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R172 飯田 敏晴・いとう たけひこ・井上 孝代 (2014). 大学生におけるHIV感染想定時の自己イメージの意味構造:性別,HIV感染経路に関する知識及びHIV/AIDSに関する偏見との関連 山梨英和大学紀要, 12, 18-31.

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R172 飯田 敏晴・いとう たけひこ・井上 孝代 (2014). 大学生におけるHIV感染想定時の自己イメージの意味構造:性別,HIV感染経路に関する知識及びHIV/AIDSに関する偏見との関連 山梨英和大学紀要, 12, 18-31.

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R172 飯田 敏晴・いとう たけひこ・井上 孝代 (2014). 大学生におけるHIV感染想定時の自己イメージの意味構造:性別,HIV感染経路に関する知識及びHIV/AIDSに関する偏見との関連 山梨英和大学紀要, 12, 18-31.

  1. 1. 大学生における HIV 感染想定時の自己イメージの意味構造 -性別,HIV 感染経路に関する知識及び HIV/AIDS に関する偏見との関連- College Students’ Meaning Structure of Self-Image after HIV transmitted: Gender, Knowledge of HIV Transmission and Prejudice toward People Living with HIV/AIDS 飯田 敏晴 1) いとう たけひこ 2) 井上 孝代 3) Toshiharu Iida Takehiko Ito Takayo Inoue 要 旨 本邦でのヒト免疫不全ウィルス感染および後天性免疫不全症候群(以下,HIV/AIDS とする)の新 規報告は,2013 年時点においても相次いでいる。本研究は,HIV/AIDS の早期発見・早期治療を促 進するうえで重要な要因と考えられる HIV 感染想定時の自己イメージに着目したものである。HIV 感染想定時の自己イメージが形成される背景を明らかにしていくための仮説を生成するために調査 研究を行った。大学生 263 名(男 99,女 164)から得られた自由記述文に対して,KJ 法に準じて分 類し,そこから得られた 14 のカテゴリーと,性別,HIV 感染経路に関する知識,HIV/AIDS に関す る偏見との関連を数量化理論 3 類によって検討を行った。検討の結果,知識の乏しさや、偏見の強さ が HIV 感染想定時の自己イメージの形成に否定的に影響を与えていることが明らかとなった。また、 HIV 感染想定時の意味構造は、性別によって異なっている可能性が示唆された。 キーワード:HIV 感染想定時の自己イメージ,HIV/AIDS、偏見、知識 第1章 問題と目的 本邦における HIV/AIDS の流行状況 青年期男女における初交年齢の早期化,高校生・大学生における性交経験率がますます上昇する一 方,性交パートナー数が多いほど,コンドーム使用率が低いことが問題視されている。コンドームの 使用は,避妊を目的としたツールであるが,梅毒,クラミジアといった性病や性行為感染症をはじめ として,人の血液や精液,膣分泌液に多く含まれ,性行為の相手の性器や肛門,口などの粘膜や傷口 1) 山梨英和大学人間文化学部 2) 和光大学現代人間学部 3) 明治学院大学 -18-
  2. 2. を媒介として感染するヒト免疫不全ウィルス(以下,HIV)感染症の予防において有効なツールであ るのにも関わらず,コンドーム使用率が低いことは看過できない重要な問題である。 HIV は,1980 年代初頭に発見されたウィルスである。発見と同時期に,その感染経路が分かり, 以来,本邦においても予防的な取り組みは多くなされてきた。しかしながら,厚生労働省エイズ動向 委員会の毎年度の報告によれば,増加の一途を辿っている。2012 年度の新規報告件数は 1,002 件であ り,さらに,後天性免疫不全症候群(以下,AIDS とする)の報告件数は 447 件である。2012 年末の 累積報告件数(凝固因子製剤による感染を除く)は,HIV 感染報告件数は 14,706 件,AIDS 発症報 告件数は,6,719 件で,計 21,425 件となった。HIV 感染により免疫機能が低下し,AIDS を発症して, 初めて自身の HIV への感染が明らかになる事例(“いきなりエイズ”)が後を絶たない現状にある。主 な感染経路は,性的接触による感染がほとんどである(HIV 感染症で 90.2%,AIDS で 78.7%)。2012 年度の新規 HIV 感染報告数 1002 件のうち,異性間の性的接触は 180 件(18.0%),同性間の性的接 触は 724 件(72.3%)である。年齢層は,HIV 感染報告では,20 歳代,30 歳代に集中しており,AIDS 発症報告では,20 歳以上に幅広く分布し,特に 30 歳代,40 歳代に多い。これらの増加は,年度での 比較をすると減少傾向とは言い難く(エイズ動向委員会, 2013),さらに,橋本・川戸(2009)が試 算した 2007 年時点での HIV 陽性者補足率は 13%であるという数値を踏まえれば,これまで以上に, 予防啓発・早期発見・早期治療に資する対策を展開していく必要があるといよう。 この対策を検討するにあたり,本邦の心理学分野からの知見は乏しい。コンドームの使用や不特定 多数と性的関係に陥ることを抑制することに焦点を当てた研究(木村, 1995)や,木村(1995)の議 論を発展させ,コンドームの使用や不特定多数との性行動,そしてその行動の規定要因である,認知 要因や過去に受けたエイズ教育の種類との関連(高本・深田, 2008)を検討したものがほとんどで、 一部に留まっている。HIV/AIDS の一次予防に焦点を当てて予防啓発に重きを置いたものがほとんど であって,早期発見・早期治療に重きを置いた研究は乏しいのが現状である。 HIV/AIDS とスティグマ HIV 感染症の治療過程は,1990 年代後半に開発された cART(combination-antiretroviral therapy) が確立されたことで大きくなった。そして,今では,HIV 陽性者の平均余命は著しく改善した(Lohse, Hanse, Pedersen, Kronborg et al, 2007)。適切な治療下であれば,就労や就学を始め様々なライフサ イクル上の選択肢が,感染判明前とほぼ変わらないままでいられるようになった。一方で,その生活 を脅かすものが,HIV に関連したスティグマ(HIV-related stigma)である。このスティグマが生起 する理由について,Swendeman, Rotheram-Borus, Comulada, Weiss, Ramos(2006)は,次のよう に述べている。第 1 に,HIV の感染経路は人間の体液を主な媒介とするため,HIV に感染することを 性行為に関する規範意識からの逸脱,あるいは売春行為,犯罪行為など,不道徳な行為の結果として -19-
  3. 3. 認識されやすいこと,第 2 に,これらの行為は,人間が自発的に行うものであり回避可能な行動であ ると認識されやすいこと,第 3 に,いまでに「HIV=死」のイメージが根強くあること,第 4 に,そ のイメージによって生じた脅威感情によって,その伝染性が高く見積もられること,第 5 に,HIV に 感染していたとしても,自分ではわからないし周囲からもわからない(invisible)な疾患であり,障 害開示においても,スティグマがあることで困難さが非常に大きいことである(飯田・渡邊, 2013)。 そして,こうした HIV 陽性者に向けられる偏見や差別は,本邦においても根強いことが指摘されてい る(飯田・いとう・井上, 2010)。近年,このようなスティグマの存在が,HIV 陽性者の生活のみなら ず,HIV 感染症および AIDS 発症の報告件数の増加に大きく影響を与えていることが指摘されている。 Babaloa(2007)は,人々が HIV 感染を疑った際に,感染判明後の生活を思い描くことで,対処行動 を抑制されることを見出している。すなわち,自身に感染が判明した後に,周囲にいる人間から,偏 見や差別を向けられることを怖れ,HIV 抗体検査の受検をはじめとしたエイズ相談の利用を避けやす くなるという現象を明らかにした。このことは,周囲の人間が,HIV 感染が生じた理由として,病気 や障害を避けるという人間の持つ生得的な動機が機能を果たさず,回避可能であるにも関わらず生じ た、と認識することで自身が非難や処罰感情の対象となり,それを向けられることを怖れて適切な対 処行動がとれなくなる、という可能性を示したものである。 飯田・いとう・井上(2012)は,人間が HIV 感染した想定した際に,自己が置かれる状況や周囲 から受けるであろう影響に関するイメージを,HIV 感染想定時の自己イメージと命名し,それを測定 するための多次元尺度を開発している(HIV 自己イメージ尺度)。大学生 435 名(男 130 名,女 284 名,不明 21 名)を対象としたアンケート調査を実施し,収集された回答に対して因子分析を施行し たところ,「ひきこもる」,「大学から遠のく」といった,感染判明後に周囲との接触を避けようとする 自己を想定する因子(社会的隔絶),「病気にかかりやすくなる」,「身体に痛みが走る」といった感染 判明後に身体が脆弱になる自己を想定した因子(身体的脆弱性),「出来る限り楽しい生活を送ろうと する」,「出来るだけ自分がしたいことをする」といった,制限される生活に陥りながらも,そのなか で前向きに生きていこうとする自己を想定した因子(生活態度変容),「結婚ができなくなる」,「恋人 ができなくなる」といった親密な他者との関係の喪失を予期した因子(親密性)の 4 因子を見出して いる。この HIV 感染想定時の自己イメージは,Babaloa(2007)の指摘と同じく,早期発見・早期治 療に資する HIV 抗体検査を含んだエイズ相談の利用に影響を与える要因と考えられるものである。今 後,エイズ相談の利用との関連を実証的に検討していくことが期待される。ただし,それを進めてい く上で,前提条件として重要なことがある。それは,HIV 感染想定時の自己イメージが形成された規 定要因の検討がなされていないのである。飯田・いとう・井上(2012)は尺度開発に関する報告であ り,尺度の妥当性の検討のために,概念的に近似していると考えられる自己効力感や,知覚されたソ ーシャルサポート,知覚されたコミュニティスティグマ,といった変数との関連を論じてはいるが, -20-
  4. 4. HIV 感染想定時の自己イメージが形成された背景についての検討は十分ではない。HIV 感染想定時の 自己イメージというものが形成に至るまでには,周囲の人びとの HIV/AIDS に関する態度,価値観, 行動などの影響の関与は否定できないのである。 そこで本論文では,HIV 感染想定時の自己イメージが形成される背景因について検討する。具体的 には,HIV 自己イメージ尺度の開発時,項目作成を目的として利用した自由記述文(飯田・いとう・ 井上(2010)の調査で収集し,未解析であったもの)と,同調査において収集された HIV/AIDS に 関する偏見と,HIV 感染経路に関する知識との関連を検討する。ここで得られる知見は,今後の検討 のうえで仮説を提示するものであって,本論文は,仮説生成的研究である。 第2章 方法 調査対象者及び調査時期 首都圏の 2 校の四年制私立大学学生。飯田・いとう・井上(2010)で取得した B 校 125 名(全員 が女性)および C 校 184 名の合計 309 名から収集したデータのうち,未解析であった自由記述式に よる回答 263 名(男 99 名,女 164 名)分のデータを利用した。 調査内容 1)記述文 HIV 感染想定時の自己イメージを把握するために次のような教示を行い,自由記述文を収集した。 すなわち「もし,HIV に感染したとしたら,自分またはその周囲にどのような変化があると思います か」である。 2)HIV 感染経路に関する知識 HIV 感染経路に関する知識の測定には,飯田・いとう・井上(2010)のものを用いた。これは,9 項目の質問文の項目内容が適切か不適切かを選択させるものである。9 項目の合計得点の平均点と標 準偏差に基づいて調査対象者を三分した。本対象者における平均点は,8.08 (SD = .93)点だった。 すなわち,知識得点の平均値±0.5SD を基準に,低知識群 (~7),中知識群 (8),高知識群 (9) の 3 群とした。低知識群は 61 名,中知識群は 96 名,高知識群は 106 名に分類された。 3)HIV 感染/AIDS に関する偏見 Lee et al.(2008)の“HIV/AIDS Related Stigma”を飯田・伊藤・井上(2008)が日本語訳した ものを用いた。これは, HIV の陽性者または,後天性免疫不全症候群の発症者に対する偏見を測定 する 4 つの質問項目からなり,評定は,それらの項目に対してどの程度賛同できるかを答えさせるも -21-
  5. 5. のである (4 件法)。感染経路に関する知識と同様,偏見の各指標の合計得点における平均点と標準 偏差に基づいて調査対象者を 3 分した。平均点は,6.47(SD= 2.06)点だった。すなわち,偏見得点 の平均点±0.5SD を基準に,偏見弱群 (~5),偏見中群 (6~7),偏見強群 (8~)の 3 群とした。 偏見弱群は 97 名,偏見中群は 97 名,偏見高群は 69 名に分類された。 なお,一連の調査では,性別,HIV 感染経路に関する知識や HIV/AIDS に関する偏見も同時に測定 しているが,これらの変数間の関連性は,先行研究(飯田・伊藤・井上, 2008; 飯田・いとう・井上,2010) で検討しているので論じない。ここでは,新たな視点で,自由記述文を KJ 法(川喜田, 1967)の方 法に準じて分類し,その分類によって得られたカテゴリーと,性別,HIV/AIDS に関する知識,HIV 感染経路に関する知識との多次元的関連性を検討する。 倫理的配慮 アンケートは各大学の学生が参加する講義の教室で配布した。調査員は講義時間外の時間を利用し て,学生に調査協力の依頼を口頭で行った。依頼時,調査内容の概略及び,配布するアンケートの受 け取りは任意であることを伝えた。アンケート配布後,説明事項として次の 3 つを口頭及び文章で説 明した。第 1 に調査内容が HIV/AIDS に関する調査であること,第 2 に調査協力の承諾の可否は,個 人の自由意思に基づくものであり,協力を拒否したとしても授業評価とは一切関係の無いこと,第 3 に調査は匿名で行われ個人名は特定しないことを明言した。協力依頼に応じた学生には,①学生同士 で回答を見ないようにすること,②学生同士で席を離して回答するよう伝えた。回答は,学生の任意 の時間(講義時間外)で行われ,回収は,アンケートを伏せて個別に提出された。全ての協力者の提 出を終えた時点でアンケートを回収した。調査終了後,HIV/AIDS に関する適切な知識が得られるよ うにするために,アンケートに掲載された知識項目についての正答及びその解説を紙面で説明した。 第3章 結果と考察 自由記述文の分類結果 263 名が回答した自由記述文の意味単位に基づいて,心理学系研究者 2 名(修士課程修了者)が KJ 法に準じて整理したところ,370 の記述文が得られた。4 人の心理学を専攻とする大学院生(博士 後期課程 1 名,修士課程 2 名,研究生 1 名(修士課程修了者))が,記述文で,意味内容が同一のも の,あるいは類似したものを KJ 法に準じて分類したところ,24 の小カテゴリーが得られた。さら小 カテゴリーを 14 の大カテゴリーに分類した。以下に出現頻度順に並べ替えたカテゴリー名を列挙す る(Table 1)。 -22-
  6. 6. 大カテゴリー[省略語] 小カテゴリー (人数) 注1 記述文数 % 人が離れていく (67) 偏見差別を受ける (43) 変に気を使われる (5) 親に怒られる (2) 精神的にダメージを受ける (20) ネガティブな気持ちになる (17) 動揺する (4) 悩む (2) 気まずくなる (2) 消極的になる (2) 症状が出る (31) 感染源になる (5) 治療を受ける (16) 今まで通りの生活ができない (8) 人に感染させないように気を使う (8) 自分から人と距離をとる (24) 公の場から遠のく (7) パートナーに関する問題が出てくる (7) 思い描いてた未来が崩れる (15) お互いの付き合い方が変わる[付き合い方] 15 4.1% 人に言えないし、言わない[隠蔽] 13 3.5% 精神的に支えてくれる[支え] 13 3.5% 周囲の人に心配や迷惑をかけてしまう[心配迷惑] 11 3.0% 周りの目の変化[周りの目] 10 2.7% 周りの目が気になる 5 1.4% HIVと向き合おうとする 5 1.4% 変わらない わからない 親の態度が変わりそう 周囲が驚く 周りもその事実を知ったら分かってくれる 人と分かってくれない人に分かれてしまう 気がする 注1 多重回答有 人生設計への否定的影響[人生設計] 18 28 他者からの否定的態度[否定的態度] 否定的な思考[否定的思考] 身体の否定的変化[身体] 日常生活への否定的影響[生活] 社会から離れる[離れる] 370合計 Table1 HIV感染想定時の自己イメージに関する自由記述文の分類結果 (N =263,男99名,女164名) 109 45 36 32 31 その他 29.5% 12.2% 9.7% 8.6% 8.1% 4.9% 7.6% 太字で記載された名前は,大カテゴリー名であり,「」内は小カテゴリー名,()内の算用数字は出現 頻度,である。他者からの否定的態度(109):「人が離れていく」,「偏見差別を受ける」,「変に気を 使われる」,「親に怒られる」,否定的な思考 (45):「精神的にダメージを受ける」,「ネガティブな気 持ちになる」,「動揺する」,「悩む」,「気まずくなる」,「消極的になる」,身体の否定的変化 (36):「症 状が出る」,「感染源になる」,日常生活への否定的影響 (32):「治療を受ける」,「今まで通りの生活 Table 1 -23-
  7. 7. Table2 数量化Ⅲ類による自己イメージ(大カテゴリー)の重み係数 大カテゴリー[省略語] 第1軸 固有値=.338 第2軸 固有値=.297 第3軸 固有値=.281 他者からの否定的態度[否定的態度] -0.11 -0.30 0.75 精神的に支えてくれる[支え] -2.06 -2.72 -1.97 周りの目の変化[周りの目] -1.51 -2.78 0.46 人から離れる[離れる] -0.34 0.88 0.96 人に言えないし、言わない[隠蔽] -0.11 1.63 -0.19 否定的な思考[否定的思考] -0.44 -0.38 0.20 身体の否定的変化[身体] 1.86 -1.02 -1.40 日常生活への否定的影響[生活] -0.12 1.72 -1.25 周囲の人に心配や迷惑をかけてしまう[心配迷惑] 1.53 1.14 2.42 お互いの付き合い方が変わる[付き合い方] -0.28 2.57 -0.07 人生設計への否定的影響[人生設計] -2.04 0.67 -0.67 ができない」,「人に感染させないように気を使う」,人から離れる(30):「自分から人と距離をとる」, 「公の場から遠のく」,人生設計への否定的影響 (18):「パートナーに関する問題が出てくる」,「思 い描いていた未来が崩れる」,お互いの付き合い方が変わる(15),人に言えないし,言わない(13), 精神的に支えてくれる (13),周囲の人に心配や迷惑をかけてしまう (11),周りの目の変化 (10), 周りの目が気になる (5),HIV と向き合おうとする (5), その他(28) :「変わらない(19)」, 「わからない(6)」,「親の態度が変わりそう (1)」,「周囲が驚く (1)」, 「周りもその事実を知っ たら分かってくれる人と分かってくれない人に分かれてしまう気がする (1)」。 HIV 感染想定時の自己イメージの意味構造 HIV 感染想定時の自己イメージを詳細に検討するために,河内(2001)に倣って低頻度(n≦5) のカテゴリーと「その他」を除いた 11 の大カテゴリーを,性,HIV 感染/AIDS に関する偏見,HIV 感染経路に関する知識の 3 要因とともに,数量化 3 類による分析を行った。第 5 軸まで固有値を算出 したところ,1 軸から 5 軸までで,.34,.30,.28 ,26,.24 であり,解釈可能な第 3 軸までを分析に 用いた。 1)自己イメージの意味構造 Table 2 には,第 1 軸から第 3 軸までの大カテゴリーの重み係数を示した。このうち絶対値が,1.0 以上のカテゴリーに基づいて,次のように解釈した。 ①第 1 軸 正の重み係数 1 以上の値を示しているのは,「身体の否定的変化 (1.857)」,「周囲の人に 心配や迷惑をかけてしまう (1.535)」であった。HIV に感染し身体症状が出現することは,健康な 自己の姿と対立するものである。さらに,「周囲の人に心配や迷惑をかけてしまう」については,周囲 に意図せずにして,「心配」や「迷惑」といった精神的負担を与えるという自己にとって望ましくない Table 2 -24-
  8. 8. 結果を想像したものである。この次元は,現在の自己と照らして望ましくない姿を具体化した自己イ メージといえる。したがって,「対自的」自己像の次元と解釈した。一方で,負の重み係数 1 以上の 値を示していたのは,「精神的に支えてくれる (-2.06)」,「人生設計への否定的影響 (-2.04)」,「周 りの目の変化 (-1.51)」であった。HIV 感染想定時,他者にとっての HIV 陽性者,という客体とし ての自己の姿を具体化した自己イメージといえる。したがって,「対他的」自己像の次元と解釈した。 以上から第 1 軸を「対他的」,「対自的」の対比とする「対他的-対自的自己像」の軸と命名した。 ② 第 2 軸 正の重み係数 1 以上の値を示していたのは,「お互いの付き合い方が変わる(2.58)」,「日 常生活 への否定的影響(1.72)」,「人に言えないし,言わない (1.63)」,「周囲の人に心配や迷惑を かけてしまう (1.14)」,であった。一方で,マイナス 1 以上の値を示していたのは,「周りの目の変 化 (-2.78)」,「精神的に支えてくれる (-2.72)」,「身体の否定的変化 (-1.03)」,であった。この軸 は,HIV 感染に基づいた自己の時間的連続性に関わるカテゴリーが占めていた。すなわち,正の重み 係数の次元は,他者と接する上での自身の態度,日常生活の過ごし方についてイメージし,HIV 感染 想定時に,それまでの自己の連続性が失われることを想像した次元と考えられる。 一方の,負の重み係数の次元では,「身体の否定的変化」の近くに,他者との関係性に関わるカテゴリ ーが布置していた。身体の否定的変化は,病人としての自己像を表したものである。それゆえに,周 囲の人から,自身を病人として精神的に支えられるという自己をイメージしている。この次元は,回 答者が,自身の発達過程で形成してきた病人としてイメージが関与していると考えられた。したがっ て,第 2 軸を「断絶」,「連続」の対比とする「時間的連続性」の軸と命名した。 ③第 3 軸 正の重み係数 1 以上を示していたのは,「周囲の人に心配や迷惑をかけてしまう (2.42)」 であった。ついで「人から離れる (.961)」であった。一方で,負の重み係数 1 以上を示していたの は,「精神的に支えてくれる (-1.97)」,「身体の否定的変化 (-1.30)」,「日常生活への否定的影響 (-1.25)」が布置していた。この軸は,HIV に感染したことが判明した後の自身と社会との距離をイ メージしたものであると考えられる。すなわち,正の重み係数の次元では,周囲に意図せずに「心配」 や「迷惑」といった精神的負担を与えてしまい,社会との距離が遠のいていく自己を想定したものと 考えられるが,一方の負の重み係数の次元では,日常生活が変化し,HIV 感染症の治療をうけつつ, 他者に感染させないように配慮して行動するという,社会との距離を保とうとする自己を想定したも のと考えられる。さらには,近親者から「精神的に支えられる」という肯定的な関係を想定している。 以上から,正の次元は「拒絶」,負の次元では「受容」に対比される「心理社会的自己像」の軸と命名 した。 2)HIV 感染想定時の自己イメージと,性,偏見,知識との関連 さらに HIV 感染想定時の自己イメージが形成された背景について検討するために,Table 3 に,性 別,HIV 感染経路に関する知識,HIV 感染/AIDS に関する偏見の重み係数とレンジを示した。ここで -25-
  9. 9. 第1軸 固有値=.34 (レンジ) 第2軸 固有値=.30 (レンジ) 第3軸 固有値=.28 (レンジ) (2.407) (0.531) (0.122) 男性 1.560 -0.352 -0.101 女性 -0.847 0.179 0.021 (2.616) (1.071) (2.163) 知識低 1.903 -0.803 -1.082 知識中 -0.713 0.268 1.081 知識高 -0.303 0.169 -0.417 (1.880) (3.289) (3.383) 偏見弱 0.431 1.820 -0.916 偏見中 -0.940 -1.469 -0.905 偏見強 0.940 -0.572 2.467 Table3 数量化Ⅲ類による性別,HIV感染経路に関する知識,     HIV/AIDSに関する偏見の重み係数 性別 HIV感染経路に関する知識 HIV感染/AIDSに関する偏見 レンジが大きいアイテムほどその次元における説明力は大であり,HIV 感染想定時の自己イメージの 記述にとって効率のよいアイテムである。レンジの大きさから見ると,第 1 軸の「対他的-対自的自己 像」では,HIV 感染経路に関する知識が最も大きく(2.616),性別(2.407),HIV 感染/AIDS に関す る偏見(1.880)の順であった。第 2 軸の「時間的連続性」では,HIV 感染/AIDS に関する偏見(3.289) が突出しており,次いで HIV 感染経路に関する知識であり (1.071),性別(0.531)であった。第 3 軸の「心理社会的自己像」は,HIV 感染/AIDS に関する偏見が突出しており(3.383),ついで突出し ており(3.383),ついで HIV 感染経路に関する知識が高く(2.163),性別(0.122)と低かった。こ れらの結果をもとに,以下に若干の考察を加える。数量化Ⅲ類による重み係数をプロットしたのが, 次頁の Figure 1 と Figure 2 である。 ① 1 軸と 2 軸の組み合わせ Figure1 を見ると,「対自的」の軸と,「連続」の軸に囲まれた第 2 象 限の意味空間には,「男性」,「知識低」,「偏見強」の要因が布置していた。すなわち,この意味空間に 代表される「身体の変化」という想起は,知識の低さと偏見の強さゆえに生じたものと解釈される。 さらに,この正反対の方向を示す「対他的」の軸と「断絶」の軸に囲まれた第 4 象限において,「女 性」,「知識中」,「知識高」が布置されていた。以上から,性別と HIV 感染経路に関する知識量が, HIV 感染想定時の自己イメージを対称化させる要因となるばかりでなく,「人生設計への否定的影響」 や「社会から離れる」といった心理社会的な多様な変化を想定する要因となりうることが示された。 ただし,これらの要因は,「断絶」の軸よりも「対他的」の軸に関与が強く,第 4 象限の意味空間を より適切に説明するためには,今後,性別や知識量だけではなく,例えば性役割意識といった他の要 因の関与についても検討していく必要があるだろう。なお「対他的」の軸と正反対の「対自的」の軸 に布置する「偏見弱」は,「断絶」を説明する上で,大きい値を示していた。偏見の弱さは,社会的に 望ましい態度を示すものである。すなわち,自己の時間的連続性を分断するイメージが想定された背 Table 3 -26-
  10. 10. 男性 女性 知識低 知識中 知識高 偏見弱 偏見中 偏見強 否定的態度 支え 周りの目 離れる 隠蔽 否定的思考 身体 生活 心配迷惑 付き合い方 人生設計 -3 -2 -1 0 1 2 3 -3 -2 -1 0 1 2 3 Figure1 第1軸と第2軸の重み係数に基づく,性差,HIV感染経路に関する知 識,HIV感染/AIDSに関する偏見,自己イメージ(大カテゴリー)の散布図 対他的 対自的 連 続 断 絶 Figure 1 -27-
  11. 11. 男性女性 知識低 知識中 知識高 偏見弱偏見中 偏見強 否定的態度 支え 周りの目 離れる 隠蔽 否定的思考 身体 生活 心配迷惑 付き合い方 人生設計 -3 -2 -1 0 1 2 3 -3 -2 -1 0 1 2 3 Figure2 第1軸と第3軸の重み係数に基づく,性差,HIV感染経路に関 する知識,HIV感染/AIDSに関する偏見,自己イメージ(大カテゴリー) の散布図 対他的 対自的 受 容 拒 絶 景として,社会的に望ましくあろうとする態度が,かえって強く影響を与えている可能性が示された。 ② 第 1 軸と第 3 軸の組み合わせ Figure 2 を見ると「対自的」の軸と「拒絶」の軸に囲まれた第 1 象限に「偏見強」が布置されている。このことは,他者を排斥する態度が強い故に,自身が感染した 際も自分を排斥の対象としてみなし,孤立した生活を過ごす自己を想起したものと解釈出来る。偏見 は,「拒絶」の軸を説明する「他者からの否定的態度」「社会から離れる」といったカテゴリーと同じ 方向にあり,さらには反対の「受容」の軸では,「偏見中」,「偏見弱」が同程度に効いていることか Figure 2 -28-
  12. 12. 男性 女性 偏見弱 偏見中 偏見強 知識低 知識中 知識高 (N=99) (N=164) (N=97) (N=97) (N=69) (N=61) (N=96) (N=106) 他者からの否定的態度 40.4 42.1 35.1 42.3 49.3 31.1 44.8 44.3 否定的な思考 15.2 18.3 11.3 22.7 17.4 16.4 16.7 17.9 身体の否定的変化 19.2 10.4 14.4 11.3 15.9 21.3 7.3 15.1 日常生活への否定的影響 14.1 11.0 19.6 11.3 2.9 9.8 14.6 11.3 社会から離れる 7.1 14.0 11.3 9.3 14.5 11.5 14.6 8.5 人生設計への否定的影響 3.0 9.1 5.2 10.3 4.3 3.3 8.3 7.5 お互いの付き合い方が変わる 5.1 6.1 9.3 3.1 4.3 3.3 8.3 4.7 人に言えないし、言わない 4.0 5.5 7.2 3.1 4.3 4.9 5.2 4.7 精神的に支えてくれる 3.0 6.1 2.1 10.3 1.4 1.6 5.2 6.6 周囲の人に心配や迷惑をかけてしまう 4.0 4.3 4.1 0.0 10.1 4.9 2.1 5.7 周りの目の変化 3.0 4.3 1.0 6.2 4.3 1.6 5.2 3.8 Table4 性別、HIV/AIDSに関する偏見、HIV感染経路に関する知識における       HIV感染想定時の自己イメージの各カテゴリーの出現頻度(10以上)の百分率 [多重回答] 性別 HIV感染/AIDSに関する偏見 HIV感染経路に関する知識 ら,偏見が強い者ほど,かえって他者の否定的態度を強く知覚していることが示唆された。 HIV 感染想定時の自己イメージの記述語の意味内容について:性,知識,偏見 これまでの考察と違った観点から,HIV 感染想定時の自己イメージについて考察するため,性別(男 女),知識 3 群(高知識群,中知識群,低知識群),偏見 3 群(偏見弱群,偏見中群,偏見弱群)の各 変数において,出現頻度が 10 以上となったカテゴリーを用いて,各変数での出現頻度を百分率で示 した(Table 4)。 ①性別 性差について注目すると,「身体の否定的変化」が女性(10.4%)より男性が明らかに高い (19.2%)。一方,「社会から離れる」,「人生設計への否定的影響」は,男性に比して女性が高く回答 していた(社会から離れる:男 7.1% 女 14.0% 人生設計:男 3.0%,女:9.1%)。以上から,HIV 感 染想定時の自己イメージを,男性は身体面の変化を想定していたことに対し,女性は,対人関係にお ける自己の変化を多く想定していたといえる。HIV 感染は,そのパートナーの多くが,自身にとって 重要な他者である。女性にとって HIV 感染とは,自己観を根底から否定する経験となりうるものであ ると考えられる。 ②HIV 感染経路に関する知識 「他者からの否定的態度」について,知識が高い者が,知識は低い者 より多く想定していた。本邦においては,血友病治療における薬害エイズ事件の被害者が周囲からの 偏見や差別により,社会的に周辺化され,さらに被害者家族も遺族となって時間が経過しても差別へ の不安から病名が周囲に知られないようにしている(清水・赤松, 2008)。こうした背景からエイズ教 育のなかで,狭義の感染予防を目的としたものだけではなく,偏見差別や当事者に対して必要な心遣 Table 4 -29-
  13. 13. いが扱われることは少なくない(高本・深田, 2008)。今回尋ねた知識は,感染経路に関するものだが, 知識が高い者は,そうした歴史的事実についての知識も総体的に高く,こうした予測を強めた可能性 がある。 ③HIV 感染/AIDS に関する偏見 「他者からの否定的態度」については,全群において対象者の 3 分 1 以上が想定していたものの,偏見が強い者が,偏見が弱い者より多く想定していた(偏見強:49.3%, 偏見弱:35.1%)。反面,「日常生活への否定的影響」について,偏見が弱い者が偏見の強い者よりも 多く想定していた。上述したように,偏見や偏見差別の知覚の強さは,HIV 感染想定時に,日常生活 を脅かすという予期を生じさせる要因となると考えられる。 まとめ 以上のように,HIV 感染想定時の自己イメージと,HIV/AIDS に関する知識,HIV/AIDS に関する 偏見との関連についての仮設が生成された。今後,さらに検討を続け,HIV 感染想定時の自己イメー ジを形成する背景因について明らかとしていきたい。また、本研究では,自由記述文に対して数量化 3 類による解析を行い,HIV 感染想定時の自己イメージとして,「対自的-対他的自己像」,「時間的連 続性」,「心理社会的自己像」の 3 つの視点から捉えていくことの有用性が示された。この結果は,大 学生が,HIV に感染することを,アイデンティティの重要な要素である,自身の独自性と過去との連 続性,そして,自分が社会や他者から承認されている受容感のどちらも分断するものとして認識して いることを示した点で有益と考えられる。 参考文献 Babaloa, S. (2007) : Readiness for HIV testing among young people in Northern Nigeria: The role of social norm and perceived stigma. AIDS Behavior, 11, 759-768. 橋本修二・川戸美由紀(2009) : エイズ発生動向調査の報告・未報告の HIV 感染者数と AIDS 患者数に おける近未来予測の試み. エイズ学会誌, 11, 152-157. 飯田敏晴・伊藤武彦・井上孝代(2008) : 日本の大学生における HIV 感染者・エイズ患者に対する偏見 と知識:中国との比較 応用心理学研究, 33, 142-143. 飯田敏晴・いとうたけひこ・井上孝代(2010) : 日本の大学生における HIV 感染経路に関する知識と偏 見との関連-性差に焦点をあてて- 応用心理学研究, 35, 81-89. 飯田敏晴・いとうたけひこ・井上孝代(2012) : HIV 自己イメージ尺度(HIVSIS)の信頼性と妥当性の検 討-予防的介入プログラムの開発に役立つ尺度の作成- コミュニティ心理学研究, 16,39-54. 飯田敏晴・渡邊愛祈 (2013) : HIV/エイズとともに生きる人への臨床心理士・カウンセラーによるアド ボカシー 井上孝代(編著)臨床心理士・カウンセラーによるアドボカシー 風間書房. -30-
  14. 14. 川喜田二郎(1967): 発想法:創造性開発のために 中央公論社. 木村堅一(1996): 防衛動機理論に基づく AIDS 予防行動意思の規定因の検討 社会心理学研究, 12, 86-96. 厚生労働省エイズ動向委員会(2013) : 平成 24 年エイズ発生動向年報 2013 年 10 月 30 日, AIDS Prevention Information Network: API-Net エ イ ズ 予 防 情 報 ネ ッ ト , http://api-net.jfap.or.jp/status/2012/12nenpo/nenpo_menu.htm. Lee, M. B., Wu, Z., Rotheram-Borus, M. J., Detels, R., & Guan, J. (2005): HIV-related stigma among market workers in China. Health Psychology, 24,435-438. Lohse, N., Hansen, A.B., Pedersen, G., Kronborg, G., Gerstoft, J., Sørensen H.T., Vaeth, M., & Obel, N. S. (2007): Survival of persons with and without HIV infection in Denmark, 1995-2005. Annals of Internal Medicine, 146, 87-95. 清水由香・赤松昭(2008) : 周囲の人々との関係Ⅰ:偏見・差別・差別不安 山崎喜比古・井上洋士(編 著) 薬害 HIV 感染被害者遺族の人生 東京大学出版会. Swendeman, D., Rotheram-Borus, M.J., Comulada, S., Weiss, R., Ramos, M.E.(2006) : Predictors of HIV-related Stigma among young people living with HIV. Health Psychology, 25. 501-508. 高本雪子・深田博己 (2008) : HIV 対処行動意思と HIV 感染者・AIDS 患者への態度に及ぼす AIDS 情報の効果 対人社会心理学研究, 8, 23-33. 謝辞 本論文は,2012 年度に,第一筆者が明治学院大学に提出した博士学位論文の一部に新たな視点を加 え加筆・修正したものである。また,同研究に対して学会大会等で貴重な意見をいただきました多く の先生方,さらに,明治学院大学在学中,研究を進めていく上で,貴重なご示唆をいただきました明 治学院大学の金沢吉展先生,阿部裕先生に厚くお礼申し上げます。また,調査にご協力いただきまし た多くの方々に厚くお礼申し上げます。 本論文における調査は,2008 年度日本コミュニティ心理学会若手学会員研究・実践活動奨励賞の補 助を受けて行われた。 -31-

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