Toudaihatu2012

Kazuo Shimokawa
Kazuo Shimokawa代表取締役 at イースト株式会社

for miruzo

1
目次


    ご挨拶                              ------   4


    講義「メディア創造ワークショップ」について            ------   7


    インタビュー(1) 「今の学生は」と言わせるな 出雲充さん    ------   9

        学生のリフレクション                   ------ 19



    インタビュー(2) 「プロとアマの差≠能力差」 斎藤和弘さん   ------ 22

        学生のリフレクション                   ------ 34



    インタビュー(3) 「仕事を選ぶ。生き方を選ぶ」 柳田俊樹さ
    ん                                ------ 36

        学生のリフレクション                   ------ 47



    インタビュー(4) 「人生のリスク~やりたいことをやるための
    起業~」 佐々木文平さん                     ------ 50

        学生のリフレクション                   ------ 61


    インタビュー(5) 「自分の価値観に素直に生きる」 高木新平
    さん                               ------ 63

        学生のリフレクション                   ------ 72




2
インタビュー(6) 「昨日の自分を越えてゆけ 〜n+1回の挑
戦〜」 見舘好隆さん                       ------ 74

 学生のリフレクション                      ------ 85


謝辞                               ------ 88


制作者                              ------ 89




                                             3
タフな東大生を育成するための多様な経験

                           佐藤 愼一

                         理事・副学長

 現在、東京大学はグローバルな人材競争、研究競争に耐えうる
「タフな東大生」を育成するため、様々な教育基盤・研究基盤の整
備を行っています。「タフな東大生」の育成には、多様な学習経験
が必要になります。
 東京大学 大学総合教育研究センターは、全学の教育改革の支援を
担っているセンターであり、ここで企画された「学生が情報発信主
体となりメディアを創造する」というこの授業は、「タフな東大
生」の育成に必ずや貢献してくれるものと、私は信じています。
 このたび、授業の成果が電子書籍「東大発2012」のかたちで一般
に公開になったことは、非常に嬉しく思います。駒場の学部学生の
みずみずしい感覚によって生み出されたインタビュー記事をぜひ、
お楽しみください。




4
新しい教養教育の模索、Early ExposureとLate
Specialization

                                     永田敬

                 東京大学教養学部 教養教育高度化機構 教授

 このたび、東京大学 大学総合教育研究センター 教育課程・方法開
発部門が実施する「メディア創造ワークショップ」に対して、教室
環境の整備等で、教養教育高度化機構として協力しえたこと、そし
て、本授業の成果を世に問えたことを、嬉しく思います。
 戦後設立された東京大学の教養学部は、Late Specializationの理
念をかかげ、これまで数多くの優秀な人材を社会に送り出してきま
した。この理念に加え、近年、Early Exposure(多様な専門知を早
い段階で)をいかに両立するかが、教育課題となっています。本授
業のような実験的試行を通じて、教養教育の新たな教育課題への
チャレンジを行っていきたいと感じています。




                                           5
社会と連携する、学生参加型の教育カリキュラムの創造
を

                                   吉見俊哉

                大学総合教育研究センター センター長

 「メディア創造ワークショップ」は、東京大学 大学総合教育研究
センター 教育課程・方法開発部門が取り組んだ、学生参加型のメ
ディア創造実践です。
 この授業では、学生が自らの興味関心に基づき、社会の様々な
人々にインタビューにおもむき、そこで得た知見をもとに電子書籍
を開発しています。ここで行っ た「メディア創造実践」は、一般の
一斉授業では得られない多種多様な経験を学生に提供することにな
ると考えており、東大の掲げる「タフな東大生」の育成に 必ずや貢
献しうるものになると考えています。
 学部学生の比較的早い段階から、社会と連携する授業を経験する
ことは、Late Specializationの理念を掲げる本学において、今後、
取り組まれるべき教育課題のひとつであるように感じます。「東大
発2012」に続き、 「東大発2013」が生まれることを願っていま
す。




6
講義「メディア創造ワークショップ」について

                             中原淳

                            重田勝介

 「メディア創造ワークショップ」は、「電子書籍の出版」を舞台
とした「表現」に関する授業です。学生たちは「働く」というテー
マに基づいて、学生がグループで議論し、取材対象と自らの主張を
考え、実際に学外へインタビューに出向き、取得してきた語りを映
像とテクストにまとめ、電子書籍「東大発2012」のかたちでパブ
リッシュします。この授業では、メディアによる「言説の消費」で
はなく、自らが「言説の作り手」「表現主体」の立場で参加するこ
とが求められます。

 私たちは、この授業は「キャリア教育」でもあり、「メディア教
育」でもあり「ライティング」の学習機会でもあると考えていま
す。「働く」というテーマに真正面から取り組んでいるという点で
は、それは「キャリア教育」と形容できるかもしれません。またコ
ンピュータや各種のAV機器を駆使している意味では「メディア教
育」であるともいえます。「書くこと」を求めますので、それは
「ライティング教育」と形容されるかもしれません。しかし、メ
ディア創造ワークショップは、そのどれかひとつのラベルで表現さ
れる授業ではありません。




                                  7
「学ぶこと(大学)」から「働くこと(職業)」への移行が問われ
ている現在、この多面体の授業が、学生に豊かな内省と行動の機会
を提供できることを願ってやみません。

 記事の文章表現には、時に稚拙な部分もあろうことかと思いま
す。しかし、この「東大発2012」には、学生がいかに「働くこと」
に向き合ったか、彼らの思いが溢れています。どうか、温かい目で
お楽しみいただければ幸いです。最後になりますが、本授業にご協
力頂いたゲスト講師の皆様、インタビューに答えてくださった皆様
には、この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございまし
た。




8
都内の中高一貫の進学校を出て、東京大学へ進学。卒業後は東京三
菱銀行へ入行。就活に頭を悩ませている大学生なら誰しも羨むキャ
リアだろう。この後に続くのは、支店長、部長、といったところ
か。しかし、この人の経歴は、こう続く―入行1年で辞職し、起業。
一体どんなことを考えたらそんな選択をするに至るのか、よほど職
場に合わなかったのか。そう思うなら、出雲充さんのお話は一読に
値するだろう。



 今回取材した出雲充さんは、ミドリムシを用いた食品や化粧品の
販売を行う株式会社ユーグレナの社長である。18歳の時にバング
ラデシュで目の当りにした栄養不足に対するショックを原体験とし
て学生時代から起業を見据え、2002年に東京大学農学部を卒業
後東京三菱銀行に入行するもわずか1年で退社。自身が代表取締役
を務める株式会社ユーグレナを立ち上げ、現在に至る。将来は栄養




                                 9
価の高いミドリムシ食品の販路を発展途上国へ拡大し、貧困解決に
寄与するというビジョンを抱いている。

 キャリア形成の原体験となったバングラデシュ訪問。そこで感じ
た栄養不足とはどのようなものだったか伺うと、答えは少し予想外
だった。

 「皆に配ろうと思ってクッキーとかカロリーメイトを持って行っ
たんですけど、みんな朝昼晩カレーをたくさん食べているのでお腹
空かして飢餓で困っている子供はバングラデシュのどこを探しても
いないんですよ。バングラデシュは後発開発途上国ではあるけれ
ど、飢餓があるのではない。それが一番の体験というか刺激でした
ね」

 現場に赴いてみて、自分のイメージと実際が大きく乖離している
ことに衝撃を受けた。

 「一番足りてないのは微量栄養素なんだなって気づきました。こ
の時、もっと人に喜んでもらえるものを作りたい、そういう仕事を
したいって思うようになりましたね」

 大学時代の初期にその後の人生を大きく方向づける貴重な体験を
した出雲さん。出雲さんは、大学生活で、やろうと思ってできない
ことはないと話すが、自由度が高い分、何をすればいいか途方に暮
れてしまう学生も多いだろう。出雲さんはその後の大学生活をどの
ような意識を持って過ごしたのだろうか。




10
 「先輩方の時代と比べて、私の時代以降の若者は日本で生活して
いて、困ったことは何もないんですよ。大きな障害や課題もない
し、飢餓や貧困に出会ったこともない。ただチャンスに溢れている
ということくらいは、大学にいれば想像はつくと思うので、何か還
元したい、純粋に人々の役に立ちたいと思うようになるんですよ」

 続けて、自らの行動を選択する上で考えていたことについて、
しっとりとだが熱く、次のように語ってくれた。

 「他の同世代の人と違うことをするっていうことだけ、とにかく
意識をしていましたね。小さいところから他の人と違うことをして
その中で、うまく行かなくてもくよくよしたり恥ずかしいといちい
ち思ったりしないような体験が学生時代に一つでもあれば、将来大
きなメリットにつながると思いますよ」

 出雲さんにとっては海外経験がこれに当たるものであった。英語
がそんなに上手でなくてもアメリカのスタンフォードへと飛び出し
ていった。昼間は教室の隅でコソコソと過ごし、夜になるとお酒の
力を借りてなんとか会話をして友達を作っていたのだという。その
友達との交流を通して出雲さんはテクノロジーをベースにしたベン
チャービジネスをやりたいという気持ちを抱き始めた。シリコン
ヴァレーの経営者たちの共通認識として、「アイデアだけでは経営
者はできない、技術が必要だ」というのがあり、出雲さんは自分も
テクノロジーを勉強しなければならないと強く思ったそうだ。また




                                11
友達が果敢にベンチャーへと挑む姿勢にも強い刺激を受け、励まさ
れたという。




 しかしそうは言っても起業というのは大変なリスクを伴うもので
ある。特にバブル崩壊以降は長らく不景気が続いており、大企業で




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も倒産してしまうことも稀ではない。このような時代のなかで、あ
えて安定を捨てて起業をした背景には何があるのだろうか。リスク
に対する不安を凌駕するモチベーションがあったのかと聞くとそう
ではないという。出雲さんのように恵まれた環境で育った人が強烈
な反骨精神などを抱くことはあまりない。出雲さんが起業したの
は、そうした強いモチベーションではなく、そもそも起業するとい
うリスクに対する見方が人と違っていたからだ。

 「昔は、世の中右肩上がりで、他の人と違うことをして浮くって
いうのは最大のリスクだったんですよ。自分にだけ成長のメリット
が回ってこないリスクがありましたからね。」

 成長期は、一つの拡大していくパイの中でいかに自分の取り分を
増やすかという競争の時代であり、典型的な王道、成功パターンが
世間の共通認識としてあった。出雲さんはまさにその王道を歩んで
きていたわけだが…

 「しかしこれから日本全体のパイは縮小していく一方なんです
よ。こうなると、他人と同じことをすると、自分の取り分もどんど
ん縮小していく。この時に他の人と同じことをするのはリスクなん
です。そこで自分が満足できるまで他の人とは違うことをして、他
の人とは違うものを得られるように努力したいと考えました」

 だがこう語る出雲さんも学生からそのまま起業という道は選ばず
に、1年間だけ東京三菱銀行に入行している。その理由について尋
ねると、「いい質問だね」とはにかんでみせた。その理由にはかっ




                                13
こいい方とかっこ悪い方の二つがあるという。前者は、起業するに
はミドリムシの研究があまりに未成熟であったため、機が熟すのを
待っていたという理由であった。一方後者は出雲さんらしからぬ少
し弱気な理由であった。

 「私も東大生なので、駒場東邦から東大行ってミドリムシだった
らやっぱり確信は持てないですよ。俺の人生これでいいのかな、駒
東→東大→ミドリムシで大丈夫かなって。駒東→東大→三菱銀行っ
ていったら誰が聞いても納得する。自分以外の誰に聞いても駒東→
東大→ミドリムシはないと言うのでさすがに不安になります。そこ
でまずオンレールでそろりそろりと進めていって、気が熟したタイ
ミングで快速特急みたいな電車から降りましょうと。非常に打算的
に、ミドリムシの方がうまくいってきたら乗り換えればいいと考え
て、銀行に就職しました」

 入行後は平日は銀行、土日は大学でミドリムシの研究という日々
を送った。そして入行後1年で辞めることになった。当初の予定通り
研究が軌道に乗り、起業のめどが立ったのかと思いきや、そうでは
なかったと言う。

 「二足のわらじというのは、破壊的イノベーションとものすごく
相性が悪いんですよ。決してミドリムシがうまくいってきたからや
めたのではなく、やむにやまれず辞めたんです。むしろ銀行の仕事
はミドリムシと張るくらいすごく楽しかったです。周りの人も期待
してくれるし応援してくれるし。でも銀行に残って綺麗な生き方す
るとミドリムシは諦めざるを得ないわけです」



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 銀行の仕事も面白く、そのまま続けても十分楽しいキャリアを送
れただろう。このまま続けていたら銀行の仕事が面白すぎてミドリ
ムシに戻れなくなるのでは、とまで思ったそうだ。そこまで楽しい
仕事がありながらなぜ、事業化のめども立たないミドリムシを選択
したのだろうか。そこには、さきほどのリスクに対する捉え方も影
響を与えているが、それだけではなかった。

 「私が一番嫌だったのは、10年後、20年後、いつになるか分から
ないけれども、誰かがミドリムシを成功させて、世界の人口が96億
人に差し掛かろうとしている2050年に颯爽と救世主としてミドリム
シが登場して、ミドリムシで世界は救われましたっていうNHKの特
番を見て、『あれ、俺も学生時代に同じこと思って研究してたんだ
けどさ、この人すごいね』って言うこと。それだけは、一回しかな
い自分の人生で言ってはいかんことだろうと。一回でも言ったらそ
の後の人生一生、自分は何であの時ミドリムシじゃなくて銀行に
残ってしまったのかって、本当に悶々とするだろうなと思いまし
た」

 最後は合理的な判断―ミドリムシの研究が軌道に乗ったかどうか
―ではなく、非合理な“何か”を頼りに決断した。学生時代、人と
違うことをしてきて、それでも大丈夫だったという経験があったか
らこそ、ミドリムシをどうしてもやりたいという想いに従おうと思
えたという。




                                15
 そうして、出雲さんは銀行を飛び出した。退行2年後に起業し、4
か月後には世界で初めてミドリムシの屋外大量培養に成功。健康食
品や化粧品事業で近年注目を集めるようになった。




 「仕事ってなんですかって聞かれると困っちゃうんですよね」
 出雲さんにとって、仕事とは何かを単刀直入に聞いてみた。する
と、出雲さんはそう答え、しばらく悩んでみせた。

 「好きなことやって生活できるなんて幸せだし、土日も仕事でき
てうれしいし、仕事を通じて喜んでくださる方がいてうれしいし、




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とにかく嬉しくて嬉しくて仕方がない、うれしい中毒になってます
よ」

 聞かれると困ると答えた真意は、仕事を従来のイメージで「仕
事」とは捉えていないということだった。出雲さんはこう分析す
る。以前は仕事は仕事、短時間で効率的に金を稼ぐことが第一義、
そして空いた時間で自分のやりたいことをやる、そう考えるのが普
通だっただろう。それに対して、仕事を楽しむ、仕事が楽しみとい
う考え方は「我々世代に新しい特徴的」なこと。前の世代は自身の
経験の中の「へこんだ部分」、劣等感を打ち消すために「情熱とア
グレッシブさを持って、突進して世の中を変えていく」タイプで
あったが、今は課題解決型ではなく、自分が面白いことを思いつい
て、エキサイティングな気持ちをシェアしたいというタイプであ
る、と。最後に、「ただこれはきわめて特徴的だということは私自
身も自覚しています」と出雲さんは付け加えた。筋の通った仕事観
に納得するとともに、嬉しくてしょうがないことを仕事にしている
出雲さんがうらやましく思った。

 インタビューの最後に、消極的・受動的だと今の学生が言われて
いることについて、うかがってみた。すると、間髪入れずに出雲さ
んから軽く叱責を受けた。

 「あなたがそんなこと言っちゃダメだよ。そんなの俺だってずっ
と言われてたんだから。今の学生は今の学生はって。それが一番腹
立たしかった。ビジネスのことは社会人がよく知ってる、学生って
いうのは社会人にビジネスを教え請う立場であり、その逆はあり得



                                17
ないってさんざん言われて。いや違うと。学生は生活者であり消費
者でありユーザーである。ものを作ってるメーカーよりも、ものを
消費する立場として、たとえば携帯電話のマニュアルがいかに使わ
れていないかということはよく知っていると。そこで、社会人がお
金をだして聞くに値するものを学生には発信する力があるっていう
信念をもとにビジネスコンテストをやったんですよ。だからこのビ
ジネスコンテストは社会人の人に順位をつけてもらって、社会人に
一位を表彰してもらうのではなくて、社会人の人に、彼らが気付け
ないビジネスの視点を学生が提供する代わりに、社会人から学生に
対してお礼をしなさいと。これが、私が考える学生と社会人の関係
であると、それを世の中に問いましょうと。」

 ビジネスコンテストを運営する学生団体の代表を務めた経験をも
とに、「今の学生は」と括られたくなかった、という熱い思いを語
る。出雲さんはこう続ける。

 「他の人はみなさん同じように言うんですよ。最近の学生はアグ
レッシブさがないって。巷にあふれる本や年配の人に今の学生は最
近の学生はって言われると思うんですけど、その言説を自分なりの
方法でひっくり返すっていうことに、ひたすら集中していただけれ
ばいいんじゃないかな、と思います。学生全般で括るとその指摘は
正しいのかもしれないけれども、すくなくとも俺に言うなっていう
ものを一個でいいので持っていれば、それは必ず困難に直面したと
きの自分の支えになってくれる、それだけは騙されたと思って信じ
ていただければありがたいですね」




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出雲充さんインタビュー動画(外部リンク)

http://ocw.u-tokyo.ac.jp/podcasts/mcw2011/2011mcw_6_s.mov



学生のリフレクション

・石井宏茂
 リスクをとってまで安定を捨てるためのエネルギーはどうやって
湧いてくるのか?大学に入ってからずっと、進路や「はたらく」に
ついて考えていました。そして研究職やフリーランスの仕事に興味
があった僕にとって、起業するという選択肢は遠く感じられる部類
のものでした。しかし、出雲充さんの論理は起業を前提とするもの
ではなく、多くを学ばせていただきました。詳しくは記事に書いて
ありますが、出雲さんのメッセージは僕たち若者を起業に限定する
ものではなく、奇抜さを促すものでもなく、これから様々な進路を
考えていく上での基礎になってくれるものだと思います。頑張って
作った動画も多くの人に見てほしいです。

・中村彰宏
 出雲さんは話し方がとても独特で、言葉を選びながら、丁寧に、
かつ熱く語ってくださいました。自分の確固たる信念を持ってい
て、それに基づき、自信をもって行動していく姿が印象的でした。
 その姿勢は大学時代から意識していた行動の指針、「人と違うこ
とをする」というところからきていて、それが現在の仕事に向かう



                                                       19
姿勢にもつながっている。そのような連続性があるところが、出雲
さんの言うような、「仕事と自分の好きなことが一緒になってい
る」状態なのだろうと思いました。大学生活と社会人生活を別物と
して3年生になったら就活で新たに社会人生活を考え始める、と考
えるよりも、大学生活を、将来へ連続しているものとして自分のや
りたいことを追求していこうと思います。

・福本高大
 将来をかけられるような思い・熱意が今の自分にあるのでしょう
か。大学時代はモラトリアム期間であるとはよく言われますが、そ
れはただ無駄に過ごしていいというわけではありません。将来の
「働く」に向けて、今から始めることもあるのではないでしょう
か。それはスキルではなく、今しかできない経験を得ることではな
いでしょうか。ですが、そう思うのにできない自分がいるのを、イ
ンタビューをしながら、記事を書きながら、動画を編集しながら、
もどかしさを感じてしまいます。ついいろいろと複雑に考えてしま
いますが、もう考えるのはやめてしまおう。興味あること、面白い
と思ったことには何でも首を突っ込んでみよう。案ずるより産むが
やすし、一歩踏み出すことから始めようと思います。

・藤田尚之
 出雲さんから話を伺っていくなかで、残念ながらこの記事では割
愛することとなってしまいましたが、出雲さんの理想のリーダー像
についての話が特に印象に残りました。リーダーとなる場面では、
あまり大きな失敗をしないように全体の様子を常にうかがって物事




20
を進め過ぎてしまいがちな自分にとって、リーダーにとって必要な
のは自分たちが取り組んでいる物事に対して最も熱意を持っている
ことと、場面によっては物事を演繹的に考えていき完全な根拠を持
てなくても周りを自信ありげに巻き込んでいく能力が大切だという
出雲さんの話は自分の姿勢を揺るがしてくれました。これからの
キャリアを形成していく中で俯瞰的になり全体を調整することばか
り意識しすぎず、もっと主体的になること、周りを巻き込む存在と
なることを心掛けていきたいと思います。




                                21
プロとアマの差とは一体何なのだろう?そう疑問に思った経験があ
る人は少なくないはずだ。元『VOGUE NIPPON』の編集長、斎藤和
弘さんの生き方に、私達はその違いを見出した。



 「どうやって入ればいいのか分からなかったでしょう」

 そう言って私たちを外で待っていて下さった斎藤さん。今回伺わ
せて頂いたのは青山にあるデザイン事務所。初見ではどれがドアか
さえ分からない、スタイリッシュで斬新な外観。地下にある部屋で
あるにも関わらず窓がついており、その向こうにある壁に這わせた
蔦や花々が織りなす「縦の庭」。
 斎藤和弘さんは1955年8月26日山形市に生まれた。1978年に東
京大学文学部卒業するとともに平凡社に入り、雑誌『太陽』編集部
に配属。その後、 平凡出版(現マガジンハウス)に転職し、『平凡
パンチ』『POPEYE』編集部で活躍したのち、ブルータスの編集長




22
に就任。2001年には『VOGUE NIPPON』の編集長となった。
ファッション誌『VOGUE NIPPON』から受けた「お洒落」「格好
良い」という印象そのままの事務所と斎藤さんご自身に、思わず自
分の出で立ちを再確認してしまう。




                                     23
24
 私たちは今回「プロフェッショナルとアマチュアの違い」という
テーマに基づき斎藤さんにインタビューを行った。「プロ、アマ、
違い」というキーワードでGoogle検索をかけてみるとおよそ
2,240,000 件ものサイトが引っかかる。皆が興味を持っているテー
マであることは確実だ。また、興味を持っていなかった人も、これ
から就職の際に競い合い、同じ社会に出て共に仕事をする人々が興
味を持つテーマとして、是非認識して貰いたい。
 インタビュイーとして斎藤さんを選んだ理由は、様々な雑誌の編
集に関与し、最終的に自分の雑誌を作って成功を収めたという経緯
に魅力を感じ、斎藤和弘さん個人に興味があるからというのはもち
ろんだが、様々な編集部に配属され最終的に編集長となった斎藤さ
んなら、どの段階でアマチュアからプロフェッショナルへと進化し
たか、といった成長過程が聞けるのではないかと考えたからだ。
 上記の経歴だけを見ていると、とんとん拍子に話が進んでいるよ
うに感じられる斎藤さんの人生は、どうやら激動の日々だったよう
だ。
 斎藤さんは、大学を卒業した時「世の中で働くということに全く
自信がなかった」「働くということ自体よりもお給料が大事だっ
た」という。雑誌の編集に関わるようになったのは本当に偶然だっ
たようだ。しかし自分に才能がないと思っていたかといえば、全く
そうではなかったらしい。

 「ブルータスの編集部に入った頃は、本人的には雑誌の編集者と
して天才じゃないかと思っていたわけよ。世の中にないものは思い
うかぶし、世の中の雑誌にもないことを思いつくし。30代の半ばは



                                  25
そんな状態。で、ある日、ポパイの副編集長に呼ばれて、それで週
刊誌を作ってみたのよ。ところが1年やったら十何億円の赤字に
なっちゃって、で、窓際に飛ばされたの」

 笑いながらおっしゃってはいたが、十億円の赤字とは相当だと驚
いた。何故そんな大きな赤字を作ることになってしまったのだろ
う。以前のポパイとどこを変えたのだろうか。

 「全部変えたよ。天才だから。そしたらものの見事に十何億円の
赤字作っちゃった。それで会社、社長に言われて、窓際に行った
の。その時は挫折。36、7だったかな」

 その時斎藤さんは「私の雑誌編集としてのキャリアは終わった
な」と思ったという。そこで、雑誌と単行本の中間のようなものを
作ったりしていた、と。しかし私はこの期間にこそ斎藤さんの編集
者としての経験が養われたのだと斎藤さんはおっしゃる。




26
 「そのとき、雑誌ってどうやってできあがるのかっていうビジネ
スモデルが自分の中で分かったのよ。それまでは編集のプロだとは
思っているけども、雑誌というビジネスを、計算はできていないわ
け。つまり何にお金がいくらかかり、どういう構造になってい
て、ってのがわかんなかった。だけどムック本を一人で始めるよう
になってみて、広告とはこうすればいいんだ、販売とはこうすれば
いいんだ、っていうことが自分の中でわかった。それは誰かに教え
てもらったわけじゃなくて、経験値としてその2、3年の間に分
かったのよ。そしたらある日役員会に呼ばれて、ブルータスの編集




                                27
長をやれって言われた。大復活なんだよ。その時ブルータスはほと
んど瀕死の状態になっていて、こいつでだめなら廃刊にしようと
思っていたらしいの。それで、ブルータスの編集長になったのが3
9歳だったのかな。その時にじゃあ、どうするかってことを考え
た。毎号二千万くらいの赤字なわけよ。年に、隔週なので23冊やる
んだけど、年間5億円ぐらいの赤字になるわけよ。そんな本もうあ
りえないじゃん。それで、リストラをしたり、男の人は本を買わな
いから、男性誌ってジャンルにいたブルータスをユニセックスにし
たりした。そしたら一年目が終わったころに、ほぼとんとんぐらい
にまでになった。二年目には二億円ぐらいの黒字になったわけ。そ
れはなぜかっていうと、なんせ自分で雑誌のビジネスモデルがよく
わかっていたから。なにをしなきゃいけないかが良く分かってるわ
け」

 以前に十何億円の赤字を作った人と同一人物とは思えないほどの
手腕で見事ブルータスを復活させた斎藤さん。ここに私はプロとア
マの差、斎藤さんのアマチュアからプロフェッショナルの成長があ
ると考える。それは斎藤さん自身良く分かっていらっしゃるよう
だ。

 「プロフェッショナルかアマチュアかっていう差は、簡単。自分
ができないことを知ってる人がプロフェッショナル。自分がなんで
もできると思っている人はアマチュア。プロフェッショナルってい
うのは、あるリミット、制限の中で仕事をするわけよ。予算はこれ




28
しかありませんとか、時間はこれしかありませんとか。で、結果は
これが求められますってのがプロなのよ」

 「プロフェッショナルは、自分の限界がわかっている。ここは出
来る。これは絶対無理。無理ならどうするかを考える。でもアマ
チュアは、全てができるかもしれないと思っている。それは仕事に
ならないじゃん。お金貰うためにはある期間と、ある予算と、ある
出来上がりの水準があって、それを達成しなければいけない。どう
やって達成出来るかを考えるのがプロフェッショナル。これはその
予算とその時間の中では無理だ、って判断するのもプロフェッショ
ナルなのよ。アマチュアは出来るかもしれないと思っちゃうわけ。
できるかもしれないは仕事していくときにはダメ。絶対に出来な
きゃ」

 ここで語られるアマチュア像はまさに自分で自分を天才だと思っ
ていた頃の斎藤さん自身であり、プロフェッショナル像もまた、ブ
ルータスの編集者だった頃の斎藤さん自身である。自分の限界が分
かるのがプロであり、分からないのがアマ。斎藤さんは、端的で分
かりやすい差異をさらりと提示した。やはりこれまでの人生で深く
実感されたことだからこそ、すぐに言葉として出てきたのだろう。
また、プロとして仕事をするならばやはり現実的な問題、つまり予
算や時間の制限を忘れてはならないようだ。もう少しプロフェッ
ショナルであった斎藤さんの編集者としての仕事について伺ってみ
る。




                                29
 「私が雑誌の編集者になって思い始めたことは、まず、原稿が書
けなくてもいいと思ったの。何故なら原稿を書くのがうまい人は世
の中にいっぱいいるから。写真とれなくてもいい。でしょ?カメラ
マンで優秀な人はいっぱいいるから。スタイリングできなくてもい
い。スタイリストにも優秀な人はいっぱいいる。イラストレーター
も。つまり何もできないのよ。何の才能もないのよ。何の才能もな
いんだけども、その人たちを集めるってことだけは出来ると思って
る。集める方法は簡単で、企画なのよ。おしゃべりじゃないの。編
集者はネットワーク、人脈だっていう人たくさんいるんだけども、
あんなのウソですよ。面白い企画があれば優秀なタレントはいっぱ
い集まってくる。寡黙だろうがなんだろうが。しゃべらないやつだ
ろうが。無粋なやつだろうが。だってその仕事が面白そうなら人は
集まるんだもん」

 なるほど、言われてみればその通りだ。では、自分の限界はどこ
で分かるようになったのだろう?やはり仕事をしていく中で、であ
ろうか。

 「そう。初めは天才だと思ってたから。私には何も出来ないこと
はないと思ってたわけ。だけど、仕事をしている内に、ああ出来な
いんだと気付いた。出来ないんだから、出来る才能を集めればいい
んだと思ったのよ。雑誌の編集者っていうのはアーティストではな
くてコーディネーターなのよ。全部自分でディレクション出来る
し、才能を動かせなきゃ。雑誌って共同作業だから、一人では絶対
できないし。例えば一冊の雑誌を作るのに月刊誌だと、今普通に



30
ファッション誌だと編集部だけで20人ぐらいスタッフがいるわけ
よ。さらにその周りに多分、原稿書く人だとか写真撮る人だとか含
めると100人ぐらいいる。デザイナーもいる。それから印刷する人
がいて、広告集める人がいて、売る人がいて、運ぶ人がいて…膨大
な人がたった一冊の雑誌に関わるわけよ。一人じゃ絶対無理」

 自分の限界を知っているからこそ他人に頼ることが出来る、他人
のありがたみを理解出来る。このような謙虚、いや、適切な態度こ
そがプロフェッショナルとしての斎藤さんの根底にはあるのではな
いか。
 ブルータスの編集長の後に務めた『VOGUE NIPPON』編集長
も、現在は既に退任している斎藤さん。今後は個人的に幸せになる
ことを考えているという。しかしデジタル媒体に食われてしまうの
ではないか?と近年囁かれている雑誌の今後については、強い意見
をお持ちのようだ。

 「紙の優位性ってのはいくつかあって、ハンディだとか戻れるだ
とかあるんだけど、一番は始まりと終わりがあるということ。紙の
メディアっていうのはスタートと終わりがあるのよ。だからそこに
は時間がある。デジタルの世界には始まりと終わりがないのよ。例
えばネットで何かをひいていったら、延々と出てくるわけじゃん。
物語がないのよ。あれは、検索されたアルゴリズムで出てくるだけ
であって、物語をつけてるわけじゃない。だけど雑誌の場合、そこ
には編集者が作った物語がある。だから表紙をあけて最後のページ
までいったときに、ある物語が完結するように出来てるわけ。雑誌




                                    31
が絶対残ると思ってるのはストーリーが一冊の中にあるから。ス
トーリーは、最初と最後がない限りストーリーとは言わないわけ
よ。でしょ?ネバーエンディングストーリーってのは最初から語義
矛盾なの。ストーリーにはネバーエンディングはない。必ず始まり
と終わりがある。デジタルにはそれができない。やろうとすれば出
来るのかもしれないけど、さてどこでどう終わらせますか?ってい
う話になるわけよ。アプリは可能性としてはあると思う。アプリ
は、最初と最後があるから。だけど、どこまで物語を作れますかっ
てことが一番問題なのよ。ストーリーを作れるか。ストーリーのな
いものをいくら見せられてもあんまり興奮しない。じゃ、ストー
リーはどうやって出来るかっていったら、編集者のものの見方な
の。よく、紙のメディアはなくなるんじゃないですかって、雑誌の
編集者はどうしたらいいんですかって聞かれるけど、コンテンツは
なくならない。でしょ?コンテンツメイキングはなくならない。そ
してコンテンツメイキングが、多分、アプリとか紙媒体でもそうだ
けど、一番よく出来るのは今の所雑誌の編集者。あるコンテンツ
を、テーマがあって、作るんなら今んところ雑誌の編集者が一番う
まい。ネット上だけでとか、アプリだけでコンテンツを作ってる所
にまだ面白さがないから。だからコンテンツメイキングだけは残る
し、雑誌の編集の仕事も残る」




32
 「今後、雑誌ビジネスを、若い人に伝えていこうという気持ちは
ない。若い人は自分で考えるべき」と斎藤さんは語る。このテーマ
については、私たちもまだまだ考える余地があるようだ。



斎藤和弘さんインタビュー動画(外部リンク)

http://ocw.u-tokyo.ac.jp/podcasts/mcw2011/2011mcw_4_s.mov




                                                       33
学生のリフレクション

・松田健吾
 プロとアマの違い。それをプロ中のプロであるVOGUE NIPPON
の元編集長である斎藤さんに聞くことができたのは本当によい経験
だった。特に印象的だったのは、やはり雑誌の編集者はコーディ
ネーターであるべき、という箇所だ。編集者たる者は細々した知識
はいらない。必要なのは、質の高い企画。才能はあとからついてく
る。そう述べていた。
 この話には非常に感銘を受けた。しかしここで誤解してはいけな
いのは、斎藤さんの企画力は長い下積み期間によって養われたとい
うこと。編集の仕事を一通り経験し、挫折を乗り越えてきたからこ
その企画力だと思う。編集者は良い企画さえ出せればよいのだが、
そうした企画は軽々しく出るものではない。斎藤さん自身の経験を
踏まえて聞いたその話は、私の心に強く響いた。

・村島夏美
 斎藤さんがテーマを初めから意識して下さったおかげで、「プロ
とアマの差は一体何なのか?」という問いに対する、自分でもなる
ほどと感心してしまうような答えが得られ、有意義な一時間となっ
た。能力の有無がプロとアマの違いなのだろうと漠然と思っていた
私には、斎藤さんの話はとても興味深かった。プロとアマの違いを
これまでに考えた人に読んで欲しいのは勿論、これまで意識してい
なかった人も、この記事を読むことでその重要性に気が付いてほし



34
い。またテーマからは少しそれるが、紙媒体である雑誌にはストー
リーが込められているという話も私的に非常に面白いと感じたた
め、記事の内容に盛り込んだ。自分自身の記事にもストーリーを込
めたつもりである。

・金子彩
 私自身、斎藤さんにあこがれを抱いており、そうした意味で、今
回インタビューをすることができ、私個人としても、また斎藤さん
のインタビュー内容を広く同年代の学生とも共有することができた
ことも、嬉しく思っている。プロフェッショナルとアマチュアの違
い、を趣旨としたインタビューで、芸術家などといった表現を仕事
とされる方であれば、そこを上手く聞き出せるのではないか、編集
者であった斎藤さんから上手くそこを聞き出せるのだろうか、と
いった不安を抱えてのインタビューであったが、斎藤さんの「プロ
フェッショナルは自分のできないことがわかっている人」という明
確かつ納得させられるお言葉に感動し、これからもこのお言葉を自
分の中の軸にできればと思った。




                                35
大学生にとって「仕事を選ぶ」ということはわからないことが多
く、決めるのが難しい問題だ。私達がインタビューした柳田俊樹さ
んは、雑誌業界の大手日経BP社で働いた後、今はカフェを個人で経
営している。大手会社と個人経営のお店、両方で働いた経験を持つ
柳田さんが考える「働く」とは――。



将来どんな仕事をしたらいいのだろう

 「仕事を選ぶ」というのは私達大学生にとって非常に大きな問題
だ。日本企業の伝統的雇用形態であった、いわゆる終身雇用が揺ら
ぎつつあるらしいとはいえ、一度就職してしまえばそこでずっと働
き続けるというイメージのほうが大学生にはまだ根強い。そうなる
と仕事を選ぶときにはよほど慎重にならないと、大きな後悔になり
かねないという不安がある。では、仕事を選ぶときには何を大事に
したらいいのだろうか。好きな事をできることだろうか?それとも
できるだけ収入が大きいことだろうか?


36
 私達がインタビューした柳田俊樹さんは、雑誌業界の大手である
日経BP社に就職した後、部長職の時に病に伏せる。回復後に日経BP
社を退職。現在では代々木八幡駅から徒歩2分のところにあるカ
フェ“Lugar Comum”(ルガール・コムン)を営んでいる。
 今回の取材では、大企業とカフェ経営のふたつを経験した柳田さ
んへのインタビューを通じて「働く」ことについて、「仕事を選ぶ
こと」について考えてみたい。



柳田さんの経歴

 私達はまず柳田さんが実際にどのような仕事をされてきたのか、
その大まかな経緯を伺うことにした。そもそも、柳田さんはどうし
て日経BP社に就職されたのか。

 「元々はテレビ関係の報道記者の仕事がしたいなあって大学時代
に思っていて、マスコミを受けたんですけど受からなくて。その時
に友達の紹介で知った会社の広告営業系を受けて、受かった。ま
あ、営業系のところに入ったって感じですね」

 意外にも当時日経BP社は第一志望ではなかったと語る柳田さん。
希望通りの就職とはいかなかったそうだ。では日経BP社ではどうい
うお仕事をされていたのか。やはりその後カフェを始められたこと
を考えると、飲食業を取り扱う雑誌である「日経レストラン」で長
く働いていたのだろうか。




                                   37
 「日経レストランにもいました。日経ビジネスで、広告のセール
ス。その後コンピュータ雑誌に2年いて、ナショナルジオグラフィッ
クっていう自然雑誌のあと日経ビジネス担当したり。ま、ローテー
ションは結構あるんですよ。で、病気が見つかった一年が日経レス
トラン。だからトータルでは日経ビジネスの仕事が多かったって感
じはします」
 日経BP社時代にはいろいろな雑誌に携わり、特に飲食店関係を重
点的に扱っていたというわけではないそうだ。では現在のカフェの
仕事を始められたのはどういったきっかけだったのか。

 「なんでカフェかっていうと、料理するのが好きだから。料理し
て、食べてもらって、美味しいっていわれるのが好きだから。これ
までの経過を話すと、日経BP社で2007年に部長職になったんです
が、一生懸命働いてたら、病気になってしまって。以前から漠然と
店をやって新しい生き方を見つけるのもありかなって考えていたん
で、妻を説得した。それで飲食店をやると決めて、会社を辞めたと
いう感じです」

 かくして現在のカフェの経営に至ったという柳田さん。日経BP社
への入社は当時の第一志望ではなかったということだし、大手から
個人経営のカフェに転職をするというのは大きな決断だったに違い
ない。それならば、柳田さんがどういう風に考えて仕事をされてき
て、どういった思いで転職をしたのか、ますます気になるところで
ある。では実際に柳田さんは、これまでどのように「働く」ことに
向き合ってきたのだろうか。




38
「仕事を選ぶってことは、どう生きるかを選ぶことだと
思う」

 「元々は報道記者志望だったけど、広告営業が嫌だったかという
と、全然嫌なことはなかったし、クリエイティブな仕事もあった
し、そういう意味ではどの仕事でも満足していたと思う。もちろん
報道記者みたいなものをやっていればそれはそれで喜びを得られた
かもしれないけど、それでもじゃあ広告営業だったから喜びはゼロ
かって言ったらそんなことはないんじゃないかなって気がします」

 日経BP社に務めるまでは報道記者志望だった柳田さんだが、広告
営業のお仕事で大きな仕事をいくつもこなし、順調な働きぶりだっ
たとは本人の談。私達からすると自分の第一志望の職種が出来ない
ことは大きく落胆することのように思えるが、柳田さんは仕事を選
ぶときに大事なことは「業種」ではないのだという。
 「仕事を選ぶってことは、どう生きるかを選ぶことだと思う。自
分の性格と、自分がこれからどう生きていくのかっていうところを
考えて仕事を選べば、例えば勤め先がメーカーでも会計事務所でも
飲食店でも、そんなに差はないと思うんですね。行った先々で興味
を持ってやっていければ、どの仕事も楽しい」
 仕事を選ぶときに大事なことは、「なにをするか」ではなくて、
「どう生きるか」。自分がどの仕事を選びたいかというところじゃ
なくて、自分がどういう生き方をしたいかをベースに仕事を選べ
ば、後悔の少ない選択が出来るという。もし仕事に打ち込むのであ



                                39
れば、自分がどういう仕事にモチベーションがわくのかを考えれ
ば、第一志望の職種でなかったとしても柳田さんのようにやりがい
を見出すことが出来るだろう。自分にあった仕事であれば、たとえ
きつくてもそこまで嫌に感じることもないという。

 「普通、きついこと=嫌なことだったりするんだけど、きついこ
とが嫌じゃないってことはすごく幸せなことじゃないかな。病気が
見つかる頃の部長だった一年は20何年間の中で一番きつかった。で
もそんなに嫌な感じはしなかった。今は朝8時くらいから働いて、
ずっと下ごしらえと皿洗いして、18時に店開けて、この2カ月くら
い寝てる以外はほとんど働いてた。テレビも全然見てないから世の
中どうなってるかわからないけど、それでもすごく幸せ。多分これ
自分の嫌いな仕事だったらすごく嫌な感じがすると思うんだよね。1
分でも早く終わりたいと思う。でも今だったら1分でも多くちゃんと
仕込んで、お客さんにおいしいって言ってもらいたい」




40
実際にお店に伺ってみました。とてもおしゃれな雰囲気でした。



 寝る以外ほとんどの時間を費やせる仕事を出来るならばまさに
「きついけど幸せ」だと言えるだろう。だが仕事を選ぶ際にとにか
く打ち込める仕事にするべきかというと、必ずしもそうではない。
仕事を選ぶということはどう生きるかを選ぶことであり、そこには
仕事に生きるという選択肢と同じように、仕事以外に生きるという
選択肢がある。

 「たとえば家族といることに喜びに重きをおくのであれば、仕事
は楽で収入があって時間通りに帰れる方が望ましい。だから自分が
17時に帰って子供と食事をしたいってところにベースを置くんであ




                                41
れば、給料がおそらく安い仕事にはなっても満足感はあるわけです
よね。でも、自分はいっぱい給料欲しいとか、大きい仕事がしたい
と思っているひとがそれを選んじゃうと、仕事は短い時間でも苦痛
に感じちゃう」

 どんな仕事をするか。仕事にとことん打ち込むか。家族とどのよ
うに接していくか。仕事だけを選ぶのは難しいが、仕事を自分の送
りたい人生の一部分だと考えればいい選択ができると柳田さんは語
る。確かに「なにをして働くか」よりも「どういう生き方がしたい
か」と考えた方が身近でイメージがしやすい。
 しかしどんな生き方をするかでさえ私達大学生にはこれと決める
には難しい問いだ。やはり一生を左右する問題だと考えると、決め
なければいけないと思っても迷いなく決断することは難しい。だ
が、柳田さんはむしろ「自分を決めつけ過ぎないほうがいい」と
語った。柳田さん自身にも「どう生きるか」に変化があったのだと
いう。



「選んで変えちゃいけないって事はない」

 柳田さんがカフェに転職したことの背景には、柳田さんのどう生
きるかの考え方に変化があったそうだ。

 「僕も、会社に入って入社した頃は多分この会社で一生働くし、
ある程度偉くなりたいし、収入も一杯取りたい、って思っていた」




42
 就職して26歳になるまでは日経BP社でずっと働くだろうと考えて
いた柳田さんに気持ちの変化をもたらしたのは、親しい友人の死
だったという。
 「来年自分が生きていると思いますか?思うよね?普通はみんな
来年自分が生きていると思ってるけど、僕は26歳くらいの時から来
年生きているかわからないって思っているんですよ。ていうのは、
26歳の時に仲の良かった友人が白血病で亡くなって。その時から、
明日はわからないなって。一年後の自分なんてわからない、と僕は
常に思ってきているので多分それもあって、一生のうちに仕事が一
個じゃつまらないと思ったようなところはある」
 友人の死を受けて、「やれるときにやりたいことをやろう」と決
めたという柳田さんに、部長職のとき病気が降りかかった。それで
更に強く来年に自分はいないかもしれないという気持ちが強まった
という。
 私たちはどう生きるかというものをこれと決めたら簡単には変え
てはいけないという考えがちだが、むしろ変えることを怖がる必要
はないのだと、柳田さんは語る。

 「選んだことを変えちゃいけないって事はないんで。例えば自分
では仕事はどうでもいい、自分の時間こそ大事にしたいと思ってて
も、仕事を始めて面白くなって仕事にのめりこむ人もいる。僕は結
局働いているうちに面白くなって、でも自分の病気とか友達が亡く
なったこととか、そういうところで事情が変わってきたところで考




                                43
え方は変わった。で、変わることを素直に受け止められる精神状態
だけがあれば、正しいものを選べるような気がするんだよね」

 仕事を選ぶことは生き方を選ぶことではあるが、その生き方も生
きていくうちに必ず変化していくものだから、その中で変化を受け
入れることが大事なのだと柳田さんは私達に伝えてくれた。いつか
変わることが自然だと思えば、仕事を選ぶことは一生を左右すると
いうプレッシャーも和らぐ。仕事を選ぶことはそのときの生き方に
沿えばよく、その後のことはその後の自分の生き方に合わせていけ
ばいい。仕事を選ぶという決断自体も、自分がどう生きていくかの
なかの一部分に過ぎないわけだ。そう考えると、不安に包まれてい
た仕事選びが、より自由で積極的な選択だと思えるようになる。




44
バジルソースのリングイネを調理する柳田さん。香りたつパスタに思わず舌鼓




                                  45
終わりに

 柳田さんは最後にこう語った。

 「僕が話したことの中には時期が来ないとわからないことも一杯
あると思う。だからなんとなく、言っているポイントを覚えても
らってて、10年くらい働いた時に、あ、あの人そういえばあんなこ
と言っていたなって思い出してくれれば」

 今の私たちが人生のあらゆることを、今、無理に決めようとする
ほうが無理があるように思う。将来働いてみないとわからない「生
き方」というものを今うんうんと悩むよりも、今の自分の気持ちに
素直に生きて、また立ち止まったときにはこの柳田さんのお話をま
た思い出せればいいのではないかと思う。そのときの自分が柳田さ
んのように自分に素直な決断が出来ることを願うばかりだ。



柳田俊樹さんインタビュー動画(外部リンク)

http://ocw.u-tokyo.ac.jp/podcasts/mcw2011/2011mcw_1_s.mov




46
学生のリフレクション

・山口 雄大
 私はもともと将来のビジョンがうまく描けず、将来仕事を選ばな
ければならない(そしてそのために選ばれなければならない!)と
いうことについて漠然とした不安を抱いていました。しかし柳田さ
んの考える仕事の選び方を知って、大学時代にしなければならない
と思っていた「仕事を選ぶ」という難しい問題が、「自分が将来ど
う生きたいか」を考えるという、身近な問題になり、視野が開けた
思いがします。このお話に説得力があるのは、多くの人が憧れる大
手会社での仕事と、カフェという個人規模の仕事の全く異なった仕
事両方を経験されていた柳田さんだからこそだと思います。柳田さ
んにお話を聞けて本当によかったです。

・大垣 敬寛
 「将来、何になりたいの?」学生の間は、こういったことを聞か
れることが多々あります。しかし、就きたい職を持っている人は稀
ではないでしょうか。それよりも、どういうことがしたいか、とい
う希望を持っている人のほうが多いでしょう。例えば、人とたくさ
ん会うような仕事がしたいのか、それとも人と会わずに済む仕事が
したいのか、など人によって様々な考えがあります。ですが、それ
すらも表層的なものであり、もっと自身の深部にある、いわゆる価
値観を把握しておかなければ、必要以上に悩まされることとなるで




                             47
しょう。どう生きるのかが大事なのだと、その豊かな経験をもとに
語ってくださった柳田さんのお話には強い共感を覚えました。

・キム ジンヒ
 私は今まで、将来について「こういう仕事をしてみたい」というこ
とだけを考えていた。自分の興味をいかした仕事なのか、社会的に
どのような役割ができるか、など。しかし働くことというのも、「生
きていく」ことの一部分。仕事というのはいつ、どう変わるかわから
ないものであるけれど、私のライフスタイルを変えるのはなかなか
難しいだろう。自分の普段の生き方について別に就職と関連付けて
は意識していなかった私にとって柳田さんの話はすごく新鮮であっ
た。退院後の早速のインタビューで柳田さんには色いろと申し訳な
かったが、今回のインタビューを通して、これからの道を選ぶにお
いてもうひとつの新しい観点を見つけた気がする。




48
ルガール・コムン
〒151-0062
東京都渋谷区元代々木町2-11-101
TEL.03-3460-3600
[カフェ]OPEN:18:00-23:00(L.O.22:00)
[アロマセラピー]予約で承っております
定休日:土曜日/祝日




                                   49
起業を志す大学生が増えている。そのうちの多くは、組織のしがら
みや不自由から脱し、自分のやり方で成功したいという野心を持
つ。しかし、マッキンゼー退職後、「街オリ」という会社を起こし
て、地域活性に取り組む 佐々木文平さんは、こう言う。
「私は生意気だったから、大学卒業時に起業してもうまくいかな
かったと思います。メンター(師匠)の言うことを受け入れる謙虚
さがなければ、成功は難しい」
起業を視野に入れている学生が何を考え、何をすべきか、佐々木さ
んを訪ねた。



<学生が知っておくべきこと1> メンター(師匠)の
重要性

 浅草橋駅から徒歩5分ほどの静かなオフィス街に、株式会社「街オ
リ」はある。よく晴れた冬の日、神田川沿いの小さなオフィスビル




50
を訪ねると、数人のスタッフがアットホームな雰囲気で迎えてくれ
た。
 今回取材した佐々木文平さんは、大学卒業の後、マッキンゼー・
アンド・カンパニー(外資系コンサルティング会社)に就職し、国
際的なプロジェクトにも数多く関わりながら社会人としてのあり方
を学んだ。現在はマッキンゼーを退職し、「街オリ」という地域活
性の会社を経営している。学生のころから起業を志していたという
佐々木さんは、起業する前に大企業で働くことのメリットをこのよ
うに語る。

 「よい企業には、社会から求められる水準を実践しながら教えて
くれる先輩や上司がいます。仕事に取り組む姿勢やスキルというの
はとても重要で、自己流だけでは身につけることがとても難しい。
私は3年間マッキンゼーに勤めたことで、メンターの重要性に気づく
ことができたと感じています」

 厳しく自分を鍛えてくれる人を見つけることが重要であると強調
した彼は、こう続ける。

 「大学在学中や卒業直後に起業する人が、社会人としてのあり方
を身に付けることができるとすれば、それは、その人が謙虚で、組
織的な強制力がなくてもメンターの言うことを受け入れられる姿勢
がある場合でしょう。私は生意気だったからきっと無理だった。
マッキンゼーに入社して、厳しく鍛えられたから、今の自分がある
んだと思います」




                                51
 彼は、このように、師匠となる人の大切さを強調した。しかし、
人から学ぶことはそんなに重要なのだろうか。自己流で事業を進
め、試行錯誤しながら仕事の流儀を見つけていくことだって可能で
はないか。そう思っていた私の気持ちを見透かしたように、佐々木
さんはこう言った。

 「自分が未熟だったというのは成長してから実感します。自分の
未熟さが分かっていないうちは、『自分でゼロから動かしていきた
い』と考える。でもそれは自己満足にすぎません。成長して仕事の
やり方を身に付けたあと、『あ、あのとき、あの人はこれを言って
いたんだ』と気づくことがある。『どうして自分はこんなに遠回り
をしたんだろう。その人のやり方を参考にしておけばよかった』
と。そういうのは、先人を頼っていいんです。既に分かっているこ
とは聞き出した上で、自分なりに考えたことを付加し、新しいもの
を作り出す。そうやってこれまでにない価値を生み出すんです」

 メンターの重要性に気づいたおかげで、独立後の今も「自分を伸
ばしてくれる人」を見つけることができる幸運を得ている、と佐々
木さんは語る。「前職にはとても感謝をしている」と話す彼の目に
は、そこで働いたことによる強い自信が垣間見えた。では、そもそ
も彼はなぜ、大学卒業後すぐに起業せず、マッキンゼーに就職した
のだろうか。




52
<学生が知っておくべきこと2> 起業に必要な能力

 佐々木さんが起業を志すようになったのは、高校時代のアメリカ
留学がきっかけであると言う。アメリカで知り合った人たちから
「日本の良いところを教えてくれ」と聞かれ、明確に答えることが
できなかった。京都や奈良と言った観光地を紹介するのが精いっぱ
いで、自分なりに考える日本の良さを伝えることができなかったの
だ。日本には様々な場所があり、それぞれの良さがある。にもかか
わらず、自分がそれを知らないのは、地域の良さを発信する人や機




                                53
会が十分でないからだ。またそもそも発信するに値する魅力をつく
りあげていく必要がある。そう考えて、佐々木さんは地域の魅力を
創り、伝える仕事をしようと思うようになった。
 学生時代から起業したいと考えていた佐々木さんが、マッキン
ゼーに就職した理由の一つは、地域活性に取り組みたいということ
をぼんやりと考えていたものの、まだその確信を持っていなかった
ことにある。そしてもう一つは、会社を発展させていくために必要
な力を、起業をする前に身につけたかったからだと言う。
 それではなぜ、他の会社でなくマッキンゼーだったのだろうか。
それを尋ねると、佐々木さんは「初めの3年で経営力を身につけた
かったから」だと答えた。身に着くスキルの中身やそれが身につく
時期は、業界ごとに大まかな特徴がある。それを考えた際に、就職
しようと考えたのが経営コンサルティングの会社だったという。

 「起業して事業を回していくために必要な力は、特定の業界/商
品/サービスへ精通している力の他に、『人や組織に対する洞察力』
や『論理力、構想をまとめる力』、『物/サービスを売る力』などが
あります。例えば、金融に詳しい人がその分野で起業をする際は、
業界に精通していることがかなり役立つでしょう。こうした形は一
番着実と言えるかもしれませんね。コンサルでは『人や組織に対す
る洞察力』や『論理力、構想をまとめる力』を、いろいろな会社で
のプロジェクトを通じて身につけることができる。『物/サービスを
売る力』については商社などが身につけやすいと思います。この売
る力と言うのは最後の最後でとても大切なので、商社にいるととて




54
もリアルなところで『ビジネスが成り立つとは何か』の感覚を得る
ことができると思います」

 「時間軸も付加して考えてみると、起業に必要な力をバランスよ
く身につける為には、35歳くらいまで商社で働いて、子会社の経営
を任せてもらうのがとても良いだろうと思います」と佐々木さんは
言う。実際に「会社を経営する経験をする」のはとても大切なこと
だ。大手の商社等ではそうした機会も多くあり、それに至るまで優
秀な人材への投資を惜しまないことが多い。それゆえ、そこで働く
ことは自分の実力を上げることに繋がるのだという。しかし、短い
期間で、経営力を身に付けたいならば、新人時代から少人数で責任
あるプロジェクトを担い、バリバリ働かせてもらえる外資のコンサ
ルは良い選択肢であるそうだ。
 「日系企業では、より長期的な視野で人材育成を考えているの
で、最初の2, 3年はじっくりと研修をする期間だったりします。そ
の後、実践を積む前に辞めると、仕事を完遂する力がモノにならな
いこともあるかもしれませんね」



<学生が知っておくべきこと3> 起業するリスクと大
手企業で働くリスク

 大手企業で働くことには、多くのメリットがある。とくに佐々木
さんが強調したのは、「優秀な人材は大きな投資をしてもらえる」
ことだった。上司の信頼を得ることができれば、やりがいのある仕
事を任され、自分の成長にもつながる。また、一般に言われる通


                                55
り、日系の大企業は外資系企業に比べ、解雇されることが少なく、
収入が安定しているというメリットもある。
 一方で、日系大企業に勤めることにはデメリットもある。

 「日系大企業では解雇されることが少ないため、怠けていても何
とかなることがあります。しかし、その状態に甘んじていては、実
力はつきません。外資系のプロフェッショナルファームでは、少人
数で責任ある仕事を担い、また業績も厳しく見られるため、必死で
働かざるを得ない部分があって、そのおかげで必然的に力がつきや
すいと思います」

 一般に「外資系はリスク高い」と言われているが、個人としての
能力をしっかりと高めておけば、活躍の場所は今の職場でなくても
見つかる。人生としてのリスクは低いと言えるはずだ。

 佐々木さんは、就職後4年目に独立を決心する。社会的に確立した
企業を辞め、高校時代からの目標だった起業をした。そのとき感じ
た不安を彼はこう表現する。
 「マッキンゼーを辞めると決めたとき、暗い部屋の中で横たわっ
て、じっと天井を見ながら『この後どうなるんだろう』と考えまし
た。独立して何を成し得るか、確信があったわけではありませんで
したから」
 「でも、高校生のころから起業したいと思っていたから、やらな
かったら後悔すると思いました。起業がどういうものか、分からず
じまいになってしまう。あと、嫁さんや子供ができたら、リスクを




56
負いにくくなる。何ができるか 確信はないが、地域活性化という業
界に、まずは飛び込んで、実際にやってみようと思いました」

 30代半ばまでは、新しい領域にチャレンジすることができる。若
い間は多少の間違いを大目に見てもらえることもある。しかし、40
歳を超えると新しい領域に踏み込むのは難しくなるそうだ。歳と共
に思考が保守的になりやすいことに加え、家族や地位など、守るも
のが増えればリスクを取る決断はしにくくなる。自分で事業を創る
ときに大切な、「手を伸ばしていない領域にチャレンジする」こと
は、歳を重ねるとともにハードルが高くなっていくのだ。また若い
からこそ「面倒を見てやろう」と思って下さる方も多く、これも大
きな要素だという。
 一見、大企業をやめることはリスクが高く、無鉄砲な決断のよう
に見える。しかし勤め続けることにも新しい領域に踏み込みにくく
なるリスクはあるのだ。佐々木さんはそれを冷静に分析し、起業の
決断をしたようである。
 また、彼は自分がマッキンゼーを辞めることのできた理由の一つ
として、自信たっぷりにこう言った。

 「『まぁ、何があっても、最終的にはなんとかなるんじゃない
か』という考えはありました。たとえ事業に失敗しても、受け入れ
てくれる企業はあるんじゃないか、と。前職(マッキンゼー)のブ
ランドのこともそれなりにありますし、責任感を持ってしっかりと
仕事をやりきることが出来る人材はどの企業にとっても貴重だろう




                                57
と思うので、例え失敗することがあっても再就職できるだろうと考
えていました。だいぶ楽観的でしたね」
 佐々木さんはこう言って、朗らかに笑った。




<学生が知っておくべきこと4> 大学生活で学んだこ
と、学んでも意味がないこと

 佐々木さんは多くの学生がフレームワークの知識を身につけて、
実力がついた気になっていることに警鐘を鳴らす。




58
 「アカウンティングや経営戦略といったフレームワークは、大学
で学んだだけではあまり意味がありません。フレームワークは実際
に使いこなさなければ意味がない。本だけ読んでも実践を積まなけ
れば、実力がついたとは言えないんです」

 経営戦略などの分野のフレームワークは、働きながら実際に使う
ことで意味をなす。将来起業をするために、学生時代にフレーム
ワークを学ぶのは良いが、それだけでは実質が身に着くことはな
い。その後、実践経験を積んでこそ、その力が付くのだそうだ。

 「もし、もう一度、大学生活をやり直せるとしたら、体育会系の
部活に入るかもしれません。みんなと協力して、一つのことを成し
遂げるのは、とても貴重なことだから」

 大学生活について尋ねると、佐々木さんはこう言った。友人と関
わり合いながら、達成すべき目標のために努力をする。それが、大
学生活で学べる最も重要なことの一つだと言う。
 大学生にはいろいろやりたいことがある。佐々木さん自身も大学
時代、いろいろなことに手をつけていたという。興味が拡散的であ
ることは、教養をつけ、人生に広がりを与えることに繋がる。何と
いっても、様々なことに手を出せるのは、大学生の特権だ。ただ、
すべてが中途半端に終わる危険性があることを、忘れてはならな
い。佐々木さんはこう言う。

 「自分が何に興味あるのかを探し、一つのことをある程度語れる
ようになったら、また別の興味あることを探しに行く。こうやって



                                59
自分の引き出しを広げて行くとも良いと思います。でも、どこかで
切り替えることが必要で、一つ『これだ!』というものが見つかっ
たら、それをやりぬくことも大切です」

 社会人になっても興味散漫のまま、歳をとって振り返ったらすべ
てが中途半端なままだった、という話を聞くことがある。一つの分
野をやり抜くことでのみ、見えてくるものは多い。様々な分野に興
味を持つのは良いことだが、「これだ!」というものが見つかった
ら、それを突きつめるべきだ。

 今は様々なことに興味を持ち、多くの関心分野に手を伸ばしたい
と考えている大学生も、いずれ「本当にやりたい物」を見つけ、そ
れを突き詰める段階に入るだろう。その段階では必ず、人生を左右
する、大きな決断を迫られる場面が来るはずだ。地域活性の事業を
起こすため、マッキンゼーを退職した佐々木さんのように、「本当
にやりたい物」を優先させ、リスクを取らなければならないことも
ある。
 決して忘れてはならないことは、決断をするにあたって、「やり
たいことを優先させる」ことと「あきらめる」こと、それぞれのリ
スクとメリットを冷静に分析することだ。いずれの選択肢を選ぶに
しろリスクはある。「やりたいことをあきらめる」という選択肢
が、人生に与えるリスクも、決して見落としてはならない。




60
佐々木文平さんインタビュー動画(外部リンク)

http://ocw.u-tokyo.ac.jp/podcasts/mcw2011/2011mcw_2_s.mov



学生のリフレクション

・伊藤 明日斗
 佐々木文平さんのインタビューは私や、これを見る人々すべてに
とって大変有意義な内容になったと思う。それは、彼のように20代
のうちは自分が働きたいように働くという生き方は、私が望むもの
であるし、これからのスタンダードになると思うからだ。情報化、
グローバル化、少子高齢化が進む現在、日本ではその急激な変化に
対応できていない分野が数多く存在する。そして、その変化に対応
するには従来の大企業では補えない部分が出てくる。それを感じた
若者の多くは起業したり、大企業に入ってもスキルアップを望む。
しかし、起業に失敗してしまった若者は?その受け皿はあるのか?
それが未だに不安ではあるが、その答えの一つがこの記事だと思
う。

・増澤 融
 今回の佐々木さんへのインタビューを通して得られた最も大きな
ことは、どんな形態で仕事をするにしても把握しておくべきことを
学べたということだ。私たちが佐々木さんにお話を伺ったのは大学
卒業直後の起業と、いったん大企業に就職した上での起業の明確な



                                                       61
差異を知るためであった。佐々木さんのインタビューを進めていく
うちに、仕事をする上で大切な姿勢やスキルというものがまずあっ
て、それをどう獲得していくかの差異であるということに気づい
た。つまり大企業にいったん勤めることはそれらを身につける方法
論の一つだということだ。何も考えず起業のタイミングばかりに注
目するのではなく、仕事に必要な力をどのように身につけていくか
ということを考えていきたい。またこれを読んだ学生の方にも考え
てもらいたいと思う。

・須田英太郎
 僕たちは自分の人生に責任を持たなきゃいけない。数十年後、お
爺さん・お婆さんになって自分の一生を振り返ったとき、「いろん
なことがあったけど、自分の人生に満足している」と言って笑いた
い。そのためには、自分で選択することが必要だ。無批判に他人の
生き方を模倣し、失敗した際それを他人のせいにするのではなく、
自分で選択しながら生きていきたい。本当にやりたいことをやって
いれば、万が一失敗したとしても、大きな満足感を得ることができ
るだろう。日本全体がマイナス成長の時代となった今、人と同じに
やっていれば成功するというのは幻想だ。自分が本当にやりたいこ
とを見つけ、一途に努力することが、将来「満足のいく人生だっ
た」と思うために、いま僕らがすべきことだと思う。




62
誰もがうらやむような大企業を辞め、「トーキョーよるヒルズ」と
いうシェアハウスで暮らし、仕事をする高木新平さん。友人の会社
を手伝ったり、コピーライターとしてお仕事したり、シェアハウス
の住人と共にお仕事したりと、今までにない「働き方」を模索して
いる。このような働き方を実践するに至った高木さんの思いとはど
のようなものなのだろうか?



 「ごめん。今、しんぺー、風呂入ってるからテキトーにくつろい
でて。」
 インタビューの約束の場所である部屋に向かうと、そこには高木
さんではない男性が私たちを出迎えて下さった。
 ここは高木さんが暮らす昼夜逆転シェアハウス「トーキョーよる
ヒルズ」。そして出迎えてくださった男性はここで共同生活を送る5
人のうちの 1 人、藤田卓也さんであった。ここ「トーキョーよるヒ
ルズ」は「目指せ、おもしろプラットフォーム!」をコンセプトに



                                 63
2011年6月に高木さんを中心として始まったシェアハウスで、現在
は高木さんや藤田さんなど男女5人が生活しているほか、短期の宿泊
客なども受け入れているという。
 風呂からあがってきた高木さんがは開口一番。
 「緊張してるねー」
 とても優しそうな方に見えた。
 まずは、高木さんに、現在なさっているお仕事のお話から伺っ
た。

 「その質問が一番難しいんですけど、一応 3 つの大きな柱で、仕
事って言う意味では仕事をしています。1つは友人の人材ビジネスの
会社をちょっと手伝ってて、結構週5くらいで関わっています。あ
と、友人というかここの住人なんですけど、その人と一緒に”亡く
なった後にその人の思いを届けるっていう事業”を創っています。
それが2つ目で、3つ目は、お金をもらってフリーランスとして、学
校とか企業とかのブランディングをしているっていうものです。そ
れはここの住人とパートナーを組んでやっています。」

 高木さんの現在の活動に、「組織」という言葉はでてこない。気
の合う仲間の事業を手伝ったり、事業開発をしたりしている。それ
らが複数存在するのが、高木さんの「働き方」である。
 様々な企画に携わる高木さんであるが、その中で特に「自分なら
では」の活動だと思うものを伺ってみた。

 「ムズイねぇ。でも、それたぶん「問い」自体が違ってて、むし
ろ、『働く』をいろいろ持っているって言うのが、多分自分ぽいっ



64
ていうか、今問われている中での自分の一つの答えだと思うんです
よ。友達と小さな会社とかをやりながらも、その一個社会的な課題
に対して解決するようなサービスみたいのにコミットする反面、一
応個人でも仕事もらっていて。多重層的に仕事をやっていて、なん
か、境目が曖昧な感じの働き方が、まぁたぶん僕の挑戦なのか
なぁって思ってますけどね。」




 インタビュー序盤にして早くもこのインタビューで聞きたいこと
が聞けたような気がした。「境目が曖昧な働き方」こそ高木さんの
「働く」だという。




                               65
 かつて高木さんは、広告代理店の博報堂に勤めていた。そこを
数ヶ月前に退職し、現在の働き方にシフトしている。この「曖昧な
働き方」を始めるにあったって怖さというものは感じなかったのだ
ろうか。

 「若いと、極論自分の事だけ考えればいいわけじゃないですか。
その、家族いなくて、子供ができたりとかしたら、そこにはもう一
個の責任があるから無理だけど、今は出来る。だから別に、そんな
に怖さは無かったですね。別にそれはどういうチョイスでも生きて
いけるとは思うけど、個人的には、好きな事やりたいっていう思い
が強かったので。」

 高木さんは「曖昧な働き方」に怖さは感じない。むしろ、「好き
なことをやりたい」という思いが、それを凌駕していた。
 筆者たちは、これまで「大企業ではそこまで自分の好きなことが
できない」と考えていた。なので、高木さんが、大企業である博報
堂に大学卒業後入った理由が知りたかった。やりたいことをやりた
いのなら、その時点でもっと小さな会社でのびのびやるという考え
はなかったのだろうか。

 「そもそもそれは多分違って、好きな事やるなら大企業じゃな
くってベンチャーとかの方が裁量が大きいとかっていうけど、実は
それは違って、大企業の方が、一人一人何してるかわからないじゃ
ないですか。(笑)べンチャーだったらある程度コミットしなければい
けないし、極論言ったら、辞められなかったりするし。」




66
 退職後、博報堂のことはどのように思っているのだろうか。

 「博報堂の目指している事とか、考え方とか、そこにいる人たち
の思考している事とかは、すごい好きだったし。そこでどういう風
な役割として果たすのかっていうのも、 すごく自分の目指している
姿と合致した。ただ、僕が入社したときは Twitterとか、次の年は
Facebookとかっていうところで、代理店は、てんやわんやになっ
て、社会の仕組みとか、コミュニケーションの構造とかが異常な感
じで変わっていって。既存のものと、ネットを端に発して変わりつ
つあるその潮流とっていうのとの間にすごい溝が出来ているんか
な、っていうのはめっちゃ感じて。で、そういう既存のやり方して
もしょうがないなって思いました。」

 既存のやり方が上手く機能しなくなり、これからのどのように働
いていくのが望ましいのかに関して個々人が模索するような時代だ
からこそ、やはり一人一人がやりたいことを見つけて追求していく
ことが大事なのだろう。自分の大事な事、やりたい事、思っている
事を大事にする」という高木さんの考え方は、インタビュー中に何
回も現れていた。




                                     67
 博報堂を辞めた高木さん。博報堂で、高木さんは学んだことは何
だったのか。それは「側思考をしない」ということだと、高木さん
はいう。

 「思考ってなんか、そのフレーム(側)を満たせば満足みたい
な、なっちゃってるんだよな。例えば、このインタビューがそうだ
けど、この僕が今、ここで喋っていることを学生が出版しますって
なったときに、多分、この授業では、最初から電子書籍って言うフ
レームがあるじゃん。でも、本当に、それって、数ある選択肢のう
ち「ベスト」なの? 普通に朗読しながら出てくるサイトでもいい
かもしれないやん。わかんないけどね。でもそういうところって別




68
にその名前がないから電子書籍っていうのが出てきちゃうからだけ
ど、まあその時点でどういう風に見せるかは結構思考停止しちゃっ
てるやん。枠組みが捕らえられてるっていうか。」

 高木さんによると、「側思考(がわしこう)」とは自分の中にあ
る考えや概念をアウトプットする際に、既存の枠組みを疑う事なく
その枠組みから考えてしまう思考の事だと言う。先の高木さんの例
で言えば、記事の伝え方に関して、深く考え自分の中に落とし込む
というプロセスを経ずに「電子書籍」という枠組みに乗っかってし
まう思考のことである。

 「側思考をしない」というのは今の高木さんの思想の根幹のよう
な気がした。
 側思考をせず「自分の大事な事を大事にした結果」、高木さんの
「働く」のかたち、今のような世の中の常識から見れば、「非常識
的には尖って見える」ものになったのかもしれない。




                             69
 「博報堂を辞めました。」という彼のブログの記事の中で高木さ
んは「『働く』の新しいかたちを見つけていきたい。」と述べてい
る。このインタビューの最後にその「新しいかたち」は見つかった
か、ということを聞いてみた。

 「見つかんないよ、それは。いやでもまあ別に日々実験だから。
なんだろ、分かんないけど、『働く』ってそこん中では書いてるけ
ど、働くって多分どう生きるかに結構近いし、分かんない訳。だけ
ど自分のこうじゃないかなっていう事を素直にやったら、それでい
いのかなーみたいな。やりたいことを素直にやったら後々、後々っ
てか多分今の時点でも既存のものと乖離し始めてるけど、もうだっ




70
て、今の時点で、普通の学生から見て、多分選択肢に入ってない感
じの生き方だと思うんすよ。その、いやいや、 なんか就職すんの?
みたいなこと言われて、いや、就職とかじゃなくてーって。えー、
何を仕事にすんの?いや、どっから仕事か分かんないんだけど、み
たいな。誰と仕事してんの?いや、そのときそのときで変わって、
住人とも結構多くて、みたいな。で、お金どこから稼いでんの?い
や、そんとき次第かなー、とかっていうのは、選択肢にないじゃな
いっすか。恐らく。でも、僕は別にそれでも成立するし、それでも
面白いと思ってるし、実際そうなってからいろんな人と出会うよう
になったし。面白いと思ってもらえたのか知らんけど。まあそうい
うのが、よりどんどんどんどん進めていければいいなって思います
ね。」

 まだ学生である私たちに「働く」ということはやはり分かる訳が
ない。しかし、「働き方」というのは「生き方」であり、何を幸せ
だと考えるか、何に重点を置くかということに直結する。大学を出
て、社会にこれから出て行くにあたって、業種というフレームにと
らわれず、自分の考えをリアルに出来るように生きていくことが必
要なのだろう。



高木新平さんインタビュー動画(外部リンク)

http://ocw.u-tokyo.ac.jp/podcasts/mcw2011/2011mcw_3_s.mov




                                                       71
学生のリフレクション

・神宮拓也
 高木さんのお話は「側思考」をはじめ、様々なことに気づかせて
くれるお話であった。物事の外側の「フレーム」を見たせば満足し
てしまう事を側思考と呼んでいたが、自分はいつも側思考をしてい
たと気づかされた。大企業、ベンチャー企業、NGOなどなど。自分
は本当は何をしたいのかを内省せず、業態ばかり気にしていたと感
じた。自分が本当にやりたい事をやってみたいと思った。しかし、
高木さん曰く「やりたい事をやりたい」というのも「側思考」。心
の奥底から本当にやりたいと感じた事に素直になっていかなければ
いらない。そのような事が見つかるまで、大学生活中に色々な経験
や出会いをして行きたいと思った。

・田村海
 今回、一番刺さったのはキーワードの「側思考」のお話だった。
フレームから考えない、概念で考えるということだろう。これにつ
いては普段から結構考えている人が多いと思うし、自分もそうだっ
たのでそれを一言にされたことで自分の中に自然に落ちてきた。他
者との差別化、これはとても重要だと思う。自分の満足度において
も、劣等感を感じてしまわないように他者との関わりの中でも。し
かし、実際に差別化をするに当たって、それが目的になっている人
も多いのではないだろうか。「自分がやりたいことをやりたい」と
いう言葉を掲げるのもいわばある種のフレームだろう。私は興味を



72
持ったことを、言語レベルで思考したり無駄に論理的に思考したり
など深く考えず、ただただ行動に移していきたいと改めて思った。

・矢島源太郎
 私は広告に興味があり、将来も広告関連の仕事に就きたいと思っ
ている。だから、今回広告代理店に就職経験がある高木新平さんに
インタビューできたのは本当に良い経験になった。
 個人的には、「どうして(せっかく)広告代理店に就職できたのに辞
めたの?」「やりたいことやりたいのだったら最初から中小規模の
会社に就職すれば良かったのでは?」という素朴な疑問があった。
 その答えとして、「とても良い会社であったことは確かだが、社
会の潮流が変わる年に入社したことで自分の中にも価値観の変化が
あった」「中小の企業より大きな会社の方がかえって自由に動け
る」というような話をしていただき、目から鱗が落ちる思いだっ
た。
 高木さんの純粋な生き方に共感しきりのインタビューであった。




                                73
今のこと、未来のこと、未来のために今すべきこと……大きな世界
を知ったからこそ、大学生の悩みは尽きない。私たち学生がいます
べきことは何なのか。その答えを探るべく、大学生向けにキャリア
教育を行う見舘好隆さんにお話を伺った。



 私たちは、見舘さんにお会いして一番初めに、『学生と同じ目線
に立ってくれる方だ』と感じた。「学生が成長した姿を見るのとか
超楽しいね!」とおっしゃった笑顔が印象的で、このような方が人
を導くのであろうと、ぼんやりとではあるが、実感したのである。
 今回取材した見舘好隆さんは、大学卒業後、旅行会社に就職し、
民間企業で15年間キャリアをつんだ。その後、3年間首都大学東京
にキャリアカウンセラーとして勤務し、一橋大学でも講師を務め
た。学生たちにキャリア形成の支援を行ううちに、就職に特化した
対処療法的なキャリアカウンセリングの方法に疑問を抱き、「学生
を真に成長させるためには、学生と長時間接するべき」という結論



74
に達する。その後、その考えのもと、北九州市立大学に転任し、現
在はキャリアセンター付けの准教授として、独自のキャリア教育を
学生に施している。
 昨今、日本における、学生を取り巻く就職活動の状況は、日に日
に厳しくなっている。学生の悩みを多く聞き、大学生のキャリア形
成を支援してきた見舘さんの口からは、果たしてどのような言葉が
語られるのか。



『身の丈を越えた』経験

 見舘さん曰く、学生たちから上がる不安で一番多いのは、『何を
したらいいのか分からない』だと言う。これには、『将来何をした
らいいのか分からない』から『夢を実現するためにはどうしたらい
いのか分からない』まで、多岐に渡る不安が含まれているのだろ
う。このような不安に対して、見舘さんはどのようなカウンセリン
グを行っているのかと尋ねると、「とりあえずなんかせぇ(笑)」とい
う簡潔な答えが返って来た。

 「言い方を変えると、今までやったことのないことをやる、と
か、『身の丈を越えた』経験をする、ということですね。何かやら
ないと、何も見えてきませんから」

 大学生が成長するにあたってのキーワードとして、見舘さんは
「身の丈を越えた」経験というものを提唱している。それでは、身
の丈を越えた経験とは、どのようなものなのか。




                                75
Toudaihatu2012
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Toudaihatu2012