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化学 別冊2011
- 5. 別冊『化学』
「化学のブレークスルー【機器分析編】
─革新論文から見たこの10年の進歩と未来」
●第一章● 座談会
◎「機器分析の今,そしてこれからの方向性と展望」
志水 隆一 先生 (国際高等研究所)
田中 耕一 先生 (株式会社島津製作所)
中井 泉 先生 (東京理科大学理学部)
河合 潤 先生(司会) (京都大学大学院工学研究科)
●第二章● 私が選ぶ“革新論文”(筆者50音順)
◎触媒表面分析「原子を見て,理解し,コントロールする」
朝倉 清高 先生(北海道大学触媒化学研究センター)
触媒表面の反応はかつてはブラックボックスとして考えられ,触媒合成は芸術であった
が,X線や赤外分光などの分光法の進展で,触媒反応のin-situ解析が可能になった.し
かし,原子レベルの観測や電子状態,表面の動きとなると,電子線,放射光などの量子
ビーム利用が必要となる.そして……
◎X線分析「無名の技術者が時代を切り拓く」
河合 潤 先生(京都大学大学院工学研究科)
X線を集光できるレンズを発明したらノーベル賞がもらえるといわれていたが,2種類の
X線レンズは日本から生まれた.意外にも,発明されてみたら簡単な構造であった.1960
年代はじめ,蛍光X線分析は定量分析にさえ使えないといわれていたが,1960年代を通
じて精密な定量分析法(ファンダメンタルパラメータ法) と超微量分析法(全反射蛍光X
線分析法) の両方ともやはり日本から生まれた.超小型蛍光X線分析装置はアメリカの
技術者が開発した.X線分析におけるこれらのブレークスルーは,その多くが学術論文
ではない方法で発表されてきた.
◎生命科学「生命の本質が見えてきた」
瀬藤 光利 先生(浜松医科大学分子イメージング先端研究センター)
この10年,ヒトを含めた生命が物質であることがついに実験的に示された.ベンターら
によってヒトゲノムが読まれ,完全化学合成されたゲノムで動く細胞が創生された.分
1
- 6. 化を初期状態にリセットする因子が同定され,寿命を延ばす因子が行う化学反応の実際
が明らかになり,分子イメージング手法が発展した.
◎高速液体クロマトグラフィー「HPLCの限界を超える」
田中 信男 先生(ジーエルサイエンス株式会社総合技術本部)
約20年前には成熟した技術と考えられていた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が,
この10年で大きく変わりつつある.その原動力は,理論的な予測と新しいアイデアに
基づく開発努力とともに,限界を超える性能を求める実用上の必要性である.HPLCに大
きなインパクトを与えた五つの論文を紹介したい.
◎バイオ分析「ナノ・マイクロ技術の進展でまったく新しい計測が可能に」
馬場 嘉信 先生(名古屋大学大学院工学研究科)
ナノ・マイクロ技術がバイオテクノロジーと融合することにより,従来不可能であった
分析システムの大規模集積,分子モーターの精密制御,細胞の局所環境制御・計測,神
経機能計測,肺機能再現・計測が可能になってきた.ここでは,ナノ・マイクロ技術に
より従来の常識を覆す新たな機器分析を可能にする革新的な研究成果を紹介する.
◎レーザー分光分析技術「生細胞をターゲットとした顕微鏡が技術発展を加速する」
原田 明 先生(九州大学総合理工学研究院)
生細胞は,一般的にはそれ自体に希少価値はなく,とくに慎重な取扱いが必要なことは
少ない.しかし,分析対象として見たとき,方法論的に最もチャレンジングな試料の一
つであろう.近年,生細胞を対象とした分析化学~物理化学的計測技術の開発がさかん
である.そこに,未来の機器分析手法への道標が見える.
◎無機質量分析法「新たな変革期を迎えた同位体研究」
平田 岳史 先生(京都大学大学院理学研究科)
同位体は原子核の重さの違いにより物理化学的性質に違いが現れる.これにより原理的
にはすべての物理化学的反応を通じて元素の同位体組成は変化する.いま,この同位体
組成変化を利用してさまざまな新しい知見を引きだす研究が行われている.1940年代に
黎明期をむかえた同位体研究は,70年を経た今,無機質量分析法の急速な進歩を背景に,
その学術的基本概念の変革と実用的応用研究の新展開が始まった.
◎質量分析「次世代質量分析への飛躍」
平岡 賢三 先生(山梨大学名誉教授)
2002年の質量分析イオン化法に対するノーベル化学賞の授与以降,約10年間の革新的研
究を紹介する.これらは,これまでに蓄積された基盤技術の延長線上に位置するものが
2
- 7. 多い.次の10年には,ブレークスルーによる新しい質量分析が誕生し,パラダイムチェ
ンジが起こる息吹が感じられる.
◎顕微鏡「原子1個,分子1個が観察可能な顕微鏡」
藤浪 眞紀 先生(千葉大学大学院工学研究科)
科学への興味の多くは,視覚から入るのではないだろうか? 生物の体の構造や,物質
を細かく分けていくとどうなるのだろう?という興味である.幼いころは虫眼鏡で数倍
の世界,学生時代は光学顕微鏡で百倍の世界まで拡大して楽しんだ覚えがある.ミクロ
の世界に迫る,それはまさしく人間の本能なのかもしれない.そのツールである顕微鏡
が,いまや原子1個,分子1個を観察できる領域にまで到達しようとしている.
◎NMR分光法「これまで見えなかったものを見せてくれたNMR技術の進歩」
藤原 敏道 先生(大阪大学蛋白質研究所)
NMRは複雑な生体分子の全構造を決定できるなど,分光法のなかでもきわめて高い分
解能をもつラジオ波領域の分光法である.さらに,溶液状態や無配向固体など,非結
晶の天然にある状態で試料を解析できる.これらの長所を生かし,約65年の歴史をもつ
NMR法の進化を歴史をもつNMR法の最近の進歩を紹介する.
◎原子間力顕微鏡「原子を見る,測る,動かす新たな万能ツール」
森田 清三 先生(大阪大学大学院工学研究科)
原子分解能の原子間力顕微鏡の進歩発展は目を見張るものがある.
『究めて極める』 ,
『新しい道具は新しい世界を切り拓く』,『ナノスケールでは新しい世界が開ける』,
『原子レベルでは物性が変わる』,『原子と対話する』を地でいく世界が広がりつつあ
る.
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