ベトナム・Vinicorp社:日本からのオフショア開発受託企業

1,511 views

Published on

Published in: Education
0 Comments
0 Likes
Statistics
Notes
  • Be the first to comment

  • Be the first to like this

No Downloads
Views
Total views
1,511
On SlideShare
0
From Embeds
0
Number of Embeds
4
Actions
Shares
0
Downloads
9
Comments
0
Likes
0
Embeds 0
No embeds

No notes for slide

ベトナム・Vinicorp社:日本からのオフショア開発受託企業

  1. 1. 日本からのオフショア開発受託企業 -ベトナム・Vinicorp 社 http://www.vinicorp.com.vn/ - 中原 裕美子 【要旨】 最近、ソフトウェア技術者の不足とコスト削減という観点から、途上国企業にオフショア開発の委託を行う日本企業が増加している。その委託先として、中国、インドに加え、増加してきているのがベトナムである。 そういったベトナム企業の一つ、Vinicorp 社は、日本での留学経験及び日本企業での就労経験を持つ 3 名により起業された企業である。インドの大手企業にはない、日本の慣習を受け入れる寛容さを最大の武器としている。一方で、中間管理職層の手薄さから、規模拡大を控えている。こういったベトナムの中小企業は、日本からのオフショア開発受託において、インド大手とは競合せず、棲み分けて行くと考える。I. はじめに 最近、日本企業の間では、ソフトウェア技術者の不足とコスト削減という観点から、途上国企業にオフショア開発委託を行うことが増加している。独立行政法人情報処理推進機構IT スキル標準センター[2008a]の推計によれば、2006 年には、その金額は 901 億円にものぼる(p.108) その委託先として、中国、インドに加え、最近増加しているのがベトナムである。 2008 年 8 月 26 日、ベトナム、ハノイにおいて、Vinicorp 社という、日本からオフショア開発受託企業を訪問する機会を得た。その訪問記録と若干の解題を、研究ノートとしてまとめておく。II . Vinicorp 社概要本章では、Vinicorp 社の概要、ボードメンバーの略歴、業務内容などを見ていく。1.概要と所在地 Vinicorp 社は、2007 年 5 月 4 日、日本留学経験者 3 名により企業された。正式の会社名はViet Nhat General Joint Stock Company である。 会社所在地は 3Floor, Hoang Ngan Street, Cau Giay, Ha Noi である。ハノイ東部の旧市街と西部の新都心のちょうど境目の、韓国企業や台湾企業などの外資が数多く入居する8階建てのビルにある。創業当時は、現在のオフィスから見える新都心の高層マンションの 1室を借りたが、2007 年 12 月に現在のオフィスに引っ越した。 ボードメンバーは、代表取締役社長及び CEO がドァン・マン・クォング(Doan Manh
  2. 2. Cuong)氏、取締役副社長及び副社長がチャン・シュアン・ホア(Tran Xuan Hoa)氏、そして副社長兼東京支社長のグエン (Xa Nguyen)氏である。 資本金は 15 万アメリカドル、2008 年 8 月現在、従業員は 25 名である。従業員の平均年齢は28 歳と若い。2.ボードメンバー 3 名の略歴 ボードメンバーの 3 名は、ベトナムから日本に、日本の文部科学省の国費留学生として来日した同期である。 代表取締役社長及び CEO のクォング氏は 1976 年生まれ、ハノイ交通通信大学に 1 年半在学した後、1996 年に国費留学生として来日、熊本電高専に 3 年次編入した。その後豊橋科学技術大学の 3 年次に編入した。さらに、2002 年 4 月、東京大学大学院の情報理工学系研究科修士程に入学し、2004 年に修了した。その後、株式会社日立コミュニケーションズに入社し 、3 年間勤務した後、2007 年に帰国して起業した。 取締役副社長および COO のホア氏は、同じく 1976 年生まれ、ハノイ工業大学に 1 年半在学後、同じく 1996 年に国費留学生として来日、三重県の鳥羽商船高専に 3 年次編入した。その後電気通信大学の 3 年次に編入、2004 年に電気通信大学大学院修士課程修了後、株式会社日立製作所に入社した。クォング氏と同く、3 年間の勤務の後、2007 年に帰国して起業した。 副社長及び東京支社長のグエン氏も、同じく 1976 年生まれ、ホーチミン工業大学に 1 年半在学後、同じく 1996 年に国費入学生として来日、島根県の松江高専に 3 年次編入した。その後電気通信大学に進み、2004 年に電気通信大学大学院修士課程修了後、株式会社東芝モバイルに入社した。現在は、東京支店長として東京に在住している。3.業務内容Vinicorp 社の業務内容は、現在のところ、日本企業からのオフショア開発がほとんどである。受注内容としては、 系のアプリケーション、 Web パソコン系のアプリケーション、 などで ERPある。 作業の進み方は、以前の通りである。 まず、Vinicorp 社の窓口となるコーディネイター(日本での留学・就労経験のあるボードメンバーの 3 名が当たる)が日本企業との仲介を行う。 そして、社内の翻訳チーム・設計チーム・コーディングチーム・品質管理チームが分担して業務を遂行する。翻訳チームには、ハノイの大学の日本語学科を卒業した者もいる。 また、ボードメンバーは、流暢な日本語を生かし、本業とは別に、日本語・ベトナム語の通訳業務も請け負っている。通訳業務は、東京の海外調査請負企業、ホーチミンの通訳業務請負企業などから受注している。最近では、2008 年 8 月に、関東のある大学の研究者からの依頼で、政府機関訪問調査及び農村視察に同行し、アテンド及び通訳業務を行った。
  3. 3. 4.日本向けオフショア開発受託実績日本向けオフショア開発は、現在までで 6 案件が完了した。それらは以下の通りである。 第 1 表 Vinicorp 社の創業以来の日本向けオフショア開発壽受託実績 案件概要 開発期間 規模 環境病院向け顧客・従業員・薬品管 長期 6 人/月 Java、Oracle理システム開発 (計 72 人/月)大手生命保険会社向けの管理シ 3 ヶ月 12 人/月 Java、SQL Serverステム開発SNS システム(Web2.0)向けの検 7 ヶ月 25 人/月 PHP、MySQL索エンジン強化開発プロジェクト・リソース管理シ 3 ヶ月 16 人/月 PHP、MySQLステム開発大手証券会社のファンド情報メ 2 ヶ月 6 人/月 Java、Oracleンテナンス開発エステサロン検索システム開発 3 ヶ月 16 人/月 PHP、MySQL出所)Vinicorp 社へのヒアリングに基づき筆者作成また、現在、4 案件が展開中である。III . 業務の進め方本章でが、Vinicorp 社の業務の進め方を見ていく。1.日本の顧客とコミュニケーションの方法 日本の顧客とのコミュニケーションは、ボードメンバーの 3 名がコーディネイターとして当たる。主として東京支社のグエン副社長が対応することが多いが、本社より、クォング社長、ホア副社長が出張することもある。 また、高性能のテレビ会議のシステムを備え、日本の顧客とは毎週テレビ会議を行うことで、密接な意思疎通を図っている。これは、電話会議システムは異なる、ADSL 回線を利用したIP ベースのテレビ会議システムなので、電話代が不要である。2.セキュリティ管理日本の顧客の要求により、顧客の情報の守秘のため、出入りを制限した作業質を設けている。入り口にカードリーダーを設け、その開発プロジェクトのメンバーしか入れないように入
  4. 4. 室を制限しているのである。入室できるかどうかの厳しさは、プロジェクトの守秘性の度合いによる。また当該の部屋にトイレを設けることで、出入りを最小限に制限している。3.日本語教育方法従業員には、夕方から日本語学校に勉強に行かせている。その費用は会社負担である。しかし、 に関する専門用語は、 IT 社外の日本語学校で習得することが難しいため、日本語のできるボードメンバーが、社内で社員に直接教えている、という。IV . インド企業に対するアドバンテージ最近では、インフォシスやウィプロ、 といった大手のインド企業も、 TCS 日本に支社を設け、日本からのオフショア開発受託を進めている。それらインド企業に対する、Vinicorp 社のアドバンテージは 2 点あるという。 第一に、 人のボードメンバー全員が日本企業で就労していた経験があるため 3 、 「詳細な 仕様書を出さない」 「口頭で仕様変更を伝える」といった、日本独特のビジネス習慣をよく理 解し、それに合わせた対応が可能なことである。Vinicorp 社は、日本の顧客に対し、インド企業のように、詳細な仕様書を要求したりしないほか、口頭での仕様変更もある程度受け入れる。その際、一日程度で対応できる仕様変更であれば、その分の費用は請求しない、という。顧客からは要件定義のみ受け取り、基本設計書、詳細設計は全て Vinicorp 社で行ったという事例もある。 第二に、低価格である。インド企業と言っても価格はさまざまであるが、Vinicorp 社のオフショア開発受注価格は、インド企業の平均の約 50%であるという。V. 今後の事業展開 Vinicorp 社の今後の事業展開に関する計画は、以下のようなものである。 引き続き、日本向けのオフショア開発(病院・金融・ERP システム)受託を強化していく。そして、品質管理プロセスを完成し、社員全員がこのプロセスの必要性を理解し共有するまでにもって行きたいという。 また、創業以降、従業員を増やしてきたが、意外なことに、今後はあまり従業員を増やさないつもりだという。人数を増やして大規模化を目指すのではなく、コーディングという低付加価値の工程を別のベトナム企業に外注して、設計という、より高付加価値の工程に特化していくことで、利益率を高めていく戦略である。そしてそのためには、ベトナム国内で信頼できる外注先を探すことが重要という。 また、これも意外なことであったが、今後は、日本からのオフショア開発受託のみならず、ベトナムで IT ソリューションを提供することにも重点を置いていく計画であるという。内容としては、オフィスビル・向上/銀行など入退出管理システムおよび高度監視カメラシステム、金融機関及び病院などの ERP システム、携帯電話用の電波拡張ソリューションなど
  5. 5. を予定している。 まずベトナム国内の日系企業に対し、以上のようなソリューションを提供し、次に、ベトナムの国営・民営企業に対して、Vinicorp 社が蓄積してきた日本独特のソリューションを協会し、場合によりメンテナンスと技術サポートを担当していきたいという。 Vinicorp 社が日本からオフショア開発受託のみに特化せず、ベトナム国内でのソリューションにも事業を広げていく理由は、第一に、日本からのオフショア開発受託のみに特化していると、成長が限られるからである。そして、第二に、海外で修士号を取り、海外企業での就労経験もあるので、ベトナムではまだ貴重な多くの技術とノウハウを持っているため、その技術とノウハウをベトナムのために生かして行きたいと考えるからである。これはボードメンバー 3 人に共通した考えであり、国費留学生である以上、国のために尽くしたいという思いが強いという。 また、ベトナム市場での投資コンサルタントとしての活動も予定している。そして、今後は、日本世及びベトナム企業との資本提携なども考えているという。VI . むすびにかえて 以上、Vinicorp 社という、日本からのオフショア開発受託を行っているベトナム企業についてまとめてきた。最後に、むすびにかえて、若干の解題を付しておく。 筆者はインフォシステクノロジー、ウィプロ、TCS(タタ・コンサルタンシー・サービシズ)という、日本からのオフショア開発受託を行っているインドの大手企業 3 社の日本支社にもヒアリングを行って来た。 これらインド企業は、これまでアメリカやヨーロッパ企業を顧客として業務を行ってきており「最初に詳細な仕様書を受け取り、 、 それに沿って開発」という方法を取っている。 従って、そのインド企業も昔「日本企業は詳細な仕様書を出さない「仕様変更を口頭で伝 え 、 」てくる」 日本と口説くのビジネス習慣に壁を感じ「最初に仕様書をきっちり作る」 い と、 、 とう、彼らの考えるところの「グローバルスタンダード」を日本企業に伝えようと腐心していた。 一方で、ある日本企業のパソコン開発部門のソフトウェア担当課長は、筆者の「途上国企業にオフショア開発の委託はしているのか、また今後する予定はあるか」との質問に対し、「していない。また、当面するつもりもない」と断言した。その理由を問うと、[確かにコストは安いかも知れないが、最初にきっちりした仕様書を出せと言われても困る。今委託している日本国内のソフト会社だと、電話で『ちょっと変えてよ』と依頼する、といった。 『なあな あ』の付き合いができるので、そのやり方は通用しない海外企業に委託するとなると、業務のやり方を根本的に見直さなければならないからだ]との回答であった。つまり、最初にきっちり仕様を決定し詳細な仕様書を作成して業務委託をする、という方法にはなじめないことを明言していた。
  6. 6.  日本企業とインド企業の間にそういった溝がある中で、日本での留学経験及び日本企業での就労経験を生かして起業されたベトナムの Vinicorp 社は、日本の習慣を受け入れる寛容さを最大の武器としている。上述の日本企業のパソコン開発部門のソフトウェア担当課長の言うところの「なあなあ」の付き合いができる相手を求める企業にとっては、極めて仕事がやりやすい相手であろう。一方で、Vinicorp 社のボードメンバーは、これ以上の企業規模の拡大は行わないという。それはおそらく、中間管理職層が手薄なために、起業規模の拡大には慎重になっているからではないかと思われる。現在の規模であれば、ボードメンバー 3 人が社員を直接マネジメントすることが可能であるが、これ以上の規模になると、信頼できる中間管理職層が必要となる。こうした人材を育成していくには時間がかかるし、ベトなうでは社外から採用するおも難しいのではないだろうか。従って、大手のインド企業が受託しているような、金融機関のシステムを丸ごと開発するような大規模な案件の受託は難しいであろう。そのため、大手インド起業の競争相手になることはないのではないかと思われる。 従って、インドのおうて企業と、Vinicorp 社のようなベトナムの中小企業は、日本からのオフショア開発受託業務において、競合せず、棲み分けて行くのではないだろうか。謝辞お忙しい中訪問を受け入れてくださった、Vinicorp 社のクォング社長、ホア副社長のご協力に感謝申し上げます。http://www.vinicorp.com.vn/

×