「インターンシップについて本音を語る:大学教員×企業×学生」講演資料

Takayuki Itoh
Takayuki ItohProfessor, Ochanomizu University at Ochanomizu University
インターンシップ・学生が望むもの・教員が望むもの
伊藤貴之
お茶の水女子大学
理学部情報科学科 教授
2018年3月14日 情報処理学会第80回全国大会
インターンシップについて本音を語る: 大学教員×企業×学生
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
1
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
手短かに自己紹介
略歴 (学生⇒企業⇒教員)
• 1990年 早稲田大学理工学部卒業
• 1992年 早稲田大学大学院修士課程修了
日本アイ・ビー・エム(株)東京基礎研究所
• 1997年 早稲田大学にて博士
• 2005年 お茶の水女子大学 助教授(准教授)
• 2011年 お茶の水女子大学 教授
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Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
企業人 13年
大学教員13年
略歴 (学生⇒企業⇒教員)
• 1990年 早稲田大学理工学部卒業
• 1992年 早稲田大学大学院修士課程修了
日本アイ・ビー・エム(株)東京基礎研究所
• 1997年 早稲田大学にて博士
• 2005年 お茶の水女子大学 助教授(准教授)
• 2011年 お茶の水女子大学 教授
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Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
B4でも企業就活
M2では1社だけ受ける
研究員採用面接
海外インターンシップ
業務経験多数
インターンシップや
ハッカソンのアドバイザ
として多数呼ばれる
お茶の水女子大学の就職力
• 要するにICT業界は
優秀な女子を雇用したい
• しかもお茶大は都心にある
↓
• お茶大には非常に多くの
ICT企業が訪れる
↓
• よってお茶大教員は
ICT業界に通じている
(ホントかな…)
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Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
※読売ウィークリー
2008年2月17日号より転載
研究室の国際体制
5
Tampere
学生滞在2名
Stuttgart
学生滞在1名
Davis
教員滞在2か月
学生滞在4名
Pittsburgh
教員滞在6か月
学生滞在2名
Sydney
教員滞在1か月
学生滞在15名
Melbourne
学生滞在8名
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
Vancouver
教員滞在1か月
研究室の国際体制
6
Tampere
学生滞在2名
Stuttgart
学生滞在1名
Davis
教員滞在2か月
学生滞在4名
Pittsburgh
教員滞在6か月
学生滞在2名
Sydney
教員滞在1か月
学生滞在15名
Melbourne
学生滞在8名
Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
Vancouver
教員滞在1か月
• 大学用務としての海外の大学への
滞在とヒアリングの経験
– インターンシップについても調査経験あり
• インターンシップは海外からの輸入制度
• なぜ日本のインターンシップは海外と同じように
ならないかについての議論
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Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
ヒアリング(学生編)
※ウェブ上の匿名フォームによるヒアリング
※たぶん回答者はお茶大生が多いので何らかの偏りがあるかもしれません
大学での学習内容が役にたった点
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Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
線形代数
論理学
アルゴリズム
プログラミング
経験
専門科目
(UI, DB)
計算機
システムの
基礎用語
プレゼン
特にない
研究 エンジニア SE 金融・商社・
経営コンサル
インターンシップ先で新しく学んだ点
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Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
ソフトウェア
工学の実践
チームでの開発
ビジネスの
意識論理思考
基礎知識の
使い方
プレゼン
議論
研究 エンジニア SE 金融・商社・
経営コンサル
大規模データ
を扱う経験
インターンシップで困った点・不快な点
• 授業・ゼミ・学会とぶつかるインターンシップは応募できない
(企業側が日程的に融通をつけてくれない)
• 選考がきつい/採用内定時期が遅い
• 年齢制限があった
• 成果を公表できない
• 就活等への評価対象にならない
• 就活とのつながりが露骨すぎた
• 社員や学生との交流があまりなかった
• ハラスメントを受けた
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Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
優秀な学生を
企業が逃す例
企業の不評に
つながる例
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Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
ヒアリング(教員編)
※ウェブ上の匿名フォームによるヒアリング
※たぶん回答者は講演者の研究分野の大学教員が多いので
何らかの偏りがあるかもしれません
推奨したいインターンシップ
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Ochanomizu University
少数意見の例:
• IT業界の中でもベンチャー系・ウェブ系のインターンシップは
非IT業界と比べてもよっぽど見習うべきものがある
• 研究所インターンシップで学生が学会発表する例が増えるとよい
大学の授業より高い
体験ができる業務
責任をもって一定の成果を
求められる業務
意味のある一定以上
の期間をもった業務
専門性の高い学生に
相応の報酬をもたらす職場
推奨したくないインターンシップ
13
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Ochanomizu University
インターンシップの本来の
定義を逸脱している業務
• 聴講するだけの1日セミナー
• 社員が関与しないハッカソン
• アルバイト風の雑業務
授業・入試・学会に日程が
重なるインターンシップ
(現に優秀な学生は応募しなかった
という証言も多数)
少数意見の例:
• 採用選考が重すぎるプログラム
• 就活に直結しすぎているプログラム
• 職務内容と学生のミスマッチが生じている職場
(業務内容が初歩的すぎる/専門的すぎる)
• 給与以前に交通費や食費さえ払わない職場
インターンシップで学生が成長した実例
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Ochanomizu University
人脈を形成して
学会や就活に役立てた
インターンシップ経験を
就活に直結させた
就活が早く終わって
他のことができた外資系企業で英語の
コミュニケーション経験
開発手段を覚えて
研究室に還元してくれた
システム管理の経験が
自覚につながった
社会のニーズを意識した
ことが研究につながった
本人名義での論文や
記事の執筆になった
企業と同じように習得できることが
研究室にもたくさんあると教えてくれた
成果物の完成が
自信になった
進路交流
自信
スキル
啓蒙
業績
企業の皆様に感謝!
(教員を代表して)
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Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
日本の大学の制約と
企業の皆様への期待
(1) 日本のIT業界は非情報系学生も就職できる
• 海外主要国の典型例
– SE・ITコンサル:
情報系学部の学部生
– エンジニア:
情報系専攻の修士
– 研究職:
情報系専攻の博士
• 日本の典型例
– SE・ITコンサル
学部問わない
– エンジニア:
情報系学部の学部生〜
– 研究職:
情報系専攻の修士〜
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Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
IT企業のインターンシップ=情報科学の専門性を磨く実習
という前提は海外では成立するが、日本の現状はもっと混沌としている
どの程度の専門性を背景とするインターンシップを求めたいのか、
というスタンスを企業・学生ともに明確にしないと、
不満やミスマッチにつながりやすいのではないか
重大な
(しかも曖昧な)
境界線
(2) 日本の大学は4月に始まる
• 多くの国ではインターンシップ・就活は夏がピーク
• 多くの国では大学は10月に始まる
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Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
※南半球のことはいったん忘れてください :-)
専門科目の履修状況が
インターンシップ採用の
成否を左右する
インターンシップ内容と
コースワーク内容が
就活の成否を左右する
専門性をあげるモチベーションにあふれている!
10月 10月 10月 10月
基礎科目 専門科目 コースワーク
1年 2年 3年 4年
※アメリカの某大学でのヒアリング内容
※大学側にも「年度末は学生は不在」という割り切りがある
(2) 日本の大学は4月に始まる
• 日本では大学は4月に始まる
• 日本のインターンシップ・就活のピークは…??
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Ochanomizu University
4月 4月
専門科目 卒論・修論B3・M1 B4・M2
研究や課題の真っ盛りな
時期のインターンシップ
研究室配属直後、
学会ピーク時期の就活
大学も企業も情報系エンジニアだけの都合で
年間予定を変えることができない
大学や学生の年間計画をよく調べた上で
インターンシップの開催時期や開催形式を策定しないと、
結局は優秀な学生を逃すだけに終わってしまうのではないか
(3) 日本の大学は学部生の授業が多い
• 海外の多くの国では「授業コマ数が少ないかわりに
たくさん宿題が出る」と言われる
• 日本はそれと違って授業コマ数がとても多い
– 理由は: 一般教養科目と専門基礎科目が【両方】多い
– 「朝から夕方まで週5日授業で埋まっている」という
日本の大学生の時間割はむしろ世界的には珍しい
• 結果として日本では「大きめの宿題」を出しにくい
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Itoh Laboratory,
Ochanomizu University
一定の期間をもって一定の成果物を仕上げるという
「大きめの課題」こそ日本の大学の構造的に苦手な点であり
インターンシップでの経験に感謝すべき点である
(4) 日本の大学は人件費が足りない
• 人件費不足がもたらす深刻なスタッフ不足
– 教員1人あたりの学生数が多い
– 教員以外の職員(事務、技術員など)が少ない
– TA(学生アシスタント)の時給総額の割り当てが低い
• 結果としてIT系学科の演習科目体制は手薄な傾向
– 非研究者(開発経験者)を雇う金がない
– TAの勤務時間が短い
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Ochanomizu University
例えば以下のような経験が現状の大学では手薄であり、
インターンシップでの経験が特にありがたい経験となる
• コードレビューなどの親身な指導
• バージョン管理の経験
• サーバプログラミング
• チームでの開発
提言 (学生の皆さんへ)
• 自分が何を習得したいかを応募前に考えたい
– 研究?スキル?ビジネス経験?
– 情報系学生に特化したいのか?いろんな学生に会いたいのか?
– 「自分が何をしたいのかわからないのでとりあえず見学に行く」
というスタンスが不満やミスマッチにつながる可能性がある
• インターンシップもいいけど学業・研究も大事
– 最近の就活は学業成績も重視されやすい
– 大学院生の学内表彰・奨学金返済免除などの特権は
研究を頑張った学生が独占する
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提言 (企業の皆さんへ)
• 大学のスケジュールを把握しない企業が損をする
– 授業・研究を大切にしている優秀な学生との接点を失う
• 募集したい学生像を明確に伝えてほしい
– 例えば、スキルある学生を集めたいのか、
ビジネス経験を学生にさせたいのか…など
– ミスマッチや選考負荷を減らすために重要
• 悪評はSNSで共有されるという認識を
– 学生放置・ハラスメントなどを避ける
– 優秀な学生が企業を選ぶ現状
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提言 (教員の皆さんへ)
• 大学の苦手な点を謙虚に受け止めたい
– 日本の大学の現状を企業に助けてもらう方向で
メッセージを発する教員がもっと増えるといいのでは
– 企業からの学生の学びを採り入れるといいことがある
• インターンシップを否定する教員がブラック扱いされて
例えば不人気研究室になる現象はいくらでも起こり得る
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