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前立腺がんの分子標的治療
PSMAを標的にした治療の
メリットと問題点
今後
NPO法人 腺友倶楽部 | 前立腺がん患者・家族の会
https://pc-pc.org/
前立腺癌の病期分類
治療法
A 全摘手術
B 放射線治療
C
根治を視野
に入れるこ
とが可能
D がんがリンパ節・骨・肝・肺
等に転移している場合。
全てのがん細胞を物理的に見つけ
ることが不可能
ADT・抗がん剤の薬物療法によるしかなかった。身体への負担が大きく、且つ治療効果は限定的
分子標的薬の開発
分子標的薬
「分子標的薬」は、病気の細胞(がん細胞など)の表面にあるたんぱく質や遺伝子を
ターゲットとして効率よく攻撃するくすりとして注目されています。「抗体(こうた
い)医薬」(Q49参照)には、分子標的薬に分類されるものもあります。現在では、低
分子化合物のくすりも含め、10種類以上の分子標的薬が使用されています。
前立腺がんでは、前立腺細胞膜にあるProstate Specific Membrane Antigen (PSMA:
前立腺特異的膜抗原)があります。これをターゲットとして、前立腺がん治療薬が開発つ
れ海外では、試験的利用が始まっています。
PSMAを標的にして何ができるか
前立腺がんの転移部位を高感度かつ網羅的に調べることができる。現在は、骨シンチを
使って調べていますが、骨以外への転移は調べることが出来ません。そこで、68G-
PSAMA-11-PETを使って転移を検出することが諸外国では、行われ始めました。68Gの半
減期は68分と短いこどから、現在は 18F-PSMA-1007に移りつつあります。この半減期
は、110分と長く、より高い放射活性が得られることから、安定且つ高感度に転移部位の
検出が可能となります。
転移した前立腺がんを効果的に殺すため、治療用放射性(高エネルギー)物質をPSMA-
617に結合させた治療薬が開発されています。一つは、177Lu-PMSA-617です。これは、
ベータ線を放出します。もう一つは、アルファー線を放出する225Ac PSMA-617です。
諸外国では、これらの運用が始まっていますが。日本では、68G-PSAMA-11-PETの試験
的運用は開始されましたが、治療に関しては、今のところありません。
PSMAを標的にした分子標的薬の問題点
分子標的薬を投与すると、前立腺がんはやっつけることが出来ますが、
唾液腺、涙腺も攻撃を受け機能しなくなります。結果として、ドライマウ
ス、ドライアイになってしまいます。この対処方法としては、人口唾液、
人口涙で対応するしかありません。現在こうした副作用を軽減する手法の
開発が進められています。
前立腺がん細胞の中には、PSMAも持たないものもあります。そうしたが
ん細胞には、PSMAを標的にした分子標的薬は効果がありません。
詳細については、腺友倶楽部のホームページ (http://pc-pc.org/new-topics/)ご参照ください
PSMAの発見は25年前に遡ります。前立腺がんのモノクローナル抗体の一つに、PSMAを認識するものが
ありました。以後、多くの研究がなされ、ここにきて漸く、PSMAを標的にした、前立腺がんの分子標的
薬が生まれました。さらに、詳細な解析を進める中で、PSMAは、前立腺以外の線組織、唾液腺、涙腺な
とに存在することが分かりました。
新たな標的分子の検索
PSMAは、25年前に偶然に見つかり、現在、PSMAを標的としてた、核医学的治療薬が世の中
に送り出されてきました。しかし、このPSMAは唾液腺、涙腺などの前立腺以外臓器にもあり、
PSMA標的治療は、唾液腺、涙腺の機能を破壊してしまいます。
もう一つの問題点として、前立腺がんの中には、PSMAを発現していないがん細胞(PSMAのな
いがん細胞)の存在が知られてきました。こうしたPSMAを持たないがん細胞には、PSMA標的治
療薬は役に立ちません。
このような問題点を克服するには、新たな標的分子(タンパク質)を探す必要があります。
これまでは、標的分子の探索は、研究者の勘と偶然によるところが全てでした。しかし、最近は、
網羅的な遺伝子発現解析が出来る様になり、これをベースにした標的分子の検索が可能なりまし
た。それを可能したのは、RNAシークエンス技術、コンピュータの高速化、そして、解析のため
のプログラムです。具体的例を次ページ以降に示します。
Supplementa
ry
information,
Table S1
Patient
information
No. Age Preoperative PSA Stage Gleason Score Metastasis
1 74 9.85 T2cN0M0 3+4 0
2 73 1.36 T1cN0M0 3+3 0
3 71 9.62 T2aN0M0 2+2 0
4 54 7.44 T2cN0M0 3+3 0
5 62 7.76 T4N0M0 3+4 Bladder
6 69 4.04 T1cN0M0 3+4 0
7 52 30.33 T3bN0M0 3+4 0
8 66 10.4 T3aN0M0 3+4 0
9 56 9.78 T2cN0M0 3+4 0
10 75 10.93 T2cN0M0 3+4 0
11 57 6.99 T2cN0M0 3+4 0
12 80 22.38 T1cN0M0 4+3 0
13 75 12.69 T4N0M0 5+3 Bladder
14 73 12.8 T2bN0M0 3+2 0
患者14人のデータを全て解析し、Gleason Score, Stageと密接に関連する
発現遺伝子があるかを調べる。
7
6~7千万本のRNA read/サンプル, 90 塩基/read
前立腺癌/正常組織での遺伝子発現解析
Cufflinks/TopHat2を用いて解析
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3343650/ に公開されている
のを利用
8
遺伝子(約25,000個)の構成要素
であるエキソン発現量(p<0.01)
ベースにした、サンプルの主成
分解析
主成分分析
正常細胞
がん細胞
ここでは、正常細胞とがん細
胞が異なる遺伝子発現パター
ンを取っていることが判りま
す。
がん細胞で発現していて、正
常細胞では、発現していない
遺伝子の探索、さらに、標的
にするには、細胞膜表面にあ
る遺伝子の産物(タンパク質)
を組織的、網羅的に探す必要
があります。
数字は患者番号
Medicine of molecule target

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