム
の解明
行動経済学
実験経済学
もくじ
【Ⅰ】金融(ファイナンス)研究の状況
Ⅰ-a) ファイナンス研究の主流
Ⅰ-b) 金融工学
Ⅰ-c) 行動経済学・実験経済学
Ⅰ-d) 人工市場シミュレーション

【Ⅱ】人工市場の基本的な考え方
【Ⅲ】モデル化の選択軸
Ⅲ-a) エージェントのモデル化
1) 価格の予想方法(投資戦略)
2)学習
3)注文数量
4)homogeneousとheterogeneous
Ⅲ-b) 価格決定メカニズム
49
妥当性(1)
現実のマクロを
(必要な部分)再現
Stylized Factsを再現

マクロ ← 前提を置かない
≠ 金融工学
株価変動
売買数量

積み上げ
妥当性(2)
実証等で解明された
ミクロにあわせる

ファンダメンタル投資家
テクニカル(順張り)投資家
(→ 次章で詳しく)

ミクロ ← モデル化
エージェント(投資家)
価格決定メカニズム(取引所)
妥当性(3)
妥当性(1)・(2)を満たす限り
シンプルなモデル

パラメータが多すぎると評価不能
恣意的な結果へ誘導疑念を払拭
妥当性(1) 現実のマクロを(必要な部分)再現 Stylized Facts (1/3)
知られている全てのStylized Factsの再現は目的でない
⇔ 不必要な複雑化は、(目的に対し)妥当でないモデルに
⇒ 調査目的に応じて再現すべきStylized Factsは異なる

★どのような状況でも強力に存在
(1) ファットテール
(Mandelbrot 1963, Cont 2001, Sewell 2006)
株価リターンの分布が正規分布に比べ裾が厚い
→ 暴騰・暴落が正規分布で予想されるより多い
(2) ボラティリティ・クラスタリング
(Mandelbrot 1972, Cont 2001, Sewell 2006)
株価リターンの2乗が大きなラグでも自己相関(0.1程度)をもつ
→ 市場が荒れだすと持続する

逆に言えばこれら以外のStylized Factsや
マクロ的特長は不安定にしか存在しない
⇔ あんまり精密に合わせにいっても仕方がない
妥当性(1) 現実のマクロを(必要な部分)再現 Stylized Facts (2/3)
一時的にしか発現しない動的な現象(バブル・オーバーシュート)
バブル
オーバーシュート

時間
Stylized Facts
計測期間
これまで検討されてきたStylized Factsは計測期間中に
満遍なく存在する性質しか抽出できないものばかり
これら動的な現象を再現できるのかどうか検証する
Stylized Factsが必要
妥当性(1) 現実のマクロを(必要な部分)再現 Stylized Facts (3/3)
Hazard Rate を提案 (Mizuta & Izumi & Yoshimura 2013a)
H(i) 条件付確率
i回連続で正のリターンが続いた後,リターンが負になる確率
例えば、 i=3、H(3) の場合
時刻
リターン

・・・・ 1

2

3

4
H(3): 4番目のリターン
が負になる確率

実証研究:
平常時のみの期間でも: H(i) < 50%,
バブルなどの現象を”含む”期間: iとともにH(i)は急減
(McQueen and Thorley 1994, Chan et. al. 1998)
⇒ バブル時はリターンが正に続きやすい
続けば続くほどその傾向は強くなる
妥当性(3) 妥当性(1)・(2)を満たす限りシンプルなモデル

パラメータが多すぎると評価不能
恣意的な結果へ誘導疑念を払拭
だけれども、、、、

(LeBaron 2006, Chen et. al. 2009)

☆“学習”は必要ないのでは?
→ 動的な現象を調査する場合は必要、安定期の調査なら不要
☆“連続ダブルオークション”(ザラ場)は不要では?
→ 制度・規制、高頻度取引、サヤ取り、ポジション依存、
等の調査の場合は必要
☆ファンダメンタル投資家は必要?
→ 市場混乱の調査、取引価格帯の固定、等、必要な場合あり
真正面から議論されたことが少ない
↑次章で議論
もくじ
【Ⅰ】金融(ファイナンス)研究の状況
Ⅰ-a) ファイナンス研究の主流
Ⅰ-b) 金融工学
Ⅰ-c) 行動経済学・実験経済学
Ⅰ-d) 人工市場シミュレーション

【Ⅱ】人工市場の基本的な考え方
【Ⅲ】モデル化の選択軸
Ⅲ-a) エージェントのモデル化
1) 価格の予想方法(投資戦略)
2)学習
3)注文数量
4)homogeneousとheterogeneous
Ⅲ-b) 価格決定メカニズム
55
1) 価格の予想方法(投資戦略)(1/8)
投資戦略は無数に考えられる: 無駄に増やしたらダメ

Lux & Marchesi 1999, Nature: 比較的シンプルなモデルで
* ファンダメンタル・エージェント
* テクニカル・エージェント
に集約 ← 理由は述べられていない
⇒ ボラティリティ・クラスタリングを再現

この2つ組み“だけ”が妥当かどうかは分からない
この2つ組みで“十分”(そこそこ)妥当とは言える
1) 価格の予想方法(投資戦略)(2/8)
* ファンダメンタル・エージェント
ファンダメンタル価値 > 株価 ⇒ 買い: 上がると予想
ファンダメンタル価値 < 株価 ⇒ 売り: 下がると予想
* テクニカル・エージェント
過去リターン > 0 ⇒ 買い
過去リターン < 0 ⇒ 売り
テクニカル
(順張り)
エージェント
ファンダメンタル
エージェント

株価

ファンダメンタル
価値
1) 価格の予想方法(投資戦略)(3/8)
妥当性(2): 実証等で解明されたミクロにあわせる
* アンケート調査による実証研究
どのような投資戦略を用いているか?
ファンダメンタル、テクニカルを問うのが一般的
他の項目を追加してもこの2つの回答が多い
⇒ 2戦略が現実市場で主要な投資戦略
投資家が考えるファンダメンタル価値はバラけている
⇒ heterogeneous(後述)
2戦略間で切り替えを行う ⇒ 学習あり(後述)
Menkhoff & Taylor, 2007
1) 価格の予想方法(投資戦略)(4/8)
妥当性(2): 実証等で解明されたミクロにあわせる

* 人を使った実験研究(行動経済学・実験経済学)
(例: 橋本 2008)
ランダムに動いている架空の株価時系列を被験者に見せる
被験者もランダムだと知っているにも関わらず予想しようとする
予測手法は順張り(テクニカル)
1) 価格の予想方法(投資戦略)(5/8)
妥当性(2): 実証等で解明されたミクロにあわせる

ファンダメンタル?(実態価値?)
ファイナンス研究の主流派
ファンダメンタル投資家しか存在しない
↑効率的市場仮説: 一意に決まりみんな知っている
テクニカルがいたとしても儲からないので減っていなくなる
(Friedman, 1953)
株式の定義

全株式を手に入れると企業の全利益が手に入る(全額配当)
例)毎年1兆円くらい現金を得ている企業
1円は安すぎるし、100兆円は高すぎる、10兆円くらい?
利益は続く?3年で回収したい人10年でも良い人
不確定要素 & 人によって違う要求利回り
⇒ 幅があり、一意に決まらないが、存在はする
1) 価格の予想方法(投資戦略)(6/8)
妥当性(1) 現実のマクロを(必要な部分)再現 Stylized Facts

* 主要Stylized Factsを満たす限りの
なるべくシンプルなエージェントモデルの追及(経済物理学)
(例: Yamada et. al. 2009, Physical Review E)

順張り(テクニカル)だけでよい
価格の順張り: ファットテール
注文間隔の順張り: ボラティリティ・クラスタリング
「ファンダメンタル投資家が必要ない」
⇒ 主流派にとっては衝撃
1) 価格の予想方法(投資戦略)(7/8)

まとめ

なぜ、この2戦略なのか?
ファイナンス研究の主流派
これのみ
いるハズ

不要な場合も
ファンダメンタル
エージェント

幅はあるが 不要
存在
株式の定義

全部買えば利益は
全て自分のもの

効率的市場仮説
いない
ハズ
アンケート調査

主要な
戦略
経済物理
Stylized Factsを再現

絶対必要
テクニカル(順張り)
エージェント
必要

人間の
基本特性
行動経済学

人への実験
1) 価格の予想方法(投資戦略)(8/8)

ファンダメンタル・エージェントが必要な場合
・
・
・
・

取引価格帯を変えたくない(他資産との整合性など)
市場混乱のトリガーとしてファンダメンタル価格を急変させる
ファンダメンタルの変化量と市場価格の変化量を比較したい
誤発注などで著しく押し下げられた株価が戻る過程が必要

シミュレーションの技術的な側面から要・不要を判断

主流派と行動経済学との間の宗教戦争に
参加は出来ない(したくない)
もくじ
【Ⅰ】金融(ファイナンス)研究の状況
Ⅰ-a) ファイナンス研究の主流
Ⅰ-b) 金融工学
Ⅰ-c) 行動経済学・実験経済学
Ⅰ-d) 人工市場シミュレーション

【Ⅱ】人工市場の基本的な考え方
【Ⅲ】モデル化の選択軸
Ⅲ-a) エージェントのモデル化
1) 価格の予想方法(投資戦略)
2)学習
3)注文数量
4)homogeneousとheterogeneous
Ⅲ-b) 価格決定メカニズム
65
2)学習(1/3)

学習とは?
各エージェントが過去の投資成績や過去の株価の推移から、
パラメータを調整したり戦略を切り替えたりする

学習は不要という見解
学習を追加しても新たに説明可能となるStylized factが無い
(Chen et. al., 2009)
学習なしで主要Stylized factを再現 (Chiallera et. al. 2002, 2009)

⇒ 新しいStylized fact “Hazard Rate”は学習がないと再現できない
(Mizuta & Izumi & Yoshimura 2013a)
Hazard Rateはバブルやオーバーシュートなど一時的に大きな価格
変動を起こすような現象が含まれているか調べるもの
市場が安定している場合を取り扱う: 学習は必須でない
バブルなどを取り扱う場合: 学習は必須
2)学習(2/3)

もともと、学習が実装された人工市場のほうが多かった
(LeBaron 2006, Chen et. al. 2009)
サンタフェ・モデル(Auther et. al. 1997)
学習を実装し、バブルを再現
和泉先生モデル(Izumi & Okatsu 1996, Izumi & Ueda 1999):
バブル時におこる取引量に関する現象をも再現
Luxモデル(Lux & Marchesi 1999, Nature)でも学習を実装
←理由の説明はなかった
他、多数
⇒ 学習について明確な議論は無かった
実装する理由が述べられたり、
実装した場合としない場合の丁寧な比較検討したり
比較のための基準を議論したりはされてこなかった
2)学習(3/3)

それでも学習が実装されてきた理由
特にバブル形成時に学習が重要であることが広く知られていた
チューリップバブル(オランダ1637年):
ファンダメンタルからテクニカルへの変更
実験経済学(例 Hirota & Sunder 2007)
バブル期は、投資家がテクニカル戦略に自信を深め、
テクニカル戦略に傾斜する
実証研究(例 山本 & 平田 2011)
市場価格がファンダメンタル価格から乖離すればするほど、
テクニカル戦略を行う投資家が増える
著名投機家:ジョージ・ソロス (2003)
1992年イギリス・ポンドを空売りして大もうけ → €に通貨統合できず
運用するクオンタム・ファンドのリターンは驚異的
自己強化プロセスという学習こそが価格変動を支配していると主張
ノーベル経済学賞学者のファンドは破綻したことと対照的
今の価格より
高く買ってくれる人が
多いに違いない

予想に
確信を持つ

予想が実現

Positive
Feedback

株を買う

株価上昇
● positive feed back は金融危機の原因の根幹である可能性有り

野村資本市場研究所 2008

70
もくじ
【Ⅰ】金融(ファイナンス)研究の状況
Ⅰ-a) ファイナンス研究の主流
Ⅰ-b) 金融工学
Ⅰ-c) 行動経済学・実験経済学
Ⅰ-d) 人工市場シミュレーション

【Ⅱ】人工市場の基本的な考え方
【Ⅲ】モデル化の選択軸
Ⅲ-a) エージェントのモデル化
1) 価格の予想方法(投資戦略)
2)学習
3)注文数量
4)homogeneousとheterogeneous
Ⅲ-b) 価格決定メカニズム
71
4)価格決定メカニズム(1/3)
簡易型: リターンが需給に比例する
・ エージェントがhomogeneousでよい
↑エージェントの種類ごとに投資判断が同一
数体のエージェントしかいない
・ パラメータが少なくて済む

r  z

Z:需給(買い注文量ー売り注文量)

簡易型だと、、、
・ 指値が出来ない、ポジションが管理できない
↑ 何株売買したか不明
・ 売買数量(出来高)という重要なマクロ指標が不明確になる
・ 実際の市場の制度・規制が実装できない
・ 高頻度取引が取り扱えない(売り買いを両方出す)
⇔ リターンの特性を見るだけなら簡易型でよい

72
4)価格決定メカニズム(2/3)
実際の市場と同じ: 実際の市場と同じものを作成
⇒ 板寄せ(call market)、ザラバ(continuous double auction)
・ エージェントをheterogeneousにする必要
↑同一種類のエージェントでも投資判断がバラける
エージェントは数十体~数千体以上
・ パラメータが増える
以下のような調査では実際と同じ市場にする必要がある
現在の損益によって心理的影響を受け注文数量が変わる
高頻度取引が価格変動に与える影響
ヘッジ取引(ポジション管理、損益計算、指値が必要)
制度・規制の実装

73
call market(板寄せ): 全ての注文を集めてから価格を決定
板寄せ
安い方か
売り
ら累積 注文株数
260
10
250
30
220
220
50
170
130
40
30
10
10
10

注文
価格
103
102
101
100
99
98
97
96

買い
注文株数
10
30
70
110
20
30
40

高い方から
累積
10
40
110
220
←需給が一致する
240
  ところで取引成立
240
270
310

時間が来るまで注文は成立しない

74
continuous double auction(ザラ場):
注文が入るごとに価格を決定
ザラバ
売り
注文株数
10
30
50
130
ここも同様⇒

注文
価格
103
102
101
100
99
98
97
96

買い
注文株数

←ここに注文を入れるとすぐに取引成立
150
70

対等する注文があるとすぐに成立
75
4)価格決定メカニズム(3/3)
簡易型: リターンが需給に比例する

r

 2
2

z

Z:需給(買い注文量ー売り注文量)
比例係数はファンダメンタル価格の予想値のバラつきσ に比例
(水田ら 2012)
Homogeneous なモデルでも、
投資家がHeterogeneousであるという仮定を含んでいる
⇒ 簡易型が実際の市場のHeterogeneous性を
否定しているわけではない
76
3)注文数量(1/2)
* 一株ずつ注文
・単純でパラメータが減る
・エージェントが数体しかいない単純な
homogeneousなモデルでは使えない
⇒ 比較的複雑な、
* 実際の市場と同じ価格決定メカニズム
* エージェントがheterogeneous
な場合にパラメータを減らすのに有効
* 市場価格と予想価格の差に比例した株数注文
⇒ CARA(Constant Absolute Risk Aversion)
(Brock & Hommes 1998)
・ homogeneousなモデルでも価格形成できる
・ ボラティリティ・クラスタリングを生出す要因(水田ら 2012)
↑これ以外の方法もあるがこれで十分再現できる
⇒ 行動経済学ではもっと複雑なリスク回避を予想
77
→ もっと複雑な注文数量が本質的影響?(研究課題)
3)注文数量(2/2)
騰落率2乗自己相関
1.0
0.8
株数一定方式
効用関数方式

相関係数

0.6
0.4
0.2
0.0
-0.2
1

2

3

4

5

ラグ(期)

注文間隔の順張りでなく、CARAでも
ボラティリティ・クラスタリングが説明可能(水田ら 2012)
ボラティリティ・クラスタリングの発生原因の解明に寄与
78
まとめ
人工市場分野から見た周辺分野との関係
未知の環境を実験
可能世界ブラウジング
マクロ現象
(株価変動)

相互作用の解明

ミクロ現象
(投資家行動)

人工市場
モデル化
道具作成

経済物理(一部)
モデルの
妥当性検証

金融工学
Stylized
経済物理(一部) Facts

エージェント
モデル

メカニズム
の解明
行動経済学
実験経済学
妥当性(1)
現実のマクロを
(必要な部分)再現
Stylized Factsを再現

マクロ ← 前提を置かない
≠ 金融工学
株価変動
売買数量

積み上げ
妥当性(2)
実証等で解明された
ミクロにあわせる

ファンダメンタル投資家
テクニカル(順張り)投資家

ミクロ ← モデル化
エージェント(投資家)
価格決定メカニズム(取引所)
妥当性(3)
妥当性(1)・(2)を満たす限り
シンプルなモデル

パラメータが多すぎると評価不能
恣意的な結果へ誘導疑念を払拭
まとめ

なぜ、この2戦略なのか?
ファイナンス研究の主流派
これのみ
いるハズ

不要な場合も
ファンダメンタル
エージェント

幅はあるが 不要
存在
株式の定義

全部買えば利益は
全て自分のもの

効率的市場仮説
いない
ハズ
アンケート調査

主要な
戦略
経済物理
Stylized Factsを再現

絶対必要
テクニカル(順張り)
エージェント
必要

人間の
基本特性
行動経済学

人への実験
妥当性(1) 現実のマクロを(必要な部分)再現 Stylized Facts

★どのような状況でも強力に存在
(1) ファットテール
(Mandelbrot 1963, Cont 2001, Sewell 2006)
株価リターンの分布が正規分布に比べ裾が厚い
→ 暴騰・暴落が正規分布で予想されるより多い
(2) ボラティリティ・クラスタリング
(Mandelbrot 1972, Cont 2001, Sewell 2006)
株価リターンの2乗が大きなラグでも自己相関(0.1程度)をもつ
→ 市場が荒れだすと持続する
学習
市場が安定している場合を取り扱う: 学習は必須でない
バブルなどを取り扱う場合: 学習は必須

価格決定メカニズム
リターンの特性を見るだけなら簡易型でよい
現実的な問題を調査するなら、現実的な市場を用意する必要あり
ご清聴ありがとうございました

水田孝信
mizutata[at]gmail.com
@takanobu.mizuta
http://www.geocities.jp/mizuta_ta/jindex.htm

http://www.slideshare.net/mizutata/20131212
参考文献 (1/4)
* 水田孝信,八木勲,和泉潔 (2012)
現実の価格決定メカニズムを考慮した人工市場の設定評価手法の開発,人工知能学会論文誌,27,6,320-327(2012)
* Mizuta, T., Izumi, K., Yoshimura, S. (2013a)
Price Variation Limits and Financial Market Bubbles: Artificial Market Simulations with Agents' Learning Process, IEEE Symposium
Series on Computational Intelligence, Computational Intelligence for Financial Engineering and Economics (CIFEr), 2013.
http://www.slideshare.net/mizutata/cifer2013 (slide)
* Mizuta, T., Izumi, K., Yagi, I., Yoshimura, S. (2013b)
Design of Financial Market Regulations against Large Price Fluctuations using by Artificial Market Simulations, Journal of
Mathematical Finance, Scientific Research Publishing, Vol.3, No. 2A.
http://www.scirp.org/journal/PaperInformation.aspx?PaperID=30551
* 水田孝信, 和泉潔, 八木勲, 吉村忍 (2013c)
人工市場を用いた値幅制限・空売り規制・アップティックルールの検証と最適な制度の設計, 電気学会論文誌 論文誌C, Vol. 133, No.9.
* 水田孝信, 早川聡, 和泉潔, 吉村忍 (2013d)
人工市場シミュレーションを用いた取引市場間におけるティックサイズと取引量の関係性分析, JPXワーキング・ペーパー, Vol. 2, 東京
証券取引所.
* Mizuta, T., Hayakawa, S., Izumi, K., Yoshimura, S. (2013e)
Simulation Study on Effects of Tick Size Difference in Stock Markets Competition, The 8th International Workshop on Agent-based
Approach in Economic and Social Complex Systems (AESCS 2013), 2013, http://www.slideshare.net/mizutata/AESCS2013 (slide)
* 水田孝信, 和泉潔, 八木勲, 吉村忍 (2013f)
人工市場を用いた大規模誤発注による市場混乱を防ぐ制度・規制の検証 ~ トリガー式アップティック・ルールを中心に ~, 人工知能
学会 金融情報学研究会, 東京, 10/12.

86
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日本の株式市場における戦略の切り替えの実証分析, 第5回行動経済学会プロシーディングス

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東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻:授業:金融レジリエンス情報学:2013年12月12日 資料