Advertisement
Advertisement

More Related Content

Recently uploaded(20)

Advertisement

GP05.pdf

  1. GL05 ベーシック:国家はなぜ必要なのか?(II) グローバル政治論(GlobalPolitics,tcue2022) 福原正人(nonxxxizm@icloud.com) 1/22
  2. 対立軸: 近代以前:国家(神)→個人/近代以降:国家←個人 ・王権神授説 国家権力は「神的権威」に基づく (神様がえらいので王様の権力には従わなければならない) →国家権力の「絶対性」 ・社会契約論 国家権力は「個人の同意」に基づく (みんなが納得した国家の権力だから従わなければならない) →国家権力の「条件性」 復習1:国家はなぜ必要なのか 2/22
  3. 基本的な主張: 国家権力は経済的自由を守るため ☞経済的自由とは? a.自己所有、b.私的所有、c.市場での契約 ・国家権力は最低限 e.g.警察権、司法権、その他のライフライン →「夜警国家」○ ・市場重視で国家による介入には批判的 社会保障のための再分配を認めない →「福祉国家」× 復習2:リバタリアニズム 1 1.公共財については論者によって違いがある。 3/22
  4. C.ロナウドは社会保障のために税金を支払うべきか ・C.ロナウドは素晴らしいフットボールプレイヤーである ・ファンはロナウドのプレイを観るために喜んでチケット代を払っている ・ロナウドはこのチケット代の一部を得ることで経済的に成功した ・ロナウドが暮らす社会では経済格差が広がっているとする 1.ロナウドは経済格差を是正する国家に税金を支払う義務がある 2.ロナウドは慈善による寄付をしたらよいし税金を支払う義務はない リバタリアニズムを検証してみよう 2 2.ノージックは当時のアメリカで有名なバスケットボール選手を引き合いに出している(R.ノージック『アナーキ ー・国家・ユートピア』木鐸社)。 4/22
  5. ノージックによる議論 A.プレイヤーとファンの自由な取引→プレイヤーによる利益総取り B.市場プレイヤーの自由な取引→市場プレイヤーによる利益総取り →Aが問題ないならBも問題ないcf.類推(analogy) ・経済格差はよくないという直観はノージック批判にならない ・類推は失敗していると批判する必要がある →ここでは自由の条件に注目してノージック批判を考えてみたい ノージックによる議論とその批判 3 3.関連する論点としてnotion上の資料1を参照のこと。 5/22
  6. 概念の導入: 「人生の見通し(lifeprospect)」 →自分の人生にどれだけの/どのようなチャンスを期待できるのか? (1)自然的偶然性:生まれの才能や障碍(が現在の市場にマッチするか) (2)社会的偶然性:性別、人種、階層、両親など (3)予測不可能な偶然性:病気や事故、不況による失業、自然災害 →人生の見通しは(1)・(2)に関わる生まれの問題から影響を受ける 論点:自由の条件として「生まれの問題」 4 4.人生の見通しという概念についてはJ.ロールズ『正義論』§11や『公正としての正義・再説』§16.1を参照。 6/22
  7. 事例1:父親の学歴と子供の学歴(男性)5 5.このグラフを含めた続く三枚のスライドのグラフは松岡亮二『教育格差:階層・地域・学歴』ちくま新書から。7/22
  8. 事例2:父親の学歴と子供の学歴(女性) 8/22
  9. 事例3:出身地と学歴(男性) 9/22
  10. 事例4:家庭の豊かさと学歴(男性・女性) 10/22
  11. リバタリアニズムの言い分 「経済格差は自由な取引の結果なんだから文句ないだろ」 ↑ 批判「人生のスタート地点は生まれによってかなり違うだろ」 ☞自然的・社会的偶然性は人生の見込みに影響を与えている e.g.両親の収入や社会階層⇄高等教育へのアクセス、経済的成功 e.g.生まれの人種⇄医療へのアクセス(e.g.平均寿命、感染症の罹患率) まとめ(1) 6 7 6.両親の収入や社会階層が子供の高等教育へのアクセスや経済的成功に影響を与えることは経験的研究をもって実 証されている。アメリカのアイビーリーグ(8つの有力私立大学総称)の学生の3分の2程度の家族は所得規模上位 20%にあると言われている。とりわけ日本の事例を検討する社会学研究として松岡亮二『教育格差』を参照。 7.日本でも健康格差として指摘されつつあるが、例えばアメリカでは生まれの人種が平均寿命やコロナウイルス感 染症死亡率などと関連していることが指摘されている。社会正義としての健康格差を論じるものとして、マイケ ル・マーモット『健康格差』日本評論社を参照のこと。 11/22
  12. 社会的平等とリベラリズム(自由主義) 1. J.ロールズの正義論とその議論 2. リベラリズムとその国家像 3. リベラルな正義は国境を越えるべきか 今週のベーシック:国家はなぜ必要なのか? 8 8.厳密にいうとリバタリアニズムも個人の自由を尊重する点において広義のリベラリズムである。しかし、産業革 命以降に土地所有者以外の労働者の社会生活が問題になるなかで、リベラリズムは後述するように手厚い社会保障 をカバーする福祉国家を擁護する立場として理解されるようになる。現代でもリベラリズムはそういった文脈で理 解されることから、リバタリアニズムはこの意味とは区別された「古典的リベラリズム」と呼ぶことがある。 12/22
  13. 特徴: 社会権を重視する自由主義的な国家観 1. 自由の条件として「社会権」を重視する ☞社会権とは? 個人が社会のなかで人間らしい生活を暮らすための権利の総称 e.g.雇用、教育、生存に関わる諸権利 2. 自由とともに社会の平等も重要な価値である 3. 何をもって平等であるのかは極めて論争的なテーマ、現実社会でも問題 リベラリズムの基本的な特徴 13/22
  14. 代表論者:J.ロールズ 『正義論』(1971年) →自由とともに平等も重要な価値であるこ ととその根拠を体系的に論じた研究 「正義の二原理」の提示 →とくに社会権に該当する第二原理は、功 利主義やリバタリアニズムは擁護できない 私たちには社会権に該当する第二原理に 同意する理由がある J.ロールズの登場 14/22
  15. 第一原理:基本的な権利 基本的な自由の保障 第二原理:経済格差が認められる条件 (a)公正な機会均等 職業や地位への公正な機会を保障すること (b)格差原理(thedifferenceprinciple) 社会の中で最も恵まれていない人々の暮らしぶりを改善すること 正義の二原理 9 10 9.基本的自由は、現在の自由民主主義諸国で認められている標準的な市民的・政治的権利、例えば選挙権や公職に 就く権利、適切な手続きによる裁判、言論の自由、居住・移動の自由などを意味する(『正義論』§11) 10.機会均等は『正義論』§14、格差原理は『正義論』§13。ロールズはこの原理を可能にする課税制度として、累 進税率に基づく相続税と贈与税、消費税を提案している。各課税制度がその社会にとって公正であるのかについて はもう少し検討する必要があるが、例えば伊藤恭彦『タックス・ジャスティス:税の政治哲学』風行社を参照。15/22
  16. J.ロールズの問題意識 正義は同じ条件で選択しないと不公正である ・正しい社会(国家権力)はみんなが納得したものでなければならない ・どんな社会に納得するかは個人の直観によってバラバラ ☞現在の境遇は納得する社会とその原理の選択に影響を与える cf.成功が期待できる人は自分に有利なリバタリアニズム等を選択しがち ☞現在の境遇は(部分的に)自然的・社会的偶然性に影響を受けている ・正義はこの偶然性からの影響を遮断した条件で選択されるべき 平等はなぜ重要であるのか(1) 16/22
  17. J.ロールズの提案 正義は生まれの境遇が分からない条件で選択せよ (1)原理選択の条件設定 ・一般的な条件○ 人間や社会がどういうものかe.g.財の希少性、協働の必要性 ・個別的な条件× 生まれの境遇は分からない cf.「無知のヴェール」 (2)原理選択の根拠 自分の生まれの境遇が分からないなら、不利な境遇に生まれても自分の人 生に期待できる平等な社会とそのための負担を分かち合うことに同意 平等はなぜ重要であるのか(2) 17/22
  18. J.ロールズ「正義の二原理」とは? 1.基本的な自由の保障 2.市場で活躍する意欲や能力のある人々に平等な機会を与える e.g.雇用における機会均等、公立高校・大学の創立と補助 3.現在の市場的価値にマッチしない人々への社会保障 正しい社会はいまのあなたにとって得になるという視点ではなく、どん なひとにとっても理に適っているという視点で検討されるべき 社会のなかの恵まれていない人々の暮らしぶりを踏まえざるをえない条 件を設定することで正しい制度設計とその根拠を説明する まとめ(2a) 11 11.この根拠は現実の同意ではなく仮説的な同意に基づく。この点についてはnotion上の資料2を参照のこと。 18/22
  19. ロールズ正義論とその批判 J.ロールズは何をしたのか? 正義原理を選択する当事者の能力や知識、そして選択状況について理想的 な条件を設定することでこの原理を演繹する推論モデルの提示 ☞批判 ・理想化の適切さ:ロールズの条件設定は適切なモデルであるのか? ・結論の再現性:われわれは本当に正義の二原理に同意するのか? まとめ(2b) 12 12.ロールズは、自分の境遇が分からない場合、原理選択の当事者は「最悪の状態が最もマシなものを選択する(= マキシミアン・ルール)」という合理性に基づいて正義の二原理を採択すると主張する(『正義論』§26)。しか し本当にそうなのか。 この点を功利主義から批判するものとして、Harsanyi, J. C. (1975). Can the maximin principle serve as a basis for morality? A critique of John Rawls's theory. APSR 69(2):594-606を参照。なお 昨今では、社会心理学などでの人間の判断や直観に関する実験やデータ分析に基づいてわれわれが哲学者が設定し た原理選択の条件下で実際にどういった選択を行うのかを明らかにする実験政治哲学と呼ばれる分野もある。 19/22
  20. ・経済格差を是正するとき、あらゆるものをすべて均等にせよと考えてい る理論家はいない ・どういった根拠で何をどれくらい平等化するべきのかという問題を考え なければならない 1. 平等は、積極的に格差を是正することなのか、それとも全員が一定水準 以上の暮らしを保障することなのか。 2. 例えば子育て支援は認められるべきなのか。その際に所得制限はどのよ うな根拠で行われるべきなのか。 3. 社会保障を設計する際に自己責任をある程度は問うべきなのか 4. 障碍者に対しては健常者に保障される権利の他に特別な支援が行われる べきなのか。 論点1:平等とは何なのか? 20/22
  21. 論点2:正義の二原理はグローバルに適用されるべきか?13 13.宇佐美誠(他)『正義論:ベーシックスからフロンティアまで』法律文化社から 21/22
  22. GL06 ケース・スタディ:グローバルな格差原理と医薬品市場 グローバル政治論(GlobalPolitics,tcue2022) 福原正人(nonxxxizm@icloud.com) 22/22
Advertisement