第2回:45度線分析とIS-LM
今日の内容
1.消費理論について
2.45度線分析
3.IS-LMモデル
・IS・LM曲線の導出
・フィッシャー方程式
・モデルによる基本的な分析
財政政策、金融政策、流動性の罠
消費理論
 ケインズ型消費関数
ケインズ←消費を決定する最も重要なものは可処分所得と考え、定式化
𝐶 = 𝑐 𝑌 − 𝑇 + 𝐶0 0 < 𝑐 < 1 0 < 𝐶0 ・・・(1)
C:消費, Y:GDP, T:所得税, 𝐶0:基礎消費, (Y-T):可処分所得, c:限界消費性向
※GDP, 消費, 税は実質値
平均消費性向:可処分所得と消費の比率
C
Y−T
= 𝑐 +
𝐶0
𝑌−𝑇
・・・(2)
(2)式より可処分所得が増加すると、平均消費性向は小さくなる
 ケインズ型消費関数について
・Cは経済全体の消費(所得階層別ではない)なので、
経済成長をしても平均消費性向は長期的に一定という実証データと矛盾
⇒基礎消費も経済成長と共に上昇しているとも考えられる
・各家計が現在の消費計画を現在の可処分所得のみで完全に決定している
⇒普通は将来の所得等も考慮して決定するのでは
研究が活発になり、このような特徴を修正する仮説が生まれる
 ライフサイクル仮説
家計は、現在の可処分所得ではなく一生涯の所得を考慮して現在の消
費計画を決定する ⇒ 現在の消費水準は生涯所得の水準に比例する
この仮説においては、現在の世代の生涯所得のみを考慮している。
 恒常所得仮説
ライフサイクル仮説と基本的に同じだが、この仮説においては
将来世代の生涯所得も含めて生涯所得を定義している。
※恒常所得・・・家計が稼げると期待する毎期の平均的な所得
45度線分析
45度線で分析する対象:財・サービス市場の需給一致と均衡点のGDP
GDPの式: 𝑌 = 𝐶 + 𝐼 + 𝐺 ・・・(3)
これに(1)式を代入して整理すると
𝑌 = 𝑐𝑌 − 𝑐𝑇 + 𝐶0 + 𝐼 + 𝐺 ・・・(4)
三面等価より
総所得Y=計画支出E
これを(4)式に適用すると
E = 𝑐𝑌 − 𝑐𝑇 + 𝐶0 + 𝐼 + 𝐺 ・・・(4)‘
また、三面等価より以下のことが言える
・総所得≡総生産 ⇒ Yは総供給を表す(生産したものは供給される)
⇒ Y=Eの式は総供給を表す
・ 計画支出E ⇒ 総需要を表す(需要するから支出する)
 45度線分析における(4)式は財市場の需給一致条件を表す式である
𝑌 = 𝑐𝑌 − 𝑐𝑇 + 𝐶0 + 𝐼 + 𝐺
総供給 総需要
よって、縦軸を計画支出Eとし、横軸を総所得Yとしてグラフを作ってみると
財市場の需給一致とその均衡GDPを見ることができる
右図においては財市場での需給一致がなされてい
るので、均衡GDPであるY*は(4)式をYについて解
くと求められる
𝑌∗ =
1
1−𝑐
(𝐶0 − 𝑐𝑇 + 𝐼 + 𝐺) ・・・(5)
(5)式かつ0 < 𝑐 < 1より、以下の事が言える
・𝐶0, 𝐼, 𝐺 つまり、基礎消費、投資、政府支出の
増加は均衡GDPを引き上げる
・限界消費性向cの上昇は均衡GDPを引き上げる
・𝑇(所得税)の増加は均衡GDPを引き下げる
Y
E
−𝑐𝑇 + 𝐶0 + 𝐼 + 𝐺
𝐸 = 𝑌
45度線分析図
Y*
 乗数効果
政府支出が∆G増加したとき、GDPの増加量は(5)式
より次のように表すことが出来る。
∆𝐺
1 − 𝑐
また、0 < 𝑐 < 1より、∆𝐺 <
∆𝐺
1−𝑐
である。
(5)式の係数
1
1−𝑐
を乗数という。
そして、このように政府支出Gの増加によって増え
るGDPがGの増加分より大きくなることを乗数効果
という。
分母が 1 − 𝑐 であることから分かるように、乗数効
果の大小は限界消費性向によって決定される。
Y
E
−𝑐𝑇 + 𝐶0 + 𝐼 + 𝐺
𝐸 = 𝑌
Y*
−𝑐𝑇 + 𝐶0 + 𝐼 + ∆𝐺 ∆G
Y**
 貯蓄のパラドックス
cは限界消費性向であるから、(1-c)は限界貯蓄性向と考えることが出来る。
ここで45度線分析(財市場)の均衡点における貯蓄額Sについて考えると
𝑆 = 𝑌 − 𝑇 − 𝐶
これに(1)式と(5)式を代入し、整理すると
𝑆 = 1 − 𝑐 𝑌 − 𝑇 ↔ 𝑆 = C0 + I + G − T
この式より、均衡点における貯蓄額Sに総所得Yは含まれていないことが分かる。
もし、将来への不安などで家計が貯蓄性向を高めた(つまりcが小さくなった)場
合は、(1)・(5)式より可処分所得、総所得は減少する。他方、貯蓄額SにYは含まれ
ていないので、Yがどのように変化しても貯蓄額は変わらない。換言すると、
「家計が貯蓄性向を高めると総所得自体が減少してしまうが、家計の貯蓄額自体
は変化しない。そのため、家計は貯蓄額を多くしたいがために貯蓄性向を高めた
のにも関わらず、総所得自体が減少してしまう上に貯蓄額も増加しない」
以上のように、家計が貯蓄性向を高めたことによって、当初に家計が望んだ結果
と正反対の結果が生じることを貯蓄のパラドックスという。
IS-LMモデル
期間:短期 ⇒ 物価水準に変化が生じない程度に短い
分析対象:財・サービス市場と貨幣市場 ⇒ GDPと金利の関係
IS-LMモデルの目的は、GDPと金利の関係を見ることである。
よって、分析を行うためには
⇒各市場についてGDPと金利の関係を表す関係式を立式し、同じグラフにプロット
各市場において均衡が成立しているとき、以下の関係式が成立している。
財・サービス市場: I = S I:設備投資 S:貯蓄
貨幣市場: L=M L:貨幣需要 M:貨幣供給
※各々・・・Investment, Saving, Liquidity demand, Money supply
 IS曲線
IS曲線:財・サービス市場における実質金利とGDPの関係を表す曲線
IS曲線の導出
設備投資関数を次のように定式化する。なお、この関数は利子率が増加する
と減少し、利子率が減少すると増加する実質金利 r の減少関数である。
𝐼 = 𝐼0 − 𝑑𝑟
𝑑:金利感応度(𝑑が大きいほど金利によく反応する)
この設備投資関数を(4)式に代入し、Yについて解くと以下の通りになる
𝑌 = −
𝑑
1−𝑐
𝑟 +
1
1−𝑐
𝐼0 + 𝐶0 + 𝐺 − 𝑐𝑇 ・・・(6)
この(6)式において、実質金利 r の係数である−
𝑑
1−𝑐
は負であるから
縦軸を実質金利 r とし、横軸をYとするとこの式は右下がりの直線を描く。
IS曲線が右下がりの関数になるメカニズムは以下の通り
1.実質金利が低下( r ↓ )
2.借り入れコストが低下して設備投資拡大
3.拡大した設備投資の乗数効果を通じて、
Yが増加する( Y ↑ )
また、(6)式における r の係数−
𝑑
1−𝑐
より、
乗数効果
1
1−𝑐
が大きい(cが大きい)または𝑑が大きい程
IS曲線の傾きは緩やかになることがわかる。
これは、軸を反転させた右下のグラフを見れば理解しや
すい。このグラフの軸を元のグラフと同じに戻せば、IS
曲線の傾きが緩やかになることが分かる。
r
Y
IS曲線
Y
r
IS曲線
−
𝑑
1−𝑐
が大きい場合
−
𝑑
1−𝑐
が大きい場合
 LM曲線
LM曲線:貨幣市場における名目金利とGDPの関係を表す曲線
LM曲線の導出
実質貨幣需要関数を次のように定式化する。
𝑀
𝑃
= 𝑚0 + 𝑚𝑌 − 𝑛𝑖
𝑀:名目貨幣需要 𝑃:物価水準 𝑚0:基礎的な貨幣需要
𝑚Y:GDPに比例して高まる貨幣需要 𝑛:金利感応度(ただし𝑑とは別)
なお、𝑛が大きいほど名目金利によく反応する(これは𝑑と同じ)
貨幣市場における需給一致は、名目貨幣供給𝑀 𝑠
とすると次の通りに表せる
𝑀 𝑠
𝑃
= 𝑚0 + 𝑚𝑌 − 𝑛𝑖
これをYについて解くと以下の通りになる
𝑌 =
𝑛
𝑚
𝑖 +
1
𝑚
(
𝑀 𝑠
𝑃
− 𝑚0) ・・・(7)
この(7)式において、名目金利 i の係数である−
𝑛
𝑚
は正であるから、
縦軸を名目金利 i とし、横軸をYとするとこの式は右上がりの直線を描く。
LM曲線が右上がりになるメカニズムは次の通り
1. 総所得Yが増加(Y↑)
2. Y増加により市場での貨幣需要が増加
3. 超過需要が生じるので、需給一致するために
貨幣保有コストである名目金利 i が上昇( i ↑)
iとYの増加の因果関係 がIS曲線のそれとは正反対
であることに留意したい。比較すると
IS: rが低下→Yが増加(金利の変化が始点、総所得の変化が終点)
LM: Yが増加→iが上昇(総所得の変化が始点、金利の変化が終点)
i
Y
LM曲線
 LM曲線の変化
・名目貨幣供給の増加
(7)式より、名目貨幣供給𝑀 𝑠
の係数は正であるので、
この増加は総所得Yの増加をもたらす。
一方、貨幣市場では貨幣供給の増加により超過供給
が発生するので名目金利が低下する。よって、この
増加は名目金利 i の低下をもたらす。
故に、LM曲線は下方へシフトする。
・金利感応度nの上昇
(7)式より、金利感応度nを含む項
𝑛
𝑚
の係数は正であり
nは分子なので、
この上昇によってLM曲線の傾きは緩やかになる。
これはIS曲線における金利感応度dの増加の時と全く
同様である。
i
LM曲線
LM曲線
nが上昇した場合
ここでIS-LMモデルの設定手順を確認すると
1. IS曲線・LM曲線の導出
2. 名目金利 i = 実質金利 r の確認
3. 同一グラフ上にプロット
1によってIS曲線・LM曲線の導出を行ったが、縦軸の金利が一致していない。
そのため、次のフィッシャー方程式ではこの2「名目金利と実質金利の一致」
の条件が成立していることを確認する。これによって3を可能にする。
 フィッシャー方程式
フィッシャー方程式とは・・・
名目金利が実質金利を期待インフレ率だけ上回るという関係を表す式で、
アービング・フィッシャーが発見し、「利子論」(1930)で本格的に展開した
この関係は以下の式で表される
名目金利 i = 実質金利 r + 期待インフレ率𝜋 𝑒
※期待インフレ率:現時点で予想する将来の物価上昇率
IS-LMモデルにおいて
物価水準が一定である短期を想定 ⇒ 期待インフレ率がゼロ
よって、上式はIS-LMモデルが想定する短期においては以下の式になる
名目金利 i = 実質金利 r
フィッシャー方程式の導出
実質金利とは:物価変動の影響を取り除いた実質の運用利回り
よって、t期における実質金利の決定式は以下のように定式化することができる。
1 + 𝑟𝑡 =
1 + 𝑖 𝑡 𝑃𝑡
𝑃𝑡+1
𝑒
0 < 𝑟𝑡, 𝑖 𝑡 < 1
なお、t期におけるt+1期の予想物価は𝑃𝑡+1
𝑒
と表す。この式を自然対数表示にすると
ln 1 + 𝑟𝑡 = ln 1 + 𝑖 𝑡 + ln 𝑃𝑡 − ln 𝑃𝑡+1
𝑒
↔ ln 1 + 𝑟𝑡 = ln 1 + 𝑖 𝑡 − ln 𝑃𝑡+1
𝑒
− ln 𝑃𝑡
対数線形近似より以下のことが言える
ln 1 + 𝑥 = 𝑥 ln(𝑥𝑖+1) − ln(𝑥𝑖) =
𝑥𝑖+1 − 𝑥𝑖
𝑥𝑖
これを決定式に適用して整理することで以下の式を得る
𝑖 𝑡 = 𝑟𝑡 +
𝑃𝑡+1
𝑒
− 𝑃𝑡
𝑃𝑡
右辺第2項は期待インフレ率である。よってフィッシャー方程式を導出できた。
 IS-LMモデルによる分析
フィッシャー方程式により、名目金利 i = 実質金利 r が確認できた。
よって、導出したIS曲線とLM曲線を同一グラフ上にプロットすると以下の図になる。
このモデルを用いて、次の場合に金利と総所得が
どのように変化するのかを確認していく。
1. 財政政策が実施された場合
2. 金融政策が実施された場合
3. 2つの政策を併用した場合
4. 貨幣需要が金利に対して無限に弾力的になった場合
i=r
Y
LM
Y*
IS
 復習
IS曲線の式
𝑌 = −
𝑑
1−𝑐
𝑟 +
1
1−𝑐
𝐼0 + 𝐶0 + 𝐺 − 𝑐𝑇 ・・・(6)
LM曲線の式
𝑌 =
𝑛
𝑚
𝑖 +
1
𝑚
(
𝑀 𝑠
𝑃
− 𝑚0) ・・・(7)
 財政政策が実施された場合
財政政策が実施される → 政府支出Gが増加する(IS曲線がシフトする)
(6)式より、政府支出Gの係数は正なので、Gの増加によりYも増加する。
横軸はYなので、Yが増加する→曲線は右にシフト
Yが増加すれば貨幣需要が増加して金利 i も上昇する
財政政策により乗数効果を通じてYが増加(A→B)
→ Yの増加で貨幣需要も増加し、超過需要が発生
→ 超過需要解消のために金利が上昇
→ 金利の上昇で設備投資が減退し、Yが低下(B→C)
このように財政支出の増加によって金利が上昇し
設備投資が減退することをクラウディングアウトという
i=r
Y
LM
Y*
IS_1 IS_2
Y**
A B
C
 金融政策が実施された場合
金融政策が実施される → 名目貨幣供給𝑀 𝑠
が増加する(LM曲線がシフトする)
LM曲線を導出した際のスライドでも説明したように
名目貨幣供給が増加 → LM曲線は下にシフト
金融政策により𝑀 𝑠
が増加する
→ 貨幣供給が超過供給になり、金利が低下(A→B)
→ 金利の低下で設備投資が促進され、Yが増加(B→C)
以上より、次のことが分かる
・財政政策とは対照的に、名目貨幣供給の増加は
設備投資を促進する効果を伴う
i=r
Y
LM_1
Y*
IS
Y**
A
B
C
LM_2
 財政政策と金融政策を併用した場合
財政政策を実施:クラウディングアウトが発生することで当初の効果を得られない
金融政策を実施:金利が低下することで設備投資が促進され、総所得増加
→ この2つの政策を組み合わせることでクラウディングアウトを抑制する
政策を組み合わせること・・・ポリシーミックス
財政政策によって金利が上昇
→金融政策によって金利の上昇を抑制
→設備投資の減退も抑制される
→総所得の低下も抑制される
・十分に名目貨幣供給を増やせばクラウディングアウトは
全く発生しなくなる
i=r
Y
LM_1
Y*
IS_1
Y**
A B
LM_2
IS_2
 貨幣需要が金利に対して無限に弾力的になった場合
貨幣需要が金利に対して無限に弾力的になっている状態について考える。
名目貨幣需要𝑀 𝐷
の実質金利𝑟𝑡に対する弾力性(金利感応度nとほぼ同じ)は
∆MD
MD
∆𝑟𝑡
𝑟𝑡
と表される。上式より、金利がゼロに極めて近い水準に達したとき、名目貨幣需要の実
質金利に対する弾力性は、上の式より無限大に大きくなることがわかる(完全弾力的に
なる)
弾力性が無限大であるということは、貨幣市場においては金利がゼロに近いために債券
を持つ利点がなく、経済主体が貨幣だけを需要している。つまり、貨幣需要が無限大に
なっているということである。
この時、金融政策によって名目貨幣供給が増加したとしても、名目貨幣需要が無限大で
あるので何の効果も得ることが出来ない。
貨幣需要が金利に対して無限に弾力的であるとき、LM曲線は完全に水平になる。
よって、IS-LMモデルでは右下図のように表される。
この時、金融政策は一切の効果が無い。
一方、財政政策は、金利水準が一定であり続けるために
クラウディングアウトが発生せず、有効である。
財政政策の実施により、均衡点はAからBへ移動する。
以上のように、貨幣需要が金利に対して無限に弾力的であるために
金融政策で一切の効果を得られない場合を流動性の罠と呼ぶ。
このような状態に陥っている際は、総所得の増加には財政政策が有効である。
i=r
Y
LM
IS_1 IS_2
A B

45度線分析・is lmモデル