木村福成研究会2016年三田祭論文

1. 円安が日本の貿易収支に与える影響：
―伝統的理論の限界と新たな知見―
木村福成研究会 貿易パート
菊池直輝 伊藤遼香 越智航平 奥谷夏希 Sarah Mellier 村瀬寛人
三田祭論文発表会

2. 第1章 はじめに
本研究の背景
為替レートと貿易収支に関する理論と現実の乖離に注目
本研究の概要
複数のアプローチから円の為替レートが近年の日本の貿易収支に与える影響を検証する。
本研究の意義
近年の日本の貿易収支の変動要因を解明することで、根底にある日本経済の現状・課題と
今後の政策のあり方について考える。
木村福成研究会 貿易パート 1

3. 構成
第1章 はじめに
第2章 貿易収支の要因分解
第3章 Jカーブ効果の実証分析
第4章 外生的ショックの実証分析
第5章 パススルー率の実証分析
第６章 日本の輸出競争力の検証
第7章 結論・政策提言
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4. 2.1 貿易収支の推移
 アベノミクスの影響で2012年末から円安が進んだが、貿易赤字は拡大
 円安は貿易収支を改善しなくなっているのか？
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5. 2.2 貿易収支の要因分解
2010年から2015年にかけて
寄与率が高いのは、
 輸入価格要因
 輸出価格要因
 輸入数量要因
 輸出数量要因
木村福成研究会 貿易パート 4
貿易収支の要因分解（年次）

6. 品目別輸入金額推移
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（１）鉱物性燃料が大きな割合を占め、
2014年まで増加。
2010年1月→2014 年 3 月
鉱物性燃料の輸入金額 90%増
（２）同時期に
一般機械 64%増
電気機器 67%増
輸送用機器125%増と、
主要製􏰁業の輸入金額も大きく増加

7. 鉱物性燃料の輸入数量・金額の推移
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8. 海外現地生産比率の推移
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9. 部品輸入数量の推移
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10. 部品の輸入金額の推移
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11. 品目別輸出金額の推移
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12. 地域別輸出金額の推移
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13. 地域別輸出価格要因と数量要因
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14. ２章 まとめ
• 輸入価格要因と輸出価格要因の寄与がほとんど
• 輸入価格要因は、
• （１）鉱物性燃料の価格の変化
• （２）日本企業の海外生産増による部品輸入増
• に大きく影響を受けた
• 輸出価格要因は、
• 円安による円ベースの外貨建て輸出金額の上昇による恩恵を受けた
• →アベノミクスの円安で輸出数量は伸びていない。むしろ減っている地域も。
• →輸入金額を拡大させただけ。
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15. 第3章 Jカーブ効果の実証分析
概要
1985年から2016年7月までの月次データを用いて、円の為替レートが日本の貿易収支に与えて
きた影響を検証する。
変数
貿易収支、日本の鉱工業指数、OECDの鉱工業指数、円の実質実効為替レート
モデル
Pesaran et al. (2001) のARDLバウンド検定アプローチから導出するRegular (Restricted) ECM
モデル
サンプル期間の分割
 第1期： 1985年1月〜1998年12月
 第2期： 1999年1月〜2008年8月
 第3期： 2008年9月〜2016年7月
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16. Regular (Restricted) ECMモデルの導出手順
（１） 長期関係式のモデリング
（２） Unit Roots Test（Augmented Dickey Fuller Test）
（３） Cointegration Test（Johansen’s test）
（４） Bounds t-test, Bounds F-test
（５） Regular (Restricted) ECMの推計
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17. Regular (Restricted) ECM
16
分析結果
 第1期（1985年1月 - 1998年12月） Jカーブ効果あり
 第2期（1999年1月 - 2008年8月） Jカーブ効果あり
 第3期（2008年9月 - 2016年7月） Jカーブ効果なし
 リーマンショック以降は海外景気の影響が大きいという結果に
木村福成研究会 貿易パート

18. 木村福成研究会 貿易パート 17

19. 第4章：構造VARによる分析
 為替が輸出量の変動に関係しているかを構造VARで分析
 祝迫・中田(2014)参考に
 VAR：多変量自己回帰モデル
 3つのモデルを想定、（全期間、リーマンショック後の期間)
 輸出と実質実効為替レート・原油価格・世界景気を変数に
 ラグは12期に設定
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20. インパルス応答関数(全期間)
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21. VARの分析結果
• すべてのモデルのすべての変数に自己回帰が存在
• 輸出量に対して
 原油価格・世界景気の上昇は正の影響を
 為替の上昇は負の影響を与えている
• リーマンショック後の期間では為替の影響はほぼなし
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22. 分散分析(全期間)
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23. 分散分解による分析
 輸出の変動に対してほかの変数が寄与しているかを判断
 為替の説明力がないわけではないが、他の変数のほうが大きい
⇒為替だけでは輸出の改善はできないと考えられる。
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24. 第5章 パススルー率の検証
 円の為替レートが輸出物価に与える影響を考える
第1節：貿易取引通貨
• 外貨：輸出6割、輸入8割
→円安になると短期的には輸入金額のほうが拡大する。
（１）輸入金額拡大→輸入数量の縮小
（２）現地販売価格の引き下げ→輸出数量の拡大
が起きれば貿易収支は改善するが、
 近年（１）は薄まっているとわかった。
 （２）は？？→2節で検証
23木村福成研究会 貿易パート

25. 第5章 パススルー率の実証研究
パススルー率とは
「為替変動の変化をどの程度貿易財の価格変化に反映させるかを表す指標 」
パススルー率の式：
データ
• 日本銀行「名目実効為替レート指数」、「円ベース輸出物価指数」
• 1980年1月〜2016年8月
 円高期・円安期により10区分作成
24木村福成研究会 貿易パート

26. 第5章 パススルー率の実証研究
• 結果
25
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
パススルー率（全産業）
EPT Linear (EPT)
全産業の輸出パススルー率（1980年から2016年）
 傾向：パススルー率の低下
 円安で上がり円高で下がった
木村福成研究会 貿易パート

27. 第5章 パススルー率の実証研究
考察
a) なぜパススルー率は低下しているのか？
b) なぜ為替レートが輸出価格に及ぼす影響は小さくなってきているのか？
c) そもそも、為替変動は輸出価格の決定要因とみなされているのか？
d) パススルー率の低下は、２章で述べた輸出価格要因が貿易黒字への寄与要因であること
とどのような関係があるか？
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28. 第5章 パススルー率の実証研究
考察
① 現地価格安定化・競争力維持 …(a)
② 各自のモデルチェンジの周期による価格設定行動 …(c)
③ 海外生産比率の上昇 …(b)
④ 外貨建て貿易取引と円建て貿易取引の比率 (d)
⑤ 日本の輸出企業はプライステーカーである …(c)
27木村福成研究会 貿易パート

29. 第６章 実質実効為替レートからの検証
実質実効為替レートからみると輸出価格競争力は回復しており、輸出は本来促進されるはず
しかし
実際は貿易収支は改善していない
→ほかの視点からの検証が必要

30. 産業別実質実効為替レートの他国との比較

31. 技術力・開発力に対する検証
国際特許出願件数や研究開発費、提出論文数そしてCIPの変遷と他国との比較から技術力
が相対的に下がっているかを検証する。
中国のキャッチアップが非常に進んでいる

32. アメリカへの主要産業の輸出シェア変化の観点から検証
アメリカの輸出シェアの変遷から日本製品の品質の評価の変遷を考える。電子機器における
シェアは中国に奪われており、日本の主力であった電気機器産業は中国に追いやられている。

33. RCA指標による検証
RCA指標は当該国rcにおける当該品目cの輸出Xrc,cの割合が他国の輸出割合に比べて
大きいか小さいかを表した国際競争力の程度が分かる指標である。RCA指数 =
(Xrc,c XWT)
XWcXrc,T
の式で表される。

34. 第６章 まとめ
日本の製品の品質は主に隣国である中国のキャッチアップによって相対的に下がっているこ
とが想定できる。結果、為替レートの変動による多少の価格変動では日本製品の魅力が大き
くは上昇せず輸出が促進されない。

35. 7章 結論
近年の日本企業のグローバルな生産活動と価格戦略のもとでは、
円安になっても輸出数量は伸びず、むしろ輸入金額が拡大するだけである。
過去に円安になって輸出が伸びた経験から、今でも日本には円安を好む風潮
があるが、その考えは改め、
金融政策による為替レートの変動に期待・依存するのではなく、アベノミクス
の第三の矢である「成長戦略」を強化すべき
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36. 政策提言 Policy Proposal
• Favor Japanese firm’s return of profits from overseas branches to Japan
• A long-term energy policy: resilience and greener energy supply
• Transaction currency
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37. 貿易パート（終）
ご清聴ありがとうございました。
木村福成研究会 貿易パート 36

38. 6章 政策提言 (Policy Proposal)
（１）国内利益還元政策
海外拠点での研究開発のために利益を海外に留保する企業が増えている
→これでは第一次所得収支は改善せず、日本に利益が還元されない
法人税減税など、国内で研究開発を行うインセンティブを与え、国内に利益を
還元するための政策が必要
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39. 6章 政策提言 (Policy Proposal)
（２）エネルギー政策
エネルギー依存が高いために日本は先進国のなかでも資源価格の変動など
に対して脆弱である
「パリ協定」で途上国にも環境技術の需要が生まれたことからも、今後環境技
術マーケットは拡大
→エネルギー政策は今後課題であり、チャンスでもある
→エネルギーの開発・投資を促進する政策が必要
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40. 6章 政策提言 (Policy Proposal)
（３）円建て貿易取引促進政策
貿易取引における日本円の使用比率を高めることは、円安時の短期的な輸
入金額の拡大を緩和し、同時に現地の輸出物価を低下させることにも寄与す
る。
過去に日本企業により日本円を使うよう政府が呼びかけたこともあったが、大
企業ほど貿易に米ドルを好んで使う傾向にある
→今後いかにして日本円を使用するインセンティブを与えていくかが重要
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