How to listen_to_trouble_stories
- 2. I. はじめに
紛争当事者の語りをどう聞くか
(A) 法専門家の聞き取る力の重要性
! 依頼者中心アプローチ(A Client-Centered Approach)
– 「自律」(autonomy)または「説明と同意」(informed consent)アプローチとも言わ
れる.
– 依頼者のニーズ・望み・価値・志向に焦点をあてる.
– 法律家の役割は、依頼者の志向に基づき、論点を解決するための複数のオプションを提
示することにある.( バインダーとプライス『カウンセラーとしての弁護士』1977年)
! 依頼者中心のアプローチを実践するには、依頼者のニーズ、望み、価値、志向を聞き取らな
ければならない。
– 聞く力の重要性が強調される.
「相談者の立場に立ち、相談者の求めるもの(ニーズ)を把握することの重要性であり、それを
把握するための『聴く』技術の重要性である.」(菅原=岡田『法律相談のための面接技法—相
談者とのよりよいコミュニケーションのために』2003年)
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13年11月30日土曜日
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- 3. I. はじめに
紛争当事者の語りをどう聞くか
(B) 日常会話ではどう聞き取られているか?
(1) 日常会話(部活をやめた弟と姉の会話)
B=語りの開始、A=聞く行為の開始
1 B: 俺なーなんかなー (1)
2 (0.5)
3 B: 一学期までは良かってんけどーサッカー部やめたやろー?
A=話させる行為
4 A: うん。(2)
5 B: でーまーその(0,5)他のサッカー部員とは::別に仲良くつきあってんねんけどー[ー
[うんー
6 A:
7 B: 一人とまったくしゃべってないねん。=その前までめちゃめちゃ仲良かってんけどー (3)
8 (1.0)
A=話させる行為+情報を
9 A: えーだ[れー?] (4)
引き出す行為
B=悩み/苦情の最初の表現
10 B: [え、]Cって奴やねんけどー[ー ]
[あ]C殿とかゆってた子か[ーー] (5)
11 A:
12 B:
13 (2.0)
B=悩み/苦情の再表現
A=情報を引き出す行為+確認
14 B: まったくしゃべらへんねん。(6)
15
[そうー]
(理解の検証)の行為
(1.0)
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- 5. II. 何をどう聞き取るか
紛争当事者の語りをどう聞くか
(B) 日常会話ではどう聞き取られているか?
(2) 日常会話(娘と母親の会話)
1 B: あんなー今日なー (1)
B=語りの開始、A=聞く行為の開始
A=話させる行為
2 A: うん?
B=話す行為、A=聞く行為の開始
3 B: コンビニにねー(2)
A=話させる行為
4 A: うん
5 B: ビューラー売ってないかなーと思ってね
6 A: うん
B−Aの反復
B=いつ・どこに・何のため
にという物語で語っている
7 B: 行ってんよー
8 A: うん
9 B: 無かった(3)
B=物語の結末としての苦情の最初の表現(失望)
10 A: 無かった?
A=苦情の受け取り+解決の前提づくり
11 B: うー[ん
12 A: [明日D- D((スーパーマーケット名))行くから D見てきたろか?(4)
A=解決の提供+解決の発見(
「コンビニ」→「D」)
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- 6. II. 何をどう聞き取るか
紛争当事者の語りをどう聞くか
会話行為(発話)の型的特徴 ー> 苦情=助言の達成
! 苦情/悩みを語る発話は、それが語られたとき、そうとわかる適切な形式で語られる
– トラブルカテゴリーの使用(e.g.「交通違反で捕まった」)
– トラブルの物語(e.g. 一連の行為が「期待」を生み出したが、「失望」が生じた)
! 会話の前後関係において、適切である発話は複数ある.
– 例えば「今日、ビューラー買えなかった」という発話も適切性を満たす.
– しかし、上記の語り方は、期待ー>失望という形式をもたない.
– したがって、苦情/悩みの基礎が伝わらないという特徴がある.
– 物語による苦情/悩みの提示は、ある方向性に向けて苦情/悩みを色づけて説得力を増
す工夫である.
! 助言を行う発話にも、そうとわかる適切な形式がある.
– 苦情を「受け取り」+「助言を行う」という順序の適切さが守られている.
– データでは、苦情(の基礎)を「聞き取る」という行為(とその理解の検証)が行われ
ない.
! 苦情/悩みを語る一連の発話には、語り手の解決への志向(計画、好み、価値等)が含ま
れている(データの続きを見る).
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- 8. III. 紛争当事者の語り—法律相談では
紛争当事者の語りをどう聞くか
苦情/悩みの語りの促し ー> 語りの開始・その形式選択
(3) 法律相談(家主)
1 L:
えーと、なーいようは何になるんですかね (1)
2
(1.2) (2)
3 C:
えーーとそーですなあのーおーーま、うーん
4
(0.5)
5 C:
私のほうがー (3)
6 L:
はい
7 C:
家主なんです? (4)
8 L:
家主=
9 C:
=へえーー[マン]ションのーー経営者=
L=苦情/悩みの語りであることの
10 L:
C=ためらい
C=ためらい
提示(→次発話での理解検証)
L=そのような語りの開始の促し
C=ためらい
C=「私」と誰かの対立という形式での語りの開始
= 対立者(=苦情をもつ資格ある者)の提示による開始
C=「私」が誰かの記述
=「家主」、「経営者」「オーナ
[はい]
ー」という記述は苦情の背景の
11 L: =はい=
一部として聞こえる.
12 C: =まーーあのオーナーなんですけど
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- 10. III. 紛争当事者の語り—法律相談では
紛争当事者の語りをどう聞くか
問題の表現形式は、解決を先取りしている
18 L: はい
19 C: ((吐息音))それでーえーーそのー ((吐息音))ーな- ん- て- んかまーあんジャンガラにして
20 C: 出とるもんでーー[それで]しききんを一応向こうも戻してくれとー
21 L:
[う ん]
Lによる訂正は、「敷金を戻せと」という
22 C: [(こ)ー]
事実を「敷金が入っている」+「返せと
23 L: [敷金 は]入ってん[の (1)
言っている」という2つの事実に分ける.
24 C:
[しききん=
=「要件事実」型の整理への志向性
25 L: =返してくれっていうわ[け]
26 C:
27 L:
[ん]ーー返してくれ [ということや]からー (2)
[はいはいはい]
Lによる訂正は、Cによって検証される.
Cは、この訂正に無関心な態度を見せている
Cのニーズは敷金返還の不当性の確認にある
=さらに、この後、敷金をいっさい返還し
ないという解決志向性が明らかになる
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- 13. III. 紛争当事者の語り—紛争の物語
紛争当事者の語りをどう聞くか
問題の語りは、幸福から不幸への移行とその説明から成り立つ
1 X
私が元々新聞折り込みで求人情報などを掲載している会社に勤めておりました。ちょうど
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転職先がないかなと探していたときに、お取引先であった広告代理店から経験者を探して
3
よい転職先・経験者を
探している・取引先
いるというようなお話をいただきまして、ちょっとお話を聞かせてくださいということが
私も彼((=Z))にこれを見てもらって、ちょっ
4
まずそもそものきっかけなんです。 そこでお話をしまして、いろんな条件提示を何回かし
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と気になるねと最初は言っていたんですが、ここ、契約期間が空白なんです。この状態で渡
5
ていたんですが、この条件でよければ。
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33 X そうです。これを提出いたしました。前提条件として当初これを提出する際に、実際に私の
されまして、納得できるようであれば署名捺印の上出してくれと言われました。ここに関し
((中略))
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勤務開始日は決まっていませんでした。実際に勤務を開始した際に、秘密保持に関する書類
て私のそのときの認識ですが、年俸制ということで書いてありますので、年俸の契約を更新
17 X このような形でいただきました。この内容に納得したら、ここに署名捺印の上提出し
22
35
とあとは諸々の書類に署名捺印をし、就業規則と年俸規則などを読むようにと言って渡され
したりというときに記入されるんだろうな。もし雇用期間だったとしても記載がないので、
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てくださいということで、もらいました。
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40
ただけるだろうと思っていたんですが、いただいていないです。そのときの就業規則の中に
私は期間の定めのない雇用だなという判断をしておりました。
ています。その時に試用期間に関する項目を確認したんです。同時に入社された方があと2
18
ちょっと気になる
採用前後の事情
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一緒に保管されていたものを私は複写して持っているんですが、そこに保管されていた時
人いたんですが、その方たち2人に関してはここはばっちり書き込んでありました。
57 X この会社ですが、本当に少人数でやっておりまして、この((N))営業所というところで勤務し
会社の形態
38 E 42
点では、ここはもちろん未記入のままでこの社長印も押されていなかったです。全く私が署
ちなみに2年とか、そういう感じだったんですか。
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ていたんですが、営業社員は私が入った時点で3名。営業所長がお1人。そこにコンサルティ
39 X 43
名しただけの状態で保管してありました。写しをもらっていませんが大丈夫ですかという
3か月と半年とで書かれていました。そして、これは雇用契約書ですので、実際に写しをい
89 Z そもそもこの契約書を見たときに、契約期間の部分と年俸かどうかというところがはっきり
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ング会社の方が上につかれて、その上はもうすぐ社長という状態です。所長に関しては人事
年俸制
ノルマがあ 44
確認と、あと、ここの期間が書いてあるほかの新入社員に、期間の定めありって言われたの
90
しなかったというのがあったんですよ。契約期間が定められている1年の年俸制の契約書だ
60
権などは一切なく、そういったものはすべてコンサルの方がされているという状況でした。
をめぐ
ったが言わ 45
という確認をしたら、言われたと2人が言っていたという状況です。ますます私は、ああ、
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154 X 2月4日に勤務を開始しまして、その勤務終了と言われたのが4月28日です。その4月28日
という判断もできるし途中で切ることもできる契約書なので、期間を書いてもらったほうが
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条件が違うんだなとは思っていたわけですが。
る解釈
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155
の時点で、このままでは難しい、なんかすごいあやふやなニュアンスで向こうが言った
いいということと、年俸制によることしか書いていないので、それ以外のところはどういう
れなかった
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来なくてい
いよといわ
れた
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95
96
97
ふうに判断するのか。あと諸々の諸条件のところがどうなっているのかというのが、この雇
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んですよね。
163 Z 明確な金額的なところは提示されていなくて、期待値として目標の設定をしているのでとい
157 Z 後から知ったんですけれども売上ノルマがあったらしくて、2月、3月、4月にノルマがあっ
用契約書だとある意味逃げることもできる1枚ペラのものなので、作るんだったらもう少し
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うところが、先方にはあったみたいで。
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て、それに達成していないのでそのままでは厳しいよという話が、2月、3月、4月それぞれ
何枚かペラがあって、就業規則と照らし合わせてそれがいけるかどうか。年俸の分の就業規
165 E 示されてはなかった。
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あってはいたんでしょうけれど。
則があるかどうか、給与規定があるかどうかというところをもらってみてくれという話をし
166 Z それが4月の頭に、もうこのままだと厳しいよという話になって、28日にもう明日から来な
ていたんです。
((中略))
167
くていいよという話になった。
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