VUCAを乗り越えるための
自己効力感尺度の開発
徳吉 陽河 YOGA TOKUYOSHI
日本心理学会 2024 第88回学術大会(熊本城ホール)
Development and validity of the
Self-efficacy scale to overcome
VUCA(VUCA-OSES)
Key words: VUCA, Self-efficacy, Scale 【1C-098-PN】
目的と背景
VUCAとは,「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不
確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖
昧性)」で構成された造語で,主に不安定であり,不確
実,複雑で曖昧な状況を示す。
VUCAは軍事用語に由来し,冷戦後の複雑化した国際
情勢における複雑さ,不透明さを示す言葉として使用さ
れた。現代では,変化の激しい時代において,あらため
てVUCAが注目され,「未来の予測が困難な状況」を示
す言葉として,一般的に利用されるようになった。今回
の研究では,そのVUCAを乗り越えるための自己効力感
尺度を開発し,未来の予測が不可能な状況に対して,ど
のように乗り超えていくか,その方法や可能性を探究す
るため,尺度開発を行う。
VUCAを乗り越えるための自己効力感尺度
Self-efficacy scale to overcome
VUCA(VUCA-OSES)
質問項目 質問の内容
変動性
Volatility
変化が激しい状況でも,乗り越えることができる
不確実性
Uncertainty
不確実な状況でも,乗り越えることができる
複雑性
Complexity
複雑な状況でも,乗り越えることができる
曖昧性
Ambiguity
はっきりしない曖昧な状況でも,乗り越えること
ができる
方法 METHOD
• 調査参加者:3122名
(男性1206名,女性1916名)
• 平均年齢 28 歳(SD=12)。
WEB 調査で実施。調査の許可に同意した者
のみ分析を行った。
• 調査対象者は,調査の研究への許可および正
しい回答を宣告した者,回答されたデータか
ら 12歳以上を選択した。重複や明らかに不
適切な回答をしているものを除いた。
心理尺度の構成
VUCAを乗り越えるための自己効力感尺度
(VUCA-OSES)
1因子(合計4項目,5件法)
※↑今回の「目的変数」となる尺度
妥当性の検証に利用した尺度は以下の通り。
①ブリーフレジリエンス尺度日本語版(3項目版)
②The UWES-3(ワークエンゲージメント尺度:Schaufeli et al., 2019)
③2項目版自尊感情尺度(箕浦有希久・成田健一, 2013)
④BigFive+ONE(ビックファイブ性格特性尺度)
⑤日本版主観的幸福感尺度(Subjective Happiness Scale: SHS)
(島井他,2004)
⑥簡易ストレス尺度(5段階評定)など
分析手順
①【確認的因子分析】
②【内的整合性(α係数,ω係数】
③【項目分析】天井・床効果について
【項目反応理論】(Mokken Scale Analysis)
④【尺度の妥当性の確認】相関分析
【結果】
因子数の決定、平行分析・VSS法
◆平行分析
(固有値1.0基準)で分析
1因子が妥当であること
が示された。
◆VSS法
VSS complexity 1
achieves a maximimum
of 0.98 with 1 factors
The Velicer MAP: 0.13
with 1 factors
1因子が妥当であると示
された。
【結果】 確認的因子分析
VUCA-
OSES
VUCAを乗り越えるための自
己効力感尺度
Self-efficacy scale to overcome
VUCA(VUCA-OSES)
GFI = 0.79
CFI = 0.77
RMSEA = 0.18
90%CI(.18, .19)
Table VUCA-OSESにおける基本統計量,
α,ω係数,Hi係数
尺度
平均値
Mean
SD α ω
Ht
(NIRT)
VUCA-
OSES 14 4 .93 .93 .78
注. M : 平均点,SD :標準偏差,Ht 係数は合計のH 係数
Ht係数は、項目反応理論 Mokken Scale Analysis
N=3122 (男性 1206名,女性 1916名)
平均年齢 28 歳(SD=12)
高い信頼性係数と強い項目であることが示された
。
平均・SD及び項目分析
*天井効果および床効果はとくに確認できなかった。
質問項目 平均値 SD 天井効果 床効果
Ambiguity 3.4 1.1 4.5 2.3
Complexity 3.5 1.1 4.6 2.4
Uncertainty 3.5 1.1 4.6 2.3
Volatility 3.5 1.2 4.7 2.3
■項目クラスター分析 Item by Cluster
Structure matrix
Cluster fit = 0.98 Pattern fit = 1 RMSR = 0.03
Item CL
Ambiguity 0.83
Complexity 0.88
Uncertainty 0.91
Volatility 0.85
このICLUST分析では、4つのアイテムから成るクラスタが非常に高い信頼性を持っている
テスト情報量(項目反応理論)
• 総合情報量
= 54.42
• Information in
(-4, 4)
= 54.42(99%)
ほとんどの重要な情報がこの範囲内に含まれていることが示唆された。
項目反応理論 IRCCC
左に示されており、項目が同意されやすい傾向が示されている
性差(t検定,Cohen’s d)
※有意な性差があり、少し女性の方が低い傾向がある
ただし、その効果量は小さい。 (d=0.17, p<.001)
男性
女性
Brief Resilience Scale-Japanese version
(BRS-J)ブリーフ・レジリエンス尺度日本語版 (徳吉・森谷,2015)
• レジリエンスにおける本来の意味である“ス
トレスからの立ち直り” にかかわる簡易的な
レジリエンス尺度。
• 3項目短縮版(α=.88) 5件法で構成。
【質問項目】
Q1 私はつらい時があった後でも,素早く立ち直れる
Q2 ストレスが多い出来事から立ち直るのに長くはかからない
Q3 ささいな問題があっても,たいていやり過ごせる
各尺度(相関分析) VUCA-OSES
レジリエンス(BRS-J) .57
注. 相関係数が.30以上は太字。相関はすべて有意(p<.05)
ユトレヒト・ワークエンゲージメント尺度
The Utrecht Work Engagement Scale(UWES) (Schaufeli et al., 2019)
ワークエンゲージメントの関係を調査するため,ユトレヒト大学のシャウ
フェリ教授らによる ワークエンゲージメント尺度を活用。
ここでは,短縮版である「UWES-3」を活用。3つの質問項目で構成され
ている。 (今回の調査では,3項目 α=.87)
• 1. 【活力(Vigor)】:高いレベルのエネルギーやレジリエンス(逆境
から素早く立ち直る力)、仕事に進んで努力を注ごうと思う気持ち、困
難に直面しても粘り強く頑張ること。
• 2. 【没頭(Absorption)】:仕事に完全に集中、没頭し、時間があっ
という間に過ぎ、仕事と自分自身を分離するのが困難なほど一体感を感
じること。
• 3. 【熱意(Dedication)】:仕事にしっかりと取り組むこと、意義、
熱意、創造的刺激、誇り、挑戦を体感すること。
Schaufeli, W. B., Shimazu, A., Hakanen, J., Salanova, M., & De Witte, H. (2019). An ultra-short measure for work engagement: The UWES-3
validation across five countries. European Journal of Psychological Assessment, 35, 577-591.http://dx.doi.org/10.1027/1015-5759/a000430
ワークエンゲージメントとVUCA-OSESとの相関分析
注. 相関係数が.30以上は太字。相関はすべて有意(p<.05)
VUCA-OSES ワークエンゲージメント
VUCA-OSES --- .49
Ambiguity .89 .40
Complexity .92 .45
Uncertainty .93 .44
Volatility .90 .48
2項目自尊感情尺度TISE(箕輪,2013)
Two-Item Self-Esteem scale (TISE)
2項目自尊感情尺度は、短い2つの
項目で自尊感情を測定するために作成されたもの
である。 評定は5件法。
①自分にはいろいろな良い素質があると思う
②自分のことを好ましく感じる
箕浦有希久,成田健一(2013)2項目自尊感情尺度の開発および信頼性・妥当性の検討.感情心
理学研究,21(1):37-45 18
相関分析 VUCA-OSES
(VUCAを乗り越えるための自己効力感尺度)
自尊感情 TISE .53
注. 相関係数が.30以上は太字。相関はすべて有意(p<.05)
Big5+ONE
※今回利用するBig5のテスト。
【特徴】
5因子+1(各6項目,全36項目)であり,少
ない項目でありながら,すべて,クロンバッ
クは.80以上と信頼性が高い。
①TIPI-Jとの関連性が認められている。
②社会人向けに調査も行っている。
③プラス・アルファで劣等感などに関わる
「自己ギャップ」尺度が付随している。
19
5因子性格モデル Big Five
20
【協調性】
【外向性】
【情緒安定性】
(神経症傾向)
【勤勉性】
(誠実性)
【開放性】
パーソナリティ【Bigfive+】
とVUCA-OSESとの相関係数
注. 相関係数が.30以上は太字。相関はすべて有意(p<.05)
曖昧性
Ambiguity
複雑性
Complexity
不確実性
Uncertainty
変動性
Volatility
VUCA_OSES
合計
外向性 .33 .36 .38 .41 .41
情緒安定性 .38 .40 .39 .39 .43
誠実性 .34 .43 .38 .38 .42
協調性 .21 .20 .23 .27 .25
開放性 .35 .45 .41 .39 .44
自己ギャップ -.47 -.48 -.49 -.49 -.53
主観的幸福感尺度(Subjective Happiness
Scale: SHS) (島井他,2004)
主観的な幸福感に関わる内容を測定できる。
日本版SHS は4 項目,7件法の尺度。今回は
1項目版のみ使用した。
【1項目版】7段階
• SH1. あなたが現在感じている幸福の程度
相関分析 VUCA-OSES
(VUCAを乗り越えるための自己効力感尺度)
幸福感 .37
すべて有意(p<.05)
◆簡易ストレス尺度(5段階)
ストレスについて,簡易的に5段階評定の質問
調査項目を加えて分析を行った。
※ストレスについての5段階とは以下の通り。
(1)全くストレスを感じない
(2)あまりストレスを感じることはない
(3)普通
(4)ストレスを感じることがある
(5)かなりストレスを感じる
相関分析 VUCA-OSES
(VUCAを乗り越えるための自己効力感尺度)
簡易ストレス尺度 -.31 すべて有意(p<.05)
応答曲面法
「レジリエンス」と「ストレス」における「VUCA_OSES」への影響
• 「レジリエンス」と
「ストレス」が
「VUCA_OSES」に与え
る影響を統計的に有意で
あり、複雑な相互作用と
非線形効果が存在するこ
とが示された。
• ストレスが下がり、
レジリエンスが向上する
と、よりVUCAを乗り越
える自己効力感が上昇し
やすい傾向がある。
ストレス
レジリエンス
VUCAを乗
り越える自
己効力感
VUCA-OSESを目的変数とした
重回帰分析(ステップワイズ)
重相関係数 0.71
決定係数(重相関係数の二乗) 0.51
自由度調整済み重相関係数の二乗 0.51
説明変数 偏回帰係数 標準誤差 t値 標準化偏回帰係数 トレランス 分散拡大要因
レジリエンス .33 .02 16.02 .29 .49 2.05
ワークエン
ゲージメント .16 .02 7.67 .13 .56 1.80
開放性 .81 .08 10.39 .16 .68 1.48
自己ギャップ -.53 .07 7.75 -.14 .47 2.14
自尊感情 .23 .03 7.51 .13 .52 1.91
誠実性 .38 .08 4.99 .08 .58 1.72
協調性 .18 .06 3.20 .04 .83 1.21
情緒安定性 .21 .07 3.08 .05 .58 1.71
ストレス .19 .06 3.00 .05 .62 1.62
幸福感 .13 .05 2.94 .05 .66 1.51
定数項 2.22 .59 3.79
考 察
【因子分析】 1因子モデルが提唱された
【項目分析】において、天井・床効果は
認められなかった。
【内的整合性(信頼性)の分析】
【項目反応理論】による結果は良好であ
った。
「信頼性分析」及び「項目反応理論」か
らみて尺度としては,利用できることが
確認された。
VUCA-OSESにおける妥当性の結果と考察
①【 VUCA-OSES 】はレジリエンスと正の相関が認められた。
これにより,立ち上がりにかかわるという仮説は認められた。
②【VUCA-OSES】は,ワークエンゲージメントとの間で正の相
関が認められた。EFBSSは,ワークエンゲージメントに関わるこ
とが示唆された。職場や仕事の支援に役立つ可能性がある。
③【VUCA-OSES】は,自尊感情尺度と正の相関が認められた。
努力が報われるようにすることで,自尊感情が向上することが示
唆された。
④【VUCA-OSES】は,Big5の誠実性、開放性、外向性との間で
正の相関が認められた。VUCAであっても誠実に対応すること重
要であると示された。開放性は創造性に関わることから,VUCA
をのりこえるために創意工夫が大切かもしれない。
主な引用文献
• 箕浦有希久,成田健一(2013)2項目自尊感情尺度の開発および
信頼性・妥当性の検討.感情心理学研究,21(1):37-45
• Schaufeli, W. B., Shimazu, A., Hakanen, J., Salanova, M., & De
Witte, H. (2019). An ultra-short measure for work
engagement:The UWES-3 validation across five countries.
European Journal of Psychological Assessment, 35, 577-591.
• 島井哲志・大竹恵子・宇津木成介・池見陽 (2004).日本版 主観
的幸福感尺度(Subjective Happiness Scale: SHS)の信頼性と妥
当性の検討,日本公衆衛生雑誌,51(10),845-853.
• 徳吉陽河・森谷満(2015). ブリーフ・レジリエンス尺度日本語版(
BRS-J)の開発 日本心理学会第 79 回大会発表論文集, 354.
前向きに考え行動するから、レジリエンスの向上、VUCAの乗り越え
る自己効力感、そして、ワークエンゲージメントへの影響
変動性
不確実性
複雑性
曖昧性
前向きに考え、行動する
VUCAを乗り越える自己効力感
レジリエンス
ワークエンゲージメント
【目的変数】:※質問 前向きに考え、行動する
変動性
不確実性
複雑性
曖昧性
0.34, p<.001
0.07, p<.05
0.21, p<.001
0.10, p<.001
【説明変数】
前向きに考え、行動するとVUCAを乗り越える自己効力感
研究のまとめ マインドマップ
心理ネットワーク分析
レジリエンス
ワークエンゲージメント
ストレス
幸福感
変動性
曖昧性
複雑性
不確実性
VUCA
を乗り越える
自己効力感
前向きに考え
行動する
自尊感情

VUCAを乗り越えるための自己効力感尺度の開発 複雑性、曖昧性、変動性、不明確な世界を生きるために