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企業での博士・海外での博士
~IT業界を例にして~
伊藤貴之
お茶の水女子大学
理学部情報科学科 教授
http://itolab.is.ocha.ac.jp/ itot@is.ocha.ac.jp
2019年1月29日 「博士のキャリアデザイン」ワークショップ
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
補足
• 本講演資料は文部科学省・奈良女子大の共催ワークショップに際して
文部科学省からの講演依頼を受けたものです。
• IT業界の事例を紹介していますが参加者の大半は非IT分野に従事する
学生や教職員であり、「他分野の事例紹介」という立ち位置での講演です。
• 参加者がほぼ全員女性という状況を勘案した内容を含んでいます。
1
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
自己紹介
2
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
自己紹介(1) 企業研究所社員
• 1992年 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了
日本IBM東京基礎研究所研究員 (2005年まで)
• 研究と産業を結びつける多数の仕事
– 自動車会社との衝突事故シミュレーション関連の研究
– 高速軽量通信の研究をIBM製品へ
– その他
• 研究員の採用人事に多数関わる
– 毎年数人の面接、企業見学会の窓口担当など
3
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
自己紹介(2) お茶大教員
• 2005年 お茶の水女子大学理学部情報科学科助教授
• 2011年 同大学教授
• 企業共同研究10社
– データ分析、画像処理、創薬支援…
• 企業と学生の接点に関する活動多数
(お茶大情報系の抜群の就職力を支える諸活動)
– インターンシップ、ハッカソン、就職支援…
– 情報系企業の多くが女子を採用したいので
お茶大にいろんな相談が届く
4
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
(2008年読売ウィークリーの記事)
自己紹介(3) 海外との接点
• IBM社員時代の海外オフィスとの接点
– 毎週の電話会議、日常のチャットによる協業
– 世界各地からのインターンシップ学生
• 1~6ヶ月単位の海外大学訪問
– カーネギーメロン大学(2000), カリフォルニア大学デービス校(2008),
シドニー大学(2014), ブリティッシュコロンビア大学(2018)
• 2~3ヶ月単位の学生研究派遣
– カーネギーメロン大学, カリフォルニア大学デービス校, シドニー大学,
モナッシュ大学, シュトットガルト大学, タンペレ大学 (通算32人)
• 国際会議の主催・海外との論文共著等
5
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
本日の論点
6
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
IT業界の事例について議論します
博士課程に進学したら大学に残るのが一般的なのか?
海外の博士課程の学生は何を目指しているのか?
博士課程に進学することで何を得られるのか?
企業での博士
~IT業界を例にして~
7
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
博士学生のIT業界への就職の機会
8
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
Works 2014年10-11月号 (リクルートワークス研究所)
少なくとも理系では異なる分野の企業に
博士が就職するのは一般的な傾向になっている
ユニークな大学院生求人の例
• ZOZOテクノロジー社の求人がJREC-INに掲載
• ファッションをテーマとした研究開発
(機械学習、データサイエンス、材料工学、デザインリサーチ 等)
• 前提スキル
– 数学、統計学、物理学、化学、生物学、情報科学、工学
– 数理的分野における修士以上の学位、もしくは同等以上の知識と経験
– プログラミング経験
9
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
https://jrecin.jst.go.jp/seek/SeekJorDetail?fn=4&id=D118080054&ln_jor=0
理系基礎力のある大学院生を増員したい分野での
新しい採用スタイルが始まっている
ユニークな大学院生求人の例
• 野村証券の博士限定採用プログラム
• 就業を博士号取得後に設定変更可能
• 入社前の配属決定
(人工知能、データサイエンス、デジタル化、新規事業開発)
• 情報工学に限定しない
10
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
http://nomurapassport.com/system/
理系基礎力のある大学院生を増員したい分野での
新しい採用スタイルが始まっている
大学の博士学生イベントへの参加企業
11
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
化学や情報など特定の業界において
多数の企業が博士学生に関心を持っている
裏を返せば「博士採用に意欲の高い業界」
を見極めることも進路を考える一手段である
IT企業基礎研究所社員へのインタビュー
• 他分野の学部・専攻の出身者は?
– 15~30% (主に数学, 物理, 化学から)
• 他分野出身者の業務へのトレーニングは?
– グループぐるみでの指導
– 仕事の過程で専門知識を勉強する
– 仕事しながらスキルをつける(プログラミング等)
• 他分野出身者にも共通する就職面接時の質問は?
– 研究内容のゴールやビジネスインパクト
– 変化に対応して成果をだすための素養を問う質問
– 何を工夫したか?自分ならではのポイントは?
12
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
ここまでのまとめ
• 博士学生の歓迎度には業界格差
• 少なくともIT企業は非情報系の博士学生も歓迎
– 他分野出身でも現場で勉強して追いつけそうな人を採用している
• 専門性だけでなく汎用的な基礎力が身を救う
– IT業界の場合には数学・プログラミングなど
– もっと抽象的には問題解決力・議論力・文章力など
• 第一人称的な就職活動が重要
– 「本研究は…」よりも「自分は…ができる」というアピール
13
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
「博士なんていらない」という業界に背を向けて
博士学生を歓迎する業界に目を向けよ
海外での博士
~IT業界を例にして~
14
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
海外と日本の博士進学者数
• 主要諸国は日本よりも博士進学率が高いと言われている
• ただし海外のほうが大学の職が多いわけでもない
→海外のほうが博士取得後に大学以外の職に就く人が多い?
15http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/gijiroku/attach/__icsFiles/afieldfile/2013/10/16/1340415-9-2.pdf
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
海外のIT産業界の人材争奪戦
• IT産業界の一部では高額給与で研究者人材を青田買い
→大学の人材枯渇さえ心配され始めている
16
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
では海外諸国のIT学生は何を求めて博士に進学しているのか?
海外のIT系研究室学生へのインタビュー (1)
• 講演者が共同研究している研究室の博士学生への質問
– カーネギーメロン大学(アメリカ)
– カリフォルニア大学デービス校(アメリカ)
– ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)
– 北京大学(中国)
– シュトットガルト大学(ドイツ)
– モナッシュ大学(オーストラリア)
• 数字は主に回答者の主観
– 一部の数字は公開データから
17
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
海外のIT系研究室学生へのインタビュー (2)
• 博士号取得後に学術機関に残る人の割合
– 26% (北京) 25% (UBC) 10% (UCD) 50% (SU)
• 企業就職者のうち学術活動を続ける人の割合
– 40% (北京) 35% (UBC) ごく少ない (UCD) 不明 (SU)
• 企業就職者のうち当該技術分野に残る人の割合
– ごく少ない (北京) 80% (UBC) 75% (UCD) ごく少ない (SU)
18
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
• 日本だけでなく海外でも博士号取得後に大学に残らない人が多い
• それどころか学術活動・当該技術分野に残らない人も多い
• しかしそれでも、海外諸国は日本よりも博士進学者が多い
※インタビューは6者に行ったが数字で回答があったのは4者
海外のIT系研究室学生へのインタビュー (2)
• 設問: なぜ大学に残らない人でも博士号を目指すのか?
• 収入面に関する意見は大きく分かれる
(1人の意見を鵜呑みにしてはいけない)
– 博士を出ても大学に残ったら高収入とはいえない
– 博士を出て企業に就職すれば高収入の可能性が高い
– 逆に「生涯賃金だけ考えたら修士で就職するべき」という意見も
• それ以外の意見
– 「結局みんな研究が好きだから進学する」
– 汎用的なスキルの習得 (議論、プレゼン、文書作成…)
– 経験と人脈の獲得
– 大学に残るかどうかギリギリまで考えない人も多い
19
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
ここまでのまとめ
• 大学に残るのが大変なのはどこの国も同じ
– むしろ海外のほうが熾烈とも言われる
• 海外のIT業界では博士号が高収入を導く可能性
– この点だけは海外がうらやましい…
• だからといって海外のIT学生がみな
金のために進学しているわけではない
20
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
• 研究が好き・研究分野への興味
• 汎用的なスキルの習得
• 経験と人脈の形成
無形財産: どこの国の
博士学生でも在学中に
習得可能な財産
博士在学者・修了者の声
~IT業界を例にして~
21
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
※IT系博士学生・博士修了者47名の回答
設問(1) 博士進学を志した理由
40: 研究が好き・研究を続けたい
24: 自分の職業選択のために必要
9: 大学が好き・企業就職を考えなかった
8: 個人業績をあげたい
そのほか少数意見いろいろ
22
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
進路や業績を理由にするより
「研究が好きで進学した」
と回答した人が大幅に多い
※IT系博士学生・博士修了者47名の回答(複数回答可)
設問(2) 博士在学中に目指した職種
24: 企業研究員
23: 大学教員
18: 研究所研究員
10: 企業非研究員(エンジニアなど)
そのほか少数意見いろいろ
23
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
少なくともIT業界では
学術機関に残ることを目指さずに
博士進学する学生も大勢いる
※IT系博士学生・博士修了者47名の回答(複数回答可)
設問(3) 博士在学中に得られたもの
44: 各種スキル(問題解決力、議論、文章力、プレゼン…)
39: 専門性
32: 経験・自信・自己満足
30: 人脈
29: 個人業績
そのほか少数意見いろいろ
24
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
専門性や業績をつけることに
目を奪われがちだが
他にも得るべきものは多々ある
※IT系博士学生・博士修了者47名の回答(複数回答可)
設問(4) 博士在学中に気をつけるべき点
9: 議論相手・相談相手の確保
8: スケジューリング
6: 研究分野以外への広い視野と興味
6: 人脈構築・人的交流
5: 学位や業績にとらわれすぎない研究生活
2: 自己確立
2: 健康管理
そのほか少数意見いろいろ
25
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
人間関係・スケジューリング
広い興味・健康など
一通り自己チェックすべし
※IT系博士学生・博士修了者47名の回答(複数回答可)
設問(5) 博士修了で得られた点
14: キャリア・職業選択 (大学教員や研究職)
9: 科学的手法・論理思考などの習得
4: 名刺に学位を書ける・人事的権威を得られる
(主にビジネスや海外業務で敬意を得られやすい)
4: 自信・自己目標の実現
4: ユニークな人脈の形成
そのほか少数意見いろいろ
26
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
研究者になる切符だけでなく
それ以外のキャリアの人にも
プライスレスな収穫がある
※IT系博士学生・博士修了者47名の回答(複数回答可)
設問(6) 女性だからこそ博士号
9: 出産等のブランク後も専門性の高い職を続けやすい
7: 特に思いつかない
4: ライフワークスタイルを重視した職業選択をしやすい
3: 男性優遇な業界でも対等に見られる
3: 女性の少ない業界では期待が高い
3: 学位があると特に女性は日本より海外で活躍しやすい
2: 男女差を考えるべきではない
そのほか少数意見いろいろ
27
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
ライフイベントとの両立
社会的不均衡への適応
学問の平等性、の3点を考えよ
※IT系博士学生・博士修了者47名の回答(複数回答可)
講演者からのメッセージ
28
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
講演者からのメッセージ
• 人生の選択肢は自分の想像よりも広い
– 博士の企業就職は追い風傾向
– 他分野からも就職できるケースが増加
– 博士に対する期待の業界格差に注意
(自主的な情報収集が重要)
– 「大学が残るが勝ち、大学から転出するのは負け」
みたいな発言をする人がいても無視してよい
29
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
博士課程に進学したら大学に残るのが一般的なのか?
講演者からのメッセージ
• 研究が好きだから進学している
– 最初から進路や収入だけを目的にしている人は少ない
• 大学に残るのが大変なのは日本だけではない
– むしろ日本より競争が激しい場合も多い
– 幅広い進路が視野にあるから日本よりも進学率が高い
30
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Ochanomizu University
海外の博士課程の学生は何を目指しているのか?
講演者からのメッセージ
• 「博士号を得る意義」よりまず「博士に在籍する意義」
– 専門性と汎用スキルのバランスよい習得
– 学生を続ける価値を大切に (名前を売る、経験や人脈)
• やらなかったことを後悔する人生を送るべからず
– ただしキャリアのリスク管理も忘れずに…
31
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
博士課程に進学することで何を得られるのか?
ありがとうございました
本講演内容に関するご質問は
いつでもメールで承ります
itot @ is.ocha.ac.jp
皆さまのご活躍を祈念いたします
32
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University

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