研究スライド
- 7. 実験プロトコル
BN MRSA
B+M+ + +
B-M+ - +
B+M- + -
B-M- - -
熱傷あり感染あり
熱傷なし感染あり
熱傷あり感染なし
熱傷なし感染なし
d -5 d 1d 0 d 2d -2 d 15d 10d 7d 5d 3
BN+ BN‐
BN+ BN‐
BN+ BN‐
MRSA+
MRSA-
MRSA投与
↓
麻酔を50 mg/kg, BW で打つ
(25倍希釈ソムノペンチル)
↓
マウスの背中の毛を剃る
↓
初期輸液のために, 生理食塩水を1 ml
注射する
↓
90℃, 7秒熱傷させる
Editor's Notes
- マウスの熱傷・感染に伴う酸化ストレス亢進と脂質代謝異常について王が発表します。
なお、この研究は防衛医科大学校との共同研究になります。
- 重度熱傷発生数は日本で年間約4000名と言われていますが、大規模な震災などを発生する時では入院患者の約三分の一が広範囲熱傷患者とされ、患者数の著しい増加が予測されます。
欧米や日本では、熱傷急性期の輸液法の確立、早期手術の普及などの進歩により、救命率は改善傾向にあります。しかし、急性期を克服した患者は重症感染症の併発が十分防げていないため、まだまだ改善の余地があります。
- 1986年バウアーらの剖検で、熱傷感染により惹起される敗血症による死亡の割合が一番高いです。
敗血症は受傷後5日~1週間以降に発症するとの報告が多く、受傷早期のSIRS状態後の続発性免疫不全状態(CARS)が主な発症要因です。血管内皮傷害,臓器障害などの病態が出ます。
- 広範囲重症熱傷とは、真皮、表皮全層が壊死に陥り、壊死が皮下組織や筋肉に達します。病態の推移は、肥満細胞からのヒスタミン遊離によって血管透過性亢進を起こす急性期を経って、炎症・感染の発症が悪化する異化亢進・感染期を乗り越え、最後回復期に入ります。
また、重症熱傷患者は熱傷による免疫不全も加わり,高度の易感染状態にあり,難治性となるばかりでなく,容易に敗血症に進展します。そのために受傷後の感染対策が重要です。
- MRSAとはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の略称です。黄色ブドウ球菌と同じ性質をもっており、非常にありふれた菌で、私たちの髪の毛や皮膚などによく付着しています。
しかし、黄色ブドウ球菌は、基本的に弱病毒なので、私たちの抵抗力がしっかりあれば、特に重症化することはありませんが、MRSAは耐性遺伝子を持っており、抗生物質が効きにくくなっています。
そのために治療が思うように進まず、患者の抵抗力に頼りになる場合が多いです。また院内感染の主な原因菌で、高齢者,重度外傷患者,悪性腫瘍患者など免疫不全患者が危険群です。
- そこで本研究の目的は、熱傷と感染で誘導される臓器障害や酸化ストレスを血漿脂質と抗酸化物質の経時変化から評価します。
熱傷感染は臨床の現場ではしばしばみられる病態であり、熱傷感染モデル血漿から酸化ストレスマーカーでダメージを測定出来れば,臨床研究の発展に大いに貢献することが期待されます。
- 本研究のサンプルは全部で四群になります。まず、熱傷ありと熱傷なし二群のモデルを作成しました。広範囲重症熱傷モデルは、8~9週齢のC57BL/6J雄性マウスの背部に麻酔下にて90℃のお湯で7秒間に浸し、やけどさせ、総熱傷面積20%の3 度熱傷モデルとなります。
その後経時的に眼窩採血をしました。
熱傷5日後に感染群にMRSAを注射し、それぞれ熱傷あり感染あり、熱傷なし感染あり、熱傷あり感染なし、熱傷なし感染なしの四群を作成し、予後の観察と採血をしながら4群で比較しました。
- 今回四群のサンプルの生存率はグラフのようになります。MRSA感染なし群は実験終了まで生存しました。感染群はカプラン・マイヤー法によって分析をしました。熱傷感染群の生存率は感染のみより有意に髙いです。熱傷によりストレスが感染に対する抵抗力増したと考えています。
- まず尿酸の測定を行いました.
尿酸はプリン代謝の最終生成物であり、内因性の抗酸化物質でもあります。特にペルオキシナイトライトの捕捉剤として注目されています。
- 分析結果によると、熱傷の有無でも感染で尿酸が上昇しました。その理由は感染により多くの細胞死が起こり、細胞内のDNAが放出されたと考えられます。三日目後に急激減少したのはペルオキシナイトライトを消去したためだと考えられます。
一方、ビタミンCは減り続き、十五日目に上昇しました。
- そして,実際に組織が酸化によって傷害されているかの指標になる遊離脂肪酸の測定を行い,酸化ストレスの再評価を行いました.
生体内で最も酸化の影響を受けやすいのは膜組織の構成成分である高度不飽和脂肪酸PUFAです。
PUFAが酸化の影響を受けると、生体内では、膜の流動性を保つために、脂肪酸不飽和化酵素を活性化させ16:1や18:1といった一価の不飽和脂肪酸が産生されます。
さらに酸化傷害が進み細胞死がおこると細胞中の成分が血中に流れ込むこととなります。
このことから酸化傷害が亢進すると、血中のトータルFFAは増加し、%PUFAは減少、%16:1や%18:1が増えることになります。
- 今回FFAは酸化ストレスに応じ,上昇すると予想したが,熱傷感染に役を立てなかったです。その理由はFFAが細胞の損傷を修復するとしたが、酸化ストレスの量が命に危害する程度なので、細胞を修復できなくなります。
もし今回の酸化ストレス量より少なかったらFFAはきちんと作用できると考えられます。
- 続いて脂溶性抗酸化物質の結果です。こちらのグラフは、ビタミンEをトータルコレステロールで補正したグラフになります。ほとんどの群でビタミンEは顕著な変動がありませんでした。
- 続いて、左上から還元型CoQ9、酸化型CoQ9、トータルCoQ9の値をそれぞれトータルコレステロールで補正したグラフになります。
- 熱傷感染後にフリーコレステロールが顕著に上昇しました。
- FCをCEに変換する酵素レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ、以降LCATとさせていただきます。LCATは肝臓で作られ、その活性低下はコレステロール代謝異常の一因となるほか、鋭敏な肝機能の指標としても用いられます。
- 実験結果をみると、FC/CEが熱傷感染後に大きく上昇しました。従って、熱傷感染により肝機能が障害されたと考えられます。
- 結語です。熱傷付与はコエンザイムQ9を有意に増加させ,MRSA感染後の死亡率を低下させました。
感染でFC/CEが上昇しましたが,熱傷付与では認められませんでした。感染は肝機能低下をもたらすと考えられます。
熱傷や感染による血中にコエンザイムQ9の動員は生体防御反応と考えられます。したがって,コエンザイムQ10の前投与の影響が興味深く、今後の予定として実験を行います。
以上で発表を終わりにします。