1. 『サラリーマン西遊記』、想定外の作家デビュー！？
（うらばなし）
堀 哲三郎
（昭和 45 年(1970)卒・萩高 22 期）
３４年間勤務した日本の大手製薬会社を定年退職して約２年半が経った。私は現在、日本か
ら一番遠い国、ちょうど日本の真裏にあたる南米はアルゼンチンに暮らしている。「何故ア
ルゼンチンに？」と、誰しもが抱くであろう質問に答えるが如く、本年２月に『サラリーマ
ン西遊記』と題して著書を出版した。
しかし、未だかつて、本を書いて出版するなどと言うことは考えてみたこともなく、全くの
「想定外の作家デビュー！？」となった。本の内容はお読みいただければ分かることなので、
ここでは、本には書かれていない「想定外の作家デビュー！？」となった「うらばなし」を
書いてみよう。
昨年末のことだが、今回の私の出版を知った元会社同僚から、テレビで山崎豊子さんの紹介
が流れていたが・・とのメールが届いた。そのメール曰く、
 山崎豊子さんの最初の就職先は毎日新聞・大阪本社で、その時の上司が後の芥川賞
作家の井上靖氏。山崎さんは入社３年目頃までは、どんくさく、文章内容も記事の
スピードもなくて、皆に迷惑をかけていたとのことだ。その時、井上靖氏から「あ
なた、小説を書いてみてはどうですか！？」と言われた山崎さんは、「私には小説
を書く才能などない・・・！」と答えたそうだ。
 すると、井上キャップは彼女にこう言ったそうだ。「人間誰でも一生に一冊の本は
書ける、自分が生まれてから今までのことを正直に嘘を言わずに書けば一冊は書け
る！」と。
 この言葉で山崎さんは、自分の実家の昆布屋の「のれん」を守り死んでいった彼女
のお父さんの人生を「暖簾」として書いて発表し、作家デビューとなったそうだ。
続けて元会社同僚は、
 山崎豊子さんは良い上司に恵まれて自分の才能に目覚め、また、その才能を見抜い
た上司の井上靖さんは凄い、と。

2. だがしかし、今回の「私の作家デビュー（？）」の場合は、その両方とも当らずで、全くの
一人相撲だった。今年初めに頭の中を巡った思いと、「想定外の作家デビュー！？」に至っ
た過程を以下に記してみた。
 定年後１０年振りに南米・アルゼンチンの家族の元に戻って丸２年が経った。早い
ものだ。さて、３年目の今年は変化の年になりそうだ。また、そう期待したい。
 この２年間と言うもの、突然に襲ってきた四十肩などで、予ねてより画策していた
定年後のゴルフ三昧が期せずしてお預けになってしまった。
 う～ん、毎日が日曜日の様な「サンデー毎日」の日々、無為に時間が過ぎるのも勿
体無いと、学生時代に日本脱出を図りシベリア・ルートで初めて行ったヨーロッパ、
欧州ヒッチハイクの旅に始まり、地の果て海の果てのアルゼンチンに辿りつくまで
の自叙伝的ストーリー（珍道中）を綴り始めてみた。
 書き始めてみると次から次へと若き日々の記憶が鮮明に蘇ってきた。取り留めも無
いお話も結構なものになってきた。
 是非、現在サラリーマンである諸氏に、また将来サラリーマンになるであろう諸君
にシェアーして、少しでも参考になれば、また、「元気の素」にでもなればと、思
うようになった。
 「よ～し、一念発起して、出版してみよう！」、そう思い立ったのであった。
 こうして生まれたのが『サラリーマン西遊記』（英題：”Just like Columbus!”）
である。
 西へ西へと冒険の旅を続けたサラリーマンと「西遊記」とが、何かピッタリときた。
また、アメリカ大陸発見のコロンブスが、直ぐに頭に浮かんだ。
この様にして書き上げた本だが、出版に至るまでには未知の世界だけに、思いもよらず結構
「すったもんだ」があった。その「すったもんだ」を以下に記してみた。
 先ずは、「どうしたら、出版できるのだろう？」との単純な疑問が思い浮かんだ。
当然である、私には出版や出版業界のことについての知識は皆無であった。
 「う～ん、どうしたもんだろう？！」と色々と無い知恵を絞り、最初に思い浮かん
だのは、「既に本を出版したことのある人に聞いてみよう！」であった。また、
「その人を介して出版社にコンタクトできないものか？！」と。
 二人の方のことが思い浮かんだ。一人の方は、仕事の関係で知り合った某航空会社
国際線チーフパーサーを３５年間やられた方で、その間に出逢い接した１２０万人
の旅客とのご経験を基に、「国際人としてのマナーの基本」について本を出されて

3. いる方である。
 メールで連絡をとると快く、ご自分が出版された時の出版社の編集長にコンタクト
をいただいた。その編集長は既に定年退職されていたが、ちょっと検討してみると
のことで調べて下さった。しかし回答は、出版業界は不況にて、自伝ものの出版は
難しいとのことだった。
 次の二人目の方は、会社から派遣されたビジネスセミナーの関係で知り合った著名
なビジネス・コンサルタントの方で、沢山の著書もだされている方だ。駄目もとで
出版社の紹介が可能か聞いてみたが、こちらも生憎と難しいとの回答であった。
 「う～ん、他に誰か？」と考えて思い浮かんだのが、ロンドン駐在中に知り合った
某大手書店の駐在員だった。彼は既にクアラルンプールへと転勤になっていたが、
メールで出版社紹介の可能性を尋ねてみた。すると、彼自身は海外畑ばかりで国内
のことは良く分からないとのことで、国内担当の彼の同僚にも聞いてもらったが、
同じく出版については良く分からないとの返事だった。まあ、書店は出来上がった
本を売るだけだから、然もありなんと思った。
 「これは困ったな、出版はやはり難しいのか？！」と、やや消沈してしまったが、
現役時代に会社同僚がくれた「本にする原稿をさがしています。」との新聞広告の
コピーのことを思い出した。早速、これも駄目もとでコンタクトしてみると、自費
出版を主なビジネスとする出版社であった。「そうか、費用はかかるが、自費出版
の道がある・・・」ことに気が付いたのだった。
 「でも費用はいくら位かかるのだろうか？」との疑問が浮かんだが、まあいいや、
とにかく、出版社を探そうと早速ググってみた。結構な数の自費出版を主なビジネ
スとする出版社がヒットしたが、勿論、どの出版社が良いのか分からない。また、
ネット情報を見ていると、自費出版社の詐欺のことも書いてあった。何でも、出版
契約をして著者から出版費用が払い込まれるが、出版社は契約通りに書店に配本・
販促をしないなどの、色々なケースが書いてあった。
 「う～ん、悩ましいな～！」と思ったが、身近に全国販売の自費出版をした人がい
ないので、相談することも出来ない。取りあえずは、ネットで調べに調べて、会社
情報と勘で信頼できそうな４つの出版社を選んでみた。先ずは、原稿を応募してみ
て反応をみよう。
 暫くすると４社から各々、原稿に対する講評、出版の提案書と見積書が戻ってきた。
先ず目を引き瞼をパチパチさせたのは、見積書の金額であった。金額に多少のバラ
ツキはあったが、とても高額なお値段であった。
 「う～ん！」、ここでも更に悩んだが、講評の内容を読んでみて、見積書の金額も
一番であったが、私の原稿を一番良く読み込み、意図するところ・趣旨を一番理解

4. していると思われた、今回の出版社に決めたのであった。私には全てが、勘の世界
であった。
 こうして契約ドラフトも注意深く吟味して契約を結び、原稿の校正と確認の作業が
始まった。これが中々大変であった。最初はメール交信による校正と確認作業で、
時間のロスはないが、次は印刷された校正紙（ゲラ刷り）による同様の作業が２回
あって、２回目が最終でこれが本の印刷に回る訳だ。校正紙による作業は、ゲラ刷
りの分厚いＢ４サイズの紙の束が、日本とアルゼンチンの間を郵便で２往復する作
業でもある。日本国内だと片道精々１～２日だが、日本・アルゼンチンだとこれが
１～２週間になる。完成をはやる身には、やはり日本は遠いとのことを改めて実感
させた。
 しかし、郵送によるタイムロスを少しでもリカバーすべく、超特急で作業を進めた。
お陰で契約締結から４ヶ月間で第２回（最終）校正紙のチェック＆確認作業が完了
した。そして本のカバーデザインと帯の確認作業へと。カバーデザインも当初色々
とアイデアがあったが、最終的には娘が描いてくれたイラストが面白いと、これに
決めた。
 この様にして、昨年末に本の印刷・製本完了、本年１月末までに書店への配本完了、
そしてＸデー・２月 1 日の発売に持ち込むことができた。
この様に、定年後のゴルフ三昧お預けに端を発した「想定外の作家デビュー！？」への道の
りは、結構長いものとなったが、お陰様で日の目を見ることができたのだった。
以上
(著書『サラリーマン西遊記』の実物写真)

5. （寄稿後記）
今回初めて萩高同窓会報に寄稿することになったが、実は私、萩高 14 期・宮原晋一さんの
昭和５３年(1978)会報２５号への『ミュンヘンの親子丼』と題する寄稿のなかで「長髪で、
眼鏡をかけ、口髭を生やした青年、Ｈ君」として登場している。
西ドイツ（当時）ゲッチンゲン大学の学食で、全く偶然にも遭遇した我々萩高卒業生の二人
のことと、その時の様子が書かれている。
また、その中に出てくるアルゼンチン出身のＡ嬢が現在アルゼンチンで一緒に住む私の家内
である。ミュンヘン駅に見送りに行った時に宮原さんが撮影されたＡ嬢との写真(Before)、
そして近年の写真(After)である。
萩高同窓会報２５号 昭和５３年
「ミュンヘンの親子丼」 宮原 晋一氏（萩高14期）
Ａ嬢との写真
Before After