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『ソーシャルワーカーのための労働相談ハンドブック』

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福祉・医療の現場で働くソーシャルワーカーが、貧困や健康問題の背後にある職場のトラブルに気づいて適切な機関に紹介することは、「ブラック企業」被害を減らしていく上で重要な役割を果たします。本冊子では、ソーシャルワーカーが、どのように相談者の主訴として現れない労働問題を発見し、適切な労働相談窓口と連携して当事者の問題を解決していくかについてわかりやすく紹介しています。

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『ソーシャルワーカーのための労働相談ハンドブック』

  1. 1. ワーカー のための 労働相談 ソーシャル ハンドブック ブラック企業被害を救済するために ブラック企業対策プロジェクト 福祉・医療ユニット
  2. 2. はじめに 1章 医療ソーシャルワーカーの方へ 1. 労働問題という視角 2. 問題把握と対応 2章 生活困窮者支援現場のソーシャルワーカーの方へ 1. 抜け落ちがちな「労働」という視点 2. 問題把握と対応 3章 ネットワークを活用しよう 1. 活用するときのポイント 2. 主な労働相談窓口 3. 支援・成功事例 4. 労働相談窓口一覧 資料 目次 04 08 10 22 24 36 37 39 43 44 43
  3. 3. はじめに 1章 医療ソーシャルワーカーの方へ 1. 労働問題という視角 2. 問題把握と対応 2章 生活困窮者支援現場のソーシャルワーカーの方へ 1. 抜け落ちがちな「労働」という視点 2. 問題把握と対応 3章 ネットワークを活用しよう 1. 活用するときのポイント 2. 主な労働相談窓口 3. 支援・成功事例 4. 労働相談窓口一覧 資料 目次 04 08 10 22 24 36 37 39 43 44 03
  4. 4. 05 人は一生のうち、労働の中で、多くの時間を過ごし、そのなかで、様々な経験をし、自身の暮ら しを自由に形成し、自己実現を果たしていきます。 しかし、一方でわたしたちの労働がおかれた環境は極めて厳しい時代になってきています。 「働いているけれど収入が低くて暮らせない。」 「最近、長時間労働で体がもたないので、仕事をやめた。」 「過労死しそうなくらい働き、体を壊してしまった。」 「病気になり働けないので生活費が足りなくて困っている。」 「会社が倒産し、給料が未払いになっている。」 このような相談を受けたら、皆さんはどうするでしょうか。 「どうしよう。よくわからない。」とならないでしょうか。 意外にも相談を受ける支援者が、「人々は労働者であること」を忘れがちで、労働にかかる支 援制度を知らないことがよくあります。 わたしたち、ブラック企業対策プロジェクトは、NPOや労働組合、弁護士、社会福祉士、研究 者、ソーシャルワーカーなどが関わり、ブラック企業に端を発する様々な労働問題の改善を 目指す団体です。 本ガイドブックは、主に福祉関係者の皆さまにお読みいただきたい構成になっています。 特に、日常的に生活相談を受ける機会がある方に読んでいただきたいものです。 相談者から発せられる「生活に困っている」という相談の中味を分析すると、実は様々な労働 関連の支援制度を導入していくことによって、その状態は改善していく可能性を持っていま す。 近年、増えている心の病気や障害である「うつ症状があり働けない」という場合は、傷病手当 金や労働災害の申請をすることも必要でしょう。 わたしたち、福祉関係者が労働に関わる支援施策を学び、活用することで、相談者に対して、 よりよい相談支援が展開できると思います。 一緒に本ガイドブックを活用し、福祉制度以外にも支援方法があることを知り、共にブラッ ク企業や労働環境の改善に寄与いただけたら幸いです。 はじめに ブラック企業対策プロジェクト共同代表 社会福祉士 藤田孝典
  5. 5. 05 人は一生のうち、労働の中で、多くの時間を過ごし、そのなかで、様々な経験をし、自身の暮ら しを自由に形成し、自己実現を果たしていきます。 しかし、一方でわたしたちの労働がおかれた環境は極めて厳しい時代になってきています。 「働いているけれど収入が低くて暮らせない。」 「最近、長時間労働で体がもたないので、仕事をやめた。」 「過労死しそうなくらい働き、体を壊してしまった。」 「病気になり働けないので生活費が足りなくて困っている。」 「会社が倒産し、給料が未払いになっている。」 このような相談を受けたら、皆さんはどうするでしょうか。 「どうしよう。よくわからない。」とならないでしょうか。 意外にも相談を受ける支援者が、「人々は労働者であること」を忘れがちで、労働にかかる支 援制度を知らないことがよくあります。 わたしたち、ブラック企業対策プロジェクトは、NPOや労働組合、弁護士、社会福祉士、研究 者、ソーシャルワーカーなどが関わり、ブラック企業に端を発する様々な労働問題の改善を 目指す団体です。 本ガイドブックは、主に福祉関係者の皆さまにお読みいただきたい構成になっています。 特に、日常的に生活相談を受ける機会がある方に読んでいただきたいものです。 相談者から発せられる「生活に困っている」という相談の中味を分析すると、実は様々な労働 関連の支援制度を導入していくことによって、その状態は改善していく可能性を持っていま す。 近年、増えている心の病気や障害である「うつ症状があり働けない」という場合は、傷病手当 金や労働災害の申請をすることも必要でしょう。 わたしたち、福祉関係者が労働に関わる支援施策を学び、活用することで、相談者に対して、 よりよい相談支援が展開できると思います。 一緒に本ガイドブックを活用し、福祉制度以外にも支援方法があることを知り、共にブラッ ク企業や労働環境の改善に寄与いただけたら幸いです。 はじめに ブラック企業対策プロジェクト共同代表 社会福祉士 藤田孝典
  6. 6. 06 第1章 医療ソーシャルワーカーの方へ
  7. 7. 06 第1章 医療ソーシャルワーカーの方へ
  8. 8. 09 ひとことに「医療ソーシャルワーカー」と言っても所属する機関によって主に対象となる方も 相談の内容も違ってくるでしょう。どんな機関に勤めていても「仕事の事で相談にのってほし いのですが」という相談者は稀でしょう。保健医療機関で勤める医療ソーシャルワーカーに仕 事関係の相談にのってもらえると相談者自身が思っていないことも大きな要因ですが、我々医 療ソーシャルワーカーも自分たちの仕事の範疇ではない、と思ってはいませんか。?では、仕事 の相談以外のどんな相談がくるのでしょう。「医療費の支払いが難しい」「障害者手帳が取れる と聞いたが」「退院後、家で介護ができないので施設を探したい」など相談者の主訴はそれぞれ でしょう。それらの相談に対して我々医療ソーシャルワーカーは、様々な情報収集をします。病 名、身体や心の状態、家族関係、収入状況・・・。その情報収集の際「仕事」を聞いていますか。?86 歳の患者さんの職業なんて聞くわけない、と思う方もいるでしょう。86歳の患者さんの多くは 現役を退いている方でしょうが、そういう方には「職歴」を聞いていますか? なぜ、「仕事」「職歴」を聞くことが大切なのか。それは、仕事と病気は大きく関係しているからで す。そういう視点で患者さんの状態と疾患をみてください。生活環境や労働環境と一切関係の ない疾患はないと思っていた方がいいでしょう。場合によっては労災申請につながることもあ ります。仕事で長期間有機溶剤にさらされていた、過重労働が続いていた、常に粉じんを吸い込 む職場環境だったなど、退職後何年も経ってから発症する疾患もあります。本人も考えが及ん でいない労災の可能性を見出すことが我々医療ソーシャルワーカーにはできるのです。 ここが医療ソーシャルワーカーの専門性であると考えます。保健医療機関には多くの専門職種 がいます。その中で「仕事」「職歴」を丁寧に聞き取る職種は、我々医療ソーシャルワーカーだけ です。どんな職業か聞くだけでなく、具体的な、作業内容、作業環境を聞き取ります。医療ソー シャルワーカーが全ての職業を知っているわけではないですし、聞き取りだけでは不十分なの で、できれば仕事場に出向くことが重要です。労災かどうかを決めるのは、患者さん(労働者)で も治療をしている医師でも会社でもありません。労働基準監督署です。労災申請をするかしな いかは、患者さん本人が決めることですが「労災の可能性がある」「労災かも」と相談の中で気づ き、支援の伴走をしていくことが患者さんの今後の生活にとってどれほど大切かを医療ソー シャルワーカーのみなさんに理解していただけたらと思います。労災が認定されることによ り、医療費、薬剤費が労災保険で100%賄われ、休業補償も傷病手当金では標準報酬日額の3 分の2ですが、労災保険では8割が支給されます。高額療養費制度、限度額認定証、身体障害者 手帳、障害年金などと同じ制度の一つとして労災を利用していきましょう。わからないことが あれば、どんどん先輩医療ソーシャルワーカーや第4章の相談機関一覧を参考に連絡をとって ください。 1.労働問題という視角 一般社団法人 東京都医療社会事業協会理事 医療ソーシャルワーカー 安仁屋衣子
  9. 9. 09 ひとことに「医療ソーシャルワーカー」と言っても所属する機関によって主に対象となる方も 相談の内容も違ってくるでしょう。どんな機関に勤めていても「仕事の事で相談にのってほし いのですが」という相談者は稀でしょう。保健医療機関で勤める医療ソーシャルワーカーに仕 事関係の相談にのってもらえると相談者自身が思っていないことも大きな要因ですが、我々医 療ソーシャルワーカーも自分たちの仕事の範疇ではない、と思ってはいませんか。?では、仕事 の相談以外のどんな相談がくるのでしょう。「医療費の支払いが難しい」「障害者手帳が取れる と聞いたが」「退院後、家で介護ができないので施設を探したい」など相談者の主訴はそれぞれ でしょう。それらの相談に対して我々医療ソーシャルワーカーは、様々な情報収集をします。病 名、身体や心の状態、家族関係、収入状況・・・。その情報収集の際「仕事」を聞いていますか。?86 歳の患者さんの職業なんて聞くわけない、と思う方もいるでしょう。86歳の患者さんの多くは 現役を退いている方でしょうが、そういう方には「職歴」を聞いていますか? なぜ、「仕事」「職歴」を聞くことが大切なのか。それは、仕事と病気は大きく関係しているからで す。そういう視点で患者さんの状態と疾患をみてください。生活環境や労働環境と一切関係の ない疾患はないと思っていた方がいいでしょう。場合によっては労災申請につながることもあ ります。仕事で長期間有機溶剤にさらされていた、過重労働が続いていた、常に粉じんを吸い込 む職場環境だったなど、退職後何年も経ってから発症する疾患もあります。本人も考えが及ん でいない労災の可能性を見出すことが我々医療ソーシャルワーカーにはできるのです。 ここが医療ソーシャルワーカーの専門性であると考えます。保健医療機関には多くの専門職種 がいます。その中で「仕事」「職歴」を丁寧に聞き取る職種は、我々医療ソーシャルワーカーだけ です。どんな職業か聞くだけでなく、具体的な、作業内容、作業環境を聞き取ります。医療ソー シャルワーカーが全ての職業を知っているわけではないですし、聞き取りだけでは不十分なの で、できれば仕事場に出向くことが重要です。労災かどうかを決めるのは、患者さん(労働者)で も治療をしている医師でも会社でもありません。労働基準監督署です。労災申請をするかしな いかは、患者さん本人が決めることですが「労災の可能性がある」「労災かも」と相談の中で気づ き、支援の伴走をしていくことが患者さんの今後の生活にとってどれほど大切かを医療ソー シャルワーカーのみなさんに理解していただけたらと思います。労災が認定されることによ り、医療費、薬剤費が労災保険で100%賄われ、休業補償も傷病手当金では標準報酬日額の3 分の2ですが、労災保険では8割が支給されます。高額療養費制度、限度額認定証、身体障害者 手帳、障害年金などと同じ制度の一つとして労災を利用していきましょう。わからないことが あれば、どんどん先輩医療ソーシャルワーカーや第4章の相談機関一覧を参考に連絡をとって ください。 1.労働問題という視角 一般社団法人 東京都医療社会事業協会理事 医療ソーシャルワーカー 安仁屋衣子
  10. 10. 01 労災保険の仕組みを知る a. 概要 b. 労災保険を利用するメリット c. 補償を受けるための手続き・条件 d. 労災保険を申請するリスク 02 問題を把握する a. 心理的負荷の大きな出来事はあるか? b. 労働時間はどのくらいか? c. 業務外のストレスや個体側要因はあるか? d. チェックリスト 03 その他の社会保険制度 a. 傷病手当金 b. 雇用保険 1110 01 労災保険の仕組みを知る a. 概要 仕事が原因で傷病を負った場合、労災指定病院(労災保険指定医療機関)で無償で治療を受けること ができます。労災指定病院以外の病院で治療を受けても治療費は返還されますが、労災指定病院では 治療を受ける際に代金を支払う必要が無くなるという違いがあります。 労災指定病院は下記の URL から検索することが可能です。 [URL]http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/rousai_iryoukensaku.html ※労災指定病院 労災保険は、雇われて働いている人なら誰もが加入している制度です。学生のアルバイトであっても 一日限りの派遣であっても、労災保険に加入させる義務が使用者の側に定められています。 しかし、こうした制度の利用に対して、企業は必ずしも積極的ではありません。後述するように、制 度利用を妨害する「ブラック企業」もあります。そこで、精神疾患を抱えたクライアントに制度を適 切に紹介し、制度利用を支援することが医療ソーシャルワーカーに求められるスキルだと言えます。 2.問題把握と対応 b. 労災保険を利用するメリット 労災保険を利用するメリットはいくつかありますが、ここでは、労災保険によって受けられる給付の 内容を紹介しておきます。 もっとも利用頻度が高いのが「療養補償給付」と「休業補償給付」で、前者は、労災指定病院(※) で治療を無料で受けることができる制度です。病院の直接給付が基本ですが、労災指定病院以外の病 院に通う場合には、治療費が事後的に給付されます。後者は、病気で休んでいる間にトータルで平均 賃金の8割を受け取れる制度です。休職中だけではなく、会社を辞めてしまっていても、一定の給付 を受けることができます。 他にも、表に掲げたような給付を受けることができます。これらは、いずれも私傷病の場合に利用で きる健康保険の傷病手当金よりも手厚い内容になっています。 表1 労災保険給付の内容 必要な療養かそれにかかった費用が給付される 休業 4 日目から、休業 1 日につき給付基礎日額の 8 割が支給される 症状固定後に残った障害の程度に応じて一時金や年金が支給される 被災者が死亡した場合、遺族に一時金や年金などが支給される 死亡した人の葬祭を行うときに葬祭料が支給される 給付の種類 療養(補償)給付 休業(補償)給付 障害(補償)給付 遺族(補償)給付 葬祭料・葬祭給付 給付の内容
  11. 11. 01 労災保険の仕組みを知る a. 概要 b. 労災保険を利用するメリット c. 補償を受けるための手続き・条件 d. 労災保険を申請するリスク 02 問題を把握する a. 心理的負荷の大きな出来事はあるか? b. 労働時間はどのくらいか? c. 業務外のストレスや個体側要因はあるか? d. チェックリスト 03 その他の社会保険制度 a. 傷病手当金 b. 雇用保険 1110 01 労災保険の仕組みを知る a. 概要 仕事が原因で傷病を負った場合、労災指定病院(労災保険指定医療機関)で無償で治療を受けること ができます。労災指定病院以外の病院で治療を受けても治療費は返還されますが、労災指定病院では 治療を受ける際に代金を支払う必要が無くなるという違いがあります。 労災指定病院は下記の URL から検索することが可能です。 [URL]http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/rousai_iryoukensaku.html ※労災指定病院 労災保険は、雇われて働いている人なら誰もが加入している制度です。学生のアルバイトであっても 一日限りの派遣であっても、労災保険に加入させる義務が使用者の側に定められています。 しかし、こうした制度の利用に対して、企業は必ずしも積極的ではありません。後述するように、制 度利用を妨害する「ブラック企業」もあります。そこで、精神疾患を抱えたクライアントに制度を適 切に紹介し、制度利用を支援することが医療ソーシャルワーカーに求められるスキルだと言えます。 2.問題把握と対応 b. 労災保険を利用するメリット 労災保険を利用するメリットはいくつかありますが、ここでは、労災保険によって受けられる給付の 内容を紹介しておきます。 もっとも利用頻度が高いのが「療養補償給付」と「休業補償給付」で、前者は、労災指定病院(※) で治療を無料で受けることができる制度です。病院の直接給付が基本ですが、労災指定病院以外の病 院に通う場合には、治療費が事後的に給付されます。後者は、病気で休んでいる間にトータルで平均 賃金の8割を受け取れる制度です。休職中だけではなく、会社を辞めてしまっていても、一定の給付 を受けることができます。 他にも、表に掲げたような給付を受けることができます。これらは、いずれも私傷病の場合に利用で きる健康保険の傷病手当金よりも手厚い内容になっています。 表1 労災保険給付の内容 必要な療養かそれにかかった費用が給付される 休業 4 日目から、休業 1 日につき給付基礎日額の 8 割が支給される 症状固定後に残った障害の程度に応じて一時金や年金が支給される 被災者が死亡した場合、遺族に一時金や年金などが支給される 死亡した人の葬祭を行うときに葬祭料が支給される 給付の種類 療養(補償)給付 休業(補償)給付 障害(補償)給付 遺族(補償)給付 葬祭料・葬祭給付 給付の内容
  12. 12. 1312 02 問題を把握するために確認すること 適切なアドバイスをするために、労災かどうか判断されるに当たって何が重視されるのかを把握し、 それに沿って具体的な事実を確認するようにしましょう。「心理的負荷による精神障害の認定基準」が 厚生労働省のホームページからダウンロードできますので、こちらを参考にしてください(本ページ に URL を掲載)。 「認定基準」によると、基本的には発病前の6ヶ月間に業務による強いストレスがあり、業務以外のス トレスや本人の脆弱性が原因だと認められない場合は、うつ病を労災と認定することになっています。 業務による強いストレスは、「起きた出来事」と「労働時間」の二つの側面から評価されます。 2.問題把握と対応 a. 心理的負荷の大きな出来事はあるか? 認定基準にある「心理的負荷評価表」(※下記 URL を参照。次ページに一部抜粋)を見ると、具体的 な出来事が列挙され、その程度や出来事以後の状況によって「強」「中」「弱」の三段階で評価される ようになっています。なお、「特別な出来事」といって、強姦や強制わいせつといったセクハラ被害に遭っ たり、業務上の重大事故の加害者や被害者となってしまったりした場合には、出来事以後の状況によ らず、業務上のストレスを「強」と判断することになっています。なお、「強」に該当する出来事がな い場合でも、「中」に該当する出来事が複数あれば、業務上のストレスは「強」と評価されることがあ ります。 このことを踏まえた相談援助の実践としては、「心理的負荷評価表」を手元に置き、ここに該当する事 実が無いかどうかをまずクライアントに確認しましょう。そして、その態様やアフターケアの状況な どを聞き、記録しておきましょう。 c. 補償を受けるための手続き・条件 [ 請求書のダウンロード URL] http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken06/index.html [ 様式記入例のダウンロード URL] http://www.rousai-ric.or.jp/tabid/70/Default.aspx ※手続き書類の入手先 申請書は労働基準監督署でもらえますし、厚生労働省のホームページでダウンロードすることもでき ます。請求書の提出先は、基本的に職場を管轄する労働基準監督署です。労災指定病院で治療を受け ている人が治療に関する請求書を出す場合のみ、その病院に提出します。記入例は財団法人「労災保 険情報センター」のホームページで閲覧することができます(文末に URL を記載)。事業主と、(労災 指定病院以外の病院で治療を受けた場合は)医師に記載事項の証明をもらった上で提出しましょう。 このように、労災の申請手続き自体はさほど難解ではありませんが、労災の認定率は決して高くあり ません。ですので、認定の基準を把握し、あらかじめそれに沿って事実関係の確認をしておく必要が あります(具体的な聞き取り項目は次章で紹介)。実際に申請する際には、労災問題に詳しい弁護士の 相談窓口を 3 章 4 節「労働相談窓口一覧」(43 ページ ) に掲載していますので、一度申請書の内容を確 認するよう勧めましょう。 d. 労災保険を申請するリスク まず注意しておかないといけないのは、労災保険の申請は必ず会社に知られてしまうということです。 労災保険を申請するとはすなわち「私の病気は仕事が原因ではないかと思う」という意思表明にもな るので、会社側が協力的でない場合も少なくありません。特にクライアントが在職中の場合には、違 法な報復を受ける可能性を考慮し、水面下で準備を進めながら万一に備えて労働トラブルの専門家と 連携を図りましょう。 申請に当たって障害になるのは、使用者が証明をしてくれない場合です。労災保険の申請書には、事 故時に自社の従業員であることなどを使用者が証明する欄があり、これにサインしてもらえない場合 があります。その場合にも、「事業主が証明してくれなかった」と一筆添えれば申請することが可能です。 心 理 的 負 荷 評 価 表 の 全 体 は 厚 生 労 働 省「精 神 障 害 の 労 災 認 定」 [http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-15.pdf] から見られます。 ※心理的負荷評価表の入手先
  13. 13. 1312 02 問題を把握するために確認すること 適切なアドバイスをするために、労災かどうか判断されるに当たって何が重視されるのかを把握し、 それに沿って具体的な事実を確認するようにしましょう。「心理的負荷による精神障害の認定基準」が 厚生労働省のホームページからダウンロードできますので、こちらを参考にしてください(本ページ に URL を掲載)。 「認定基準」によると、基本的には発病前の6ヶ月間に業務による強いストレスがあり、業務以外のス トレスや本人の脆弱性が原因だと認められない場合は、うつ病を労災と認定することになっています。 業務による強いストレスは、「起きた出来事」と「労働時間」の二つの側面から評価されます。 2.問題把握と対応 a. 心理的負荷の大きな出来事はあるか? 認定基準にある「心理的負荷評価表」(※下記 URL を参照。次ページに一部抜粋)を見ると、具体的 な出来事が列挙され、その程度や出来事以後の状況によって「強」「中」「弱」の三段階で評価される ようになっています。なお、「特別な出来事」といって、強姦や強制わいせつといったセクハラ被害に遭っ たり、業務上の重大事故の加害者や被害者となってしまったりした場合には、出来事以後の状況によ らず、業務上のストレスを「強」と判断することになっています。なお、「強」に該当する出来事がな い場合でも、「中」に該当する出来事が複数あれば、業務上のストレスは「強」と評価されることがあ ります。 このことを踏まえた相談援助の実践としては、「心理的負荷評価表」を手元に置き、ここに該当する事 実が無いかどうかをまずクライアントに確認しましょう。そして、その態様やアフターケアの状況な どを聞き、記録しておきましょう。 c. 補償を受けるための手続き・条件 [ 請求書のダウンロード URL] http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken06/index.html [ 様式記入例のダウンロード URL] http://www.rousai-ric.or.jp/tabid/70/Default.aspx ※手続き書類の入手先 申請書は労働基準監督署でもらえますし、厚生労働省のホームページでダウンロードすることもでき ます。請求書の提出先は、基本的に職場を管轄する労働基準監督署です。労災指定病院で治療を受け ている人が治療に関する請求書を出す場合のみ、その病院に提出します。記入例は財団法人「労災保 険情報センター」のホームページで閲覧することができます(文末に URL を記載)。事業主と、(労災 指定病院以外の病院で治療を受けた場合は)医師に記載事項の証明をもらった上で提出しましょう。 このように、労災の申請手続き自体はさほど難解ではありませんが、労災の認定率は決して高くあり ません。ですので、認定の基準を把握し、あらかじめそれに沿って事実関係の確認をしておく必要が あります(具体的な聞き取り項目は次章で紹介)。実際に申請する際には、労災問題に詳しい弁護士の 相談窓口を 3 章 4 節「労働相談窓口一覧」(43 ページ ) に掲載していますので、一度申請書の内容を確 認するよう勧めましょう。 d. 労災保険を申請するリスク まず注意しておかないといけないのは、労災保険の申請は必ず会社に知られてしまうということです。 労災保険を申請するとはすなわち「私の病気は仕事が原因ではないかと思う」という意思表明にもな るので、会社側が協力的でない場合も少なくありません。特にクライアントが在職中の場合には、違 法な報復を受ける可能性を考慮し、水面下で準備を進めながら万一に備えて労働トラブルの専門家と 連携を図りましょう。 申請に当たって障害になるのは、使用者が証明をしてくれない場合です。労災保険の申請書には、事 故時に自社の従業員であることなどを使用者が証明する欄があり、これにサインしてもらえない場合 があります。その場合にも、「事業主が証明してくれなかった」と一筆添えれば申請することが可能です。 心 理 的 負 荷 評 価 表 の 全 体 は 厚 生 労 働 省「精 神 障 害 の 労 災 認 定」 [http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-15.pdf] から見られます。 ※心理的負荷評価表の入手先
  14. 14. 1514 具体的出来事 心理的負荷の総合評価の視点 心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」とする具体例 弱 中 強 退職を強要された (ひどい)嫌がらせ、 いじめ、又は暴行 を受けた セクシュアルハラ スメントを受けた ・解雇又は退職強要の経過、強 要の程度、職場の人間関係等 ・嫌がらせ、いじめ、暴行の内 容、程度等 ・その継続する状況 ・セクシュアルハラスメントの 内容、程度等 ・その継続する状況 ・会社の対応の有無及び内容、 改善の状況、職場の人間関係 等 [ 解説 ] 退職勧奨が行われたが、その方法、頻度等からして 又は「中」と評価 [「弱」になる例 ] ・複数の同僚等の発言により不快感を覚えた(客 観的には嫌がらせ、いじめとはいえないものも含 [「弱」になる例 ] ・「○○ちゃん」等のセクシュアルハラスメントに 当たる発言をされた場合 ・職場内に水着姿の女性のポスター等を掲示され た場合 [「中」になる例 ] ・上司の叱責の過程で業務指導の範囲を逸脱した発 言があったが、これが継続していない ・同僚等が結託して嫌がらせを行ったが、これが継 続していない [「中」である例 ] ・胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラス メントであっても、行為が継続しておらず、会社 が適切かつ迅速に対応し発病前に解決した場合 ・身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハ ラスメントであって、発言が継続していない場合 ・身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハ ラスメントであって、複数回行われたものの、会 社が適切かつ迅速に対応し発病前にそれが終了し た場合 [「強」である例 ] ・退職の意思のないことを表明しているにもかかわ らず、執拗に退職を求められた ・恐怖感を抱かせる方法を用いて退職勧奨された ・突然解雇の通告を受け、何ら理由が説明されるこ となく、説明を求めても応じられず、撤回される こともなかった [「強」である例 ] ・部下に対する上司の言動が、業務指導の範囲を逸 脱しており、その中に人格や人間性を否定するよ うな言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた ・同僚等による多人数が結託しての人格や人間性を 否定するような言動が執拗に行われた ・治療を要する程度の暴行を受けた [「強」になる例 ] ・胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラス メントであって、継続して行われた場合 ・胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラス メントであって、行為は継続していないが、会社 に相談しても適切な対応がなく、改善されなかっ た又は会社への相談等の後に職場の人間関係が悪 化した場合 ・身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハ ラスメントであって、発言の中に人格を否定する ようなものを含み、かつ継続してなされた場合 ・身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハ ラスメントであって、性的な発言が継続してなさ れ、かつ会社がセクシュアルハラスメントがある と把握していても適切な対応がなく、改善がなさ れなかった場合 ※「具体的出来  事」ごとの平均的な強度を、「心理的負荷の強度を『弱』『中』『強』とする具体例」欄の網掛けで表示しています。 強要とはいえない場合には、その方法等から「弱」 表2 心理的負荷評価表(一部)
  15. 15. 1514 具体的出来事 心理的負荷の総合評価の視点 心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」とする具体例 弱 中 強 退職を強要された (ひどい)嫌がらせ、 いじめ、又は暴行 を受けた セクシュアルハラ スメントを受けた ・解雇又は退職強要の経過、強 要の程度、職場の人間関係等 ・嫌がらせ、いじめ、暴行の内 容、程度等 ・その継続する状況 ・セクシュアルハラスメントの 内容、程度等 ・その継続する状況 ・会社の対応の有無及び内容、 改善の状況、職場の人間関係 等 [ 解説 ] 退職勧奨が行われたが、その方法、頻度等からして 又は「中」と評価 [「弱」になる例 ] ・複数の同僚等の発言により不快感を覚えた(客 観的には嫌がらせ、いじめとはいえないものも含 [「弱」になる例 ] ・「○○ちゃん」等のセクシュアルハラスメントに 当たる発言をされた場合 ・職場内に水着姿の女性のポスター等を掲示され た場合 [「中」になる例 ] ・上司の叱責の過程で業務指導の範囲を逸脱した発 言があったが、これが継続していない ・同僚等が結託して嫌がらせを行ったが、これが継 続していない [「中」である例 ] ・胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラス メントであっても、行為が継続しておらず、会社 が適切かつ迅速に対応し発病前に解決した場合 ・身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハ ラスメントであって、発言が継続していない場合 ・身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハ ラスメントであって、複数回行われたものの、会 社が適切かつ迅速に対応し発病前にそれが終了し た場合 [「強」である例 ] ・退職の意思のないことを表明しているにもかかわ らず、執拗に退職を求められた ・恐怖感を抱かせる方法を用いて退職勧奨された ・突然解雇の通告を受け、何ら理由が説明されるこ となく、説明を求めても応じられず、撤回される こともなかった [「強」である例 ] ・部下に対する上司の言動が、業務指導の範囲を逸 脱しており、その中に人格や人間性を否定するよ うな言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた ・同僚等による多人数が結託しての人格や人間性を 否定するような言動が執拗に行われた ・治療を要する程度の暴行を受けた [「強」になる例 ] ・胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラス メントであって、継続して行われた場合 ・胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラス メントであって、行為は継続していないが、会社 に相談しても適切な対応がなく、改善されなかっ た又は会社への相談等の後に職場の人間関係が悪 化した場合 ・身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハ ラスメントであって、発言の中に人格を否定する ようなものを含み、かつ継続してなされた場合 ・身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハ ラスメントであって、性的な発言が継続してなさ れ、かつ会社がセクシュアルハラスメントがある と把握していても適切な対応がなく、改善がなさ れなかった場合 ※「具体的出来  事」ごとの平均的な強度を、「心理的負荷の強度を『弱』『中』『強』とする具体例」欄の網掛けで表示しています。 強要とはいえない場合には、その方法等から「弱」 表2 心理的負荷評価表(一部)
  16. 16. 1716 2.問題把握と対応 b. 労働時間はどのくらいか? [ 出来事後に月 100 時間程度の残業 ]「中」→「強」 [ 出来事前に月 100 時間程度の残業 ] 出来事があってから約 10 日以内に発症した場合のみ、「中」→「強」 [ 前後に月 100 時間程度の残業 ]「弱」→「強」 業務上のストレスは、労働時間も考慮に入れられることになっています。残業時間が月に 160 時間を 超えるペースで行われていた場合、職場でどんな出来事があったかにかかわらず、業務上のストレス は「強」と判断されます。また、労働時間が長い場合には、次のように「具体的な出来事」の評価を 上方修正することも定められています。 したがって、相談現場では、発症前に起きた出来事だけではなく、労働時間も聞き取ることが大切です。 その上で、セルフチェックで「強」と判断されるような場合には、労災申請を念頭に法律相談窓口に 連絡をとるようクライアントに勧めましょう。もちろん、セルフチェックでは「強」と判断されない ような場合でも、労災として絶対に認められないというわけではありません。まずは適切な情報を提 供し、セルフチェックの結果が「強」でないことも踏まえて「申請したい」という本人の意思が確認 される場合には、法律相談窓口を紹介しましょう。特殊な事案でセルフチェックが難しい場合には、 特に法律家の意見を参考にする必要がありますので、やはり法律相談窓口を紹介するよう勧めるのが 無難です。MSW が間接的に相談することも珍しくありません。 加えて、連続した長時間労働は、それ自体が「具体的な出来事」として「心理的負荷評価表」に示さ れています。以下の場合には業務上のストレスが「強」と判断されます。 ・発病直前の2ヶ月間に平均120時間以上の残業 ・発病直前の3ヶ月間に平均100時間以上の残業 ・1ヶ月以上の連続勤務 d. チェックリスト 以上のことを踏まえて、クライアントの相談に乗る際には、次のことを確認しましょう。これは、労 災申請を身近なものにするための重要な手続きです。 [ 業務上のストレス ] ・初めて精神疾患が診断されたのはいつ・どの病院か? ・自覚症状が現れたのはいつか? ・発症前の半年間に心理的負荷評価表に該当する出来事はあったか? ・出来事に関する記録・証拠にはどのようなものがあるか? ・発症前半年間の労働時間は毎月どのくらいか? ・労働時間に関する記録・証拠にはどのようなものがあるか? [ 業務外のストレス ] ・心理的負荷評価表に該当する出来事は無いか? [ 個体側要因 ] ・既往歴は無いか? ・アルコール依存などの症状は無いか? ※チェックリスト [URL] http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z3zj.html ※「認定基準」のダウンロード先 c. 業務外のストレスや個体側要因はあるか? 既に示したように、労災認定の判断に当たっては、業務上のストレスだけではなく、業務外のストレ スや「個体側要因」というものも検討されます。業務外のストレスについては、業務上のストレスと 同様に、「心理的負荷評価表」に沿って判断されます。「個体側要因」とは要するに精神疾患の既往歴 やアルコール依存状況などのことで、これらの事実が認められると、業務上のストレスが「強」であっ ても、労災ではないと判断されることがあります。
  17. 17. 1716 2.問題把握と対応 b. 労働時間はどのくらいか? [ 出来事後に月 100 時間程度の残業 ]「中」→「強」 [ 出来事前に月 100 時間程度の残業 ] 出来事があってから約 10 日以内に発症した場合のみ、「中」→「強」 [ 前後に月 100 時間程度の残業 ]「弱」→「強」 業務上のストレスは、労働時間も考慮に入れられることになっています。残業時間が月に 160 時間を 超えるペースで行われていた場合、職場でどんな出来事があったかにかかわらず、業務上のストレス は「強」と判断されます。また、労働時間が長い場合には、次のように「具体的な出来事」の評価を 上方修正することも定められています。 したがって、相談現場では、発症前に起きた出来事だけではなく、労働時間も聞き取ることが大切です。 その上で、セルフチェックで「強」と判断されるような場合には、労災申請を念頭に法律相談窓口に 連絡をとるようクライアントに勧めましょう。もちろん、セルフチェックでは「強」と判断されない ような場合でも、労災として絶対に認められないというわけではありません。まずは適切な情報を提 供し、セルフチェックの結果が「強」でないことも踏まえて「申請したい」という本人の意思が確認 される場合には、法律相談窓口を紹介しましょう。特殊な事案でセルフチェックが難しい場合には、 特に法律家の意見を参考にする必要がありますので、やはり法律相談窓口を紹介するよう勧めるのが 無難です。MSW が間接的に相談することも珍しくありません。 加えて、連続した長時間労働は、それ自体が「具体的な出来事」として「心理的負荷評価表」に示さ れています。以下の場合には業務上のストレスが「強」と判断されます。 ・発病直前の2ヶ月間に平均120時間以上の残業 ・発病直前の3ヶ月間に平均100時間以上の残業 ・1ヶ月以上の連続勤務 d. チェックリスト 以上のことを踏まえて、クライアントの相談に乗る際には、次のことを確認しましょう。これは、労 災申請を身近なものにするための重要な手続きです。 [ 業務上のストレス ] ・初めて精神疾患が診断されたのはいつ・どの病院か? ・自覚症状が現れたのはいつか? ・発症前の半年間に心理的負荷評価表に該当する出来事はあったか? ・出来事に関する記録・証拠にはどのようなものがあるか? ・発症前半年間の労働時間は毎月どのくらいか? ・労働時間に関する記録・証拠にはどのようなものがあるか? [ 業務外のストレス ] ・心理的負荷評価表に該当する出来事は無いか? [ 個体側要因 ] ・既往歴は無いか? ・アルコール依存などの症状は無いか? ※チェックリスト [URL] http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z3zj.html ※「認定基準」のダウンロード先 c. 業務外のストレスや個体側要因はあるか? 既に示したように、労災認定の判断に当たっては、業務上のストレスだけではなく、業務外のストレ スや「個体側要因」というものも検討されます。業務外のストレスについては、業務上のストレスと 同様に、「心理的負荷評価表」に沿って判断されます。「個体側要因」とは要するに精神疾患の既往歴 やアルコール依存状況などのことで、これらの事実が認められると、業務上のストレスが「強」であっ ても、労災ではないと判断されることがあります。
  18. 18. 1918 03 その他の社会保険制度 労災保険が使いづらいような場合でも、健康保険の傷病手当金や、雇用保険をきちんと活用することで、 病気によって働けない人を支えることができます。これらの制度についても最低限必要な知識と相談 すべき窓口を把握し、支援の幅を拡げましょう。 a. 傷病手当金 傷病手当金は健康保険制度の一つで、次のような条件を満たせば、クライアントは支給日から最長1年 6 ヶ月にわたって、仕事に就けない間は賃金の約 3 分の 2 を受け取ることができます。 ・仕事に就くことができない ・連続する 3 日間を含み 4 日以上仕事に就けなかった ・休業期間中に給与の支払いがない b. 雇用保険 疾病のために失職したような場合には、雇用保険を利用することができます。このとき、病気による 離職の場合には「特定理由離職者」に該当し、通常よりもよい条件で保険を利用することができます。 あまり一般には知られていないので、クライアントにこのことも伝えるようにしましょう。 条件の違いなど詳細は 2 章 2 節(30 ページ)を参照してください。 大内衆衛荏原病院 精神科医 精神科領域で医師が書く診断名が うつ病 であるこ とはとても多い。また患者自身が自分の診断を う つ病 と話すことも日常茶飯事である。( 医師の説明 によって患者が自分は うつ病 と認識していること もあれば、患者の思い込みや自己流の解釈で うつ病 と認識していることもある ) では、 うつ病 は実際 にどれだけうつ病であるだろう。 従来、精神科医が言うところの典型的なうつ病とは 内因性のうつ病のことである。大雑把に言うと、外 的な要素に影響されにくい内的な要因から成るうつ 病という意味で、遺伝的素因が強く、抗うつ薬に反 応しやすい。こうしたうつ病は外的な影響を受けに くいので、急増したり激減することはない。では増 えているとされる うつ病 とは何か。 1980 年代以降臨床の場に深く浸透していった DSM や ICD といった 客観性 を重視したとされる ( 症状 の記述を主体とした ) 診断基準には うつ病 という 診断項目はない。あるのは うつ病エピソード とい う項目である。 うつ病エピソード という診断 ( 名 ) はその原因を 問わない。極端な話をすれば、患者が病院やクリニッ クを受診した際に①気分の落ち込み、あるいは②興 味や喜びの喪失に加え、睡眠障害、集中力の低下、 意欲の減退、食欲不振等々を訴えれば、 うつ病エピ ソード と診断される。そしてそれが うつ病 と短 絡される。その原因に関わらずである。 うつ病 はうつ病ではない うつ病 の診断を疑うこと 上記の流れで診断された うつ病 は従来の意味での うつ病ではない。例えば過労に過労を重ねた人間が 疲れ果てて気分が沈みがちになり、終には寝られな くなればそれも うつ病 、職場の対人関係の問題や パワハラから楽しいと思えることがなくなり、仕事 に対する意欲もなくなって、食事が進まなくなれば それも うつ病 というわけである。 大事なことは うつ病 の診断を一度疑ってみること。 その うつ病 と言われる状態に陥った原因は何か考 えてみること。その原因の必然的な結果として う つ病 があるのなら、原因を取り除くことによって う つ病 の状態は解除・改善される。そこに介入の糸 口がある。そしてその うつ病 はうつ病ではない。 うつ状態の原因に応じた対応を うつ病 を うつ状態 と読み替えてみよう。所謂 うつ病もうつ病以外の うつ病 も追い込まれれば最 終的には うつ状態 になる。 うつ状態 は状態像 であって診断名ではないから、そこからまた考える ことができる。 経済的に苦しくて行き詰った果てに うつ状態 となっ た人がいれば、経済的な支援を取り付けよう。対人 関係が不安定で孤立してしまい結果 うつ状態 になっ てしまっていたら、対人関係の再構築について共に 考えよう。これこそやっぱり典型的うつ病と考える なら、薬物治療を考慮しよう。そうした実際的で臨 機応変な対応が支援者に求められている。
  19. 19. 1918 03 その他の社会保険制度 労災保険が使いづらいような場合でも、健康保険の傷病手当金や、雇用保険をきちんと活用することで、 病気によって働けない人を支えることができます。これらの制度についても最低限必要な知識と相談 すべき窓口を把握し、支援の幅を拡げましょう。 a. 傷病手当金 傷病手当金は健康保険制度の一つで、次のような条件を満たせば、クライアントは支給日から最長1年 6 ヶ月にわたって、仕事に就けない間は賃金の約 3 分の 2 を受け取ることができます。 ・仕事に就くことができない ・連続する 3 日間を含み 4 日以上仕事に就けなかった ・休業期間中に給与の支払いがない b. 雇用保険 疾病のために失職したような場合には、雇用保険を利用することができます。このとき、病気による 離職の場合には「特定理由離職者」に該当し、通常よりもよい条件で保険を利用することができます。 あまり一般には知られていないので、クライアントにこのことも伝えるようにしましょう。 条件の違いなど詳細は 2 章 2 節(30 ページ)を参照してください。 大内衆衛荏原病院 精神科医 精神科領域で医師が書く診断名が うつ病 であるこ とはとても多い。また患者自身が自分の診断を う つ病 と話すことも日常茶飯事である。( 医師の説明 によって患者が自分は うつ病 と認識していること もあれば、患者の思い込みや自己流の解釈で うつ病 と認識していることもある ) では、 うつ病 は実際 にどれだけうつ病であるだろう。 従来、精神科医が言うところの典型的なうつ病とは 内因性のうつ病のことである。大雑把に言うと、外 的な要素に影響されにくい内的な要因から成るうつ 病という意味で、遺伝的素因が強く、抗うつ薬に反 応しやすい。こうしたうつ病は外的な影響を受けに くいので、急増したり激減することはない。では増 えているとされる うつ病 とは何か。 1980 年代以降臨床の場に深く浸透していった DSM や ICD といった 客観性 を重視したとされる ( 症状 の記述を主体とした ) 診断基準には うつ病 という 診断項目はない。あるのは うつ病エピソード とい う項目である。 うつ病エピソード という診断 ( 名 ) はその原因を 問わない。極端な話をすれば、患者が病院やクリニッ クを受診した際に①気分の落ち込み、あるいは②興 味や喜びの喪失に加え、睡眠障害、集中力の低下、 意欲の減退、食欲不振等々を訴えれば、 うつ病エピ ソード と診断される。そしてそれが うつ病 と短 絡される。その原因に関わらずである。 うつ病 はうつ病ではない うつ病 の診断を疑うこと 上記の流れで診断された うつ病 は従来の意味での うつ病ではない。例えば過労に過労を重ねた人間が 疲れ果てて気分が沈みがちになり、終には寝られな くなればそれも うつ病 、職場の対人関係の問題や パワハラから楽しいと思えることがなくなり、仕事 に対する意欲もなくなって、食事が進まなくなれば それも うつ病 というわけである。 大事なことは うつ病 の診断を一度疑ってみること。 その うつ病 と言われる状態に陥った原因は何か考 えてみること。その原因の必然的な結果として う つ病 があるのなら、原因を取り除くことによって う つ病 の状態は解除・改善される。そこに介入の糸 口がある。そしてその うつ病 はうつ病ではない。 うつ状態の原因に応じた対応を うつ病 を うつ状態 と読み替えてみよう。所謂 うつ病もうつ病以外の うつ病 も追い込まれれば最 終的には うつ状態 になる。 うつ状態 は状態像 であって診断名ではないから、そこからまた考える ことができる。 経済的に苦しくて行き詰った果てに うつ状態 となっ た人がいれば、経済的な支援を取り付けよう。対人 関係が不安定で孤立してしまい結果 うつ状態 になっ てしまっていたら、対人関係の再構築について共に 考えよう。これこそやっぱり典型的うつ病と考える なら、薬物治療を考慮しよう。そうした実際的で臨 機応変な対応が支援者に求められている。
  20. 20. 20 第2章 生活困窮者支援現場の ソーシャルワーカーの方へ
  21. 21. 20 第2章 生活困窮者支援現場の ソーシャルワーカーの方へ
  22. 22. 23 何日も食べるものがない、住むところを失った、路上生活をしている。 私たちのところには、毎日、全国からSOSの声が寄せられます。このように、例えば、ホームレス状態の人 からの相談では、その日の食事や宿泊場所の確保、場合によっては医療などといった「緊急的な支援」が 求められ、そして、その人のいのちを守るために優先されます。 しかし、一方で、そういった緊急的な支援にいたる「経緯」や「支援のその後」については、どちらかという と、あまり考えられてこなかったかもしれません。考えてこなかったというと語弊がありますが、その人 の人生を「線」にたとえるなら、「点」での関わりになってしまうことが多かったのではないでしょうか。 一人の方を例に出して考えてみましょう。 Aさんは、僕が知り合った時は新宿で路上生活をしていました。夜回りにて知り合い、持病が悪化し働け なくなったこと、失業と同時に住むところも失ってしまった経緯を聞き、生活保護申請に同行しました。 役所で聞かれるのは、これまでの生活歴、職歴、家族のこと、健康状態のことなどなど。 申請は受理され、無事にその日からの生活が保障されると、多くの場合、僕たちの支援は役割を終えるこ とになるかもしれない。 しかし、立ち止まって考えてみると、「持病が悪化し働けなくなった」って、どういうことだろうか。また、 「失業と同時に住むところを失う」って、どういう状況なのでしょうか。 生活困窮された方の相談を聞いていると、労働問題であったり、住まいの問題であったりと、その人が置 かれてきた背景のなかに、たくさんのいわれのない低処遇などの「搾取」や「違法性」が見え隠れしている ことがわかります。 もちろん、一人ひとりによって事情や背景は異なります。しかし、Aさんの身に降りかかったことは日本 社会全体が直面しているさまざまな問題を考えるときに、あくまで氷山の一角であり、その「背景」のさ まざまな課題を解決していかないと、貧困問題を紐解いていくことは、とても難しいのではないかと思 います。 私たちは、相談の窓口で、現場で、ついつい「緊急的な支援」に目が向きがちです。もちろん、それはまず優 先されるべきですが、そういった「生存」を担保するための支援をおこなったあとに、「生活していくため の支援」についても、一緒に考えていく視座が必要なのではないでしょうか。 それは、「点」での関わりから、その人の人生の「線」に関わっていく、そういうことを意味することかもし れません。 なぜ、失業したのか。なぜ、住まいを失ったのか。なぜ、家族との縁が切れたのか。 私たちが、その茫漠とした「背景」に目を向けるとき、その人に必要な支援の在り方と、求められる社会の 在り方が見えてくるのではないでしょうか。 この章では、生活困窮者支援の現場で労働問題に気づく「きっかけ」を紹介しています。労働問題は、生活 困窮する最初のきっかけになることが多く、雇用状況の改善が貧困問題を解決するための一つの方策で あると言えるでしょう。 川下での「緊急的な支援」だけではなく、「蛇口を閉める」ために。普段の相談のなかで、労働問題について 意識的に捉えていくことが、いま私たちに必要とされていることかもしれません。 相談における「気づき」が、社会をアップデートする。 一緒に「貧困」と「労働問題」について考えていきましょう。 1.抜け落ちがちな「労働」 という視点 NPO法人 自立生活サポートセンター・もやい 大西連 Photo by (c)Tomo.Yun http://www.yunphoto.net
  23. 23. 23 何日も食べるものがない、住むところを失った、路上生活をしている。 私たちのところには、毎日、全国からSOSの声が寄せられます。このように、例えば、ホームレス状態の人 からの相談では、その日の食事や宿泊場所の確保、場合によっては医療などといった「緊急的な支援」が 求められ、そして、その人のいのちを守るために優先されます。 しかし、一方で、そういった緊急的な支援にいたる「経緯」や「支援のその後」については、どちらかという と、あまり考えられてこなかったかもしれません。考えてこなかったというと語弊がありますが、その人 の人生を「線」にたとえるなら、「点」での関わりになってしまうことが多かったのではないでしょうか。 一人の方を例に出して考えてみましょう。 Aさんは、僕が知り合った時は新宿で路上生活をしていました。夜回りにて知り合い、持病が悪化し働け なくなったこと、失業と同時に住むところも失ってしまった経緯を聞き、生活保護申請に同行しました。 役所で聞かれるのは、これまでの生活歴、職歴、家族のこと、健康状態のことなどなど。 申請は受理され、無事にその日からの生活が保障されると、多くの場合、僕たちの支援は役割を終えるこ とになるかもしれない。 しかし、立ち止まって考えてみると、「持病が悪化し働けなくなった」って、どういうことだろうか。また、 「失業と同時に住むところを失う」って、どういう状況なのでしょうか。 生活困窮された方の相談を聞いていると、労働問題であったり、住まいの問題であったりと、その人が置 かれてきた背景のなかに、たくさんのいわれのない低処遇などの「搾取」や「違法性」が見え隠れしている ことがわかります。 もちろん、一人ひとりによって事情や背景は異なります。しかし、Aさんの身に降りかかったことは日本 社会全体が直面しているさまざまな問題を考えるときに、あくまで氷山の一角であり、その「背景」のさ まざまな課題を解決していかないと、貧困問題を紐解いていくことは、とても難しいのではないかと思 います。 私たちは、相談の窓口で、現場で、ついつい「緊急的な支援」に目が向きがちです。もちろん、それはまず優 先されるべきですが、そういった「生存」を担保するための支援をおこなったあとに、「生活していくため の支援」についても、一緒に考えていく視座が必要なのではないでしょうか。 それは、「点」での関わりから、その人の人生の「線」に関わっていく、そういうことを意味することかもし れません。 なぜ、失業したのか。なぜ、住まいを失ったのか。なぜ、家族との縁が切れたのか。 私たちが、その茫漠とした「背景」に目を向けるとき、その人に必要な支援の在り方と、求められる社会の 在り方が見えてくるのではないでしょうか。 この章では、生活困窮者支援の現場で労働問題に気づく「きっかけ」を紹介しています。労働問題は、生活 困窮する最初のきっかけになることが多く、雇用状況の改善が貧困問題を解決するための一つの方策で あると言えるでしょう。 川下での「緊急的な支援」だけではなく、「蛇口を閉める」ために。普段の相談のなかで、労働問題について 意識的に捉えていくことが、いま私たちに必要とされていることかもしれません。 相談における「気づき」が、社会をアップデートする。 一緒に「貧困」と「労働問題」について考えていきましょう。 2.抜け落ちがちな「労働」 という視点 NPO法人 自立生活サポートセンター・もやい 大西連 Photo by (c)Tomo.Yun http://www.yunphoto.net
  24. 24. 01 問題を把握する 02 対応の方法 a. 残業代を請求する b. その他の労働問題はないか? c. 雇用保険を受給する d. 住宅支援給付金と求職者支援制度を使おう 2524 01 問題を把握する 生活相談の窓口に訪れるクライエントの多くは、差し迫った生活課題を抱え、心身ともに消耗してい ます。そのため、対応にあたっては、まずは各種の福祉制度や社会的資源につなぎ、当面の生活と心 身の安定を図り、そのうえで、労働問題を積み残さないよう対処していくということが求められます。 その方の抱えている課題に合わせて適切な支援制度の利用を促し、あるいは、相談窓口につないでい くことが必要です。では、どのように課題を分別し、適切な対処法を選択していけば良いのでしょうか? 下に簡単なクライエントの状況ごとの聞き取り項目と対応をまとめたものを掲載しました。これは、 あくまでも聞き取り方法・対応方法の一例に過ぎず、また、すでに第1章でみた内容を省略していま すが、前章と合わせてアセスメントに役立ててください。 2.問題把握と対応 表3 クライエントの状況ごとの聞き取り項目と対応 すでに仕事を辞めている クライエントの状況 聞き取るべき項目 考えられる対応 現在、働いている ・仕事を辞めたタイミング ・仕事を辞めた理由 ・労働条件 ・労働問題の有無・職場の状況 ※詳しくは 02 b.その他の労働問題へ ・労働条件 ・労働問題の有無・職場の状況 ※詳しくは 02 b.その他の労働問題へ [ 失業中の生活を経済面から支える ] 02 a. 残業代請求 p.26 02 c. 雇用保険 p.30 02 d. 住宅支援給付金と求職者支援 制度 p.32 [ 前職での労働問題の解決を図る ] 02 b. その他の労働問題 p.28 2 章 01・02 労災 p.10 ∼ [ 次の就職へ向けて準備を進める ] 02 d. 求職者支援制度 p.33 [ 現職での労働問題の解決を図る ] 02 a. 残業代請求 p.26 02 b. その他の労働問題 p.28 2 章 01・02 労災 p.10 ∼ 2 章 03 傷病手当 p.18 ※本ハンドブックでは、基本的に雇われて働いている/働いていた方への支援を想定しています。
  25. 25. 01 問題を把握する 02 対応の方法 a. 残業代を請求する b. その他の労働問題はないか? c. 雇用保険を受給する d. 住宅支援給付金と求職者支援制度を使おう 2524 01 問題を把握する 生活相談の窓口に訪れるクライエントの多くは、差し迫った生活課題を抱え、心身ともに消耗してい ます。そのため、対応にあたっては、まずは各種の福祉制度や社会的資源につなぎ、当面の生活と心 身の安定を図り、そのうえで、労働問題を積み残さないよう対処していくということが求められます。 その方の抱えている課題に合わせて適切な支援制度の利用を促し、あるいは、相談窓口につないでい くことが必要です。では、どのように課題を分別し、適切な対処法を選択していけば良いのでしょうか? 下に簡単なクライエントの状況ごとの聞き取り項目と対応をまとめたものを掲載しました。これは、 あくまでも聞き取り方法・対応方法の一例に過ぎず、また、すでに第1章でみた内容を省略していま すが、前章と合わせてアセスメントに役立ててください。 2.問題把握と対応 表3 クライエントの状況ごとの聞き取り項目と対応 すでに仕事を辞めている クライエントの状況 聞き取るべき項目 考えられる対応 現在、働いている ・仕事を辞めたタイミング ・仕事を辞めた理由 ・労働条件 ・労働問題の有無・職場の状況 ※詳しくは 02 b.その他の労働問題へ ・労働条件 ・労働問題の有無・職場の状況 ※詳しくは 02 b.その他の労働問題へ [ 失業中の生活を経済面から支える ] 02 a. 残業代請求 p.26 02 c. 雇用保険 p.30 02 d. 住宅支援給付金と求職者支援 制度 p.32 [ 前職での労働問題の解決を図る ] 02 b. その他の労働問題 p.28 2 章 01・02 労災 p.10 ∼ [ 次の就職へ向けて準備を進める ] 02 d. 求職者支援制度 p.33 [ 現職での労働問題の解決を図る ] 02 a. 残業代請求 p.26 02 b. その他の労働問題 p.28 2 章 01・02 労災 p.10 ∼ 2 章 03 傷病手当 p.18 ※本ハンドブックでは、基本的に雇われて働いている/働いていた方への支援を想定しています。
  26. 26. 2726 02 対応の方法 クライエントが抱える労働問題がどのようなものなのか整理したうえで、次に、課題に合わせた対処 法を選択していきます。ここでは、課題への対処法として①残業代請求、②①以外の労働問題、③雇用 保険、④住宅支援給付金と求職者支援制度を紹介します。 a. 残業代を請求する 生活に困っているという相談で、よくよく話を聞いてみると、前職や現職の賃金不払いがその原因だっ たということはありませんか?または、クライエント自身は問題だと認識していなくても、「うちは残 業代は出ない」「仕事が遅いから残業代は出ない」などと言われ、支払われるべき賃金が支払われてい なかったという事例に出会ったことはありませんか? 賃金不払いの問題を考える際、抑えておかなければならない原則は、第一に2年間は全額請求できる ということ、第二にどのような約束 (「残業代は支払わなくて良い」など ) をしていたとしても、実際 に働いた分の給与は減らすことができないということです。 対処方法 不払い分の賃金は、労働基準監督署などを利用することで費用をかけることなく請求することができ ます。 1 証拠をそろえる 契約書、給与明細、労働時間を証明する書類を えます。実労働時間を証明する証拠には、タイムカー ドのコピーの他、手書きのメモや家族へ帰宅時間を知らせるメール・電話の履歴、PC のログイン・ロ グアウト記録なども利用できます。 2 未払賃金を計算する 契約書と労働時間で支払われるべき賃金を計算し、給与明細と比較して未払分を計算します。京都第 一 法 律 事 務 所 残 業 代 計 算 の 残 業 代 計 算 ソ フ ト「給 与 第 一」 (http://www.daiichi.gr.jp/activity/2010/0201.html) が便利です。 3 使用者に請求する 請求するときは、内容証明郵便を利用して、請求した内容の記録が残るようにします。文面の例を次 に載せたので、併せてご覧ください。 4 労働基準監督署に申告する 使用者に請求しても支払われないときは、労働基準監督署に申告します。また、次に解説する「その 他の労働問題」の解決方法と同様にユニオンの団体交渉を通じて取り戻すこともできます。 内容証明郵便の文例 割 り 増 し 賃 金 請 求 書 差 出 人   [ 住 所 ] [ 名 前 ] 受 取 人   [ 住 所 ] [ 名 前 ] 前 略 私 は × × 年 × × 月 × × 日 か ら × × 月 × × 日 ま で 、 別 紙 一 覧 表 の 通 り 時 間 外 労 働 を 合 計 × × 時 間 × × 分 行 い ま し た 。 し か し 、 貴 社 は 、 上 記 時 間 外 労 働 に つ い て 割 増 賃 金 合 計 × × 円 を 支 払 わ れ て お り ま せ ん 。   そ こ で 私 は 、 貴 社 に 対 し 、 上 記 割 増 賃 金 合 計 金 × × 円 及 び こ れ に つ い て の 商 事 法 定 利 率 に よ る 年 6 % の 割 合 に よ る 遅 延 損 害 金 ( ※ ) を 直 ち に 支 払 わ れ る よ う 請 求 し ま す 。 つ き ま し て は 下 記 の と お り 請 求 し ま す 。 記 1   金 額             × × × × 円 2   支 払 い 期 日       × × 年 × × 月 × × 日 3   振 込 先           × × 銀 行 × × 支 店 [ 口 座 番 号 ] [ 名 義 ] な お 、 期 日 ま で に お 支 払 い が な い 場 合 は 労 働 基 準 監 督 署 の ご 指 導 を 受 け 適 切 な 対 応 を さ せ て い た だ き ま す 。 平 成 × × 年 × × 月 × × 日 ※ す で に 退 職 し て い る 場 合 、「 退 職 日 の 翌 日 以 降 に つ い て は 、 賃 確 法 6 条 1 項 に よ る 年 1 4 . 6 % の 割 合 に よ る 損 害 遅 延 金 」 を 請 求 で き ま す 。 労働基準法では、賃金は原則として①通貨で、②働いている本人に直接、③その全額を、④毎月1回以上、 ⑤一定の期日に支払わなければならないとしています。 ※賃金支払いの5原則
  27. 27. 2726 02 対応の方法 クライエントが抱える労働問題がどのようなものなのか整理したうえで、次に、課題に合わせた対処 法を選択していきます。ここでは、課題への対処法として①残業代請求、②①以外の労働問題、③雇用 保険、④住宅支援給付金と求職者支援制度を紹介します。 a. 残業代を請求する 生活に困っているという相談で、よくよく話を聞いてみると、前職や現職の賃金不払いがその原因だっ たということはありませんか?または、クライエント自身は問題だと認識していなくても、「うちは残 業代は出ない」「仕事が遅いから残業代は出ない」などと言われ、支払われるべき賃金が支払われてい なかったという事例に出会ったことはありませんか? 賃金不払いの問題を考える際、抑えておかなければならない原則は、第一に2年間は全額請求できる ということ、第二にどのような約束 (「残業代は支払わなくて良い」など ) をしていたとしても、実際 に働いた分の給与は減らすことができないということです。 対処方法 不払い分の賃金は、労働基準監督署などを利用することで費用をかけることなく請求することができ ます。 1 証拠をそろえる 契約書、給与明細、労働時間を証明する書類を えます。実労働時間を証明する証拠には、タイムカー ドのコピーの他、手書きのメモや家族へ帰宅時間を知らせるメール・電話の履歴、PC のログイン・ロ グアウト記録なども利用できます。 2 未払賃金を計算する 契約書と労働時間で支払われるべき賃金を計算し、給与明細と比較して未払分を計算します。京都第 一 法 律 事 務 所 残 業 代 計 算 の 残 業 代 計 算 ソ フ ト「給 与 第 一」 (http://www.daiichi.gr.jp/activity/2010/0201.html) が便利です。 3 使用者に請求する 請求するときは、内容証明郵便を利用して、請求した内容の記録が残るようにします。文面の例を次 に載せたので、併せてご覧ください。 4 労働基準監督署に申告する 使用者に請求しても支払われないときは、労働基準監督署に申告します。また、次に解説する「その 他の労働問題」の解決方法と同様にユニオンの団体交渉を通じて取り戻すこともできます。 内容証明郵便の文例 割 り 増 し 賃 金 請 求 書 差 出 人   [ 住 所 ] [ 名 前 ] 受 取 人   [ 住 所 ] [ 名 前 ] 前 略 私 は × × 年 × × 月 × × 日 か ら × × 月 × × 日 ま で 、 別 紙 一 覧 表 の 通 り 時 間 外 労 働 を 合 計 × × 時 間 × × 分 行 い ま し た 。 し か し 、 貴 社 は 、 上 記 時 間 外 労 働 に つ い て 割 増 賃 金 合 計 × × 円 を 支 払 わ れ て お り ま せ ん 。   そ こ で 私 は 、 貴 社 に 対 し 、 上 記 割 増 賃 金 合 計 金 × × 円 及 び こ れ に つ い て の 商 事 法 定 利 率 に よ る 年 6 % の 割 合 に よ る 遅 延 損 害 金 ( ※ ) を 直 ち に 支 払 わ れ る よ う 請 求 し ま す 。 つ き ま し て は 下 記 の と お り 請 求 し ま す 。 記 1   金 額             × × × × 円 2   支 払 い 期 日       × × 年 × × 月 × × 日 3   振 込 先           × × 銀 行 × × 支 店 [ 口 座 番 号 ] [ 名 義 ] な お 、 期 日 ま で に お 支 払 い が な い 場 合 は 労 働 基 準 監 督 署 の ご 指 導 を 受 け 適 切 な 対 応 を さ せ て い た だ き ま す 。 平 成 × × 年 × × 月 × × 日 ※ す で に 退 職 し て い る 場 合 、「 退 職 日 の 翌 日 以 降 に つ い て は 、 賃 確 法 6 条 1 項 に よ る 年 1 4 . 6 % の 割 合 に よ る 損 害 遅 延 金 」 を 請 求 で き ま す 。 労働基準法では、賃金は原則として①通貨で、②働いている本人に直接、③その全額を、④毎月1回以上、 ⑤一定の期日に支払わなければならないとしています。 ※賃金支払いの5原則
  28. 28. 2928 聞き取り項目 労働問題の聞き取り項目として以下のものを参考にしてください。ただし、本来業務である生活相談 のなかで当然尋ねるであろう項目 ( 年齢など ) は省略しています。 1 基本情報 ・雇用形態…正社員/契約社員/派遣社員/パート・アルバイト/自営業 ・雇用期間…無期雇用/有期雇用 ( 契約更新までの期間 ) ・直接/間接雇用 ・業種 ・職種 ・企業規模…従業員数で示す ・労働時間…残業を含む総実労働時間 ・月収 ・勤続期間 ・離職時期、離職理由…離職されている方のみ ・労働組合の有無 2 労働問題 ・契約と実態が違う ・パワー・ハラスメント ・暴言、暴行 ・セクシュアル・ハラスメント ・いじめ ・賃金カット、雇用形態の変更、職種転換など労働条件の中途変更 ・長時間労働 ・有給休暇が取れない b. その他の労働問題はないか? クライエントが、残業代請求以外にも労働問題を抱えていた場合、どのように対処すればよいでしょ うか?「就業中にケガをしたが、何の補償もしてもらえなかった」「長時間労働とパワーハラスメント で精神疾患を患ってしまった」「突然、明日から来なくていいと解雇された」。このような問題は、適 切な労働問題の相談窓口を活用することで、解決することができます。 しかし、クライエントは差し迫った生活上の課題を解決したいという思いから相談窓口を訪れていま すし、自分が経験した労働問題はとうてい解決できないと思っていることもしばしばです。ですから、 ここで、クライエントの主訴として現れない労働問題も掘り起こして、適切な機関につないでいくソー シャルワーカーの役割が重要です。また、きちんと労働問題を把握していくことで、自尊心を傷つけ られた若者が自信を取り戻し、「自分が悪いのではなかった」と元気を取り戻すことができるのだとい うことは忘れてはなりません。 ・退職勧奨を受けた ・中途解約・雇止め ( 有期雇用であって、契約を更新しない ) にあった ・解雇された ・辞めさせてくれない ・会社都合の休業 ・違法行為を命じられた ・労災 ・懲戒 ・その他労働条件に不満 3 証拠の有無 ・契約書 ・給与明細 ・就業規則 ・労働時間の記録 ・パワーハラスメント等の場合には録音やメモといった記録 労働相談窓口を活用する ここで取り上げたような労働問題の解決には、第4章で紹介する 4 つの相談窓口――①労働基準監督 署、②労働局、③弁護士、④ユニオンが利用できます。それぞれの機関のメリット・デメリットを勘案し、 クライエントの経済的・精神的状況を踏まえて活用していきましょう。 利用できる解決方法 相談窓口 労働基準監督署 労働局 弁護士 ユニオン 対応できる労働問題 申告 労災申請 賃金遅配・不払 い、労災申請 あっせん すべて 労働審判 訴訟 団体交渉 争議 すべて すべて 表4 相談窓口ごとの特徴
  29. 29. 2928 聞き取り項目 労働問題の聞き取り項目として以下のものを参考にしてください。ただし、本来業務である生活相談 のなかで当然尋ねるであろう項目 ( 年齢など ) は省略しています。 1 基本情報 ・雇用形態…正社員/契約社員/派遣社員/パート・アルバイト/自営業 ・雇用期間…無期雇用/有期雇用 ( 契約更新までの期間 ) ・直接/間接雇用 ・業種 ・職種 ・企業規模…従業員数で示す ・労働時間…残業を含む総実労働時間 ・月収 ・勤続期間 ・離職時期、離職理由…離職されている方のみ ・労働組合の有無 2 労働問題 ・契約と実態が違う ・パワー・ハラスメント ・暴言、暴行 ・セクシュアル・ハラスメント ・いじめ ・賃金カット、雇用形態の変更、職種転換など労働条件の中途変更 ・長時間労働 ・有給休暇が取れない b. その他の労働問題はないか? クライエントが、残業代請求以外にも労働問題を抱えていた場合、どのように対処すればよいでしょ うか?「就業中にケガをしたが、何の補償もしてもらえなかった」「長時間労働とパワーハラスメント で精神疾患を患ってしまった」「突然、明日から来なくていいと解雇された」。このような問題は、適 切な労働問題の相談窓口を活用することで、解決することができます。 しかし、クライエントは差し迫った生活上の課題を解決したいという思いから相談窓口を訪れていま すし、自分が経験した労働問題はとうてい解決できないと思っていることもしばしばです。ですから、 ここで、クライエントの主訴として現れない労働問題も掘り起こして、適切な機関につないでいくソー シャルワーカーの役割が重要です。また、きちんと労働問題を把握していくことで、自尊心を傷つけ られた若者が自信を取り戻し、「自分が悪いのではなかった」と元気を取り戻すことができるのだとい うことは忘れてはなりません。 ・退職勧奨を受けた ・中途解約・雇止め ( 有期雇用であって、契約を更新しない ) にあった ・解雇された ・辞めさせてくれない ・会社都合の休業 ・違法行為を命じられた ・労災 ・懲戒 ・その他労働条件に不満 3 証拠の有無 ・契約書 ・給与明細 ・就業規則 ・労働時間の記録 ・パワーハラスメント等の場合には録音やメモといった記録 労働相談窓口を活用する ここで取り上げたような労働問題の解決には、第4章で紹介する 4 つの相談窓口――①労働基準監督 署、②労働局、③弁護士、④ユニオンが利用できます。それぞれの機関のメリット・デメリットを勘案し、 クライエントの経済的・精神的状況を踏まえて活用していきましょう。 利用できる解決方法 相談窓口 労働基準監督署 労働局 弁護士 ユニオン 対応できる労働問題 申告 労災申請 賃金遅配・不払 い、労災申請 あっせん すべて 労働審判 訴訟 団体交渉 争議 すべて すべて 表4 相談窓口ごとの特徴
  30. 30. 3130 給付日数 雇用保険を受給できる日数は、年齢や障害の有無、被保険者期間、離職理由によって決まります。自 己都合退職の場合には [ i ] 一般受給資格者、解雇や会社都合退職の場合には [ ii ] 特定受給資格者・特 定理由離職者、障害者の場合には [ iii ] 就職困難者と区分されます。 c. 雇用保険を受給する 雇用保険は、労働者が会社を辞めてから次の仕事を探す間、各々の条件に応じて国からお金が給付さ れる制度で、退職前の給料水準の 5 ∼ 8 割が給付されます。クライエントが失業直後であればぜひ利 用したいものです。 雇用保険の利用に関して最も重要なのは、週 20 時間以上、31 日以上働いていれば必ず被保険者にな るということです。「雇用保険に加入していなかった」という方でも、辞めた後から 及的に加入する こともできるので、給付資格があるかどうかを確認するようにしましょう。 また、雇用保険は給付を受けられる期間が決まっており、通常離職日から 1 年、障害者など就職困難 者は 1 年 2 ヶ月が受給期間です。受給期間がすぎると、給付される日数が残っていても、手当を受け ることができなくなってしまうので、早めに手続きをすべきでしょう。 ・自己都合退職:労働者側の都合により、労働者と会社が合意したうえで退職すること ・解雇:会社が一方的に労働者を辞めさせること ・会社都合退職:会社側の都合により、労働者と会社が合意したうえで退職すること ※離職理由の区分 よくあるトラブル Q. 会社側に「うちは雇用保険に入っていない」と言われた A. 雇用保険は一定要件を満たした労働者であれば事業者に加入させる義務があります。ハローワーク に申告すれば辞めた後でも加入することができます。 Q. 自己都合退職で辞めるよう迫られている A. すでにみたように、雇用保険は自己都合退職で辞めると受給まで 4 ヶ月ほどかかり、受給期間が短 くなってしまうこともあります。クライエントにとって大きな不利となるので、絶対に同意しない よう説得すべきでしょう。 しつこい場合は、ユニオンなどへの相談を検討してください。 Q. 会社が離職票を発行してくれない A. 離職票の発行は会社側の義務です。発行しない場合は、ハローワークに申告しましょう。 離職の日以前 1 年間に、被保険者期間が 6 ヵ月以上 3 ヶ月 なし 項目 表6のとおり 離職の日以前 2 年間に、被保険者期間が 12 ヵ月以上 表5 自己都合退職と会社都合退職の比較 [ ii ] 特定受給資格者・特定理由離職者 ※正当な退職理由がある場合、解雇や退職 勧奨で辞めた場合 [ i ] 一般受給資格者 ※正当な退職理由のない場合 表7のとおり 受給要件 受給制限期間 給付日数 65 歳未満 10年未満 10年以上20年未満 20年以上 90 日 120 日 150 日 表6 一般受給資格者の給付日数 年齢 加入期間 30 歳未満 年齢 1年未満 5年以上 10年未満 10年以上 20年未満 20年以上 30 歳以上 35 歳未満 表7 特定受給資格者・特定理由離職者の給付日数 加入期間 35 歳以上 45 歳未満 45 歳以上 60 歳未満 60 歳以上 65 歳未満 90 日 180 日 150 日 90 日 120 日 180 日 180 日 240 日 210 日 180 日 240 日 210 日 270 日 240 日 270 日 240 日 330 日 − 1年以上 5年未満 1年未満 1年以上 45 歳未満 150 日 300 日 表8 就職困難者の給付日数 年齢 加入期間 45 歳以上 65 歳未満 360 日
  31. 31. 3130 給付日数 雇用保険を受給できる日数は、年齢や障害の有無、被保険者期間、離職理由によって決まります。自 己都合退職の場合には [ i ] 一般受給資格者、解雇や会社都合退職の場合には [ ii ] 特定受給資格者・特 定理由離職者、障害者の場合には [ iii ] 就職困難者と区分されます。 c. 雇用保険を受給する 雇用保険は、労働者が会社を辞めてから次の仕事を探す間、各々の条件に応じて国からお金が給付さ れる制度で、退職前の給料水準の 5 ∼ 8 割が給付されます。クライエントが失業直後であればぜひ利 用したいものです。 雇用保険の利用に関して最も重要なのは、週 20 時間以上、31 日以上働いていれば必ず被保険者にな るということです。「雇用保険に加入していなかった」という方でも、辞めた後から 及的に加入する こともできるので、給付資格があるかどうかを確認するようにしましょう。 また、雇用保険は給付を受けられる期間が決まっており、通常離職日から 1 年、障害者など就職困難 者は 1 年 2 ヶ月が受給期間です。受給期間がすぎると、給付される日数が残っていても、手当を受け ることができなくなってしまうので、早めに手続きをすべきでしょう。 ・自己都合退職:労働者側の都合により、労働者と会社が合意したうえで退職すること ・解雇:会社が一方的に労働者を辞めさせること ・会社都合退職:会社側の都合により、労働者と会社が合意したうえで退職すること ※離職理由の区分 よくあるトラブル Q. 会社側に「うちは雇用保険に入っていない」と言われた A. 雇用保険は一定要件を満たした労働者であれば事業者に加入させる義務があります。ハローワーク に申告すれば辞めた後でも加入することができます。 Q. 自己都合退職で辞めるよう迫られている A. すでにみたように、雇用保険は自己都合退職で辞めると受給まで 4 ヶ月ほどかかり、受給期間が短 くなってしまうこともあります。クライエントにとって大きな不利となるので、絶対に同意しない よう説得すべきでしょう。 しつこい場合は、ユニオンなどへの相談を検討してください。 Q. 会社が離職票を発行してくれない A. 離職票の発行は会社側の義務です。発行しない場合は、ハローワークに申告しましょう。 離職の日以前 1 年間に、被保険者期間が 6 ヵ月以上 3 ヶ月 なし 項目 表6のとおり 離職の日以前 2 年間に、被保険者期間が 12 ヵ月以上 表5 自己都合退職と会社都合退職の比較 [ ii ] 特定受給資格者・特定理由離職者 ※正当な退職理由がある場合、解雇や退職 勧奨で辞めた場合 [ i ] 一般受給資格者 ※正当な退職理由のない場合 表7のとおり 受給要件 受給制限期間 給付日数 65 歳未満 10年未満 10年以上20年未満 20年以上 90 日 120 日 150 日 表6 一般受給資格者の給付日数 年齢 加入期間 30 歳未満 年齢 1年未満 5年以上 10年未満 10年以上 20年未満 20年以上 30 歳以上 35 歳未満 表7 特定受給資格者・特定理由離職者の給付日数 加入期間 35 歳以上 45 歳未満 45 歳以上 60 歳未満 60 歳以上 65 歳未満 90 日 180 日 150 日 90 日 120 日 180 日 180 日 240 日 210 日 180 日 240 日 210 日 270 日 240 日 270 日 240 日 330 日 − 1年以上 5年未満 1年未満 1年以上 45 歳未満 150 日 300 日 表8 就職困難者の給付日数 年齢 加入期間 45 歳以上 65 歳未満 360 日
  32. 32. 3332 d. 住宅支援給付金と求職者支援制度を使おう ここ数年、派遣村などの経験を踏まえ、失業中の方を対象とした生活支援策が整備されてきています。 雇用保険と生活保護の間に張られたセーフティネットという意味で、「第二のセーフティネット」と呼 ばれることがありますが、ここでは、その主な制度として住宅支援給付金と求職者支援制度を紹介し ます。 [URL] http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/safety_net/63.html ※参考 厚生労働省「住宅支援給付」 住宅支援給付金 失業者を対象に、一定の範囲内で賃貸住宅の家賃の支給を受けることのできる制度です。金額は、生 活保護の住宅扶助 ( 東京都 23 区内・単身者であれば 53,700 円/月 ) に準拠した基準額内で家賃の実 費分が支給され、支給期間は原則 3 ヶ月です。手続きは市区町村役所で行います。 求職者支援制度 求職者支援制度は、雇用保険を受給し終わった方など雇用保険を受けられない方を対象に職業訓練と 訓練期間中の生活費給付を行う制度です。訓練期間は 1 コース 3 ∼ 6 ヶ月で、一定の条件を満たせば その間月 10 万円の職業訓練受講給付金を受けられます。手続きは最寄りのハローワークで行います。 [URL] http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/kyushokusha_shien/dl/kyusyokusya02.pdf ※参考 厚生労働省「雇用保険を受給できない求職者の皆さまへ 求職者支援制度があります!」 1 表9 住宅支援給付金の受給要件 2 3 4 5 離職後 2 年以内、65 歳未満 離職前に主たる生計維持者であった ハローワークで就職活動を行っている 住宅が持家でない 世帯収入が次に示す基準額以下である 世帯の預貯金の合計額が次に示す基準額以下である 職業訓練受講給付金などの公的給付や貸付けを受けていない 暴力団員でない 単身世帯:8.4 万円+家賃額未満 2 人世帯:17.2 万円以下 3 人以上世帯:17.2 万円+家賃額未満 6 単身世帯:50 万円 2 人以上世帯:100 万円 7 8 1 表10 職業訓練受講給付金の受給要件 2 3 4 5 本人の月収が 8 万円以下 世帯全体の収入が月 25 万円以下 世帯全体の金融資産が 300 万円以下 現在住んでいるところ以外に土地・建物を所有していない 全ての職業訓練に出席している 他の世帯員がこの給付金を受給していない6 過去 3 年以内に、職業訓練関連給付等の不正受給をしたことがない 過去にこの給付金を受給したことがある場合は、前回の受給から 6 年以上経過している 7 8
  33. 33. 3332 d. 住宅支援給付金と求職者支援制度を使おう ここ数年、派遣村などの経験を踏まえ、失業中の方を対象とした生活支援策が整備されてきています。 雇用保険と生活保護の間に張られたセーフティネットという意味で、「第二のセーフティネット」と呼 ばれることがありますが、ここでは、その主な制度として住宅支援給付金と求職者支援制度を紹介し ます。 [URL] http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/safety_net/63.html ※参考 厚生労働省「住宅支援給付」 住宅支援給付金 失業者を対象に、一定の範囲内で賃貸住宅の家賃の支給を受けることのできる制度です。金額は、生 活保護の住宅扶助 ( 東京都 23 区内・単身者であれば 53,700 円/月 ) に準拠した基準額内で家賃の実 費分が支給され、支給期間は原則 3 ヶ月です。手続きは市区町村役所で行います。 求職者支援制度 求職者支援制度は、雇用保険を受給し終わった方など雇用保険を受けられない方を対象に職業訓練と 訓練期間中の生活費給付を行う制度です。訓練期間は 1 コース 3 ∼ 6 ヶ月で、一定の条件を満たせば その間月 10 万円の職業訓練受講給付金を受けられます。手続きは最寄りのハローワークで行います。 [URL] http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/kyushokusha_shien/dl/kyusyokusya02.pdf ※参考 厚生労働省「雇用保険を受給できない求職者の皆さまへ 求職者支援制度があります!」 1 表9 住宅支援給付金の受給要件 2 3 4 5 離職後 2 年以内、65 歳未満 離職前に主たる生計維持者であった ハローワークで就職活動を行っている 住宅が持家でない 世帯収入が次に示す基準額以下である 世帯の預貯金の合計額が次に示す基準額以下である 職業訓練受講給付金などの公的給付や貸付けを受けていない 暴力団員でない 単身世帯:8.4 万円+家賃額未満 2 人世帯:17.2 万円以下 3 人以上世帯:17.2 万円+家賃額未満 6 単身世帯:50 万円 2 人以上世帯:100 万円 7 8 1 表10 職業訓練受講給付金の受給要件 2 3 4 5 本人の月収が 8 万円以下 世帯全体の収入が月 25 万円以下 世帯全体の金融資産が 300 万円以下 現在住んでいるところ以外に土地・建物を所有していない 全ての職業訓練に出席している 他の世帯員がこの給付金を受給していない6 過去 3 年以内に、職業訓練関連給付等の不正受給をしたことがない 過去にこの給付金を受給したことがある場合は、前回の受給から 6 年以上経過している 7 8
  34. 34. 34 第3章 ネットワークを活用しよう
  35. 35. 34 第3章 ネットワークを活用しよう

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