SlideShare a Scribd company logo
1 of 26
弁護士依頼者秘匿特権
(Attorney-Client Privilege)
って一体何なのさ?
Presented by CEONGSU (ブログ 『日々、リーガルプラクティス。』管理人)
Contents
• なぜ弁護士依頼者秘匿特権は分かりにくい?
• 弁護士依頼者秘匿特権の成立要件・定義 / 弁護士依頼者秘匿特権が成立しない極端な例
• ワークプロダクトの成立要件
• 秘匿特権はなぜ複雑??~秘匿特権と準拠法~
• 秘匿特権理解に大事なこと~文書提出・開示(Production)の一般的流れの理解 / 秘匿特権で情報が保護されるパターン
• 具体例~次のコミュニケーションは秘匿特権対象?
- 会計士とのメール / 税理士とのメール(又は弁護士との税務に関するメール)
- 社内の議事録を弁護士にメールで送って相談したときのその議事録
- 役員ではない従業員と弁護士とのメール
- 弁護士とのコミュニケーションを自分の上司や役員に報告するときのメール
- 弁護士との会議に通訳を入れても大丈夫?
- 自社の子会社と弁護士とのメールを親会社に転送したそのメール
- NPEから訴訟提起を受けたライセンシーとライセンサーとのコミュニケーション
- メールの下書
© 2015 CEONGSU AN 2
なぜ弁護士依頼者秘匿特権は分かりにくい?
1.「理論上のルール」と「実際のプラクティス」がイコールではない
•理論上はPrivilegeが成立し保護される情報も相手方に開示され得る
2.コモンローなので、州によって若干定義・要件が異なる
•特にPrivilege成立要件のうち、”秘匿特権の放棄(Waiver)”という点の解釈が異なる
© 2015 CEONGSU AN 3
それじゃあ、
①理論をおさえて、
②プラクティスもざっと理解して、
③秘匿特権の放棄のバリエーションの問題点も垣間見ておく
そうすればいいんじゃないか!?
では、まずは理論から。
© 2015 CEONGSU AN 4
弁護士依頼者秘匿特権の成立要件(定義)
① 「弁護士(Attorney)」と「依頼者(Client)」 間における
② 「 コミュニケーション(Communication)」であって(*1)
③ 「法的助言(Legal Advice)」に関連してなされたもので
④ 「秘密性を保持(in confidence)」されてなされたものであって
⑤ 秘匿特権が「放棄(Waive)されていない」もの。
だいたい上記のように考えておけばよいと思われる。(*2)
*1 実際は「コミュニケーションに含まれる情報」であって、と定義したほうが、「どこまで秘匿特権が及ぶか?」を考える時に分かりやすい気もするが、誤解も生みかねないし、それに私見なので、
とりあえず上記定義にて記載。
*2 後述の準拠法に関するページ参照。なお、詳細な成立要件については、8 Wigmore on Evidence, section 2292, 及びRestatement (Third) The Law Governing
Lawyers §118 (Tentative Draft No. 1998) などが詳しい。
© 2015 CEONGSU AN 5
弁護士依頼者秘匿特権の成立しない極端な例1
ある日の夜、家のインターフォンが鳴り、弁護士Aが玄関のドアを開ける
と、そこには、血だらけの服を纏い、血が滴り落ちる包丁を手に持った友
人Xが立っていた。友人Xは弁護士Aに、「どうしよう、人を殺してしまった。
どうすればいい、、、」と呟いた。
→Xによる呟きは秘匿特権の対象となるが、弁護士が見たこと(≠コミュ
ニケーション)は秘匿特権の対象とならない。(*1)
*1 これって当たり前のように思うかもしれないが、極端な例だから分かりやすいのであって、意外と勘違いしやすい。例えば、脱税容疑の訴訟において、被告企業が弁
護士に提出した確定申告書(申告済のもの)は、コミュニケーションではないから、秘匿特権の対象とならない。この点は後ほど詳述する。
© 2015 CEONGSU AN 6
弁護士依頼者秘匿特権の成立しない極端な例2
弁護士Aは、クライアントである企業Xから、今度新発売する製品Sのデ
ザインが、売れそうかどうか、もっとどういうデザインにしたいか、アドバイスを
ほしい、とメールをもらった。
→Xから来たメールは、単なるビジネス上の(≠法的助言)コミュニケー
ションなので、秘匿特権の対象とならない。
とはいっても、こういったやり取りのメールが実際には弁護士依頼者秘匿特権と主張されて、
その主張が通るケースも間々ある。(ここにプラクティスとの差がある。)
© 2015 CEONGSU AN 7
弁護士依頼者秘匿特権の成立しない極端な例3
企業法務マンAは、ある紛争に関する相談のため上司の役員XをCCに入
れて弁護士にメールをし、弁護士から返信があった。役員Xは、紛争の相
手方当事者に旧知の友人である役員Zがいたため、その弁護士へのメー
ルをZに転送して「何とかならんかね」とZに尋ねた。 (*1)
→Aと弁護士間でのメールのやり取りは、依頼者(Client)以外の第三者
に開示された(=秘匿特権が放棄された)ので、秘匿特権では保護さ
れない。
*1 さすがにこんなバカはあまりいないが、役員が無知だと、弁護士とのメールを転送することまではしなくても、旧知の友人が相手方当事者にいたりすれば、勝手にメールで
やり取りする、ということがないとは言えない。役員への最低限の教育も重要と言える。
© 2015 CEONGSU AN 8
秘匿特権を放棄する=芋づる式に開示されちゃう(*1)
①社内弁護士Xに特許の侵害有無に関する鑑定書の作成を依頼し、
鑑定書AをXからもらった。
②後日、社外弁護士Zに同一特許の侵害有無に関する鑑定書の作
成を依頼し、鑑定書BをZからもらった。
③その後特許権者から訴訟提起されて、当該特許侵害について故意
がないことを証明するため、鑑定書Aを提出した。
⇒秘匿特権を放棄すると、同じ議題に関する他のコミュニケーションに関
する秘匿特権も放棄されたものとみなされる(=Subject Matter
Waiver)。
*1 この例は、IN RE ECHOSTAR COMMUNICATIONS CORP 448 F.3d 1294 (Fed. Cir. 2006)と同じパターン。
© 2015 CEONGSU AN 9
ワークプロダクトの成立要件(定義)
例えば米国連邦民事訴訟規則(FRCP)26条(b)(3)(A)の定義は以下のとおり。
① 文書または有体物(Document or tangible things)で(*1)
② 訴訟を予期して(in anticipation of litigation)
③ 当事者(Party)またはその代表者・代理人(Representative)によって
用意(Prepared)されたもの
なお、ワークプロダクトには、(i) Ordinary Work Product と (ii) Opinion Work Productという2種類のも
のがあるが、前者については一定の条件が揃うと開示せざるを得なくなる。後者の代表例は、弁護士の意見や印
象、及び訴訟戦略に関する資料や文書である。(プレゼンの時間の都合上、Work Productに関する詳細は省
略する。)
*1 実際には連邦裁判所の場合、Intangibles(無体物)、例えば人の記憶などにもWork Productの範囲は及ぶ、と判断する場合も多いが、
Litigation Attorney以外の企業法務担当者が理解する必要性は乏しいので詳細は省略。
© 2015 CEONGSU AN 10
秘匿特権はなぜ複雑?~秘匿特権等と準拠法
・秘匿特権(の定義や成立要件)
→原則、州のコモンロー(または制定法)による 。 (*1)
連邦裁判所(Federal Court)で裁判する場合でも、裁判する州の法律が適用されるた
め、裁判する場所によって、弁護士依頼者秘匿特権に関する法律が異なる。(*2)
・ワークプロダクト(の定義や成立要件)
→連邦法(FRCP26条(b)(3)(A)等 )に定めがある。
よって連邦裁判所での裁判であれば、必ず当該連邦法が適用となる。
*1 連邦法問題に関する訴訟においては連邦法が適用となる。特許関連訴訟においては、特許法が連邦法であるために、連邦法に関する問題と捉えて連
邦法における弁護士依頼者秘匿特権のルールが適用される( In re Spalding Sports Worldwide Inc., 203 F.3d 1800, 803-04 (Fed. Cir. 2000) )
*2 連邦裁判所における裁判(主にDiversity Case)で手続法以外について州法が適用されるのは、Rules of Decision Actの定め及びイーリの法理に
よる。このあたりの説明も省略。
© 2015 CEONGSU AN 11
プラクティスはどんな感じ?
© 2015 CEONGSU AN 12
秘匿特権理解に大事なこと
~文書提出・開示(Production)の一般的流れの理解
© 2015 CEONGSU AN 13
ディスカバリー
計画会議
•開示(Production)の範囲や開示方法(開示フォーマットの指定等)を両当事者の弁護士が協議
•開示する証拠の範囲はキーワードで限定するのが一般的(○○に関する資料全て、という場合もある)
•よってこの訴訟の初期段階でいかなるキーワードを設定するかがカギ。
証拠保全
証拠提出
•設定したキーワードで自社のカストディアンのPCやサーバー等からデータ抽出(紙の資料も当然あることも。)
•当該データをホスティングし、提出が不要な情報をチェック。秘匿特権対象となるデータを探す。
•データを整理し、プリビレッジログ(Privilege Log)と共に、秘匿特権対象データ以外のデータを開示する。
強制開示
•開示に不足があると思う当事者は、強制開示の申立(Motion to compel)(FRCP§37(a)(1))を行なう。
•強制開示の申立を受けた当事者は逆に保護命令(protective order)を申し立てる(FRCP§26(c)(1))
•裁判所が対象となる証拠をインカメラ手続きによって確認し、開示させるか保護するかを決定する。
注:上記は相当ざっくりとした流れなので、もっと実際は詳細なTo Doや流れがあるが、今回は省略。
秘匿特権対象データは検索できるようでないとダメよ~ダメダメ
© 2015 CEONGSU AN 14
左の写真はプリビレッジログの一例。秘匿特権対象情報として提出しないデータはこう
いった一覧にして、このプリビレッジログを提出しなければならない。
↑
なのでまずは秘匿特権対象データを検索する必要
↓
どうやって検索する?
- 送信者か受信者に弁護士が含まれている
- “privilege”や”work product”と記載のある資料
・例えばPDFなどでテキストではなくイメージとして保存されていれば文書の
中身では検索不可
・ディスカバリーベンダーが日本語フォントに弱いと、日本語と混ざったデータに
ついては “privilege”などの単語が含まれていても上手く検索できない
可能性あり?
⇒①ファイル名を英語だけにして、②”privilege”とか”work product”という文言を
入れておくのが無難か。出典:『米国ディスカバリの法と実務』 P.229
(発明推進協会・2013年)
秘匿特権で情報が保護されるパターン
1.秘匿特権あり、と主張し、本当に秘匿特権対象情報かは分からないまま開示されない
2.秘匿特権あり、と主張して開示していなかったが、相手方に「開示すべきだ」と主張され、
「いや、秘匿特権ありだ」と主張し返して、その主張が認められる
3.秘匿特権あり、と主張し損ねて、相手に開示してしまったが、その後「その開示してしまった
情報は秘匿特権で保護されるから、証拠として使うのはNGだ!」と主張して、認められる
4.上記の2.や3.で主張が認められずに開示するパターン、または何も気づかずに開示
したままになる
⇒企業法務担当者としては1.と2.での保護を目指すべき!!(理論だけしか知らないと、
保護しているつもりで3.のように相手方に情報が開示されてしまうことが多い。また逆に理
論をきちんと知らないと、2.の場面で主張が認められない、ということになる。)
© 2015 CEONGSU AN 15
では具体例を見てみよう。
次のコミュニケーションは
秘匿特権の対象?
© 2015 CEONGSU AN 16
会計士とのコミュニケーションは秘匿特権の対象?
NG ① 「弁護士(Attorney)」と「依頼者(Client)」 間における
OK ② 「 コミュニケーション(Communication)」であって
NG ③ 「法的助言(Legal Advice)」に関連してなされたもので
OK ④ 「秘密性を保持(in confidence)」してなされたものであり
OK ⑤ 秘匿特権が「放棄(Waive)されていない」もの。
© 2015 CEONGSU AN 17
秘匿特権は成立しない!!(*1)
財務諸表の作成等、会計、税還付については一般的に”practice of law”とは考えられていない。
(一方、タックスプランニングに関する助言は法的助言と解釈されることが多い(*2) )
ただし、弁護士から委託された会計士とのコミュニケーションであって、当該コミュニケーションが弁護士の法
的助言に生かされることを根拠として、当該会計士とのコミュニケーションに秘匿特権が成立する可能性
は高い。(後述)(*3)
*1 United States v. Davis, 636 F.2d 1028, 1043 (5th Cir.), cert denied, 454 U.S. 862 (1981)、及び United States v. Arthur Young & Co, 465 U.S. 805 (1984)
*2 Colton v. United States, 306 F.2d 633, 637 (2d Cir. 1962), cert denied, 371 U.S. 951 (1963)。なお、Federal Taxについては、制定法にて、” federally authorized tax
practitioner privilege” が定められている。
*3 その例として、U.S. v. Kovel, 296 F.2d 918 (2d Cir. 1961)
社内の議事録を弁護士へのメールに添付すれば秘匿
特権の対象となるのか?
社内の議事録は、弁護士に対して法的助言を求めるコミュニケーションでは元々ないから。(*2)
弁護士への相談のために作成されたファイル、または弁護士との協議の議事録(*3)等でない限り、
弁護士に送れば秘匿特権の対象となるわけではない!
*1 弁護士とのメールに秘匿特権の対象とならないメールが添付されていた場合、メールは保護されるが添付メールの提出は必要、とした例として、Women’s Interart Ctr., Inc. v.
N.Y.C. Econ., 223 F.R.D. 156, 161 (S.D.N.Y. 2004)、及びAbu Dhabi Commercial Bank v. Morgan Stanley & Co, Inc., No. 08 Civ. 7508(SAS),
2011 WL 3738979など。
*2 State ex rel. Dudek v. Circuit Court, 34 Wis.2d 559, 580 (1967) (“a party cannot conceal a fact merely by revealing it to his lawyer”)
*3 ①弁護士からの指示で作成されたものである場合、秘匿特権によってカバーされる可能性があるのと、②ワークプロダクトとして保護される可能性はある。
なので弁護士とのミーティングを議事録にする際は、必ずファイル名に”privilege”とか”work product”とか”confidential”と入れておくこと!
© 2015 CEONGSU AN 18
NG ① 「弁護士(Attorney)」と「依頼者(Client)」 間における
NG ② 「 コミュニケーション(Communication)」であって
NG ③ 「法的助言(Legal Advice)」に関連してなされたもので
OK ④ 「秘密性を保持(in confidence)」してなされたものであり
ー ⑤ 秘匿特権が「放棄(Waive)されていない」もの。
対象とはならない!!(*1)
役員ではない従業員と弁護士とのメールも秘匿特権
の対象となるの?
依頼者が(Client)が会社(Corporation)等の法人である場合、「どこまでが『依頼者』(によるコミュニケーション)なの
か」という問題。Subject Matter Testが多数の州及び連邦法(Federal Common Law)として採用されている。
・Subject Matter Test—従業員の職務範囲内の事項に関しての、上司の指示に基づくコミュニケーションが対象(*1)
・Control Group Test —企業の意思決定を行う権限を有する者によるコミュニケーションのみが対象(*2)
*1 Upjohn Co. v. United States, 449 U.S. 383, 394. ちなみに本当はこの判決では一般的な判断基準は明示しない、と断言している。このUpjohn判決でも引用された
Diversified Industries Inc v. H Meredith,572 F. 2d 596 (8th Cir. 1978) が、これより前に同様の類型による一般的な判断基準を示した。
*2 未だにControl Group Testを採用している州として名高いのはイリノイ州。最近の判決として、Zuniga v. Southwest Airlines, 2013 WL 228460 (N.D. Ill., 2013).
© 2015 CEONGSU AN 19
? ① 「弁護士(Attorney)」と「依頼者(Client)」 間における
OK ② 「 コミュニケーション(Communication)」であって
OK ③ 「法的助言(Legal Advice)」に関連してなされたもので
OK ④ 「秘密性を保持(in confidence)」してなされたものであり
OK ⑤ 秘匿特権が「放棄(Waive)されていない」もの。
対象となり得る。
弁護士とのメールについてのボスや役員への報告メールは、
弁護士を宛先等に含めていなくても秘匿特権の対象?
• 「依頼者(Client)」の中で「弁護士とのコミュニケーション」を開示しているだけであり、より効果的に法的助
言を受けるのにマネジメント陣で情報共有することは必要なので、秘匿特権の放棄には該当しない。ただし、
法的なサポートを受けるためのコミュニケーションでないといけない。 (*1)
• ただし、実際のオペレーション上は、こういったメール等をうっかり開示してしまう可能性も高い。
だって宛先に弁護士が含まれていないから!なので、、、(次の例も同じ課題があるので次を見てみよう)
*1 Datel Holdings Ltd. v. Microsoft Corp., 2011 WL 866993 (N.D. Cal., 2011) 及び McCook Metals, LLC v. Alcoa Inc., 192 F.R.D. 242, 254 (N. D. Ill.
200) など。なので法的サービスに関する意思決定に関与しない人へのメール転送だと、秘匿特権の放棄になると思う。メールで”CC”にやたらたくさんの人をいれるのはダメ。
© 2015 CEONGSU AN 20
? ① 「弁護士(Attorney)」と「依頼者(Client)」 間における
OK ② 「 コミュニケーション(Communication)」であって
OK ③ 「法的助言(Legal Advice)」に関連してなされたもので
OK ④ 「秘密性を保持(in confidence)」してなされたものであり
? ⑤ 秘匿特権が「放棄(Waive)されていない」もの。
理論上は保護される。
弁護士との会議に通訳を入れても大丈夫?
• 「法的助言」に関する「弁護士と依頼者間」のコミュニケーションに必要な第三者(例:翻訳者)を介在させても、秘密保持義
務が課されていれば、秘匿特権の放棄にならず、その第三者とのコミュニケーションにまで秘匿特権が及ぶ、というのが多数説。(*1)
• ただし、実際のオペレーション上は、こういった第三者とのメール等をうっかり開示してしまう可能性も高い。なので、
- 弁護士からのアドバイスに関する報告メールや協議メールには、”Attorney-Client Privilege and work product”といっ
た表現を付するようにする。(ただし、弁護士とのメールを転送せず、新しくメールを立ち上げたほうが無難)
- そもそもメールで報告せず、直接口頭・手書きの文書(これにもPrivilegeの表記はしておく)で報告する。
*1 United States v. Kovel, 296 F.2d 918 (2d Cir. 1961)がリーディングケース。 またかつてこの内容は連邦証拠規則503条として以下の内容で法案化された(が結局、503条は制定法
化されなかった)。またカリフォルニア州では、この内容が制定法として条文にて規定されている。(California Evidence Code §952. この点については、Zurich American Ins. Co. v.
Superior Court, 155 Cal App. 4th 1485 (2007) など参考。)
© 2015 CEONGSU AN 21
OK ① 「弁護士(Attorney)」と「依頼者(Client)」 間における
OK ② 「 コミュニケーション(Communication)」であって
OK ③ 「法的助言(Legal Advice)」に関連してなされたもので
OK ④ 「秘密性を保持(in confidence)」してなされたものであり
? ⑤ 秘匿特権が「放棄(Waive)されていない」もの。
理論上は保護される。
子会社の訴訟に関して子会社と弁護士とのコミュニ
ケーションを親会社の役員に転送するのはOK?
1.親会社が子会社の支配権を有している場合、「1つのクライアント」として扱われる。(Joint-Client
Doctrine)(*1)
2.一体ではなくても、グループ企業間であって共通の利益があれば、当該グループ企業への情報開示は「秘匿
特権の放棄」としては扱われない。(Common Interest Doctrine)
⇒Common Interestが認められるかどうかは、「共通の法的利益(Common Legal Interest)」があるか
否かで、あり、こういう事例の場合は、「親会社とのコミュニケーションが、法的助言を受けるために必要であるか
否か」(かつ利益相反がないか)が主なポイント。
Common Interestについては弁護士に確認するべき。これは州のコモンローで州によってまちまちなので!
*1 判例としてはSCR-Tech LLC v. Evonik Energy Servs, LLC, (N.C. Super. Ct. Aug. 13, 2013)など。あとはRestatement (Third) Law Governing Lawyers, §73
comment d参照。
© 2015 CEONGSU AN 22
? ① 「弁護士(Attorney)」と「依頼者(Client)」 間における
OK ② 「 コミュニケーション(Communication)」であって
OK ③ 「法的助言(Legal Advice)」に関連してなされたもので
OK ④ 「秘密性を保持(in confidence)」してなされたものであり
? ⑤ 秘匿特権が「放棄(Waive)されていない」もの。
親会社と子会社との関係による。
考え方は2つ。
Common Interest Privilegeの代表判例等
• SCOTT PAPER CO. v. CEILCOTE CO., INC 103 F.R.D. 591 (D. Me. 1984)
• Duplan Corporation v. Deering Milliken, Inc. (D.S.C. 1975)
• Insurance Co. of North America v. Superior Court (GAF Corp.) (1980)
• Restatement of the Law (3d) of the Law Governing Lawyers §126(1)
(Proposed final draft, 1996)
• United States v. United Shoe Machinery Corp. 391 U.S. 244 (1968)
“The key concept here is need to know. While involvement of an
unnecessary third person in attorney-client communications destroys
confidentiality, involvement of third persons to whom disclosure is
reasonably necessary to further the purpose of the legal consultation
preserves confidentiality of communication. ”
© 2015 CEONGSU AN 23
NPEから訴訟提起を受けたライセンシーがライセンサーとコミュニ
ケーションをとりたい場合、秘匿特権を活用する方法はあるの?
1.先ほどの「共通の利益」をもって秘匿特権を主張する(Common Interest Privilege) (*1)
2.双方の当事者が実際に被告である場合、または被告となることが予期される場合は、「双方で防御する」から双方で情報共
有するのは、「法的助言」の促進になる、という考え方をもって秘匿特権を主張する(Joint-Defense Privilege) (*2)
⇒実際には、この2つは同じ“Common Interest Privilege”として論じられることもある。
“Common Interest”があるか否かの基準としては、州によって双方当事者が”identical interest”を保有していることを必
要としたり(NY州など)、または”substantially identical interest”を保有していればよい、とする州(デラウェア州など)
もある。いずれにせよ、Common Interest Agreementの締結が必要とすることが多い。
*1 ライセンサーとライセンシーとのコミュニケーションがCommon Interest Privilegeによって秘匿された事案としては、 IN RE REGENTS OF UNIVERSITY OF CALIFORNIA 101 F.3d 1386 (Fed.
Cir. 1996) が有名。ただしこのケースでは、ライセンシーは独占的ライセンスが許諾されている。
*2 リーディングケースとしては、TRANSMIRRA PRODUCTS CORP. v. MONSANTO CHEMICAL COMPANY 186 F. Supp. 270 (S.D.N.Y. 1960)
© 2015 CEONGSU AN 24
? ① 「弁護士(Attorney)」と「依頼者(Client)」 間における
OK ② 「 コミュニケーション(Communication)」であって
OK ③ 「法的助言(Legal Advice)」に関連してなされたもので
OK ④ 「秘密性を保持(in confidence)」してなされたものであり
? ⑤ 秘匿特権が「放棄(Waive)されていない」もの。
考え方は2つ。
(同じく弁護士に確認すべき)
メールの下書きって、同じ内容のメールが弁護士に送られていれ
ば、送られていないメールの下書きも秘匿特権の対象?
• 理論上は秘匿特権の対象となり得る。
• しかし、実際はメールの下書きが保存された際に宛先の記
載がなかったり、Privilegeといった表記がなされていない場
合は、気づかないうちに相手方に開示される恐れがある。
• 下書きのままで弁護士に送られなければ、コミュニケーション
とはいえないので、秘匿特権の対象とならない。
⇒In re Google, Inc. (decided 6/Feb/2012)がリーディングケース。
© 2015 CEONGSU AN 25
参考文献
• 土井悦生, 田邊政裕 『米国ディスカバリの法と実務』(発明推進協会, 2013)
• 関戸麦 『日本企業のための米国民事訴訟対策』(商事法務, 2010)
• 守本正宏 『日本企業のディスカバリ対策 世界と対等に戦うためのeディスカバリの正しい手順』(グローバル
トライ, 2013)
• Edna Selan Epstein, The Attorney-Client Privilege and the Work-Product Doctrine,
(5th ed. 2007)
• The Attorney-Client Privilege in Civil Litigation: Practicing and Defending
Confidentiality (American Bar Association; 5th ed. 2013)
• Mueller, Kirkpatrick, Evidence Under The Rule—text, case, and problems (7th ed.)
• e-Discovery Desk Book (edited by Covington & Burling LLP.)
• Todd Presnell, FAQs—The In-House Attorney-Client Privilege (2014)
© 2015 CEONGSU AN 26

More Related Content

What's hot

Parafusos aula 2
Parafusos aula 2Parafusos aula 2
Parafusos aula 2Luis Dias
 
3 regulación secundaria - agc
3   regulación secundaria - agc3   regulación secundaria - agc
3 regulación secundaria - agcomardavid01
 
Caldeiraria - Traçado Quadrado para Redondo
Caldeiraria - Traçado Quadrado para RedondoCaldeiraria - Traçado Quadrado para Redondo
Caldeiraria - Traçado Quadrado para RedondoKleyton Renato
 
Introdução a ciencias dos materiais.pptx
Introdução a ciencias dos materiais.pptxIntrodução a ciencias dos materiais.pptx
Introdução a ciencias dos materiais.pptxRobertaCorra9
 
Curso de-comandos-eletricos-e-simbologia
Curso de-comandos-eletricos-e-simbologiaCurso de-comandos-eletricos-e-simbologia
Curso de-comandos-eletricos-e-simbologiaAntonio Carlos
 
Ch17 metal powders Erdi Karaçal Mechanical Engineer University of Gaziantep
Ch17 metal powders Erdi Karaçal Mechanical Engineer University of GaziantepCh17 metal powders Erdi Karaçal Mechanical Engineer University of Gaziantep
Ch17 metal powders Erdi Karaçal Mechanical Engineer University of GaziantepErdi Karaçal
 
LIVRO JOAO MAMEDE INSTALAÇÕES ELETRICAS.pdf
LIVRO JOAO MAMEDE INSTALAÇÕES ELETRICAS.pdfLIVRO JOAO MAMEDE INSTALAÇÕES ELETRICAS.pdf
LIVRO JOAO MAMEDE INSTALAÇÕES ELETRICAS.pdfEMERSON EDUARDO RODRIGUES
 
3 técnicas de polimerização julho 2014 (1)
3 técnicas de polimerização   julho 2014 (1)3 técnicas de polimerização   julho 2014 (1)
3 técnicas de polimerização julho 2014 (1)Stephanie Rodrigues
 
5 apostila de eletricista predial
5 apostila de eletricista predial5 apostila de eletricista predial
5 apostila de eletricista predialRicardo Akerman
 
ELEMENTOS DE MAQUINAS REBITES
ELEMENTOS DE MAQUINAS REBITESELEMENTOS DE MAQUINAS REBITES
ELEMENTOS DE MAQUINAS REBITESordenaelbass
 
17 06-2011 17-53-tubulacoes_industriais_-_fundamentos (2)
17 06-2011 17-53-tubulacoes_industriais_-_fundamentos (2)17 06-2011 17-53-tubulacoes_industriais_-_fundamentos (2)
17 06-2011 17-53-tubulacoes_industriais_-_fundamentos (2)Jupira Silva
 
Projeto mecânico de vasos de pressão e trocadores de calor
Projeto mecânico de vasos de  pressão e trocadores de calorProjeto mecânico de vasos de  pressão e trocadores de calor
Projeto mecânico de vasos de pressão e trocadores de calorFcoAfonso
 
ETAP - Armónicos (harmonics)
ETAP - Armónicos (harmonics)ETAP - Armónicos (harmonics)
ETAP - Armónicos (harmonics)Himmelstern
 
Apostila tubulação
Apostila tubulaçãoApostila tubulação
Apostila tubulaçãocarfontana
 
9 correcao-do-fator-de-potencia-e-instalacoes-de-capacitores
9 correcao-do-fator-de-potencia-e-instalacoes-de-capacitores9 correcao-do-fator-de-potencia-e-instalacoes-de-capacitores
9 correcao-do-fator-de-potencia-e-instalacoes-de-capacitoresJosé Rodrigues
 
Projeto de um tanque de armazenamento atmosférico com teto flutuante para est...
Projeto de um tanque de armazenamento atmosférico com teto flutuante para est...Projeto de um tanque de armazenamento atmosférico com teto flutuante para est...
Projeto de um tanque de armazenamento atmosférico com teto flutuante para est...Rodrigo Flores
 

What's hot (20)

Parafusos aula 2
Parafusos aula 2Parafusos aula 2
Parafusos aula 2
 
3 regulación secundaria - agc
3   regulación secundaria - agc3   regulación secundaria - agc
3 regulación secundaria - agc
 
Caldeiraria - Traçado Quadrado para Redondo
Caldeiraria - Traçado Quadrado para RedondoCaldeiraria - Traçado Quadrado para Redondo
Caldeiraria - Traçado Quadrado para Redondo
 
Introdução a ciencias dos materiais.pptx
Introdução a ciencias dos materiais.pptxIntrodução a ciencias dos materiais.pptx
Introdução a ciencias dos materiais.pptx
 
Curso de-comandos-eletricos-e-simbologia
Curso de-comandos-eletricos-e-simbologiaCurso de-comandos-eletricos-e-simbologia
Curso de-comandos-eletricos-e-simbologia
 
Ch17 metal powders Erdi Karaçal Mechanical Engineer University of Gaziantep
Ch17 metal powders Erdi Karaçal Mechanical Engineer University of GaziantepCh17 metal powders Erdi Karaçal Mechanical Engineer University of Gaziantep
Ch17 metal powders Erdi Karaçal Mechanical Engineer University of Gaziantep
 
Padrão ampla
Padrão amplaPadrão ampla
Padrão ampla
 
LIVRO JOAO MAMEDE INSTALAÇÕES ELETRICAS.pdf
LIVRO JOAO MAMEDE INSTALAÇÕES ELETRICAS.pdfLIVRO JOAO MAMEDE INSTALAÇÕES ELETRICAS.pdf
LIVRO JOAO MAMEDE INSTALAÇÕES ELETRICAS.pdf
 
3 técnicas de polimerização julho 2014 (1)
3 técnicas de polimerização   julho 2014 (1)3 técnicas de polimerização   julho 2014 (1)
3 técnicas de polimerização julho 2014 (1)
 
5 apostila de eletricista predial
5 apostila de eletricista predial5 apostila de eletricista predial
5 apostila de eletricista predial
 
Polímeros termoplasticas
Polímeros termoplasticasPolímeros termoplasticas
Polímeros termoplasticas
 
ELEMENTOS DE MAQUINAS REBITES
ELEMENTOS DE MAQUINAS REBITESELEMENTOS DE MAQUINAS REBITES
ELEMENTOS DE MAQUINAS REBITES
 
17 06-2011 17-53-tubulacoes_industriais_-_fundamentos (2)
17 06-2011 17-53-tubulacoes_industriais_-_fundamentos (2)17 06-2011 17-53-tubulacoes_industriais_-_fundamentos (2)
17 06-2011 17-53-tubulacoes_industriais_-_fundamentos (2)
 
Projeto mecânico de vasos de pressão e trocadores de calor
Projeto mecânico de vasos de  pressão e trocadores de calorProjeto mecânico de vasos de  pressão e trocadores de calor
Projeto mecânico de vasos de pressão e trocadores de calor
 
ETAP - Armónicos (harmonics)
ETAP - Armónicos (harmonics)ETAP - Armónicos (harmonics)
ETAP - Armónicos (harmonics)
 
Apostila tubulação
Apostila tubulaçãoApostila tubulação
Apostila tubulação
 
9 correcao-do-fator-de-potencia-e-instalacoes-de-capacitores
9 correcao-do-fator-de-potencia-e-instalacoes-de-capacitores9 correcao-do-fator-de-potencia-e-instalacoes-de-capacitores
9 correcao-do-fator-de-potencia-e-instalacoes-de-capacitores
 
Deflexión y flecha
Deflexión y flechaDeflexión y flecha
Deflexión y flecha
 
Projeto de um tanque de armazenamento atmosférico com teto flutuante para est...
Projeto de um tanque de armazenamento atmosférico com teto flutuante para est...Projeto de um tanque de armazenamento atmosférico com teto flutuante para est...
Projeto de um tanque de armazenamento atmosférico com teto flutuante para est...
 
Caldeiras
CaldeirasCaldeiras
Caldeiras
 

弁護士依頼者秘匿特権(Attorney Client Privilege)って一体何なのさ?