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住民によるガン死調査結果の相関法による疫学解析 
2003年8月8日 
東京都西多摩郡日の出町大久野7444 
中西四七生 
総論:  1997年9月から4ヶ月間、住民が聴き取りにより処分場周辺のガン 
死の調査をした。(甲第146 号証 厚生省への要請文1998年4月2 
日、甲135の1号証 ガン死調査報告書2002年3月25日参照) 
 その結果、谷戸沢処分場直下の処分場から吹き下ろす風下の玉の内 
地域では、風上の対照地域長井、水口地域に比べて、10万人当たり 
ガン死者数が738.0名対140.3名で、5倍を超え、全国平均に対して 
も4倍を超えていたことが判った。このデータを1990年の国勢調査に 
よるこれら地域の人口構成を基に標準化死亡比(SMR)を計算すると 
風下の玉の内地域では190.5、風上の対照地域長井、水口地域が22.5 
となった。 
この調査結果が偶然起こったことなのか、それとも処分場が原因で、 
起きるべくして起こったのかを客観的に解明することは、ガン死とい 
う深刻な結果と全国にも同じ処分場が多く存在していることを合わせ 
考えると非常に重要なことである。 
今回の谷戸沢処分場の問題と二ツ塚処分場による今後の問題 
 今回はこの結果を疫学的に検証し、評価をした。 
さらに今回の調査では、谷戸沢処分場の風上では対照地域になった 
長井、水口地域が、たまあじさいの会の局地気象の調査の結果、5年 
以上前から埋め立てを開始している二ツ塚処分場から通年風が吹き出 
され、風下になっていることが判り、地形が玉の内地域同様に沢地形 
になっており、処分場から吹き出した風が、沢を上ったり下ったりす 
る山谷風に合流する(「たまあじさいは見ていた」甲第117 号証参 
照)ので、今後この地域でのがん死の多発の問題、日の出町全域に広 
がる汚染の影響も合わせて検証した。 
結論 
その結果谷戸沢処分場直下の処分場から吹き下ろす風下玉の内地域 
では、風上地域に比較し推理統計学的に99.98%以上の確率で、ガンに 
罹って死ぬリスクが2.1%高くなることが判った。 
また二ツ塚処分場の風下地域長井、水口地域は、地形学的類似性 
が、局地気象学的類似性につながり、処分場から飛散する焼却灰によ 
る大気汚染に、玉の内同様に曝されることで、同様のリスクを負うが 
ことが予測される。 
たまあじさいの会の調査報告書「たまあじさいは見ていた」(甲第 
117号証参照)にあるように、処分場からの焼却灰の飛散は日の出町 
全域に影響をおよぼしていることが判明している。 
現にそれを裏付けるかのように、処分場開場までは、かなり低かっ 
た日の出町全体のガン標準化死亡比(秋川保健所のデータにより算 
出)は、最近、ついに全国の平均値を上回り、汚染の影響が広域的に 
なってきたことも判明している。(甲第1 51号証(原告証言用OHP 
資料、甲第00号証ガン死調査報告書) 
1
以上の3点を合わせ考えると、遅かれ早かれ日の出町全域で、無視 
できない数の人間が処分場の影響を受けてガンで亡くなることが推測 
できた。 
処分場から飛散する焼却灰による大気汚染とガン死の多発の因果関係について 
疫学評価の方法:  これまでの疫学は、主要な疾病である急性的な伝染病が細菌学の発 
達にしたがって原因の解明がなされ、疫学的に特定病因説が支持され 
てきた。 
しかしガンや循環器疾患のような慢性疾患は、長い年月を経過して 
発症するのが普通で、発生原因も病因、個体、環境など多様な要因の 
重みを考慮して総合的な危険度として捉える必要がある。 
したがってこれらの疾患の原因に対する疫学の考え方は、多要因原 
因説である。疾患の多様な要因一つ一つ取ってみると発生への寄与は 
小さいが、複数の要因が同時に存在すると、おたがいに相加的、相乗 
的に働くことがありまた拮抗的に働くこともある。したがって、これ 
らの疾患の原因に対しては、いかに多要因を総合的に評価するかが重 
要な問題となる。 
特にガンは、正常に免疫機構が働けば、NK細胞(ナチュラルキラー 
細胞)などの一連の生体内防御システムにより日常体内で発生している 
約2,000~3,000個のがん細胞を発見して修復あるいは消滅させている 
はずであるが、体内の免疫力の低下により、がん細胞の増殖を許した 
り、あるいは体内に取り込まれた有害物質によりがん細胞をNK細胞 
などの一連の防御システムでは対応できないくらいの大量発生により 
がん細胞の増殖を許すことで罹患するといわれている。これらの免疫 
力低下因子や遺伝子損傷因子は、相乗的に各因子間で働くことが知ら 
れている。 
したがって処分場から飛散する焼却灰による大気汚染とガン死の多 
発の因果関係を考える場合、因果関係の有り無しの「1」か「0」の 
捉え方でなく、因果関係の程度を一定のルールに従った客観的な統計 
学と公害とガン死という社会的な価値判断の二つを組み合わせて総合 
的に判断する事がもっとも的を得た評価の仕方であると考える。 
調査結果まず今回の調査結果の比較対照観察のデータを以下に示す。 
処分場関連地域10万人当たりのガン死亡者数 
処分場直下玉の内地域谷戸おろし風下(1989年から1997年) 
ガン死者数18名 人口271名(1998年1月1日現在) 
10万人当たりガン死者数738.0名 
対照地域長井、水口地域(1989年から1997年) 
ガン死者数5名 人口396名(1998年1月1日現在) 
10万人当たりガン死者数140.3名 
標準化死亡比(SMR)の比較による地域間比較 
2
がんの罹患は、年齢によって罹患率が異なりひいてはがんによる 
死亡率も年齢により異なってくる。これは加齢による免疫力の低下 
が原因と考えられるからである。したがって地域間でがん死率を比 
較する場合各々の地域の年齢構成が同一である場合を前提比較する 
と、年齢構成の違いによる因子を除去できることになる。標準化死 
亡比は、現実にある人口構成を、あたかも日本全国の平均の人口構 
成と同一のものとしてその地域のがん死の死亡率を計算上導き出し 
たものである。 
上のデータを1990年の国勢調査によるこれら地域の人口構成を基に 
標準化死亡比(SMR)を計算すると風下の玉の内地域では190.5、風 
上の対照地域長井、水口地域が22.5となった。 
玉の内地域は谷戸沢処分場南西直下0~500メートル程のところにあ 
り、対照地域長井、水口地域は、処分場西北西1.3~2キロメートルの 
尾根を2つ越えたところにある。 
対照地区の長井、水口地域は、処分場との位置関係以外は、玉の内 
地域と同じような谷地形という自然環境である。この結果だけをみる 
と明らかに処分場風下地区はガン死が多い。 
以下でこの結果を分析・評価する。 
調査・分析方法比較対照観察・相関分析 
一般にサンプルが少ないとその結果が偶然におこる確率は高くな 
る。しかし公害が発生する地域は、住民が比較的少ない場合が多い。 
今回の調査もその例に漏れず、サンプルとなる住民は少ない。 
そこで今回の調査はサンプルの量の少なさ補うために、対照地域 
(問題になっているものから影響を受けない地域)を調査対象に含め 
る比較対照法を採用した。 
ここでは、まずこれらの標準化死亡比の違いが偶然起きたかどうか 
を検証する。そしてもし偶然ではなく、必然的なものであることが推 
定できた場合、処分場による汚染が、ガン死の多発にどの程度影響を 
およぼしているかの相関を検証する。 
ノンパラメトリックの相関と推理統計学における「積率の相関」の類似 
性 
限られたサンプルの値から、それが普遍的に(母集団でも)起こり 
うるかを推定するには、推理統計学の手法を使って検証する。 
 ただし、推理統計学で正確な数量を推定できるのは、四則演算の 
全てが可能な比率尺度で測定されたデータである。そこで予測する相 
関の程度は、2つのデータの関連性の強度を表すピアソンの「積率の 
相関」rで評価する。 
またピアソンの「積率の相関」rの二乗を「決定係数(r2)」と呼 
び、二つのデータにおいて一方のデータが他方データへの影響の寄与 
分を表していることが、証明されている。 
しかし今回の調査のように「ガン死」「そうでない」のような「1」 
か「0」のような段階尺度で測定されたデータを予測する場合は「ノン 
パラメトリックの相関」と言われ直接推理統計学で正確な数量を推定 
することはできない。 
3
しかし、この相関も実は「積率の相関」とほとんど性質が似てお 
り、「積率の相関」に準じて推定できることが知られているので、こ 
こでは積率の相関を準用して、相関分析をする。 
ガン死 
ちがう 
相関とは 
相関の要素には、 
1 2つの事象が、たまたま偶然に起こったのか、原因があって必 
然的に起こったのかを判定するサンプル誤差の確率P、 
2 そして上で述べたように、因果関係が問題になっている二つの 
変数、ここでは「処分場からの風」と「ガン死の多発」の結び 
つきの強さの程度の相関係数r、 
3 一方のデータが他方データへの影響の寄与分を表す(決定係数 
「説明分量」)r2が要素としてある。 
これらの要素を総合的に評価して因果関係の評価をする。 
サンプル誤差P を導き出すためのχ 2検定とその前提の帰無仮説 
まずサンプルが偶然出てきたものか、それとも必然的に導き出され 
たものかを調べるため、相関の第一の要素であるサンプル誤差の確率 
Pをχ 2検定で導き出す。 
調査したデータが偶然起こったのか否かの判定は、仮説に対する誤 
差の大きさで統計的に評価できる。すなわち大きな誤差は起こりにく 
く、小さな誤差は起こりやすいことは、日常経験することである。 
したがって、サンプル誤差の大きさと起こりうる確率Pとは反比例 
の関係にあるといえる。 
この性質を利用して、統計学的に処理をして、サンプル誤差の確率 
Pを算出する。誤差の大きさχ 2を考え、χ 2検定により、サンプル誤 
差の確率Pを算出する。 
ロナルド・フィッシャーの帰無仮説 
χ 2検定は、帰無仮説というものでの検証を前提に論理を進める。帰 
無仮説は、集団遺伝学や統計学の第一人者であるロナルド・フィッシ 
ャーが考案したものである。 
それは、今証明しようとしている、「処分場直下の風下地域とガ 
ン死の多発には因果関係がある」という命題を無効にする命題であ 
る。 
すなわち「処分場の風上でも風下でもガン死は同じように起こ 
る」という仮説である。 
今回の調査では風下のほうがガン死者が多いという結果が出た。こ 
のことがたまたま偶然に起こったのかを検証することが帰無仮説の検 
証である。 
帰無仮説によると、「風下、風上関係なくガン死の頻度が同じで 
ある」はずである。そこで今回の調査結果が、どの程度帰無仮説から 
外れているかの誤差の大きさPをχ 2検定により判定する。 
そのためにまず偶然量分割表(今回のは2分割表)をつくる。 
0.8 0.013 
270.2 395.9 
4 
風下 風上
観察値(調査結果) 
ガン死 
ちがう 
0.33 0.44 
270.7 395.5 
期待値(帰無仮説からの予測) 
帰無仮説が、ガン死率はどちらも変わらないという前提から、期待 
値を算出する。 
期待値の出し方:両地域を合わせた平均ガン死率を出す。 
=(0.8+0.013)÷(271+396)×100=0.12% 
 風下の「ガン死」の期待値は、風下の人口に平均ガン死率を掛け 
る。 
=271×0.12%=0.33人 
風下の「ちがう」の期待値は、風下の人口に平均非ガン死率を掛け 
る。 
=271×(100%-0.12%)=270.7人 
風上も同様にして期待値が出せる。 
風上の「ガン死」の期待値=396×0.12%=0.44人 
風上の「ちがう」の期待値=396×(100%-0.12%)=395.5人 
誤差の大きさχ 2は、帰無仮説から期待できる値と現実の調査のずれ 
であらわされる。すなわち 
誤差の大きさχ 2=Σ(観察値-期待値)2÷期待値 
=(0.8-0.33)2÷0.33+(0.013-0.44)2÷0.44+(270.2- 
270.7)2÷270.7+(395.9-395.5)2÷395.5 
=1.145102 
このχ 2から今回の調査結果はたまたま偶然に起こったのか、原因が 
あって必然的に起こったのかを、サンプル誤差の確率Pで判定する。 
χ 2表からPを求めるとPの範囲が不等式で表される。Pが大きけれ 
ば、誤差が起こりやすいので偶然性の推定が働き、十分に小さけれ 
ば、原因があって必然的に起こったという推定が成り立つ。 
ここまでは、Pというものがどういう意味のものかを理解していた 
だくためにあえてχ 2からPを導きだした。 
フィッシャーのエグザクト・テスト 
しかし、前述のロナルド・フィッシャーは、これと同じPを、不等 
号の形でなく、より適確にP=のかたちで同じ偶然量分割表(今回の 
は2分割表)から導き出す方法を考え出した。この検定は、フィッシ 
ャーのエグザクト・テストといわれる。 
5 
風下 風上
E=a+b 
F=c+d 
a b 
c d 
N=a+b+c+d 
G=a+c H=b+d 
その計算式は、P=E!×F!×G!×H!÷N!×a!×b!×c!×d! と定義さ 
れ、計算結果は 
P =0.0001755=0.0175% 
となる。 
一般的にP<0.05=5%であれば、統計学上は有意味と判断され、必 
然性の推定は働くので、今回のデータは、原因があって必然的に起こ 
ったという推定が十分成り立つ。 
すなわち、今回の調査結果が、たまたま起こった確率は、1万回に 
1.75 回しか起こらないということである。すなわち99.98%(1- 
0.000175=0.9998245)は確実に原因があって起こったことを意味し 
ている。 
相関rの検証(少ないサンプルでも正確に評価する方法) 
しかし、いくら必然性が証明されても、因果関係の結びつきが弱け 
れば、そのようなものは無視しても影響はないことになる。 
そこで次に二つの変数の結びつきの強さの程度である相関rが問題 
になる。 
今回の場合は、「処分場からの風」と「ガン死の多発」の結びつき 
の強さの程度である。 
先ほど求めたサンプル誤差χ 2は、サンプル数が増えると大きくな 
る。サンプル数が巨大になると、サンプル誤差χ 2も大きくなり、サン 
プルの結びつきがほとんど認められないケースが発生し、Pが小さく 
なり統計学上有意味になることが起こる。サンプル誤差χ 2はサンプル 
の大きさに左右されるという不都合が起こる。 
そこでχ 2を総数Nで割ることで、純粋に結びつきの程度だけを反 
映する相関rを考えることで、この不都合を解消することができる。 
相関rはχ 2をサンプル数で割ったものである。 
rは、-1≦r≦1の値をとりr=1のとき、その原因が存在すれ 
ば、100%予想通りの結果が発生し、r=-1のとき、その原因が存在 
すれば、100%予想通りの結果が発生しないことを意味する。R=0な 
いしはr≒0のとき、結果の発生が半々で、相関がないということにな 
る。 
すなわちrが1に近づけば、相関が強く、0に近づけば弱くなる。相 
関が認められるか否かは、一般的にr≒0.2が目安とされる。 
しかし相関を認めるということは、結果発生のリスクを無視するか 
否かの問題であり、この目安も日常経験的である。そこで内容によ 
り、たとえば「雨が降る」ことと「ハリケーンが通過する」ことの結 
果の重大性の違いは社会的に評価されるべきである。雨で濡れること 
と生命が脅かされること、ことはリスク評価の上で違ってくるはずで 
ある。 
今回の調査の結果は 
6
r=(χ 2÷N)0.5 
 =0.145 
となり、必ずしも一般的には顕著な結びつきとはいえないが、ガン 
死という事の重大性から判断すると、社会的に十分相関を認めるべき 
である。 
決定係数(説明分量)r2の検証 
推理統計学の「積率の相関」rから証明される決定係数相(説明分 
量)の性質を準用すると、相関係数rを2乗したr2は、一方の変数が 
他方の変数によって説明される分量(説明分量)を表すことになる。 
上記で求めたrを二乗すると、 
r2=(0.145)2=00.21025≒2.1% 
となる。 
すなわち処分場からの風によって、ガンになって死ぬ確率が2.1% 
高くなることを表している。 
総合的評価 
さて前に述べたように、処分場から飛散する焼却灰による大気汚染 
とガン死の多発の因果関係を考える場合、因果関係の程度を一定のル 
ールに従った客観的な統計学と公害とガン死という社会的な価値判断 
の二つを組み合わせて総合的に判断する事がもっとも的を得た評価の 
仕方であると考える。 
推理統計学からは、確実度は100%にほぼ等しい、99.98%と 
いう程度で、風下地区の住民のガン死のリスクは2.1%も高いこ 
とが推測された。 
そこで、公害とガン死という社会的な価値判断をどう捕らえるかが問題にな 
る。 
ガンは医学的に未解明ものが多く、深刻な病気 
ガンは、発生した部位により様々な性質があるが、その多くのもの 
がいまだに確実に治癒できるための医学的解明がなされていない。し 
かも死のリスクが非常に高く深刻な病気である。 
相乗効果 
この2.1%という分量は、一見少ないようであるが、先に述べたよう 
に、疾患の多様な要因一つ一つ取ってみると発生への寄与は小さい 
が、複数の要因が同時に存在すると、おたがいに相加的、相乗的に働 
くことを考えると深刻な問題を内包している。現に、今回のように風 
下地区のガン死亡率が、全国の4倍を超えるようなことが起きたこと 
も、他の要因との相乗効果の可能性が十分に考えられる。 
回避不能 
また、住民は大気汚染を知ったところで、それを避けるすべがな 
い。すなわち、水や食品の汚染は、代替は可能である。そこでひとた 
び居を構え、生活している以上空気を吸わないわけにはいかない。こ 
の不況の世の中で大多数の住民は転居する可能性を持たないし、原告 
7
の中の多くは、自然豊かなこの地域を終の棲家と決めて移り住んでい 
るものがほとんどである。 
特に刺激的な臭いや、呼吸器の異常の訴えがあるわけでなく、危機 
感がないまま生活している恐ろしさを正しく評価する必要がある。 
全国的問題 
谷戸沢処分場は、全国に先駆けて1984年に開場され、全国の自治体 
から見学者が訪れ、その後これをモデルとして次々に内陸式管理型処 
分場が造られ、平成7年度現在、一般廃棄物処分場として厚生省が把 
握しているものが、2,367ヶ所ある。したがって、すり鉢上の処分場と 
いう構造的な問題から来る汚染問題は共通しているので、やがてこの 
問題は全国でも大きな問題に発展する可能性がある。 
原告の立場 
原告である私、中西四七生は、13年前きれいな空気と豊な自然のも 
とで、子どもたちを育て、自らも豊な生活を夢見て日の出町に移り住 
んだのである。そのきっかけも、都心での生活で3番目の娘を細気管 
支炎で亡くしており、私にとって環境の悪化で家族が健康を害される 
ことは、最も恐れることである。 
私以外にも今回の訴訟に原告として参加している人たちの多くは、 
日の出の自然にあこがれて、移り住んでいる人が多い。原告として処 
分場の操業を受忍する限度を十分に超えていると考える。 
結論 
以上のことを考慮すると処分場からの汚染はガン死の多発を引き起 
こすと判断することが妥当である。 
参考文献: 「文化人類学の方法と通分化研究」木山英明著 明石書店 1999 年5 月 
「今日の疫学」青山英康編 医学書院 1996 年11 月 
「疫学」日本疫学会編 南江堂 1996 年10 月 
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ガン死疫学Smr最終甲345

  • 1. 住民によるガン死調査結果の相関法による疫学解析 2003年8月8日 東京都西多摩郡日の出町大久野7444 中西四七生 総論:  1997年9月から4ヶ月間、住民が聴き取りにより処分場周辺のガン 死の調査をした。(甲第146 号証 厚生省への要請文1998年4月2 日、甲135の1号証 ガン死調査報告書2002年3月25日参照)  その結果、谷戸沢処分場直下の処分場から吹き下ろす風下の玉の内 地域では、風上の対照地域長井、水口地域に比べて、10万人当たり ガン死者数が738.0名対140.3名で、5倍を超え、全国平均に対して も4倍を超えていたことが判った。このデータを1990年の国勢調査に よるこれら地域の人口構成を基に標準化死亡比(SMR)を計算すると 風下の玉の内地域では190.5、風上の対照地域長井、水口地域が22.5 となった。 この調査結果が偶然起こったことなのか、それとも処分場が原因で、 起きるべくして起こったのかを客観的に解明することは、ガン死とい う深刻な結果と全国にも同じ処分場が多く存在していることを合わせ 考えると非常に重要なことである。 今回の谷戸沢処分場の問題と二ツ塚処分場による今後の問題  今回はこの結果を疫学的に検証し、評価をした。 さらに今回の調査では、谷戸沢処分場の風上では対照地域になった 長井、水口地域が、たまあじさいの会の局地気象の調査の結果、5年 以上前から埋め立てを開始している二ツ塚処分場から通年風が吹き出 され、風下になっていることが判り、地形が玉の内地域同様に沢地形 になっており、処分場から吹き出した風が、沢を上ったり下ったりす る山谷風に合流する(「たまあじさいは見ていた」甲第117 号証参 照)ので、今後この地域でのがん死の多発の問題、日の出町全域に広 がる汚染の影響も合わせて検証した。 結論 その結果谷戸沢処分場直下の処分場から吹き下ろす風下玉の内地域 では、風上地域に比較し推理統計学的に99.98%以上の確率で、ガンに 罹って死ぬリスクが2.1%高くなることが判った。 また二ツ塚処分場の風下地域長井、水口地域は、地形学的類似性 が、局地気象学的類似性につながり、処分場から飛散する焼却灰によ る大気汚染に、玉の内同様に曝されることで、同様のリスクを負うが ことが予測される。 たまあじさいの会の調査報告書「たまあじさいは見ていた」(甲第 117号証参照)にあるように、処分場からの焼却灰の飛散は日の出町 全域に影響をおよぼしていることが判明している。 現にそれを裏付けるかのように、処分場開場までは、かなり低かっ た日の出町全体のガン標準化死亡比(秋川保健所のデータにより算 出)は、最近、ついに全国の平均値を上回り、汚染の影響が広域的に なってきたことも判明している。(甲第1 51号証(原告証言用OHP 資料、甲第00号証ガン死調査報告書) 1
  • 2. 以上の3点を合わせ考えると、遅かれ早かれ日の出町全域で、無視 できない数の人間が処分場の影響を受けてガンで亡くなることが推測 できた。 処分場から飛散する焼却灰による大気汚染とガン死の多発の因果関係について 疫学評価の方法:  これまでの疫学は、主要な疾病である急性的な伝染病が細菌学の発 達にしたがって原因の解明がなされ、疫学的に特定病因説が支持され てきた。 しかしガンや循環器疾患のような慢性疾患は、長い年月を経過して 発症するのが普通で、発生原因も病因、個体、環境など多様な要因の 重みを考慮して総合的な危険度として捉える必要がある。 したがってこれらの疾患の原因に対する疫学の考え方は、多要因原 因説である。疾患の多様な要因一つ一つ取ってみると発生への寄与は 小さいが、複数の要因が同時に存在すると、おたがいに相加的、相乗 的に働くことがありまた拮抗的に働くこともある。したがって、これ らの疾患の原因に対しては、いかに多要因を総合的に評価するかが重 要な問題となる。 特にガンは、正常に免疫機構が働けば、NK細胞(ナチュラルキラー 細胞)などの一連の生体内防御システムにより日常体内で発生している 約2,000~3,000個のがん細胞を発見して修復あるいは消滅させている はずであるが、体内の免疫力の低下により、がん細胞の増殖を許した り、あるいは体内に取り込まれた有害物質によりがん細胞をNK細胞 などの一連の防御システムでは対応できないくらいの大量発生により がん細胞の増殖を許すことで罹患するといわれている。これらの免疫 力低下因子や遺伝子損傷因子は、相乗的に各因子間で働くことが知ら れている。 したがって処分場から飛散する焼却灰による大気汚染とガン死の多 発の因果関係を考える場合、因果関係の有り無しの「1」か「0」の 捉え方でなく、因果関係の程度を一定のルールに従った客観的な統計 学と公害とガン死という社会的な価値判断の二つを組み合わせて総合 的に判断する事がもっとも的を得た評価の仕方であると考える。 調査結果まず今回の調査結果の比較対照観察のデータを以下に示す。 処分場関連地域10万人当たりのガン死亡者数 処分場直下玉の内地域谷戸おろし風下(1989年から1997年) ガン死者数18名 人口271名(1998年1月1日現在) 10万人当たりガン死者数738.0名 対照地域長井、水口地域(1989年から1997年) ガン死者数5名 人口396名(1998年1月1日現在) 10万人当たりガン死者数140.3名 標準化死亡比(SMR)の比較による地域間比較 2
  • 3. がんの罹患は、年齢によって罹患率が異なりひいてはがんによる 死亡率も年齢により異なってくる。これは加齢による免疫力の低下 が原因と考えられるからである。したがって地域間でがん死率を比 較する場合各々の地域の年齢構成が同一である場合を前提比較する と、年齢構成の違いによる因子を除去できることになる。標準化死 亡比は、現実にある人口構成を、あたかも日本全国の平均の人口構 成と同一のものとしてその地域のがん死の死亡率を計算上導き出し たものである。 上のデータを1990年の国勢調査によるこれら地域の人口構成を基に 標準化死亡比(SMR)を計算すると風下の玉の内地域では190.5、風 上の対照地域長井、水口地域が22.5となった。 玉の内地域は谷戸沢処分場南西直下0~500メートル程のところにあ り、対照地域長井、水口地域は、処分場西北西1.3~2キロメートルの 尾根を2つ越えたところにある。 対照地区の長井、水口地域は、処分場との位置関係以外は、玉の内 地域と同じような谷地形という自然環境である。この結果だけをみる と明らかに処分場風下地区はガン死が多い。 以下でこの結果を分析・評価する。 調査・分析方法比較対照観察・相関分析 一般にサンプルが少ないとその結果が偶然におこる確率は高くな る。しかし公害が発生する地域は、住民が比較的少ない場合が多い。 今回の調査もその例に漏れず、サンプルとなる住民は少ない。 そこで今回の調査はサンプルの量の少なさ補うために、対照地域 (問題になっているものから影響を受けない地域)を調査対象に含め る比較対照法を採用した。 ここでは、まずこれらの標準化死亡比の違いが偶然起きたかどうか を検証する。そしてもし偶然ではなく、必然的なものであることが推 定できた場合、処分場による汚染が、ガン死の多発にどの程度影響を およぼしているかの相関を検証する。 ノンパラメトリックの相関と推理統計学における「積率の相関」の類似 性 限られたサンプルの値から、それが普遍的に(母集団でも)起こり うるかを推定するには、推理統計学の手法を使って検証する。  ただし、推理統計学で正確な数量を推定できるのは、四則演算の 全てが可能な比率尺度で測定されたデータである。そこで予測する相 関の程度は、2つのデータの関連性の強度を表すピアソンの「積率の 相関」rで評価する。 またピアソンの「積率の相関」rの二乗を「決定係数(r2)」と呼 び、二つのデータにおいて一方のデータが他方データへの影響の寄与 分を表していることが、証明されている。 しかし今回の調査のように「ガン死」「そうでない」のような「1」 か「0」のような段階尺度で測定されたデータを予測する場合は「ノン パラメトリックの相関」と言われ直接推理統計学で正確な数量を推定 することはできない。 3
  • 4. しかし、この相関も実は「積率の相関」とほとんど性質が似てお り、「積率の相関」に準じて推定できることが知られているので、こ こでは積率の相関を準用して、相関分析をする。 ガン死 ちがう 相関とは 相関の要素には、 1 2つの事象が、たまたま偶然に起こったのか、原因があって必 然的に起こったのかを判定するサンプル誤差の確率P、 2 そして上で述べたように、因果関係が問題になっている二つの 変数、ここでは「処分場からの風」と「ガン死の多発」の結び つきの強さの程度の相関係数r、 3 一方のデータが他方データへの影響の寄与分を表す(決定係数 「説明分量」)r2が要素としてある。 これらの要素を総合的に評価して因果関係の評価をする。 サンプル誤差P を導き出すためのχ 2検定とその前提の帰無仮説 まずサンプルが偶然出てきたものか、それとも必然的に導き出され たものかを調べるため、相関の第一の要素であるサンプル誤差の確率 Pをχ 2検定で導き出す。 調査したデータが偶然起こったのか否かの判定は、仮説に対する誤 差の大きさで統計的に評価できる。すなわち大きな誤差は起こりにく く、小さな誤差は起こりやすいことは、日常経験することである。 したがって、サンプル誤差の大きさと起こりうる確率Pとは反比例 の関係にあるといえる。 この性質を利用して、統計学的に処理をして、サンプル誤差の確率 Pを算出する。誤差の大きさχ 2を考え、χ 2検定により、サンプル誤 差の確率Pを算出する。 ロナルド・フィッシャーの帰無仮説 χ 2検定は、帰無仮説というものでの検証を前提に論理を進める。帰 無仮説は、集団遺伝学や統計学の第一人者であるロナルド・フィッシ ャーが考案したものである。 それは、今証明しようとしている、「処分場直下の風下地域とガ ン死の多発には因果関係がある」という命題を無効にする命題であ る。 すなわち「処分場の風上でも風下でもガン死は同じように起こ る」という仮説である。 今回の調査では風下のほうがガン死者が多いという結果が出た。こ のことがたまたま偶然に起こったのかを検証することが帰無仮説の検 証である。 帰無仮説によると、「風下、風上関係なくガン死の頻度が同じで ある」はずである。そこで今回の調査結果が、どの程度帰無仮説から 外れているかの誤差の大きさPをχ 2検定により判定する。 そのためにまず偶然量分割表(今回のは2分割表)をつくる。 0.8 0.013 270.2 395.9 4 風下 風上
  • 5. 観察値(調査結果) ガン死 ちがう 0.33 0.44 270.7 395.5 期待値(帰無仮説からの予測) 帰無仮説が、ガン死率はどちらも変わらないという前提から、期待 値を算出する。 期待値の出し方:両地域を合わせた平均ガン死率を出す。 =(0.8+0.013)÷(271+396)×100=0.12%  風下の「ガン死」の期待値は、風下の人口に平均ガン死率を掛け る。 =271×0.12%=0.33人 風下の「ちがう」の期待値は、風下の人口に平均非ガン死率を掛け る。 =271×(100%-0.12%)=270.7人 風上も同様にして期待値が出せる。 風上の「ガン死」の期待値=396×0.12%=0.44人 風上の「ちがう」の期待値=396×(100%-0.12%)=395.5人 誤差の大きさχ 2は、帰無仮説から期待できる値と現実の調査のずれ であらわされる。すなわち 誤差の大きさχ 2=Σ(観察値-期待値)2÷期待値 =(0.8-0.33)2÷0.33+(0.013-0.44)2÷0.44+(270.2- 270.7)2÷270.7+(395.9-395.5)2÷395.5 =1.145102 このχ 2から今回の調査結果はたまたま偶然に起こったのか、原因が あって必然的に起こったのかを、サンプル誤差の確率Pで判定する。 χ 2表からPを求めるとPの範囲が不等式で表される。Pが大きけれ ば、誤差が起こりやすいので偶然性の推定が働き、十分に小さけれ ば、原因があって必然的に起こったという推定が成り立つ。 ここまでは、Pというものがどういう意味のものかを理解していた だくためにあえてχ 2からPを導きだした。 フィッシャーのエグザクト・テスト しかし、前述のロナルド・フィッシャーは、これと同じPを、不等 号の形でなく、より適確にP=のかたちで同じ偶然量分割表(今回の は2分割表)から導き出す方法を考え出した。この検定は、フィッシ ャーのエグザクト・テストといわれる。 5 風下 風上
  • 6. E=a+b F=c+d a b c d N=a+b+c+d G=a+c H=b+d その計算式は、P=E!×F!×G!×H!÷N!×a!×b!×c!×d! と定義さ れ、計算結果は P =0.0001755=0.0175% となる。 一般的にP<0.05=5%であれば、統計学上は有意味と判断され、必 然性の推定は働くので、今回のデータは、原因があって必然的に起こ ったという推定が十分成り立つ。 すなわち、今回の調査結果が、たまたま起こった確率は、1万回に 1.75 回しか起こらないということである。すなわち99.98%(1- 0.000175=0.9998245)は確実に原因があって起こったことを意味し ている。 相関rの検証(少ないサンプルでも正確に評価する方法) しかし、いくら必然性が証明されても、因果関係の結びつきが弱け れば、そのようなものは無視しても影響はないことになる。 そこで次に二つの変数の結びつきの強さの程度である相関rが問題 になる。 今回の場合は、「処分場からの風」と「ガン死の多発」の結びつき の強さの程度である。 先ほど求めたサンプル誤差χ 2は、サンプル数が増えると大きくな る。サンプル数が巨大になると、サンプル誤差χ 2も大きくなり、サン プルの結びつきがほとんど認められないケースが発生し、Pが小さく なり統計学上有意味になることが起こる。サンプル誤差χ 2はサンプル の大きさに左右されるという不都合が起こる。 そこでχ 2を総数Nで割ることで、純粋に結びつきの程度だけを反 映する相関rを考えることで、この不都合を解消することができる。 相関rはχ 2をサンプル数で割ったものである。 rは、-1≦r≦1の値をとりr=1のとき、その原因が存在すれ ば、100%予想通りの結果が発生し、r=-1のとき、その原因が存在 すれば、100%予想通りの結果が発生しないことを意味する。R=0な いしはr≒0のとき、結果の発生が半々で、相関がないということにな る。 すなわちrが1に近づけば、相関が強く、0に近づけば弱くなる。相 関が認められるか否かは、一般的にr≒0.2が目安とされる。 しかし相関を認めるということは、結果発生のリスクを無視するか 否かの問題であり、この目安も日常経験的である。そこで内容によ り、たとえば「雨が降る」ことと「ハリケーンが通過する」ことの結 果の重大性の違いは社会的に評価されるべきである。雨で濡れること と生命が脅かされること、ことはリスク評価の上で違ってくるはずで ある。 今回の調査の結果は 6
  • 7. r=(χ 2÷N)0.5  =0.145 となり、必ずしも一般的には顕著な結びつきとはいえないが、ガン 死という事の重大性から判断すると、社会的に十分相関を認めるべき である。 決定係数(説明分量)r2の検証 推理統計学の「積率の相関」rから証明される決定係数相(説明分 量)の性質を準用すると、相関係数rを2乗したr2は、一方の変数が 他方の変数によって説明される分量(説明分量)を表すことになる。 上記で求めたrを二乗すると、 r2=(0.145)2=00.21025≒2.1% となる。 すなわち処分場からの風によって、ガンになって死ぬ確率が2.1% 高くなることを表している。 総合的評価 さて前に述べたように、処分場から飛散する焼却灰による大気汚染 とガン死の多発の因果関係を考える場合、因果関係の程度を一定のル ールに従った客観的な統計学と公害とガン死という社会的な価値判断 の二つを組み合わせて総合的に判断する事がもっとも的を得た評価の 仕方であると考える。 推理統計学からは、確実度は100%にほぼ等しい、99.98%と いう程度で、風下地区の住民のガン死のリスクは2.1%も高いこ とが推測された。 そこで、公害とガン死という社会的な価値判断をどう捕らえるかが問題にな る。 ガンは医学的に未解明ものが多く、深刻な病気 ガンは、発生した部位により様々な性質があるが、その多くのもの がいまだに確実に治癒できるための医学的解明がなされていない。し かも死のリスクが非常に高く深刻な病気である。 相乗効果 この2.1%という分量は、一見少ないようであるが、先に述べたよう に、疾患の多様な要因一つ一つ取ってみると発生への寄与は小さい が、複数の要因が同時に存在すると、おたがいに相加的、相乗的に働 くことを考えると深刻な問題を内包している。現に、今回のように風 下地区のガン死亡率が、全国の4倍を超えるようなことが起きたこと も、他の要因との相乗効果の可能性が十分に考えられる。 回避不能 また、住民は大気汚染を知ったところで、それを避けるすべがな い。すなわち、水や食品の汚染は、代替は可能である。そこでひとた び居を構え、生活している以上空気を吸わないわけにはいかない。こ の不況の世の中で大多数の住民は転居する可能性を持たないし、原告 7
  • 8. の中の多くは、自然豊かなこの地域を終の棲家と決めて移り住んでい るものがほとんどである。 特に刺激的な臭いや、呼吸器の異常の訴えがあるわけでなく、危機 感がないまま生活している恐ろしさを正しく評価する必要がある。 全国的問題 谷戸沢処分場は、全国に先駆けて1984年に開場され、全国の自治体 から見学者が訪れ、その後これをモデルとして次々に内陸式管理型処 分場が造られ、平成7年度現在、一般廃棄物処分場として厚生省が把 握しているものが、2,367ヶ所ある。したがって、すり鉢上の処分場と いう構造的な問題から来る汚染問題は共通しているので、やがてこの 問題は全国でも大きな問題に発展する可能性がある。 原告の立場 原告である私、中西四七生は、13年前きれいな空気と豊な自然のも とで、子どもたちを育て、自らも豊な生活を夢見て日の出町に移り住 んだのである。そのきっかけも、都心での生活で3番目の娘を細気管 支炎で亡くしており、私にとって環境の悪化で家族が健康を害される ことは、最も恐れることである。 私以外にも今回の訴訟に原告として参加している人たちの多くは、 日の出の自然にあこがれて、移り住んでいる人が多い。原告として処 分場の操業を受忍する限度を十分に超えていると考える。 結論 以上のことを考慮すると処分場からの汚染はガン死の多発を引き起 こすと判断することが妥当である。 参考文献: 「文化人類学の方法と通分化研究」木山英明著 明石書店 1999 年5 月 「今日の疫学」青山英康編 医学書院 1996 年11 月 「疫学」日本疫学会編 南江堂 1996 年10 月 8