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市民の目から見た国の放射能対策 環境政策と地方自治
- 2. 考える会を作った経緯 • 2012年4月8日、市内在住の主婦と3人で新潟大学の野中昌法教授の 研究室を訪ねた。県内5市が震災がれきの受け入れを決定。 • 事前に焼却場や埋め立て処分場周辺の土壌調査をと考えた。測定方 法、測定地点のアドバイスや実際の測定にご協力いただけるかどう かを聞きに行くためだった。先生は、事故直後から福島の農業支援 として放射性物質の土壌や用水での挙動を調べていた。 • 話は野中先生がおっしゃられた言葉をきっかけに急展開。 「本来は行政が測定するべきもの。行政に当然やってもらうべきこと を要求したほうがいい。」 • 私たちが測定にかかる手間と費用を負担し、汚染がないかどうか確 認したりする前にまず行政にしっかりと要望することに。 • 受け入れの賛否に関わらず、安全管理ができているのか心配してい る方々や情報公開が足りないと思っている方々が周囲に多くいた。
- 3. 活動の経過 • 中山均新潟市市議にご協力いただき、長岡・三条・新潟市で論点整理と学 習会を開催。 • 新潟県と新発田、新潟、三条、長岡、柏崎の5市とその議会に対して、署名 と請願・陳情を提出。 • 新潟市議会で一部採択。残りの項目は、市側が物理的に測定できないもの であるとの理由により不採択。 • 長岡市議会、柏崎市議会では陳情が回覧された。新発田市議会は、まだ検 討が進んでいなかったこともあり時期尚早として不採択。 • 新潟市議会で不採択となった項目については、新潟県の放射能対策課に相 談。県には専門家もいて、住民の不安をしっかりと受け止め対応してくだ さっているという印象。 • ２０１２年１１月に環境省に他の都府県、岩手、福島の方々と申し入れ。 広域処理担当者と面談。新潟市で問題となっていた水銀や鉛の検出や、岩 手での瓦礫焼却時の六価クロム基準超の話にも答えられず。環境省には廃 棄物処理や放射性物質の取り扱いの専門家はいないという印象。 • 新潟市12月市議定例会に、市長との対話を求める請願を再度提出。項目１ が全会一致で可決。
- 4. 国の政策の問題 １ • 活動を進めていく中で、全国で同じような構図の問題が起き ていることに気づいた。 • 震災後に低レベル放射性廃棄物の基準を変更し、原発の中と 同じものを原発の外の放射能対策が不十分な施設での処理に 適用。（食品の基準値も実際の汚染の度合いを詳しく調査す る前に一気に引き上げたことも問題。） • 汚染された薪、腐葉土、稲わら、原木、おが屑の全国的な流 通を防止できなかった。それによる二次的被害が軽視されて いる。新たな汚染がいくら微量であったとしても許容してし まうと、原発事故の責任の所在を不明瞭に。 • 検出されやすい食品（特にキノコ類）の測定でわかってきた のは、福島や北関東の努力している生産者の作物がND（検出 限界未満）である一方、意識せず生産した離れた地域の生産 者の作物から検出されることもあるということである。
- 5. 国の政策の問題 ２ • 環境省による広域処理政策自体、個々の被災地が 抱える問題や要望を無視し、一部の自治体の震災 直後の要望のみに基づいて作成されたものである ということ。安全対策をするのではなく、汚染あ りきの被ばくの話で安全論を強調した説明には違 和感。実際に被害が起きたとしても、広域処理政 策によるものと認定してもらえないのは目に見え ている。 • 可燃がれきについては焼却処理のみとしたことも 問題。防潮堤の盛り土の一部として使用するとい う案も、当初から複数の専門家、南相馬市などの 首長や地域住民から出されていた。被災地の要望 に関わる法律を緩和するための検証もしなかった。
- 6. 国の政策の問題 ３ • 環境省が主導して行った、全体の８０％を占める 不燃がれきの写真を説明に使用するなど歪められ た情報提供による、情に訴える幻想のきずなキャ ンペーンは、被災地の住民が本当は望んでいるこ とや、本当の意味での被災地支援となることを、 他の地域の国民には見えないようにしてしまった。 分別されていないがれきの山が街中いたる所に あった時期はとうに過ぎていて、被災者の方々の 気持ちも変化してきていた。 • 実際は、がれきも資材としてリサイクルが進み、 推定量は数回にわたって見直された。処理目標期 日はさらに前倒しになっている。（不当に多い試 算）
- 7. 国の政策の問題 ４ • 復興資金の不当な流用。がれき処理を検 討しただけの自治体（大阪府堺市など） にも支払われる復興補助金。がれき処理 費用の3倍以上が支払われるという自治体 （富山県高岡市など）。 • 放射性物質を含めた、環境に影響を与え る汚染物質について、安全対策をとる気 はないのか？ • 本当に被災地の復興を考えているのか？
- 8. 地方自治体の問題 １ • ずっと市や県の担当者や議会とやり取りを続 けてきた。地方行政については、活動をして 初めてわかったことが多くある。 • 議会で可決されたり、採択されたりしたとし ても、それが実際の施策に反映されるかどう かには、首長の判断が大きく関わっているこ と。だから民意は、近くの議員だけでなく、 自治体の担当部署経由で首長にも、同時に伝 える必要があるということ。声を出すという ことが難しくなりすぎていると感じた。
- 9. 地方自治体の問題 ２ • 声を聴いてもらえない無力感を最も強く感じたの は、地方自治体にいくら安全対策や情報公開を求 めても「国が大丈夫だと言っている。何かあった ら国に補償を求める。」とすべて国に責任転嫁し、 今まで以上の対策を講じもしないこと。 • 自分たちの責任で、地域住民が納得し合意したう えで、施策への協力の是非を決めるという、当た り前であるはずのことがないがしろにされている のは、広域処理の問題以前に、政策決定方法に問 題があることを表していると思う。
- 11. • 前後の経緯が切り取られた一部の場面のみク ローズアップした報道が全国ニュースに流さ れる。 • 双葉町、福島県、内閣官房長官、閣僚らが相 次いで「風評被害を助長する」という趣旨の コメントを発表。 • 福島の市民団体が、「表現の自由の侵害」と して福島県に抗議文を送る。 • 「美味しんぼ」による風評被害のせいで「数 百人のキャンセル」、「韓国行きのチャー ター便がキャンセル」など、事実や因果関係 が確認できないニュースを、福島のローカル テレビと新聞それぞれ1社のみが報道。
- 13. • ある福島市在住の女性のつぶやきから： 「被曝のリ スク」と「住むことのメリット」を天秤にかけて、な んて、何だか簡単に言って欲しくないよね。言われた くもないし。なぜなら事故前は、天秤にかけなくても よかった、被曝リスクなんてなかったのだからね。こ の先どうなっていくのか。。。と毎日思う。 • そもそも、原発事故による放射能汚染は理不尽なもの であり、基本的人権として尊重されるべき、自由権の いくつかに関わる問題となっている。 • 思想の自由、選択の自由は確保されるべきであるのは 大前提として、実際は「住むことのリスク」と「避難 することのリスク」というデメリット同士を比較せざ るを得ないことが配慮されるべきである。 • 緊急避難区域での避難するリスクとそこに住むことの リスクについては、「福島原発２２キロ 高野病院奮 戦記 がんばってるね！じむちょー」（東京新聞福島 支局井上能行著、東京新聞）に詳しい。
- 14. • ここで、 UNSCEAR（原子放射線の影響に関する 国連科学委員会）2000の提言を引用させていた だきたい。 384. チェルノブイリ事故に関する多くの様相が人々に心理障害、ストレスおよ び不安を引き起こしているとされてきた。移住、食品供給の変化および個 人と家族の行動への制限を含む被ばく量を限定する意図での対策が取られ て以来、事故は汚染地域内に住む人々の生活に長期的変化を起こした。こ れらの変化は、被害を受けた国々においては、ソ連邦の解体によってもた らされた重大な経済、社会および政治的な変化が同時に起こった。このよ うな心理的な反応は放射線被ばくによってではなく、おそらく全体として 事故を巡る社会的要因に関連する。 385.個人および家族の移住の意思決定は、しばしば高度に複雑かつ困難なもの であった。人々は不安を感じ、科学的、医学的、政治的権威への信頼の欠 如はその人々に自らが自制心を失ったと考えさせた。リスクを説明し、 人々をなだめようと試みた専門家は、そのリスクを否定し、それ故に不信 と不安を強化すると受け取られた。 386. 環境汚染は、当初なされたように放射線恐怖症（radiophobia）[1]とみなさ れるべきではなく、現実の、目に見えない、定量化も所在を突き止めるこ とも困難な脅威とみなされるべき幅広い不安を生み出した。人々がリスク を把握するやり方の鍵となるのが、リスクに対して人々が行使できるコン トロールの度合いである。一旦汚染地域で生活を続ける人々のQOLを改善 するために対策が取られれば、多分住民と地方行政とのより良い協力のお 陰で、社会的信頼の風潮は改善する。”
- 15. 384. Many aspects of the Chernobyl accident have been suggested to cause psychological disorders, stress and anxiety in the population. The accident caused long-term changes in the lives of people living in the contaminated districts, since measures intended to limit radiation doses included resettlement, changes in food supplies and restrictions on the activities of individuals and families. These changes were accompanied by important economic, social and political changes in the affected countries, brought about by the disintegration of the former Soviet Union. These psychological reactions are not caused by ionizing radiation but are probably wholly related to the social factors surrounding the accident. 385. The decisions of individuals and families to relocate were often highly complex and difficult. The people felt insecure, and their lack of trust in the scientific, medical and political authorities made them think they had lost control [H9]. Experts who tried to explain the risks and mollify people were perceived as denying the risk, thus reinforcing mistrust and anxiety. 386. The environmental contamination created widespread anxiety that should be referred to not as radiophobia, as it initially was, but as a real, invisible threat, difficult to measure and localize. The key to how people perceive risk is the degree of control they exert over it. Once measures are taken to improve the quality of life for those still living in contaminated areas, the climate of social trust improves, probably because of the better cooperation between inhabitants and local authorities [H9]. (出典: UNSCEAR 2000 Annex J[ii]（原子放射線の影響に関する国連科学委員会） （para.384-386）)
- 16. まとめ • 放射能による健康影響など、まだわかっていないこと が多い事案については、否定するのではなく、可能性 を排除せず、十分な調査と予防・対策が必要である。 • 一般市民のさまざまな声を、国や地方自治体が聴きと り、政策に活かしていくことが、信頼関係を築くため に不可欠。 • 国からの一方的な基準値や政策の押し付けには、問題 がある。それでは一般市民の不安は解消できない。行 政と住民、さらに住民同士が対立するようなコミュニ ケーションの取り方（特に説明会という名ばかりの政 策発表会など）ではなく、住民からの要望や意見も しっかりと聴き取ったうえでの、施政が望ましい。 • 報道機関は、事実をまず淡々と伝え、意見の違う当事 者を無視したり、批判したりすることのないようにし ていただきたい。（インタビューが記事になったとき に、いろいろな変更が勝手に加えられているという証 言を複数聞いている）