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【視座】 “テーマの知恵から方法の知恵へ” -それはWhatから始まる
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【視座】
“テーマの知恵から方法の知恵へ” -それはWhatから始まる
Satoe Kuwahara
System coordinator at Sapporo Sparkle K.K.
今 日 のIT化 に お い て、も っ と も 重 大 な 変 化 える。当然、費用が膨らみ、開発の難度は上
は、「要件を積み上げても、求めるシステム がる。そこで、要件を減らし、単純化する方
を 実 現 で き な い」こ と で あ る と 思 う。か つ 策 が と ら れ る。ず っ と 変 わ ら な いIT化 の 景
て、伝票処理をシステム化しただけの時代に 色。IT化のスコープが変わり、パッケージや
は、処理を要件化し、その流れをプログラム クラウドが手段となっても、システム化のア
に起こすだけで、ある程度のシステム品質を プローチは変わらない。
保つことができた。もちろん、当時から非機 それは結局、目指すべき姿を具体化せず、必
能要件もあれば、システムとして備えるべき 要な策をこらすこともなく、“できるなり”
仕様もあった。しかし、利用視点である論理 でシステムをつくることになる。“実現すべ
的な構造と、システム側から見た物理的な構 きシステム”と“実現できるシステム”との
造との差異は小さかった。 ギャップは大きい。
IT化が事業と一体化し、業務や商品サービス
と近くなるのにつれて、システムのスコープ 時には、“ダメなデザイン”のシステムを、
は事業の最前線へと広がってきた。事業と密 優れたPMが力尽くで、完成させることもあ
着したシステムほど多様で個性が強く、変化 る。進める中で生じる矛盾や不整合は「課題
が激しい。それをそのままシステム化したの 一覧」として解いていく。原点にある構造に
では、肥大で複雑なシステムができあがる。 発した問題も、個々に解き、穴をふさいでい
システムを構造的に整理し、複数の階層に整 く。そうして、プロジェクトは予定通りに完
理しなければならない。そこには、システム 了し、成功となる。しかし、そのシステムは
階層としての基盤化もあれば、事業の基幹と 大抵、期待通りの価値をあげられない。事業
なる流れと最前線のアプリケーションといっ から見て不可欠な機能が、“付加価値で(シ
たアプリケーションの位置関係もある。そし ステム的に見た)優先度が低い”と後送りさ
て、複数のシステムを組み合わせて、ひとつ れている。いざそれをつくろうと思っても、
のプロセスを形成し、ひとつの機能を実現す 全体構造上の問題で困難になる。そして、構
る。要件から見たプロセスや機能の単位と、 造に問題があるシステムは、変化対応力に欠
システムの単位とは異なる。 ける。保守や拡張を繰り返すうちに複雑さを
IT化の役割が進化し、スコープが広がってき 増し、障害への耐久度さえ損なっていく…。
た。ひとつのプロセスが複数のシステムをま こう書くとあまりに極端に見える。しかし、
たがって流れ、ひとつの機能が複数のシステ こうした事例は至るところにある。そして、
ム要素によってできあがる。この事実を直視 ダメなデザインのシステムをつくりきってし
すれば、「要件を積み上げても、求めるシス ま う 力 に、感 嘆 し つ つ も「罪 だ な…」と 思
テムを実現できない」ことは自明であり、シ う。
ス テ ム の 構 造 を 考 え る「グ ラ ン ド・デ ザ イ
ン」のフェーズがプロジェクトの正否を握る “Whatからシステムを考えること”。「デザ
ことも明かである。 インの重要性」をこう表現してきた。Howが
先行してはいけない。実現する姿が変わり、
しかし、今日においても、多くの基幹系プロ 利用する技術が変われば、自ずと進め方や方
ジェクトで、「業務プロセスの定義」を上流 法論は変わる。しかも、今は、同じテーマを
として、そこから機能一覧をつくる方式がと 対象にしても、実現するシステム像も使う技
られている。複雑な業務内容を複雑なままで 術も、進め方もあまりに豊富で、多様な選択
仕様化する。膨大なケースやパターンを多次 肢がある。Whatを定めないままに、体制論や
元に整理せず、そのままプログラムに置き換 手法論を進めても、共通理解を形成すること
2 Sapporo Sparkle k.k.
- 3. 【視座】“テーマの知恵から方法の知恵へ” -それはWhatから始まる
さえ危うい。 こう書いてみると、ごく当たり前の話に見え
“Whatから考えること”は、デザインを先行 る。その通り、「PMBOKにも目的やスコープ
することを意味している。「Design First」。 の定義が含まれている」「アーンドバリュー
何をどのように、どういった手段とアプロー がPMにもある」と言う人がいる。しかし、こ
チで実現するのか?姿を描き、それを達成す の指摘はおそらく、本質的な部分ですれ違っ
るための道筋を解くことをデザインと言う。 ていて、現実の行動において決定的な差異を
生んでいる。
こ うし てデ ザイ ンの 重要 性を 考 え、説く 中 PM論の内側に“Whatから考えること”がある
で、先日、ひとつの記事に目がとまった。編 のではなく、まして、デザインがプロジェク
集工学の専門家である松岡正剛氏の言葉。 トを進めるための手段や条件としてあるので
「21世紀は”主題の知”でなく”方法の知” もない。デザインとは、完成後の姿とそれに
の時代。経済、社会、文化、科学のあらゆる 至る過程を構想すること。そう考えれば、デ
分野のテーマは20世紀までにほぼ出尽くして ザインがあってその道筋を遂行するためにプ
いる。新たな課題は主題に対する賛成・反対 ロジェクトとPMがあることに気づく。デザイ
ではなく、方法を議論する知をつくっていく ンが手段なのではなく、プロジェクトが手段
こと。それには編集的な方法学がなければな であるのだ。
らない」4月23日日経新聞夕刊 プロジェクトの成功とは、プロジェクトが完
了することではなく、目指す姿や状態を達成
一 瞬、ひ ど く 戸 惑 っ た。こ れ は“Howの 時 す る こ と に あ る。そ の 原 点 に 立 て ば、
代”という意味ではないのか?そう考えた瞬 “Design First”の真意も明らかになる。もちろ
間に、最近、海外の主要ITベンダーのトップ ん、そうであるからこそ、そのデザインの完
やデザイナーの幾人かが共通して、「Howを 成を担う手段としてのプロジェクトを預かる
考えよう。Howがなければどれほど魅力的な PMの役割は重い。
ビジネスモデルも価値がない」と述べている
の を 思 い 出 し た。Howの 大 事 さ、こ れ は
“Whatから考えること”と相反することなの
だろうか?
そう戸惑った後に、すぐに誤解に気づいた。
松岡正剛氏は「“主題の知”ではなく“方法
の知”」と言っている。IT化で言えば、何に
取り組み、どういった成果を得るのか。その
テーマが“主題”。主題を定めるだけでは足
り な い。そ こ か ら、実 現 に 向 け た“方 法 の
知”が要る。実現に向けた方法の先頭にある
もの、それこそが、「何をどのような姿で、
どういった手段と方法論で実現するのか」を
考えるWhatである。“Whatから考えること”
は“方法の知”の中身、その“知”の勘所で
あるのだ。
かつては、「会計システムをつくる」「在庫
を下げる」と対象業務や効果を漠然と定め、
あとは個々の要件を決めるだけでシステム化
ができた。それでも何とかなった。しかし、
今はテーマ自体が複雑で、高度化している。
そのテーマ(対象や課題、環境、リスクさえ
含む)を唱えることから一歩進み、それをい
かに実現するのかを考える。そして、「いか
に実現するのか」を考える最重要な作法とし
て、“Whatから考える”ことがある。
3 Sapporo Sparkle k.k.