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羽 鳥 誠 の 陶 歴 と そ の 創 作 理 念
羽鳥誠は 1947 年の生まれ。1968 年と 1974 年に伝統的備前陶匠のもとに学ぶ。1972 年に日本大学芸術学
部(美術・彫刻)を卒業、1972 年から 1974 年にかけて岐阜県セラミックス研究所(旧・陶磁器試験場)
にて素地と釉薬を学ぶ。1975 年、自らの設計と築窯による伝統的な備前窯工房を設立する。1975 年から
2006 年まで、このスタジオを運営しながら、伝統的焼成による備前作品の制作と国内における数多の個展
を展開。2007 年には、工房を茨城県守谷市に移転し、以来そこを拠点としている。また、1978 年より、羽
鳥誠は多数の国際的展覧会に選出されている。イタリア、イギリス、ニュージーランド、エジプト、ベル
ギー、ドイツ、リトアニア、アメリカ、クロアチア、南アフリカ、オーストラリア、台湾、エストニア、韓国、
スペイン、ハンガリー、スロベニア、フランス、ルーマニア、トルコ、ラトビアなどなど、また、幾多の受
賞歴がある。1992 年には、マンチェスター・メトロポリタン大学 (旧・マンチェスター・ポリテクニッ
ク)美術デザイン学科で陶芸講師を務めた。1994 年から 1996 年には、イギリスの現代応用美術家協会のメ
ンバーであった。彼はまた、リトアニア 、パネヴェジス・国際陶芸シンポジウム(1996 年と 1998 年)、
英国のクラフトポッターズ協会による Earth and Fire(1997 年)、ハンガリーの国際陶芸スタジオでの国
際シンポジウム(2006 年)、中国陝西省富平陶芸アートビレッジでの第 2 回 ICMEA(国際陶芸雑誌編集者
協会)会議(2007 年)などの国際シンポジウムや会議に招待された。彼は、さらに陶芸作家としての活動
に加えて、多数の国際的な陶芸雑誌に批評文を寄稿し、その執筆内容は他の出版物でも引用されている。
http://www2r.biglobe.ne.jp/~makoto-h/
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
羽鳥誠は、1969年と1974年、自然釉(無釉陶)の規範性その構造を習得せんとの思いが、彼
を古窯・備前における修業の試みへと走らせる。 そこで感得された心根とは「もの」としての素材
(おそらく「自然」)を「いじるな」-- 霊的他者の内包 -- であった。 もちろんこれは事後回顧的なも
のであった。爾来、彼は「あるがまま」の心性へと遡行を繰り返す。 自然釉陶における炎、それは不
浄なるものを昇華する神性なる火との饗宴 _ 窯焚であり、未知なるものへ飛躍する自然からの付与を
押し頂くことであった。この身体と意識の齟齬である出会いと出力の非相関 _「恥じらい」を美意識な
るものと感じる羽鳥は、この「あるがまま」を包摂する未知なるものの心根を職業倫理に重ねること
とした。
…………………………………………………………………………………………………
羽鳥は、1969年、非自己完結性の素材として「砂」を借用した外部性が呼び込まれる造形作品を
既に発表している。これは規定し難い形状の素材「砂」をそのまま包摂し、偶然性を呼び込むとする
「モノ」の平衡が破られる「出来事」であった。それは外部性を誘発する未知なるものの生成を認識
せんとする、立ちすくむ混沌とした時代への模索であった。以後、彼の道程となるコンセプトであっ
た。
左:半円形の 3 つの容器に、それぞれ異なる量の砂を入れた。右:石膏でできた円筒形の上に、砂を入れた布袋が十字に置かれた。こ
のように、本展では石膏、木、布、砂を使った概念的作品が展示された。羽鳥誠の意図は、偶発的なズレを引き起こす素材である
「砂」を通して、身体性が拡張していく「状態」を表現することであった。これら作品背景にある身体性の状態や物質性という考えは、
現在も引き継がれることとなる。個展「L'espoir:羽鳥誠展」 1969 年、東京・神田の旧・スルガ台画廊。
70年代を取りまく政治情勢のこの時期、国とその文化の根幹が浮遊するさまは、確かなものを求め
る彼の心性とその造形志向を伝統的無釉陶の論理構造へと醸成させていった。伝統から理念という歴
史性の中に羽鳥は存在しなかった。 彼は、近代の自然観、価値観、制作主義、その歴史観の疑問を日
本の伝統的無釉陶の自然観からみていた。 その作法は霊的なものとの共有に価値を戴くこと、自然と
の同一関係を瞑想する仕草 –「道」 であったと言える。 1993年の英国・ヴィクトリア&アルバー
ト、1996年の大英博物館にそれぞれ収蔵されている彼の伝統的技法の無釉陶作品には、そんな日本
の伝統的芸道に潜む職業倫理と美意識の結合を感じさせてくれる伝統的作品である。
左:「備面取水指」h・19.5cm、自然釉窯変、伝統的焼成 1280 度。右:「環」h・33.0cm、炻器にスリップ、伝統的焼成 1300 度。
両作品とも、1993 年 6 月 15 日から 27 日までロンドンの旧・リーギャラリー「羽鳥誠展」に出品され、ヴィクトリア・アンド・アル
バート美術館に収蔵される。
左:「備前蕪花生」w・21.0、d・21.0、h・31.0cm、自然釉、伝統的焼成 1280 度。右:「備前面取水指」w・19.0、d・19.0、h・
17.0cm、伝統的焼成 1300 度。両作品とも、1996 年に大英博物館(イギリス)に収蔵された。また、アメデオ・サラモーニ著
「Wood-Fired Ceramics: 100 Contemporary Artists, with a foreword by Jack Troy」(Schiffer Publishing, Ltd., 2014)、90-91
頁に掲載された。
…………………………………………………………………………………………………
2014年、ハンガリー国際シリケイトアー
ト・トリエンナーレ展に出展した「うつ
わ:他者性」は、伝統的焼成による12個
の陶(うつわ)を寄せ集め配列したもので
あった。彼にとって、焼成における炎と人
の出会いは、対象化されないものへの遡求
でなければならなかったようだ。陶芸とい
う「業」に捉われ、焼成によって「表現」
を既に始めた「うつわ」を一義的なものと
せず _ 伝統的器の宿命である自己完結性へ
の疑問 _ 出来事への変換と外界を取り入れる、状態への開示という蓋然性をそこに求めたのだろう。
それは概念的「器」を解放し、ひとまず「素材」へと押し戻したと言える。
上: 「器: 他者性」インスタレーション全体として w・76.0、d・27.0、 h・20.0 cm、 自然釉窯変、伝統的焼成 1280 度。第 4 回
ハンガリー国際シリケート・アート・トリエンナーレ、ケチケメート文化会議場、2014 年 8 月 3 日から 9 月 7 日。
…………………………………………………………………………………………………
年代は前後する、1996、1998年、リトアニアの国際陶芸シンポジウムにおけるワークショップ
作品「水の波紋」、「五−七−五」は、彩色や釉薬の巧を排した _素材を包み隠さず_ 自然成りの木と
焼き締めの陶を接合し、対象化されない外部作用が如何なる仕方で生起するかという相互関係の構造
化であった。同様に、2001、2003、2015、2017、2019<on the web>年、 韓国国
際陶芸ビエンナーレに出展した作品において、陶と陶あるいは陶と異素材の共感(あるいは非共感的共
感)とは、分属生成された共身体の関係であるべきとの認識に成り立つものであった。彼にとって
「素材」の相互関係とは、一方が「装飾的」な特定箇所に留まってはならない。
左:「好奇心の衝動」w・99.0、d・39.0、h・44.0 cm、炻器にスリップ
、アルミニウムケーブル、伝統的焼成 1250 度。韓国・第 1
回国際陶芸ビエンナーレ、2001 年。右:「麦畑」w・102.0、d・16.5、h・38.5 cm、炻器にスリップ
、伝統的焼成 1250 度。韓国・
国際陶芸ビエンナーレ 2003。イチョン国際陶芸センター。
左:手前「水の波紋」、奥「無」ともに炻器にスリップ、ガス窯で 1380℃の酸化雰囲気で 2 日間の焼成。 リトアニア・パネヴェジス
国際陶芸シンポジウムにて制作、1996 年 8 月 2 日から 10 月 6 日までパネヴェジス市民美術館にて展示。右:「5-7-5」高さ約
170cm。 1988 年パネヴェジス国際陶芸シンポジウムで制作、1998 年 7 月 31 日から 10 月 4 日までパネヴェジス市民美術館で展示。
この作品は、エマニュエル・クーパーの著書『Contemporary Ceramics』(Thames & Hudson, 2009)に掲載、また、英国の陶芸教
育の資料にも収録されている。
…………………………………………………………………………………………………
2015年、スペイン・ラコラ国際陶芸コンペティションの出品において、彼は、色相を超えた世界を
未知なる表出として、「非色」"Non-color" を設定する。彼は彼に「しろ」を重ねることで彼自身の意
識の洗浄化、彼自身の自我の変容を迫った。それが説明ではなく、外界性を孕む開かれた状態性の提
示であるなら、陶と陶、陶と異素材の関係を身体的部位とする身体技法の使い方をすべきと彼は考え
た。
左:「非色」インスタレーション全体として、w・95.0、d・53.0、h・9.0 cm、炻器にスリップ
、無釉、アルミ板。1250 度還元、電
気炉焼成に炭燻 。スペイン、ラルコラ陶芸美術館にて展示(2015 年 6 月 26 日から 9 月 6 日)。右:「非色; 他者性」インスタレー
ション全体として、w・122.0、 d・75.0、h・13.5 cm、炻器にスリップ
、無釉、シリコンチューブ。1250 度還元、電気炉焼成に炭燻 。
第 8 回京畿国際陶磁器ビエンナーレ 2017、大韓民国、利川世界陶磁器センター 263、京忠大路 2697 ベオンイル、利川市、17379、京
畿市、2017 年 4 月 22 日から 10 月 9 日に展示。
…………………………………………………………………………………………………
人間の身体は内部性と外部性をそな
える両義的存在として、外界と関わ
ることで自己と他者の相互媒介が同
時に生成される。 2010年代後半
からの「状態」「身体性」といった
作品 は、そういった身体のあり様に
おける対応関係の事象を考察するこ
とへ進む。例えば、多様性ある異素
材の一つ、鉄と出会いは多面的屈伸
の繰り返しによる - 連続的同期 – 継
続的な出逢いとなり、鉄という
「軟」な素材との協働がそのまま陶と鉄(異素材)の生きた共身体を形成することになる。2010
年代末にみられる人体を素描する行為 _ 身体運用 は、みる者みられる者互いの仕草を通じ、未だむま
れざる予見のない者同士による出会いの場であった。この期の作品を構成する異素材の一つ、投げ入
れられた「紙(素描)」は、テキストの代行による仕掛け(危険性を孕む)と写ろうが、それは逸脱
する要素、恣意的なるものの投げ入れであり、既にある対応関係を「傾く」行為であった。絶対的異
なる他者は、有用性ある断片的な事象としてわが意図するものを越える。異素材 _ 異形それは非では
ない。
上:「状態 (02-31-2) 」インスタレーション全体として、w・142.0、 d・ 70.0、 h・15.0 cm。オブジェクト(炻器にスリップ
、鉄
棒)w・105.0、d・58.0、h・15.0 cm。紙(素描)各 2 枚 (31.0 x 24.0 cm)。炻器にスリップ
、無釉、鉄棒。1250 度還元、電気
炉焼成に炭燻 。第 4 回クルージュ国際陶芸ビエンナーレ、ルーマニア・クルージュ美術館にて展示、2019 年 8 月 15 日~9 月 20 日。
…………………………………………………………………………………………………
2020年、疫癘は襲って来た。
既存の主体と客体は易々と崩れ、
まさに私達は予見の無い出会いを
強いられる存在となった。共身体
の存在を確認する「身体性」の知
覚は、彼の心性を心と体_心と線
という身体性を求める筆墨・白描
へと向かった。コンテクストは、
知性的なる水墨山水であった。求
めるテーマは筆墨作品の存在様式
における「紙」と「墨」の関係で
ある。「紙」そのものも画の一部
であるとする、描法として主観的
に墨を塗らないことに__。大義は、色彩を捨てることによるリアリティの獲得と身体性の顕なる獲得
であり、陶芸とは、まさに土の中に存在するとの確認作業であった。
上:「身体性: 水墨山水 (07-03-2)」 w・107.0、d・51.0、h・14.5 cm。石器にスリップ
、無釉(和紙調のような光沢のない質感)
に顔料、鉄棒。1250 度還元、電気炉焼成に炭燻 。ユニークピースコンテスト N.A.CE. 2021。第 13 回陶器・陶磁器フェア、スペイン、
ラ・リオハ州ナバレーテにて、7 月 16 日から 18 日まで開催。この作品は 2021 年 8 月 30 日まで展示された。
…………………………………………………………………………………………………
素材(粘土)は、陶芸の単なる
支持体であることをやめ、粘土
それ自体が「陶」の知性 _ イ
メージとなった。土味(つちあ
じ)という素地(きじ)そのも
のの質的確認が、彼にとって本
来の陶芸が求めるべきモチーフ
なのである。施釉薬がなされな
いとは感覚的煩瑣なものを伐っ
た内面的精神を観照するにある。
これは所謂「焼き物」の自己目
的化_オートテリズム(芸術とし
てのテーマを貧なるものとする、
焼成における偶然故の奇怪を手にすること)をバイパスし、その後に彼が成すべき行為として、両義的
な身体的イメージメイキングが可能となるのである。表現意識を抑える構成は、身体そのものの記憶と
連続的な変容体を表現する一つの協働身体であり、共身体に分属される「素材」同士がそれぞれに具
現化へと協調する。「あるがまま」の絶え間ない変化こそが「モノ」の存在を指し示し、彼はそこに
彼の存在を重ねあわせる。
上:「非色:破壊と再生」w・62.5、d・52.0、h・25.0 cm。石器にスリップ
、無釉(和紙調の質感と非光沢)、1.6mm の極薄の鉄板
が陶板を下から支えている。陶板の中央の長方形は、紙粘土に胡粉胡粉を塗り、磁器の破片を刺す。1250 度還元、電気炉焼成に炭燻 。
2023 年に制作。
May 2023

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  • 2. 羽鳥誠は、1969年と1974年、自然釉(無釉陶)の規範性その構造を習得せんとの思いが、彼 を古窯・備前における修業の試みへと走らせる。 そこで感得された心根とは「もの」としての素材 (おそらく「自然」)を「いじるな」-- 霊的他者の内包 -- であった。 もちろんこれは事後回顧的なも のであった。爾来、彼は「あるがまま」の心性へと遡行を繰り返す。 自然釉陶における炎、それは不 浄なるものを昇華する神性なる火との饗宴 _ 窯焚であり、未知なるものへ飛躍する自然からの付与を 押し頂くことであった。この身体と意識の齟齬である出会いと出力の非相関 _「恥じらい」を美意識な るものと感じる羽鳥は、この「あるがまま」を包摂する未知なるものの心根を職業倫理に重ねること とした。 ………………………………………………………………………………………………… 羽鳥は、1969年、非自己完結性の素材として「砂」を借用した外部性が呼び込まれる造形作品を 既に発表している。これは規定し難い形状の素材「砂」をそのまま包摂し、偶然性を呼び込むとする 「モノ」の平衡が破られる「出来事」であった。それは外部性を誘発する未知なるものの生成を認識 せんとする、立ちすくむ混沌とした時代への模索であった。以後、彼の道程となるコンセプトであっ た。 左:半円形の 3 つの容器に、それぞれ異なる量の砂を入れた。右:石膏でできた円筒形の上に、砂を入れた布袋が十字に置かれた。こ のように、本展では石膏、木、布、砂を使った概念的作品が展示された。羽鳥誠の意図は、偶発的なズレを引き起こす素材である 「砂」を通して、身体性が拡張していく「状態」を表現することであった。これら作品背景にある身体性の状態や物質性という考えは、 現在も引き継がれることとなる。個展「L'espoir:羽鳥誠展」 1969 年、東京・神田の旧・スルガ台画廊。 70年代を取りまく政治情勢のこの時期、国とその文化の根幹が浮遊するさまは、確かなものを求め る彼の心性とその造形志向を伝統的無釉陶の論理構造へと醸成させていった。伝統から理念という歴 史性の中に羽鳥は存在しなかった。 彼は、近代の自然観、価値観、制作主義、その歴史観の疑問を日 本の伝統的無釉陶の自然観からみていた。 その作法は霊的なものとの共有に価値を戴くこと、自然と の同一関係を瞑想する仕草 –「道」 であったと言える。 1993年の英国・ヴィクトリア&アルバー ト、1996年の大英博物館にそれぞれ収蔵されている彼の伝統的技法の無釉陶作品には、そんな日本 の伝統的芸道に潜む職業倫理と美意識の結合を感じさせてくれる伝統的作品である。
  • 3. 左:「備面取水指」h・19.5cm、自然釉窯変、伝統的焼成 1280 度。右:「環」h・33.0cm、炻器にスリップ、伝統的焼成 1300 度。 両作品とも、1993 年 6 月 15 日から 27 日までロンドンの旧・リーギャラリー「羽鳥誠展」に出品され、ヴィクトリア・アンド・アル バート美術館に収蔵される。 左:「備前蕪花生」w・21.0、d・21.0、h・31.0cm、自然釉、伝統的焼成 1280 度。右:「備前面取水指」w・19.0、d・19.0、h・ 17.0cm、伝統的焼成 1300 度。両作品とも、1996 年に大英博物館(イギリス)に収蔵された。また、アメデオ・サラモーニ著 「Wood-Fired Ceramics: 100 Contemporary Artists, with a foreword by Jack Troy」(Schiffer Publishing, Ltd., 2014)、90-91 頁に掲載された。 ………………………………………………………………………………………………… 2014年、ハンガリー国際シリケイトアー ト・トリエンナーレ展に出展した「うつ わ:他者性」は、伝統的焼成による12個 の陶(うつわ)を寄せ集め配列したもので あった。彼にとって、焼成における炎と人 の出会いは、対象化されないものへの遡求 でなければならなかったようだ。陶芸とい う「業」に捉われ、焼成によって「表現」 を既に始めた「うつわ」を一義的なものと せず _ 伝統的器の宿命である自己完結性へ
  • 4. の疑問 _ 出来事への変換と外界を取り入れる、状態への開示という蓋然性をそこに求めたのだろう。 それは概念的「器」を解放し、ひとまず「素材」へと押し戻したと言える。 上: 「器: 他者性」インスタレーション全体として w・76.0、d・27.0、 h・20.0 cm、 自然釉窯変、伝統的焼成 1280 度。第 4 回 ハンガリー国際シリケート・アート・トリエンナーレ、ケチケメート文化会議場、2014 年 8 月 3 日から 9 月 7 日。 ………………………………………………………………………………………………… 年代は前後する、1996、1998年、リトアニアの国際陶芸シンポジウムにおけるワークショップ 作品「水の波紋」、「五−七−五」は、彩色や釉薬の巧を排した _素材を包み隠さず_ 自然成りの木と 焼き締めの陶を接合し、対象化されない外部作用が如何なる仕方で生起するかという相互関係の構造 化であった。同様に、2001、2003、2015、2017、2019<on the web>年、 韓国国 際陶芸ビエンナーレに出展した作品において、陶と陶あるいは陶と異素材の共感(あるいは非共感的共 感)とは、分属生成された共身体の関係であるべきとの認識に成り立つものであった。彼にとって 「素材」の相互関係とは、一方が「装飾的」な特定箇所に留まってはならない。 左:「好奇心の衝動」w・99.0、d・39.0、h・44.0 cm、炻器にスリップ 、アルミニウムケーブル、伝統的焼成 1250 度。韓国・第 1 回国際陶芸ビエンナーレ、2001 年。右:「麦畑」w・102.0、d・16.5、h・38.5 cm、炻器にスリップ 、伝統的焼成 1250 度。韓国・ 国際陶芸ビエンナーレ 2003。イチョン国際陶芸センター。
  • 5. 左:手前「水の波紋」、奥「無」ともに炻器にスリップ、ガス窯で 1380℃の酸化雰囲気で 2 日間の焼成。 リトアニア・パネヴェジス 国際陶芸シンポジウムにて制作、1996 年 8 月 2 日から 10 月 6 日までパネヴェジス市民美術館にて展示。右:「5-7-5」高さ約 170cm。 1988 年パネヴェジス国際陶芸シンポジウムで制作、1998 年 7 月 31 日から 10 月 4 日までパネヴェジス市民美術館で展示。 この作品は、エマニュエル・クーパーの著書『Contemporary Ceramics』(Thames & Hudson, 2009)に掲載、また、英国の陶芸教 育の資料にも収録されている。 ………………………………………………………………………………………………… 2015年、スペイン・ラコラ国際陶芸コンペティションの出品において、彼は、色相を超えた世界を 未知なる表出として、「非色」"Non-color" を設定する。彼は彼に「しろ」を重ねることで彼自身の意 識の洗浄化、彼自身の自我の変容を迫った。それが説明ではなく、外界性を孕む開かれた状態性の提 示であるなら、陶と陶、陶と異素材の関係を身体的部位とする身体技法の使い方をすべきと彼は考え た。 左:「非色」インスタレーション全体として、w・95.0、d・53.0、h・9.0 cm、炻器にスリップ 、無釉、アルミ板。1250 度還元、電 気炉焼成に炭燻 。スペイン、ラルコラ陶芸美術館にて展示(2015 年 6 月 26 日から 9 月 6 日)。右:「非色; 他者性」インスタレー ション全体として、w・122.0、 d・75.0、h・13.5 cm、炻器にスリップ 、無釉、シリコンチューブ。1250 度還元、電気炉焼成に炭燻 。 第 8 回京畿国際陶磁器ビエンナーレ 2017、大韓民国、利川世界陶磁器センター 263、京忠大路 2697 ベオンイル、利川市、17379、京 畿市、2017 年 4 月 22 日から 10 月 9 日に展示。 ………………………………………………………………………………………………… 人間の身体は内部性と外部性をそな える両義的存在として、外界と関わ ることで自己と他者の相互媒介が同 時に生成される。 2010年代後半 からの「状態」「身体性」といった 作品 は、そういった身体のあり様に おける対応関係の事象を考察するこ とへ進む。例えば、多様性ある異素 材の一つ、鉄と出会いは多面的屈伸 の繰り返しによる - 連続的同期 – 継 続的な出逢いとなり、鉄という
  • 6. 「軟」な素材との協働がそのまま陶と鉄(異素材)の生きた共身体を形成することになる。2010 年代末にみられる人体を素描する行為 _ 身体運用 は、みる者みられる者互いの仕草を通じ、未だむま れざる予見のない者同士による出会いの場であった。この期の作品を構成する異素材の一つ、投げ入 れられた「紙(素描)」は、テキストの代行による仕掛け(危険性を孕む)と写ろうが、それは逸脱 する要素、恣意的なるものの投げ入れであり、既にある対応関係を「傾く」行為であった。絶対的異 なる他者は、有用性ある断片的な事象としてわが意図するものを越える。異素材 _ 異形それは非では ない。 上:「状態 (02-31-2) 」インスタレーション全体として、w・142.0、 d・ 70.0、 h・15.0 cm。オブジェクト(炻器にスリップ 、鉄 棒)w・105.0、d・58.0、h・15.0 cm。紙(素描)各 2 枚 (31.0 x 24.0 cm)。炻器にスリップ 、無釉、鉄棒。1250 度還元、電気 炉焼成に炭燻 。第 4 回クルージュ国際陶芸ビエンナーレ、ルーマニア・クルージュ美術館にて展示、2019 年 8 月 15 日~9 月 20 日。 ………………………………………………………………………………………………… 2020年、疫癘は襲って来た。 既存の主体と客体は易々と崩れ、 まさに私達は予見の無い出会いを 強いられる存在となった。共身体 の存在を確認する「身体性」の知 覚は、彼の心性を心と体_心と線 という身体性を求める筆墨・白描 へと向かった。コンテクストは、 知性的なる水墨山水であった。求 めるテーマは筆墨作品の存在様式 における「紙」と「墨」の関係で ある。「紙」そのものも画の一部 であるとする、描法として主観的 に墨を塗らないことに__。大義は、色彩を捨てることによるリアリティの獲得と身体性の顕なる獲得 であり、陶芸とは、まさに土の中に存在するとの確認作業であった。 上:「身体性: 水墨山水 (07-03-2)」 w・107.0、d・51.0、h・14.5 cm。石器にスリップ 、無釉(和紙調のような光沢のない質感) に顔料、鉄棒。1250 度還元、電気炉焼成に炭燻 。ユニークピースコンテスト N.A.CE. 2021。第 13 回陶器・陶磁器フェア、スペイン、 ラ・リオハ州ナバレーテにて、7 月 16 日から 18 日まで開催。この作品は 2021 年 8 月 30 日まで展示された。 …………………………………………………………………………………………………
  • 7. 素材(粘土)は、陶芸の単なる 支持体であることをやめ、粘土 それ自体が「陶」の知性 _ イ メージとなった。土味(つちあ じ)という素地(きじ)そのも のの質的確認が、彼にとって本 来の陶芸が求めるべきモチーフ なのである。施釉薬がなされな いとは感覚的煩瑣なものを伐っ た内面的精神を観照するにある。 これは所謂「焼き物」の自己目 的化_オートテリズム(芸術とし てのテーマを貧なるものとする、 焼成における偶然故の奇怪を手にすること)をバイパスし、その後に彼が成すべき行為として、両義的 な身体的イメージメイキングが可能となるのである。表現意識を抑える構成は、身体そのものの記憶と 連続的な変容体を表現する一つの協働身体であり、共身体に分属される「素材」同士がそれぞれに具 現化へと協調する。「あるがまま」の絶え間ない変化こそが「モノ」の存在を指し示し、彼はそこに 彼の存在を重ねあわせる。 上:「非色:破壊と再生」w・62.5、d・52.0、h・25.0 cm。石器にスリップ 、無釉(和紙調の質感と非光沢)、1.6mm の極薄の鉄板 が陶板を下から支えている。陶板の中央の長方形は、紙粘土に胡粉胡粉を塗り、磁器の破片を刺す。1250 度還元、電気炉焼成に炭燻 。 2023 年に制作。 May 2023