1. 002 003
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Photo and Text: Kirk Lee Aeder
いにしえのハワイが息づく波乗りの島。
big island

2. 004
まだ薄暗い早朝のなか、もろい溶岩石の上を踏み砕
きながら歩いた。海岸への道のりは、前を走る道がか
ろうじて見える程度の明るさしかない。少し立ち止まり、
頭上に輝く無数の星に目を向けた。何世紀も前に、ハ
ワイ諸島へやってきた古代ポリネシア人が目印にしたと
言われる同じ星だ。彼らの目に最初に映り、足を踏み
入れたとされるのがビッグアイランド（＝ハワイ島）の
サウスポイント沿いにあるカ・ラエ。ハワイの運命が幕
を開けたその場所が、長距離航海の中心になるのにさ
ほど時間はかからなかった。
ハワイ語で「ワヒ・パナ」とは、地理的に神聖な場
所という意味。カ・ラエの海岸はその最たる好例といえ
る。ハワイの文化では、場所に対して強い敬意を払う
という思想がある。ビッグアイランドにはそうした場所
が数多くあり、歴史の起源において重要な意味合いを
持つ。
サーフポイントまであと少し。前方で波の割れる音が
聞こえると、自ずと歩行のペースも早まる。ビッグアイ
ランドのビッグウェイバーは、ポイントへは溶岩石を超
えて行くのが常。波の良い場所は、標準的なポイント
以上にアクセスがハードだからだ。そして、貿易風がオ
ンショアに変わる前の早い時間帯にサーフィンをするの
も通例といえる。
私は23年前に、マウイ島からビッグアイランドに引っ
越してきた。移住してまもなく、ビッグアイランドのサー
フィン史がハワイ諸島のなかでも際立っていることを
知った。他の島に比べて2倍以上の面積を誇るこの島
は、ほとんどの場所で過去のサーフィンに関わる歴史
が色濃く残っている。それだけ波乗りを象徴する島であ
るので、私はビッグアイランドで波に乗ることが名誉で
あり、特権であるとも感じるようになった。ハワイ諸島
自体はサーフィン生誕の地として有名かも知れないが、
もっとも重要な役割を果たしたのはビッグアイランドな
のである。
この日の朝も、ハワイ諸島のサーフィン史のなかで
ビッグアイランドのインパクトの大きさを示すものが目
を引いた。まずは、はっきりサーフィンとわかる描写の
石絵。その見た目は圧倒的だ。さらに、溶岩でできた
石窟の避難所や養魚池、カメハメハ大王の統治下で使
われていた、キングス・ハイウェイという名で知られる
石造りの道にも魅了される。石造りの道は大王はもとよ
り、兵士や王族などがコハラ沿岸に向かうときに利用し
ていた。帰するところ、ビッグアイランドのこのエリア
は大王の領土であったわけで、誰よりもいい波が割れ
るポイントを知っていたということになる。大王のサー
フィンの才能は自明なことだが、カメハメハ世代が初め
てサーフィンをしたのではない。大王の時代よりずっと
前から、ウミ王というサーファーが存在していた。
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005
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3. 006 007
サーフィン史にタイムスリップする旅を終えると、東
にそびえるマウナケア山から太陽が昇り始めた。目的
地の一面には黒砂のビーチが広がっていて、そこから
あまり離れていない沖合いで素晴らしい波のピークが
手招きをしている。すでに数名のサーファーがライン
ナップしているようだ。先日もここで撮影をしていた
から、ほとんどのサーファーが誰なのか見分けが付く。
これほどユニークな場所がホームだなんて、本当に恵
まれていると思う。
サーフィンに出かけるたびに歴史を巡るセンシビリ
ティになるビッグアイランドだが、個性的な横顔はそれ
だけではない。セッションのステージになるのは「ここ
はどこ？」というような人里離れた場所から、快適なシャ
ワーを備える駐車場からすぐのポイントまで多様だ。と
はいえ、島のすべてのサーフポイントが神聖であること
に相違ない。いずれのラインナップにも今の時代に歴
史を伝承するローカルがいて、周囲の誰からも敬意を
払われている。そうした背景を海に入りパドルアウトす
ればいつでも感じることができる。その伝統は今後も
変わることはないだろう。
歴史の息吹は、その他のことからも感じることができ
る。私は数日前に、カイルア・コアのアリイ・ドライブを
クルマで走っていた。海岸を並走する道路沿いには、歴
史的な建造物や色とりどりのカラフルなお店やビジネス
オフィス、リゾートなどが立ち並ぶ。また、古代サーフィ
ン史にまつわる文献を詳細に記しているカモア・ポイント
のケオロナヒヒ神社や、カハルル・ビーチバークのクエ
マヌ・ヘイアウ神殿もある。このような聖堂が、何世紀
も前に波チェックをするために建造された。カモア・ポ
イントの岩場には特別観覧席が設けられ、高位の貴族の
サーフィンを低階級の貴族がそこから眺めていたという。
低階級の貴族は、高階級の貴族が上がって来るまで海に
入ることさえ許されなかったそうだ。
こうした歴史的背景が、コナの沿岸からビッグアイラ
ンドの未来を担うサーファーが生まれてくる理由だろう。
鋭いサンゴと溶岩石が鎮座するターコイズ色の海で、トッ
プレベルのスキルを磨いたシェイン・ドリアン。コナで育
ち、家族こそすべてという暮らしを送る彼は、無二の象
徴と言えよう。今年の初めにはフェイバリットスポットの
バニアンズで、シェイン主催のケイキ・サーフィンコンテ
ンストの20周年大会が行われた。ビッグアイランドの顔
は、今なおシェイン・ドリアンということに反論するもの
はいない。
波のコンディションが良い時には、駐車場を探すこと
すらひと苦労するバニアンズ。シェインのコンテストの
開催日は、駐車場はおろか渋滞をも引き起こすほど。そ
れだけビッグアイランドの住民にとって大切な催しであり、
それは今も変わらない。ビーチに向かう道すがら、この
コンテストが20年目を迎えることが夢なのではないかと
いう思いに駆られた。このコンテストが排出してきた若
きサーファーを、ふと思い返してみた。CJカヌハ、ケイ
シー・ブラウン、トリー・マイスター etc…。
初めて合ったCJは、体の線の細い子供だった。こん
な弱々しい子が世界に飛び出していこうとは考えも及ば
なかった。しかし、サーフィンに真剣に取り組む彼は年
を追うごとにスキルアップしていき、今では体格もライド
もソリッドな存在になった。また、サーフィン以外の活動
にも積極的で、他界した父親同様ビッグアイランドの保
全に大きく関わり、コミュニティに欠かせないリーダーの
ひとりとしての責務を果たしている。シェインと同じくコ
ナで生まれ育ったCJ。幅広い知識の持ち主で、古代ハ
ワイアンボードのアライアをシェイプしていることも多彩
な人となりの一因になっていよう。ちなみに、CJのえぐ
るようなカットバックは今なお、ビッグアイランドの誰より
もスプレーが飛び散る。
「親父からハワイアンに関するすべてのことを教わったん
だ。サーフィン、リスペクトの気持ち、島と海を保全す
る大切さ、などをね。それはオレにしっかり植え付けら
れている。親父の教えを忘れることはないよ」とCJは語る。
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4. 008 009
トリー・マイスターもまた、シェインのコンテストに出
場していたパワフルなレギュラーフッター。私は彼のこ
とをよく、“第2のシェイン・ドリアン”と称している。トリー
のアプローチがシェインと瓜二つだからだ。また、どん
な波にでもチャージする物怖じしないところもシェインに
そっくり。アリイ・ドライブ沿いに選ばれしものしか入る
ことができないヘビーなポイントがあるのだが、トリー
はそこで平然と波に突っ込む。ケアラケクア湾育ちゆえ、
彼の成長を何年にもわたって見続けられたことが私とし
ては嬉しい。いまはカリフォルニアのサンディエゴに拠
点を移し、さらに勢力的にQSイベントに参戦しているが、
ビッグアイランドのルーツが消え去ることはないだろう。
バニアンズのラインナップを見ていると、次はどのサー
ファーが頭角を現すのかを考えずにはいられない。若手
で突出しているのはケアラマキア・ナイへだが、シェイ
デン・デラクルス、ブロディ・セイル、カハヌ・デビオロ、
オーシャン・ドナルドソン、カウナロア・ウンといった顔
ぶれも後れを取ってはいない。また、ガールズではカー
ン・デビオロがパワフルでずば抜けている。
ビッグアイランドのキッズは誰もがシェインのコンテス
トに参加をし、試合に出場すること自体を卒業した後も
会場に姿を見せる。波が良ければ激しいコンペティショ
ンが展開され、そしてコンテストが終わりに近づいていく
とキッズたちに笑顔が浮かび、いかに素晴らしいもので
あるかを周知させてくれる。これほどコミュニティに還元
しているコンテストは実に稀。とても有意義なものだと
言える。始まった当初の20年前の頃は、これがどれだ
けのインパクトを与えるかなど誰も知る由もなかったが、
ポジティブな現状を見れば意味の大きさは明快。参加す
るキッズたちみんなが偉大なサーファーへの階段を昇る
わけではない。しかし、人生においてより良い方向を歩
みたいと意欲的になれる意味では、ただのサーフィンコ
ンテスト以上の存在だ。それがシェインのケイキ・イベン
トの特徴で、重要な点と言えよう。
「過去20年、多くのキッズがコンテストに参加してくれて
いるんだ。出てくれることで、みんなにポジティブなイ
ンパクトをいろいろ与えられる。プレッシャーを感じるな
かで競う経験、とかね。あまり競技志向じゃない子供には、
友達や家族と一緒にビーチで遊ぶっていう側面で楽しん
でもらえているよ」とシェイン。
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5. 010 011
ビッグアイランドに引っ越してきてから、私もシェイン
と数々の経験を共有してきた。けれど、初めて撮影をさ
せてほしいとコンタクトを取ったときには、即座に拒否さ
れた。完全に想定外だった。1994年頃だったと記憶し
ている。当時はまだ、シェインはプロツアーを転戦する
コンペティターで、大注目を浴びたニュースクール・ジェ
ネレーションの1人。そんな彼にとって地元のビッグアイ
ランドは心休まる聖地であり、メディアから離れる安息
の地であった。ビッグアイランド以外のメディア露出なら
いつでもOK、というスタンスを取っていたというわけだ。
しかし、その何年後かにサーフィンの人気がさらに高ま
り、自らが歩むべき進化の道筋に気づいていった。最終
的に、同じビッグアイランド出身でもっとも影響力のあっ
た故タイガー・エスペラを交えての2大スター・シューティ
ングをさせてもらえるようになった。この2人こそサー
フィンにとって特別な地、ビッグアイランドのサーファー
たるものを体現した英雄だ。
日常の生活を予測不能にする火山の女神、ペレ。彼
女が宿るビッグアイランドには、これまで記してきたよう
なユニークなサーフィンの環境が存在する。シェインが
リーダーであることは確かだ。しかし、しっかりとサー
フシーンを束ねているのはアンダーグラウンドなサー
ファーであることを伝えておきたい。ジェリー・ベス、ク
リス・アルーダ、ローランド・シャッケルフォード、クリ
ス・ポランスキといったベテランたちのことは、この島に
住んでいないサーファーには馴染みがないだろう。けれ
ど、彼らこそがビッグアイランダーとしてのプライドを持
ち、歴史を脈々と受け継いでいる。そして、このサイク
ルは今後も伝承されていくだろう。ALOHA。
あああああああああああああああああああああああああああああ
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