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覆⼟無し⾷⽤作物栽培開始をめぐって
─ 開⽰⽂書よりわかること ─
2020年8⽉19⽇
⿓⾕⼤学政策学部
⼤島堅⼀
1
経緯
• 2019年12⽉19⽇ 中間貯蔵除去⼟壌等の減容・再⽣利⽤技術開発戦略検討会(第11回)
• 2020年1⽉15⽇ 除去⼟壌等の減容・再⽣利⽤技術開発戦略の具体化に係る調査業務<
⾮公開>【開⽰⽂書1〜4】
• ⾷⽤作物栽培 (覆⼟無し)が⽂書に⽰される。
• 2020年2⽉9⽇ 飯舘村⻑泥地区での意⾒交換 【開⽰⽂書5】
• 2020年2⽉10⽇ 除去⼟壌の再⽣利⽤に係る放射線影響に関する安全性評価検討ワーキ
ンググループ(安全性評価検討WG)【開⽰⽂書6〜9】
• 2020年2⽉19⽇ 飯舘村⻑泥地区環境再⽣事業運営協 議会
• 2020年3⽉27⽇?31⽇? 飯舘村への説明資料【開⽰⽂書10】
• 2020年4⽉28⽇、5⽉1⽇ ⼩泉環境⼤⾂記者会⾒
• 2020年8⽉7⽇ NHK報道
• 2020年8⽉8⽇ 共同通信報道
※他に、【開⽰⽂書11】あり。
2
出所:NHK政治マガジン(https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/27753.html)
• これ⾃体、なし崩し的に農地利⽤に
拡⼤しているものだが、ここでは、
農地の造成の際にとしてもちいるこ
とを基本としている。(つまり覆⼟
有り)
• また、慎重論も多い。(河川の問題、
災害時の問題、転地の問題)
• 農地には、道路と異なり公的管理者
がいない、という問題もある。
(今回の報告では割愛)
3
4
5
6
7
出所:除去⼟壌の再⽣利⽤に係る放射線影響に関する安全性評価検討ワーキンググループ(令和元年度第2
回会合)2020年2⽉10⽇、議事録
8
覆⼟無しの栽培
が「計画」とし
て報告されてい
る。
出所:除去⼟壌の再⽣利⽤に係る放射線影響に関する安全性評価検討ワーキンググループ(令和元年度第2回
会合)2020年2⽉10⽇、放安WG1 【開⽰⽂書8】, p.1 9
出所:除去⼟壌の再⽣利⽤に係る放射線影響に関する安全性評価検討ワーキンググループ(令和元年度第2回会合)2020年2⽉10⽇、配付
資料、放安WG1 【開⽰⽂書8】, p.2 10
作物に変更が加
えられている。
※被曝について評価していることから重要な記述だが、3ページ⽬以降が開⽰⽂
書に含まれていないため、⼗分には理解できない。
出所:除去⼟壌の再⽣利⽤に係る放射線影響に関する安全性評価検討ワーキンググループ(令和元年度第2
回会合)2020年2⽉10⽇、【開⽰⽂書6】
11
※重要な記述だが、3ページ⽬以降は開⽰⽂書に含まれていないため、⼗分には理解できない。
実証事業とはいえ、安全性評価にかかわる議論を、⾮公開のまま簡便に済ませている。
出所:除去⼟壌の再⽣利⽤に係る放射線影響に関する安全性評価検討ワーキンググループ(令和元年度第2
回会合)2020年2⽉10⽇、【開⽰⽂書6】
観賞⽤プランターに再⽣資材を使う計画?が新たに登場している。
12
出所:除去⼟壌の再⽣利⽤に係る放射線影響に関する安全性評価検討ワーキンググループ(令和元年度第2
回会合)2020年2⽉10⽇、【開⽰⽂書6】
13
出所:環境省(2020/08/19現在)http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/
2019年11⽉15⽇以来、議事録、資
料を公表していない。
14
• 地元の要望で⾷⽤作物の試験栽培。
• 覆⼟のないパターンでも試験栽培。(何の栽培なのかは書かれていない)
• 「地元の要望」が開⽰⽂書からは確認できない。
→ 「地元」とは何か、誰か、調査したのか
→ 飯舘村の⼈々に周知されているのか。
→ そもそも「地元」の要望であれば、除去⼟壌を⽤いて栽培する⽅向で議論して良いのか。
※ 地元は、農業をしたいのであって、除去⼟壌で農業したいと「要望」しているのか。(除去⼟壌でない、
普通の⼟壌での農業は選択肢として⼊ったうえで、要望していると⾔えるのか。)
飯舘村⻑泥地区環境再⽣事業運営協議会(第7回)議事要旨より
出所:環境省ホームページ(http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/recycling/project/iitate.html)
15
出所:⼤⾂レク資料(2020年3⽉18⽇)【開⽰⽂書9】
覆⼟無し栽培については
記述がない。
16
17
出所:⼤⾂レク資料(2020年3⽉18⽇)【開⽰⽂書9】
→ これと同じ趣旨の答弁を、2020年4⽉6⽇の衆議院決算⾏政監視委員会第⼀分科会で、
⼩泉環境⼤⾂が⾏っている。
※ 国会でも覆⼟無し⾷⽤作物栽培開始については⾔及していない。
「令和2年度 試験栽培の計画(案)」(2020年3⽉27⽇)(⾮公開)【開⽰資料10】 18
飯舘村向けの説明
資料の4ページ⽬
に⾷⽤キャベツ
(インゲン
も??)を「覆⼟
無し栽培する」こ
とが吹き出しで書
かれている。
出所:⺠の声新聞(http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/blog-entry-472.html)
飯舘村菅野村⻑の発
⾔についての報道
19
覆⼟無し栽培報道後、
環境省に問い合わせ
ていることがわかる。
覆⼟無し栽培は知ら
ない、覆⼟無しなら
進めなかった。
出所:NHK NEWS WEB (2020/8/7)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200807/k10012557651
000.html
• 少なくとも半年にわたって公表してこなかっ
たことをNHK報道を通じて公表。
→ 国の公表といえるのか。
→ 等しくプレスリリースしたのか。(もし
かしてNHKだけ??)
• 「そのまま野菜の栽培に使うことも検討す
る」という重⼤な内容が含まれている。
• 「地元の住⺠などとも相談」→ 地元とは何
か。「⼿引き」をつくるなら、全国の農⺠、
消費者が対象となるのではないのか。
20
出所:⼩泉⼤⾂記者会⾒録(2020年3⽉6⽇)
(http://www.env.go.jp/annai/kaiken/r2/0310.html)
出所:⼩泉⼤⾂記者会⾒録(2020年4⽉28⽇)https://www.env.go.jp/annai/kaiken/r2/0428.html
⼩泉環境⼤⾂の記者会⾒(2020年3⽉6⽇)
飯舘村の除去⼟壌を使った鉢植えの話に終始。
21
出所:⼩泉環境⼤⾂会⾒録(2020年3⽉10⽇)
http://www.env.go.jp/annai/kaiken/r2/0310.html
⼩泉環境⼤⾂の記者会⾒(2020年3⽉10⽇)
飯舘村の除去⼟壌を使った鉢植えの話に終始。
22
出所:⼩泉⼤⾂記者会⾒録(2020年4⽉28⽇)https://www.env.go.jp/annai/kaiken/r2/0428.html
⼩泉環境⼤⾂の記者会⾒(2020年4⽉28⽇)
飯舘村の実証事業で、⾷⽤作物(キュウリ、トマト)を栽培すると発⾔。
これまで技術的な検討において、⾷⽤作物は対象としてこなかった。
試験栽培を実施してほしいという地元の意⾒を受けた。
希望する地元の皆さんが栽培できる環境を整える。
23
出所:⼩泉⼤⾂記者会⾒録(2020年5⽉1⽇) https://www.env.go.jp/annai/kaiken/r2/0501.html 24
⼩泉環境⼤⾂の記者会⾒(2020年5⽉1⽇)
様々な作物に対しての実証事業を⾏って、その結果を踏まえて制度化(省令改定)。
飯舘村の実証事業で、⾷⽤作物を栽培し、⾃ら⾷べに⾏く、送ってもらうと発⾔。
開⽰⽂書と公開情報の組み合わせからわかること
• 2020年1⽉には、環境省内で、覆⼟無し⾷⽤作物栽培の実証事業を⾏うことを決定していた。
• 2020年1⽉15⽇(農研機構との打ち合わせ)、2⽉10⽇に(安全性評価WG)で、覆⼟なし⾷⽤作物
栽培について議論していた。同会議は、開催された事実も含めて⾮公開であった。現在(2020年8
⽉19⽇)も環境省ホームページでは公開されていない。
• 地元の要望であることを、1⽉15⽇の段階で職員が述べているが、覆⼟無し栽培なのか、「地元」
とは何か、どのような要望であったのかは確認できない。
• 2020年3⽉27⽇付飯舘村への説明資料の6ページに「覆⼟無しで栽培する」との記述が登場(⾮公
開)【開⽰⽂書】
• ⼩泉環境⼤⾂は、2020年4⽉28⽇に⾷⽤作物栽培の実証事業を⾏うことを公表した。2020年5⽉1
⽇には、より詳しく、トマトとキュウリを⾷べると述べた。ただし、覆⼟無しとは述べてない。
• 2020年8⽉7⽇に、突如、覆⼟無し栽培をすることに決めたとNHKが報道した。しかしプレスリ
リースはされていない。(どこで決めたのかよくわからない報道。)
• 2020年8⽉9⽇ 共同通信による報道
• 2020年8⽉9⽇に、菅野村⻑は、覆⼟無し⾷⽤作物栽培の事実を知らなかった、知っていれば認め
なかった旨の発⾔を⾏った。これにより、⼗分に伝えられていなかったことがわかる。
25
疑問点・論点
• そもそも⽬的がわからない
• 省令改正、⼿引き作成のためか。
• 地元で栽培するためのものか。 混同は混乱を招く。
• 「地元の要望」とは何か?
• 地元の定義
• 要望の定義、要望要望を出すに当たっての選択肢 が不明。
• 農業の再開の中に、除染された放射性物質を含まない⼟壌での農業が含まれていたか。それとも、そもそ
も除去⼟壌での農業しか選択肢になかったのか。
• 「地元の要望」があれば、⾮公開で進めてよいのか。なぜ⾮公開で進めているのか。
• 「除去⼟壌」「再⽣資材」の所有関係はどうなっているのか。実証ではなく実際に栽培する場合は、売却する
はずだが、採算は合っているのか。また除去⼟壌・再⽣資材を処分・売却することは農⺠はできるのか。
• ⼩泉環境⼤⾂は、覆⼟無し⾷⽤作物栽培をいつの時点で知ったのか。
• 「⼿引き」の及ぼす範囲は何か。地域を定めないはずであるから、全国の農業者、消費者にも情報が届くよう、
公開の場で議論しなければならないのではないか。
そのほかたくさんあるが、今回は開⽰資料を読んでの最⼩限の論点のみにとどめた。
26
現時点での評価
1. 「⾮公開」で政策決定をして、なし崩し的に、既成事実化していると⾔わざるを得な
い。「再⽣利⽤」の⽤途を、次々に拡⼤しようとしている。
2. 「⾮公開」のまま、研究者がこれを明らかにしなければならない作業は不⽑そのもの
である。このようなことでは、広く国⺠の声や知⾒を反映できない。
3. 放射性物質管理・処分には国⺠参加が不可⽋であり、それがなければ必ず失敗する。
4. 「⾮公開」で進めれば、国⺠の間で理解が進まず、ますます疑⼼暗⻤になり、いわゆ
る「⾵評被害」をつくりだし、結果的に国⺠の間に分断をまねくだろう。
5. 「⼿引き」や省令改正のためであれば、地元の要望にそって、地元の合意のもとにす
すめていればよい、というわけではない。なぜなら、「⼿引き」や省令は、国全体に
及ぶからである。農業従事者、消費者も含めた議論が必要だろう。正当性は、国⺠の
関与があって初めて担保される。現段階では、政策に正当性がない。
6. そもそも、原⼦炉等規制法では、100ベクレル/kg以上の廃棄物は低レベル放射性廃棄
物として処分されているものである。処分量を減らすために利⽤量を増やすという本
末転倒な政策を取り下げ、除去⼟壌は適切に処分すべきである。
27
開⽰⽂書
1:2020年1⽉15⽇農研機構との打ち合わせ議事録
2:同 資料
3:同 資料 (今後の試験栽培の作物について)
4:同 資料 (参考資料1)
5:2020年2⽉9⽇環境⼤⾂意⾒交換会議事録
6:2020年2⽉10⽇除去⼟壌等の再⽣利⽤に係る放射線影響に関する安全性評価検討ワーキンググ
ループ 議事録
7:同 議事次第
8:同 資料(今後の試験栽培について)
9:2020年3⽉18⽇ 環境⼤⾂レク資料
10:2020年3⽉27⽇ 飯舘村への説明資料(試験栽培の計画(案))
11:原⼦⼒安全研究協会「平成31年度除去⼟壌等の減容・再⽣利⽤技術開発戦略の具体化等に係る
調査業務報告書」の⼀部
28https://drive.google.com/drive/folders/1ROCNVlVF1wb2wBPdYleJK9MU5rllgLcl?usp=sharing

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