ソマリアと崩壊国家 Pdf
- 3. Ⅱ崩壊国家の特徴と定義
ハーバード大学の「失敗国家プロジェクト」の成果として刊行された論文集(Rotberg 2003; Rotberg 2004)
において、その編者のロトバーグは「崩壊国家」に至る三つの段階にある国家を、「弱い国家」、「失敗し
つつある国家」、「失敗国家」と峻別した上で、「崩壊国家」を「失敗国家」の極限的な現象として位置づ
ける形で類型化している(遠藤 2010: 2)。以下、図においてその概念・要件をまとめた。
Ⅰ.「弱い国家」(weak state)
・政治財の提供が困難になっている状況
・国家対立や都市部の犯罪率増加、教育・医療の提供が不可
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Ⅱ.「失敗しつつある国家」(failing state)
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Ⅲ.「失敗国家」
・暴力の程度が激しいものである
⑴その暴力が持続的であること
⑵その暴力が経済的活動と連動していること
⑶その暴力が既存の政府に対して行われていること
⑷その結果として、暴力の行使がさらなる権力獲得の手段として暴力主体の間で正当化されていること
・国家が住民を抑圧し、国内の安全を剥奪する行為を行うことで、現政権に対する国民の反発を招き、武力
紛争に発展する状況が生まれる
・国家元首を中心とした執行部がかろうじて機能している以外ほとんどは機能停止に陥り、軍のみが規律あ
る制度として存続しているものの、多くの場合、軍自体が政治化され、紛争主体化している
↓ 極限的な姿
「崩壊国家」
・国家が完全な機能不全に陥っている
・政治財は私的にあるいはアドホックにしか提供されない
・権威の空白が生じている状態
・最も重要な「政治財」である『安全』が、特定の領域を実質的に支配する、「軍閥」などの強者によって
提供される(結果として国民は「軍閥」となる特定のグループに依存せざるをえなくなる)
この政治財と「眼に見えなかったり、また数量化することが困難であったりする財であり、『市民』(『領
民』)の要求によってなされるもの」であり、(物理的な)安全を頂点として、政治に参加する自由や権利、
医療・教育などといった行政サービスに至るようなヒエラルキーの形で構成される (遠藤 2010: 2)。「崩壊
国家」ではこの政治財が特定の軍閥によってのみ提供されるといった特徴を持っている。ソマリアに当ては
めれば、軍閥とは特定の力を持った「氏族」であり、これらの氏族が共同体を形成することで氏族内部での
結束力を高めるとともに、氏族間の争いを活発化させる要因にもなっている。その一方で、ソマリランドで
は長老会議という合議体を形成することで、各氏族間の結束力を高めつつその対立を避けるという方法をとっ
ている。これによりソマリアランドでは、民主主義に基づく国民投票や平和憲章、憲法制定などを行うこと
が可能となり、依然として様々な課題は山積しているがソマリランド国民には政治財が供給されている。
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- 5. していないことから、前述したゲーム理論に基づく国家の法的要件を満たすことができず、国家の承認を受
けることができないという状況に陥っている。
Ⅳ国家性の要件と国家承認
ここでは国際法上の国家性の要件と、今日の国際社会の新国家承認のあり方について論じる。国際法上の国
家性の要件とは「①領民, ②領域, ③実質的な政府, ④外交能力」であると考えられている。また国際社会に
おける国家承認の理論として「Ⅰ創設的効果理論」「Ⅱ宣言的効果理論」が存在するが、今日では「Ⅱ宣言
的効果理論」が優勢を占めているとされている。以下、上記内容について解説を加えたものを図示した。
【国家性の要件】
Ⅰ領民(population)
Ⅱ領域(territory)
Ⅲ実質的な政府(effective government)
Ⅳ外交能力(国際法を守る意思と能力)
【国家承認】
国家性の要件を具備した政治実体が、現実に存在するか否かという問題と、その法的な方法の問題としての
国家承認をめぐる議論が存在する
Ⅰ「創設的効果理論」
この理論では、「国家性の要件の具備」についての確認が承諾の課題ではないと考えてきた。「新国家は、
国家としての資格要件を確立して事実上成立した時点から、他国による承諾の有無にかかわりなく、国際法
上も法主体として存在するのであり、承諾はこの事実を確認し、承諾を与える国との間で相互に一切の国際
法上の権利義務関係に発生を確定させる行為」と考える。
Ⅱ「宣言的効果理論」(国際基準)
「国家性の要件の具備」が承認メカニズムによって確認されるべきであることが主張されている。「新国家
は、実効支配を確立しただけでは社会集団としての事実上の存在に過ぎず、既存の国家による承認をえては
じめて、国際法主体としての資格が与えられる。」と考える。
「崩壊国家」としてのソマリアが国家として存続し続けてきたという背景には、国際社会の国家承認のあり
方に変化があったと考えられる。実質的な政府が失われ、国家性の要件が欠如した状況が1991年以降少な
くとも2000年まで存在していたにもかかわらず、ソマリアが国家として継続してきた(国際社会が崩壊国家
ソマリアを国家として承認し続けてきた)ことは、国際社会の国家承認あり方が「宣言的効果理論」から「創
設的効果理論」へ転換したものと見ることができる。つまり、崩壊国家であるソマリアが存続し続けるのは、
国家性の要件を満たさないソマリアという国家の存在が「創設的効果」によって実現しており、国家承認の
取り消しよってしかソマリアという国家の消滅を確定できないからである(遠藤 2010: 10)。またソマリラン
ドの不承認ついては、アフリカにおける現在の国境線の意地を主要な原則に掲げていた「アフリカ統一機構
(現アフリカ連合)」による影響が大きいと考えられる。当組織がアフリカでの国境線の変更に伴う不安的
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